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第15章:就職試験

ある場所にて…

“そいつ”は巨大な椅子に腰掛け、外の様子を見つめている。

「ノア様!ゲドーと名乗る男がノア様とお会いしたいとの事です!」

突然、軍兵の声が響く。

「ゲドーが?……通せ。」

ノアと呼ばれた男は軍兵に顔を見せないまま命令した。

「はっ!」



数分後、ボロボロの白衣を纏うゲドーが現れた。

「は、ははは…ノ、ノア様…お久しぶりです。」
「……よぉ…元化学班班長のゲドーだな?…例の人造人間はどうしたんだよ?」
「え、ええ…実は、数年前、我らの基地を破壊した例のシルクハットの男に計画を邪魔されて…こ、殺されました…。」

ノアは無反応でワインを飲み干した。

「ふーん、で?」
「…その人間は奇怪な術を使い、ニトロもあっけなく消滅してしまい―」
「そうじゃねえだろ!?これからお前はどうすんだって聞いてんだろ?」
「ヒッ!わわ…ああっ新しい、もっと強力な人造人間を作ります!だ、だからもう一度チャンスをっ!!」
「…。」

ノアは黙ったままワインの瓶を掴む、瓶には半分程赤ワインが残っている。
ノアはワイン瓶を自分の手に注ぎ出した。

「…いっていいぞ。」

ノアはゲドーに向かってそう言った。

「!!そ、それでは許して――」


バシュウウウウウウウウ!!


ゲドーは半分になりたての頭のまま、後ろに倒れた。
ノアは空の瓶をテーブルに置き、笑い出した。

「カカカカ…誰が許すと言ったぁ…オレは“逝っていい”と言ったんだ!」

―3001年 3月1日 午前9時23分 トロピカルラグーン 船着場―

『国家機関就職試験・処罰機関等の特殊機関に入ってみなぁい?入って国家世界のために戦いまそぉ~!(≧∀≦)/』

こんな不真面目なビラを片手に僕、レッキはジェットボートに乗り込んだ。
もちろん、いや、何故かは知らんが僕の膝の上には師匠が座り込んでいる。

「おぉし!出発進行!ナスのおしんこぉ!!」

…。

「あなたは来なくていいです、降りてください。」

つーかまず僕の膝から降りろこのバカ道化。

「何を言うんだ!お前が就職するって言うから俺もついていくんだろぉが!」

何故だ。

「三者面談じゃないんですから、とっとと降りて下さい。」
「いやだっちゃ。」
「降りて下さい。」
「やぁよ。」
「…最終警告です、降りて下さい。」
「わからん奴だなぁ、ヤダって言ってんじゃんよ。」

ブチッ!

―午前9時30分 海上―

さすがに海に突き落としたのはやりすぎだったろうか。
まぁいいか、このビラが届いた日、プヨン教授はこう語った。


『国家機関…でぷか…そこなら蒼の騎士団の情報、ゲットできるんじゃないんでぷか?』


確かに国家機関には巨大な図書館が存在するという話を聞いた事がある。まぁ、就職の話はどうでもいいんだ。
僕は本当のところ、その図書館に興味があるんだ。ま、ちゃちゃっと就職試験なんぞ終わらせて帰ってしまおう。

「へくしゅん!」

はい?

「誰ですか?」

後方から人の声。

「まさか…。」

振り返れば、案の定、そこにはミサがいた。

「てへへ…ばれちゃった。」
「“てへへ…ばれちゃった”じゃありませんよ。なぁにやっちゃってんですか。」

ミサは僕の言葉をまともに聞かず、僕の隣に座り込んだ。

「ミサも就職試験受けますの。」

は?

「レッキが試験受けるならわたしも一緒に受けたいですの!」

…やれやれ…しかたない子だな。

「頼むからそんなバカな事言わないで下さい、大体…君は16だろ?試験規定は“17歳から”なんですから、どのみちミサには無理ですの。」
「そんな事ありませんの!国家戦士の補佐は16歳までですもの。」

何だと!?僕は慌ててビラをよく見た。

「ほんとだ……。」

ビラの隅っこにものすごくちっさい文字で国家戦士補佐の規定が16歳と記述されている。
ウヌヌ…非合法だ。まぁ“17歳”ってのもかなり非合法だ。

「仕方ないですね、“あくま”で受けるだけですよ。」
「わーい!」

わーいじゃない!

―午前9時42分 セントラル港―

たった1人、処罰機関六番隊長ニタリは港にたたずんでいた…。

「デヘ…デヘヘヘヘヘ。」

ニタリは笑い出した。

「デ―ヘヘヘヘヘ、デヘッ!デヘッ!デへへへ。」

本人にはいたって笑うつもりは微塵もないのだが、出発に遅れてからはや1年、もはや笑うしかないのだった。

「デヘヘヘヘヘ…へへへ…へ……。」

彼はしばらく笑っていたが、顔を笑ったままにしてセントラル本部に戻って行った。
寝坊が原因で出発に遅れてしまったので自業自得だと彼は思っている、しかし彼は彼の親友、5番隊長クラネを少々恨んでいる。
何故なら、クラネに起こしてくれと頼んでおいたのに彼は自分を起こしてくれなかったからだ。まぁ、クラネは“とんでもなく小声で話す体質”の持ち主なので起こしても聞こえなかったと思うが。
セントラル処罰機関寮の自分の部屋でニタリはデスクワークを始めた。若き総司令官リクヤの教えにこんな言葉があるからだ。

『もし任務の集合に遅れてしまった場合、何もしなかったという事はない様にしろ。自分が出来る仕事を探し、任務期間の間それを続けろ。』

と。彼は総司令官殿の命令には忠実なのだ。
彼は黙ってキーボードを叩き、経理関係についての表や処罰する人間のリストを作り出していた。
自分で言うのもなんだが、かなり早い。こういう仕事の方が向いているかも…彼はそう思っていた。
ふと、窓から外を見ると、どういう事だろうか…何隻もの船がガンガン近づいて来た。

―午前10時21分 セントラル港―

「見えましたよ。あれがセントラルです。」
「ほえ~凄く立派な施設ですの!」

彼女の言うとおり、セントラルはかなりでかい施設だった。
船着場が横一面に大きく広がっていて、その先には同じくらいの長さの壁が見えた。国家総本部のとんでもなさを改めて思い知らされる。
その向こうは見えない。城壁が高すぎるんだ。

「結構たくさん応募者がいるんですね。」

5隻もの船に乗る人々が僕の顔を睨む。

「皆、怖い顔ですの。」
「冗談じゃない、あんなアホみたいな連中にライバル視されてたまるもんですか。」

マジで。

「ささ、あんな奴等無視無視!早く中に入れてもらいましょう。」

―午前10時24分 セントラル門―

おやおや?あの生意気小僧(ドレッド)はいらっしゃらないのですか。
門前に立ちはだかるのは3人の中年の男女。

「やぁやぁ、よくぞいらっ“シャッター”!わたきゅしは国政機関議員、シャミ―ですじゃにゃ。」

のっけから華麗にくだらないシャレをぶちかましたはげ頭の老人は言った。
変な喋り方だにゃ。

「ムゥ、今年は総勢30名きゃ…まぁ多い方じゃにゃ…中に入って放送を待ちたみゃへ。」

シャミーが言うと同時にセントラルの門がゆっくりと開き始めた。

「さぁ行きましょうか。」
「はぁい。」

僕とミサは国家の本部にいよいよ足を踏み入れた。

―午前10時27分 セントラル試験会場―

試験会場にはいくつかの席が並べられ、その上にカードが置いてある。

「そりは受験番号じゃにゃ、大学受験みたいでワクワクするじゃりょお!」

ごめんなさい、しないです。

「待ってにゃあ、じきに筆記試験が始まるからにゃ。」

あっそう、それではおとなしく待ちますかね…。

「うわぁ!広いですの!凄いですの!」

彼女がいなければだが。

「ミサ、おとなしく座ってなさい。」

僕は小さな頭を掴み席に戻す。

「えーいいじゃん!探検しようよぉ。」

何様なんだこの子は。

「いいかげんにしないと、いっぺんぶちますよ。」
『ただいまより第一次試験を開始します。机の上の試験用紙に名前を記入してください。』

うおおっ!びっくりしたぁ。
手元の試験用紙にはご丁寧にHR番号を書く欄まで記載されていた。
ひょっとして馬鹿にしてるだろ。
問題は国家の歴史に関する問題や、法学、哲学、文学、英語、ポルトガル語、スワヒリ語、手話、暗号解読学と、難解な問題ばかりだった…まぁ楽勝だが。
最後にはこんな問題が記されていた。

『あなたは何を守るために国家に就くのですか?』

ペンの動きが止まる。

『そうだ…僕は何を守りたいんだろうか…平和?家族?わからない…。』

終了のベルが鳴る。これが僕の唯一のミスになってしまった。

―午前11時53分 セントラル第次2試験会場―

「レッキどうしたの?顔色が悪いですの…。」
「い、いえ…別に何でもありませんよ。」

実は何でもあるんだが…

「2次試験は面接じゃにょ、受験番号順に呼びみゃすので待機してておくりぇな。」

僕は長いため息をつきながら座り込んだ。

『受験番号001番!ただちに中に入りなさい。』

ハァ…

『受験番号001番…入りなさい…。』

ハァァ…

『早く入れやぁぁぁ!!!お前じゃああ!金髪めがねぇぇぇ!!!』

!!??おーっと!いけない、いけない。

―午前11時55分 面接室―

「君ぃ、緊張してるのはわかるが早く入ってくれないとお話になりませんよ?」
「もうしわけありません。」

試験官はひ弱そうな老人だった。

「さぁて、君の学力は受験者の中でもトップクラスだ…ただ、君には学歴がない、あるものとすれば銃器のテストで特級と“タクティス・ロード(戦術の道)”の称号を持つのみ、この学力は独学で導き出したのかね?」
「ええ。」
「フム、たいしたもんだ…処罰機関の連中ですら、有名校を卒業して来たんだからな。ここまで独自の力で秀才になった人間がいると知ったら…ショックを受けるかもしれんのぉ。」

処罰機関、そうかドレッド達も学校へ行ってたのか…そこで友達…仲間もできたんだろうな…僕は仲間、友達に憧れていたのかもしれない。

「まぁいいか、…にしても君は最後の問題には無記入だったな…君には守るものはないのかね?」
「…僕は幼い頃全てを失いました、守れるものなんてありません。」

試験官は「そうか…」と言いながら両手を組みアゴを乗せると、

「人間には、守らなければならないものが必ずと言っていいほどあるものだ…まぁ、君もいずれそれを見つける事が出来るだろう。」

―同じ頃 面接室―

「えぇと、君の名前は-」
「ミサですの。」
「あはぁミサちゃんっていうのかぁ~かんわいいねぇ~。」

変態試験官はミサの上から下をジロジロ見回す。

「君、出てけ。」

いきなり試験官は2人のゴッツイおっさんに追い出されたかと思うと、貞子みたいな男が入ってきた。
そう、ニタリである。

「デヘヘへヘヘへ。」

ニタリはいきなり笑い出した。

「びええ何ですのこの人ぉ。」

おびえるミサを見てニタリはピタリと笑いを止めた。

「お願いしますねニタリさん。」

面接室にはニタリとミサの2人だけ、ニタリは息をゆっくりとはくと、

「ボクは処罰機関6番隊隊長、ニタリ・ジョウゴだ、よろしく。」

喋った。

「は、はい…。」

ミサは緊張を隠しきれていない。

「ハハハ、落ち着きたまえ。筆記試験ではミサ君とレッキ君だけは合格だよ。」

ミサはその言葉を聞き、数秒の間、安堵の表情を浮かべた。
そう言えば、彼女は幼い頃にとんでもない容量の知識をぶち込まれていたのだ。
ニタリはゆっくり微笑むと更に話を続けた。

「この面接では基本的にはどの部署に入るかを問う方式になっているんだ。」

―更に同じ頃 面接室―

「処罰機関です。」

適当に、いや…“一番関わりのある所”だけを答えた。
あの赤毛野郎の顔が目に浮かぶ。あぁ嫌だ。

「処罰機関?あそこは馬鹿でも入れるとこだからねぇ…。」

馬鹿が入る国家機関なんてあってたまるか。

「他の部署を目指した方がいいよ、裁判機関、国政機関、勇攻機関…。」

勇攻機関?

「ビラを見たときから気になってたんですが、それって何ですか?」
「勇攻機関、通称“ブレイヴメント”処罰、裁判、国政の3つを束ねる国家最高格の機関だ、世界でもこの部署に配属しているのは8人しか確認されていないのさ…ひょっとしたら君に一番向いてるところかもしれないね…。」

なるほど。

「まぁそれはいいかもしれませんね、でも正式に決めるのは試験から3日後なんでしょう?」
「ほっほ、そうか君はまだ何もわかっておらんようだな。」

試験官は笑みを浮かべながら黄色い用紙を取り出した。

「?…何ですか?…ソレ…。」
「“3次試験用紙”君とミサ君にはこの試験を受けてもらおう!!」
「…………へ?」
「この用紙に書かれている事を遂行せよ!まぁ内容は簡単だ、ただし!この試験に合格しない限りセントラルには入れなくなるぞよ!」

な、な、なんだと???

「あの、僕は…。」

思い出したんだが、図書館で資料を集めるためにここに来たんですけど…。

「ホッホッ!まぁ頑張りたまえ。心配いらんよ!まぁ、この仕事は2人だけでは大変だろ…1人裁判機関に研修生がおるからそいつを連れてきなさい。」

コラコラ何勝手に話を進めてやがるんですか。

「いや、あのですね―」
「健闘を祈るぞ!頑張りたまへ!」

―午後12時30頃 セントラル 裁判機関塔―

何故僕がこんな事を…ミサを連れてトボトボ歩く僕がいる。
たしかシャミーさんが受付に行けとおっしゃっていたな。

「レッキ、受付ですの。」

フロントには初老の女性が書き物をしていた。

「すいませーん、シャミーさんからここに向かえと言われてきたんですが…。」

女性はメガネを外すなり立ち上がった。

「あらぁ、あなた達が試験の唯一の合格者達ね。」

女性は僕の手を掴み上下に大きく振り出した。握手のつもりらしい。

「嬉しいわぁ!合格者は今まで1人もいなかったのよぉ!それにしてもあなた二枚目ねぇ!!」

ブンブンブンブンブンブン

「あら、こちらはこりゃまた可愛らしい子じゃないのぉ!あら?ひょっとしてあなたの彼女?」

ぶっとばされたいのかこの婆さん。
嵐のような握手が終わったかと思うとお次はミサを振り回し始めた。

「えぇと…。」

つけいるスキもない…ミサは鞭の如く中を舞う。周りから見ればとてつもない光景だ。

「びえええええええええええええぇぇぇぇぇっっっ!!!!」

ミサの絶叫も振り回される音にかき消される。
ミサは全身が伸縮自在の人造人間だ。過去にある狂化学者にモンスターに変身させられそうだったところを僕と師匠が助けた。
説明が終わらない内に第2波が収まった。

「大丈夫ですか、ミサ?」

ミサはフラフラだ。

「び~みゃぷ…にゅえあ!!ろ(◎_◎)?」

かわいそうに、ミサは目を回しながら新たな言語を生み出していた。

「ホホホ、ごめんなさいね、嬉しすぎて、取り乱しちゃったみたい?」

取り乱したどころの問題じゃない。

「私はワダイ、ここの事務を務めてるのよ。」

ほらみろ、自己紹介がこんなに遅くなった。

「僕はレッキです、彼女はミサ。」
「ど~みょお、よりょしきゅ(どうも、よろしく)。」

少しずつだが言語が回復しつつあるな。

「ここの研修生に会いに来たんですが。」

ワダイ婆さんは受付から飛び出した。

「こっちこっち、さぁ来なさい!」

ネズミの様にチョロチョロ走り出した。年寄りなのに大したものだ。

―午後12時36分 セントラル 裁判機関塔 待合室―

「ここよ。」

何て早い婆さんだ。僕はともかくミサの息が大きく切れている。
待合室は案外質素な造りで、ドアに付いた明かり窓に人影が映る。

「そう言えば、その研修生ってどんな人なんですか?」

ワダイはクスッと笑うとこういった。

「かわいい子よ。」

その瞬間!扉がバァンと開かれた!中から飛び出してきたのは…

「わひゃあああ!!」

10代後半くらいだろうか、女の子が慌てた顔して僕に突っ込んで来た。
そして僕にぶつかるとそのまま転んでしまった。
彼女は銀髪の短い髪にキリッとした水色の瞳で僕とミサを見た。そして1,2秒もしない内に顔が真っ赤になる。

「あっあっ…すっすみません!忘れ物取りに行こうとしたんスけど…あ、足が滑って…。」

ドジな子だなぁ…正直言ってめちゃくちゃかわいい。

「大丈夫ですか?ほら…手、貸しますから…。」

僕は手を差し出した。

「ど、どうもッス!」
「いえいえ。」

彼女を立たせてあげると、ワダイがニコニコしながら、

「こちらが裁判機関の研修生、クリス・タルビートよ。」

彼女を紹介した。
クリスは黒いキチキチの服を着こなし、両腰には小刀の様なものをぶら下げていた。

「よろしくッス!自分はこういう冒険みたいな仕事に憧れていたんスよぉ!!」

じゃあ、何故裁判機関に入った。

「この子はなんとあのタルビート一族の子なのよ!」

ワダイはまるで自分の事の様に彼女を自慢した。

「タルビート、とは?」
「あらまぁ!タルビート家をご存知なくって?」

ご存知ありません。

「タルビート家は先祖代々から剣武術の奇才が生み出されている天才的な一族なのよ!このクリスちゃんも46代目の剣武術師で、今では大人が相手でもかなわない程の実力者なのよ!」

へぇ~それはすごいなぁ。
剣武術とは数年前に文献で見た事がある。メリケンの様な金属のグローブに曲刀が取り付けられている代物で、その武術を極めるのはなかなか難しいらしい。
そんな武術をあの若さで極めてしまうとは…あの子、結構な“てだれ”だ。

「そぉんなに褒めないでほし――ッスよぉ、恥ずかしいじゃないッスかぁ。」

嬉しそうにクリスは身体をくねらす。しかし変な喋り方だなぁ…。

「でも、実戦でこの力を使うのは初めてなんスよ。自分、はりきって頑張りまスんで、よろしくお願いしまぁす!!!!」

クリスは身体がしなるんじゃないかと思わせるくらいに元気のいいお辞儀を見せ付けた。
五月蝿い声ですねぇ。

「ところで今回の発任務、一体何なんスか?」

そうだ、聞いていませんでしたね。
あの試験官は僕には裁判機関塔に行けとしか言ってないしな。ミサが僕を見つめて言った。

「レッキ、わたしは聞いたよ、ニタリさんって人から。」

おや、それは助かる。

「えぇと、“なんぽーしぶ”ってとこに行ってぇ…極秘資料をもらって来て、だそうですの。」

南方支部!国家機関はそんなとこに僕らを行かせようとしているのか!
南方支部…名前通り、セントラルから南方に造られた国家機関の基地だ。他には北方支部、東方支部、西方支部、更に南東支部に南西支部、北西支部に北東支部…小さいのを入れても、総数で20以上の支部が存在している…らしい。
が、南方、つまり“ナタデ地方”は様々な娯楽施設があると同時に、テロや犯罪等、多くの事件が起こっている超危険区域なのだ。
本当の事を言うと、そんな所に新人候補を連れて行くのはどうなんだろうか。真顔になったクリスが口を開いた。

「南方支部って…あの危険な方々ばっかりいらっしゃるあの…?」

その通り。

「あらぁ?おじげづいたの?」

ワダイはニコニコしながらからかうように言った。
クリスは1,2秒もしない内に満面の笑みを浮かべた。

「なぁ~に言ってるんスかぁ!ひょ…ひょっとしたら犯罪現場に出くわすかもしれないじゃないッスか!!そんな時に自分の剣技を披露出来ると思うと…うっひゃあぁ!!楽しみッス!!!!」

やかましい声が塔内いっぱいに響きわたる。
キィ――ンとハウリングの様な音がしてきた。
ミサは鳩がバズーカ砲を喰らった様な顔をしている。

「クリスちゃん、元気出しすぎよ。」

ワダイ婆さんは汗ひとつ流さず笑顔で話し掛けてきた。なんなんだこの婆さんは。

「す、すいません…。」

スイッチオフになったクリスの前に割り込みワダイ婆さんは言った。

「ごめんねぇ、この子、元気が有り余っててねぇ…いいわねぇ~!ナタデ地方はちょっと危険な人達がいるけど、楽しい施設がたくさんあるのよ!その中でも最大の施設が、超巨大娯楽客船、“タピオカ―ナ号よ”!」
「タピオカ―ナ号!?」

ミサは目を輝かせた。が、僕には微塵も関係ない。

「まぁ、南方支部での任務、頑張ってきてね。」

ハァ、しょうがないな…

「わかりました、行きましょう、ミサ、クリスさん。」
「了解ですの!」
「頑張りまッス!」

南方支部ね、今回ばかりは何事も起こらないでいてほしいですね…。
ま、今回に限ってそれはないか。




考えは甘かった。


第16話へ続く

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