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第12章:究極の人造人間

―3000年 1月7日 午後14時7分―

「パパァ―――!」

飛んで来たそれは人間とはかなりかけ離れていた。
全身を紫色の鎧が覆っていてわずかに見える顔は不気味に光っている。体型は鎧のせいであまり確認出来ないが、遠くから見ると原色に輝く弥生土器の様な形に見えた。驚いたのが左右に浮かぶ腕だ。空中に浮かぶ腕からは金色のツメが覗いている。
なんて派手な奴だ。

「ん?何だこいつら。」

鎧の怪物はミツルとミサをまじまじと見る。ミツルはミサを後ろに隠した。
まさかこいつがニトロなんて事は無いでしょうね。

「ニトロォ!待ってたぞぉ―!!」

ゲドーが叫んだ。嘘でしょ。

「何だありゃあ?あれがニトロか?」

師匠がニトロらしき怪物の突然の登場に驚いている。

「間違い無いでしょうね。ゲドーの事を“パパ”と呼んでいますから、あの怪物はゲドーに作り出された人造人間でしょう…。」

それにしても、

「ウッホホ―イ!またゴチソウかよぉ!ワーイワーイ!」

なんてバカみたいな奴なんだ。師匠みたい。

「こ、こんなのに僕の父さんと兄さん達が…。」

ミツルが肩を落とす。

「あんだぁ?バカみたいに騒ぎやがって、俺よりバカなんじゃねえのか?」

師匠が呆れている。いい勝負でしょうが。

「どうしましょう、ミサを連れ出したいんですが、今我々が出たらますます面倒な事になります。」

おまけに変人生物にからまれてしまう。

「何言ってる…もう十分面倒だ!行くぞレッキ!!」

師匠がそう叫ぶと同時に、ニトロがミツルに襲いかかる。

「クソッ!やむをえないな!!」

僕は師匠の後を追って、襲いかかるニトロの横腹を蹴り飛ばした。

―午後14時9分―

―ガッキィ―――――ン!!

ペケポン!
鈍い金属音が辺りに響く。

「…ッ!」

痛い!なんて硬い装甲なんだ!脚折れてないだろうな…。

「何だァ!?」

ニトロが僕の方を向く。ゲドーは僕と師匠を見て飛び上がった。

「ししし、侵入者だぁ――――!!お前達!早くこいつらを殺せ!!」

ゲドーがそう命令すると、7人の軍兵がどっと襲いかかって来た。
やっぱり面倒な事態になったか。

「ハッ!来るなら来やがれ!俺達の敵じゃあねえよ!」

師匠が神技の構えを取る。
僕もサポートしなくては!
僕も神技の構えを取った。軍兵達が銃を構えたその時、

―ババババババババババババババババババババババババババ

急に真横で何かが飛んだ様な音が響いた。同時に何かが猛スピードで通過していった。

―ビチャビチャ

?…今度は前方からおもしろい音がした。見ると、軍兵達の動きがピタリと止まっている。身体から噴水の様に血を噴出しながら。数秒後、その軍兵達は食べやすいサイズになり、床や壁に新しい匂いと模様を装飾した。
軍兵達をぶっ殺したのはニトロだった。

「邪魔な人達だなぁ…思わず殺しちゃったぜ。」

ニトロの空中に浮かぶ腕からは銃口の様なモノが突き出ている。
…“アレ”で殺ったのか…。

「パパァ!こいつらに任せなくても俺様だけで十分だよぉ!」

ニトロはムスッとした顔でゲドーに言う。

「…素晴らしい…素晴らしいぞ僕のニトロ!よーし!その侵入者の処刑もお前に任せる!」

ゲドーはおおはしゃぎだ。

「…ヒッ…ヒッ」

ミサの顔が引きつる。無理も無い、目の前で大量の軍兵が細切れにされたんだ。
しかし、様子が変だ。

「ミツル!ミサを連れて逃げろ!ニトロは俺達で食い止める!」

師匠はミツルに叫んだ。

「フフフ、ムダだ!僕のニトロは狙った者は絶対に逃がさないんだ!全員殺すまで止まらないぞぉ!!」

ゲドーは年齢を考えず子供の様にはしゃぎ回る。

「行けぇ!ニトロ!そいつらを殺してしまえぇ!!」
「カァァァァァァァァ!!」

ゲドーの命令と同時にニトロは腕を横に振り回して来た。

―午後14時11分―

「ミツル!捕まれぇ!!」

師匠がミツルに手を伸ばした。ミツルはミサを抱きかかえ、師匠の手を握った。

「飛べぇ!」

僕は師匠の掛け声に合わせ、飛び上がった。同時に刃物の様に腕を振り回すニトロが通り過ぎた。
腕が当たった壁は大きく裂けた。

「・・・!危なかったぜ…。」
「あぁ?こいつら避けやがった!」

ニトロが急ブレーキをかけた。

「ニトロ!グリセリングで一気に片をつけちまえ!」

ゲドーの指示に応じ、ニトロは腕を手前に向ける。銃口がキラリと輝く。

「マズイ!凄いの来るぞぉ―――!」

いでっ!師匠が僕の頭を床にぶつける。その瞬間、

―ババババババババババババババババババババババババ

頭上を円形のリングが数十個飛んで行った。

「何だあれ?」

リングの群れは高速で空を切って行った。さっき軍兵達を殺った技か。

「まただぁ!ちきしょう!!」

ニトロは歯ぎしりをして突進して来た。

「神技神腕!超・神打!」

もらったとばかりに師匠が神技を発動した。真っ白な閃光は直にニトロに直撃した。

「ヌガアア!」

―午後14時13分―

「あらら、丈夫ですね。」
「そうとうかてえ鎧だなありゃ。」

ニトロは超・神打をくらったにもかかわらずピンピンしていた。傷一つ無い。

「あーびっくりしたー。」

ニトロはどす黒い目を目いっぱいに広げていた。

「ハハハァ!ビックリしたけど痛くもかゆくも無いぜぇ!なんたって俺様のアーマーは超合金で作られているんだからなぁ!」

ニトロは自分の鎧を腕で軽く叩く。グワングワンといい音が響く。

「面倒な奴だぜ、あれじゃあ極斬刀も効きそうに無いぜ。」

師匠は面倒くさそうに言う。

「でも人造人間だからリカバリー効果は無いと思います。ギルドよりはマシでしょう。」

息を切らせながら、なんとか声を絞り出した。

「へへ…そりゃそうか。」

そうやってのんきに会話していると

「コラァ――――!てめえら何話し合ってやがる!ウゼェんだよバカ共めがぁ――――!!」

ニトロが怒ってグリセリングを飛ばして来た。あんたにバカって言われたく無いね。

「ヒャハハハハァ!いいぞニトロ、もっとやれやれぇ!」

ゲドーがポケットから何か電卓の様なモノを出した。
…あれは電卓じゃあ無い、何か数値を測る機械か。

「ウヒョヒョ!素晴らしい数値だぞぉ!!もっとパワーを見せてやれ、ニトロォ!」

ニトロの容赦無いグリセリング連射は続く。

―午後14時16分―

「…のああ伏せろレッキ!ああ!ミツルこっちだ!ミサを連れて早く!」

師匠は僕達の誘導で精一杯だ。なんとか彼の助けにならなければ、ニトロと戦えるのは恐らく師匠くらいだ。
僕は右頬に突っ込んで来たグリセリングを避けながら師匠に話し掛けた。

「師匠、実は新しい神技を発動したんですが―」
「ああ知ってるよ、下降掌だろ?あの部屋のへこみ具合、下降掌の特徴だからな。」

僕が全て言い終える前に師匠はそう答えた。知ってたのか、さすがは神技マスター。

「で、それがどうした?」

師匠が前を向いたまま聞く。

「ニトロに下降掌をかけて、動きを封じます。その内にミツルとミサを連れ出しましょう。」

僕は意を決してニトロの元に駆け込む。

「ああっ!あいつ凄い事すんなあ、おい。」

ニトロは僕の存在に気付くと、グリセリングを発動しようと、腕を向けて来た。が、こちらの方が早かったが。

「神技神腕!下降掌!」

そう叫んだら、瞬時にニトロは血まみれの床にめり込んだ。

―メリメリメリ、バキバキバキ、ズゴゴゴゴ…

―午後14時19分―

「ノアア―――――――!!ぼ、ぼぼぼぼぼ、僕の可愛いニトロちゃんがぁ―――――!!」

ゲドーは我が子が突然床にめり込んだ事にかなり驚いているらしい。

「へぇ~やるじゃないか。俺でもあんなに強力なのは出ないぞ。」

師匠が感心している。ミツルは目を丸くしながらニトロに近づいた。

「き、君達は一体…どうやって…。」

僕に聞いて来た。

「僕は彼に神技と言う武術を教わっている…と言っても君には分からないか…。」
「うん、全然分かんない。」

正直で結構。

「さーてと、」

残っているのはゲドーと2人の科学者のみ。フッフッフ、楽勝だな。

「覚悟しろよ!これでお前らもおしまいだぁ――――!」

師匠がまたもやいつの間にか横に立ちはだかっている。

「クソ!クソクソォ!クッソォ!!」

ゲドーはジダンダを踏む。

「あのさ、あんまクソクソ言わないでくれるかな?イメージダウンだよ?」

イメージダウンの帝王シーク・レットは呆れながらそう吐き捨てた。

―午後14時21分―

勝利は確実だった、あとは師匠がニトロにとどめをさすだけだったんだ。でも現実は違った。
ニトロの顔面に師匠は極斬刀を構える。ゲドーはもう絶体絶命だった。

「クソォ!ニトロは蒼の騎士団の生物兵器となって、歴史に名を刻まなければならないんだぁ!お前らに邪魔されてたまるかぁ!!」

ゲドーはそう叫ぶ。

「…だったらどうした。蒼の騎士団は最低の軍団、そんな所に人造人間を送って仲間になろうとしてるんだ。邪魔をしないわけにはいかないだろう!」

僕は言い返してやった。

「そうだそうだ!」

師匠がニトロの上で飛び跳ねる。

「あんたは黙ってとどめをさして下さい!!」
「あ、はい。」

いつもこうなる。

「ゲドー教授!まだニトロは動きますよ!ハイ、これを。」

2人の科学者の内の1人がゲドーにリモコンの様な物を手渡した。ゲドーはそれをじっと見つめていたが、その暗い人相から気味の悪い笑みがこぼれ出した。

「ク、クフフフフ…ウヒャハハハハァ!!そうだよ、これがあったんだぁ!!ハハハハ、お前らぁ!ニトロはこれくらいで死なねえぞぉ!!復活だぁニトロォ!!」

ゲドーはリモコンのスイッチを押した。

―午後14時23分―

「ウワア!」

師匠を跳ね除け、ニトロが起き上がった。しかも様子が変だ。

「プシルルルルル…。」

おかしな声を上げ、ニトロの鎧が開いた。頭は複雑に変形し、人間に近い整った顔になった。更に、その後ろからは真っ黒な角が突き出た。

「プシィ!」

ニトロは前より人間ぽくなってしまった。まだ程遠いが。

「ウハハァ!!なんて可愛んだぁ僕のニトロォ!さあ、そのクズ共を殺せぇ!!終わったら新しいおもちゃを買ってやるぞぉ!」

本当に親子みたいだ。

「本当に!?よーし!頑張るぞぉ――――!!プシシィ!」

ニトロは師匠に向かって蹴りをあびせて来た。師匠はバック転をしながら蹴りの雨をかわした。

「危なっ!」

そう言う師匠のシルクハットには大きく裂けていた。顔が見えるか見えないかの瀬戸際だ。

「プシシシシィ!」
「ケッ!プシプシ言いやがって!!俺の特注品になんて事するんだ!」

特注品だったんだ…。

「ペプシ!」

ニトロはクシャミを一発放った。それにしても、“ペプシ”はマズイだろ。
師匠が苛立ち、腕を大きく振る。

「ケッ!のんきにくしゃみなんてしやがって!!バカにすんなよコラァ!!…って、あれ!?」

何だ?ニトロがくしゃみした途端にもの凄い量の霧が吹き出てきた。

「こりゃ何だぁ?」

師匠が警戒する。

「プシャアシャアシャアシャ―――!!それが何か分かるかい?お2人さぁん!」

ニトロがやっと人語を発した。

「なぁ!?まさかぁ―」

師匠はそれ以上喋るのを止め、僕を横腹に抱き、その場から走り出した。更に師匠はミツルとミサに大声で叫んだ。

「お前らぁ―――!!通路に“ニトロ”が充満してるぞ!逃げろぉぉ!!」

こうして立場は見事に逆転された。

―午後14時25分―

ズガアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァン

凄まじい爆音が後方で響く。あ、危なかった…。

「フヒュウ、間に合ったな。」

師匠はホッと胸をなでおろした。

「驚いたよ、まさかニトロが“ニトロ”を吐くなんて、名前通りじゃないか。」

ミツルは震えるミサを抱きしめ、向こう側を覗きながら僕に話し掛ける。

「安心してる場合じゃないぞ、ニトロがこっちに来る。」

師匠がクレイジーの安全装置を切った。

「えぇ?で、でもこの通路は1つしか無いんだよ?ニトロは見えな―」
「来たぞ。」

ミツルが全て言い終わらない内に師匠はクレイジーの機関銃を放った。

ダダダダダ

ニトロはなんとすぐ横の壁から大穴を開け、勢いよく顔を出して来た。機関銃の弾は1発も当たらない。

「あぁっ!チキショウ。」

ここは僕が、ニトロは穴から必死に出ようとしている。が、無駄なあがきだった。

―ダン

インパクトを1発、ニトロの額めがけて放った。銃弾は間違い無く額に命中した。しかし、僕は調合金の兜の事を忘れていた。
無残にも銃弾は変形して落ちた。

「プシャアシャア!」

ニトロは変な笑い方をする。

「おいおい!ダメじゃないかぁレッキ。」

師匠に叱られた。

「兜の事を忘れていました。」

お茶目な失敗だ。

「さっきも言ったでしょ?ニトロは君達を殺すまで止まらないんだ。」

向こう側からゲドーが2人の科学者と共に歩いて来た。今の爆発でメガネは無残にも砕けていて、白衣も裾がカリカリに焦げてしまっている。

「しかし、随分抵抗するねぇ…正直ウザイよ?」

ゲドーのその勝者ぶった目つきが気に入らない。

「ニトロを5倍のパワーにしてもまだ死なないか、ならば、もう1人究極の人造人間を作るか。」

は?

「何ぃ!?」

師匠は驚愕する。ニトロは不思議そうに自分の製造者を見つめる。

「パパァ、俺様の他に究極の人造人間がいるの?」

ニトロの質問にゲドーは笑顔で応じた。

「モチロンさ、“ミサ”だ。」

―午後14時27分―

一同の視線はミサにそそがれた。ミサは引きつった顔色でガタガタ震えている。
ミツルはゲドーに向かって叫んだ。

「どういう事だ!ミサはただあの特殊能力があるだけじゃあ無いのか―」
「違ぁーう、あの時ミサに備え付けたのは手足の伸縮能力だけじゃない。れっきとした“モンスター”の素質だぁ。」

ゲドーは横に立つ助手から厳重そうな機械を受け取った。

「ミサは今は確かにクズだ。しかし、僕が生みつけてあげた力を発動すれば、究極のモンスターと化する、ニトロに匹敵するほどにね。…最後の手段だったんだけど、ここで使うかな。」

僕は心臓が止まりそうになった。

「…ミ、ミサを…モンスターにするつもりか?」
「そだよ、ただし、ミサの理性は一切吹っ飛ぶけどね。」

一同はこの男の言う事が悪魔の言葉に思えた。ミサはますます震える。

「う…いや…いやぁ!!モンスターになんてなりたくない!」
「ミサァ、全然痛くないんだよぉ?このゲドーが保障しよう、すぐに終わるからね。」
「黙れ!ミサに近づくなぁ!ミサをモンスターになんて絶対に変えさせないぞ!!」

ミツルはゲドーの前に立つ。

「レッキ!早くミサを外へ逃がしてくれぇ!!」

僕はミサを連れて逃げようとした。その時、

―グサッ

「…グサって…」

ニトロにわき腹を突かれた。それも深々と。

「プシャアシャ――!」
「レッキ!!」

ニトロの笑い声と師匠の声が響くのが分かる。

「おい!おい!起きろ馬鹿野郎!この…俺より先には死なせねえぞ!」

師匠は僕の身体を揺する。無駄だ…もう死ぬ。意識がもうろうとしてきた。でも、まだ死ねない…やるべき事はまだたくさんあるんだ。
ちょうどその時、師匠が何か思い出したようにシルクハットの中をかき回した。

「ほら、これ飲め!」

なんと、師匠がスピードヒールをシルクハットから取り出した。ありがたい。僕は黄粒をなんとか飲み込んだ。

―午後14時28分―

「キャー!離してぇ!!」

ミサの悲鳴が聞こえる。嫌な予感が頭をよぎった。
ゲドーは予感通り、ミサの手を掴み、捕まえてしまった。ミツルはニトロに身動きを封じられている。面倒な事態になったな。

「ミツル、今助けるぞ。」

僕がそう言うとミツルは憤慨し、

「なぁに言ってんだい!?僕よりミサを助ける方に集中しろよ!」

と叫んだ。

「その手を離せや外道野郎。」

おや?師匠の声だ。

「ヒャ―汚い手で触るなぁ!!」

おや?ゲドーの声だ。
今起こった事は、どうやら師匠がゲドーの手を掴み、ミサを助けたらしい。

「あぁ!雑菌がぁ!病原菌がぁ!ぼぼぼ、僕の皮膚細胞がどんどん死んでいくうぅ!」

オーバーなゲドーは除菌スプレーを取り出し、師匠に捕まれた手を必死に殺菌している…殺菌なんて言ったら師匠に失礼か。

「大丈夫か、ミサ?」

師匠はミサの身体を見回し、別状が無い事を確認している。ゲドーは怒りの混じった顔色でこちらに向き直る。

「もう許さん、ミサァ!そいつらを殺せぇ!自分の力を解き放てぇぇ!!」

ゲドーは機械のスイッチを押そうとする。僕と師匠は血の気が引いた。

「やややや、止めろぉ――――――!!」

ミツルの声もむなしくスイッチはゲドーの指に押され、機械は作動した。

「ミサが…ミサァ――――――!!」

ミツルは引きつった顔で叫んだ。

―午後14時32分―

「ヒアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア」

ミサが頭を抱える。

「そんな…師匠!!何故機械を奪わなかったんですか!?」
「…。」

師匠はうずくまるミサを直視したままだ。何をしてるんだこの人は!!

「ヒッ…ヒッ…ヒッ…ヒッ」

今度は小刻みに痙攣が始まった。状態は極めて最悪だ。痙攣の続くミサは身体を丸め、その場にバタリと倒れこんだ。

「ヒッ…ヒッ…ヒッ…ヒッ…ヒッ…ヒッ…ヒッ」

僕はミサの身体を抱え、必死に呼びかけた。

「ミサァ!気を確かに持て!!」

ゲドーは目の前の光景を微笑みながら鑑賞している。

「ミサがモンスターに変身するのはもうすぐだよ。」
「クッ!ゲドー!貴様ぁ!!」

僕が構えたインパクトの先には、薄気味悪い顔のゲドー教授がいた。

「…レッキ、止めとけ、これでいいんだ。」

師匠が静かにささやく。

「…何を言って―」
「ミサが変わったぞ。」

僕はミサを見ると、血の気が凍りついた。ミサの人形の様な顔は土人形の様にポッカリと開いた穴ぼこだらけの顔になってしまった。そして、土くれ顔になったミサは巨大化し始めた。衣服は音を立てて裂け始める。

「いかん、離れろ!」

師匠は僕の腕を掴みミサから離れた。

「アアアアアアアアアアアアアアアア」

何て事だ。ミサは見る影も無い、醜いモンスターになってしまった。


「アアア…ミ…ツル…ニイ…サ…ン…」


第13章へ続く。

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