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第22章:センネン参上 

―3001年 3月2日 午前6時55分 ナタデ地方 商店街―

小男は完全に気絶してる。
しかし、ありえん。彼女は小男から7メートル離れてる。とても攻撃なんかできる距離じゃない。もはや人間業じゃないんだ。

「もう、大丈夫どすえ~」

彼女は男の子を両親らしき2人に受け渡した。

「ありがとうございます!」

2人は何度も礼を言った。

「いいえ~」

“ゆっくり”というより“ほんわかと”した口調。か、かわいい…。

「フリマ君でぷね?いやぁナイスお助けでぷにゃ。」

教授がいつのまにやら彼女の元に駆け寄っていた。

「あらぁ?小さいスライムちゃんどす~」

フリマさんは教授を抱き上げる。

「かわえ~」

いいなぁ…じゃなかった!

「ありがとうございます…危ないところでした、ウン。」

僕は彼女にそう声をかけた。

「はい~?」

フリマさんは振り返る。

「あらぁ~こりゃまたかわえぇお面ですえ~」

か、かわええって…。

「にゅぷぷ、フリマちゃん、放してちょんまげ」

教授殿が呻き声を上げた。

「ありゃりゃ?ごめんなさいねぇ」

彼女はゆっくりと教授を降ろす。

何で名前を知ってるの?とかは一切聞かない。

「え…えと…」
「サイモン君、凄いモノを見まぴたねぇ。彼女は国家機関の一つ、ブレイヴメントの“チームパンドラ”の一員、フリマ・ドンナでぷにゃ!」

チームパンドラ?

「あ、知らなそうでぷね。国家機関は各国から選りすぐりの戦士を集めて、いくつかのチームを結成させたんでぷ。その中で“最強の国家チーム”の称号を得たのが、“チームパンドラ!”でぷにゃ。」

なるほど、それも不法な情報取引で手に入れた情報かぁ。

「いいでぷか?チームパンドラは7人の戦士と、1人の指揮官で構成されていて、その一人一人が一つ国を崩壊させるほどの戦力を持ち合わせていると言われてまぷのにゃ!」

国を崩壊!?

「じゃ、彼女もそんなとんでもない力を…?」

僕は人々の歓声を浴びている彼女を見た。

「どうも~お騒がせしましたぇ~」

…とても国を壊滅させれる戦力を持っているとは思えない。

「ウウン…。」
「あ、いけない!うち、これから受験生の子を見に行かなきゃならなかったんですえ!」

彼女はいきなり何かを思い出したようだ。

「ウン?…受験生って…レッキ君達の事じゃないか…。」

僕がそう言い終えない内に彼女は消え去ってしまった。

「ウン?…え?…え!?」
「はえー」

教授は道の向こう側を見つめてる。
見ると、ピンク色の何かが脱兎のごとく飛び去って行ったのがわずかに見えたところだった。

―午前6時57分 南方支部 応接間―

―どごーん!

いきなりピンク色の流星らしきなにかが応接間の窓を突き破り、クリスに突進してきたのだった。

「む?ばぁ…じゃなくて姉貴、まともな帰り方は出来んのか?」

スチルは呆れ顔でそう言った。
見ると、頭から血を流したクリスの傍らにピンク色のドレスと丸い帽子をかぶっためがねの女性が立っていた。

「えへへ、ただいまぁ、スウちゃん☆」
「そ、その呼び方はやめろ!」

スウちゃんと呼ばれてるらしい。
スチルと謎の女性の会話はどうあれ、クリスの安否が心配である。

「クリス、クリス、生きてますか?」
「死んでるッス。」

よし、生きてる。

「ごめんねぇ~スピード上げると止まらないんです…ぇ……」

彼女は僕を見たまま硬直した。

「…?」
「…か」
「…か?」
「かわぇ――――――――っ!」

えぇ!?

―むぎゅ

彼女がいきなり抱きついて来た。

「ふぅあぐ!」

ミサが怒りの呻き声を上げた。何 故 だ ?

「きゃあ~めっちゃかわえぇ、何ですえ?この子が受験生の子なのスウちゃん?」
「ス、スウちゃんと呼ぶな!…そうだ。そいつが受験生だ。ガリガリのデスクワーク系だと思わんか?……おい…。」

彼女は全く聞いてないご様子。ますますきつく抱きしめる。
しかし小柄な身体なのにものすごい力だ。

―むぎゅぎゅ

苦しい。

「きゃ~ん☆食べちゃいたいくらいかわえ~☆」

食べないで。

「姉貴、いい加減離してやれ。話がちっとも進まん。」

スウちゃんがそれだけ言うと、彼女はやっと僕を解放した。

「ごめんねぇ。」

息ができなかった…苦しい…。

「ハァッ…ハァッ…何をするんですか。」
「スマンな、このアホはフリマ・ドンナ。俺のば…じゃなくて姉貴だ。」

フリマと呼ばれた女性は満面の笑みでぺコリと頭を下げた。

「よろしくおねがいしますえ~」

まったく…僕はミサに身体を支えられている。
それだけ苦しかったということである。

「大丈夫?」

ミサが不安そうに聞いた。

「…なんとか。」

下手すれば倒れそうだが。

「そこにいるコもかわええなぁ。」

ミサに向かってフリマさんは嬉しそうにそう言った。

「フン!」

ミサはそっぽを向いた。

「あらぁ?」
「姉貴!」

スチルが少し怒っている。

「あらら、そうでしたぇ…その資料のことについてはスチルから少し説明を受けたはずですえ。」

フリマさんは僕達の向かい側のソファーにポフッと座り込んだ。
続いてスチルもドカッと座る。

「そこで倒れてるかわええ女の子も起こしてちょうだい。」

気絶させたのはどこぞのお姉さんでしょうか。

「クリス、起きれそうですか?」
「う~ん…ムリッス♪」

うん、それだけ言える元気があるなら立て。

「じゃあ、説明を始めますえ。」

フリマさんは真面目な顔つきで口を開いた。

「蒼の騎士団、その正体はあなた達もわかっているはずどす。」
「蒼の…っ!?」

背筋が凍りついた。


「やっぱり…国家の人達もあの人達の正体に気付いていたんですの?」

ミサの問いにフリマさんは頷いた。

「ええ、我々も蒼の騎士団の総統、デスライクの潜伏している場所を捜索していますえ、しかし、未だに奴等のアジトは見つからないのですえ。」
「そうですか…」

僕は少し落ち込んだ。
国家機関なら奴等の情報くらい持ってると思ったのに。

「蒼の騎士団も放っておけんが、他の連中も危険だ。」

スチルが口をはさんだ。

「他のって?」
「十二凶ッス。」

クリスが彼等の代わりにそう言った。

「十二凶って…?」
「十二凶とは、一般国民は知らない強力な力を持つ十二の悪党達のことッス、まぁ…蒼の騎士団も登録されているッスけどね。」
「詳しいな、勉強が功をそうしたか。」

スチルが感心している。

「え?あ、はは…どうも。」

クリスは嬉しそうに頭をかいた。

「クリスの言うとおりだ。蒼の騎士団以外にも、世界を揺るがす脅威はたくさん存在している。例えば、空賊の中でも最強と言われるトランプ戦団。こいつらは最近ある国家支部に打撃を与え、10万人を越す死者を出す程の惨事を起こした。今では消息は不明だが、セントラルが調査を進めている。」

トランプ戦団…。センスの無い名前である。

「話を戻しますえ、この資料の内容は蒼の騎士団を含める十二凶についてですえ。」

なるほど。

「いずれ十二凶は全世界の国民を巻き込む、そう、戦争を起こしかねません。そうなったら、我々国家戦士は彼等を食い止めなければなりませんえ…しかし、うちらも歳が歳。若い方も一緒に戦って欲しいのですえ。」

この資料はそれについての内容が詳しくつづられているらしい。

「セントラル、最高指揮官、ドン・グランパに渡してください。それが今回のあなた達の任務どす。」
「…わかりました。」
「了解!」

クリスが敬礼した。

「はい!」

ミサは元気のいい返事をする。

「掛け声くらい決めとけ…。」

スチルは肩を落とした。

「ごめんねぇ、このコ、典型的なA型君でねぇ、几帳面すぎるところがたまにキズでね~、あ、でもカワイイとこもあるんですえ、こないだなんてうちにセーター編んでくれて―」
「姉貴ぃぃぃぃ!!!!」

スチルが顔を真っ赤にしている。
中々面白い光景である。

「あら、ごめ~んね♪」

本当にこの人達は戦えるのだろうか…。
しかし、フリマ…ドン・グランパ…どっかで聞いたような…。

―午前7時30分 南方支部 大門前―

話も終わって僕等は支部から出たところだ。

「やれやれ…」

とんでもない仕事を受けてしまった。

「思ったより優しい人達でしたの。」

ミサの抱える大きいトランクの中にあの極秘資料がぶちこまれている。

「ミサちゃん、重くないスか?」

クリスが目を丸くしてる。
このトランクは丈夫な造りになっているため、80キロあるのだ。バカもいいとこだ。

「重くないよ~じぇ~んじぇん☆」
「まじスか…」
「あ~大丈夫ですよクリス…。」

僕は彼女をミサから少し離して、ミサについて話すことにした。


「えぇ!?」

やっぱり驚いた。

「一緒に行動するからには、ミサのことをよく知ってもらいたかったんです。…でも、やっぱり変ですかね…。」

青ざめた顔をしてるかと思い、僕は顔を上げた。

「何言うんスか?」

クリスは何気無い顔をしている。

「…え?」

へっへっへ、と明るい笑い声をしながらクリスはこう言った。

「自分はそんなこと何にも気にしないタチッス♪彼女はただのカワユイ女の子にしか見えないッスよ。」

非常にあっけらかんとした言葉である。

「クリス…。」
「それから…そんなこともう二度と他の人には言っちゃダメッスよ。」
「へ…?」

“あーやっぱわかってない!”

クリスはムッとした顔をした。

「もしも、あなたが陰でミサちゃんのことを話してるって…彼女が知ったらどう思うスか?」
「…それは…」
「レッキさんは少し女心ってのをわかってないスねぇ、ま、自分も男だからお互い様ッスね♪」

それは違うと思う。

「わかりました…女心ですか…。」

女心なんざ、師匠としかあまり話したことなかったからよくわからないのだ。

「レッキー!クリスさーん!何してるんですの~?」

ミサが呼んでる。

「レッキさん!今言った事は…。」

クリスは両腕を腰に当てて、

「すぐに忘れちゃうッス。」

笑顔でそう言った。

「ミサちゃ~ん!お待たせしました!」

クリスはオバカな人だと思ってましたが…それは僕のカン違いだったらしい。


支部の窓からフリマとスチルは3人を見つめていた。

「しかし3人共かわいかったわぁ~」
「ばあちゃん、のっけから暴れすぎだぜ。」

スチルはタバコをふかしていた。

「…ばあちゃん言うなって…あれほど言うたやろがぁ!」

フリマの溝打ちが決まった。

「うぐぉ、す、すまん…ばぁ…姉貴…」
「わかればええんどす♪」

外の3人もフリマがエスっぷりを発揮しているところなど想像もつかないだろう。

「それにしても、あのコからのお手紙遅いわぁ~」

フリマは自分の仲間からの手紙を待っているのだ。

「遅いもクソもあるか。何をしておるのだ貴様等。」

スチルがくわえていたタバコをポトリと落とした。フリマもそいつを見て、

「あらぁ、お久しぶりどす。」

少し驚いた。彼等の目線の先には、茶色のコートと茶色の帽子をかぶった男、プロがいた。
スチルは冷や汗を浮かべながらこう言った。

「“プロ・フェスター指揮官”殿…」


―午前7時45分 ナタデ地方 商店街―

「教授…殿…」

何をしてるかと思えば、彼は商店街で実演販売をしていた。

「あ、レッキ君。」

サイモンさんは何故か彼のアシスタントをしていた。

「何やっちゃってんですかあなたは。」
「ウン、アシスタント。」

見りゃわかる!

「にゃっぽ~い!今ならたったの5000グランでこのトランクPCが買えまぷよ!!わぁお!お買い得じゃね?買うべきじゃね?」

何、その決まり文句みたいなの。
大体トランクPCって一年前に僕にくれたヤツじゃないですか。
僕がもらったトランクPCは自分が寝泊りしている部屋に眠っている。

「全部売り切れまぴた。」

相変わらず物凄い人気だ。

「うふふふふふふふふ、もう120万売った。素晴らしい小遣いでぷにゃ。」

その商売力でまともに仕事すりゃあいいものを。

「さぁ、貧乏人諸君!今回は特別にこのボクが朝ごはんをおごってやりまぴょう!」

おや、もうそんな時間ですか。

「おぉー!プヨンさん太っ腹ですの~!」

ミサが目を輝かせる。

「ただし、そこのお店でぷ。」
「え?」

偉大なる教授が指差した先には、“建っててスンマセン”と言わんばかりにボロッボロの飲食店(?)がたたずんでいた。

「な………。」

ミサはもちろん、その場にいた全員が引きつった顔でその店を見つめていた。

「にゃっぽい!何してるんでぷか?早く中に入りまぴょう!」
「ふざけるなー!」

ミサが教授を吹っ飛ばした。

―午前7時50分 ナタデ地方 高級飲食店―

「ひえええ、ここで食べるつもりでぷか!?」

ピッカピカに輝いた大理石の床。
クリスタルの装飾品が並ぶ入口。見事なまでの高級なオーラ。こんな高級店、漫画でしか見たことがない。

「あたり前田のアップルパイッス!教授殿は120万も儲けてるんスよねぇ、じゃあ、それだけ高いとこでも平気でしょうが。」
「ウンウン、まったくもってその通りだよ。ウン。」
「ひえええ」

あらら、どうやらクリスとサイモンさんは教授の扱い方をマスターしたらしい。

「ちくしょう、クソッタレ。」

教授が悪態をつきながら店に入ろうとした時だ。

「おっと、ごめんよ。」

教授に男がぶつかって走り去って行った。

「危ないなぁ!気を付けろ!」

教授はプンスカ怒ってる。

「な、なぁ、レッキ君、ちょっとこの展開はベタじゃないかな…。」

サイモンさんがワナワナと震えている。

「?…何がです?」
「あー!財布をスッていきやがったあの男!」

教授がビックリしてる。

「えぇ――――っ!?」

クリスが飛び上がった。

「これはいけない。僕等のオメシが。」
「ボクの心配もしろ!追え!早く!」

仕方ないな…。しかし、クリスはもう男の後を追いかけ始めたところだった。

―午前7時53分 ナタデ地方 商店街―

「逃がさないッス!」

クリスは猛スピードで男にグングン追いついていく。

「ウン、さすがは風の使い手だね。」

サイモンさんが楽しそうに走りながら言う。
男の後を追い、彼女が曲がり角を曲がった時であった。


「ギャン」


クリスが何かに吹っ飛ばされた。

「ウン?クリス君!」

サイモンさんが驚いた。もちろん僕もだ。

「クリス!」

慌てて駆けってみたが、何の別状もない。

「2度目ッス。」

ご愁傷様。

「ウン?誰だ?あの人…。」

サイモンさんが曲がり角を見て驚いた。
見ると、そこには僕よりも年下に見える青年がスリ男をたこ殴りにしているところだった。
その青年は銀色の獅子の絵が刺繍された白い服を着ている。下半身には、黒く、足首がまとめられたズボン。紺色の髪の奥に、金色の瞳が光った。

「…!何だ…?」

人じゃない!?散々殴ったのか、その青年は男を壁に叩きつけた。そして、教授の財布をスッと抜き取った。

「お主等のものであろう?ホレ。」

青年は財布を突き出した。
その顔は、右側だけ紺色の髪で隠している。まるで鬼○郎のパチモンのようである。
僕は何を言ってるんでしょうね。

「ありがとうございます。」

僕は彼から財布を受け取った。

「とんでもない町じゃのぉ。360°見回しても犯罪者ばかりじゃ。」

しかし爺さんみたいな喋り方である。

「あの…お名前は何ですか?お礼がしたいです。」

僕の問いに、彼は、

「ワシはただの武術家じゃ。礼などいらんわい。」

無愛想にそう答えると、クルリと後ろを向いて、スタスタと歩き出した。

「あ、ちょ、ちょっと待つッス!」

クリスが呼び止めようとした時、

―グギュルルルルル

彼の腹が響き渡った。

「……聞こえたか?」

真っ赤な顔で彼はチラリと後ろを向く。

「プッ…おなかすいてるようだね、ウンウン。」

サイモンさんが吹きだした。

「あの…よかったら一緒にご飯でも食べませんか?お礼も兼ねて。」

「…いいのか?」
「ええ。」
「…申し訳ない。それじゃあお言葉にあまえるかの。」

紺色の髪の男は真っ赤な顔でそう言った。

「ワシの名はセンネンじゃ。いやぁ、かたじけない。実は酒場で財布を盗まれてな。途方にくれておったところなのじゃ。」

なんだ、彼も被害者か。
センネンと名乗る青年は見た目は僕等と同じ若者なのに、なんか威厳みたいなものを感じる。
いや、きっとあの爺さんくさい口調のせいだろう。

―午前7時58分 高級飲食店―

「人を増やしてどうすんじゃー!」

教授は怒り狂っている。

「やっぱり場違いかのぉ。」
「ウウン、そんなことないさ。財布を取り返してくれたんだもの。」
「そうですよ。教授の言葉は聞かなくて結構ですから。」
「結構じゃねーバカにしてるんでぷかー!」

教授は怒り狂っている。

「何かカワイイですの。」

ミサは僕の後ろからセンネンをじっと見つめている。

「カワイイって…そんなこと本人に直接言っちゃダメですよ。」
「えー何で?」
「失礼だからに決まってるでしょ。」

しかし、彼は何歳なんでしょう。顔つきはビックリするぐらい幼顔なのだ。

―午前8時35分 店内―

「何食べるッスか?」

クリスがメニューを持っている。

「あ、自分は和風セットで。」

クリスはその後、食べたりないとカツ丼を頼んだ。非常に男らしい。

「ウン、僕はこのブリジュルド・アッベッドィウィッティーソテーのマニュベラスソース和えを、ウンウン。」

未知の料理だ。今まで17年間生きてきたが、“ブルジュルド・アッベッドィウィッティーソテー”など聞いたことがない。

「この料理は僕の好物なんだよ。ウン。」

サイモンさんの好物らしい。

「ボクは水でいいでぷ。」

テンションの低い教授はそれだけ頼んだ。

「わたしはね~えぇっと…ハムエッグとトーストパンで。」

ほぉ、ミサにしては似合わない料理だ。
てっきり高いものを食べると思ってたのに。僕は少し驚いた。

「『朝ごはんは軽いモノを食べなさい!』って!おとうさんからの教えですの。」
「…なるほど。」

僕はそれだけ言った。続いてはセンネン。

「ワシは軽いもので結構。」

と、焼き魚定食を頼んだ。さてと、僕は…。

「この店の一押しメニューを。」

選ぶのが面倒ですから。

「かしこまりました。」

店員はそう言って厨房に入って行った。


数分後


「……。」

テーブルの上には、和風セットとカツ丼、赤いソースのかかった肉料理(これが“ブリジュルド・アッベッドィウィッティーソテーのマニュベラスソース和え”らしい)、ハムエッグとトーストパン、焼き魚定食、水、そして、今にも崩れ落ちてきそうな積み方の35枚ホットケーキが並べられている。僕を含め、一同は青ざめた顔でそのホットケーキのタワーを見つめている。

「当店一押しメニュー、満腹ケーキです。」

ホットケーキだろうが。

「僕をバカにしてるんですか?」
「当店一押しメニューです。」
「ただのホットケーキでしょうが。」
「当店一押しメニューです。」
「これがですか?」
「当店一押しメニューです。」
「わかりました。」
「えぇ!?納得した!?」

クリス、ナイス突っ込み。

「…何事も挑戦が大事です。」

僕はホットケーキにナイフを入れた。

―午前9時36分 高級飲食店前―

その後、僕はホットケーキを全て食べきった。

「レッキ君はすごいなぁ、あんな量を食べきるなんてさ、ウン。」

サイモンさんは感心してるのか、呆れてるのか。そんな感じで言った。
なにしろ師匠に鍛えられましたから。

「おいしかったです。まさかホットケーキをあんなにおいしく作れるなんて、さすがは高級店ですよ。」

その後ろでは、

「こんな飯で57万グラン!?詐欺もいいとこでぴょうがぁぁぁ!!!!」

教授の悲痛な叫びが響く。

「かたじけない、おかげで腹ごしらえができた。」

センネンは軽く礼をした。

「いえいえ、で、これからセンネンさんは―」
「ああ、センネンでよい。ワシは“さん付け”で呼ばれる身分ではないからのぉ。」

センネンは手を振りながらそう言った。

「そうですか…これから、どうするんですか…財布を盗まれたんでしょう?」
「ああ、そういやそんなこと言ってたッスね!」

センネンは何食わぬ顔でこう言った。

「気長に探すわい。」
「さ、さがっ…?」

サイモンさんは耳を疑ったご様子。

「僕が見る限りナタデ地方はものすごく広いと思われるんだけど、ウン、探しあてるのは至難の業だって…。」
「はっはっは、心配要らん。ワシは気長に探すのは好きじゃからのぉ。」

気長とかそういう問題ではない。

「世話になったのぉ、また、いつか会ったら、今度はワシが助けてやろう、はっはっは。」

センネンは笑いながら歩き出した。

「あっ!ちょ、ちょっとセンネン…。」

クリスが呼び止めようとしたとき、

「あれ?」

ミサは彼のある異変に気付く。

「…ミサ?どうしたん―」

僕も気付いた。

「ウンン!?」
「ありゃあ!?」

サイモンさんとクリスも気付いた。


彼のおしりから紺色の尻尾が生えている。


クネクネとその尻尾は左右に動いているのだ。
そういえば、あまり気にはならなかったが、髪に隠れて耳がとがってたような…。

「ウ、ウン…亜人か…でも、あんな亜人なんて見た事ないよ…。」

確かに、獣人なら顔も毛で覆われてるはずなのに…。

「…不思議な人でしたの…」

ミサの言葉に僕とサイモンさんとクリスはしっかりと頷いた。

「またいつか会おう…か…。」

センネンの言うとおり、僕らはセンネンとまた会うことになるのだが、それと同時に僕らはとんでもない出来事に巻き込まれるハメになるのだ。


第23章へ続く

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