第2章:騎士隊長ギルド
3000年1月1日13秒経過
皆さん、明けましておめでとう。 なんて言ってる場合じゃないな。今から13秒ほど前に僕と師匠が酔いつぶれながらある田舎町「アルスタウン」で、新年を迎えようとしていた。しかし、元旦からご大層なご挨拶を喰らってしまった。先程の爆音は、宿敵「蒼の騎士団」の軍兵の銃撃音の様だ。爆音に驚き、僕は師匠と共に窓からやつらを見た。
騎士団軍兵は100人ほど、いて全員、人を生き物とは思わない様な、冷たく引きつった人相をしている。服装は青黒く白い線が肩とズボンにそれぞれ3本ずつ縫い付けられていた。片手には、巨大なライフルを構えている。これは通常、戦車、装甲車を破壊出来るほどの威力がある代物だ…と思う。
「他の町人は逃げたのかなあ。」
師匠が心配そうにつぶやく。
「分かりません。でも、あの時の様な惨事はもう見たくない。」
「そうだな…。」
あっ!軍兵の一人がこっちに気付いた!
「うひょひょひょぉぉぉ!!見ろぉぉ!人がいるぞおぉ!!!」
引きつった笑顔でそいつがそう叫んだ瞬間…
―バババァーン!!
三発の爆音が響き軍兵の群れから赤い噴水があがった。どうやら、師匠がクレイジーの散弾銃をぶっ放したらしい。師匠の放った散弾は2人に命中した。1人は僕達の存在に気付き、叫んだ男だった。彼は額から血を吹き流しながら、引きつった笑顔のままヘナヘナとくずれ絶命した。もう一人は僕達に銃口を向けた軍兵だった。その軍兵は胴に散弾の一部が2発命中して、跳ね飛びながら死体に変わった。2つの軍兵だったはずの血まみれの肉体を他の軍兵達は無表情で眺めていた。
―午前0時16分―
突然の師匠の行動にはとても驚き、そしてとても尊敬した。
「いいか?これは向こうが狙ってきたんだ。だから、一種の“正当防衛”なんだ。」
いつも通りの明るい口調で師匠は私にそう言った。現在、私は師匠と共に奴らからダッシュで逃げていた。いくらなんでも大勢の町人がいる場所で神技を発動するわけにはいかない。まずは1人でも多く町人を逃がさなくては!
「よーし!俺達で町の皆を助けるぞ!」
―午前0時30分―
民家の建ち並ぶ通りにでた。師匠があたりを見回し「ひと暴れしたいし、邪魔な連中には出てってもらうか。」と言った。おいおい、そんな言い方はないだろ。“よーし!俺達で町の皆を助けるぞ!”はどうした。町の人達はすぐに僕達の警告に応じてくれた。
―午前0時35分―
町の人々は新年を待っていたのか、寝巻きでは無く普段着を着ていた。僕は彼らに蒼の騎士団の正体を話した。
「なんと!蒼の騎士団がそんな奴らだとは!!」
彼らは意外そうな表情をした。まあ無理も無い。一般の人間達は蒼の騎士団の真実を知らないのだから。町長らしき人物が「奴らはどこから入ってきおったのかのお?城壁の門は厳重に警備しておったのじゃが。」と不思議がっていた。しかし、その謎もすぐに解けた。穴だらけになった警備兵とこなごなになって面影を失った城門が焦げ臭い臭いを発していた。
「なんてひどい事を…!」
―午前0時45分―
「これで町人は全員出したかな?」
「ですね。」
「しかし蒼の騎士団は新年に襲ってくるなんて、年末くらい休めっつうの!」
「いや…。奴らは“わざと”新年に襲ったんですよ。」
「…!?」
「…幸せそうな国を潰すの好きらしいんです…趣味が悪くて困ります。」
「…なるほど、全くだぜ。」
寂しくなった町内での短い会話を交わした僕と師匠は前進し始めた。…にしても、軍兵の気配が感じられない…。!!まさか逃げた!?
僕は慌てて後ろを振り向いた。崩れた城門跡からはかすかに焦げ臭い臭いが残っていた。城門はこの箇所だけ…。でも軍兵がここから逃げでもしたらさっきの師匠が殺した軍兵の血の臭いが残っているはずだ…。
「外にはいねえよ…。奴らの気配は町から感じる、ごくかすかだがな、レッキは騙せても俺を騙そうなんて百億万年早いっつーの!」
うーわっ!!これはかなりの屈辱だ。しかし、確かに気配がごくかすかにある…。
突然の出来事だった!民家、物陰、窓、草むら、森林、と、ありとあらゆる場所から軍兵が飛び出してきて、わずか2秒ほどで囲まれた。その数50人以上。残りはどこだ!?
「囲まれましたね。」
「ハ、ハハハ…。こうなるとは分かっていたんだ!アハハハ!ハハ…。」
明らかに想定外だったと思わせるような口ぶりで彼は言った。声が裏返ってますよぉ。
「もう逃げられないぞ!ケケケ!」
「他の人間はどこにやった?」
「お前らこのど田舎の奴らか?」
腹立つ声で質問攻めしてくるな…。
「フン!残念だったなあ!お前らが探してる町民達は俺らで逃がしてやったのさ!」
と師匠が叫んだその時!「おい!民家の中にガキがいたぞー!!」と一人の軍兵が叫んだ。僕と師匠は身の毛が凍りついた。
―午前0時46分―
赤茶色の屋根の民家から無理やり幼い子供が引きずり出されてきた。5歳くらいの大きい目をした赤毛の子だった。少女は逃げ遅れたのかひどく泣いているようだ。
「ピーピーわめくなガキが!」
軍兵の一人が少女の髪を引っ張った。僕はたじろいだ。
「おっと動くな、いい眺めだろ?人間が恐怖でおびえてる。ああ、いい眺めだなあ。ケケケ!」
狂ってる。こいつらはもう人の心なんか持ってない。
「見せしめだ。殺せ。」
軍兵が銃を構えたその時、師匠は静かに「やめろ」とつぶやいた。あたりから笑い声が消えた。僕は師匠からとんでもない殺気が溢れ出ている事に気がついた。それに気付かない愚かな軍兵はニヤリと笑い少女に向けた銃の引き金に指をかけた。僕は思わず目を背けた。
「…あれ?」
出るはずの弾丸が出ない?どうしてだ?奴の指はもう働いて少女を撃ち殺したはずだ。
僕は奴の指を見た。驚いたなあ、引き金にかけた指が見事に逆方向に曲がっている。軍兵は激痛に叫び声をあげた。
―午前0時47分―
見ると師匠が叫び狂う軍兵の横で泣いている少女を抱きかかえていた。
「ゴメンな、気付いてやれなくて、もう大丈夫だよ。」
優しく慰めている師匠に新手の軍兵が飛びかかってきた。師匠は顔も向けず、軍兵に回し蹴りを喰らわした。すでに気絶した軍兵が崩れ落ちる瞬間、全ての軍兵共々、師匠と少女に襲い掛かった。無駄だ、師匠は人間の域を越えている。たった50人ちょいで勝てる訳無いだろ。案の定、5秒で全滅した。さすがは師匠。お見事でした。
―午前0時48分―
師匠は少女を僕によこした。少女の顔を見ると真っ青な表情をしている。すぐに外に出してやらないと。
「まだ軍兵はたくさんいる。こんな奴ら、とっとと倒してやるよ。」
師匠は、振り返らずにつぶやいた。確かにこちらに大勢の何かが走ってくる音がする。
「後はまかせな。」
「師匠、僕もすぐに加勢します。待ってて下さい。」
「ヘヘ…。待ってる間に全部やっちまってたりしてな。」
ありえるから怖い。
―午前0時53分―
「ありがとう、お兄ちゃん。」
「礼なら師匠に言うんだな。」
城門跡で少女を両親らしき人物に手渡した。まったく、親なのになにやってんだ!
「絶対に城壁内に入らないように!」
僕はそれだけ言うとまた戦場に戻っていった。師匠はまだそこにいた。が、その周りには軍兵が丸太棒のようにどさどさと倒れていた。
「レッキ、後ろ。」
師匠は親切に教えてくれたので、素早く拳を後ろに振った。
―ゴン!
「ギャア!」
鈍い音と共に短い悲鳴が聞こえた。突然、目の前に屋根から軍兵が飛び降りてきた。そいつはライフルを僕にぶっ放した。細長い弾丸が空気を切り僕の額めがけて飛んできた。僕は頭を後ろにやや倒し弾丸を見つめた。弾丸は獲物に突っ込むと言う任務をやり遂げれず僕の頭上を飛んでいった。
軍兵はかなり驚いた顔をしていた。まあ無理もないな、自分の放った弾丸で死ぬはずだった男が真顔で立っているのだから。
「ななななな、なんでえ!?」
当然のように軍兵はその驚きを素直に言葉に表した。僕と軍兵は数秒沈黙した。その後慌てて弾を痩身しようとした軍兵に溝打ちを喰らわした。弾丸を避けるなど、師匠との修行に比べれば子供の遊びだ。
―午前1時00分―
7分後、軍兵は全滅した。
「やれやれ、結構疲れたなあ。」
僕も師匠も服がボロボロだ。
「ス・バ・ラ・シ・イ!」
後ろから大きな声が聞こえた。振り向くと、30代前半あたりの小柄な男性がニヤつきながら拍手をしていた。茶色の長髪をしていて、後ろでまとめられている。白いコート、黒いシャツ、黒のズボン、赤い膝当て、その訳の分からない膝当てに似合わず、白に茶のベルトがかなり派手な靴、緑の眼の下には黒い模様が刻まれていた。ニヤニヤ笑っているその男からは何か、ただならぬものを感じた。
「誰だ、あんた。」
僕はニヤニヤ顔をやめない男にそう言った。
「これは失礼、僕はギルド。こう見えて騎士隊長です。」
「騎士隊長!?」
僕は驚いた。
「へぇ。こんな“ど田舎”に騎士隊長さんが何の御用で?」
師匠は少しふざける様ににギルドに聞いた。
「いいえ、たまには隊長が直々に出向いてもいいでしょう?」
ギルドはニヤニヤをやめ、周囲を見回した。辺り一面に軍兵達が倒れている。
「あなた方…何者ですか?何をしたのですか?」
ギルドは真面目な声で問いただした。
「神技マスターだ。ここの連中は神技でぶちのめした」
師匠が言った。
「神技?…どこかで聞いた様な…まあ、あなた方が誰にしろ、我らの任務を邪魔されては困ります。今すぐ住民達の居場所を吐けば、命は勘弁しましょう。」
「ふざけるなぁ!!」
僕はとうとうブチキレた。
「レッキ、落ち着け。」
師匠はそう言った。
(お、落ち着けだとぉ!?あの男は町の人々の居場所を僕達に聞きだし、虐殺をして、モンスターにするつもりなんだぞ!?)
僕は完全に理性を失っていた。もしかしたらこの男が軍兵に僕の国を襲撃しろと、家族を殺せと指示したかもしれないんだぞ!当の本人はおどけた顔で、僕を見ていた。その後ニヤニヤと再び笑い出した。
「何がおかしい!」
「クックック…あぁ、…そうか!君はあの時の子供かあ!」
…!?
「あ…あの時?」
僕は顔が青ざめたのを感じた。
「ハハ、実は数年ほど前にねぇ、ひとつ国を襲撃したんだよ。そこのある家族を殺した時に子供を一人逃がしたんだけど覚えてる…覚えてるぞぉぉその金色の髪…そうかぁ…君だったのかぁ。」
「ウワアアアアアァ!」
僕はなりふり構わずこの男に飛びかかった。こいつが、こいつが僕の家族を!
「やめろバカ!!」
師匠がそう叫ぶ瞬間、僕はふっ飛ばされた。ギルドが素早く腕を振り、僕を叩き落としたのだ。僕は立ち上がろうとしたが無理だった。足が折れていたからだ。
「いやあ、お久しぶりですねぇ。こんなにたくましい青年になるとは、フフフ、あの後必死で探したんですよぉ。結局、僕の唯一の失態になっちゃったんだけどね。…あの時は生き恥さらしちゃいましたよ。」
「く、くそぉ…。」
僕はうめいた。まさか…、新年にこんな田舎町で僕の家族を殺した張本人に会うなんて。
―午前1時17分―
僕はこれまで味わった事の無い怒りと悲しみ、そして決定的な挫折に苦しんでいた。ギルドは嘲笑しながら僕に近づいて来た。
「弱い弱い。よくその程度で僕に勝負を仕掛けたねえ。どうして君に僕の軍兵達が負けるわけ?」
黙れぇ…。
「そうか!きっと軍兵達がザコ並の弱さだったんだ。」
ギルドは、僕のすぐ横にいる軍兵の頭をつかみ、片手で持ち上げた。
「ねえ、君ぃ、なぜこんな奴らに負けたの?」
軍兵は震えながら
「こ、こいつらが強すぎでぇグベェ!」
軍兵は、弁明を全て言い終わらない内に永遠に黙った。
「思った通りザコ並だね。」
師匠は黙り込み身体から血の吹き出た軍兵を見ている。
「何て事を…あんたの部下だろう…。」
僕は真っ青な顔でつぶやいた。
「“これ”が部下ぁ!?ヒャハハハァ!これらは手玉だよ、て・だ・ま!こんなんが部下なんてバカ言わないでほしいなあぁ。」
くそ!こいつはもう人としての理性は残ってないんだ。こんな奴に…僕の家族がぁ…!
「バカな事じゃねえよ。」
師匠が突然言った。ギルドは冷淡な顔で師匠を睨んだ。
「何?」
「レッキの言う事はバカな事じゃねえよ。」
師匠…。
「さっきから黙って…。神技マスターだか知らないけど、あんた誰?名乗れよ。」
師匠はギルドを睨み返し、「シーク・レット」と、名乗った。
「シーク・レット!?」
ギルドは蒼白になった。
何だ?師匠の事を知ってるのか?奴の驚きぶりは異常だ。目をいっぱいまで開いて師匠を見ている。
「どうした?まるで化け物でも見る顔してさあ。」
師匠は楽しそうに言った。
「シーク・レット…。過去に蒼の騎士団に大打撃を与え、ほぼ全滅にさせたあのシーク・レット!?」
な、何だと?師匠は蒼の騎士団とそんな関係だったのか!?そんな事一度も僕には言ってなかったじゃないか!?
「なななな、何でそんな奴がこんな所に!」
ギルドはかなり驚いている。
「…レッキに神技を教えるため修行兼、放浪の旅をしている。」
ギルドは私を指差し、「レッキ?ああこのザコか!」と言った。瞬間、師匠にふっ飛ばされた。奴は数十メートル飛び、城壁にぶつかり共に崩れた。
「レッキをザコと言うなあぁ!!」
師匠がキレた。
―午前1時20分―
「ガ、ガハアッ!」
ギルドが面影を失った城壁から出て来た。
「お前はもう勘弁ならねえ。」
師匠は怒り剥き出しにそうつぶやいた。ギルドはかなり焦っていた。
「マズイ…。強すぎだ。」そう何度もつぶやいてた。
「来いよ。」
師匠は静かに言った。ギルドは焦りながら自分の腕時計を見た。すると表情が変わった。さっきの様に冷静な顔に。
「何だ?」
師匠も困惑している。
「ヒャハア!あなた方はテロの主犯て事で抹殺させて頂きましょう。」
何だ?あの余裕…。
「んなら、早くかかって来いよ。」
「まあ待ちなさい。」
ギルドはそれだけ言うと身体を丸めた。
「カアアアアアア!!!!」
何だ!?辺りが揺れ始めた。見るとギルドが空中に浮いている。身体に真っ赤なオーラらしきものを纏い、唸っている。師匠は「エネルギーが膨張している…!!」と叫んだ。
その瞬間ギルドの白コートが散り散りになった。続いて、黒シャツが真っ赤に染まり、眼の下の模様が大きくなり顔全体が真っ黒になった。しかし、鼻から口までは真っ赤に染まる。黒シャツだった赤い物は腕まで伸び、上半身は真っ赤になった。腹には黄色のベルトが浮き出て、それから筋肉が膨らみ始めた。身長は160いくつかだったのが200まで伸びた。と言うより大きくなった。そして、頭から巨大な金の角が二本飛び出て来た。肩からは暗黒の翼が生えて来た。青白い電気を帯び、ギルドはかなり変わってしまった。その姿はまるで…。
「悪魔だ…。」
第3章へ続く。