top of page

第11章:ミツルの願い

―3000年 1月7日 午後12時53分―

僕は写真よりかなりスリムになったドクター・ホウプラブの小指を取り、ポケットに入れた。

「ミサやミツルに遺品として送ってやろう。」

軍服はもう必要無い、上の軍兵達が僕の事を話したかもしれないし、服に名が刻んであるうえ、血に染まってしまっている。とてもじゃないが変装どころではない。
大体、師匠はどうしたんだ?『俺は後から潜入する』とか言って来る気配も無いじゃないか!
そう思いながら階段を登る僕がいる。とりあえずミサとミツルに本当の事を言いに行かなければ。

「やあ、居心地はいいかい?」

突然上から声がした。

「ミツル…」

ミツルがパンを持って階段を降りて来た。

「ほら、こんなモノでも腹ペコになるよりマシだろ?」

ミツルが僕にパンを渡して来た。

「ありがとう。」

彼は教授が死んだって事知らないんだろうなぁ…。

「なんだい?」
「…。」

ハァ――、言いたくねぇ。

「どうした?言いたい事があるなら言えよ。」

しょうがない。

「ちょっと…下まで来てくれないか?」

こうして僕はただ蒼の騎士団を壊滅させに来たのに、すっかり面倒に巻き込まれてしまったのだ。

―午後12時54分―

「なんだい!?この人骨!」

僕はミツルに人骨を見せた。

「あれから1度もここには来てなかったから全然分からなかったよ。」

それもどうかと思うが。

「…で、誰なんだい?この人骨さん。」

ミツルは教授の頭をコツコツと小突く。僕はパンをかじりながら、

「知ってるだろ。君の生みの親、“ドクター・ホウプラブ”さ。」

と答えた。ミツルはしばらく沈黙してから、

「…………は?」

とだけ応えた。当然の反応、でしょうね。

「う、嘘だろぉ?父さんは僕らを見捨ててここから逃げたんだ!」
「違う、教授は君達を守るために命をかけて何かと戦って、殺されたんだ。」
「し、信じない…信じないぞ!父さんが…こ、殺されたなんて…。」
「そんなに言うならこの手記を見ろよ、一部始終が本人直筆だ。」

僕はポケットから手記を取り出し、ミツルに手渡した。
ミツルは恐る恐るその手記を黙読し始めた。
僕はチビチビとパンをかじり、彼が手記を読み終えるのを待った。

―午後13時14分―

「何て事だ!」

ミツルは顔をひきつらせながら何度も何度もページを読み直している。
もうパンも食べてしまった、あぁ、暇だ暇だ。誰かゲームポーイ持ってない?

「何回読み直しても文字は変わらないぞ。」
「分かってる!分かってるよ…。」

ミツルは泣きそうな顔で睨む。

「ああそう…。」

じゃ、もう少し待つか。

「何て事だ…ゲドーさんはこの頃からいたのか?…」

ミツルが驚愕している。

「知らなかったのか?君が生まれた時ゲドーに会わなかったのか?」

僕はそう問い掛けた。

「い、いや…生まれた時から父さんしか見た事無かったし…。」

ミツルは頭を抱える。

「そんな…あの人が…そんな事を…。」

ミツルがあえぐ。

「それ所か新しい人造人間を作っていたらしいぞ。」

ミツルがうめきながら頭をかきむしりだした。おっと、別に追い込む事も無かったか。ミツルは裏表紙の文字を見つけた。

「ニトロ…?何だそれ?」
「それも知らないのか?」
「僕は知らないぞ?」
「他の仲間もか?ミィとか、ミレーとか…。」
「ツミ兄さんとミレー兄さんとミィ姉さんの事?実は兄さん達もいつの間にか消えてしまったんだ。」
「いつ頃だ?」
「ええと…今から3年前の11月頃だな…。」
「…間違いないな…きっと彼らも、教授を殺したそのニトロとか言う奴に殺されたんだ。」
「殺されたぁ!?ななな何でだよ?」
「さあな、ゲドー教授にとって不利になる事でも知られたんじゃないのか?」
「そんなぁ…ツミ兄さんはトイレに行ったきりずっと戻ってこなくて…ゲドーさんが呼吸不全で死んだって言い出して…。」

間違い無く殺されたな。

「ミレー兄さんは書斎に向かってそのまま帰って来なかった…。」

ミツルは頭を抱え、更に続ける。

「ミィ姉さんは…僕がミサと眠ってる間に…いなくなってた…どうして!?どうして僕は長年ずっと殺されなかったんだ?」
「…それも1つの謎だな…今まで消えてった君の仲間には何か共通点があるか?」

ミツルは青ざめた表情で僕を見る。

「…トイレも書斎も寝室も…全て地下にある…。」

僕は指をパチンと鳴らした…似合わないな。

「それだ、ゲドーの隠れていた倉庫も地下にあった、多分君の兄さん達はそこにあったモノを発見してしまったから口封じに殺されたんだ。そして君は偶然それを発見しなかった…地下に怪しい倉庫とか無いか?」
「そんな倉庫は無い!地下の倉庫には数個の倉庫は確かにあるが、手記に書かれてる様な人造人間開発装置がある倉庫はどこにも無かった!」

ミツルが手記を持つ手を震わせる。チッ!ゲドーはニトロをどこかに隠してるようだな。

「…!ミサ…ミサが心配だ!す、すぐに戻らなきゃ!」

ミツルが這う様に階段を駆け登って行った。

―午後13時18分―

「ちょ、ちょっと待て!僕も連れてってくれ!」

僕は慌ててミツルを呼び止めた。ミツルは迷惑そうに振り向くと、

「何でだ?君は軍兵に存在が知られてるんだ、連れてける訳無いだろ?」

と言った。そりゃそうだが。

「ゲドーのいる部屋を知っているか?彼に蒼の騎士団との関係を聞き出したいんだ。」
「蒼の騎士団?ああ!この手記にゲドーと契約したと書かれていたな。」
「僕はあいつらを壊滅させなければならないんだ、そのためにもゲドーと話がしたいんだ。」
「うーん…でも」


ドバシャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!


わあああ!何だ何だ何だぁ!?この部屋の真横から凄い勢いで海水が飛び出て来た!
僕とミツルは突然の事に驚き、必死になって階段の手すりにしがみ付く。
海水に混じって魚やら海草やら師匠やら…え?師匠?…あ!師匠!!
どうしてこんな面倒な時にどうしてこんな面倒な登場の仕方をぉ!

―午後13時21分―

海水は部屋にたまり込み、貯水池の様になってしまった。師匠はびしょ濡れのまま笑い出した。

「ハーハハハハ!いやぁビックリしたぁ!おう!レッキ!待たせて悪かったなあ!でもよ―聞いてくれよぉ!実はあの後どうすればいいか考えるのを忘れててな!仕方ねえから海中に潜って入れる所があるか調べたわけだ!でも海中にも何も無いんだよなあ、これが!!んでよ!息苦しくなって来たもんで上に戻ろうとしたら軍兵達がいっぱいいてよぉ!俺がドラム缶の中に入れた…ほらあの最初に見つけた奴!あいつを探しに来ててよぉ!戦うの面倒だろ?だもんで海中でどうすればいいか考えたのよ!そしたらなんかもろそうな壁があったから思い切って殴って見たらあらビックリ!壁が壊れて中に巻き込まれてここまで来たわけ!どうだ!おもしろい話だろぉ!?スッゲェよなあ!!あんなに凄い勢いで流れ出るなんて思いもしなかったぜぇ!ハハハハァ!!…ん?誰だぁそいつ…ああ!ここの科学者だろ?ウッヒャアア――――!若いなぁ―――!何を作ってんだァ!?なあ教えてくれよ!俺、それも楽しみにして来たんだからよぉ!!あ!そう言えばさあ!!」

うるさい!

―午後13時24分―

ミツルは次から次へと衝撃的な出来事が起こっているためパニックにおちいってしまっている。

「ああああ…なぁたぁたたったはだっるぇりぇれれれれ!?(あなたは誰?)」

人造人間は衝撃的出来事に慣れてないみたいだな…。

「落ち着けミツル、この人は…残念ながら味方だ。」
「ハー!ハッハッハァ!俺の名はシーク・レットだぁ!よろしくぅ!」

ミツルは少し落ち着いたのか、

「どど、どうも…」

と会釈した。

「…僕の師匠だ。」
「…ハァ?き、君には彼のキャラは合わないだろ…」

ですよね。

「そ、そうだ!ミサ!…早く行かなきゃ!」

ミツルはよろけながら部屋を出て行ってしまった。

「レッキ!何が起こったんだ?こんなに水びだしになって!」

それはあんたがやった事だろ。

「実は…。」

僕はこれまで起きた出来事を全て話した。

―午後13時43分―

「人造人間!?スゲ―!!」
「それで今いた彼も人造人間です。」
「あいつも!?スゲ―!!」

興奮する師匠はさておき、僕もゲドーの所に行かなければならない。

「師匠行きましょう!蒼の騎士団の有力な手がかりです!」
「おうし!」

とは言え、ミツルは、はるかかなた遠くまで走り去っていた。

「追いつけるか?」
「さあ、どうでしょう…。」

―午後13時45分―

階段を駆け登り、僕は部屋の外へ出た。部屋の入口には軍兵が1人水音を聞きつけたのか駆け寄っていた。

「うああ!で、出たぁ!」

軍兵が叫び声を上げた。

「邪魔だ、寝てろ。」

軍兵が銃を構える寸前、僕はインパクトのグリップで軍兵の頭をぶん殴った。彼が気絶したのは言うまでも無い。

「おぉ!やるなあレッキ!」
「朝飯前です。」

ミツルの向かった部屋はここを左だったな…。

―午後13時49分―

「やあ、君達、遅かったな。」

ミツルは大量の荷物をバッグに詰め込み、ミサに持たせていた。

「…何をしてるんだ?」
「決まってるだろ!?ここから脱出するんだ!」
「でも…。」
「ミツル兄さん、重いですの…。」

ミサが苦しそうにうなる。彼女は状況を理解してないらしい。

「お兄さん、どこかに行くの?…あ!外に出るの!?うわあ!早く早くぅ!」

ミサは重い荷物を背負ったまま飛び跳ねた。

「ん?あの子がミサか?ほぉ、可愛い女の子じゃあないか。」

師匠がミサを見つけた。ミサは飛び跳ねるのを止め、少し嬉しそうに顔を赤らめる。

「この人誰?」
「彼はシーク・レット…僕も詳しくは分からないけど、レッキの師匠らしい…。」
「うわあ!面白い帽子のかぶり方!」
「おお?シルクハットを見るのは初めてか?」

彼女はかぶり方を見たんですよ師匠。

「もう!そんなにほのぼのとしてる場合か?ひょっとしたら僕所かミサが殺されるかもしれないんだぞ!?」

ミツルが怒りながらミサに荷物を持たせる。

「君はどうするんだ?」

僕はそう問い掛けた。

「僕は…出れない…。」
「え?」

ミツルはミサを見て、そして、僕と師匠に近寄ってきた。

「どうした?」
「ちょっと話がある…こっちに来てくれ。」

―午後13時52分―

軍兵は部屋の外で走り回っている。恐らく、元ホウプラブ教授専用開発室の海水でパニックになったんだろう。しばらくはこの部屋に入って来る事は無いだろう。
僕と師匠は部屋の奥の寝室に連れていかれた。

「話って…何だ?」

師匠が口火を切る。ミツルは僕と師匠の顔を交互に見つめ、

「…ミサを連れ出してほしい。」

と言い出した。

「ハァ!?何言ってるんだ!?君も一緒に脱出しないのか?」

師匠の言葉と共に耳を疑った。

「僕には無理さ…。」
「…何考えてるんだ!君は唯一生存しているミサの家族なんだぞ!?君はここに残るなんて、ミサがかわいそうじゃないか!」

僕は怒鳴った。

「君は人造人間の事を何も分かってない!!」

ミツルは下を向いたまま叫んだ。

「ミサ以外の人造人間には誕生すると同時にある副作用があるんだ…。」

ミツルは下を向いたまま語る。

「外に出たら間違い無く僕は皮膚病で死ぬ。これは、人造人間に必ず付く副作用なんだ。」
「皮膚病!?そんな――」
「僕は外に出た瞬間皮膚病で死んでしまう。ミサには…僕が死ぬ所なんて見せたくないんだ…。」
「ミツル…。」

しばらく沈黙が続く…。

「あ、あのぉ。」

師匠がこの重い空気の中、口をはさんで来た。

「なぁレッキ…ミサが―」

うるさいな。

「何ですか!?今あなたと話している場合じゃあ―」
「ミサ…。」

ミツルが引きつった顔で寝室の戸を見る。開いた戸の外で青ざめた顔のミサがいた…ミサは両手に持った荷物をドサリと落とす。

「き、聞いてたのか!?」

ミツルの問いに応じるように、ミサは青ざめたままミツルの元に駆け寄る。

「ミツル兄さん…嘘でしょ?皮膚病なんて…い、一緒に外へ出れないの?…ねえ!なんとか言ってよ!!わたしミツル兄さんと一緒に外に出たいです!ミツル兄さんが一緒じゃなきゃイヤ!」
「ミサ…僕はこの施設から出れないんだ…実はこの施設には恐ろしい怪物がいるかもしれないんだ…ミサには怪物に殺されてほしくないし…それに、ミサにはもっと外の世界の事を知ってほしいんだ。ミサは外の世界を冒険したいんだろ?この人達と一緒に出てほしいんだよ…。」
「ミツル兄さんはその怪物に殺されてもいいの?身体を隠せば外に出ても皮膚病で死ななくてもいいです!」
「…ミサ…僕はこの施設に残らなきゃならないんだ…父さんを…僕の兄さん達を殺した奴を始末しなきゃならないんだ…。」

ミツルはポケットからダイナマイトを取り出す。

「…!!ミツル…。」

何てバカな奴だ。

「ダイナマイト…本気か?ミツル…。」

師匠が真面目な声で問い掛ける。

「僕は決心したんだ!父さんの様に刺し違えてでも怪物を倒すんだ。」
「何言ってるんですか!そんなの…バカみたいですの!」
「ミサ、僕はこの施設で生まれ、この施設で死ぬと決めてたんだ…だから僕は出れないんだよ…。」

ミツルは僕と師匠の顔を見てから、

「2人共…ミサを頼む…僕はこの子を幸せにしてやりたいんだ。」

と言って来た。師匠は腕を組んだまま何も言わない。僕は身体が震えた。

「ふざけるな!!」

僕はそう叫ぶとミツルの肩を揺さぶった。

「お前がどんなに残酷な事を言ってるのか分かってるのか!?自分の家族と無理に別れようとしてるんだぞ!?お前はミサが外の世界を知る事が真の幸せだと思ってるんだろうが、ミサはこの施設でお前と一緒に暮らしている事だけで十分幸せなんだぞ!?僕は家族の大切さを人一倍理解しているつもりだ!皮膚病がなんだ?自分の家族のために精一杯生きてやれよ!!」

僕はいつもの僕らしくない言葉を発してしまった…。僕は子供の頃家族を失った事がある…ミサの気持ちがなによりも分かるんだ…。
師匠が取り乱した僕の肩に手を置いた。

「レッキ…ミツルは自分でどうするか考えたんだ…否定する事はねえ。」
「…ッ!しかし!!」
「ミツルの決心を踏みにじっちゃあいけねえ、最後まで見届けてやるのが本当の家族って奴だろ?」

僕は何も言えなかった。

「ミサ、辛いかも知れないがミツルの言う事を聞いてあげな。」
「イヤ!絶対にイヤァ!」

ミサは頭を抱え、泣き叫ぶ。ミツルは悲しそうな顔でミサを抱きしめた。

「ゴメン…ゴメンなミサ…。」

ミツルがミサをきつく抱きしめる。僕は奥歯を強く噛みしめた。師匠も辛そうにシルクハットのつばを整える。

「ミツル兄さんはわたしの事が嫌いなの?」

ミサはただただそうつぶやき続けた。ミツルは何も言わない。この無機質な空間の中、ミサの声だけが響いていた。

―午後14時5分―

「さあ、行こうか。」

ミツルがダイナマイトを付けたベルトを腰に巻きつけ、僕と師匠とミサに外に出るよう促す。

「ミサ、さよならだ。」

ミツルはミサに別れを告げる。

「ミツル兄さん…。」

ミサは目に涙を浮かべている。ミツルは僕の方に顔を向け、

「…僕の妹だ、何が何でも守ってくれよ。」

と頼んで来た。

「分かった…約束しよう。」

僕はそれだけしか言えなかった。

「さっき、シークさんが出て来た所、父さんの開発室…あそこから出れるだろ?ミサは海水に強いから多分水中でも移動出来るさ…さ、早くここから逃げて。」

ミツルは戸を開け、外に軍兵がいないか確認した。

「僕はこのままゲドーの所まで行く、ニトロを破壊するんだ。」

ミツルは拳を握り締め、先に部屋を出て行こうとした、その時、

「ミツル君、何をしてるのかね?」

中年の男性の声が響く。

「ゲドー…さん。」

ゲドー!?
僕と師匠は戸の影から様子を見た。そこには7人の軍兵と2人の科学者を引き連れた中年男が立ちはだかっていた。
あいつがゲドー…ゲドーは白髪混じりのスポーツ刈りで、暗い人相をしていた。くぼんだ目が小さいレンズの中から薄暗く光る。

「どうしたんだい?その格好…ダイナマイトなんて付けて!危険じゃないか!…この施設に危険な犯罪者が入り込んだからそんな物騒な格好で外を歩き回るのはよしなさい!」
「ゲドーさん…僕はあなたに用があるんですよ。」

ミツルは静かにゲドーに近づく。

「なな、何!?」

ゲドーはたじろぐ。

「ニトロって何ですか?」

ミツルがそう問う。ゲドーの顔色が変わった。蒼白な顔になったゲドーは数秒後、

「…ハ、ハハハハ…ニトロ?何それ?僕は知らないなあ。」
「しらばっくれないで下さい。この手記、これにあなたの真の姿が記されている。」

ミツルは手記をゲドーに見せた。

「そ、それはホウプラブの…!」
「やっぱり知ってるんですね?数年前、僕の家族を殺したのはあなたなんですね!?」
「ちちち違うよぉ!!僕はニトロなんて知らないよぉ!皆、行方不明になっただけなんだってぇ!!」

ゲドーは否定する。

「じゃあ、僕に研究室を見せて下さい。そこにニトロがいるはずですから…今まで僕を研究室に入れた事無かったから…。」
「う…うう…。」

ゲドーは蒼白のまま黙っていたが、しばらくすると…ふっきれた様に大声で笑い出した。

「ケケケケ…いやあ、こんな“どうしようも無い出来損ない”にバレちゃったよぉ。」

ゲドーが頭を片手で押さえ笑う。

「何故だ!何で僕の家族を殺したぁ!!」

ミツルは怒り叫ぶ。

「…ウザかったから。…ただそれだけ。」
「う…ウザ…?」

ミツルはゲドーの突拍子も無い応答に言葉を失う。

「ケケッそうさウザかっただけぇ!あいつら人造人間の分際で幸せに暮らしやがった!!お前も!あのクソガキも!お前ら人造人間はお前らを作ってやった人間の奴隷になるしか無いんだよ!それがなんだぁ?普通の家族の様に幸せにしやがって!キモいんだよ!ウザいんだよ!生きる価値なんてねえんだよ!だから僕の息子に殺させたぁ!」

ゲドーは口調がかなり変わった。

「息子?…ニトロの事か…。」
「気安く呼ぶな!僕は今日ニトロを蒼の騎士団に渡すんだ!それで金が手に入るんだぜぇ!?ケケケェ!!」

ゲドーは薄気味悪い笑い声を轟かせる。僕はここである異変に気付いた。

「…ミサ?あの子はどこだ?」

ミサがいない…。僕は慌てて辺りを見回す。

「ミサ!」

ミツルが叫ぶ。ミツルの方を見るとミサはそこに確かにいた。ミサはゲドーの目の前に飛び出ていた。
師匠と僕は呆れ混じりの深いため息をついた。

「ゲドー!あなたがわたしのお父さんを!お兄さん達を!」

ミサは怒りに満ち溢れている。もうどうなっても知らないぞ!

「ミサァ!僕の可愛い可愛い戦闘兵器のクズ。」

ゲドーは薄気味悪い笑みを浮かべる。

「許さない!あなたのせいでミツル兄さんも…!」

ゲドーはミサの言葉もろくに聞こうともせず、後ろを向く。

「ニトロ、ちょっと来て。」

そして再びミサとミツルの方に向き直り、

「僕の計画、知りすぎたね、ねえ?僕の計画を邪魔されちゃあ困るからねえ、ここで死んでもらうよ。」

ミツルはミサの前に立った。

「ミサに手を出すなぁ!」

ミツルが叫んだその時、

「なあに?パパ―!!」

しわがれた声が響き、廊下の向こう側から何かが飛んで来た。それは紫の鎧に覆われた何かだった。

「…!!あれは!」


飛んで来た何かは言われるまでも無く人間とはかけ離れていた。


第12章へ続く。

bottom of page