第26章:更に処罰機関
―3001年 3月2日 午後6時30分 ジョイジョイアイランド内ホテル―
ドン・グランパからもらった赤いスカーフを巻きつけ、チャームポイントの茶色い前髪を引っ張り出した。革のジャンパーを着こなし、大型の剣を背負って、処罰機関総司令官リクヤはようやく準備を整えたのだった。
「はぁ~!」
首を左右にひねってポキポキと骨の音を鳴らす。
気持ちいいんだって、これ。そして、鏡の前で座右の銘を一言。
「ベタな展開は許さねえ。」
おし。
「行くかな。」
部屋の外には、坊主頭のドレッドがいた。
何でも、これからは真面目にするという自分への戒めらしい。さて、まずは質問だ。
「何故、俺の部屋の前にいるんだ?」
ドレッドは笑顔で答えた。
「お供します!」
「結構です。」
俺はドレッドの横を素通りしてツカツカと歩き出した。
「あぁっ!ちょっとお待ちください!」
赤毛坊主は慌てて俺の後に付いた。
「金魚の糞か、お前は!」
「金魚なんてとんでもない!司令官殿は美しき錦鯉で―」
ドレッドは俺の手により、壁にめり込んだ。
「そういや、蒼の騎士団について何かわかったことぁあるか?」
タバコに火を点けながら俺はそう聞いた。
ドレッドは壁に垂直に刺さったまま一枚の紙を取り出した。
「これは?」
「現在の警備状況です。これによると、蒼の騎士団らしき人影を目撃することが増えています。ここんとこは見られなかったのに、奴等、何かしでかすつもりですよ。」
ドレッドの考えにも一理ある。
「確かに、あいつらはこそこそ隠れて事を行う連中だ。それを、堂々と姿を見せるなんざ少しおかしいぜ。」
あのぉ…そろそろ抜いていただけないでしょうか…。壁にめり込んだドレッドがそんな懇願の瞳でこちらを見つめる。幻覚であろう。
「おやおや、ドレッド坊や、何をしているんですか。」
ゴショガワラが走って来た。
「彼は釘になりたかったらしい。」
『んなわけないじゃないですか!』と、言おうとしたドレッドのケツをぶっ叩いた。
「ほんぎゃあ!」
もう一度、
「釘になりたかったらしい。」
「おや、そうでしたか。」
ゴショガワラはドレッドを引き抜くと、失礼しましたと言い残し、走り去って行った。
「やれやれ…。」
プゥ―――ッとタバコの煙を吐くと、タバコの吸殻を足で消して、外に出る事にした。
―午後6時36分 ジョイジョイアイランド―
そう言えば、家族連れや、子供達が帰る時間だ。
「ちょっとやめてよもぉ~♪」
「いいじゃねえかよ。」
「キャッキャッ☆」
いちゃいちゃしたカップルに入り浸っている。ベタなセリフを並べやがって…虫唾が走る。
俺は一人寂しく中央の道を歩き進む。気付くと、商店街の路地裏を歩いていた。
「やっべえな…迷っちまったか。」
辺りを見回すと、なにやら蒼い軍服を着ている水色の髪の少年がいた。顔は真っ白だが、かなりの美形だった。
だが、その身体は怪しく輝いている。殺気まで感じた。
「誰だ?お前…。」
背中の剣の柄を確認しながら、俺はそいつに近づいた。
「殺さないよ。」
そいつは口を開いた。
「何で俺の考えることがわかった?」
俺は驚いたが、とにかく平常心だ。素直に驚いたら相手の思う壺だ。
「不思議に思ったでしょ。目線だよ、目線。剣の柄にわずかだけど目移りしたもの、ボクのことを警戒している証拠さ。」
こいつ…中々賢いじゃねえか。
「お前、何て名だ?」
「レイン…レイン・シュバルツ。」
…シュバルツ!?デスライクと同じ名字じゃねえか!
「お前、蒼の騎士団かよ…。」
平常心を保とうとしたが、さすがに冷や汗が浮かぶ。この間にも、周囲に軍兵がいるかもしんねえ。
今はほぼ夜中、俺は処罰機関総司令官。狙う理由もあるし、今は絶好の暗殺機会だ。
「俺に対する天誅か何かか?手下がいるなら出せよ、俺は抵抗なんざしねえ、そんな弱い男だ。」
レインはクスッと笑うと、
「いないよ、そんな人達。」
と、笑いながら言った。まだまだ、信用なんて、最後までしちゃダメだぜ。
「フフッ…さすがは国家の4大柱の一人だ。威厳も充分。」
レインはクスクスと笑う。
「お前、さっき俺を殺さないっつったよな。」
「ああ。」
レインは頷いた。
「じゃあよ、聞くが…俺をこのまま無事にホテルまで帰してくれんのかよ。」
「…。」
レインは黙り込んだ。
「俺は弱い男さ、だから、このことを洗いざらい国家の本部に連絡するつもりだ。止めるか?やっぱ殺すか、それとも拉致って殺すか…?」
レインは、無表情で答えた。
「心配ないさ、ちゃんと解放するよ。」
その余裕に満ちた顔には、少し疑問も感じた。
「脅しじゃねえぞ?本当に言っちまうぜ?」
レインは首を横に振った。
「別にそれは何の問題もない、ボクが言いたいのは、ジョイジョイアイランドで蒼の騎士団が起こそうとしている事さ。」
俺はもはや、平常心どころじゃなかった。
「蒼の騎士団は何を起こそうとしている!?」
レインの肩を揺さぶった。
「教えるために、ボクはここに来た。これだけは信じろ、最上、陸也…。」
ソイツが何故俺の名を知っているかなんてどうでもよかった。レインは真面目な顔つきでこう言った。
「ノア・デッドシップという男を知っているか?彼はここ、ジョイジョイアイランドに“箱舟”という戦艦を作っているんだ。もうじき、奴等は箱舟で、ここを一掃して、更にそれでセントラルに宣戦布告をするつもりらしいんだ。」
俺は背筋が凍りついた気がした。俺はとんでもないことを聞いてしまったのだ。
「…………。」
「そんなリアクションは想定内さ。ま、言いたい事は全て言ったから、絶対止めなきゃダメだよ。」
レインは踵を返して歩き出した。
「ちょ、ちょっと待て!」
レインの足が止まる。
「何で、お前は俺達にそんな事を教える…!?お前は敵なんだぞ?」
レインは笑顔でこう答えた。
「ボクは、ヒーローが大好きなのさ。」
そう言うと、レインは自分の胸に手を当てた。
「分解。」
レインがそうつぶやいたと同時に、レインの身体が粒子になって消え去ってしまった。
「う………む……。」
夢を見てるようだ。いや、夢なんて生易しいものじゃない!すぐにドン・グランパに連絡だ!
―3月3日 午前7時34分 ジョイジョイアイランド 入口―
昨日の事もあり、少し疲れた。俺は入口にて“あの人達”を待っていた。
「おっそいな…。」
しかも、隣にはドレッドがシャキンと立っている。さて、まずは質問だ。
「何故、俺の横にいるんだ?」
ドレッドは笑顔で答えた。
「お供します!」
「結構です。」
いいかげんにしてほしいものだ。
「邪魔なんだよ!昇進したいなら俺の視界に入るな!!」
「了解しました!」
ドレッドはその場に伏せ、俺の視界から消えた。
「しっかり下からお供します!」
―午前7時36分―
ドレッドにフライングプレスを決め込み、その後ゴショガワラにそのアホを手渡した。
「それにしても遅いですなぁ。」
ゴショガワラは目を細めた。
「仕方ねぇさ、あの人達も忙しいんだ…大体俺だってあの人達とぁ会ったためしもねえんだ。」
俺は肩をすくめた。その時だった。
「待たせたね。」
前方から只者ではない連中が4人歩いてきた。
一人は茶色のコートに茶色の帽子、そう、チームパンドラ指揮官、プロ・フェスターだ。
「ごきげんよう。」
「ご苦労さんです。」
俺は敬礼を軽く済ますと、後ろにいる3人に目を移した。
「ハァ~!ここがジョイジョイアイランドかよ、はしゃいじゃっていいかぁ?え?そりゃあまいか?え?オレだけに?」
そう言っているのは、全身真っ白な謎の生き物だった。
皮製のグローブに、固そうなシューズとパンツしか穿いていない。フカフカしたその身体からは、ほんのり甘い匂いがする。
「かぁ~…こんなに立派な遊園地じゃあ…迷っちまうだろうな…面倒くせえ…。」
もう一人は、老成した顔つきの男だった。灰色の髪は片方だけ耳のようにとんがっている。そして、もう一人は…。
「あぁ―――――っ!」
ドレッドが悲鳴に近い大声を上げた。
「ききききき、貴様はあの時のぉぉぉ!」
ドレッドは怒り狂ってその男に殴りかかった。
『ぎゃぁああ!!』
もちろん、彼の行為に俺は心臓が止まりそうになった。
「コォルァアアアア!チームパンドラの方々に向かって失礼だろぉがぁ―――――ッ!!」
飛び蹴りがクリーンヒットして、ドレッドは再び壁にめり込んだのでした。
「しかし、凄いな…片耳のロキ、豪腕のマシュマ、そして、道化のジャスティスじゃないか…。」
俺は知っている。この3人はチームパンドラの隊員達だ。特に、ジャスティスは随一の実力を持っていると聞く。
「どうも、ロキ殿、マシュマ殿、ジャスティス殿。自分は処罰機関総司令官、最上陸也といいます、よろしく。」
サッと握手を求めた。ぶっちゃけ憧れの存在だったのだから。
「ん?握手ぅ?面倒くせえな。」
ロキは嫌そうな顔をした。握手が面倒くさいって…どんだけよ。
「おう、若いなぁ…お前、今年で何歳になんだよ。」
ジャスティスは俺の手を握った。うおお、すげぇ力だな。
「今年で22歳になる。」
「おぅ、そうか…そこの赤坊主はお前の連れか?」
「滅相もない!アイツは人間の皮をかぶった邪気で…!」
「あ、あんまりな言い方じゃねえか…とにかくしつけとけよ。やれやれ、何度見ても、アイツとは大違いだぜ。」
ネクタイを軽く整えながら、ジャスティスはそう言った。
「…アイツって…知り合いかなんか?」
「え?ああ、まあな…。俺より大人びている奴だが、まだまだ未熟だ。お前とはいつか出会うとは思うが、優しくしてやれよ。」
気になる言葉だ。ジャスティスはそう言い残すと、仲間と共に中に入って行った。
「…やっぱカッコいいな。」
俺は憧れの存在に会えたので少しはしゃいでいるのだ。
「俺もああいう威厳を持ちたいもんだぜ。」
「司令官ならできますよ。」
ドレッドが笑顔でそう言った。
「…偉そうなことを言うなってんだ…。」
顔を真っ赤にして俺は4人の後を追った。
マシュマはジャスティスにこう話しかけた。
「お前、周りから“ジャスティス”なんて呼ばれてんのかよ、おもしれえ。へっへっへ!」
「うっせえ!」
ジャスティスはマシュマの頭をひっぱたいた。
―午前7時46分 ジョイジョイアイランド内ホテル―
「で、蒼の騎士団が見られたとこってどの辺なんだい?」
フェスター指揮官はソファーに腰を下ろしながら話をきり出した。
「ええ…実は―」
「ホテルマンのあんちゃん、ここでいっちばん甘いデザート出して!あと、コーヒーもな!砂糖2百個!甘くしろよ、オレだけにな。」
マシュマが血糖の高いものを頼んでいるが、幻聴だろう。
「ご、ごほん、話を戻そうか。」
「え…あ、ああ…。」
その後、昨晩レインに会ったこと、そして、蒼の騎士団がここで企んでいることを洗いざらい話した。
「…ムゥ…。」
フェスター指揮官は黙り込む。
「それは本当なのか?お前が幻でも見たのかもしんねえし…蒼の騎士団の総統の息子だろ?」
ロキが疑問気に聞いてきた。
「幻じゃない、俺は、あいつに現に触れたし、足跡だって確認した!」
俺は自分の目を指差しながらそう叫んだ。すると、黙ったままだったジャスティスが口を開いた。
「じゃあ聞くが、その総統の息子、レイン・シュバルツは何の因果で処罰機関総司令官のお前に会いに行くんだ?」
「う…それは…。」
レインが残した言葉、『ボクは、ヒーローが大好きなのさ。』なんてセリフ、恥ずかしくて言いようがない。
「…。」
ジャスティスは腕を組んで何やら考え始めた。しかし、数秒後。
「うん、凄く大変なことになってるな。」
結論はこんな感じでした。
「何だそりゃ!」
俺はガックリと頭を下げた。
「なんにしろ、面倒な事態になってることぁ、わかったぜ。」
ロキは面倒くさそうに頭をかいた。
「ふあ~…内容は理解した。フェスターのおっちゃん、俺は席を外させてもらうぜ。部屋で眠りてぇんだ。」
ロキはゆっくりと立ち上がった。そして、
「歩くのが面倒だな、マシュマ、代わりに部屋で寝てきてくんねえか?」
そう言ってまた座り込んだ。
「アホか!」
ジャスティスに一喝されて、ロキは結局フラフラと部屋まで歩いていった。
「あのよぉ…アンタ達は事の事態を全く理解してないだろ!?」
俺は少し憤慨しながら立ち上がった。
マシュマはクリームパフェをいつのまにかたいらげ、笑顔で俺を座らせた。
座った瞬間、甘い匂いが広がった。
「わかってるさ、蒼の騎士団をどうにか止めないとなんねえわけだろ?オレだけに。」
「あんたに蒼の騎士団の何の要素があるんだ…。」
俺は青ざめた呆れ顔でマシュマを睨んだ。
「甘い物を食ってる時のこいつの言葉は気にするな。」
フェスター指揮官が口を開いた。
「とにかく、昨晩、リクヤがレインに会ったとされる路地裏で、蒼の騎士団の、軍靴の足跡が発見されたんだ。まんざら嘘でもなさそうだな。」
「そうなんか?」
ジャスティスがフェスター指揮官にそう言った。
「明日、もう一度確認しよう。いいな?」
「おう。」
ジャスティスは頷いた。
「ところで、今回は私はある資料を見なければならなくなってしまったのだ。」
「資料?なんのだよ?」
俺は眉をひそめた。この非常事態にデスクワークかよ。
「何でも、十二凶についての極秘資料だ。受験生がドン・グランパの元まで運んでいくはずだったらしいのだが、ドン・グランパは現在北方支部へ向かっている最中だ。だから、代理として私が目を通さなければならなくなったのだ。」
「受験生!?」
ジャスティスが飛び上がった。
「どうしたんだよ?」
「何か困ることでもあるのか?」
俺とフェスター指揮官はほぼ同時にそう聞いた。
「あ…お、俺はちょっと部屋で風景画を描かなきゃならないんだ。き、今日は休む…。」
下手な嘘である。絶対何か隠してるな。
―同じ頃 ジョイジョイアイランド方面 上空―
国家専用のヘリは大きい。真っ黒なボディに、大きく誠の文字が描かれている。
「凄いね、わたし、こんなに楽しいと思ったことはないよ。」
ミサが僕の隣で外の風景を見ている。僕も少し顔を外に向けた。
朝日に輝く海原。金色に光る空。うん、確かにキレイだ。
「僕は最近よく空を飛ぶ。」
少し疲れた顔で僕はそうつぶやいた。
「空は楽しくないですか?わたしは空を飛んでみたいですの。」
ミサの想像を遥かに超える恐怖を、僕は伝えたい。
「ねえねえ、あれがジョイジョイアイランドじゃないスか?」
クリスは風景の一点を指差す。そこには、帝国じゃないのかと思わんばかりの巨大な城壁が構えていた。
観覧車も見えるが、周囲に比べれば、もはや点レベルだ。
「あそこで迷ったら一生彷徨うハメになりそうッス。」
ごもっとも。
「しかし、どうしてセントラルに戻らなきゃならないのが、遊園地に行くことになるんでしょうか?スチルさん?」
僕の向かい側の席には、スチルがドッシリと身を構えている。あいも変わらず偉そうだ。
「何度言えばわかるのだ。ドン・グランパはお忙しいお方だ。代理として、フェスター指揮官が極秘資料を受け取ることになったのだ。」
そう、タピオカ―ナ号から脱出して、なんとか岸に上がった僕達を待っていたのは、凄い剣幕のスチルだった。
『貴様等は…俺の言う事をまともに守れんのかぁ―――ッ!!!』とまぁ、延々と続く説教の中、正座をさせられたのは最大の屈辱でした。
その翌日、セントラルではなく、ジョイジョイアイランドへ迎えと宣告されたのだった。そして、今に至る。
「………もう一度言おうか?」
「もういいです…。」
“我慢しなくてもいいぞ、この俺が許すのに。”スチルは不満そうな顔をしながら、そう付け足した。
変人リストに登録完了である。
「しかし、お前達の連れは何で一緒に乗ってかなかったのだ?」
スチルは不思議そうに外を見つめる。ヘリの座席には、僕とスチル、クリスにミサ、そして極秘資料しかない。
「さぁ…。」
僕はメガネを掛け直した。
―数時間前 ナツココ空港―
「すれすれを飛ぶのか?これが?海上を!?」
センネンは引きつった顔で国家専用のヘリを見つめる。
「そうだ、燃料の節約のためにも、なるべく低飛行をする必要がある。少し水しぶきが入ってくるかもしれんがな。」
スチルはヘリの入口から顔を覗かせた。
「…お前、乗り物がメガ苦手か?」
ロゼオが眉をひそめた。
「いい、いや…わ、ワシは、この辺で失礼させていただく。は、はは…。」
センネンは後ずさりを始めた。
「ギガ変な野郎だな。」
ロゼオは不思議そうにセンネンを見ている。
「ねえねえ、わたし思ったんだけど。」
ミサはイタズラっぽい笑顔で懐から何かを取り出した。
「センネンさんって猫に似てない?」
取り出したのは、ねこじゃらし、イネ科の一年草、別名エノコログサ。である。
「ふにゃあ!!」
センネンはそれを凝視した。
「でも、昨日では『獅子神!』とか言ってたじゃないか、ウン、猫じゃあないと思うけど―」
「フニャァ!」
サイモンさんがそう言ったのと同じくらいのタイミングで、センネンはミサの足元に滑り込んだ。
「きゃは~☆かわゆい!かわゆい!」
ミサはねこじゃらしをフリフリと振る。センネンはそれを捕まえようとじゃれつく。
「……ウ…ン。」
サイモンさんとスチルは硬直している。
「な…あ…ああ。」
クリスは表情を痙攣させながら声を漏らしていた。
「ぎゃはははは、何だコイツ、うははは、ギガ猫じゃねえかおい!ぎゃあはははは!」
ロゼオの笑い声で僕はハッとした。この状況はマズイ、センネンのキャラが完全に崩壊しているじゃないか。
「センネン、センネンさん、おぉ~い、センネンちゃん………タマ?…。」
センネンを軽く突っつくが、ダメだ、完全に猫だ。ミサに頭を撫でてもらっている。
「ニャムニャム…、フあっ!」
センネンが我に帰ったらしい。
「………あ…。」
周囲の白い目に気付くと、慌てて立ち上がり、
「は、ははは…。」
服のホコリを落とした。ついでに自分の誇りも落としてしまっただろう。
「…………………これで最後じゃ、もう会うことはないじゃろう、さらばじゃ!」
顔を真っ赤にして、半泣き状態のままセンネンは駆け出した。真っ青な顔をした一同は、センネンを見送った。
最初に動いたのはサイモンさんだった。
「ウン、僕は彼を追うよ。」
「え?」
ジョイジョイアイランドだろ?サイモンさんは自分の荷物を背負いながらさらにこう言った。
「ウン、バロンとの約束もあるし、なるべく早く合流できるようにするよ。」
「しかし…。」
「ウン、大丈夫さ、必ず後から追いつくようにするからさ、ウンウン………待ってよセンネン!!」
サイモンさんはセンネンの後を追い、走り出した。
「…行っちゃったッス。」
唖然とした一同にロゼオが笑顔でこう言った。
「アメ食うか?童顔爺さんのオメガ意外な一面をメガ見れた記念として―」
「いらん!!!!」
―数時間後 上空―
そして今に至る、さっきも言ったっけ?まぁいいや、ロゼオは空を飛ぶのが好きなんだとか言って、ヘリの横を優雅に舞い上がっているわけだ。
「ひゃっほぉ~!ギガキモイぜぇ~!」
「ギガ…キモイ!?」
クリスが耳を疑った。
「いや、あまり気にしないで…。」
僕は深いため息をついた。ロゼオが言うには、『キモイ』というのは『気持ちいい』の略語らしい。もちろん、それは少し違うぞといずれ突っ込むつもりである。
「さあ、降り立つぞ、くれぐれも忘れるな。お前達は遊びに来たわけじゃないんだからな、わきまえておけ、俺が許す。」
何をだ。
―午前8時30分 ジョイジョイアイランド入口前―
入口前にて、僕は変な奴を見つけた。赤いスカーフを頭に巻き付けた茶髪の男だ。
タバコをふかしながら、ソイツはこちらに近づいて来た。
「よぉスチル、お久しぶり。」
「リクヤか、大きくなったな。」
どうやらスチルと知り合いらしい。
「紹介しよう、こいつは処罰機関総司令官、最上陸也だ。」
処罰機関!?あの生意気なドレッドの顔が浮かんだ。
「……。」
「はぁ~ん?なるへそ、確かにアンタの言う通り、デスクワーク向きだな。」
リクヤと呼ばれた男は僕をマジマジと見つめる。
「レッキです、よろしくお願いします。」
デスクワークとは生意気な。
「おう、リクヤだ。気軽に呼べ。」
リクヤと軽く握手を交わすと、僕は入口の奥に見慣れた人影を見つけた。リクヤはそれに気付いたのか、
「ああ…あの人、気になるだろう…ジャスティスってんだ。チームパンドラのリーダーだ。」
チームパンドラ?…リーダー!?あの人が!?
「かっこいいだろ!?俺の憧れなんだ…っておい!」
リクヤの言葉もまともに聞こえない。
そうか…あの手紙の内容、茶色のコートのプロさん、フリマさんとアリシアさん、ドン・グランパ、そして、師匠が何で一緒にセントラルに行きたがっていたのか。全て理解した。そう、全てを、師匠が何なのか、それがわかった瞬間だった。
ジャスティスの前に立ち、
「うおあ!レ、レッキ…!」
驚いた仕草をした彼に、僕はいつもの調子でこう言った。
「ごきげんよう、師匠。」
第27章へ続く