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第5章:処罰機関

―3000年 1月1日 午後2時10分―

「処罰機関!?あいつらまだ懲りてねえのかよ!」

リンスは師匠を突き飛ばし、「行くぞ!追い返してやろうぜ!」と叫んで走り出した。

「あわわ…どうしよう…どうしよう…。」

キッソウは泣きそうになりながらリンスの後を追う。
クリボッタはすでに走り去っていた。
ギッサは僕と師匠を見て「ごめんなあ!悪いけど先に戻るから!」と言ってドタドタと走って行った…。

「やれやれ、やかましいのがまた来てしもうたわい!」

誰か階段を登って来る。
アフロ頭のドクター・シュノだ。いい歳なのに息切れ1つしないとは、大した体力だ。

「ほれ!早く来んかい!処罰機関はお主を待っとるんじゃぞ!」
「ニャップ!!ボクは走るのが苦手なんでぷ!待ってえ!」

そして“ペッタンペッタン”と足音を立てながら、“理解不能不思議生物プヨン教授”が死にそうな声で後を追う。
後にはしりもちをつく師匠と僕しかいない。

「あんのボサボサ野郎!俺を突き飛ばしやがったあ!」

師匠が怒り狂っている。

「師匠、怒ってる場合じゃないですよ。とにかく何が起こったのか見に行きましょう。」

―午後2時12分―

「行っちゃった…。」

5人の変人科学者達と“摩訶不思議生物プヨン教授”は僕と師匠を残してラインボールで出発してしまっていた。

「どうする?」

師匠が力なくつぶやいた。取り残されてしまった…。
突然師匠が「ひらめいた!!」と叫んだ。師匠はラインボールのレールを見つめる。

ま、まさか…。

―午後2時13分―

「クリボッタさん、あの人達置いてって良かったんれすか?」

ラインボールの中でキッソウさんが心配そうに僕に話しかける。

「今は緊急事態だからしょうがないよ、それに“処罰機関”とのいざこざに彼らを巻き込むわけにはいかないよ。」

僕はそう言った。

「フン!部外者の話をするな!はらわたが煮えくり返る!」

リンスさんはあいも代わらずイライラして、貧乏ゆすりをしている。ギッサさんはそれを見て大爆笑をしている。
彼の笑いのツボは珍獣より奥が深い。
ドクター・シュノさんはプヨン教授に「まぁた何かしおったな!」と怒ってる。

「ボクはさすがにやってないでぷよ!!」

プヨン教授は疑惑を否定する。
ところで、処罰機関とは、極悪犯罪人の犯罪に対する刑罰を執行する機関だ。最近、そいつらは研究施設にやってくる事がある。
『プヨン教授の発明品の苦情が出ましてねえ。』とか『プヨン教授が食い逃げをしましてねえ。』とか『プヨン教授が詐欺商法をした疑いがありましてねえ。』
妙な共通点があるけど…。ま、いいか。今度は何の用だ?

―午後2時15分―

「待ちきれなくて来ちまったよ。」

若者の声がした。そいつらは既に僕らを待ち構えている。

「…遅い。」

今度はおじさんの低い声だ。
ああ、待って待って今出るから。
僕はグリーンパスを円形ドアに当てた。開いたドアから首を出すと、4人の黒スーツ人間が立っていた。3人の男性と1人の女性だ。1人は赤毛をオールバックにして、ヘアバンドを付けた若い男だった。
彼はドレッド、いつも我が施設で問題が起きると彼は必ず来る。口が悪いから苦手なんだよな。
もう1人は褐色の肌のスキンヘッド男だった。彼は見たことが無いなあ。超巨大サングラスの向こうから鋭い視線が見て取れる。
女性の方は、まだ子供か?と思うくらい小柄な女性だった。青白い髪に冷たい表情。彼女の名はロト。ロトはドレッドと同じでよく施設に来ている。
「…時間厳守」とロトは無表情でつぶやいた。
後ろには2メートルはくだらない巨人男が立っている。長い髪を後ろで結んでいる。彼も見た事が無い。

「ドレッド君…。」

僕はそう言った。

「ボッタクリ野郎は黙ってろ…てめえらんとこに来たんだから何の用か分かるよなあ、変人集団…。」

ドレッドは静かに辛辣な言葉を吐きまくる。

「あんだとお!?こんのクソガキャ――――!」

アダァ!
リンスさんが僕の頭を踏み付け飛び出て来た。今日はよく怒るなあ。

「あらら、クッソうぜえリンスさんじゃねえか、あんまり毎日怒ってるとハゲますよぉ。」

ドレッドは何食わぬ顔でそう言った。当然のごとくリンスさんは怒り狂った。

「こぉ・のぉ・やぁ・ろぉ・うぉ―――――――!!」

ブチッ!と来ましたねえ、あんまり怒ると血圧上がりますよぉ。
リンスさんは果敢にもドレッドに殴りかかる。だが、あっけなく褐色の男性にパチンとはじかれ、「ギニャアァ!」と叫びながらふっ飛んでしまった。
ナイス健闘!

―午後2時16分―

うるさいのが静かになったのでやっと話が出来る。ドクター・シュノさんが口火を切った。

「今度は何の御用ですかね?」

ドレッドはロトと褐色男と巨人男を見てから「いつも通り、プヨン教授についてだ。」と言った。

「ハア、やっぱり。」

ドクター・シュノさんは深いため息を吐いた。同時にプヨン教授に僕をいれた8人の冷たい視線が向く。
プヨン教授は慌てて「ニャップ!みみ、みんなボクを疑うんでぷかあ!?ボクより処罰機関を信じるんでぷかあ!?」

YES!その通り。

「で、今度は何をやらかしたんですかな?」

ドクター・シュノさんはドレッドに聞いた。
ドレッドは巨人男の方に振り向き、「ゴショガワラ、例のブツを出せ。」と命令した。
例のブツ?

「承知しました。」

ゴショガワラ、と言われた男は象ナメクジもすっぽり入るくらいの巨大ダンボールをなんと片手で持って来た。
ドレッドはゴショガワラがダンボールを持って来たか確認してから「てめえらにも見せてやるよ。これを見れば用件もわかるだろ。」と僕らに言い、「ロクロ、手伝え。」と褐色男の方に振り向きながら言った。
ロクロ、と言われた男は、ゆっくりうなずき、ダンボールのフタをナイフで開けていく。

―午後2時18分―

「こ、こりゃあ凄いわい。」
「ヒヒ、こんなのをよくもまあ」
「ここまで持ってこれたれすねえ…。」

ダンボールの中には大量の発明品がぎっしりと詰め込まれていた。その全てがプヨン教授のケチり発明品だった。

「アワワワ…。」

プヨン教授は『マズイ…。』的な顔でガタガタ震えている。

「買った人達から回収したんですね。」

僕はドレッドに聞いてみた。

「それだけじゃない、お前等の倉庫から全ての発明とやらも含まれている…このガラクタは命にかかわる危険性もあるからな。」

僕は愕然とした。

「ちょ、ちょっと待ってください!」

僕は慌てて叫んだ。

「その発明品の中には研修生の子達が作ったものもあるんですよ!?何でそれまで回収する必要があるんですか?」
「ほっほぉ?クズ野郎共の半人前の奴等が作ったもんも混じってんのかよ!?冗談やめてほしいぜ、そんなもん…ますます危険でほっとくわけにゃあいかねぇだろ?」

僕は思わずキッソウさんの方に顔を向けた。キッソウはドレッドの事が怖いのか、プルプル震えている。
ギッサさんは笑っていい場面なのか分からず混乱していた。

「こうすりゃ、てめえらも一生“発明ごっこ”なんてしたくなくなるだろ。」

ドレッドは冷たく言い放つとダンボールの中の発明品を踏んだり床に叩きつけたりして壊し始めた。
もちろん研修生が苦労して作ったものも一緒に。

「ああっやめて下さい!その発明は改良すればまたお客さん達が使えるくらいまで直るんでぷよぉ!」

プヨン教授が泣き叫ぶ。

「黙れぇ!スライム種族のクズめがぁ!」

ドレッドがそう怒鳴った。
僕は、ドクター・シュノさんの身体がピクピクと引きつったのを見た。
プヨン教授は驚き黙った。

「なにが改良すれば直るだぁ?こんなガラクタのカスみたいなのがかぁ!?ハハハ!聞いたかお前らぁ!こいつは人間でもねえくせにまるで人間の事でも分かってるみたいな言い方しやがる!」

ドレッドはさらに発明品を壊し続ける。いくらなんでも度が過ぎる。

「理解不能。」
「話にならんな、こんなもの、全て壊してしまおう。」
「よろしければ我々も手伝いましょう。」

処罰機関の連中は地味な残酷作業を続ける。

「いいかげんにせんか!」

ドクター・シュノさんが怒った。

「政府機関はそんなたちの悪い嫌がらせしかしなくなったのか!」

凄い大声だ。だが、処罰機関一行はチラリとドクター・シュノさんを見てから作業を再開し始める。
まるで不良に教師が注意をしている風景の様だ。

「はいはい、うるさいジジイは黙ってなさいよと、ん?おい!見ろよお前らぁ!」

ドレッドが何か見つけたらしい。

「この発明品、客のデータが入ってるぞ。」

ドレッドが持っているのは“ビジョンボード”と言う発明で思い出や、音声、人物を立体映像で再生出来る、なかなかいい発明だった。
…いや、むしろそれは失敗作じゃなかったはずだ。
うん、失敗作じゃない!
ドレッドはビジョンボードをいじくりながら「どうせプヨンの作る発明は危険物だからな、嫌がる客もいたけど少し暴力的に回収したんだよなあ。」と言う。
くそっひどい奴らだ!
僕は、体がカァ―ッと熱くなった。

「侮辱だ!」

うおっ!
いつのまにかリンスさんが起き上がって鼻血を出しながらまた怒っている。
彼の怒りも彼の鼻血も止まらない。

「あんなアホスライムでも俺の教授だ!お前らのしてる事は神も俺達も許さねえぞ!!」

リンスさんの怒りの一言はドレッドに通じたらしく、彼らは残酷作業を中断した。
ドレッドはリンスさんの方を見た。

「神も許さんだと?じゃあそのスライムの出来損ないが悪い事をしてないと言いきれるのかよ。」
「あったり前だぁ!」

リンスさんはそう言った。

「プヨンは嫌われてた俺を助手として迎えてくれたんだ!確かにバカな事をしてたけど俺はプヨンが…プヨン教授がいい奴だって信じまくってやる!」

リンスさんはプヨン教授に対して本音を述べた。

「リンス…。」

プヨン教授は泣きそうな顔でリンスを見つめている。
僕も、プヨン教授も、ドクター・シュノさんも、キッソウさんも、ギッサさんも、その光景を黙って見ているしか出来なかった。
ドレッドは無表情でリンスさんと睨み合っている。数秒の沈黙が続く。

―午後2時20分―

先に口を開いたのはリンスさんだった。

「ビジョンボード、起動させて見ろ。プヨン教授の偉大さがよく分かるだろうよ。」

ドレッドは手に持つビジョンボードを見る。それからゆっくりと起動スイッチを押した。

―ザザッ!

雑音が一瞬響き、ビジョンボードは光を帯び始めた。

―午後2時21分―

「…ふぅん…。」

ビジョンボードからは広い草原と青い海の風景、そして、白いワンピースを着た幼い少女が白い犬とはしゃぎながら走り回っている映像が映し出された。少女の笑顔、日光が海や草原に反射される部分まできれいに映像化されている。更に、少女の笑い声、犬の鳴き声、風音と海の波音がまるでその場に少女や犬、そして美しい風景がここに存在すると思えるくらいきれいな音声が再生されていた。

「どうだ!これがプヨン教授の実力だ!従来のテレビなんかより100倍!いや!1000倍は精巧に出来ている!」

リンスさんは怒りなんて忘れてしまっている。プヨン教授に対しての尊敬の笑顔だ。

「撤回しろ。プヨン教授は俺達人間に発明の素晴らしさだけじゃない、笑顔を与えてくれる偉大な教授なんだ。お前らみたいな奴らに“スライムの出来損ない”なんて言う資格なんて、無い。」

凄い…、今までリンスさんは不機嫌そうに愚痴を吐いたり、暴力的行為をしていたのに、今のリンスはまるで別人だ。
精悍な顔つきとした彼はたった1人の教授を尊敬する1人の科学者だ。

「…確かに凄い発明だ…だがぁ!」

ドレッドが冷酷な笑みを浮かべた。
そして、手に持つビジョンボードを両手で叩き割った!

―午後2時23分―

「…アアァ…。」

リンスさんは驚愕な表情を浮かべた。映像は当然のごとく消え去った。
ドレッドの足元にはビジョンボードの破片が散乱している。
何て奴だ。

「ゴショガワラ、面倒だから…やれ。」
「1個残らず、ですね?」

ゴショガワラは黒服からテニスボールみたいな物を出した。そして、それを発明の詰まったダンボールに投げ込んだ。

「や、やめろ、やめてくれ!!!!」

リンスが叫ぶ。

―ドゴォォォォォォォン!!

凄い爆音と共に発明が全て消し飛んだ。

「あぁ。」

リンスはその場にへたりこむ。ギッサさんは絶望的な表情で立ちすくんだ。
プヨン教授とドクター・シュノさんは呆然としている。状況が飲み込めないらしい。
キッソウは泣きながら僕に抱きついて来た。

「こ、ここ、こんな事…なんて事をぉ―――!」

僕は無意識の内に怒り狂っていた。
ドレッドは冷たい笑みを浮かべ、「だが、しょせんは、人間でも無い生き物が作る発明はゴミだ、たとえ、完璧だと言い張ってもな。」とへたりこんだリンスさんに言う。
ドレッドの背後では業火が容赦無く、今まで僕達が苦労して作り続けた発明品達を全て焼き尽くす。

「そのスライムのクズの発明を喜ぶ奴は救いようのない、バカ人間だ。」

ドレッドは背後の業火のように容赦無く罵声を響かせる。

「そう言えば、さっきのガキもバカっぽい顔してたよなぁ。」

ドレッドはロクロ達に言った。

「…そういやそうだな。」
「同感。」

ずっと無口だったロトとロクロは発明の破片を拾っては踏み潰していた。

「分かったか、てめえら?そのスライムのクズの発明を認めてくれてんのは、バカで、幼稚で、無能で、恥知らずな奴らばっかりなんだよ!ウハハハハァ!!」

ドレッドはリンスさんに笑いながら近づく。そしてリンスさんの髪を片手でつかみ、無理やり自分の顔まで引き上げ、

「もちろん、そんなクズを教授だと言ってやがるてめえらも大したクズだよ。」

とついで程度に僕らに言う。
ドレッドはリンスさんの顔を見て、

「特にリンス、お前は才能もねえ三流クズの分際で俺にたてついてんじゃ…ねえっ!!」

と力強く殴りつけた。

「ガ…ハアッ…。」

リンスさんがうめく。

「まだまだ、こんなで終わると思うな、てめえには処罰機関の力ってのを思い知らせなきゃなあ!!」

ドレッドはリンスさんをこれでもかと殴り続ける。

「おらぁ!国家を侮辱した罪は重いぞコラァ!」

―ドゴッ!バキッ!

「オレっち…もう我慢ならねえ…。」

ギッサが怒り剥き出しでドレッドに殴りかかろうとしたその時、

「や、やめろぉ…。」

…!!プヨン教授!?

「あ?何だスライムのクズ。」

ドレッドの手が止まる。

「ボ、ボボ、ボクの助手が…そんな悲しい顔になってるとこなんて見たくないんでぷ!どうすれば帰ってくれるんでぷか!!」

プヨン教授は勇気を振り絞り叫んだ。ドレッドはプヨンの顔を睨んでいた。しかし冷たい笑顔を作り、

「帰ってくれるか…か…そうだな…あ…そうだ!…プヨン…お前、リンスを殴れよ!」

とんでもない要求をくりだして来た。

「ええっ!?」

プヨン教授は驚愕の表情を浮かべる。
ドレッドは鉄パイプを拾い上げ、「一発、しかもこの鉄パイプで思いっきりだ。」と、プヨン教授に手渡す。

「む、無理でぷ…」
「無理でもやれ。そうすれば俺達も引き上げてやってもいいぜ。」

くそぉ!最悪の事態だ…。

「自分の最愛の助手をぶん殴る、素晴らしい光景じゃないか!!ほらぁ!早くしろよスライム野郎がぁ!」

ドレッドが冷たい笑顔でプヨン教授を睨んだ、その時だった。

「クリボッタさん!ラインレールから何か来るれす!!」

キッソウさんが僕の裾を引っ張る。
僕を含め、ギッサ、ドクター・シュノ、処罰機関一行も一斉にラインレールを見た。
…本当だ…何か来る!!
ラインレールの約5キロ先から何か黒い点が猛スピードで迫って来る。何だアレは!?




「うあああああああああああああああ!!」



―10分前 午後2時13分―

「レッキ!行くぞ!」

行くぞじゃない。
やっぱりそうか、師匠は“ラインボールのレール”を渡るつもりらしい。
冗談じゃない。

「師匠、彼らを待ちましょう。こんな所でまで厄介事に巻き込まれるのは御免です。」

僕は呆れた顔で師匠に言った。

「何言ってる!あいつらが俺達を置いて行ったのには理由があるんだよ!」

なんだよ。

「あいつら新製品を作るつもりなんだよ!」

なんじゃそりゃ。

「でも俺達に知られたらきっと横取りされると思って処罰機関とかなんとか嘘をついて…たとえレッキは騙せても!この神技マスター、シーク・レットは騙されねえぞ!!」

100%ありえん。なんて幼稚な推理。

「せっかくだから研究室でも覗いて見ましょうよ。」
「ヤダ!」

師匠は駄々をこねる。

「俺は行くぞ!俺は行くぞ!俺は行くぞ!俺は行くぞ!俺は行くぞ!俺は行くぞ!俺は行くぞ!俺は行くぞ!俺は行くぞ!俺は行くぞ!俺は行くぞ!俺は行くぞ!」

さすがに我慢の限界だ。

「だぁーうるさい!!僕も行けばいいんでしょ!?もう!!」

―午後2時14分―

僕は師匠と円形レールを走っている。しかし、なんなんだこのレール。ただでさえ円形で走りにくいのに、凄い距離だ。約10キロはあるだろう。
数時間はタイムロスの覚悟を決めた方がいいかもしれない。

「うひゃあ!レッキ、見てみろ!まだあんなにあるぜ!」

師匠は走りながら僕に話しかけてきた。

「……。」
「あぁ?まだ怒ってんのか!?ハハハ!まだまだ子供だなあ。」

あんたが言うな。

「師匠、もう戻りましょう。こんなに長い距離があるんだから、着いた頃にはもう製作も終わってしまっていますよ。」

まあ客人をほっといて製作なんて絶対ありえないが。

「レッキ、2,3年前に教えてやったよな、『何事もあきらめてはいけない、最後までやり遂げろ。』って。」

ここで使う言葉か。

―午後2時16分―

僕と師匠は全力で走ってしまったので休憩をしている。
これだけ走ってもまだあんなにある。さすがにつらい。

「レッキ、これ飲む?」

師匠はシルクハットからいつぞやのスピードヒールを出してきた。
あらやだ、〇〇えもんもビックリ。

「へへ、クリボッタが持ってたのをちょいと拝借したのさ。」

いつのまに。

「疲れもふっ飛ぶと思うぜ。さあ、飲んでみろ。うりゃ!」

モゴオ!
師匠は強制的にスピードヒールの黄粒を僕の口に突っ込んだ。

「…。」

またまた身体全体がほんのり温かくなる。同時に心身の疲労がきれいサッパリ無くなった。
師匠は飛び上がって叫んだ。

「スゲ―!本当に元気になった!俺も飲んでみよ。」

!?今『俺も飲んでみよ。』って言ったよな!?こ、この人は僕に“毒見”をさせたのか…。

―午後2時17分―

早速、効果が表れた。

「おほ?…おほほぉー!!…ウヒャハハハハハァ!!!!」

見よ、これが変人のリアクションだ。

「スゲェ!スゲスゲスゲスッゲエエ!!マジで元気満タンになったあぁぁ!!」

バカみたいに騒ぎ回る師匠は無視し、僕は腕を軽く振り回してみた。
重さをほとんど感じず、神技も連発出来るかもしれない。

「ウオ―ッ!一気に飛ばすぞぉー!!」
「はい。」

師匠と僕は再び走り出した。

―午後2時22分―

どんなに走ってもスタミナは有り余る。通常の2倍のスピードが出る。

「さあ、あと1,2時間で着くぜ!」

師匠はようやく平静を保ち直し、僕に話しかける。

「これはかなり調子いいですね、でも、この辺りで何か起こりそうな予感がします。例えば、いきなり爆音が響くとか」

―バゴォォォォォン!!

!?
いきなり爆音が響く。予感が当たった・・・。

「何だ?どうした?」

師匠も僕も足に急ブレーキをかける。どうやら爆音は前方から響いたようだ。

「なんだぁ?…。」

師匠は向こうを見る。

「おぉ?向こうは明るいぞ!!あ!さてはあいつら、製作終わって飲み会を始めやがったなあ!?」

多分違う。

「お・の・れぇぇ!!レッキ!もう走っては間に合わないぞ!飛べぇ!!」

師匠はそう言うなり僕の腰を掴み持ち上げた。

「わわわ!!師匠!何をするつもりですか!?」

僕がそう言い終えないうちに師匠は僕を力いっぱいぶん投げた。

「レェェッッッッキ・ミサァイルゥゥゥゥゥゥ!!!!!!」
「うああああああああああああああ!!」


第6章に続く。

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