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第10章:ドクター・ホウプラブの手記

2954年 2月23日:人造人間№1 開発途中、臓器の不具合が発覚したため失敗

2956年 4月14日:人造人間№2完成 名を“ワンダー”と名づけた。しかし、それから数時間後、身体機能が極端に低下した。ワンダーは培養液から出る事も無く私に永遠の別れを告げた。

2958年 5月24日:人造人間№3完成 名は、№2ワンダーのなごりから“リワンダー”と名づけた。リワンダーはガラス越しから笑顔を見せたり、私の顔を理解したりと、研究は大成功まで近づいた。しかし、6日後に栄養供給装置が故障し、栄養失調により、リワンダーは永遠の眠りについた。

2963年 7月2日:人造人間№4 助手のミスにより失敗

2964年 6月3日:人造人間大量開発装置を発明 科学者仲間の1人でもあるプヨン教授も大絶賛していた。


『この時からいたのか…何歳なんだあいつ…。』


2965年 5月4日:1年前発明した人造人間大量開発装置を使って、人造人間№5~10を開発した。また死ぬかもしれないから、名前は付けない。これらの人造人間は既に言語を理解し、私の質問に頷くか首を横に振るかで応対していた。

2965年 7月23日:人造人間№7・8・10が身体機能の低下により永遠の眠りについた。残った№6・9も身体機能がかなり弱っている、死ぬのも時間の問題だろう。

2965年 9月5日:人造人間№6・9も息を引き取った。結局大量開発も失敗に終わった。

2966年 10月28日:再び大量開発を試みる。今度は№11~21と、10体の人造人間を作り出した。彼らは言語を発し、私と簡単な会話をする事が出来た。

2968年 2月12日:今まで何の変哲も無かった人造人間達から突然生命反応がなくなった。原因は不明だった。人造人間は私には作り出せないのだろうか。

2969年 3月18日:今年から新しく、“ドクター・ゲドー”が就任した。彼は私の人造人間理論にとても感銘していて、再び計画を起こそうと言って来た。まだ私の理論を認めてくれる人がいたと言う嬉しさに、私は人造人間開発計画を再び始める事にした。


『!…ドクター・ゲドーはこの頃からこの施設に就任していたのか。』


2969年 11月23日:人造人間№22~30完成 ドクター・ゲドーは人造人間の顔を1体ずつじっと見つめていた。どうかしたのかと、ゲドーに聞くと彼は人造人間開発が何故いつも失敗するのか知りたいと返して来た。人造人間の顔色や血液の循環とか、彼は細かく観察力している。そして彼は№23と30以外の全ての人造人間が臓器や身体機能が不順だと導き出した。彼はとても素晴らしい助手だ。

2969年 11月25日:人造人間№24・25・26・27・28・29を強制駆除、彼らは何も知らずに眠っていた。ゲドーはこれ以上ムダな栄養を循環させる訳にはいかないと、駆除スイッチを押した。人造人間達が叫び声を上げた、すまない、許してくれ、これも、研究のためなんだ。私は心をとても痛めた。駆除するくらいなら、何故彼らを作り出してしまったんだ。
4月28日:人造人間№23・30はそれぞれ“ツミ”と“ミレー”と名づけた。№の語呂合わせだ。私は2人を開発装置から出そうと研究を積み重ねた。

2970年 5月25日:2人はすくすくと育ち、すでに成人の体型まで成長していた。人造人間は成長が早いらしい。私はゲドーに発案した。彼らを開発装置から出そうと、ゲドーは私の計画に喜んで応じた。

2970年 5月29日:準備も整い、早速2人を開発装置から出す作業を開始した。ツミとミレーは不安そうにガラス越しから私を覗いている。準備も整い、いよいよ開発装置のガラス扉が開けられた。ツミとミレーは多少息苦しそうだったが数十分後、呼吸を始めた。計画は大成功に終わった。

2970年 6月6日:私は2人に本格的な教育を受けさせる事にした。私が教えたのは、国立大学レベルの英語、国語、科学、歴史、政治、あとは25カ国の言語学を少々。


『…どっかで聞いた様な…』


2973年 8月17日:私は、2人だけでは可愛そうだと思い、新しい家族となる人造人間を開発しようと決めた。

2975年 6月14日:人造人間№31・32完成 2人にはまたまた№の語呂合わせで“ミィ”と“ミツル”と名づけた。


『ミツルはこの時生まれたのか…。』


2978年 5月29日:ツミ、ミレー、ミィ、ミツルと4人の人造人間を作り出せるとは夢にも思わなかった。ある日、ゲドーが4人を世間に出そうと言って来た。“彼らをもっと大量に生産すれば、その辺のネズミやモルモットでは無く、人間を使った実験をする事が出来る、そうすれば我らは大きな利益を手にする事が出来ると、ゲドーの真の目的がようやく理解できた。私は彼の言葉に耳も貸さなかった。ゲドーはとても憤慨していたが、それでも私が断ると、呆れたようにこの施設を出て行った。

2980年 6月10日:私も今年で75歳だ。もう思い残す事が無いよう、最後の人造人間を作り出す事にした。

2985年 8月19日:長い年月をかけ、人造人間№33完成 名はミサ、ミサは人形の様な可愛らしい顔付きをしていた。4人の人造人間達もミサの事を可愛がってくれた。


『ミサも誕生したか…ん?…変だぞ?…さっきはミサとミツルの2人だけだったな…他の3人はどうしたんだ?』


2985年 9月16日:ミサは他の人造人間と違って、普通の人間の様に長い時間をかけ、成長して行くタイプだった。まだ赤ん坊のミサを見て、私はこの子の事を本当の娘だと思い始めた。

2986年 9月9日:ミサが言語を発した。通常の人間の子供でも1歳半くらいで言語を発したらごく普通なだけだと思うかもしれない。でも、私の娘が言語を喋っただけで胸がいっぱいなんだ。

2988年 10月11日:ミサに驚愕の特殊能力がある事が判明した。ミサの腕、脚、首、胴がゴムの様に伸び縮みするのだ。ミサは自分の力に気付き、怯えていた。どうしてだ?他の人造人間達には特殊能力など備わっていなかったのに。

2989年 3月15日:ミサは自分の特殊能力と言う不安を残し、すくすくと育った。ミサは私の事を“お父さん”と呼んでくれる。私はお父さんと呼べる歳じゃあないのに。

2990年 4月23日:ミサはおてんばで周りの科学者達を困らせていた。今もこの手記を書く私の後ろで走り回っている、本当に、元気な女の子に育ってくれて私も嬉しい。

2990年 6月17日:ミサは覚えが早い。私の教えた事も全て覚えてしまう。

2991年 2月9日:ミサもやっぱり女の子だ、テレビのアイドルを見て会ってみたいと頬を赤くしていた。

2996年 8月10日:今月19日、ミサはもうすぐ6才になる。私はミサに何が欲しいのか聞いて見た。すると、ミサはたった一言“外に出たい”と頼んで来た。外にミサを出していいのだろうか。

2996年 8月15日:私は決めた、ミサを外の世界に出してあげよう!人造人間がなんだ?私の娘が出てみたいと言ってるんだ。

2996年 8月17日:ミサに外に出してあげようと言ったらミサは大喜びだった。ミサが喜んでくれると私も嬉しい。

2997年 8月18日:私は地下で見た!巨大なホルマリンにたくさんのコンピューター、そして、いつの間にかなくなっていたミサの設計図。ミサに特殊能力を備え付けたのは“ゲドー”だった。ゲドーはあの時この施設を出て行ったかに見えた。だが、彼は倉庫に隠れ住み、私がいなかった時を見計らって、ミサがホルマリンに入っていた時に特殊能力を備え付ける溶液を吸収させたのだ。この施設は入り組んでいるから無理も無いかもしれない、私はゲドーが地下で何かを作っていたのを見た、あれはまさしく、“人造人間開発装置”だった。


『人造人間開発装置!?ゲドーは新しい人造人間を作り出すつもりだったのか?』


2997年 9月19日:ミサを外に出してあげた。ミサは初めての地上ではしゃぎ回っていた。だが、私には問題が増えただけだった。ゲドー、彼が何をしようとしているのか、それを考えるので精一杯だった。

2997年 9月20日:私はゲドーの元へ向かった。ゲドーは私の存在に気付くと、血走った目で睨みつけて来た。彼は明らかに発狂していた。君は何を作り出すつもりなんだ?そう聞くと、彼は恐ろしい事を言い出した。

究極の人造人間

それを作り出そうとしているらしいのだ。蒼の騎士団から依頼され、人間の力を大きく超える人造人間を。ならば、何故ミサに特殊能力を植え付けた、そう言うと彼はクスクスと笑い出した。簡単なことだった。ミサを究極の人造人間にしたかったらしいのだ。ミサの特殊能力は成長することにより、最強の兵器になるらしいのだ。しかしその子を我々が普通の子として育てようとしたのでゲドーは怒ってしまったのだ。ゲドーはいずれ究極の人造人間を作り、後悔させてやろう…そう言って、コンピューターをいじり出した。あの機械を破壊しないと、恐ろしい事が起こるかもしれない!私はその場から逃げ出した。

2997年 9月21日:私は今日、あの装置を破壊する。…自分の身体に爆弾を仕掛け、これから向かう…ミサや4人の人造人間に別れの言葉を何も用意していない…だが、私はやり遂げなくてはならないのだ。



ここで文は終わっていた…。僕は静かに手記を閉じた…。

「?何か書かれているぞ。」

その手記の裏表紙には弱々しい文字でこう書かれていた。


ツミ、ミレー、ミィ、ミツル、そしてミサ…ニトロに気を付けろ


ニトロ?何だそりゃ。
僕はその手記をポケットの中にしまい込み、立ち上がった。
ふと、部屋の隅を見ると、何かが横たわっている…僕は腰のインパクトを握り締め、そこに近づいて行った。
…?…!人骨だ!
そこにはボロボロの白衣を纏った白骨死体が転がっていた。その人骨は腰からしたが無く、腕ももげていた。胸には何かを取り付けてあったのか、鋼鉄のベルトが固く締め付けてあった。

「…ドクター・ホウプラブ?」

明らかにこの手記の内容に当てはまっている。その変わり果てた元教授の手には、ドクター・ホウプラブらしき人物とミツル、ミサ、そして今いるはずの3人の人造人間が笑っている写真が握られていた。

「…どうやら面倒な事に巻き込まれそうだな…。」

ドクター・ホウプラブは行方不明になったんじゃない、何かに殺されたんだ。


第11章へ続く。

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