top of page

第24章:死神はアメがお好き

―3001年 3月2日 午後12時34分 タピオカ―ナ号 船内―

「ウン…。」

軍兵達が銃を構えて並んでいる。

「№5491…こんにちは、お久しぶりです。」

軍兵の一人がそう言った。

「知り合いか?」

センネンが冗談まじりにそう聞いた。

「一応ね。」

最悪の知り合いだ。

「ぷぎょお!こいつらが蒼の騎士団でぷか!?」

教授は僕の頭の上に乗っかっている。

「ななな、何とかしろ!」

言われなくても、何とかしなきゃ死ぬのはこっちだ。

「ウン、戦えるかい?センネン。」
「まぁ…この程度、楽勝じゃろう。」

センネンは腕を組んだまま、そう答えた。

「いきなりびっくりしたねぇ、ウン、こんな娯楽施設で何よりも憎む宿敵に会えるとは、皮肉もいいとこだ。ウン…。」

僕は拳をギュッと握り締めた。

「一緒に帰りましょうぉおおおおおお。」

軍兵が襲いかかってきた。

「力量も測れないのかい?」

僕はあれからかなり強くなったんだ。もうこいつらには負けない。


―ザンッ!ズバッ!


トリックランスを片手に、軍兵を2人斬った。

「このやろう。」
「殺してくれる。」

また二人が銃弾をぶっ放した。

「ウン!やばい!」

後ろにはプヨン教授が!

「プギャ――っ!」

教授の悲鳴が響いた。すると、目の前にセンネンが躍り出た。

「覚悟せい!獅子神、炎尾!」

センネンがそう叫ぶと、なんと彼の紺色のシッポに火が点いたではないか。
センネンはそのシッポを振り回して軍兵にぶつけた。

「ぐぎゃあ!」

軍兵は火だるまになって窓を突き破り、海に飛び込んだ。

「おやおや、まぁ…生きとるじゃろぉ。」

今何をしたんだよ!?

「ウンン…セ、センネン…君は一体…?」

センネンは笑顔を作るとこう言った。

「…ただの武術家じゃわい。」


一方クリスは…。

―午後12時47分 船内 甲板―

もはや、船内はパニックに陥っていた。なにしろ十二凶の一つ、蒼の騎士団がいきなり現れたからだ。
さっきまで寝ていたのに、いきなりみんな逃げ回るから落ち着かせようとここまで来たわけだ。
甲板から飛び込む人々、彼らは前進する船に潰される。

「皆!飛び込んじゃダメッス!」

自分は彼らを何とか引き止めた。

「で、でもあいつらが…。」
「大丈夫!自分が何とかするッス!」

自分がそう言ったのと同時に、

「gぁfjkくyDGhdgwいぇCBU」

軍兵達が奇声を発しながら迫ってきた。

「マズイ!」

腰にくくりつけてある暗器を投げ付けた。
暗器は軍兵の腕に突き刺さった。

「ぎゃあ」

腕に暗器の刺さった軍兵は逃げ出した。

「うへへへへ」

もう一人はひるまず剣を振り上げた。

「死ねぇ!」
「生きる!」

自分は剣をかわし、彼の腹部に手を押し当てた。

「風解!白虎邁進!」

軍兵の腹部から竜巻が発生した。

「びぎゃあああ」

彼は竜巻と共に海へダイブした。

「さいなら。」

―午後12時53分―

その後、残った乗客達を先導して脱出ボートに全員乗せることが出来た。

「船員含めて、全部で80人…ちくしょう、少ねぇ…。」

この客船の大きさから見て、まだたくさんの乗客がいると考えられる。

「ありがとう、剣士さん。」
「ありがとう。」

皆自分に礼を言ってきた。

「ややや、やめてくださいよぉ!自分は当然のことをしたまでで―」

「ハッ!よく言うぜ…メガまともな数も助けれねえくせによぉ…。」

いきなり嫌な言葉をかけられた。

「誰だ!」

後ろを見ると、そこには真っ黒なフードをかぶった男がいた。
黒いゴム製のシャツを着ていて、首元には銀色のバッテン型のバッジが怪しく輝いている。腰から下は黒いズボンで、銀の鎖やドクロの装飾品だらけだった。

「何スか?あんた…。」

ただの乗客じゃなさそうだ。
フードの男は口を開いた。

「俺は…死神だ。」
「…はい?」

男はフードを脱いだ。褐色の肌の男、年は自分よりも年上みたいだ。鋭い目にはクマがはっきりと浮かんでいる。
カクンと曲がった眉毛を動かし、白髪をなびかせるその男は、こちらに近づいてきた。

「俺の名はロゼオ…死神としては…新米だが、ギガ怖ぇぞ?へへ…。」

そう言うと、彼は両手を合わせた。まるで神への拝むポーズみたいだ。
ロゼオはゆっくりと閉じた手を広げた。同時に黒い鉄製の大鎌が手元から伸びてくるではないか。

「“玩具”じゃねえぞ、金属製のギガ鋭い鎌だぜ。」

ズバリ、これはマズイッス。こいつ本物の死神だ。

「自分を殺しに来たッスか…?」

とりあえず、今脱出船に乗っている乗客達を海面に放ちながら自分はそれだけ言った。

「そういうことだ…と言いたいとこだが、メガ残念なことに、オメェは標的じゃねえ。」

本当に残念そうな顔でロゼオは首を振った。

「え?」
「お前はリストに載ってねえ。メガ長生きすっぞ?良かったな。」

腰にぶら下げた紙を見ながら彼はそう言った。
あれに人間の寿命が載っているのか…嫌な紙だ。

「今日死ぬ人間は“メガ”多いが、その中から標的として俺が“ギガ”選んだのは、“メッキ・D・ジュース”だ。」

…ん?…えぇ!?誰だよ!?

「そして、俺はこいつとお前が一緒にいたのを“メガ”確認したから、俺はお前の目の前で“オメガ”脅迫してメッキの居場所を“ギガ”探ろうとしている。そういうわけなのであった。」

自分はもちろん形容しがたい顔をしている。ていうか、“ギガ”とか“メガ”とかウゼェ…。

「あのねぇ…あんたの言ってるメッキってのは多分人違いッスよ、レッキさんと名前は似ているかもしれないスけど―」
「そう、メッキだ!どこにいるんだ!?教えろ!」
「…いや、だから、メッキじゃなくてレッキッス。」
「そうだ!この書類は“列記”としている!だからギガ正確に書かれている!名前を間違えて殺しちまったらメガマズイからなぁ!」

メガマズイのは貴様の頭じゃー!

「間違っているのはアンタの方ッスよ。」
「よく言ってくれた!確かに人を殺すのは人としてメガ間違ってるかもしれねえ…でも、俺達死神族はそうやってギガ生きていかなきゃらなねえ性分なのだ!」

完全に聞き違えている。もう知らないッス!

「とにかく、メッキの居場所をギガ教えろ!」

アホな死神はズイズイと迫りながら喋り続ける。

「3秒だけメガチャンスをやるぞ。…答えんと、リスト外でもギガ殺す!…いいな………3…2…1…」


ズゴォォォォォォン!!!


操縦室が大爆発した。

―ゴン!

操縦室の破片がロゼオの頭にクリーンヒットした。

「ぐえぁ」

彼は妙な悲鳴を上げ、倒れてしまった。

「運が悪いッスね。」

ロゼオを見下ろしながらそう言うと、

「あぁ…しかし俺はギガポジティブだ。これくらいじゃ、へこたれないぜ。」

彼はうめきながら、そう答えた。
しかし、爆発までさせるとは…騎士団も大きく動き出したわけッスか…。

―午後12時56分 船内―

「ぐぴゃあ!」

軍兵は腿から血を噴き出して倒れた。

「やれやれ、殺さないから帰れと言っているのに…わからない奴等だ。」

腿を撃たれてのた打ち回っている軍兵は、苦しみながらも銃を構えた。

「死ね!」

―ダンッ!

額に向かって弾丸は飛んできた。軽く顔を横に傾け、銃弾をかわした。

「もう止めてください、僕はできるかぎりあなたがたを殺したくありません。あなたがたと同じ、人殺しにはなりたくな―」

―シュパッ!

右頬を銃弾がかすった。

「うきゃきゃきゃ!」

倒れている軍兵が笑った。

「…警告はしましたよ、覚悟はよろしいでしょうか。」

ミサが見ていないのを確認し…。

―ダンッ!!

とどめをさした。

「…ちくしょう。」

いくら許せない連中でも、罪悪感は大きい。

「うきゃああああ」
「ひゃあはあははは」

軍兵達はまだまだ奇声を発しながら襲ってくる。ゾンビよりも恐ろしい光景だ。
僕はすぐに彼等の脚を撃った。彼等は倒れるが、それでも這いつくばって進んでくる。

「クッ…」

BMの弾数も残り少ない。神技を使うしかないか。

「キャ――――ッ!」

突然の悲鳴に後ろを見ると、ミサが軍兵に取り囲まれている。

「うけけけけ」
「ひぃひひひ」

ミサの長い髪を力づくで引っ張っている。

「助けてぇ――っ!」

ミサの悲痛な叫び声が響く。

「きゃははは」
「うひぇへへぇ!」

軍兵達がナイフを構えた。

「……下衆共が…。」

我慢の限界だ。ぶち殺す。

「神技、神脚…瞬動。」

―シュパッ!!

2人の軍兵の首元まで瞬時に移動した。

「あ?」

軍兵の一人が反応したが、もう遅い。

「ミサに手を出すな…激震打ぁ!!」

メリメリメリ!!首筋に直接拳をぶつけた。

「ぶげらびごべ」

彼は隣の軍兵も巻き込んだ。軍兵2人は絶命しながら仲良くすぐ横の壁にめりこんだ。
ギャグシーンだったら生きてたのに、残念でした。

「僕を怒らせちゃダメですね。」
「レッキ!」

ミサが泣きながら僕に抱きついた。

「大丈夫か?」

軽く頭を撫でながらそう聞いた。

「うん…うん…」

答えるのに精一杯らしい。

「僕から離れるな。とにかく、ここから逃げる事を考えよう。いいね?」

ミサはコクンと大きく頷いた。

「じゃあ、行こうか。目をつぶってろよ。」

目の前に現れ、剣を振り上げた軍兵を殴り飛ばしながらそう言った。

「キリがないな、ちくしょう…。」
「レッキ…怖いよ…。」

ミサが震えている。

「大丈夫だから…」

そう言いながら、僕はあるものを見つけ、真っ青になった。

「どうしたの?レッ―」
「ミサ!目を開けるな!」

ミサはびくついて、目をギュッと閉じた。

「目をつぶっていろ、開けたらいけないぞ。いいか、絶対に開けるな…。」

目の前には、あの水族館の魚が、ミサが触れたあの黄色い熱帯魚を含めた魚達が焼かれていた。そしてそのかたわらには、ゲームセンターで歓声を上げていた人達が穴だらけで倒れていた。

「蒼の騎士団め…。」

僕は久しぶりに泣きたくなってきた。
酷すぎる…こんなの…あんまりだ…。血の臭いが立ち込める。

「ハァッ…ハァッ…」

ミサの呼吸が荒い。血の臭いに反応してしまったのか…。

「レッキ君!」

いきなり声がした。

「誰だ!」

咄嗟にBMを後ろに向けた。

「ウンン!僕だよ!サイモンさ!」

そこには、両手を軽く挙げているサイモンさんがいた。頭の上には、プヨン教授が気絶している。

「ウン、無事かい?」

安心したら、力が抜けた。僕はその場にへたり込んだ。
ミサも一緒に座り込む。

「軍兵を…4人、殺しました…。は…吐きそうだ…うっ…。」

ギルドやリワンダーを殺した時はどうってことなかったのに…何でだろうか…。
サイモンは座り込むと、僕の両肩を持った。

「ウン…辛かっただろうね、もう大丈夫だ。僕が守る。」

トリックランスを持ち直すと、サイモンは仁王立ちをして、僕の目の前に背を向けた。

「来るぞ。」

突然子供みたいな声がした。
見ると、目の前には見覚えのある紺色の尻尾。

「センネン!」

僕は驚いた。

「ム?少年、また会ったのぉ。」

センネンは横顔を向けた。

「あなたがいるなんて思いもしませんでした。」
「にゃはは、何かの縁でな。」
「ウン、ところで、クリス君は?」

サイモンさんはこちらに背を向けたまま聞いてきた。

「わかりません、彼女なら軍兵に捕まっていることはないと思いますが…。」
「そうか、ウン、じゃあ、後で探そう。」

彼がそう言うと同時に15人の軍兵達が奇声を上げながら角から走って来た。

「うきぇらららっららら」

奴等は銃を乱射してきた。

「大旋風!」

サイモンさんは、トリックランスを振り回して銃弾を弾き落とす。

「うむ。見事じゃ。」

センネンが彼の頭上から飛び上がった。

「獅子神!」

彼がそう叫ぶと、拳から獅子の形をした炎が吹き出た。

「焼き払え。」

獅子は軍兵達の半分の数を一掃した。

「えぇ!?」

僕は思わず声を上げた。

「どうなつてるんですの?あの人…。」

ミサが目を丸くしている。

「ただの武術家らしいよ…ウン、謎の多い子だ。」
「話をしとる場合か?次も来るぞ。加勢せい、丸頭。」

センネンが軍兵を殴り飛ばしながらそう言った。

「ま、まるっ…!?」
「ムッ!後ろじゃ!」

センネンがそう言った瞬間、サイモンさんがトリックランスを後ろに振り回した。
僕の頭上を刃先がかすった。

「ぐぎぇえ!」

背後で銃を構えていた軍兵がトリックランスに巻き込まれて壁に突っ込んで行った。

「ウン、すまない…ありがとうセンネン。」
「ウム。」

この2人はやけに気が合っている。

「ところで、ワシは名前を名乗ったが御主等の名は聞いておらんかったのぉ。そこの金髪の小僧、名は何と申す?」
「こ、小僧じゃないです…レッキです。」

あんたも同じ小僧じゃないか…。

「わたしはミサですの!」
「僕はサイモンさ、丸頭は勘弁してね。これが本当の頭じゃないんだから、ウン。」
「ウム。」

ていうか、自己紹介をしている場合でしょうか!?
そう思った時、軍兵がセンネンの背後から剣を振りかざした。

「フム、背後を取るとは、卑怯じゃな。」

そう叫ぶが早く、剣を腕で受け止めた。いや、剣を打ち砕いたのだ。

「えぇえ!?」

軍兵は短くなった剣を見て驚愕の表情を浮かべた。

「獅子神王牙!」

そう叫んだ瞬間、彼の爪が燃え上がった。

「てやぁ!」

センネンは軍兵をその燃え上がった爪で切り裂いた。

「やれやれ、年寄りじゃとやはり身体がなまってしまうのぉ。」

年寄り?

「きゃあ!」

ミサの後ろから軍兵が遅いかかる。

「ム!…いかん!」
「ウンン!危ない!」

サイモンさんとセンネンがほぼ同時にそう叫んだ。

「神技神腕!手枝絡!」

僕は新しい神技を発動させる。
軍兵の身体を僕の腕が木の枝の様にからみつく。

「うひゃああ!」

軍兵は悲鳴を上げた。

「神技神腕…」

僕は立ち上がった。僕だって座っているだけには行かないのだ。

「覇王脚!」

右足を勢いよく床に叩きつけた。同時に、


ずががががががが!ばりりりりりりりり!


船内が大きくゆがみ、ぶっ壊れた。

「ひきゃあああああああ」

奥にいた軍兵達も船の亀裂に巻き込まれていった。

「…なんじゃと!?」

センネンはびっくりした顔をしている。

「これが“神技”か…ウン、噂には聞いていたが、本当にすごいや。」

サイモンさんは呆然と立ち尽くしながらそう言った。

―午後1時25分 船内―

奥の方には、数十人の乗客達が身を寄せ合って震えていた。

「ウンウン、大丈夫ですか?」

サイモンさんがそう言った。

「あなたたちは…?」

船員らしき人が聞いてきた。

「正義の味方、サンライト仮面ですの!」

えぇ!?

「ただの旅行者です!」

ミサがとんでもないセリフをぬかしたので、慌てて修正した。

「ウン?旅行者?…国家機関の受験生だって言っておけば評価がもらえるじゃないか?」

サイモンさんが疑問そうにそう聞いてきた。

「バカを言わないでください。スチルさんからあれほど厳重注意を受けたんだ。こんなとこにいたって知れたら、受験に失敗どころじゃ済みませんよ。」
「あ、なるほど。」

―午後1時34分 船内―

船の窓から乗客を全て脱出させた。

「ウン、全部で65人だったよ。」

65人…少ない…まだ乗客はいるはずだ…。

「レッキ君、これはあきらめるべきでぷにゃ」

プヨン教授がいつのまにか起きている。
あの重いトランクに座り込んで。

「これだけ暴れ回って、見てくだぴゃい。物音一つしない。これは騎士団の連中に拉致されたか、殺されたか…。」

嫌な可能性も考える必要がありまぷよ。教授はそう続けて言った。

「ウウン!冗談じゃない!僕は探すよ!?できるかぎり被害者は減らしたい!」

サイモンさんはそう言った。

「サイモン、御主の気持ちはよくわかる、しかしじゃ、このスライムの言う事にも一理ある。無駄に動いたところで、さっき脱出させた乗客達が襲われる危険性だってあるのじゃ。ならば、そっちの方を優先させるのが利口じゃろう。」

センネンは腕を組んだまま冷静な顔つきで言った。

「ウン…でも…。」

サイモンさんがうなった時だった。ぶっ壊れた船内の奥から何やら騒がしい声が。

「誰じゃ?乗客かもしれんぞ。」

センネンが奥を睨む。

「数は2人じゃな。匂いでわかる。」
「におっ…?」

やっぱこの人只者じゃない。

「…一人はクリスさんだと思うんですが…。」

あの元気な声の持ち主は、他にはいない。

「ウンン…もう一人は…誰だろう?」

サイモンさんが不安そうに見つめる中、

「うい――――ッス!」

クリスが元気よく登場した。大きな声で結構。

「クリスさん!」

ミサが声を上げた。

「ういッス、皆さん。今、80人と、170人の乗客を助け出したところッスよ!」

80人と、170人?

「本当ですか?」
「ええ!自分の辞書に不可能の文字は無いッス!」

いや、そこまで聞いてないけど。

「お手柄だよ!ウン!」

その時、僕は喜ぶクリスの後ろにいる誰かに気付いた。白髪で褐色の男だ。

「誰ですか?彼…。」
「あぁ…しょうもない…死神ッス。」

クリスは嫌そうな顔でソイツを睨んだ。

「死神?クリス君、そんなもの迷信に決まってるじゃないかぁ、ウン。」
「だってアイツがそう言うんス。」

クリスとサイモンの会話を死神らしき男は遮った。

「おうおう!おめぇがメッキだな!?」

メッキ?僕のこと?

「僕はレッキですが…。」
「そうだ!メガ列記としたメッキだろ!?俺のためにギガ死んでしまえ!」

死神らしき男は勝手に勝手な事を言う。

「何を言うんですか?僕はメッキではないです。レッキです。レッキという名前なんです。あなたの言っているそのメッキという人は僕とは全然違う人です。」
「何だと!?列記とした名前が知りたいだと?お前、自分の名がわからんのか!?お前はメッキ!メッキだ!いいな?メッキだぞ?」

いや、だから僕はレッキだってば!

「レッキさん、コイツには何を言っても無駄ッス。…いっそのこと絞めちゃいましょうよ。」

クリスが面倒くさそうな顔で僕の耳元でこう囁いた。

「何怖いこと言ってるんですか。」
「さぁ!俺のギガ記念すべきデビューショーだぜ!メッキ!そこに立て!公開処刑だぁ!」

死神らしき男は勝手に勝手なことを言い、勝手に僕の腕を掴む。

「勝手三昧ですね、アンタ。」

僕は少し怒った口振りで掴まれた腕を振り払った。

「アァ?メガ抵抗するつもりか?メッキ!」

死神らしき男はメンチを切るがごとく、僕を睨んだ。

「抵抗もクソもあってたまりますか。僕はレッキという列記とした名前があるんです。」

ダジャレじゃないよ。

「何だ?列記とレッキをかけたシャレをメガ抜かすつもりかよ…って…今何て言った?」

死神らしき人は見開いた目で僕を見つめた。

「レッキという名前があるって…さっきから言ってるじゃないスかぁ。」

クリスが代弁した。

「…レッキ?」
「ええ、レッキです。」
「レッキという…名前?」
「ええ、レッキです。」
「メッキじゃなくて?」
「ええ、レッキです。」
「列記として?」
「ええ、レッキで…ねえ、僕をバカにしてるでしょ。」

彼は、ワナワナと震えていたかと思ったら、

「ばかなぁ―――――っ!」

がっくりとうなだれた。

『こいつは本当にもう…。』

僕達はそんな彼を白い目で見つめている。

「そんな…俺のギガ記念すべきデビューが…人違いだと…?」

典型的なドジ野郎である。

「とりあえず…甲板に出るッス…脱出船で逃げましょう。」

クリスが真面目な顔でそう言った。

「え?ええ…そうですね…。」

そうだ、今は脱出するのが先決だ。大事な資料もあるんだし。

「この人はどうしますの?」

ミサが死神らしき男を指差している。彼はまだまだ落ち込んでいる。

「ほっときましょう、何かこの人と関わると、えらいことになりそうです。」
「さんせ~い!」

僕の考えにクリスは同意した。

「ウウン、でも…ほっとくのは気の毒だよ。」

サイモンさんは彼を見つめながらそう言った。

「うむ、見る限り悪い奴ではなさそうだし、何かの縁じゃ、連れていってやったらどうじゃ?」

センネンが笑顔でそう言った。

「えー?でもぉ!」

クリスが嫌そうな顔をする。

「こんな俺をメガ認めてくれるのか?」

死神らしき男が顔を上げた。なんて生気に満ちた顔なんでしょうか。
おめえは本当に死神かって話だ。

「ありがとう!そうか!最近は死神なんぞ“ギガ人殺し”とか言われて差別をメガ受けるばかりだったからなぁ!そんな俺をメガ認めてくれる人間がこの世にいるなんてなぁ♪」

ウキウキと彼は目を輝かせる。センネンは青ざめた顔で慌てて訂正をしようとした。

「い、いや…そこまで明るくならなくてもよいと思うのじゃが―」
「おっと自己紹介がメガ遅れたな!俺の名は、ロゼオ―ド・デッドロードだ!ロゼオと呼べ!オメガよろしくなぁ☆」

語尾に☆を付けるな。

「よろしかないってば!いいスか?自分達はアンタを脱出船に乗せてやるだけッス!だからつまらない仲間意識は持ってほしかな―」
「脱出船に乗るだと?よぉし!そうと決まれば、早速甲板へ行こう!」
「い、いや…あ、あ、あの、聞いてるスか!?ねぇって―」

サイモンさんが『止めとけ』と言わんばかりにクリスを遮った。
もはやソイツはクリスの言葉もろくに聞いてはいなかった。ロゼオは高笑いをしながら更にこう言い放った。

「さぁ、甲板へ行こう!…何故甲板に向かうかって?そこに脱出船があるからさぁ!」
「そ、それは全員知ってますの。」

ミサは困惑の表情を浮かべた。あきらめよう、こいつは全て勝手に進行している。

―午後1時50分 甲板―

「脱出船を見つけましたの!」

ミサが脱出船を見つけた。

「さぁ、逃げまぴょう。こんなとこ、もうこりごりでぷにゃ。」

プヨン教授が我先にとサイモンさんの頭から飛び降り、駆け出すところだった。

「逃げんのかよ。そりゃあ、ダメだ。」

ねちっこい声と共に何かが僕の左頬をかすった。これで左右対称である。

「誰だ!?」

一同は背後を見た。そこにいたのは、全身を黒いマントに包み、“カカカカ”と気味の悪い声を上げている人間だった。顔はフードの陰に隠れ、よく見えない。首元には青いネックレスがかけてある。

「カッカッカ」

そいつは右腕をこちらに向けた。

「ウン!」

サイモンさんが素早くトリックランスをぶん投げた。
ランスは甲板上に立つ黒服人間に向かって飛んだ。

「何奴じゃ。」

センネンが目を細めた。

「カカカカカカ♪」

黒服人間は笑いながら両手を手前にスッと出した。

「重圧解放・80%”」

そう唱えたと同時にランスは、



ズンッ!



轟音と共に甲板の床にめり込んだ。それだけで豪華客船、タピオカ―ナ号は半壊してしまった。そして、


ボゴォ―――――――ン!


トントン拍子に船が爆発した。まるで、“重圧に船全体が耐え切れなくなって爆発してしまった” ようだ。
何だ!?あいつ何をしたんだ!?…僕の覇王脚より数倍の力はあった。

「わあああ!」
「きゃああ!」
「ウンン!」

僕とセンネン、ロゼオ以外の人達は船の外に投げ出された。各自悲鳴を上げながら海面に吸い込まれていった。

「みんなぁ!」

すぐ後ろでまた爆発音がして、今度はロゼオが空中を舞っていった。

「メガのわぁ!」
「メ、メガって…。」

僕は絶句した。ロゼオには余裕がたっぷりあると見た。破片がたくさん降ってくる。

―ヒュルルルルル!

何かが凄い勢いで飛んでくる音がした。

「!」

後ろを振り返った瞬間、脚を強く押された感触がし、僕も吹っ飛ばされた。

―午後1時52分 甲板―

「ムゥ!」

センネンは船の縁に掴まって、なんとか振り出されずに済んだようだ。僕は船の手すりに服が引っ掛かっていたので落ちずに済んだ。

「センネン、大丈夫ですか?」
「ウム、ワシは問題無い。御主は?」
「死にそうです。」

何が飛んできたのか今気付いた。金属製の破片が脚に深々と刺さっている。

「うぐぐ」

気付いたと同時に激痛が。

「しっかりせい!」

センネンが僕の元へ駆け寄った。
彼は自分の服を裂いて傷口に押し当てた。押し当てられた布はすぐに深紅に染まる。
センネンは脚に刺さった破片をゆっくりと抜いた。

「うあっ!」

破片が抜けたすぐ後に、センネンは脚の傷口に当てた服の布をきつく締め付けた。

「よし…。」

センネンは、もう一度自分の服の袖を裂き、傷口より少し上部にきつく巻き付けた。しばらく押さえていると、血の出が少なくなった。

「ふふ、泣かんとは、偉い子じゃのぉ。」

からかう様に彼はそう言った。

「ハァ…ハァ…ハッ!皆は…!」

プヨン教授は?…サイモンさんは!?…クリスは?……ミサは!!?

「おぉ――い!」

ロゼオの声だ。船から海を見下ろすと、ロゼオがクリスを抱えて浮上してくるところだった。

「ほぉ…。」
「飛んでる…。」

ロゼオの足が奇妙に変形している。円錐型の黒い突起だ。先端からは赤黒いオーラの様なものが吹き出ている。ロゼオがそう言う中、サイモンさんも顔を出した。

「サイモンさん…!」

彼はぐったりしたミサを背負っている。

「プハァ、仮面が重くて…死ぬかと思ったよ、ウンウン」

船の残骸に掴まりながらサイモンさんは苦しそうに息を吐いた。

「しかし誰だ…俺達を殺そうとしたのは…。」

ロゼオが眉間にシワを寄せて甲板の奥を睨みつけた。

「カカカカカカァ」

黒服の人間は奇怪な笑い声を上げている。

「しぶっとい奴だぜ、金髪の男ぉ…さすがにギルドとの戦闘やバイオテクベースでの爆発から逃れることができただけあるなぁ…カカカカカカァ!!」
「…!…何故それを知っている…貴様、何者だ!」

キョトンとした顔をするセンネンを横に、僕はそう叫んだ。

「カッカ!俺の名は“ノア・バッドシップ”蒼の騎士団騎士隊長の一人さ。」

ノアと名乗った男はそう言った。

「ムゥ!?蒼の騎士団!!」
「…騎士隊長!?」

僕とセンネンはほぼ同時にそう叫んだ。
ノアは更に続けて口を開く。

「カカカ、正直言って面白かったぜ…手駒共(軍兵達)と闘っているお前等を観察できたのはよぉ…。どいつもこいつも底知れない力を持っていやがった。」

ノアは右手をスッと上に上げると、パチンと軽く鳴らした。

「オメガ、来い。」

同時に黒い西洋の鎧が空中から降りてきた。

「でかいのぉ…何を喰ったらこんな巨体になれるのじゃ。」

センネンは驚いた顔つきでつぶやいた。その鎧は3メートルはくだらない程の大きさだった。

「フゥ~ム」

鎧はため息のようなものを吐いた。

「…目の前の連中が一般人じゃない確率、96%」

ソイツは見た目とはビックリするほど違った軽い声そう言った。

「何かウザイですねこいつ。」
「気が合うのぉ、ワシもこいつとは気が合わんと思う。」

センネンが苦笑いをした。

「カカカ、紹介するぜ、こいつは俺の右腕、“オメガ・ギガメガ”だ。蒼の騎士団の軍兵中でも実力が高い戦士だ。」
「オメガだと?オメガ・ギガメガだと!?俺のをギガぱくったな!?」

ロゼオがビシッと指を向けた。おかしなプライドである。

「確かに、新キャラに合わせて適当に名前を付けたっぽい名前ですね。」
「御主、何を言っとる?」

あ、僕何言ってんだ本当に。

「カカカ」

ノアは背を向けると、

「オメガ、殺せ。」

去り際にオメガにそう命令し、燃え盛る炎の中に去っていった。

「待て!」

僕は慌てて追いかけようとした。

「おっと。」

ロゼオが腕を掴んだ。

「ギガやめとけ。あの炎の温度じゃ、お前にはギガ無理だ。」

ロゼオが急に冷静になって正直驚いた。

「俺はああいう連中のことはメガよく知っている。炎の中でワープ魔法を使ったんだろう。今更炎の中に入ったところでギガ骨折り損のオメガくたびれもうけだぜ。」

ワープ魔法…。

「また魔法ですか…何なんですかソレ―」
「いかん、来るぞ!」

オメガが甲板の床をバリバリと砕きながら走って来た。
ロゼオは懐から何かを取り出した。

「それは…。」

僕も幼い頃よく食べた…そう、棒つきキャンデーである。
色からして、メロン味だと思う。彼はそれを自分の口にくわえた。

「食う?」

もう一本差し出した。いらん。

「死神はこれが大好物でね、ギガ死ぬほど持っている…って言ってる場合じゃなさそうだな。」

オメガは僕達の目と鼻の先で赤い目を光らせていた。


「フゥ~ム、ワタシが勝てる確率、99%」


第25章へ続く

bottom of page