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第21章:ドンナ一族?

―3001年 3月2日 午前5時19分 ナタデ地方 ナツココ空港―

「ナタデ地方にようこそ~!」

お出迎えにアロハ姿の女性にキスされた。
こんな朝早くから御苦労様です。

「レッキ君、顔真っ赤だね。」

サイモンさんは楽しそうだ。いつのまにやらあの球体の仮面をかぶっていた。

「にゃはは、耳まで真っ赤じゃん!にゃぽ~おもしれー!」

プヨン教授は笑い転げている。このやろう。

「…。」

ミサはムスッとした顔でこちらを睨みつけていた。何 故 だ 。

「それじゃあ南方支部へ行きますか。」

僕はメガネをかけ直し、スタスタと歩き始めた。

―午前5時27分 ナタデ地方 ナツココ空港 駐車場―

「おかしいな…書類によるとここでお迎えの人が来てくれるらしいんスけど…」

クリスは辺りを見回している。

「あの人は違いますか?」

ミサが数メートル先の駐車場の出口を見つめている。
見ると…おやおや、いつぞやの茶色のコートの男、プロさんが手荷物を抱えて歩いているじゃないか。
彼は僕に気付くと、愛想のいい笑顔で手を振った。僕は軽く手を振って返した。

「お知り合い…ッスか?」

クリスはキョトンとした顔で僕を見た。

「え?…別に、彼にチケットを買ってあげただけですよ。」
「親切だねぇ…ウン、感心感心。」

サイモンさんはウンウンと頷いた。

「でも…あれ見てください!あの人の背中…」

背中?僕は彼をよく見つめた。

『“誠”』

達筆な誠の文字が刺繍されていた。あの時は見えなかったけど…。
あれがどうした?

「あれは国家の紋章だって…ニタリさんが言ってましたの。」

ミサは目をパチクリさせながら言った。

「ウン?それは本当かい?」

サイモンさんは驚いた。

「じゃあ彼は国家職員かもしれないでぷね、レッキ君、君はとことん国家に関わってきていまぷねぇ。」

プヨン教授はサイモンさんの仮面の上に乗っかっている。
『ほっといてください』と言おうとした時、

「おい、お前等が受験者か?」

いきなり後ろから声をかけられたのでびっくりした。見ると、背後に大勢の国家職員を連れている黒髪の男が立っていた。
その顔は生傷だらけだ。もの凄い目つきで生傷の男は僕達を睨みつけている。
彼が着こなす白いコートの内側には真っ黒なスーツが見えていた。
そしてプロさんにも見られた“誠”の文字。この人は国家職員だ…。

「ふん、どいつもこいつも世間知らずな田舎者だな、キョロキョロと辺りを見回しおって…」

口が悪いなぁ…僕は少しカチンと来た。

「俺の名は“スチルサウザンド・ドンナ”だ。ああ、スチルでいい。かなり物凄い名前をもらってしまってな。」

知らん。

「…南方支部で試験官としてお前等を待っていた。」

スチルと名乗った男は、それだけ言うと、ズイッと僕の前に歩み寄った。

「うお。」

思わず声が出た。

「お前の事は知っている。筆記テストで一位を取った天才的頭脳を持った受験生、レッキ。」

鋭い眼窩だ。灰色の瞳はしっかりと僕を見据えている。

「ふむ、冷たいが正義の心は持っているようだな、よかろう、ついて来い。」

彼はコートをひるがえすと、国家職員達を従えてスタスタ歩き出してしまった。

「ちょ、ちょっと…」
「早く来い!迷子になっても知らんぞ!」

ひゃあ、厳しいと言うよりめちゃくちゃな人だ。

「ム?ちょっと待った。」

スチルが立ち止まった。

「受験生は裁判機関研修生を入れて3人のはずだ…もう一人の受験生は誰だ?…よもやそのチビスライムではあるまいな?」

プヨン教授はムッとした顔をした。
彼はサイモンさんの頭から降り立ち、こう言った。

「ボクはチビスライムじゃないでぷ!プヨン・アイキュー・ビリオンという列記とした名前がありまぷにゃ!」

しかし何度聞いても取ってつけたような名前だ。

「プヨン?国家機関にとことんケンカを売っている野蛮なスライムか、よく俺の前に立てたもんだな。」

おぉ、口がジェットスキー並に滑りましたね。

「あっ…ぼ…あ、はは…」

プヨン教授は引きつった笑顔でごまかし始めた。

「ち、ちちちちちちちち違う違う~そそそそいつはプヨン・アレグレッチノフ・シュノクフスキーでぷよぉ、ボボボボクの従兄弟の大叔父の親友の部活仲間のおじさんの妻の妹の甥でぷよ、にゃは。」

途中から他人になっている。

「…まぁいい…そこの仮面、お前は違うのか?」

スチルはサイモンさんを睨んだ。

「ウウン、僕はただの絵描師さ、受験生は彼女だよ、ウンウン。」

サイモンさんはミサの肩を叩いた。

「ム?こんな小娘がか?ハッ!…信じられんわ。国家機関はこんなガキの子守りをする場所ではない。」

スチルはミサを見下している。
ミサは真っ赤な顔でうつむいた。

「ミサ…ぐっ!…」

僕はいよいよ我慢の限界だ。

「あの…彼女は僕と同じ筆記テストで優秀な成績を取った子です。あなたが僕等をどう思うかは勝手ですが…見た目で判断するのは止めていただけますか?」

眉間にシワを寄せて、僕はそう言い放った。

「レッキ…」

ミサが僕を見上げた。

「何だその言い方は?俺は国家機関内でも上級の階級だぞ?お前みたいな小物、すぐに消せる―」
「構いませんよ、どうぞ消してください。あんたみたいなのが国家機関にいるから蒼の騎士団が好き勝手に暴れ回ってるんだ、そんなとこに就職なんて死んでもいやだ。」
「ちょ、ちょっとレッキさん…」

クリスがオドオドしながら止めようとしている。
スチルはしばらく黙っていたが、

「ふふふ…ははははは。」

笑い出した。
キョトンとする一行を前に彼はこう言った。

「いや、スマンスマン、お前の度胸が知りたかった。国家職員たるもの、上に反発する度胸も必要だからな。少しテストをしたんだ。はは、これは久しぶりに面白い奴が来たぞ。」

スチルは笑いながら再び歩き出した。

「はは、演技だったんだね、ウン。」

サイモンさんが笑い声を上げた。さっきの言葉は本心じゃないってわかったが…何だか悔しい。

「ちぇっ…じゃあ、行きましょうか…ミサ、クリス…」
「はい…」
「うッス」
「あ…じゃあ、僕はここら辺を散策してるよ、じゃあまた。」

サイモンさんはプヨン教授を頭の上に乗せて歩き出した。

「あ~!ボクは南方支部を一目見るんでぷにゃあ!」

プヨン教授の声が響く。
危なっかしいからサイモンさんにはしっかり見張ってもらわないと。
僕達は早足で彼を追いかけ始めた。

―午前5時32分 ナタデ地方 商店街―

様々な野菜や果物、見た事のない生き物の肉まで売っている。
ここの商店街は凄い。が、

「はうえ~早い早い!」

スチルさんはほぼ走りに近い早歩きをしている。
ミサは思わず悲鳴を上げた。

「どうした、遅いぞお前等。」

スチルの周りを取り巻く国家職員は凄い。
顔色一つ変えずにペースを合わしている。

「ひぃひぃ、もうダメですの。」

ミサはすっ転んでしまった。

「やれやれ。」

僕はミサを背負って走り出した。

「ごめんね足引っ張っちゃって…」
「ミサにはちょっと無理な運動でしたね。」

ミサが落ちないようにしっかりと支える。

「…えへへ?」

ミサは何だかわからんが嬉しそうだ。

「おほぉ、へぇ~」

クリスは面白そうにこっちを見ている。何 故 だ ?

―午前6時00分 南方支部 大門―

アラビアの宮殿を連想させる巨大な建物だ。
オレンジのタマネギみたいな屋根、ドッシリと構える城壁、そして鋼鉄の巨大な門。
現在僕とミサ、そしてクリスは南方支部の大門前で待たされている。

「でっけぇー」

クリスは目を丸くして見ている。

「凄いな~これが国家の南方支部かぁ!セントラルよりはちっさいけど…それでも立派ッスねぇ!感動ッスよ!」

楽しそうにクリスは目を輝かせる。

「それにしても遅いですね、あのスチルって人…」

僕は懐から懐中時計を出した。
師匠から10歳の誕生日にもらった時計だ。
もう6時、あれからもう約30分経っているわけだが。

「わたしあの人好きになれませんの。」

ミサは頬を膨らませてる。

「わたしやレッキの事をおちょくりましたの。」
「多分違いますよ、あれはテストの一種か何かでしょう。僕等を試したかったんですよ。」
「でも、むかつきますの。」

プンプンと怒りながらミサは腕組みをしてる。

「怒らせてしまったか、でもそれを我慢するのも国家職員として必要事項だぞ?」

スチルがいきなり背後から話し掛けてきた。

「びええ」

ミサがシュパッと僕の後ろに隠れた。

「うおーびっくりしたッス。」

クリスは飛び上がった。

『…何だと?』

“けはい”を感じなかった。師匠みたいだ…。

「入れ、待たせたな…奥の応接間で待機していろ。」

鋼鉄の扉が音を立てて開きだした。

「ようこそ南方支部へ。」

―午前6時10分 南方支部 応接間―

高級そうなシャンデリア、高級そうな暖炉、高級そうなソファー、高級そうなテーブル、高級そうなコーヒーカップに、高級そうなポット、そして、安そうなせんべいの入った深皿。

「ここでしばらくお待ちください。」

国家職員は僕等にそう言うと歩き去って行った。

「…やれやれ…」

とりあえずコーヒーでも飲むか。

「レッキさん、お砂糖は何十個欲しいッスか?」
「要りません。」


……………………………………………


沈黙の時間が流れる。
僕はコーヒーを一口含むと、懐から本を取り出した。3日間かけて読んできた推理小説。
読んでしょっぱなで犯人がわかってしまったが。しかし、この静かな空間、素晴らしい。僕はこういう雰囲気が大好きなんだ。

「暇ッスね~ミサちゃんトランプしない?」
「やりますの~」

この2人がいない限りだが。

「それが受験生であるべき態度なんですかね?…静かに待ちなさいってば。」

ミサはトランプを持ったまま不満そうな顔をしながら言った。

「えー?いいじゃないですかぁ…バリボリ。」

せんべいを食うな!

「いいじゃないスか。あの人来てないしぃ、暇をもてあます事が受験生としてどうスか?」

どうもクソもあるまい。

「じゃあ、ババ抜き始めるッスよ。」
「は~い!」

勝手にしろ。

―午前6時30分 応接間―

―バン!

いきなり扉が開いた。スチルが腕組みをしながらズカズカと入って来る。
ミサとクリスは慌ててトランプをしまった。

「うむ、待たせたな…」

目の前のソファーにドスンと座り、スチルはギロリとこちらを睨んだ。

「さて…レッキ、ミサ、お前達は先程も言ったように筆記テストでも好成績を収めた優秀な受験生だ。胸を張っていいぞ、俺が許す。」

やっぱコイツ偉そうだ。

「しかしだ、国家職員、いや、ブレイヴメント(勇攻機関)、パニッシュメント(処罰機関)の戦士に志願するとなると、知能だけでは生きていけない世界になるわけだ。知能の他に、精神、体力、筋力、反射神経、運動神経、そして、特殊な能力の所持が必要となってくる。知能だけで受けるとなると、落第点となるぞ。」

つまり軍隊みたいなものってわけか…。

「まぁ…レッキの場合は、神技と銃器のスキルがあるからまだしも、ミサは特技にはなにも書かれてないな…」

ミサは黙りこくる。

「まぁ、ミサにも何か力があるはずですよ。…きっと、うん…」

うん…。ミサは引きつった顔でこっちを見た。

「レレ、レッキ…う、うんって…」

うん…。

「…まぁいい、クリス、最近裁判機関での研修はどうだ?」

クリスは急に呼ばれたのでびっくりした面持ちだ。

「は、はい!え、えと、自分は剣術と共に6000の条項を半分まで暗記しております!」

多いな。覚える気になれん。

「うむ、よろしい、日々、精進をしろ。」

スチルはそれだけ言うと、懐からでかい封筒を取り出した。

「さて、これが重要な資料だ。」

彼はおもむろにそのでかい封筒をテーブルの上に置いた。

「何ですか?これ…」

ミサが触ろうとする。

「むやみに触るな!」

スチルはミサに向かって叫んだ。

「ひゃあ!」

ミサは驚いて手を引っ込めた。

「それは全世界の全てを左右させる極秘資料だ。少しでも破れたらえらい事になるだろうが!」

ならもっと厳重な袋に入れて渡せって。
ミサはいきなり怒鳴られたので涙目になっていた。

「とにかく、それをセントラルに持って帰るのがお前等の使命だ。いいか?真っ直ぐにセントラルに帰れ。その極秘資料を奪おうと、全世界の犯罪者共が目を光らせているからな…」

スチルはそう言った後、更に3回念を押すように真っ直ぐ帰れと言い放った。

「そんなに重要なんですか?」

僕は少し緊張した顔で聞いた。

「ばか者、重要なんて生易しいレベルのものではない。それは我が国家機関はおろか、世界全てをめちゃくちゃにしかねない大惨事の鍵ともなりかねんのだ。」

おほぉ、凄いもんを受験生に渡すなぁ。

「本当に凄いもんなんスね。」

クリスは少し嬉しそうな顔をしてる。
おそらくこういう仕事を待っていたのだろう。

「うむ、まぁ、この資料の内容は俺もよくわからんのだ、俺のばあ…じゃなくて姉貴しか見ていないのだ。この資料は。」
「姉貴?」

僕達3人は同時にそう言った。

「ああ、うん…俺の実の姉だ。ここで共に働いている…悲しいことにな…」

悲しいことって…。

「姉貴も時期に来る…。ちょっと待ってろ。詳しい話は姉貴に聞くといい。」

―同じ頃 ナタデ地方 商店街 トイレ―

僕はこの数年間付き合ってきた円形の仮面をせっせと磨いていた。
よく見ると傷が目立つ。参ったなぁ、素顔もただでさえ怖いってのに…傷だらけの仮面なんておっかなくてしょうがない。
目の前の鏡には縫い傷だらけのおぞましい顔。僕は思わず目を背けた。

「サイモン君、早くしてくだぴゃいよ。」

あのスライム君は個室の外からデリカシーの無い言葉を出した。

「ウン…今ちょっと取り込み中で…もうちょっと待っててくれないかな?」
「力んでるんでぷか?『ウン』なんて」

ウ…。

「これは口癖だよ、仮面を磨いてんの!…ほんとだよ?」

信じてもらえなかった…。
教授は白い目でこっちを見ている。

「…。」
「ウ…ン…じ…じゃあ、待ち時間の間、何してます?」
「じゃあ、ここに行きまぴょう!」

教授は、パンフレットのある店を指差した。
様々な薬品、そして“属性学術の本”が売られている店だ。

「ウン、何故ここに?」
「にゅふ、ここの店は我が社、トロピカルラグーンがスポンサーになってる店なんでぷよ、だから、我が社の宣伝もしてもらっているわけ!…どんな状況か見に行くんでぷよ。」

なるほど。

「ウン、トロピカルラグーンなら僕も聞いた事があるよ、奇抜な発明品や研究で有名だしね。」

僕がそう言うと、教授の顔が明るくなった。

「いやぁ、まあ~ボクの研究所がそんなに人気だからって全っ然!嬉しかないっての!にゃははははははは。」

教授の鼻がニュッと伸びた。天狗だよ天狗。

「じゃあ、行きまぷかねぇッヘヘヘヘ、“超”!!有名なトロピカルラグーンがスポンサーとなってるお店にぃッヒヒヒヒ。」

非常に分かりやすい性格だ。ウンウン。

―午前6時45分 商店街 属性学専門店―

「ども、ども、スポンサーのプヨンちゃんでぷよ。」

教授はその店の前で店主らしき人物に声をかけた。

「こ、これは予想以上だなぁ、ウン。」

その店は他の店より一回り大きい建物だった。
客らしき人達もゾロゾロと中に入っていく。“属性学”の商品も店頭に並んでる。

「こ、これは中々調合が難しい薬品じゃないか!」
「えぇ!?これは安すぎる!」

客の人々はそれを見て驚いたり、喜んだり。

「にゃっぽい、サイモン君、ちょっと来たまえ。」

教授が手招きをしてきた。
店主は全身を漫画でしか見た事のない金ぴかのスーツで着こなしている。
もちろん金歯の男性である。

「おやおや、こりゃまた面白いカッコの人ざんすね~」

えぇ――っ!?ざんすってバカ!

「にゃっぽい!彼はこのお店の店主、チリッチ・リッチ―(仮名)君でぷよ」

本名を教えなさい。

「彼はサイモン、世界でも少数の“属性学を勉強した人間”でぷ、リッチー(仮名)君、中を見学させてあげてよ」
「OK~!」
「ウンン!?ちょ、ちょっと!確かに僕は属性学の勉強はしたけど、勝手に決めるのはよくないだろ!?」

あ、ダメだ完全に話を聞いてない。

「さぁさ!こっちに来るざんす!」


気が付くと、僕は店内に連れ込まれていた。

「しかし、珍しい薬品ばかりだね、どこで仕入れてるんだい?」

リッチ―(仮名)さんはただただ歩くだけだった。

「…ウン?」
「いやあ…ある方法で…ね…」

彼は僕に気がついたように慌てて答えた。

「ウンン?ある方法…?」
「そう、ざんす…」

ウンン?この人…何か雰囲気が変わったような…。

「サイモン…だっけ…」

いきなりリッチ―(仮名)さんは聞いてきた。

「ええ…まぁ…」
「あたくしはどこかで聞いた事があるざんす…“タスト村”ってとこから帝国へ軍兵として志願して…隊長になって行方不明になった男の事…」

……僕の事だッ……!!

「サイモン…名前がソックリざんす。」

名前まで知ってる…そんなに名が知られてるのか…!?

「サイモンって名前は結構多いから…別人だよ…ウン」
「さっきから『ウンウン』言ってるけど…あれぇ?喋り方も似てるざんすね…行方不明になったサイモンって人に…」

僕は何だか気味が悪くなってきた。
そんな事聞いてどうするつもりなんだコイツ…。

「ウン、もう充分だよ、ありがとう、楽しかったよ、見学。」

僕はここから出ることにした。

「えぇ?もういいざんすか?サイモン君。」
「ウン、あまり気安く“君付け”で呼ばないでもらえないかな、君と僕はまだまだ初対面だ。」

僕は踵を返すと、出口に歩き出した。



リッチ―(仮名)は無線機の受話器を持ってこう言った。

「ノアさん、№5491を発見したざんす。」



「あれれ、もう見学はおしまい?」
「ウ…何をしてるんだい…。」

教授は店の外で実演販売をしていた。
もちろん半端じゃない人だかり。

「今製品を全部売り切ったとこでぷよ、にゃは、で、リッチ―(仮名)君はどうだった?」
「不気味でしたよ、ウン。」
「…?…そう…」

教授はセットを片付けながら、不満そうな僕を疑問そうに見ていた。
しばらくして僕と教授はその店を離れた。

―午前6時55分 商店街―

今、僕と教授は、商店街を2人で歩いている。

「あ~あ、早く終わんないかなぁあいつら。」

教授は愚痴を吐いてる。すると、いきなり声をかけられた。

「おうおう、何だぁ?お前等!」

おうおう、誰だい?君達は!
スキンヘッドの大男と背の低い男がズンズン歩いてきた。

「にゅむ~さすがはナタデ地方、平気でケンカを売ってくる小悪党がたっくさん!」

教授は眉間にシワを寄せた。眉はないけど。

「お前等、旅行者かなんかかぁ!?ここいらは俺達の縄張りなんだよ!ここにいたきゃ滞在料20000グラン耳をそろえて置いてってもらおうか!?」

スキンヘッドの男はそう言った。

「ウンン…20000グランって、ボッタクリじゃないか。」




「へくしゅん」
「どうしました?クリボッタさん。」
「い、いや…誰かが僕を呼んだ気が…」




「とにかく、そんな金払えないし、払う気もない、ウン。」
「あぁ?」

スキンヘッドの男はナイフを取り出すと、僕のむなぐらを掴んで来た。

「てめぇ、とっとと金出さねぇと殺すぞ!」
「そうだ!お前、早いとこ金出さないとマジで殺されっぞ!?」

小男がスキンヘッドの男の後ろからそう言った。教授はため息をつくと、

「やれやれ、サイモン君、こいつらをのしちゃってくだぴゃい。」

と言った。

「え?」
「こういうアホ共は口で言うより身体で叩き込まれる方が身の程を知りやすいんでぷ、さ、どうぞ、いいでぷよ、ボクが許しまぷ。」
「…ウン…」

そうだな…教授とは気が合うな…僕もこういうアホ共は大嫌い…ダァ!

「ぐべえッ」

僕は大男を5メートル程蹴り飛ばした。

「ナイスキック!」

と、教授。彼はそのまま気絶してしまった。

「ア、アニキ!」

小男は飛び上がった。

「ウン、くだらないたかりは止めて、働いたらどうだい?」

人のことは言えないけどね。

「うるさい!クソォ!よくもよくも…」

小男もナイフを取り出した。そして、ちょうど近くにいた男の子を捕まえてしまった。

「あっ!」

男の子は泣き出し、周囲はパニック状態に陥った。

「キャアアアアア!!」
「う、うわあっ!」
「マジかよ!」

色々な声が飛び交う。

「このやろう!金出さないと殺人やらかすぞコノヤロー!」

これはマズイ。

『ウン…さすがは犯罪者の都だ。どいつもこいつも腐ってやがる。』

僕は呆れて声も出ない。

「にゃぷ!サササ、サイモン!何とかしろ!」

ムチャを言うなって!
これはむやみに手を出せない。

「ははは!金だ!金出せ!ははは!」

小男は今にも男の子を傷つけようとしてる。クソォ…。
その時だった。

「ここはうちに任しておくれやす」

おっとりとした声と共に小男が吹っ飛んだ。

「え?」

男の子は?どこだ?

「あーあんたは…!」

教授が声を上げた。見ると、そこにいたのは、ピンク色のドレスと、丸い帽子をかぶった女の人でした。

「誰!?」
「驚いたなぁ…」

教授が目を見開いたままこう言った。

「彼女はフリマ・ドンナ、チームパンドラの一員でぷよ。」



一方、ある酒場にて…。

「というわけでだ、蒼の騎士団ってのは恐ろしい連中なんだよ!知ってたか?」

2人の中年の男性が話し込んでおる。

「ええ?あいつらってそんなおっかない奴等だったのか?」

片方は驚いたような声を出した。

「…ふむう…」

ワシはそやつ等の話に興味を持った。よし、詳しく聞いてみるか。

「お主、その話は本当か?」
「ん?何だお前。」
「…蒼の騎士団は民衆の平和のためにモンスターを討伐していると聞いておるのじゃが…」
「あー違う違う!それはあいつらが勝手に流した嘘っぱちだ!…実際あいつらの恐ろしい正体にほとんどの連中が気付いてんだ!」
「ほほぉ…うむ、わかった…ワシがその蒼の騎士団とやらをこらしめてやるわい。」
「…は?」

ワシはゆっくり立ち上がると、その酒場から出て行った。



「あいつ油断しまくりだぜ、へへ。」

話をした男は今の男の財布を抜き取っていた。

「しかし変な奴だったな。」
「ああ、蒼の騎士団をこらしめるとかイカれたこと抜かしてたし…何より…」



「若者のくせに爺さん口調だった。」


第22章へ続く

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