第25章:1%の勝算
―3001年 3月2日 午後1時57分 タピオカ―ナ号 甲板―
「ハンッ?聞いたか?勝てる確率99%だとよ!俺をギガバカにしてるとしかオメガ思えないな。」
ロゼオはイラッとした顔でそう言った。
「あんなん俺がとっととメガやっつけてやるぜ。お前等はギガ下がってろよ。」
彼はいつのまにか巨大な鎌を手に持っている。
「死神みたいですね…。」
僕は思わず声をもらした。
「だから…そう言ってるだろ?俺は死神だって!」
ロゼオはアメを砕きながらそう叫んだ。
「そうかのぉ、ワシの知っておる死神はもっと青白い顔色で、白い着物を着ておるはずなのじゃが…。」
センネンが首をかしげている。
「それは別の国の連中がギガ勝手に考えている姿の死神だ!実際、死神は全てこんな格好をしてんだよ!」
ロゼオが新しいアメを懐から出そうとした、その時だった。さっきからずっと目の前で僕達を睨みつけていたオメガが右腕をゆっくりと振り上げ、猛スピードでロゼオの脇腹に振り下ろした。
ボガァ―――ン
ロゼオは場外ホームランのごとく吹っ飛ばされてしまった。わずかながらロゼオ自身の悲鳴も聞こえた。
「フゥ~ム、生存率…69%」
オメガは上空を見上げながら笑い声でそう言った。
ロゼオは胡麻粒程の大きさになってしまっている。
「お前…何て馬鹿力だ…。」
少なくとも、常識上人間をあんな遠くまで飛ばせる人間は見た事がない…。
「ウム、こやつ、人間の気を感じん、おそらく蒼の騎士団とやらがモンスター人間として作られたのじゃろう。」
センネンがそう分析した。
「そうか…蒼の騎士団は人間をモンスターに改造していますし…しかし、あいつくらいの力は生半可な改造では作り出せませんよ…強力な怪物と配合させない限り…。」
オメガが両腕を振り下ろしてきた。
「ぐっ!」
僕は素早くその場に伏せた。瞬時に頭上を何かが振り抜かれる音がした。残念、空振りです。
「油断は禁物じゃ、次が来るぞ。」
僕と同じように伏せていたセンネンが囁いた。
「フゥゥゥゥムゥゥゥゥゥ!」
オメガが馬鹿でかい巨体で飛び上がってきた。
「瞬動!」
慌てて船の手すりを蹴り、その場から離れた。センネンも素早くその場から離れる。
―ベキボキバキブキ…。
オメガは甲板の床を破壊した。
「避けられた確率…100%」
悔しそうにソイツはそう言った。
「やれやれ…どうやら馬鹿力と引き換えに、スピードはかなり落ちているようですね。」
僕は少し笑いながらそう言った。
表情に出ているかはわからないが。
「じゃが、油断大敵じゃ。しばらく奴の動きを読み、弱点を探るのじゃ。」
センネンの適確な判断には目を見張る。
「わかりました。僕はアイツの気を引いてみます。」
「ウム、ではワシは出来る限りのサポートをしよう。」
気を付けて。それだけ言うと、
「瞬動!」
僕はオメガの頭上まで飛び上がった。師匠の元で修行した甲斐があった。
ほとんどの神技が使える様になっている。
「フム?」
オメガが驚いたように上を見上げた。
「神技神脚…神連脚!」
足の数が一瞬15本になった。
「喰らえ!」
―ズダダダダダダダダダダダダダダダダダ…。
「フムゥアアア!」
オメガの頭上から蹴りの雨が降り注ぐ。ソイツは叫び声を上げた。
「ホッホォ。」
センネンは楽しそうな顔でそれを見ている。
20秒は経過しただろうか。オメガの立っていた甲板は煙で全く見えなくなっていた。
「どうだ…?」
僕の想像とは程遠く。オメガは蒸気を吐きながら飛び上がってきた。
「フゥム、ダメージ…1,3%」
1,3%?
「馬鹿にされたものです…。」
右腕を軽く後ろに引き下げた。
「激震打!」
簡単に威力を説明すると、腰を軸に時速150キロの爆弾パンチ。
空中で、その一撃はオメガにモロに命中したわけである。
ズゴバキャ!
オメガの鎧かぶとが大爆発した。
「うおわぁ!スゲ―!」
センネンが間の抜けた声を上げた。
「わぁっ…センネン!」
実は数十メートル飛んだことに気付かなかった。落ちる!
「おっと。」
センネンは左腕を軽く差し出し、激突寸前の僕を掴み上げた。
「すみません。」
「神技とはおもしろいもんじゃのぉ、今度ワシと手合わせ願いたいものじゃ。」
センネンが僕を掴んだままそう言った時、
ドサッ
鉄くずみたいになったオメガが落っこちてきた。
「…一応…“会心の一撃”って奴でしたが…。」
―コンコン!
BMを取り出し、軽くソイツを突っつく。
「……。」
わずかに動いた気がした。
「…っ!」
センネンが目を見開いた。
「いかん!“だましうち”じゃ!」
センネンの声と同時に、僕は仰向けに叩きつくように倒れた。その後、轟音と共に鉄腕が鼻先をかすった。
「ぐわっち。」
いってぇ!鼻の皮が少し剥がれている。
「フウウウムウウウアァァァァ」
頭が丸見えになったオメガが唸り声を上げながら立ち上がった。その顔は傷だらけで、見るも無残だ。
激震打でなったのかは知らないが、片目はほぼ剥き出しになっており、ピンク色のはぐきは丸見え。鼻はそげていて、二つの穴から蒸気が噴き出ている。
ゾンビみたいな顔だ。
「…あ…。」
「ムゥ…。」
これにはさすがの僕もセンネンも青ざめてしまった。ホラー映画にでもお出になられたらいかがでしょうか。
「フム…もう一度言おう…ワタシが勝てる確率は99%だ。」
剥き出しの歯茎をヒクヒクと動かしながらオメガはそう言った。
「ホォ…何故、そう言いきれるのじゃ?」
センネンが笑顔でそう問いただした。
「御前達が弱すぎるのだ。打撃の威力も大した事がないからな。」
オメガは薄ら笑いを浮かべている。
「……おのれ…。」
僕はソイツの言い方に思いのほか腹立ったのだ。
「覇王脚!」
回し蹴りをしながら神技の発動、喰らえ。
「いかん!よせ、レッキ!」
センネンがそう叫んだと同時に、覇王脚はオメガの脇腹に命中した。かに見えた。
オメガの右腕にいとも簡単に止められたのだ。
「フゥム、怒りに身を任せた率、98%。」
そいつは楽しそうにそう言った。
「うるさい!」
掴まれた脚を振り払おうとした。が、
「フム、こんなチャンス、ムダにはしない。お前も死ね。」
いきなり身体が浮いた。オメガに振り回されているのだ。周りの景色がよく見えなくなるほどだ。
そして、急に身体が軽くなった。気がつくと、僕は空中に吹っ飛ばされていた。
―午後2時3分 甲板―
「やれやれ…。」
点になってしまったレッキを見ながらワシはオメガとやらのパンチを軽くかわす。
「フムゥアアア!貴様も殺す!」
いきりたちおって、これだから若者(?)はいかん。
「ウン、センネン!大丈夫かい?」
サイモンが甲板に上って来た。
「おう、お主か。」
サイモンはぬれた自分の服を絞りながら走ってくる。
「なんだいコイツは!」
オメガを見てサイモンは飛び上がった。
「騎士団の改造人間じゃ。」
ワシはオメガの攻撃をかわしながらそう答えた。
「か、改造って…。」
サイモンは引きつった。
『ウン…こいつも自分と同じ改造人間…。』
「…どうかしたのか?」
ワシはようやく隙を見せたオメガを殴り飛ばしたところじゃった。
「ウ、ウウン…ところで、レッキ君はどうしたんだい?」
「ウム、空を飛んどる。」
「そうかい……え!?」
サイモンは空中を見上げた。点にはなっているが、ソレは確かにレッキじゃな。
「わああああ!たたたた大変だぁ!」
サイモンが悲鳴を上げる。
「なぁに、落ちる寸前になったらワシが助けよう。」
「た、助けるって言ったって!」
サイモンが完全にパニックに陥っておるなか、オメガが怒り剥き出しで飛びかかってきた。
「フムァ!確実に潰す!」
「!!」
「ウン!」
ワシは右、サイモンは左に飛んだ。
「フ~ムゥゥゥ!」
オメガが唸った。同時にそやつの両腕が開いた。中から鋭利な刃物が9本ずつ顔を覗かせた。
「命中率、80%!」
刃物がミサイルの様に飛んできた。
「伏せろ!サイモン!」
その場に伏せ、3本をやり過ごした。しかし、
「ぐああっ!」
サイモンの肩に刃物が二本刺さった。
「サイモンっ…ぐっ!!?」
ワシ自身の右腕にも1本刺さった。
「どんどん行くぞ、フムァハハハ!」
肩、左脚、大腿、次々と刃物ミサイルが命中していく。
「うおあああ!」
こめかみに飛んできた刃物をなんとかかわした。
「フム、最後のをよくかわしたな。だが、その分じゃあワタシと闘うのは…まず!不可能だろうな…。」
―ズシン、ズシン…。
オメガはワシの片足を掴んで、持ち上げた。
「ワタシ達に課せられた任務は、蒼の騎士団の作戦を邪魔する無能共を抹殺すること、裏切り者…№5491を再び拉致すること、そして…国家の極秘資料を奪うこと…この3つの内…極秘資料を奪えたことは大きい。」
オメガは後方に親指を向けた。先程サイモンが持っておったトランクを、軍兵が3人がかりで運んでおる。
かたわらにはグッタリしたあの生意気なスライム。
「ウン…!」
伏せたままサイモンが唸った。
「あれが極秘資料か…。」
サイモンの反応…奪われてはマズイものじゃとワシは理解した。
とはいえ、今のワシは空中にぶら下がっている状態。これでは、抵抗は難しい。
「フムァハハァ!所詮は小物共だな!ワタシの手にかかればこの様かぁ!…そこの丸頭以外を全て抹殺させて、ワタシの仕事は全て終了。これで…これで昇進ができるぞ!確率は100%だぁ!ムファ――ハハハハァ!」
―ズゴォッ!
高笑いするオメガの不細工な顔に蹴りを決め込んだ。
「うがぎっ!」
うめくオメガはワシを落とした。
―ドサッ!
…いて…。
「油断は禁物じゃ、本部からは教え込まれんかった様じゃなあ。」
ワシはゆっくりと立ち上がりながらそう言った。身体の節々が痛い、そう言えば、刃物が身体中に刺さっておったんじゃったっけ。
「フムァァァァ…ワタシを怒らせた確率…120%ぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!」
右腕を振り落とした。ワシは体勢を整え、オメガの懐に駆け込んだ。
「獅子神、咆哮!」
自分の口から炎を吐いた。炎はオメガの顔に直撃した。
「ぐがああああ!」
オメガは絶叫し、暴れ出した。
「ぶっ殺してやるぁ!」
オメガはその場に屈んだ。同時にそやつの尻から炎が吹き出た。
「にゃ、にゃんじゃ!?」
その瞬間、オメガが爆発して突進してきた。
「テメエにはもはや思考の自由も回避の自由も与えねぇ、死んでしまえぇ―――!!!」
ドゴォォォォ!!
「…………ッ!!!」
さすがのワシも、音速レベルのスピードのタックルには耐え切れなかった。
―午後2時6分 上空―
「困りましたねぇ…。」
現在、僕は猛スピードで落下中だ。全てがありえないので、もう慣れてしまった自分が怖い。
「おう、あん時の金髪メガネじゃん、ギガ元気そうだな。」
ロゼオが僕の隣を飛んでいた。とはいえ、自分は落下中なため彼は下降しているわけなのだが。
「助かった、ロゼオさん、あんた…飛べるんなら僕を助けてもらえませんか?」
「えぇ?オメー飛べねえのかよぉ。」
なんの根拠で飛べると思っていたんだ。
「僕は一般人です。亜人でもありませんし、改造人間でもありません。地面に激突したら普通に死ぬ、ホモサピエンスです。」
そこんところはご理解いただきたい。
「おう、そうか。じゃあ、アメをくれ。」
ロゼオは普通にそう言った。
「何を言うんですか。」
海面まで残り3000メートル。
「俺ぁ、物々交換で相手の頼みを聞くことにしている。お前が生きたきゃ、アメをくれ。でなきゃ、お前はギガ死ぬぞ。」
海面まで2500メートル。
「ちょっと…今ですか?今必要なんですか?」
海面まで2000メートル。
「そうだな…そこの商店街で買ってくれるんなら、それでもオメガOKだぜ。」
ロゼオはナタデ地方の商店街を指差した。海面まで1500メートル。
「わかりました、わかりましたから…早く…。」
海面まで1000メートル。
「まぁまぁ落ち着けって。ははは、お前もこういう時は慌てるんだな。顔色が真っ青を超えて真っ白だぜ。あ、それは元々だったっけな。」
海面まで500メートル。
「パニック状態の人間をおちょくるのもたいがいにしてくれませんか?撃ち殺しますよ!?」
海面まで250メートル。
「はっはっは、ギガ冗談だよ。アメくれなくても助けるさ、お前、面白い奴だからな。」
海面に頭から激突するところでロゼオは僕を救い上げた。
「ハァッ…ハァッ…。」
「スリルギガ満点だろ、やりたきゃ、後でもう一回やらせてやるぜ。」
ちょっと、もう…。
「あんたって人は…。」
我慢の限界だ。暴言を吐かせていただきます。
「XXX、XXXXXXXXXX」
プライバシーの保護のため、音声を伏せさせていただきました。
「うぉっ!」
ロゼオが目を丸くした。
「XXXXXXX?…XXXXXXXXXXXX!!!!!」
僕は目を見開き、ロゼオに向かって怒り狂った。
「お、お前がそんなことを言うとは…。」
ロゼオはびっくりしたまま、抱きかかえている僕の暴言を聞いている。
「XXXXXXXXXXXX!!!!????」
ハァ、ハァ…今までのストレスを全てぶつけてやった。
「ははは、悪い悪い、もうギガやんねえって。」
「本当ですね?…僕はこういう冗談は全く通じませんからね。」
「はっはっは、メガわかった。…あぁ、おもしれーなぁ!初めてだぜ、お前みたいなタイプ。」
ロゼオは暴言にまったく気にもせず、タピオカ―ナ号へ向かっていく。
―午後2時12分 甲板―
甲板の上に立っていたのはあの怪物、オメガだけだった。
オメガはサイモンを抱えて軍用のヘリに乗り込むところだった。
「サイモンさん…!」
僕がそう言った後ろで、血だらけで倒れるセンネンをロゼオが軽く突付いた。
「あぁ…?金髪の青年…。また貴様か…。」
オメガはイライラした声色で振り向いた。
「思い出したぞ…どこかで見た事のある顔だとは感じていたんだ。バロンの弟だな?貴様。」
オメガはサイモンを軍兵達に手渡した。
「あ、あ…サイモンさんに何をするつもりですか!?」
僕はそう叫んだ。
「あんだぁ…?」
ロゼオも僕の横に並んだ。
「フムァ―ハッハッハ!“サイモンサン”ってのは№5491のことだな。なぁに、本部でもう一度最強の改造人間に改造するのだ。今度は脱出するなんて考えさせないよう理性を一切取り除くとのことだがなぁ。そしてこの丸頭には各国々を侵略する殺人兵器になってもらうのだ。」
オメガはそう言い放った。
「何だと…。」
僕は怒りがこみ上げてきた。
サイモンさんがお前達にどれだけ苦しめられていたと思っているんだ…。
「…サイモンさんはモノじゃない!列記とした人間だ!」
「そう、レッキだけにな。」
僕はロゼオをぶん殴った。
「人間だと?誰がそう言いきれる?今№5491が持つ理性はモンスターの欺きの理性なのかもしれないじゃないか。」
オメガが笑顔でそう言った時、
「それを決めるのはお主等ではないわぁ…。」
センネンが唸りながら立ち上がった。
「やれやれ、最近の若者共は…粋な心も捨ててしもうたのか…。」
オメガはイライラした顔をすると、足元に落ちている刃物をセンネンに向かってぶん投げた。
「死ねぇ!」
刃物はセンネンの額めがけて飛んできた。
―ガキン
寸前で刃物は床に落ちた。
「…?」
ロゼオが咄嗟に伸ばした鎌がせき止めたのだ。
「安心しろ童顔爺さん、俺はもれなくギガ粋な心意気をメガ持ってやがるぜ。」
センネンは驚いた顔でロゼオを見つめた。
「サイモンさんを助けましょう、今度連れてかれたらアウトです!」
僕はそう叫ぶと、オメガに向かって突進した。ロゼオも後に続く。
「レッキ…ギガ伏せろ!」
ロゼオの声に反応し、走りながらしゃがみこんだ。
「デッドハンド!」
ロゼオが右腕をガッと前に構えた。瞬時に赤黒い腕になり、猛スピードでオメガに飛んでいく。
「フムァ!?」
ズゴォ――――ン!
大爆発した。ヘリも一緒に全壊してしまった。
「フライトはメガ無しだ。」
ロゼオはヘラヘラと笑っている。
「……。」
僕はありえないばかりの光景を見つめている。思えば、獅子の形状の炎を作るセンネン、高速で移動したフリマさん、謎の赤黒い腕を出したロゼオ。
不思議な人々に会ったのはいい経験なのか、はたまたそうでないのか。煙の立ち込める中、オメガの唸り声が聞こえ、オメガが襲い掛かってきた。
「あっ!」
オメガの腕が僕に当たる寸前で、暗器が腕に突き刺さった。
「ぎゅああ!」
オメガが腕を押さえ、その場から離れた。クリスが船の縁に掴まっていた。
「レッキさん、大丈夫スか?」
暗器を3本持ち、甲板に乗り込んできた。
「いえ、助かりました。」
僕は礼を言うと、オメガの方を向き直った。オメガは苦しみながらも、怒り狂い始めた。
背後では、トランクとサイモンを運ぶミサの姿が確認された。
「ちくしょう、ちくしょう、どいつもこいつも…ワタシを邪魔しおって…。ワタシは究極の改造人間なんだぞ。」
自分の顔をガリガリとかきむしり出した。
「うぐぐぐぐ、あんなクソみてえな死神にすら、邪魔されるとは…。」
―ガリガリ、ガリガリ…
オメガはまだまだかきむしる。
「あきらめろ、お前の負けです。」
僕はBMを構えた。しかし、
「うなっ!?」
ロゼオに後ろに引っ張り飛ばされた。
「何するんですか?」
クリスとミサが駆け寄る中、オメガの前に立ったロゼオは口を開いた。
「…クソみてえな死神?」
今まで聞いた事のない恐ろしい声だった。
「今コイツ俺を馬鹿にしたぜ?」
鎌を甲板に捨てて、両腕を震わしながら唸り始めた。
「むかつくぜ…クソなんて親にも言われたためしがねえ…。」
イライライライライライライライライライライライラ。
ロゼオが赤いオーラに包まれた。
「ろ、ろ、ロゼオさんんん!?」
クリスが涙目になっている。
「ふむぁああ!?」
オメガも目の前の状況に気付いた。が、もう遅いらしい。
「どむかつくぜこんちきしょおおおおおおおおおおおお!!」
ロゼオの赤黒い両腕が空を切ってきた。それらは全てオメガの身体、顔、脚に一撃を加えていく。
「ムカツク!ムカツク!ムカツク!ムカツク!ムカツク!ムカツク!ムカツク!ムカツク!ムカツク!ムカツク!ムカツク!ムカツク!ムカツク!ムカツク!ムカツク!ムカツク!ムカツク!ムカツク!ムカツク!ムカツク!ムカツク!ムカツク!ムカツク!ムカツク!ムカツク!ムカツク!ムカツク!ムカツク!ムカツク!ムカツク!ムカツク!ムカツク!ムカツク!ムカツク!ムカツク!ムカツク!ムカツク!ムカツク!ムカツク!ムカツク!ムカツク!ムカツク!ムカツク!ムカツク!ムカツク!ムカツク!ムカツク!ムカツク!ムカツク!ムカツク!ムカツク!ムカツク!ムカツク!ムカツク!ムカツク!ムカツク!ムカツク!ムカツク!ムカツク!ムカツク!ムカツク!ムカツク!ムカツク!」
ズガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガ!
もの凄いスピードで容赦のない赤黒い腕のガトリングパンチは続く。
ギガ ムカ ツク にも 程 が あ る!!
ガトリングはオメガごと、タピオカ―ナ号を完全に破壊した。
「が…ばかな…ワタシが負けるなんて…1%が勝ったのか…!?」
気を失う寸前のオメガに、ロゼオはこう言い放った。
「知るか!」
―数分後
海面に浮かぶボートに、僕、ミサ、クリス、サイモンさん、センネン、プヨン教授、そして、ロゼオが座り込んでいた。
もちろん、極秘資料も取り戻した。彼らの目の前には、ボコボコにされたオメガがプカプカ浮かんでいた。
オメガは2、3回白い泡を吹くと、沈んでいった。
「…僕は豪華客船にはもう乗りたくないです。」
「わたしもですの…。」
僕とミサのこぼした言葉に、一同がゆっくりと頷いた。
そんな中、ロゼオが笑いながらこう言った。
「アメ食うか?」
「いらん!!!」
―蒼の騎士団軍用のヘリ―
ノアはその光景を全て観察していた。
「カカカ、素晴らしい。」
隣に座るノブは少しご立腹である。
「どうした?」
ノアはノブの方に向き直った。
「どうしたもクソもありません、あの馬鹿は任務を失敗したんですよ?」
ノブはランタンを揺らしながら怒っている。
「気にすんな、その失敗したアホももう死んだ。」
ノアはカカカと笑いながら懐からケータイを取り出した。
相手は、ジョイジョイアイランドの軍兵であった。
『ノア様、お疲れ様です。』
「おう、ガンマか、朗報だ。オメガが死んだからお前が新しい小隊長な、以上。」
『はい、わかりました。』
ブチッと切ると、ノアは座席を倒し、眠りだした。
「やれやれ…。」
ノブは呆れてその光景を見つめていた。
ジョイジョイアイランド、そう、リクヤ率いる処罰機関が潜伏している場所だ。
第26章へ続く