第7話 妖精の掟
慌てて火山のふもとに来たものの、そういえば制御システムが壊されていたのを忘れていた。
また登らなければならないはめになるのかと思い気や、クラードが瞬間移動でつれってくれるそうだ。
だったら、最初からそれを使えばよかったじゃないか、ということになるが、クラードの瞬間移動は一度行ったことのある場所にしか行けないのだ。つまりをいうと、「メ◯ヘヴン」でいうア◯ダータみたいなものと考えていい。
「じゃ、早く連れてって。」
≪その前に、お前の妖精を出しておいたほうがいいんじゃないか?≫
「それもそうよね。」
フレアは、クリスタルに眠るサラマンダーの名前を呼んでみた。
しかし、現れる気配がない。
もう一度呼んでみるが、やはり現れない。
「まさか、フレアは正式に「選ばれた戦士」として、決められてないのかな?」
「何言ってるのよ!クリスタルは反応してたわ!」
≪ならもう一度呼んでみたらどうだ?≫
そんなわけで、再びサラマンダーを呼ぶことに。
適当に呼んでは出てきそうもないので、クリスタルを顔の前にぶら下げ、息を大きく吸い、「起きろ!!サラマンダー!!」と叫ぶ。
その声にびっくりしたのか、リズロとクラードは耳を押さえるポーズをとる。
するとどうだろう。サラマンダーらしき妖精が、慌ててクリスタルから飛び出してきたではないか。
≪なんやなんや!今の馬鹿でかい声は!≫
その喋り方に、一同は呆然とする。
その様子を、キョロキョロと見回すサラマンダー。
≪まさかあんたやな?今の声は?≫
と、フレアに向いてそういうと、ふとクリスタルが視界に入る。
≪そうか、あんたワイのマスターか。≫
サラマンダーがそう納得したとき、ようやく一同は我にかえる。
そして、フレアはサラマンダーなのかと問う。
当たり前やないかと、サラマンダーは特徴のある喋り方で答える。
≪それよか、ワイを呼んだっちゅーことは、何か頼み事があるちゅーこっちゃな。せやろ?≫
「そ、そうよ。」
「火山を元に戻したいんだ。」
≪火山か・・・残念ながら、それを戻せるのは炎の戦士であるあんたとワイだけや。≫
サラマンダーがそう言ったので、疑問の表情を浮かべた。
そして、こう続ける。
妖精と戦士は一心同体の存在であり、その力でしか火山を元に戻すことは出来ないらしい。
その理由は単純明快。ここは炎の国だからだ。
≪そういやぁ、あんた・・・。≫
サラマンダーは、説明を終えた後、クラードに向かってそう言ったのだが、セリフを途中でやめてしまった。
≪何だ?≫
≪いやぁ、何でもあらへん。ただな、自分が何者かって事、判ってへんとなぁと思うてな。≫
≪どういうことだ?≫
≪自分の事は、自分で見つけへんとあかんで。ワイらはあんたの事知ってるけど、それを教えてはいかんのや。それが、ワイら妖精の掟やからな。≫
「ほな、いくで、マスター!」と声をかけ、フレアとともに瞬間移動で頂上へと向かった。
クラードとリズロは、同じく瞬間移動でヒヨルの元へと帰る。
すると、ヒヨルがそこに待っており、顔が引きつっていた。つまり、怒っているというわけで・・・。
「怪我人は大人しくしてるですって言ったにもかかわらず飛び出していくなんて・・・許せないです・・・!」
「ご、ごめん・・・。」
「ごめんじゃ済まないです。ぴよから逃げたらどうなるか、わからせてあげるです!!」
「ひ、ひえぇぇ!!」
この後リズロが、ヒヨルの餌食になったというのはいうまでもないだろう・・・。
そして、肝心のフレアとサラマンダーはというと・・・。
≪よっしゃ、早速はじめるで!≫
頂上に着き、早速元に戻そうと、サラマンダーはフレアをせかしていた。
しかし、フレアはさっきの事が気になってしょうがなかった・・・。
≪どないしたんや?≫
「えっと・・・その・・・。」
≪さっきの事、そんなに気になるんか?≫
サラマンダーに言われ、フレアは頷く。
≪そやろな。ワイがあんな言い方したんやもんな。気にならんも無理はないやろな。≫
「じゃ、教えてくれるの?」
≪あかん。≫
「え・・・・・・。」
≪さっき言うたやろ?これは、妖精の掟やと。≫
教えたら、きっと周りに広がる。
その広がったうわさが、すぐに本人に行き渡る。
つまり、人によって教えられる事になり、それが本当なのか嘘なのか判断が出来なくなり、その真実を受け入れなくなる。
結局は、考えていくうちに信じることが出来なくなり、それが偽りなんだと自分の中で断定し続けることになる。
サラマンダーはそういった。
≪せやから、マスターであるあんたにも、教える事は出来へんのや。≫
「そうなのね・・・。」
≪・・・・・・でも・・・。≫
「・・・?」
サラマンダーはそう言ってから、少し間をおく。
≪・・・まわりに絶対話さないんやったら、教えてやってもええで・・・。≫
「え、ホント?」
≪ほんまや。だけどマスター・・・守れるんか?絶対まわりに話さないって、誓えるか?≫
「えぇ、誓う。その内容がどんな内容であっても、絶対話したりなんかしないわ。」
≪えぇ決意や。なら、教えたる。覚悟はええな?≫
フレアは、つばをごくりと飲みながら、頷いた。
≪あの妖精・・・実はな・・・・・・。≫
「あたたたたたたた!!痛い痛いって!!ちょ、やめ、痛い!!!」
「さっきの塗り薬は少ししか塗ってなかったです。だから、追加です!!!」
「いだだだだだだだ!!まって!そこの傷は!いだぁああぁあああ!!!」
「逃げるからこういうことになったです!報いるです~!!」
「ごめん!い、痛い!!ごめんってばぁ~!!いったぁああぁあああ!!!」
そんなリズロはそっちのけ、クラードはさっきサラマンダーに言われたことが気になっていた。
―自分が何者かって事、ちゃんと判ってへんとなぁと思うてな。―
―ワイらはあんたの事知ってるけど、それを教えてはいかんのや。それが、ワイら妖精の掟やからな。―
≪(私は・・・私は何だというのだ・・・・・・記憶は確かにないが、私は私だ。だが・・・・・・くそ!)≫
ガン!と、クラードは壁を殴る。
≪(・・・考えてもらちが明かない・・・何かあるとしたら、きっと何かの拍子で思い出すだろう・・・・・・それまで、考えるのはやめにするか・・・。)≫
クラードは殴りつけたままの手を壁から離し、リズロのほうを見てみると、ちょうどヒヨルによるお仕置きが終わった頃であり、リズロはベッドの上でぐったりとなっていた。
つまり、再び気絶したということで・・・。
≪私もしばらく眠るか・・・。≫
そう呟き、クラードはクリスタルの中へ入っていった。
「そ、そんな・・・。」
≪マスター、別にあんたの事やないから、そない干渉せんでもええんやで?≫
「だ、だって・・・。」
≪これは、あのがきんちょにも関わる事やから・・・。≫
「あ、リズロよ。」
≪そか、リズロか。ま、そういうことやから、リズロにも話したらあかん。解ったな?≫
「え、えぇ・・・。」
サラマンダーが話した内容を聞いて、どうも信じられない様子のフレア。
だが、聞いてしまったものは絶対に喋ってはいけないのだ。何があろうとも。
そして、ようやく準備にかかる。
≪さて、仕切り直しやマスター。≫
「どうすればいいの?」
やり方は至極簡単。
フレアの必殺技を、火山の噴火口に向かってぶちかませばいいということだ。
しかし、ただぶちかましただけでは、この国全体に被害が及ぶので、サラマンダーがそれを防ぐという形になる。
「え、そんなんで元に戻るの?」
≪当たり前やろが。昔も同じことして、火山を元に戻したんやから。≫
どうも不信な態度をとるフレア。
とにかく、本当に元に戻るのかどうか、やってみることにした。
噴火口に近付き、見下ろす。
そして、大きく深呼吸をする。
≪そない緊張せんでもええのに・・・。≫
「ば、馬鹿ね!失敗したらどうするのよ!!」
≪そのために、ワイがいるんとちゃうか?≫
「・・・・・・・・・。」
≪そんじゃ、さっさと始めまっか。≫
サラマンダーの声で、フレアは右腕を上げる。そして、「メテオストーム!」という掛け声とともに、右腕を振り下ろした。
天から噴火口に向けて、隕石が落下する。その数は、確定できない。
ズガガガガガ!という音を立てながら、噴火口に直撃し、地面が揺れる。大噴火の合図だ。
それを見逃さないサラマンダーは、噴火直前の噴火口に向けて両手をかざす。サラマンダーが赤く輝く。その光がとてつもなく大きくなっていく。そして、火山を包み込む。
火山は今にも噴火しそうだ。だが、サラマンダーはそれを必死に制御している。
「メテオストーム」が静まると、火山はさらに大きく噴火しようと地面を揺らす。
そのせいもあるのか、フレアはとても心配になり、あせり始める。
「ちょっと、ホントに大丈夫なの!?」
≪話しかけるな!!!黙ってみときいや!!!≫
集中力が途切れると、サラマンダーはフレアに怒鳴った。
噴火しようとする揺れは、だんだん小さくなっていった。そして、ようやく火山は何事もなかったかのように、普段の調子の戻っていった。
つまり、成功したという事だ。
フレアは、その様子を見て、呆然と立ち尽くしていた。
≪はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・・・・終わったで・・・。≫
息を切らして、サラマンダーはそう言った。そして、飛ぶ力もなくなったかのように、地面向かって落ちる。
そんなサラマンダーを、両手で受け止めるフレア。
「大丈夫・・・?」
≪何ともあらへん・・・ただ・・・疲れただけや・・・しばらく、クリスタルの中で寝ててええか?≫
「い、いいけど・・・まずは疲れてるところ悪いんだけど、私をふもとまで戻してくれないかしら・・・?」
≪そやったな・・・んじゃ、最後の力振り絞って、移動やな・・・。≫
そして、サラマンダーとフレアは瞬間移動でふもとに戻っていった。
少女と少年が、大量の花が集まった温室にいた。それは、お花畑といっても過言ではないぐらいの花で埋め尽くされていた。
『外で遊びたいな・・・。』
『僕が連れてってあげる!』
『でも・・・。』
『大丈夫だよ!行こう!』
『うん!』
少年は、少女を外へ連れ出した。
少女が外に出て、外の空気を吸ったとたん・・・・・・
―バタッ・・・
少女は倒れて、そのまま動かなくなってしまった。
少年は少女の名を呼ぶ。だが、少女は起きない。
すると、突然少女が半透明になり始めた。そして、キラキラと、光の粒子が少女から溢れ出し、風に乗って天高く昇っていく。
少年は、何が何だか解らなかった。一体彼女に何が起きているのか・・・。
光の粒子がすべて少女から溢れきった時、そこに少女の姿はなかった。
少年は、何も解らないまま、涙を流し、泣き叫んだ。そして、何時間も泣き続けた・・・・・・。
「・・・・・・っは!」
リズロは突然ガバッと起き上がった。
そんな時、「ただいまー!」という声とともに、フレアが帰ってきた。
「リズロどうしたの?汗かいてるけど・・・。」
「あ、うぅん・・・なんでもない・・・。」
さっきサラマンダーに教えてもらったこともあるのか、とても心配しながらリズロに問う。
だが、リズロは心配させないために、フレアに笑顔を見せながらいった。
「(さっきの夢・・・何だったの・・・誰かが僕に何かを教えようとしてるのかな・・・。)」
リズロは片手で頭を抑えながら、先ほど見た夢の事を考えていた。
「ホントに何でもない?」
「何でもないって・・・心配性だな、フレアは!」
「な!わ、私が心配するだなんて、めったにないんだからね!!」
「フフッ・・・分かってるよ。」
「・・・そういえば、クラードは?」
「あ、そういえば・・・。」
確かに、この場にはクラードはいなかった。
するとヒヨルが、「クリスタルの中に入ったです。」と答えた。
納得したついでに、サラマンダーも火山を元に戻したことで力を使いすぎて疲れため、クリスタルの中に入っていると伝えた。
「そういえば、サラマンダーが言ったこと、気になるよね。」
「え、えぇ・・・な、なんだろうね・・・。」
「もしかして、フレア、教えてもらったとかない?」
「そ、そんな訳ないじゃない!妖精の掟だっていって教えてくれなかったんだから!」
「そっか・・・。」
・・・・・・嘘・・・教えてもらった・・・・・・・。
・・・でも、言える訳ない・・・・・・。
クラードが・・・・・・・・・・・・
リズロのお父さんだなんてこと・・・・・・。
第8話へ続く・・・。