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第27章:8人の騎士達

―3001年 3月3日 午前8時35分 ジョイジョイアイランド内 広場―

白いネクタイ、黒い神官の服、でかい図体、そして、頭を隠したシルクハット。
僕の師匠、シーク・レットは硬直したまま、僕を見つめていた。

「やっとわかりましたよ、あなたが何なのか。国家職員なんて…思いもしませんでしたよ。」
「あ、い、いや…あの…えーとな…あー…。」

師匠はドギマギしていたが、やがて、ガックリと肩を落とし、

「ははは…今まで黙ってて悪い。」

申し訳なさそうに頭をかいた。

「何だシーク、数年前、『弟子ができた。』と言っていたが、ソイツのことか。」

スチルが面白そうに近づいて来た。

「まあな……スチル、お前コイツのこといじめてないだろうな?」
「フフ、どうかな?」

冗談交じりに、スチルはそう言った。

「な、なんだ!?いじめたのかテメエ!」
「師匠!」

師匠は僕のことに対してはすぐにムキになる。

「シーク…どういうことですの?」

ミサとクリスも一緒に近づいて来た。

「おう、ミサじゃねえか、ま、そういうことだな。」

ミサも全て察したらしく、

「わぁ…。」

そう声を漏らしながら目を丸くした。

「クリスじゃんかよ、おっす。」
「う、うっす…。」

クリスが師匠と軽く挨拶を交わした後、リクヤがワタワタと駆け出してきた。

「おおおぃ!このガキが…アンタの弟子!?」

む!ガキとは失敬な。

「ガキだからってバカにすんなよ?コイツは俺が誇りに思う最高の弟子だ。」

師匠は僕の頭をポンポンと叩く。
顔が真っ赤になった。

「くすぐったい事言わないでください。」
「え?おぉ、わりいわりい、ハハハハ!」

―午前8時50分 ジョイジョイアイランド内ホテル フロント―

「さてさて…。」

茶色のコート、プロさんが歩いてきた。

「やあやあ、元気だったかい?君とは空港であったな。いやぁ、何たる偶然。」

プロさんは僕の腕をギュッと握った。気力のない、弱々しい力で。

「ゴフォアァァ。」

なんということでしょう。プロさんは、口からそれはそれは美しい色の血を吐き出しました。
手を握られている僕は当然逃げることもできるはずがなく、見事に顔に直撃したのでした。

「しぎゃああああ。」

悲鳴を上げたのは僕ではなく、ミサだった。彼女は痙攣を起こすことなく、失神した。

「うわぁ!だだだ、大丈夫スか!?」

クリスが慌てて倒れたプロさん助け起こした。

「ゴホッ…す、すまんね、持病の心臓病の発作だ。心配いらない、常備薬がある。クリス君、悪いが水をくれないか?」

彼は座り込んで薬を2粒飲み込んだ。

「…。」

怒りに震える拳を何とか抑え、僕は顔に付いた血をハンカチで拭き取った。

「それで、礼の極秘資料ってのはどこだよ?」

師匠はネクタイを整えながらそう言った。

「あ、そうでしたね。」

重いトランクを投げるようによこした。

「ほんぎゃあ!」

師匠の頭に落下したトランクをプロさんが拾い上げた。

「ム…重いなぁ…。」

彼は顔を真っ青にして失神しそうになった。

「危なっかしくて大変だぜ。」

そう言いながら師匠は彼の身体を支えた。

「おいリクヤ、そいつ等に国家機関について教えてやれ。ただし、いじめんなよな。」

師匠はそう言い残すと、

「アゴフォエァアアア!!」
「ぎゃあああああ!!」

再度吐血したプロを見て絶叫した。
どうやらプロさんは、ある意味恐れられている存在らしい。

―午前9時46分 リクヤの部屋―

きったねえ部屋!!
服が散乱する中、まともな部屋まで進む僕達。人が経営しているホテルの部屋をよくもまあここまで散らかせるものだ。

「まあ、くつろげよ、コーヒー入れてやる。」

くつろげるものか。
リクヤは口笛を吹きながらホテルによく取り付けられている簡単なコンロに火を点けた。
やがて、大きめのテーブルにコーヒー3つと、簡単な洋菓子をポンと置かれた。ミサは早速洋菓子に手を伸ばす。

「リクヤさん、砂糖100個ちょ!」

クリスはリクヤに砂糖をせがんだ。

「100個もあるかバカ。」
「それくらいないと自分は飲めないッス。」
「アホか!血糖値を気にしろ!」

怒鳴る彼の近くには、溢れんばかりのタバコの吸殻が盛られた灰皿が置いてある。
彼も身体を大事にしてもらいたいものだ。

「つーわけで、俺が偉大なる先輩の鏡、最上陸也だ。まあ、リクヤ先輩様とお呼びなさいな。」

リクヤさんは鼻を高々と伸ばした。

「さっきリクヤと気軽に呼べと抜かしたじゃないですか。」
「あれはあれ、これはこれ。」

何なんだこいつ…。

「ねえねえ、リクヤさん、シークが国家機関の人って本当なんですの?」

ミサが驚いた顔でそう質問した。

「リクヤ先輩様と呼べミサ君。まぁ、びっくりしただろ?お前等の知り合いが国家機関で働いていたなんてさ。」

リクヤはタバコに火を点けながらうんうんと頷いた。タバコの煙が充満しているんですが…。

「ジャスティスは俺が就職する前からずっと国家で働いているらしい。俺は当初あんま見た事なかったし、今回が初対面だったんだぜ。」
「じゃあ、国家で働いているなら会えるはずじゃないスか。」
「あの人はよく国家機関から姿を消したりしててな。十数年前に消えてから、5年前ちょっと顔を見せただけでな、“幽霊職員”と呼ばれる始末だったんだ。ま、俺はそれでもあの人への憧れは変わらないけどな♪」

十数年前か、ちょうど、僕と師匠が出会った時と合っている。それに…。

「5年前…。」

確かに、5年前、師匠は一日中どこかへ出かけたままだった。セントラルへ戻っていたのか…。

「師匠についてもっと教えて下さい。知っている範囲で結構ですので。」

僕はコーヒーをすすりながらリクヤに目を移した。

「わたしも知りたいですの!」

ミサも師匠の過去に興味津々だ。
クリスはコーヒーを口にしながらも、軽く耳を傾けている。興味を示している証拠だ。

「あぁ!いいぜ、俺もあまり聞かされてないが…。」


彼から聞くところによると、師匠が国家機関に就任したのは25年前のことだったらしい。
師匠は僕くらいの年齢の少年で、最初は力量も低かったというのだ。まぁ、それもそうだろうが。あの時の程度の実力ではスカウトでしか就任方法はなかったという。
彼をスカウトしたのは、“ゲンカク”という男と、“ミカエル”という牧師だったらしい。ゲンカクという人は僕も知っている。アリシアさんの祖父だ。
師匠は彼のことを先生と呼んで、神技を修得したというのだ。あれほどの力を持ったのだ、そうとう厳しい修行をしたのだろう、そのゲンカクって人…。

「ゲンカク・ゴットハンド、彼は先代チームパンドラの一員、リーダーだった。今では国政機関の方で政務の方に務めているがな。」

あの人は名前通り、厳格な人なんだよなぁ~…。
しみじみとした顔でリクヤはつぶやく。
それから更に2年後、各地から集まった精鋭により、“新生”チームパンドラが結成されたんだ。

「ところで、そのチームパンドラというのはどういうチームなんですか?」

いいとこに目をつけたな。と、リクヤはニヤリと笑う。

「チームパンドラは“8人の騎士”ってので構成されているんだ。まぁ、詳しくはこれを見ろ。」

リクヤは一枚の名簿を差し出した。

「チームパンドラの名簿表だ。」


チームパンドラ:2909年結成

リーダー:レクサス・クロス・ブレイヴ(パンドラの発案者、能力紋・マスターロード)
副リーダー:パルース・タルビート  (チームパンドラの副リーダー格、風属性)
指揮官:ダマン・フェスター     (代々指揮官一族出身、能力紋・コンティニュー)
隊員:フリマ・ドンナ        (無名一族出身、“召喚魔術特級”覇者)
隊員:ルード・ジャドウ       (“闇属性魔術特級”覇者、特殊亜人:死神族)
隊員:武賀原元成          (武賀原一族39代目)
(この内、レクサス2950、武賀原2945、パルース2948、ダマン2953、没。ルード2945、脱退。)

2代目チームパンドラ:2945年結成

リーダー:ゲンカク・ゴットハンド  (特殊武術“神技”創立者兼、2代目リーダー)
副リーダー:ミカエル・ゼウス    (元牧師、能力紋・ジャッジ、特殊亜人:天使族)
指揮官:セレイ・フェスター     (代々指揮官一族出身、能力紋・コンティニュー)
隊員:フリマ・ドンナ        (初代パンドラから再任)
隊員:ドン・ラッド         (ドンファミリー出身、能力紋・ギガントゲンコ)
隊員:武賀原龍壱郎         (武賀原一族40代目)
隊員:アドメット・グラバー     (グラバー一族出身、能力紋・サンドレイン)
(この内、セレイ2998、没。ゲンカク2974、ドン2974、武賀原2974、国政機関就任。ミカエル2960、アドメット2973、脱退。)

3代目チームパンドラ2974年結成

リーダー:シーク・レット・ジャスティス(神技マスター称号保持者、3代目リーダー)
副リーダー:ロキ・フレイマ     (“炎武術最強称号”保持者、フレイマ一族出身)
指揮官:プロ・フェスター      (代々指揮官一族出身、能力紋・コンティニュー)
隊員:アリシア・ゴットハンド    (前リーダーゲンカクの孫娘、“雷帝称号”保持者)
隊員:フリマ・ドンナ        (2代目パンドラから再任)
隊員:スチルサウザンド・ドンナ   (ドンナ一族出身、鋼属性、能力紋・コンバット)
隊員:マシュマ・スゥイ―ティー   (“魔素摩呂拳”修得者、亜人:マシュマロ人)
隊員:キャプテン・ウェイバ―    (詳細不明、亜人:魚人)


「ちなみに、リーダーと指揮官は同じようで違う役割があるんだ。指揮官は、場の状況によって指示を出して、リーダーはその指示に応じてチームを引っ張っていく。つまり、脳が指揮官、神経がリーダー、手足が隊員な。」

わかりやすそうでわかりにくい例えだ。しかし、チームの構成がよくわかったし、何よりアリシアさんもチームにいることに驚かされた。

「見て見て!クリスさんの名字!」

ミサが初代パンドラの副リーダーの名前部分を指差している。

「タルビート一族は代々国家機関に就任しているッス。自分の母上は国政機関に就任したッスけど、自分は裁判機関に入れと言われたもので。」

クリスの母上。女性だろうか、それとも…。いやな想像はよそう。

「フェスター一族も代々ブレイヴメントの指揮官に就任してきたんだ。とまぁ、こんなもんだな。大体、国家機関に就任する人達は血筋か、実力か。それで分けられるんだ。」

そして、年寄りになって戦えなくなった国家戦士は国政機関で政務を行うか、脱退するか分けられるんだ。と、リクヤは付け足した。

「その中でも3代目のチームパンドラは最強の実力を持つと想定されているんだ。まさに国家を守る盾、名付けて“8人の騎士”チームパンドラはそうも呼ばれているんだ。な!憧れるだろぉが!」
「別に、僕はその人達が本当に強いかどうかで判断しますので。」

僕はさらっと流した。

「あっぬ…。」

拍子抜けな声を上げると、リクヤは硬直した。気に障ったらしい。

「総司令官殿!」

バンとドアが開き、部屋の中に飛び込んできたのは、いつぞやのドレッド坊やだった。
しかも坊主頭。これには僕も吹き出しそうになった。

「ああぁ――――っ!金髪メガネ、貴様ぁ―――っ!」

ドレッドの怒り声も、坊主頭のせいで笑えて聞こえん。

「レッキさん凄いッスね、国家機関にたくさんお知り合いがいらっしゃる。」

クリスが目を輝かせながらそう言った。とんだお門違いである。

「総司令官殿!こいつです!こいつが俺達処罰機関に戦いを挑んだ愚か者でありま―」
「ドレッド、いい所にきた!」

リクヤはドレッドの言葉もまともに聞かずに、

「ほんぎゃあ!」

顔面めがけてぶん殴った。

「あぁ~すっきりした。」

いい気味である。

「で、何の用だ?」
「ひゃい、フェスター指揮官が受け取られた極秘資料に一枚だけ抜かれている部分がありみゃした。」

!!!!!!!!!!?

「何ですって!?」

僕は飛び上がった。

「そんなはずないッス!自分は確かに軍兵からトランクを奪い取りましたッス!」

クリスが慌てて立ち上がる。

「奪われた一瞬に抜かれたんじゃないのか?」

ドレッドを引き起こしながらリクヤはそう言った。

「どんな資料が抜かれてたんですの?」

ミサは不安そうな表情を浮かべている。

「お前も金髪の連れだろ!?絶対教えねーもんなぁ!」

ドレッドはヘッへ―ンと鼻で笑った。

「俺には教えろ!!」

リクヤが鬼のような形相でむなぐらを掴みかかった。

「はい。」

ドレッドは顔を引きつらせた。いい気味である。

「国家機関の方針予定、ドン・グランパの移動地全記等、国家上層の細部資料であります。何度も確認しましたが、それだけが見当たりません。それに、詳しく調べたら無理やりこじ開けた痕跡も発見しました!」
「こっかじょーそー?サイブシリョ―?」

ミサが目を点にした。

「簡単に言えば、国家機関全般をまとめるお偉い方のスケジュールのようなものです。」

僕は簡潔に説明した。ミサは納得したのかしてないのかわからない顔をした。

「それも、ドン・グランパとなると、本当にどえらい事態になるッスね。国家機関総取締役じゃないスか。」

ドン・グランパという人はそんなに偉いのか。

「…そうか。」

強引にドレッドを投げやると、リクヤは懐からケータイを取り出した。

「アクマンか?おう俺だ。緊急事態だ。すぐに鑑識をよこしてくれ。パンドラ控え室だ。早急な!おし!」

リクヤは数秒で会話を済ました。

「お前等、ついてこいよ、国家機関の仕事って奴を見せてやる。」

僕等は慌ててリクヤの後を追った。


―ジョイジョイアイランド内 ある施設の中にて…。


小隊長に昇進できたガンマは、ノアの帰りを待ちわびているところだった。

「おう。」

ノアがノッシノッシと歩いてきた。

「御苦労様です、ノア騎士隊長殿。」
「ん。」

適当な返事を返して、ノアは部屋へ戻った。

「ガンマさん…。」

ノブがランタンを揺らしながら部屋へ向かうガンマを呼び止めた。

「はい?」
「今回の仕事でオメガが敗れたことについてですが…相手は少し強かった。戦う時がくるなら、油断だけはいけないですよ…。」

ガンマは黙ったまま頷いた。ノブは彼の肩を軽く叩いて、自分の部屋へ歩いていった。

「…………クヒ。」

ガンマは引きつった笑みを浮かべる。

「クヒヒヒヒヒヒヒ、ヒァハハハハハ。」

彼はしばらく笑い続けて、こうつぶやいた。

「上等だ、ボケ共が、八つ裂きにしてやるさ、この俺が。」

―ノアの部屋―

ノアはは巨大な椅子に腰掛け、外の様子を見つめている。

「ノア様!リッチーと名乗る男がノア様とお会いしたいとの事です!」

突然、軍兵の声が響く。

「あのザンスヤローが?……通せ。」

ノアは軍兵に顔を見せないまま命令した。
しばらくすると、金ぴかのスーツを身に包むチリッチ・リッチ―(仮名)が両手を揉みながら現れた。

「どうもノア様、アタクシの御用意したお部屋の使い心地はいかがざんすか?」
「殺されてェのか?テメェ、そんなつまらねえ理由でノコノコと派手な格好でやってきたわけじゃあねえんだろぉなぁ!?」

ノアはワインを飲み干しながらそう言った。
ワインの瓶の中には、半分程ワインが残っている。“あの時”とまったく同じだ。

「モチロンざんす。蒼の騎士団の皆様には、ジョイジョイアイランドの運営資金を提供してくださっているんですから。実は、今回は朗報があるざんす。」

ノアの自分の手にワインを注ぐ手が止まった。

「朗報?」

目だけがギョロリとリッチ―(仮名)に向いた。

「ええ、実は、こんな面白いものをくすねまして。」

リッチ―(仮名)は数枚の紙を懐から取り出した。

「…よこせ。」

ノアは受け取ったその紙を速読している。

「カカカ、テメェ、どうやってこんなもん手に入れたんだよ。」

ノアは上機嫌になった。

「コネがありましてねぇ…。」
「ほぉ~…。レイン坊ちゃん、ちょっと来なさんなぁ!」

窓際で髪をいじくるレインはゆっくりとノアの元へ歩み寄った。

「どうしたんだい?」
「これは国家機関のお偉いさんのスケジュールだ。これさえありゃあ、邪魔者であるドン・グランパを抹殺できるぜ。」

ピラピラとその紙を渡す。

『…なんてことだ…。』

レインの顔が曇った。

「あん?なんか不都合なことでも?」

ノアは眉を潜めた。

「…い、いや…。」

レインは口を押さえて、その紙を返した。
自分の部屋へ戻るレインを見て、ノアは「変な奴。」とつぶやいた。


自分の部屋で、レインは頭をかかえた。

「誰か止めろ…これじゃあ、世界は終わるぞ…。」


第28章へ続く

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