top of page

第5話 意外な人物

 

 

中間地点から頂上まで、残り半分と地点まで登り着いた。

未だにリズロは疲れを見せない・・・・・・というよりか、リズロは疲れを顔に表さないのだ。

そのため、周りに平然としているように思われるわけだ。

 

「ふぅ・・・後もう少しだ。」

≪あぁ・・・。≫

「多分、頂上に残っている人々は親衛隊だけよ。」

「そっか。」

≪しかしリズロ、また何か嫌な予感がしてきたんだ。≫

 

そんなクラードの言葉に、2人は振り向く。

クラードはこう言う。

頂上にいるのは、魔物たちを操るボス的存在がいることは確かなのだが、そのボスが魔物ではないのだという。

別に有り得ないわけではないのだが、正直住民を使って、魔物や住民を操るわけでもない。だから、誰か別の人物が今の事を行っているに違いない。

しかし、その人物とは一体誰なのか、2人には全く見当がつかなかった。

 

「とにかく、頂上に行けば分かるかもしれない。」

「そうね、早く行きましょ。」

 

そう言って、2人は歩みを進めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『何故我を拒む・・・?』

「いちいちうっせーんだよ!世界を破滅させるだとか、勝手な事言うなよ!」

 

ここは、魔王ルシフェルの王宮。

そこには、鋼鉄の輪に両手両足を固定されているレイがいる。

ルシフェルに捕らわれてから、まだ体を乗っ取られていないようだ。

しかし、ルシフェルの姿が見当たらない。

なら、レイは一体誰と会話しているのだろう・・・・・・?

 

ルシフェルは、昔、封印されたあと自分の体を失ったのだ。ふつう、封印されるとなると、体は残っているのだが・・・・・・何せ、何百年も昔だ。

体がなくなってしまうのも、無理は無い。

つまりをいうと、ルシフェルは魂のみで行動している。そして、その状態でルシフェルはレイと会話しているのだ。

しかし、魂のみならば、まわりに飛んでいけることも可能なはず。一体、何故肉体が必要なのだろうか。

 

『何故わかろうとしない。』

「人の話し聞けよ!いいから俺を放せ!俺は帰らなきゃなんないんだよ!」

『お前の体を乗っ取るまで、我は認めん。』

「はいはいそうですかぁ。勝手に言ってな。俺の心は、誰かに乗っ取られるようなやわな心はしてねぇんだよ!残念だったな!」

『・・・・・・・・・。』

 

そこで会話はストップしたかに思えた。

だがそれは、ルシフェルが会話に間を置いただけであった。

 

『お前の体が必要だ。体を手にすることが出来れば、真の力を得ることが出来る。』

「じゃ、俺が拒み続ければ、そんな事にはならないって事か。好都合だな。」

 

もうどうでもいいから放してくれ、といったような態度でレイはそう言う。

 

「さて、放してくれそうもないし、助けを待つしかねぇな。」

『ま、紛らわしい言葉を吐くな!』

「勝手に勘違いしてるのは、お前だろうがよ!」

『だが、そんな事言っても、助けなど来てはくれないぞ。』

「ばーか、来るんだよ。俺のダチが、仲間を連れてな。」

 

そして、「そうそう、俺の勘は結構当たるんだぜ。」と付け加えた。

 

 

 

 

 

 

「ねぇ、何だかこの辺静かじゃない?」

 

頂上に近付いているのならば、敵の数が増えていくのも当然のはず。

しかし、増えるどころか、魔物の姿はどこにも無かった。

 

≪いや、魔物の気配が強くなっているのは確かだから、いないことはありえないはずだ。≫

「そっか・・・。」

「もしかして、頂上に来たら一斉攻撃するんじゃないかしら・・・?」

≪ありえるな・・・。≫

「じ、じゃぁ、体力は上手く温存させなきゃね・・・。」

≪そうだな。≫

 

そんな会話に、フレアが待ったをかける。なにやら、意見があるようで・・・。

その意見とは、こんなにも山を登ってきて、体力を温存するだなんて、無理に決まっているということ。

確かに、普通の人ではそんなことは無理だろう。しかし、ここには体力を回復しているクラードもいるし、多少でも体力を回復できそうな食料を持ち合わせているリズロがいる。

そう考えれば、無理と考えるのもなしになる。

 

「で、でも、あんたたちは大丈夫なわけ?私ばかりに気を使わないで、自分自身にも気を使ったらどうなの?」

「僕は大丈夫。山登り慣れてるから。だから、山登りに慣れてないフレアを、助けてあげたいんだ。」

 

きゅーん・・・。

 

という音が聞こえたのかどうか分からないが、フレアはリズロの「助けてあげたいんだ。」に胸キュンした。

フレアのハートには、恋する矢が突き刺さっている。

 

「ば、馬鹿いわないでよ!わ、私は戦士よ!?あ、あんたみたいな素人に、助けてもらう必要なんて、な、ないわよ!!」

「そっか、それなら僕、安心したよ♪」

 

リズロの笑顔に、フレアの顔は赤くなるばかり。

あせりながらも、「い、行くわよ!」といって、リズロの先を行く。

リズロも、その様子を見て後についていく。

 

≪やれやれ・・・変な恋愛ストーリーが生まれそうだな・・・。≫

「ん?何か言った、クラード?」

≪いや、別に。≫

「・・・?」

 

訳も分からず、リズロはフレアの後についていく。

まぁ、そうだろう。何度も言うようだが、リズロは恋愛に関しては鈍感なのだから。

 

さて、しばらく先に行っていたフレアは、どうやら体力温存どころか、正直もう立てない状態になってしまった。

つっけんどんになり、山を登ったのが仇となったようだ。

 

「クラード、お願い。」

≪了解。≫

 

クラードは、フレアに手をかざす。

 

≪全く、好きなら好きといえばいいじゃないか。≫

 

と、ボソリと呟きながら、フレアの体力を回復させていく。

 

「ば、馬鹿!あんた何言ってるの!?」

≪別に何も。思ったことを口にしただけだ。≫

「よ、余計なお世話よ!!」

 

そう言って、フレアはいきおきよくたちあがる。

そして、またその勢いで行こうとする。

 

≪その勢いで、行こうとするな。≫

「な、何よ!そうさせたのはあんたでしょ!?」

「2人とも、喧嘩してないで。回復したなら早く行くよ?頂上はもうすぐなんだ から。」

 

そういって、リズロは先を行く。

リズロのその言葉で、多少凹んだフレアだった。

 

ふもとから歩いて2時間30分後。

ようやく頂上にたどり着いた。

やはりそこには、操られた親衛隊と魔物が数体立ち塞がっていた。

その先には、一人の少年がいた。クラードいわく、あの少年が今回のボス的存在なのだという。

 

リズロは、戦闘体勢をとるのだが、フレアは少年を見つめていた。よくみれば、とても悲しそうな表情をしている。

一体、フレアはどうしたのだろうか?

 

「ゆ、ユリス・・・?ユリスなの・・・?」

 

フレアはそう言った。

「ユリス」。それが、あの少年の名前らしい。あの雰囲気からすると、どうやら知り合いのようだ。

しかし様子がおかしい。フレアは、周りの事などそっちのけで、ユリスという名の少年に近付こうとしている。

 

「ユリス・・・・・・これはあんたが全部やったことなの・・・?」

「・・・・・・。」

「違うわよね・・・?」

「・・・・・・お前、誰だ。」

「え・・・・・・?」

 

ユリスは口を開くが、フレアの事を知らないでいるようだ。フレアは、自分だということをアピールするが、ユリスは全くわからないようだ。

 

「目障りなやつめ・・・・・・お前ら、こいつを始末しろ。」

 

ユリスは、親衛隊に命令をくだす。

状況がまだわかっていないフレアは、親衛隊が視界に入っていなかった。

親衛隊は、フレアに攻撃を仕掛けるため、剣を振り上げた。だが・・・・・・

 

「フレア!危ない!!」

 

リズロは、フレアの前に飛び出した。

そして・・・・・・

 

 

―ザシュッ!

 

 

嫌な音が、この空間に響き渡る。

赤い鮮血が、飛び散るのを、フレアはこの目で見た。

そして、フレアの前に飛び出したリズロは、ゆっくりと地面に倒れる。

 

「え・・・何・・・・・・何なの・・・?」

≪ちっ!≫

 

フレアは何故リズロが血を流して倒れているのか、全くわからなかった。

クラードは舌打ちをし、二人にバリアをかける。

バリアの外では、魔物や親衛隊が攻撃をしてきている。だが、バリアはびくともしない。

フレアは、ようやく状況を把握し、口に手をあて、溢れんばかりの涙を流した。

そして、その塲に座り込んだ。

 

「わ・・・私・・・・・・私の・・・せいで・・・・・・リズロが・・・リズロが・・・!」

≪泣くな!私が傷の手当をしている間に、お前は戦え!!≫

「・・・・・・リズロ・・・・・・リズロ・・・!」

≪くそっ・・・自分を見失って周りなんか見えちゃいない・・・。≫

 

仕方なく、クラードは傷の回復を優先とする。

フレアはずっと泣くばかりだ。

 

≪(・・・・・・バリアもはっているせいか、傷の直りが遅い・・・。これは、ヤバイかもしれないな・・・・・・。)≫

 

と、思っていた途端、フレアが突然立ち上がった。

そして、何も言わずに、バリアの外へと出る。

 

≪フレア・・・お前・・・?≫

 

と、声をかけた時、フレアは狂ったように声をあげ、戦士である象徴の長剣を無造作にふるい、前に突っ込んでいった。

この勢いでは、親衛隊達まで傷付く可能性がある。

 

≪よせ!フレア!≫

 

クラードが叫ぶが、フレアは全く聞こうとしない。

周りの魔物を、剣でなぎ倒していく。

 

リズロは未だ、目覚めない。

クラードが思うように、やはりバリアをかけているからだとは思うのだが、そもそもクラードの回復能力は疲れた体を治すのが専門で、正直、傷を治すまでには至らないのだ。

それ故、傷の治りが遅いとみる。

だが、クラードは諦めようとはしない。パワーをフルに使い、リズロの傷を癒していった。

 

「・・・・・・ぅ・・・ぅぅ・・・・・・。」

≪・・・・・・!≫

 

クラードの頑張りにより、リズロはようやく目覚めた。しかし、傷はまだ完全に治っていない。

 

「・・・・・・クラード・・・フレア・・・は・・・?」

≪・・・大丈夫だ、といいたいが、今はそういう状況じゃない。≫

「どういう・・・事?」

≪フレアが発狂して暴走している。≫

「・・・だったら・・・・・・早く・・・止めなきゃ・・・!」

 

リズロは、未だ傷の治っていない体をゆっくりとおこし、辛うじて立ち上がる。

 

≪おい、リズロ!まだ動くな!≫

「・・・・・・僕が止めなきゃ・・・・・・だれが止めるの・・・・・・?」

≪・・・・・・!≫

 

クラードは、何も言えなかった。リズロの真剣な眼差しに、気圧されたのだ。

リズロは剣をホルダーから取り出し、まだ傷が回復していない体とは思えない速さで飛び出す。

そして、フレアの前に現れる。

フレアは、周りが見えていないため、リズロが前に現れたことなんて気付いていない。そして、一気に剣を振り下ろす。

 

 

―ガキィイン!!

 

 

フレアの剣とリズロの剣が重なり合う。

 

「・・・・・・よかった、フレアが無事で。」

「・・・・・・!!」

 

フレアはようやく正気に戻り、目の前にリズロがいることに気付く。そして、ガランと剣を落としたあと、涙を流しリズロに抱きついた。

リズロは、そんなフレアを何も言わず見詰めていた。

ふと周りを見てみると、既に魔物は一体も残っておらず、いるのは親衛隊だけであった。

 

「・・・一人でよく頑張ったね、ありがとう。後は僕に任せて・・・。」

 

そう優しく声をかけ、フレアに安全な場所、つまり、クラードのほうへ戻っていてと告げる。

リズロは、剣をホルダーにしまい、先頭体勢をとり、一気に飛び出し、親衛隊を一人残らずみねうちをかけていった。

全員が倒れた後、リズロはユリスの方を睨む。

 

「・・・後は君だけだよ。」

「ちっ・・・!」

 

ユリスは舌打ちをし、弓矢を取り出して、リズロに向かって矢を放った。

だが、呆気なくそれは避けられてしまうが、ユリスは次から次へと矢を放ち続けた。

既に、一本ずつ飛ばしてはいない。二本ずつや三本ずつに変わっている。

リズロは、交わしたり、剣で弾いたりしながらユリスに向かう。しかし、矢の放つスピードは速いため、確実に避けたりなどは出来ていず、リズロの体の数ヵ所に矢が刺さっていた。

しかし、そんな事は気にもとめず、ただひたすらユリスに近付くことだけを専念した。

ようやくたどり着いたのかと思えば、ユリスは弓矢を捨て、双刃のロッドを取り出し、リズロに襲い掛かった。

だが、リズロもそれに反応して、背中のホルダーから剣を取り出し、ユリスの攻撃を防いだ。

 

「なかなかやるじゃないか・・・。だが、その体でいつまでもつかな?」

 

二人は距離をとり、再び接近戦を行う。

ユリスは二刀流なわけだから、リズロは防ぐのが精一杯。攻撃しようにも、攻撃することが出来ない。それに、最初に受けた傷のこともあるし、ユリスが放った矢が体に刺さっているということもあるので、リズロの動きは多少鈍ってきているのだ。

ユリスは、防戦一方のリズロに挑発するかのように、強力な攻撃を仕掛け、リズロを突き飛ばした。

リズロは、ゆっくりと立ち上がり、剣をホルダーにしまい、目を閉じあのポーズをとる。

「あのポーズ」というのは、今にも回転するだろうというもので、つまりをいうと、必殺技を繰り出すということだ。

そして、リズロのまわりに、木葉が舞う。

ユリスには、そのリズロのポーズの意味が全く解らなかった。

 

「何だよ、諦めたのか?だったら、とどめを刺させてもらおうか!!」

 

ユリスがリズロに向かおうとすると、カッと目を見開き、「リーフサイクロン!」と叫び、回転する。一瞬にして巨大な竜巻と化し、ユリスを襲う。

リズロに向かって走って行ったユリスは、方向転換がきかず、竜巻に巻き込まれる。

 

「ぐ、ぐわあぁぁぁああああ!!」

 

そして、竜巻が少しずつ消えていき、ユリスは倒れ、リズロはうまく着地する。

 

「・・・これで・・・・・・終わった・・・よ・・・ね・・・・・・。」

 

そして、リズロも倒れる。

その様子をずっと見ていたフレアとクラードは、慌ててリズロの傍に寄り、クラードがリズロの傷を回復させ始めた。

だが、先程も力を使っていたので、その威力は若干弱まっていた。

すると、気を失っていたユリスが目を覚ました。

 

「あれ?俺は一体何してたんだ・・・?」

「ユリス!元に戻ったのね!」

 

フレアは、ユリスの方を向いて抱き着いた。

 

「な、姉貴?・・・そっか、ここ姉貴の国か。でも、何でここに・・・。」

≪お前は、操られていたんだ。≫

 

リズロの傷を回復させながら、クラードは答える。

 

「操られていたって、まさか、ここ最近復活したっていう、あの魔王にか!?」

≪おそらくな・・・・・・。≫

 

リズロの傷は未だ癒える気配がない。クラードがだす温かな光が消えかかっている。

それでも、クラードは光を注ぎ続ける。

そして、ようやくリズロが目を覚ますことが出来るところまで回復したが、まだ傷は治ってはいない。

 

「・・・・・・クラード、もう・・・いいって・・・それ以上やったら・・・死んじゃうよ・・・・・・。」

≪しかし!≫

「血はもう・・・止まったみたいだし・・・大丈夫だよ・・・・・・クリスタルの中に・・・入って・・・自分の体を・・・回復して・・・。」

≪・・・・・・。≫

 

仕方なく、クラードはクリスタルの中に入り身をひそめた。

 

「・・・・・・ユリス・・・だっけ?・・・元に戻って・・・よかった・・・後で事情、話してね。」

 

リズロは、今の状態ではちょっと無理があるだろうが、何とか笑顔を作り、そう答えた。

 

「・・・・・・って・・・ぼうっとしてる場合か!姉貴!さっさと山降るぞ!!」

 

ユリスはそういって、リズロを負ぶさり山を直線状に降り出した。

正直危ないが、彼にとってはこんなものは序の口といったようだ。

 

「あ、ちょっと、ユリス!待ちなさいよ!!」

 

慌ててフレアも、その後に続いた。

そんなときに、リズロやフレアのクリスタルが輝いているなど、全く気付きはしなかった。

 

 

第6話に続く・・・。

bottom of page