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第1章:最悪のミレニアム

―2999年 12月31日 午前6時30分―

「今年は前にも増してモンスターが増え、500人もの死者が出ました…。」

全く…年末の朝から暗いニュースなんか止めてほしいな、死者が出てるくらいこっちは百の承知だ。
僕は寝癖を気にしながらテレビのチャンネルを変えた。
さて、一応自己紹介でもしておこう。僕はレッキ。姓は当の昔に捨てた。年齢は満17歳で、親は10年前に殺された。僕は、親が死んだ7歳の時にある男に拾ってもらい、今に至っている。「ある男」、と言うのはシーク・レットと言って僕の師匠だ。フフ、変な名前だろ。おっと、彼が起きる前に朝飯を作らないと。
ここは「アルスタウン」と言う田舎町で今回僕と師匠はこの小さい町の小さい旅館で一晩あかした。この町にもモンスター、すなわち“闇人”が出るらしく、警備が厳しい。僕達が入る時も中に入るだけで5時間もかけてしまった。

―午前6時35分―

くだらない愚痴は後にして身だしなみでも整えるか。手洗い場に立ち、まず、だらしない寝癖を整えた。その次に旅館によく付いてくる安そうな歯ブラシで歯を磨いた。目やに等の面倒くさい汚れは顔を洗い眠気と共に流されてもらおう。長めの金髪と、どことなく冷たいブルーの瞳の大きい目、全体として凛とした顔つき、そして銀縁のめがね、これが僕のいつも通りの顔だ。身だしなみも整えたことだし、朝飯を作るか。

―午前6時40分―

オムレツ、ウインナーと玉ねぎの炒め物、クロワッサンとそれに付けるジャム。味としては…76点。余った時間30分は軽く体術トレーニングをするか。

―午前7時10分―

トレーニングから30分経ち師匠が起きてきた。

「あ、師匠、おはようございます。」
「おっはようさぁーん!」

豪快な挨拶をどうも。ったく、こんな朝っぱらからやかましい人だ。師匠はとてつもなく変わった男だった。服装は神官の様な黒服を着ていてセンスの悪い前掛けをしている。しかし、一般の人はそんな所より頭を見て驚く。彼は頭から首まで深くシルクハットを被っている。黒い大きなシルクハットには白いリボンが巻かれている。更にそのシルクハットのつばは襟の様になっていて真ん中に白いネクタイをしていて先っぽには十字架の文字が記されている。「なんだ、こいつ?」と思わない方がおかしい。しかし、彼はそんなこと少しも気にせずはた迷惑な振る舞いをしている。彼は僕にも素顔を見せた事が無い。そのため年齢はおろか性別もうやむやなのだ。

「ああそう言えば今日はレッキが食事当番だったな。」

言わせてもらいますけど、昨日も僕が作りましたよねえ。

「うひょう!うんまそぉー!俺的に得点化するとなあ…76点!」

うわぁ…。僕と同じ点数だよ。何でこういう意味の分からん所ばかりシンクロしてしまうんだろう。

「しかしもっと工夫してくれよ。どうしてオムレツにはケチャップがかかってないんだよ。」

ハハハ、ケチャップはあんたが腹減ったとか言って吸い尽くしてしまいましたよねえ。
ところで、さっきまで師匠と彼の事を呼んでいるが、彼からは、「神腕」、と言う武術を教わっている。神腕とは、正確には神技(しんぎ)の主な術の中で最も種類の多いものだ。おっと、そう言っても神技の種類は神腕と神脚の2種類だけなので「最も」とか別に関係無いな。…せっかくなので神腕と神脚の技を少し教えておこう。


神腕の技
1超・神打 片手に気候をため、一気に放出する波動技だ。

2極斬刀  手の形状を剣型にし、斬り裂く。打撃技だ。

3烈硬化  両腕を組み、金属化させ、攻撃を一切受けつけなくする防御系の技だ。

4下降掌  手を組み相手に叩きつける技だ。これが当たると相手の重力が数倍に跳ね上がり地面に叩きつけられる。まさに名前通りの技だ。

5激震打  この技は修得が難しかった。当たった相手が爆発し、場合によったら肉片ごと飛び散る。

6手枝絡  自分の腕を木の枝の様に伸ばし、絡みつく技だ。1番不気味な技なのかも知れない。

7神解   これは他の技が発動した後に使うとその技がより強力になる能力増大技だ。

神脚の技
1覇王脚  この技を発動させ、地面に突き刺すと、その辺り一面が吹き飛ぶ。

2神連脚  この技は、数秒のうちに何千回もの蹴りを浴びせる打撃技だ。

3瞬動   自分の脚を軸に猛スピードで動く技だ。


このように、どれを見てもとんでもないものばかりである。

―午前7時15分―

76点の朝飯を2人で食べている最中に、突然、テレビの臨時ニュースが流れだした。

「今回も蒼の騎士団がネブル地方のモンスターを壊滅させ、勝利を収めました。」

若いニュースキャスターが、喜び興奮して原稿を読み上げた。僕は、クロワッサンをかじりながら、チャンネルを変えた。

「蒼の騎士団め…。」

冒頭で言わなかったが、蒼の騎士団が世界を守るなんて全くのハッタリだ。むしろ…その逆だ、僕は、8歳の頃、父と母と姉と共にごく普通の国で平和に暮らしていた。しかし、蒼の騎士団が「ここの国民の中に我が軍にスパイを送った」と嘘の理由で突然無差別虐殺を始めたのだ。この虐殺で、父も母も姉も銃撃の的にされた…。なんとか逃げ延びた僕は蒼の軍兵が「闇人を作りだすのも大変だよなあ。」「だよなあ。それにしても闇人を放って暴れさせてそれをわざと殺して世界を騙そうなんて、凄い事考えるよなあ。」「ここの人間、いい闇人になりそうだな。ハハハハ!」と、話しているのを聞いてしまった。なんと、闇人は人間を原料に作り出されていたのだ。それから1人さまよっていたのをこのウインナーを豪快に食べている師匠に助けられたのだ。

「レッキ、お前の敵は必ず俺が倒してやるよ。」

ホラでも吹いてるなと思うかもしれないが、彼の実力は計り知れなく、3000人の闇人に数秒で勝ったと言う事実もある。

―午前10時30分―

朝飯も食べ終え、2時間半ほど過ぎ、師匠との組み手が始まった。僕は、黒いゴム製のシャツ、黒い大きめのズボン、兵隊が履くような白黒のブーツ、白い裾の短いコートを身につけ、人のいない広場に出た。

「おーし!んじゃ始めるか。」

僕は、師匠に「お願いします。」と会釈をし、とびかかる。師匠の首めがけ手刀を喰らわせようとした。しかし、師匠はそれを片手で止め、蹴りを浴びせてきた。2,3発喰らっただけで倒れそうになった。僕は師匠に掴まれた腕を振りほどき、回し蹴りを仕掛けた。あっけなく止められ今度は腹を殴られた。朝のオムレツが出てきそうだ。

組み手開始5秒経過。

「どうした?おじげづいたか?男なら殺す気でかかってこーい。」

師匠は踊っている、バカにされた気分になった…おじげづく所か、燃えてくる!!僕は猛スピードで師匠の懐に駆け込み渾身の打撃を決めた。

「ヌガァッ!」

さすがの師匠も痛そうな声を出した。この間3秒。だが、やはり師匠は強い。その後肘打ちを打たれ無残にもノックアウトになってしまった。

―午後12時30分―

結局そのまま2時間起きる事が出来ず、起きた時にはすっかり昼になっていた。あたりを見回すと師匠がすぐそばでしゃがんで僕を見下ろしていた。

「ハハハ!まだまだだなあ。でも、さっきの一発は効いたぜぇ。」

くっ!なんたる屈辱!

「…参りました。」

その後、簡単な食事をした。どうやら僕がのびている間に師匠が昼食の準備をしていてくれたようだ。
食後、銃撃の練習を開始した。師匠はおもむろにシルクハットから大きく真っ青の変な形の板っ切れを取り出した。…どこから出してんだよ。

「さ、銃は持ってきたよな。」

僕は、ズボンのベルトに取り付けられたホルスターから拳銃を2丁取り出した。この2丁拳銃の名は「インパクト・スパーク(閃光の打撃)」と言って、師匠が僕に始めてくれた銃器だ。真っ白なセンサー付きシリンダー、黒い弾奏、白黒のグリップ、直径20センチメートルほどの代物だ。2丁とも全く同じデザインである。

「よし!じゃあこの的を狙えよ。」

と師匠は真っ青の板を叩いた。

「師匠…それ何ですか?」

ま、まさか…。

「え?蒼の騎士団だけど。」

やっぱり。

「な、何だよ!どう見ても蒼の騎士団っぽいだろ?」

青く塗ればいいって問題なのか?僕はそう思いながら銃撃を始めた。50メートルほど離した位置からと言うかなりの難練習だ。的はもう点みたいだ。だが、何千回もやった練習なので、難しくも何とも無い。

―ダダダダダダダダダダン!!

手慣れた手つきで10発撃った。その後、10回板が砕ける音が聞こえた。師匠は、「お見事。」と、一言。

―午後13時30分―

僕と師匠は旅館に戻った。師匠は、旅館の従業員に「おっちゃん!どっかにおいしい喫茶店あるか?」と聞いていた。明らかに十代後半の従業員は半ギレに喫茶店の場所を教えてくれた。

「レッキィーちょっと出かけてくるー。」

子供かあんたは。

僕は、やる事がないので部屋で読書でもする事にした。師匠のトランクから分厚い本を取り出し椅子に座り、ゆっくりと読み出した「希望物語」と言う、師匠愛用の本だ。内容は、題名通り希望や夢の短編集だ。ふん。夢?希望?ばかばかしい。僕はあの時以来から蒼の騎士団を壊滅させると言う夢しか無い。

―午後15時30分―

こばかにしながら本を読んでいたら師匠が帰ってきた。「特にやる事もないし、テレビでも見るか。」と親父みたいに師匠はチャンネル片手にドカッとソファーに座り込んだ。さっきは子供みたいで今度は親父、よく年齢の変わる人だ。ちょうどドキュメンタリー番組が始まった。「蒼の騎士団の一日」ああ、あ、蒼の騎士団!?僕はあまり感情を表情で表さない様にしているのだが、さすがの師匠にも僕が動揺しているとばれたようだ。慌てて彼はチャンネルを変えた。蒼の騎士団の話はもうこりごりだ。

―午後17時30分―

しばらくテレビを見ていると師匠が突然立ちあがった。

「俺も銃撃の修練でもするかな。」

ほう、どう言う風の吹き回しだ?師匠と僕は先程僕が銃の腕前を披露した広場に再び向かった。師匠の持つ武器は散弾銃と機関銃を搭載した大きい銃、「クレイジー・クラウン(狂った道化師)」だ。シリンダーは真っ黒で2本重なっていて、銃口のでかい散弾銃と、通常より倍の数の弾丸が発射出来るよう改造された、銃口が2本くっ付いたような機関銃と分かれている。グリップは2つあり、後部のグリップには十字架を掲げたピエロがペイントされていて、なんとも師匠らしい銃だ。師匠はシルクハットから青い板を出した。またかい。

「見てろレッキ、俺の勇姿を!!」

ハイハイ。
師匠はクレイジー・クラウンの散弾銃を的に向かって放った。

―ズガガガガーン!!

とんでもない爆音が聞こえた。見ると的所か後ろの小屋も森林もなくなっている。

「すこし火薬をいれすぎたなハハハハ!でも的にも当たったし銃の腕前は同等だな。」

明らかにずれてただろ。銃の腕前は僕の方が上のようだ。

―午後20時30分―

僕達は金持ちと言うわけでは無い。夜になったら師匠の副業である大道芸に付き合わされる。広場で始めると町人が集まってきた。師匠はどこで覚えたんだか、玉乗りをしながらナイフとたいまつをお手玉している。僕は師匠から無理やり教わられた手品をしぶしぶ披露している。今日の稼ぎは5000グラン。…結構稼ぎが良かった。

―午後22時00分―

「さあ!飲むぞレッキ!」

はあ…。もったいない。これだから旅費がすぐに無くなるんだ。師匠の曲芸の腕は素晴らしいのだがそれで調子に乗ってしまい酒を飲みまくってしまう。どこの町に行っても稼ぎは酒代と共に消えていくのだ。

「どうした!飲め飲め!!今日はめでたい日なんだからお前も遠慮すんなやほれ!」

ムガッ!!
師匠が酒瓶を僕の口に押し込んだ!僕は未成年なんだぞ!

「ゲホッゲホッ…何するんですか。」
「ウイーッ今日は年末なんだから無礼講だろが!!ヒック」

師匠はもう酔っ払っている。

「あまり飲むと肝臓に悪いですよ。」
「うっさい!」

ああもう、こうなったらもう師匠は止まらない。まあ今日は年末だから大目にみるか。

―午後23時50分―

あと10分で3000年か…。師匠のアホは眠りこけている。せめて僕だけでも年末を迎えないと…。3000年には蒼の騎士団を倒せるだろうか…。

―午後11時59分 3000年まで20秒―

あと20秒…。僕一人のカウントダウンだ。18・17・16・15・14・13・12・11・10・9・8・7・6・5・4・3・2・1・

―3000年1月1日―

―バゴォォォォォォン!

とてつもない爆音に酔いが覚めた。

「な、なんだあ!?」

思わず僕も冷静を失った!師匠は当の昔に酔いが覚めたった今クレイジーを構え窓を開けようとした所だった。

「畜生!せっかくのミレニアムだってのによう!」

師匠が歯ぎしりをした。僕も窓から外を覗き込んだ。

「最低だ…。」

蒼の騎士団だ!蒼の騎士団が僕の故郷を襲った様にモンスターの人材を探しに、無差別虐殺に来たのだ。

「ハハハ…。最悪のミレニアムになっちまったな。」

師匠が冷たい笑みをしながら言った。



ごもっともだ。


第2章に続く。

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