第8話 夢の中の物語
リズロが目覚めたときから、フレアはずっと不安そうにリズロを見つめていた。
サラマンダーに教えてくれたことが、頭からはなれないのだ。様子的には、今にも話し出してしまいそうだ。
だが、サラマンダーの言うように、これは絶対に話してはいけないのだ。
「ん?フレア、さっきからずっとだけど、そんな不安そうな顔してどうしたの?熱でもあるの?」
そう言って、リズロは寝ていたベッドから下り、フレアのおでこに、目を閉じて自分のおでこをあてた。
「!!!!!!」
「・・・う~ん、熱はないみたいだね。」
そういって、リズロが目を開けると、フレアが涙を流していた。
「え、ちょ、どうしたの!?僕何かした!?」
リズロ、パニック状態。
「ご、ごめん・・・何でもない・・・。」
フレアは、涙声でいいながら涙を拭くが、次から次へと涙が溢れてきてしまう。
「あれ・・・おかしいね・・・涙がとまらない・・・。」
ついには、フレアは座り込んでしまった。
すると、クリスタルから体力回復したサラマンダーがでてきた。
≪マスター・・・何も言わずにワイについてこいや。≫
サラマンダーはそういって、外に向かう。
≪何してんねん・・・はよこい。それとあんさん、ついてくんなや。≫
「まず、怪我人だから、ここ出られない。」
≪そか。≫
そんな会話を交わし、2人は外に出ていく。
と、ヒヨルがリズロに近づいてきた。また薬でも塗られるのかと、後ろにひいたが、特にそんなことはなく、ただ包帯を外し傷の具合を見ていただけだった。
「そろそろよくなってきたです。」
「じゃぁ・・・!」
「ダメです。」
「え~・・・何でなのさ~?僕、こんなに元気なのに・・・。」
「傷 が 悪 化 し て も い い で す ?」
「さすがにそれは・・・。」
「じゃ、大人しくしてるです。」
結局、大人しくしているはめに・・・。
一方フレアとサラマンダーはというと・・・
≪・・・ワイが悪かった。すまんな、マスター。≫
「ぇ・・・私の事、怒らないの?」
≪ワイが言ってしもうたんや。それに、マスターがそんなんなるなんて思ってへんかったから・・・すまんな・・・。≫
サラマンダーは、フレアに背を向けたまま涙を一筋こぼす。だが、フレアには見えていなかった。
≪このままやったら、マスターの身がもたへん。今すぐにでも、ひとりでここを出発するんや。≫
「え・・・でも・・・。」
≪でもやあらへん。このままあのリズロとかいうガキと旅してみぃ?さっきみたいに泣き崩れて、揚げ句の果てには言うてしまうかもしれへんのやぞ?≫
サラマンダーにそういわれ、フレアはしばらく悩んだ。
確かに、クラードの秘密を知ってしまったのは事実。そのせいで、リズロを見るたび、寂しそうな表情が顔に出てしまうのも事実。サラマンダーの言う通りなのかもしれないと、フレアは思った。
「わかった。私、今から出発する。でも、最後にリズロに顔合わせとく。」
≪そうか。ワイもあのガキにいいたい事あるしな。≫
そういって、中に入っていく。
「あ、お帰り、2人とも。」
リズロは笑顔で迎える。
「あのねリズロ、私、今から出発しようと思うの。」
「え・・・。」
「リズロに迷惑かけっぱなしだし、戦士として情けないとこばっかみせてるし・・・。」
「でも、僕、フレアを守るって・・・。」
「馬鹿ね、戦士がいつまでも素人に助けられてちゃ、らちがあかないでしょ?」
「だから一先ずお別れ。」と言って、リズロに近づき、大胆にもリズロの唇にキスをした。
リズロは初めてこういうことをされたのか、いろんな意味で頭の中がごちゃごちゃになった。
すると、今度はサラマンダーが口を開く。
≪あんさん見たときから思っていた事なんやけど、覚えてなあかんのに、自分で消去した記憶あるやろ?≫
「な、何それ。」
≪あんさん、自分どこの人か判断したほうがええで。ま、いつかは何かの拍子で思い出すかもしれへんけどな。とりあえず、それだけや。≫
サラマンダーが言った後、しばらく沈黙の空気が流れた。
「それじゃリズロ、行くね。」
「うん。でも、どの国に行くの?」
ユリスは地面の国に立ち寄ってから、雷の国と氷の国に行くといっていたので、フレアは霊界の国と空の国に行くとの事。
多分、選ばれた戦士がいるであろう太陽の国と夜の国は、自分の国を守っているから、大丈夫だと思う、とフレアはそういった。
「じゃ、また無の国で。」
「うん、お互い頑張りましょ。」
そういえば、クラードは?と問い掛けられ、何か知らないけど、ずっとクリスタルの中で眠っていると答えた。
サラマンダーが、どんな夢見てるか知りたかったら、クリスタルを持ちながら寝れば同じ夢が見れるとのこと。今は。
どういう意味かというと、単なる妖精の勘だとか。妖精同士は波長が違うのだが、どこかの波長が合うときがあるようなのだ。今がその時だと、サラマンダーは言う。
≪ろくな夢は見てないかもしれへんから、気ぃつけや。≫
「うん、わかったよ。」
ほな、行こかとサラマンダーはフレアと共に外に出ていった。
リズロは、2人が出ていった後、クラードがどんな夢を見ているのかと思ったが、ふとさっきのサラマンダーの言葉を思い出して、見るのをやめた。
「ま、起きるまで待ってるか。でも・・・。」
サラマンダーが言ったあの言葉、一体、どういう意味なんだ・・・。
これは、クラードが見ている夢。
クラードは、自分を知る機会だと思い、しばらく見ることにした。
昔、数百年ぐらい昔の話。
まだ、国の数が15だった時の話。
その15の国のうちの自然の国に、アルスという名の青年がいた。
彼は、とても真面目で優しく、勇敢な青年であった。さらに、そんな彼だから、国全体をまとめる政府の一人でもあった。
政府での彼は、性格が変わる。強靭でとても厳しい人に豹変する。そのため、仲間からはあまり頑固過ぎるのも体に毒といわれてしまうのだ。
ちなみに説明しておこう。
この自然の国は「村」という印象があり、田舎の国とみられるが、実は違う。
確かに、村はあるがその村の奥に行くと、街が見えてくるのだ。その先にはお城だってある。つまりをいえば、城下街ということになる。
その城下街に、政府の本拠地がある。アルスはそこに行っているのだ。
ちなみに、もうひとつ言っておこう。無の国と隣り合わせのようなものだから、本拠地は無の国と合同になっている。
そんなある日の事、めったに帰らない家に、書類の整理をするために帰宅した。
「なんじゃ、ただいまも言わず・・・。」
「ごめん父さん、この書類を取りにきただけなんだ。あとついでに、この部屋を片付けようと思ってね。」
「片付ける前に、母さんに挨拶せんか。」
「それもそうだ。」
アルスは持ち出そうとした書類をその場に置き、仏壇の前に座った。
「ただいま、母さん。中々帰って来れなくてごめん。今日は書類持ちに来ただけなんだ。ついでに部屋の片付けしてから行くよ。」
そう言って、仏壇を後にする。
アルスの母の名はフィア。アルスが政府の仲間入りした日に、病気を拗らせ息を引き取った。
とても優しく、しかし厳しい母親だった。そんなところが似たのかも知れない。
アルスは部屋に戻り、片付けを始めた。部屋は本や書類だらけで、足の踏み場もないくらい散らかっていた。めったに家には帰っては来ないのだが、たまに帰ってきて、書類を置いていくため、これほどまでに散らかるのだ。
しかし、よくもまぁ、これだけの書類をためたものだ。
正直、アルスは片付けをろくにしたことがないので、その作業は全くはかどらない。片方に積めば反対側はスペースがあくが、どうみても片付いているとは思えない。それに、積み上げれば積み上げるほど不安定になる。そして、崩れてまた整理しなければならないというはめになる。
結局、不安定ながらも、片方に積み上げスペースをあけるこことなった。
「はぁ・・・結局片付かなかったか・・・ま、全部必要なものだからな・・・。」
アルスはそう言って、部屋から必要な書類を何冊か持ち、家を出ようとした。
「今日は休日なんだ。もう少しゆっくりしてかんか。」
「そういうわけにはいかないんだ。」
「仕事ならば、家でやっていけばよいものを・・・。」
「スペースがないから向こうでやってるんじゃないか。」
それじゃ、いって来るといって、家を出た・・・その5秒後。
「どいてぇ~!」
―ドンッ・・・バラァ・・・
アルスは人とぶつかり、持っていた書類が桜吹雪のように舞い散った。
「いたたたたた・・・。」
「すいません!大丈夫ですか!?」
ぶつかってきたのは、この声の感じで言えば女性だ。
しかし、声は高くもなく低くもない。標準の声だ。
彼女は、地面に散らばった書類を、慌てて拾いだす。
「いやぁ、大丈夫・・・!」
痛さで目を閉じていたが、その目を開くと、目の前には美しい女性が自分の書類を拾っていた。
その女性を、アルスは呆然と見入っていた。
アルスのビジョンには、その女性の背景に桜が散っているように見えていた。
つまり、アルスは一目惚れをしたのだ。
「はい、これ。」
「あ、どうも・・・。」
しかし、運命とは皮肉なものである。その出会いは一瞬として、儚く終わる。
彼女は、「それじゃ、急いでますから。」と言って走っていってしまった。
「・・・って見とれている場合か!」
と、ようやく我にかえる。
「でも、あの人綺麗だったなぁ・・・また会えたらなぁ・・・。」
そう言って、仕事先へと足を進ませた。
しかし、運命とはまた、偶然と重なり合うものでもある。
アルスは、政府内の図書館のような場所で、書類をまとめている。
そのすべての書類には、文章がところせましと、びっしり書かれていた。しかも、所々にメモ書きもある。
一体どれだけ仕事熱心なのか・・・。
と・・・
「あら、あなたはさっきの・・・。」
聞き覚えのある声が、アルスの耳に響く。
まさかと思い、声がしたほうに向くと、先ほどぶつかって来た――アルスが一目惚れした――女性がそこにいた。
アルスは、その女性をみてしばらく固まった。
「あ、あのぉ・・・大丈夫ですか?」
「え、あ、あぁ、大丈夫だ・・・。」
アルスは慌てて、散らかっていた書類を、ひとつにまとめだした。
だが、慌てているので、全くまとまる気配がない。
「フフ・・・面白い人。」
「・・・・・・。」
アルスは女性に笑われてしまい、顔が赤くなった。
「でも、そんな人なのに、あなたは政府の中で一番信頼されている人なんですよね。」
その言葉を聞いて、何故それを?と彼女に問うと、さっき名簿を整理していたら、アルスの名簿を見付けたので、それで知ったと答えた。
「で、その、君の名前は?私はアルスだ。」
「私の名前は、マリーです。よろしく、アルスさん。」
そう会話を交わした2人は、その日から毎日会うようになり、いつしか2人は恋人と同等の関係になっていた。
その後、2人は結婚し、男の子を出産。
しかし、不運な事に、マリーは出産後命を落としてしまった。
生まれた男の子の名を知らずに。
滅多に涙を見せないアルスは、病院でも泣いていたが、自宅でもしばらく泣いていた。
マリーは、アルスが初めて愛した女性だ。そのためもあるのか、アルスは彼女以外の女性を愛することが出来なくなっていた。
しかし、いつまでも悲しんでいては、天国にいるマリーに心配されてしまう。
アルスは、マリーから産まれた子供に名を付け、男一人で育てることに決めた。
その子供にも、アルスと同じような出来事が起きようとも知らずに・・・。
クラードは、そこで目が覚めた。
そして、クリスタルから現れる。
「やっと起きた。どんな夢見てたのさ。」
疑問符を付けずに、リズロはクラードに問い掛けた。
だが、クラードは片手で片目を隠すようなポーズで頭を抱えて悩んでおり、リズロの質問に答えない。
「クラード?」
≪すまない、リズロ。今気分が悪いんだ。もう少し寝かせてくれ。≫
「え、待って、いつまで寝るつもりなのさ。」
≪それは私にも判らない。出発するときになったら、一言声をかけるだけでいいから。≫
「う、うん・・・。」
リズロのその返事を最後に、クラードは再び眠りについた。
クラードの夢の中のストーリーが、真実だとも知らずに。
第9話へ続く・・・。