ちょいとした小話(転換)
―トロピカルラグーンにて―
「にゃっぽい!ボクはついに究極の薬を完成させちまったのさぁベイベェ!」
プヨン教授が踊っている。その手には奇妙な液体の入ったビンを持っている。
「何を作ったんですか?」
レッキとミサがそんな教授を白い目で見ていた。
「なんと!これを飲むと“男らしく”なれるんでぷよ!」
「はぁ?」
教授の話によると、身体中の細胞を組替えて男性ホルモンを濃くしてくれる薬らしい。
「そんな薬、誰も飲まないよ、ねえ、レッキ?」
ミサがレッキの顔を見た。口元が痙攣している。
「ヒッ!?」
ミサは飛び退いた。
「教授、僕が実験台になってあげましょう。」
レッキはススススススススと教授の近くまで歩み寄った。
「な、な、何でですか?」
「もうこの生活に懲りてたんですよ。あっちに行きゃあ『女の子?』と言われ、こっちに行きゃあ『男の子?』と言われる始末。あ、それはそれでいいんだ、はは。」
レッキが壊れている。ミサはそう感じた。
「な、何がいいたいんですか?」
「僕はもう17歳だ。なのにこの声を聞いてくれ。『あめんぼあかいなあいうえお。』どうだ?」
「カワイイ声ですの。」
「それが嫌なんだ!!…未だにこの女みたいな声。…何故声変わりしないんだ?…だから、この薬でもっと男らしくなってみせるのです。」
レッキは熱弁した。
「な、なるへそ。」
ミサは納得した。かろうじて。レッキは男らしくなりたいらしい。
「というわけでそれをよこしてください。」
レッキは手を差し出した。
「ハイどうぞ。」
手渡された薬をレッキは一気飲みした。
「…。」
「どうでぷ?」
「…うっ!」
「にゃっぷ!?」
「…うぅぅぅぅ…!」
「レ、レッキ大丈夫?」
「うああああ!!」
レッキの身体が変形しだした。胸が膨らんだ。
「胸筋が発達してきたんだ!これで僕も立派な男の仲間入りだ!」
レッキの考えは見事にはずれた。
腕は細くなり、顔つきも細くなった。背丈も大きく変わり、ミサといい勝負ではないかというぐらいに縮んでしまった。
「…!!」
「…!!」
ミサとプヨン教授は仰天している。
「…あ…れ?」
レッキは目を点にして自分の身体をまじまじと眺めた。
「あれ?あれ?」
レッキは男らしくなるどころか、女になってしまった。
「女体化レッキだ!」
教授はそう叫んだ。
「えぇえええぇぇええぇえええええええええぇぇえええ!?????????」
レッキは青ざめた女顔で絶叫した。
「何でこうなるんだこのボケスライム!殺すぞ!?」
女レッキは教授のむなぐらを掴んでそう叫んだ。
「な、な、何ででぴょうかねぇ?多分、男性ホルモンを変える物質を女性ホルモンに置き間違えただけだったりして、てへ♪」
「『てへ♪』!?この野郎!ブチ殺す!!」
レッキは完全にキャラを忘れてBMを突きつけた。
「ヒィィィィ!!」
教授は泣きわめいた。
「びええ。」
ミサはそんな光景を目にしながら怯えている。
レッキは教授を離して座り込んでしまった。
「これじゃあ立ちションができない。堂々とゲップができない。亭主になって妻に『おい、飯』と言えない。」
「男の利点ってそれだけですか…。」
ミサは呆れている。
「にゃはは、大丈夫でぷよぉ!すぐに元に戻れる薬を作りまぷから。」
「何時間かかります?」
「5ヶ月ちょい。」
「待てるかぁ!」
「外になんか出ないぞ。」
レッキは自分の部屋にて布団で身体を覆っている。
「でもレッキ、今日はチームリーダーの定例会があるって言ってたじゃないですか。」
「あ、そうだった。どないしましょう…。」
「わたしが代わりに行こうか?」
ミサがはりきった表情でそう言った。
「いいですよ。大体、定例会にはリーダーしか出席しちゃいけないんです。」
レッキはゆっくりと立ち上がった。
「目立たなきゃいいんです。」
必死で胸にサラシを巻いている。
「ねえ…ちょっと待ってよ。」
ミサが近づいて来た。
「何ですか。」
「…。」
ミサは指を伸ばして、
―ツン
レッキの胸を突付いた。
「わぁ♪レッキ女の子ですの!」
「ぎゃああああああああああああああああ」
レッキは大人気なくミサの頭をバンバン叩いた。
「びええ。」
「ハァッ…ハァッ…ぼ、僕をからかうもんじゃないです!」
「結構さまになってますの。」
これ以上からかわれたら発狂しそうだ。
レッキはダッシュで外に出た。
「よぉレッキ。元気にしてたか?」
やっちまった。外にはもっと障害があったんだった。
レッキは今更ながら気付いた。そう、師匠、シークである。
「どうも師匠。」
レッキはそれだけ言うとそそくさと歩き出した。
「どうしたんだよ。今日はいつにもましてつれねえなあ。」
「つろうとしないでください。」
「…。」
シークはレッキの異変に気付き始めた。
「お前、縮んだな。」
レッキはビクッと身体を震わした。
「なんか背が縮んだような。それに…なんだろう。今日のお前カワイイなぁ。“女”みてぇ。」
レッキの血液は逆流しております。
「師匠、UFOです!」
レッキは空を指差した。
「なぬ!?」
シークは指の先を睨んだ。
「激震打!」
レッキはシークの溝をおもいっきり殴った。
「が、ご。」
シークはのびてしまった。
「フゥ…。」
レッキは安堵の息をついた。が、一難去ってまた一難。
ロゼオとセンネンが歩いてきた。
「おうレッキ、これから定例会か?」
「リーダーも大変じゃのお。サイモンに任せればよいのに。」
センネンはそう言うと、
「んん!?」
レッキ凝視した。
「な、なんです?」
レッキは冷や汗を流している。
「…。」
センネンは青ざめた顔でレッキの顔を見た。そして、小声で『何でじゃ?』と言った。完全に気付かれている。
『察してください。』
『無理じゃ。』
『頭を回転させてください。』
『そういう“レベル”ではないじゃろ!何で女になってしもうたんじゃ御主!』
ロゼオは真っ青な二人を見て眉をひそめた。
「どうしたんだよ童顔爺さん。いつになく真っ青な顔してんな。」
センネンはまだ混乱しているが、レッキの顔色から“この事実”を他の連中に知られるのはマズイんだ。と汲み取った。
「ロゼオ、アメ汁を飲みにゆこう。」
「な、なんだよ、ノリがいいな爺さ…ぐふぇっぐ!」
センネンは力づくでロゼオの肩を掴み、走って行った。
「フゥ…。」
レッキは安堵の息をついた。が、二難去ってまた一難。フリマとスチルが向こうから歩いてくる。
「レッキ、今日もガリガリだな。」
スチルは偉そうにそう言った。
「かわええなぁ~♪」
フリマが抱きついて来た。
『ぎゃあああああ』
レッキは心の中で絶叫した。抱き付くフリマはここで違和感を覚えた。
「あれぇ~?」
「どうした姉貴。」
「なんか、今日のレッキちゃん肌ツヤいいどす、なんか身体も細くなっちゃったみたいだしぃ~」
いかん!!レッキは蒼白な表情でフリマを無理やり振り払おうとした。
その時、サラシが少し緩んでしまった。
「ひぇ、レッキちゃんなんか柔らかいわぁ。」
『やべぇええええ』
「おかしな事ばかり言うな今日の姉貴は。」
スチルは呆れ顔でフリマの腕を掴んだ。
「行くぞ、これから夕飯の買い物に行くって言っただろうが。」
「あ、そ、そうでしたねぇ。」
フリマは何度もこちらを振り返りながら歩き去った。
「フゥ…。」
レッキは安堵の息をついた。が、三難去ってまた一難。
「エッホ、エッホ。」
おとこおんな、クリスがジョギングをしてこっちに近づいて来た。
「これ以上ハラハラしてたまるか!」
レッキは近くの茂みに隠れた。
「あれぇ?今女の子みたいなレッキさんがいたみたいな。」
目ぇ良すぎだろ!
「ま、いっか♪エッホ、エッホ。」
クリスは笑顔で走って行った。そもそも、クリスの場合は(男だと言っているが実は女だということ)バレすぎていて非常に羨ましい。
「フゥ…。」
レッキは安堵の息をついた。が、四難去ってまた一難。
「あぁ~生きるの面倒くせぇ~」
ロキとマシュマが散歩をしていた。
「おう、レッキじゃねえか。」
しかもマシュマに気付かれた。
「面倒な奴に会っちまったぜ。」
ロキのセリフをキレイに包装してお返ししたい。
「お前女みてえだな。」
いきなり何を言うんだこの洋菓子男!
レッキは引きつった。
「よく言われるんですよね。女みたいだって。」
「えー?でもなんか色気もあんなぁ。なぁ?」
マシュマはロキを突付いた。
「ん…本当だ!」
ロキも目を丸くした。もう勘弁してくれ。
「僕は定例会に行かなきゃならないので、これで失礼します。」
レッキが顔を伏せて歩き去ろうとした時、
「今日の定例会は中止だぞ。」
プロ指揮官が歩いてきた。
「なんですって?そんな、僕の苦労は水の泡ですか?」
「議長であるドン・グランパが孫娘のピアノコンサートに行くとかなんとか言ってたからな。今日は、中止だゴフェエエエ!」
そして吐血。
「やべっ!」
ロキとマシュマが指揮官の元へ駆け寄った。
『今のうちに…。』
レッキはダッシュで走り去った。
「フゥ…早く家に帰らねば。」
レッキは安堵の息をついた。が、五難去ってまた一難。
リクヤとドレッドがタバコをくわえて新聞を読んでいた。
『関わったら死亡。関わったら死亡。』
そんな言葉を何度もつぶやきながらレッキは二人の横を通り過ぎようとした。
「お。レッキ、何コソコソしてんだよ。」
リクヤが新聞をずらしてレッキを見た。はい死亡。
「あぁ!?お前よく俺の前に立てたもんだな!?」
ドレッドがずかずかと近づいて来た。来るな。
「んぁ?お前背ぇ縮んだな。」
ドレッドが眉をひそめた。
「前に会った時には頭一つぶんそっちがでかかったような。」
「言われてみればそうだよな。」
リクヤも凝視している。見るな。
「お前、女みたいだよな。」
どうしてどいつもこいつも…。
「気持ち悪いんだよこの女男!」
―ドンッ!
ドレッドはレッキの胸を押した。
「キャッ!」
レッキは悲鳴を上げてしりもちをついた。
『キャッ!』て。
「…。」
リクヤ同様、ドレッドはキョトンとしている。
『あああああああ!!薬の影響で無意識に『キャッ!』と言ってしまったぁぁぁぁ!!』
と、レッキは思いながら立ち上がり、膝の埃を落とした。
平静をとりつくろっているように見えるが、汗だくである。
「司令官殿、コイツ、胸があります。」
ドレッドは引きつった顔でそう言った。
「嘘つけ、と言いたいところだが…レッキ、ちょっとこっちに来い。」
リクヤは手招きをした。
「さようなら。」
レッキは全力で走り出した。
「逃がすな!追えぇぇ!」
リクヤとドレッドは凄い形相で追いかけてきた。
『捕まったら死亡、捕まったら死亡。』と、何度もつぶやきながらレッキはセントラル直属の商店街に逃げ込んだ。
「ドレッド、お前はあっちを調べろ!」
「了解!」
リクヤとドレッドは人込みの中を探している。
「くそ、しつこい連中だ…。」
レッキは人込みの中、なんとか宿舎に帰れないかと悩んでいた。
「捕まえた!」
リクヤがレッキの腕を掴んだ。はい死亡。
「さぁ~よーく顔を見せてみろ。」
レッキは血の気が引いた。
「きゃ――っ!この人痴漢です!」
咄嗟にそう叫んだ。前より声が高くなっている…。
「な、何!?」
リクヤは仰天した。
「この人処罰機関の司令官じゃねえか!」
「国家を取り締まる奴がそれでいいのか!」
「痴漢司令官だ!」
「略して“ちれいかん”だ!」
「何で略したの。」
リクヤはすぐに人に囲まれた。
「ち、違ぁ――――う!俺は痴漢なんてしてねぇ―――ッ!」
自業自得だ。レッキはそう思いながら走り去った。
数日後、リクヤが大目玉を喰らったのは言うまでもない。
翌日、薬が完成したと教授から連絡を受けた。
「貴様のせいで昨日は酷い目に遭ったぞ。」
レッキは鬼のような形相でプヨンを睨んでいた。
「本当は5ヶ月もかかるのに、一日で元に戻る薬を作ったんでぷよ?むしろ感謝なさい!」
教授は青い液体を差し出した。レッキはそれを飲み干した。
「ううううううううう!」
レッキの身体が元に戻りだした。ミサはそれを見てホッと胸をなでおろした。
「よかったねレッキ♪」
ミサは笑顔でレッキにそう話し掛けた。
「うふ、そうね。」
?
「じゃあ帰りましょう、ミサちゃん。」
レッキは女声でそう言った。
「れ、れ、レッキ?どうしたの?」
「どうもしてないわよ?」
レッキは不思議そうな顔をしている。
「きょ、きょ、教授…。」
ミサは引きつった顔で教授を睨んだ。
「こ、これは…!!」
教授は驚愕の表情で叫んだ。
「中身だけ女体化レッキだ!」
ベタな締め方でごめんなさい。