第3章:神技の脅威と怪しい男
―3000年 1月1日 午前1時22分―
「驚いたなあ。見ろよレッキ!モノホンの悪魔だぜ!」
師匠は空中の怪物を見てはしゃいだ。現在、僕達は廃墟になりかけている「アルスタウン」で蒼の騎士団と戦った。そこで騎士隊長ギルドに出会った。
彼は僕の家族を殺し、それどころか、この町を壊滅させようとしていたのだ。
僕と師匠、と言うより師匠は奴を倒そうとしたのだが、ギルドは突然おぞましい悪魔に変身してしまったのだ。
「…驚きました。」
僕はかろうじてその場の状況の感想をのべた。
「フフフ…。危ない所でしたぁ。」
悪魔ギルドは前より低くしわがれた声でゆっくり喋った。
「お前、モンスターだろ?」
師匠!?何を言ってんだ?モンスターは人間の理性を消去し、代わりに強靭な力と人だったとは思えない化け物の身体、そして「殺す」と言う感情のみ取り付けられる生物兵器なんじゃないんですか?
「奴には理性がありますよ?どういう事ですか?」
「さあね。でもあの青白い電気、モンスターの証だよ。」
そうなのか…。
「あなたの言う通りです。僕は力を手にするため自らモンスターになったんです。もちろん、理性は消さずにしてもらいましたけどね。」
悪魔ギルドは翼をはためかせニヤニヤを始めた。
「ただ、この姿には“時間制限”がありましてね、僕のモンスターの身体は約1時間ほどしかもたなくて、戻ると最低でも24時間、一日は変身出来ないんですよ。」
「一日ぃ?それで時間気にしてたのか!」
「ほう!カス人間にも理解できましたか。」
師匠がなんだとぉ?と叫んだ時、僕はある事に感づいた。
「1時間?24時間待ってた?そ、それじゃあ…。」
悪魔ギルドは僕を見て、
「ご名答。実は先程、また我らの手で一つ国を滅ぼしました。新年を喜ぶ前に死の苦痛を味わってもらいました。」
ニヤニヤ顔のまま自慢そうに口走った。
「もちろん、あなた方にも死の恐怖を味わってもらいましょう。」
師匠は腕を組んだままじっと話を聞いていた。それからゆっくり悪魔ギルドに向かって言った。
「お前の話を聞いて分かった事が三つ程ある。一つはお前の実力だ。国一つ滅ぼすのは大小関係無く難しいものだ。もう一つは制限時間だ。一時間も変身状態を保てるなんて、それこそ大したもんだ。」
「ほほう、では三つ目は?」
「三つ目は俺とお前の実力の差だ。お前は変身してかなり強くなった。しかし!はっきり言ってお前は俺よりはるかに弱い」
悪魔ギルドはニヤニヤをやめた。
「なんだと?何を根拠にそんな事―」
「神技神腕!超・神打!」
悪魔ギルドが全て言い終わらない内に師匠が神技を発動させた。拳から真っ白な波動が飛び出て来た。悪魔ギルドはいきなりの出来事に目をまるくした。廃墟になりかけているアルスタウンの上空から真っ白な閃光が走る。
―午前1時23分―
「いやぁ、ハハ、少しばかり大人気なかったかな?」
師匠は満足そうに僕に向かって言った。その腕は手首まで露出してしまっていて、白い煙が出ていて少し焦げ臭い。空中では、暗闇が白い煙でモヤモヤしている。そのモヤモヤが薄れてきた頃、悪魔ギルドが落ちてきた。
―ドン!
間の抜けた音と共にもの凄い砂埃が舞い上がった。砂埃の中から悪魔ギルドが傷だらけで出て来た。どうやらかなりの痛手の様だ。ざまあ見ろ。
「ヌググ・・・お、お前ぇ…。いきなり何を」
「神技神腕!」
悪魔ギルドがビクついた。
「なんちゃって。」
師匠は笑った。その瞬間、師匠は猛スピードで悪魔ギルドの顔面に蹴りを喰らわした。完全に師匠に遊ばれている。
師匠に蹴られた悪魔ギルドはロケットのように民家を破壊しながら城壁にぶち当たり、「ぎええええええ!」と悲鳴を残して再び城壁と共に崩れた。
―午前1時25分―
死んだか?と思い始めた頃、悪魔ギルドが牙を剥き出しこちらに突っ込んできた。
「来たな?よーし…。」
師匠が左腕を前に突き出し受けの構えをとり、もう片腕を腰まで引き、左足を前に出した。これは神技独特の構えで大体この後神技を連発する、という意味でもある。
「神技神腕!極斬刀!」
ほら見ろ。師匠が叫んだ瞬間、両手の甲から角の様な物が突き出た。ここまで約0.2秒。続いて、その角が前方と後方に分かれて刃の様になった。これが極斬刀だ。
師匠は突進してくる悪魔ギルドに向かい、素早く両手を振った。すると、「バリバリ」と奇妙な音がした。
「ギャアアアアアアアアアアアアアア!」
悪魔ギルドがつんざく様な悲鳴を上げながらのた打ち回った。見ると師匠が何か黒い物を拾っている。…!悪魔ギルドの翼だ!漆黒の皮に包まれ、細い骨がまだピクピク動いている。一瞬にして切り落としてしまったのか。
「レッキ、これ欲しい?」
いるかバカ。
「まあ、こんなん持ってても、しょうがないよな。」
師匠はまだピクついている“それ”をビリビリと引き裂いた。
「ウアア…。ぼ、僕の翼がああああ!」
悪魔ギルドは血まみれで立ち上がった。
「しつこい。」
師匠は悪魔ギルドに向かってクレイジーの散弾銃を放つ。当たった箇所は残念ながら左腕だった。
―バチュ。
変な音を立て、左腕は悪魔ギルドの肩に別れを告げた。悪魔ギルドはもう悲鳴を上げる気力も無くした。ゆっくりとその場に倒れ・・・無い。
―午前1時27分―
「ヌググ…。」
片腕を無くした悪魔ギルドがよろめきながら態勢を立て直す。
「しぶといなあ。大体お前、翼も片腕も無くしたんだぞ?そんなんでどう戦うつ…もりで…。」
師匠は硬直した。どうしたんだ?僕は悪魔ギルドを見た。
「!!」
悪魔ギルドの肩が映像の様にゆがみ始めた。そして、肩の映像からゆがみが伸び始めた。ゆがみはもう片腕ほどの長さに達すると止まった。腕が戻った!?気が付くと翼も戻っている。
「ハア…ハア…。ケケケケケ…これはモンスターに限る特殊能力、“戻(リカバリー)”です。あなたが私に喰らわしたダメージもみんなパアですよ。びっくりしました?…ケケケ…。」
ひきつったニヤニヤ顔で嬉しそうに悪魔ギルドが笑う。
「へぇ…。リカバリーか…。今まで倒したモンスターにはいなかったなあ…。ふーん…。よし、覇王脚!!」
師匠は足を振り上げ地面に突き刺した。
「なああ!?師匠!やめて下さい!」
チッ無駄か。僕は自力でその場を離れた。悪魔ギルドは「え?」としか言えず、その場で硬直した。
―バリリリリリリリン!
とんでもない地響きが鳴り響き、師匠のあたり一面と共に吹き飛んだ。
―午前1時30分―
もはやアルスタウンは見る影も無かった。さすがに師匠も現状を理解し、「…いけね。」とだけつぶやく。ったく、なにしてんだか。
「!!」
僕は師匠の目の前あたりで何かを発見した。
「悪魔ギルドか?」
それはグチャグチャになっていた。…しっかりと直立して。
「タフだな。」
悪魔ギルド(?)は身体全体がゆがみ始めた。ゆがみは数秒で止まった。
「おお、確かにすげえ。」
しかし、元の姿になった身体と、その腕の形は明らかにおかしかった。腕は真っ赤なのが更に明るくなり、沸騰し始めていた。
―午前1時32分―
「全くもう。なんて礼儀知らずな。」
悪魔ギルドの腕は今の台詞の「礼儀知らずな。」の部分で原型をとどめた。3本の鈎針の付いたフォークのような槍だ。
「驚きましたか?悪魔はなんだって出来る。」
―午前1時33分―
僕はちょうど落ちていた軍兵のライフル銃を杖がわりにしてアルスタウンの城壁跡で様子を見ていた。僕も実は神技が使える。「超・神打」、「極斬刀」、「激震打」「烈硬化」の四つだ。
師匠は腕を組んだまま悪魔ギルドのフォークラッシュを避け続けている。
僕は一回でもいい、あいつを殴りたい…。ただそう思っていた。
僕はライフルを足に縛りつけ、激痛を耐えながら突っ走った。
「!?わああ!レッキ!何やってんだ!バカ!」
師匠の声も耳には全く入らなかった。
―午前1時34分―
悪魔ギルドはまるでゴミを見る様な目でフォークを振ってきた。僕はインパクト・スパークを奴のフォーク腕にぶっ放した。
「クッ」
悪魔ギルドが一瞬たじろいだ。
「もらったぁぁ!!」
僕は右腕をつかみ、腰まで引いた。
「神技神腕!激震打ぁぁ!」
足が悲鳴をあげた。だが止める訳にはいかない!フォークの腕が頬をかすった。悪魔ギルドはこのただならない雰囲気に気が付き慌てて腕を突き出してきた様だ。
だが、その苦労もむなしく、
―メリッ
見事に顔面に命中した。
「ギ!?」
悪魔ギルドはそれだけ叫んだ。
―ベッチャアアアアアア!!!!!
間抜けな音がして風船が破裂した様に悪魔ギルドの頭が爆発した。
―午前1時35分―
辺りは真っ赤に染まり真ん中に首無しギルドが横たわっている。僕は顔を真っ青にして倒れこんだ。
「ど、どうだあ…。」
僕の祈りも通じなかった。グチャグチャ頭のギルドは立ち上がった。
「こ、このクソ野郎…。」
くそ…。もうだめか。
「お前にしちゃあ上出来だな。」
師匠が僕の前に立ちはだかった。悪魔ギルドのフォークが襲いかかる。
「烈硬化!」
師匠の両腕が鉄の色になった。
―バリーン
フォークがきれいサッパリ砕け散った。
「ナアア!?」
「弱すぎだなあ、とどめだ。」
師匠は両手を器用に組んだ。
「神技神腕!下降掌!」
ギルドの胸元めがけて両手を押し付けた。
―ドゴォォォ……。
ああ…、かわいそうなアルスタウン。
「お?まだ生きてるか。」
師匠は砂煙の中何か血まみれの物を拾い上げていた。が、もうそれが何か確認する気力も無かった。僕の意識はプツリと途絶えた。
―午前2時13分―
僕は目が覚めた時には、既に勝負がついていた。死にかけたギルドは震えながら倒れていた。その手足はズタズタで、もう一生動かないだろう。
師匠は僕の足に包帯を巻いてくれていた。
「おし!もう大丈夫だ。」
「ありがとうございます。」
「お前の激震打…見事だったぞ!」
師匠はシルクハットの中から微笑んだ。
「…どうも。」
僕は完全に喜べなかった。
「…とどめ…させよ。」
師匠はギルドを指差した。
「ヒイッ」
ギルドは恐怖に怯えている。
僕が気絶している間何があったんだ。僕は師匠に支えられながらギルドの横に立った。
「ひあああ…。」
ギルドは力の無い悲鳴をあげた。濁った片目をいっぱいに開きうめいた。
「う、うああ…。や、ややややややめてくれ、止めて下さい。ぼぼぼぼ、僕は死にたくない、こ、殺さないでぇ…頼むからぁ、き、君の家族を殺してしまった事は謝るよ、で、でもさ、それは上からの命令で仕方が無くやった事なんだ、本当は凄く嫌だったんだよぉ…ほ、本当だよ!殺したくなかったんだ!悪いのは上の奴らなんだよ!!ぼぼ、僕は悪くない!だから殺さないでくれえ!!」
僕も師匠もうめきながら命乞いをする一人の“男”を黙って見つめていた。
「悪くない…だと?」
僕は静かに言った。そして、
「だったらさっきニヤニヤしながら殺した事、良く話せたよな。」
「!!い、いや…それは―」
「死ね。」
僕は冷淡とした表情でインパクト・スパークの引き金をひいた。さらばだ、人殺し。
―午前3時23分―
町の人々はもちろん呆然として廃墟っぽい空き地を眺めていた。
「こんなんでどうやって新年を迎えりゃいいのさ。」
「すんません。」
師匠は土下座をしていた。世界の師匠が見て泣くよな。
「レッキ!あんたも土下座しなさいよ!」
「無理ですよ師匠、僕は足のケガがあります。」
ちょうどその時
「ねえねえ…。」
後ろから声がした。
あ!間違いない、あの時の少女だ。
「あの時はありがとう…。」
僕は少女と同じくらいにしゃがんで、「いいんだよ、…おうち守れなくてゴメンね。」とだけ言った。
「ああ!てめえしゃがめるんなら土下座しろ!」
師匠が何か言っているようだが、残念ながら僕は耳が遠い。
「聞こえてんだろコラァ!耳ふさぐんじゃねえ!あ、すみません。」
住民が怒り出した。しかし、町の長は「これこれ、この人達は我々を救ってくれたんじゃぞ。」となだめてくれた。つまらないなぁ。
「我々は避難壕でしばらく過ごしましょう。あなた方が救ってくれた事ずっと忘れませんぞ。」
「いやあハハハ」
あんたは笑うな。
「あなた方はこれからどうするので?」
「え?ああ…。俺達はまだまだ放浪の旅を続けますよ。」
「本当に町を壊してしまって…。」
「フォフォ、いいですよ。元々壊れやすい町だったからのお。じゃが、もうこんな事無いようにしっかりとした城壁を作るつもりですじゃ。」
城壁を作る前に引っ越せよ。
―午前6時23分―
僕は今アルスタウンに別れを告げ、もうすぐ港の山道を走っていた。もちろん、僕は足の骨を折っているのでそんな事は不可能だ。
前文では言わなかったが僕と師匠は折りたたみバイクを移動手段として使っている。このバイクは円形で座席は二人くらい座れるくらい長い。ボディは全て銀色に染められている。ハンドルのサイド側には機関銃が装着されてある。両足でアクセルを踏み動かす仕組みだ。
このバイクと過去のバイクの違いはタイヤの無い所だ。このバイクは空中に浮かべる事ができ、海だって渡れる。そのため、「シルバー・ホーク(銀の鷹)」と我々はそう呼ぶ。
今回は師匠が運転している。少し、と言うよりかなり揺れて危なっかしい運転だ。本当に免許持ってんのか、この人は。
「おお!!!!」
―キキ―!ガクン!!ドォン!!
のわあ!いきなり急ブレーキかけてなんなんだよこの人はもう!いてて足が!
「見ろレッキィ!あの見事な朝日を!」
見ると海と空が金色に染まりその間から赤と金の混ざった様な朝日が顔を出していた。
「レッキ、あけおめ!ことよろ!」
いつの言葉だ。今時の若者は朝日程度で喜ぶと思ってんのか。
アホな師匠は場の空気も読まずにおおはしゃぎだ。
「本当にキレイだなーおい!ついさっきまで戦っていたなんて考えられねーだろ!?」
「ハイハイ…。」
僕は適当な生返事を返した。朝日は次の町に着くまでずっと輝き続けていた。
―午前7時00分―
7時ジャストで僕達は港町「クストポート」に辿り着いた。アルスタウンと比べ、かなりにぎやかだ。
「お兄さん!これ安いよー!」
「これは記念になるよー!」
「これ買えば友達に自慢出来るよぉ。」
商人達が大声で商売をしている。まったくご苦労な事で。
「さ、船のチケットを買わないとな。」
いつのまにか師匠はシルバー・ホークをたたんで港に直行している。
っておい!手を貸してくれよ。
僕が慌てて後を追おうとすると、突然、
「さあさ!今回もはじまりましたよ!プヨン教授の発明品実演販売ショー!!」
かなり甲高い声がした。と同時にもの凄い人ごみに襲われた。
「プヨン教授!?」
「あの有名な!?」
「すげえ!あの人が!?」
「発明品見てえぇ!!」
色んな声が聞こえる。
プヨンって誰だ?
あっという間に実演販売ショーの会場に流された。
そこには黒髪で20代後半の白衣を纏った長身の男性がニコニコしながら立っていた。
痩せた顔に黒ブチめがねがキラリと輝く。
「僕は、プヨン教授の助手4号、“クリボッタ”と言います。」
はい、この時点で“ボッタクリ”じゃねえか。それは本名なのか?
それで、そのボッタクリ…じゃなかったクリボッタは黄色の大瓶を出して、
「今回の商品は“スピードヒール”!これを飲んだらあら不思議!どんなケガでも治ります!」
と叫んだ。
ハイハイ、どうせこの後“サクラ”だか何かが実際に試し飲みでもするんだろ。
「さて、それでは…そこの金髪のお兄さん!」
…へ!?僕の事か?
「そ!君だよ!ちょうど足をケガしてるみたいじゃないか、治してあげるよ。」
イヤイヤイヤ、冷静になれレッキ、こんなクッソ怪しい男の言う事を信じるな!
「お断りします。」
「ハイ!じゃあステージに上がって!」
シカトかよ。
仕方なく僕は屈辱のステージに上がった。
「使い方は超簡単!この黄色い粒を水無しで飲み込むだけ!さ、どうぞお兄さん。」
とクリボッタは大蓋を開け、パチンコ玉くらいの大きさの粒をよこした。
水無しでこの大きさはきつくないか?
「ホラホラァ!グッと開けて、サァ!」
…くそ…体調崩したらこのボッタクリ野郎に損害賠償要求してやる。
僕は覚悟を決め粒を飲み込んだ。身体全体がほんのり温かくなった。
…?
「足を動かしてごらん。」
言われるがままに僕は包帯を解き、そぉっと動かしてみた。
…お、驚いた。
「…痛くない。」
ワァーッ!!と歓声が上がった。
「このスピードヒール!なんと一瓶300グラン!さあ!早い者勝ちだよぉー!」
僕は驚きを隠せず、呆然とその場に立ちすくんだ。もの凄い人数が販売所にドッと押し寄せる。
―午前7時10分―
「信じられない…本当にこんな事、ありえっこない…。」
僕はただそうつぶやいていた。スピードヒールは10分もしない内に売り切れていた。
そしてクリボッタは僕の隣で缶コーヒーを飲み干していた。黒ブチめがねがまた輝く。
「全ては現実さ!そのケガを治したスピードヒールを作り出したのがプヨン教授さ。」
「素晴らしい…。ノーベル賞は間違いない!!」
「あ…いや…ね…」
クリボッタは急に引きつった笑みを浮かべた。
「はい?」
「あぁー…はは…発明品はどれも凄いんだけど、発売する時…いつもケチってボッタクリ品を出してしまうんだよ。」
「…今何て?」
「前の発明品の“ウルトラパワーアップ”なんて大切な材料をほぼ使わずに大量生産してしまって、飲んだ人が麦わらみたいに痩せちゃったって事もあったんだ。」
と、と言う事は…。僕は腹をさすった。一瞬最悪の状況が頭をよぎった。
「ハハハハ、大丈夫だよ。スピードヒールは僕らが何百回もテストをしてから商品化した物だから。」
「そうですか。」
ハア…、怖かった。
にしてもボッタクリかもしれない商品を良く買ってたよなさっきの人ら…。
「あ!いたいた!おいレッキ!なに迷子になってんだよ!!」
あ、師匠だ。片手にホークを抱えて走ってくる。
「すいません。」
「おや!親御さんですか?」
クリボッタが缶コーヒーを飲み干し、立ち上がった。こんな人が親だったら喜んで自殺する。
「僕の“師匠”です。」
「ああ、そうですか。僕、クリボッタと言います。」
「ボッタクリ?ダハハ!おもしれー名前!」
あーあ言っちゃったよこの人。
「“クリボッタ”です!!」
やっぱり怒った。絶対本名だよ。
―午前8時30分―
僕と師匠は今海上を真っ青のジェットボートで移動している。運転しているのはクリボッタだ。
どうしてこの人が運転しているのか、それは僕の話を聞けばよく分かるだろう。事の説明には時間はかからなかった。問題はその後だ。
「発明品!?スゲー!!」
と師匠が言った。
「そう!我々は日夜研究を積み重ね、素晴らしい発明品を作っているんです!その数なんと300種類!!」
「300種類!?スゲー!!」
さっきからこの人はこれしか言ってない。この二人は何故か意気投合してしまったのだ。
「なんなら見にきます?我々の研究施設、トロピカル・ラグーンへ!」
ハァ、余計な事を…。
「行く!行きます!行かせて下さい!って言うか連れてって!」
やっぱり。
「師匠、チケット買っちゃったんでしょ?そんなとこで道草くってていいんですか?」
「え?これの事?」
師匠はチケットを海に投げ捨てた。僕はその師匠のケツ向かって思いっきり蹴ってやった。
「あんたって人はもう…。」
で、今に至る。
「楽しみだなあレッキ!!」
確かに、300種類の発明には興味がある。もちろん、プヨン教授にも。だが、なにか嫌な予感がする…。
嫌な予感は見事に的中した。
第4章に続く。