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第6話 それぞれの行く道

 

 

「姉貴!早くしろよ!」

 

山を一直線に降るユリスは、来るのが遅いフレアをせかした。

そういえば、山を降るのはいいのだが、何か一つ忘れてはいないだろうか?

 

「ちょっと・・・ユリス!早過ぎよ!」

「馬鹿姉貴!怪我人いるんだ!早く治療してやらないと!」

「私は馬鹿じゃないわよ!確かに、早く治療してあげないといけないけど、応急措置は出来るわよ?」

 

フレアはようやくユリスに追い付き、リズロの腰ポーチをあさる。そして、包帯を取り出した。

 

「こいつ、準備いいんだな・・・。」

「感心してないの。ほら、早くリズロをおろして。」

 

リズロ?と首を傾げたユリスだが、「あ、こいつか。」というように、リズロをゆっくりとおろす。

先程目が覚めていたリズロだったのだが、ユリスにおぶられるまえに、また再び気を失ってしまったのだ。

ちなみにクラードも、未だクリスタルのなかで、体力を回復しているため、外に出て来ていない。

ユリスは、リズロの腰ポーチから取り出した包帯で、傷が回復していない箇所に包帯を巻き付けた。見た目はよくないが、何とか傷を覆っている。

 

「こんなんでいいか?」

「多分、いいと思うわ。」

「い、いい加減だな・・・。」

 

もういちどリズロをおぶり、山を降り始める。

 

 

数時間後、ふもとにたどり着く。すると、そこには炎の国の人々が集まっていた。フレアとリズロをおぶったユリスがやってきたため、人々は彼らに一体何があったのかと問い質してきた。

人々はやはり、洗脳されていたことを忘れていた。魔物が襲いにきて、それから何があったのか全く覚えていなかった。

 

「みんな、説明してあげたいのは山々なんだけど、怪我人がいるの。」

 

フレアは皆をなだめ、怪我の治療をしてあげて欲しいと声をかける。

すると、人込みの中から、小さな少女が出てきた。

髪はオレンジ色で後頭部で髪を縛っている。そして、肩から丸い目玉焼きのような形のポシェットを提げている。

 

「ぴよに、任せるです。」

「ヒヨちゃん!」

 

「ヒヨ」というのはあだ名である。この小さな少女の名は「ヒヨル」。

幼いながらも、薬剤師を目指しているだとか・・・。

師匠の下で修行中なのだが、その肝心の師匠は現在旅行中。

この非常事態に、何をやっているんだとは思うが、別に遊びに行っているわけではない。世界中の薬草を集めに行っているのだ。

・・・これこそ、何をやっているんだ、であるが、気にしない方向で。

ヒヨルはその間、お留守番をしていたというわけだ。

しかし、魔物に襲われたのだから、洗脳させられたのでは?と、フレアは思い、その事をヒヨルに伝えると、ヒヨルはその時地下室で薬の研究をしていたそうだ。

何だか国が騒がしいと思いはしたが、正直研究をほっとくわけにはいかないので、外に出るのはやめていたのである。

それで、さっきまで静かだったのが、またなんか騒がしくなり、ちょうど研究も終わったところなので、出てきてみたらこのざまというわけだ。

 

「あぁ・・・だから、ヒヨちゃんいなかったのね・・・。」

「いいから、はやく怪我人をみせるです。」

「あ、ごめん。」

 

ユリスはゆっくりとリズロをおろす。

すると、ヒヨルはリズロの状態を見て、ムッとした顔になる。

 

「包帯の巻き方が雑です。誰がやったんです?」

「・・・お、俺だけど・・・。」

「この包帯の巻き方で、よく平然と連れてこれたです。見るです。この肩の部分、傷からずれてるです。」

「あ、ホント、それにちょっとまた血が出てきてる・・・。ちょっと!ユリス!いい加減にも程があるわよ!?」

「姉貴がそれでいいって言ったからだろう!!」

「な!」

「もういいです、この2人には付き合ってられないです。」

 

言い合いになっているフレアとユリスをそっちのけ、ヒヨルは包帯をはずし、ポシェットから塗り薬を取り出し、リズロの傷にそっと塗っていく。

塗っていく時に、リズロが痛そうにうなる。どうやら、今気が付いたようだ。

 

「我慢するです。今は師匠がいないから、これぐらいしか出来ないですけど。」

 

所々に付いた傷に、まんべんなく塗りこんでいく。そのたびにリズロがうなる。

そして、再び包帯を巻いていく。

 

「これでいいです。」

「うぅ・・・。」

 

リズロは少し痛そうに起き上がる。しかし、気付くと何故か傷に対する痛みがない。どういうことだろう?

ヒヨルが塗った塗り薬は、治癒力を備えた痛み止めの薬だったのだ。

だが、また無理な行動をとると、傷が癒えるどころか悪化する恐れがあるから安静にしろということだ。

 

「でも・・・その間、魔物による被害が広がったら・・・。」

「俺に任せな。」

 

と、ユリスがリズロにそういった。

だが、ユリスは選ばれた戦士ではない。無茶なことはしないほうがいいと、そう言った時だった。

水色に輝くクリスタルを、ユリスは取り出したのだ。そして、そのクリスタルから、妖精が現れた。

 

「俺も、選ばれたんだ。そしたら、こいつが現れたんだ。」

≪初めまして、私はウンディーネ。ユリスからはディーネと呼ばれているわ。≫

 

ユリスとウンディーネを見る2人は、正直、「何で妖精がいるの?」という疑問しか浮かんでこなかった。

 

「ん?何でそんな顔してるんだ?」

「え、だって・・・僕も妖精がいるんだ・・・今は回復中だけど・・・。」

 

といいながら、エメラルドに輝くクリスタルを見る。

すると、ウンディーネが何故か納得したような表情で頷き始めた。

 

「な、何だよ、ディーネ?」

≪この子がリーダーね、って思ってね。≫

「やっぱり、僕がリーダーなんだ・・・。」

 

と、肩を落として、ため息をつくリズロ。

自分的には、纏め役など全く向いていないと思っているのだが、周りから見れば、リズロの支持はリーダータイプに向いているのである。

一種の謙遜かとは思うのだが、たぶん、謙遜などはしていなく、本気でそう言っているのであろう。

 

「そういう事だからさ、とりあえず俺に任せろよ。」

「う、うん。・・・で、聞きたいことがあるんだけど・・・。」

 

リズロがユリスに質問したことは、どうしてフレアを「姉貴」と呼んでいるか、である。

住んでいる国は違うけど、血のつながった兄弟なのかと・・・。

ユリスはそれに違うと答える。そして、フレアとともに、自分たちの経緯(いきさつ)を話し出した。

 

 

フレアが小さい頃、国の外に出て、道端の花畑で遊んでいた。

国を出入りするのを禁止されていたフレアは、親の目を盗み、国の外へと飛び出していたのだ。

何故禁止されていたかって?フレアは、炎の国のお姫様なのだ。

そんなフレアは、道端の花畑ではしゃいでいた。その時、白と水色が混ざった髪をした少年と、白と黄色が混ざった髪をした少年がフレアの前に現れた。

それがユリスと、もう1人はユリスの双子の弟ライナスだった。

2人は、生まれた時に生き別れとなっていたが、2人ともこうして出会えているのは事実であった。

ユリスは水の国の王子様。フレアと同じ、国の外から出ることを禁止されている身。

ライナスは雷の国の王様。初代の王様がこの世を去り、次期王様とされていたライナスが、この歳で王様となった。もちろん、こんな幼い王様では仕事が勤まらないので、ほぼ大臣が仕事を勤めている。

もちろん、国の外に出るのは厳禁だ。

だがこの2人は、とある場所で合流し、こうして散歩に来ているのだ。そして、フレアを見つけたというわけだ。

そこで遊ぼうと誘ったのはフレアだった。そのときのフレアは、とても好奇心旺盛で、女の子にもかかわらず、とても活発な女の子だった。そしてさらにフレアは、お姫様なので非常にわがままであり、ユリスとライナスを振り回したという。

しかし、歳を聞けば自分たちより年上で、当時はフレアには頭が上がらなかったという。

それからというもの、彼らはほぼ毎日出会い、いつの間にか彼らは普通の兄弟以上の絆を植えつけていたのである。

 

 

「そうだったのか・・・。」

「今でも姉貴には逆らえないんだ。」

「あんた、何勝手な事いってんのよ!」

「ほらでた。」

「あんたねぇ~!!」

「ひえー逃げろー。」

 

ユリスは棒読みで答え、フレアから逃げる。

 

「あの2人は会うといつもこうです。気にしてたららちが明かないです。」

「そ、そうなんだ・・・。」

 

あはは~と、呆れてその2人を見るリズロであった。

そこに、ようやくクラードが現れる。

 

≪ふぅ・・・何とか回復した・・・と、何やってんだお前たち?≫

 

見ればお分かりの通りだ。

フレアとユリスは鬼ごっこ(?)で、それを呆れてみているのがリズロとヒヨルとウンディーネだ。

そこで、クラードはウンディーネを見て驚く。何故いるんだと。

そういえば、ちゃんと説明してもらっていなかったような気がするので、ここでウンディーネに説明してもらうことに。

 

クラードは記憶が無いため、あいまいなことしか説明できず、リーダーだけが妖精を持つことになると説明したのだが、全く持ってそれは違っていた。

妖精は、戦士に1人(?)ずつ持つようになっているのだ。妖精に認められれば、妖精はクリスタルから現れ、戦士たちを補助するのだという。

だが、よくよく考えてみれば、フレアには妖精が出てきていない。

ウンディーネの話によると、フレアの妖精はサラマンダーという名であり、ねぼ助だそうだ。昔の戦士も、サラマンダーに困っていたようだ。

たまに、マスター(自分の主人)に憑依して暴れだす時があるが、それはほぼ寝言らしい。

 

≪もしかして、フレアが暴走したときって・・・。≫

「きっと、そのサラマンダーだね・・・。フレア、あのときの事覚えてる?」

「え、私・・・覚えてない・・・リズロのそばにいたのに、いつの間にかまた私の前にリズロが立ってて・・・。」

≪きっと、サラマンダーの寝言ね。ちゃんとクリスタルの中から出しておきなさい。名前呼べば出てくるはずだから。それに、いつ憑依されるかわかんないわよ?≫

「そ、そうね。」

 

それと!と、リズロがまだ何か質問するかのように声を上げる。

 

「僕、さっき事情聞かせてっていったような気がするんだけど・・・?」

「あ、そうだったな・・・。」

 

ユリスは、今までの事を話し始める。

 

次期王様のため、小さな頃から水色のクリスタルを渡されていたユリス。当時は、これが何の意味があるかなんて全く分からなかったし、そもそも話してもくれなかった。

ただたんに、それは次期王の称号だということしか教えてもらっていなかったのだ。

そんなある日。つまり、ここつい最近である。国中が騒がしくなり、一体何が起こっているのかと思っていると、突然そのクリスタルが光だし、妖精が現れた。それが、ウンディーネだ。

ウンディーネに今起こっていることを教えられ、自分が選ばれた戦士だと納得せざるを得なくなった。

そして、まず自分の国を救おうと、自分が持っていた双刃のロッドを2つに分け、魔物を倒していった。

やたらと出現する魔物にキリがないため、ウンディーネに国全体を結界で覆ってもらった。城門の外にはまだうじゃうじゃと魔物がいた。

だから、違う場所から、他の仲間を探すために、城門ではなく城壁から外に出たのだが、足を滑らせそのまま地面へ落下してしまった。

そこから記憶は途切れ、気付けば、フレアのいる炎の国の山頂にいたというわけだ。

 

「そういうわけで、俺はとりあえず地面の国に行くよ。面識あるし、状況確認しないとな。あと、食料調達ってとこかな。姉貴たちはどうするんだ?」

「僕らも早く他の国に行かないといけないけど・・・。」

「傷が完治するまで、派手な動きは禁止です。」

「ヒヨちゃんがこう言ってるから、ひとまず休んでから、行くわ。」

≪今の目的の場所は、雷の国、氷の国、太陽の国、夜の国だ。≫

≪そこに選ばれた戦士がいるからね。≫

 

だが、そこに行く前に、他の国も救っておかなければならない。

ユリスが地面の国に行くのならば、残りは、岩石の国、霊界の国、空の国、龍神の国、格闘の国である。

 

「じゃ、俺は地面の国行ってから、雷の国と氷の国を目的とするよ。雷の国には俺の弟、ライナスがいるし、氷の国には面識あるんで。」

「ユリスって、面識がある国多いね・・・。僕はどこに行っても初めてなのに・・・。」

「お、おい、それぐらいで落ち込むなよ~。」

 

と、ユリスがリズロをなだめる。

それもそうだ。今まで合ってきたメンバーは、皆お姫様だとか王子様だとか、身分の高い人たちばかり。それに引き換え、リズロは長老の孫。対抗しても、勝てる身分ではない。

確かに、長老の孫といっても身分は高いのかもしれないが、正直、リズロは身分なんて考えたことが無いので、ほとんど一般人と変わらないのだ。

しかし、まさかこんなところで身分の事を考えさせられることになるとは、思っても見なかったのである。

 

「で、合流場所は?」

≪もともと無の国があった場所ね・・・。≫

≪やつはそこにいる。≫

「ちょっとまって!」

 

それを聞いたリズロは、突然待ったをかける。

レイがさらわれる時、そこには何も無かった。最終ボス的な城というものも無かった。なのに、何故そこが合流場所なのか?と・・・。

そこの場所は、異空間へと続く道があるらしいのだ。外見何も見えてこないのだが、戦士が全員そろうと、その道は開かれるのだという。

 

「わかった。んじゃ、俺行くよ。お互い頑張ろうぜ!」

「うん!」

「あんたなんかには負けないからね。」

 

そして、別れを告げた。

 

・・・・・・・・・・・・

 

「あ!!!」

「え、な、何よ!?」

「フレア、忘れてたよ・・・。」

「忘れてたって・・・・・・あぁ!!」

 

ようやく思い出したようだ。

火山は、いまだ止まったままだということを。

 

2人は慌てて火山に向かって走っていった。

ヒヨルが後ろで「怪我人はおとなしくしてるです!」と言っているのもかかわらず・・・。

 

 

 第7話へ続く・・・。

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