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第29章:VSノブ戦

―3001年 3月3日 午前11時36分 ジョイジョイアイランド内 広場―

レインの表情が引きつった。同時に、後ろを振り返る。

「ノブッ!」

え?僕はレインの目線の先を見た。
巨大な建物。あれはジョイジョイアイランドの室内施設だろう。そこの一角に、大きな窓があった。そこからオレンジ色のカボチャが目を光らせていた。

「えっ?」

カボチャが窓ガラスを突き破り、高速で迫って来た。

「わぁ…。」

レインが目を見開いて、冷や汗を流した。

「なっ!あっ!アイツは!!」

サイモンさんが叫ぶ。

「君達…無責任かもしれなけど…。」

カボチャはレインの首筋めがけて刃物を向けた。

「頑張って♪“分解”」

レインは粒子になって消え去った。
カボチャの刃物は空振りに終わった。

「なぐっ!?」

カボチャは体勢を立て直した。

「貴様等…あのどら息子から何を聞いた?」

カボチャはランタンを大きく振りながらそう叫んだ。

「“何を聞いた”と聞いている!!ぶち殺すぞ!?」

サイモンさんが無造作に右手を振った。
カボチャの額にトリックランスがぶッ刺さった。

「みぎぇ。」

カボチャはしりもちをついた。

「わぁ!!」
「キャー!!」

周囲の人々が悲鳴を上げ、騒ぎ出した。
おかしな話だ。さっきは見向きもしなかったのに。

「よくもまあ、怒りで気が立っている僕等にそんな口が聞けたものだ。ウン。」

サイモンさんはかなり怖い口調でした。

「№5491君かよ、ご機嫌いかがかな?」

おもむろにトリックランスを引き抜き、カボチャはニヤリと笑った。

「ノブ・パンプフロスト…。」

サイモンさんは歯ぎしりをしている。

「知っておる…ようじゃな…。」

センネンがそう察したようだ。

「レッキ君、君にも話したはずだ。12MONTH。その中の№11の実力者だ。」

サイモンさんはそう言った。

「12MONTH…か。」

僕はBMを再び握りしめた。兄さんをねじ伏せた連中。その一員が、今目の前にいる。

「何を聞いたのか知らんが、それは全て騎士団の軍事事項だ。知られたなら、殺す。容赦無く殺す。」

ランタンを振り回して、ノブと名乗る男は襲い掛かってきた。
僕はBMを振り上げ、撃ち抜こうとした。しかし、

「でやぁ!」

手首にランタンを叩きつけられ、BMを落としてしまった。

「うぐっ…。」
「まずは君からかい?その美形、ズタズタにしてやる!」

ノブは刃物を振りかざした。

「クッ…神技神腕…。」

ダメだ早い!

「でやぁ!」

刃物が空中にかっとんだ。

「わっと!」

ノブが後方に飛び退いた。

「サイモンさん…。」

僕はサイモンさんのトリックランスの刃先が目の前にあるのに気付いた。

「レッキ君、コイツは僕に任せてくれよ。」

サイモンさんは静かにそう言った。

「よいのか?大丈夫か御主だけで。」

センネンがそう言った。

「心配要らないよ。何とかねじ伏せるかさ、ウン。」

ノブがランタンを振り回して近づいてくる。サイモンさんはトリックランスを器用に振り回し、前方に刃先を向けた。

「勝負!」
「ハハァッ!上等ぉ!!」

ノブがランタンを振りかざした。
サイモンさんはランスを手前に構えて受け止めた。ノブはそれにすぐに反応し、刃物をサイモンさんの胴めがけて振ってきた。
サイモンさんはランタンを受け止めたまま身体を後方に浮かせ、そのまま前方に脚を下ろした。逆上がりの原理だが、到底不可能だ。
ノブのカボチャ頭にサイモンさんの両足がクリーンヒットした。

「ぎゃあ!」

ノブは悲鳴を上げた。カボチャ頭の一部が欠けている。

「ウン、いけるかもね。」

サイモンさんは体勢を整え、何故か片手に絵の具を握っている。

「ウナァ――――ッ!」

ノブは奇声を発して刃物を数十本投げ飛ばしてきた。

「ぐっ…!!」

サイモンさんはそれらをかわしたり、ランスで叩き落としたりしている。僕やセンネンの方にも飛んできた。

「ム!レッキ、わし等は邪魔だ!ここから離れるのじゃ!」

センネンは僕にそう言った。僕はサイモンさんの後ろ姿を見ていた。
サイモンさんは猛然と刃物に立ち向かっている。

「サイモンさん!必ず勝ってください!」

僕はそう叫んだ。サイモンさんは頭だけ振り返った。

「あなたは死んではいけない人間です…!」

サイモンさんは親指を立て、僕に向けた。刃物がサイモンさんの頭めがけて飛んできた。
サイモンさんはランスを素早く縦に向け、刃物を寸前で弾いた。

「レッキ、早くせんか。」

センネンがそう叫んだ。
僕は頷くと、サイモンさんを見ながらその場から離れた。

―午前11時42分―

刃物はどうやら全て弾いてしまったらしい。ウン、我ながら、特訓の甲斐があったね。

「ヘハハハ。凄いな君、さすがは騎士団の最高傑作だねえ。」

ノブはニヤニヤしながらランタンを振り回している。
周囲にはもう人はあまりいない。戦いやすくていいや。

「ここに騎士団がいたとはねえ、僕にも予想がつかなかったよ。ウンン。」
「確かに、娯楽施設に極悪組織がいるなんて思いもしなかったろうね。君達の驚いた顔と言ったらないや。へハハハハ。」

ノブはランタンをもう一つ取り出した。

「ヘハハハ。僕のランタンさばきを御覧なさいな。君なんて、これで充分さあぁ。」

ウナァ―――ッ!ノブは再び奇声を発すると、とびかかってきた。

「ウン!」

僕はランスを地面に突き刺して、身体を一旦浮かせた。そして、

「地流、荒神災!」

そう唱え、両足を地面に叩き付けた。



グララララララララ


同時に地面が大きく揺れ出した。

「ウナァッ!」

ノブは地面の揺れに驚いた。

「やれやれ、わかるかい?これが土属性の魔法だよ。」

僕はレッキ君にわかるくらいの威力の魔法を披露したつもりだ。


「これが…魔法…。」

僕は目を見開いた。

「レッキ、あやつは御主に属性学について教えたいらしいぞ。優しい兄じゃないか。」

センネンは静かに微笑みながらそう話し掛けた。

「…そうですね…。」

僕はそうつぶやいた。


まだまだ地響きは続く。

「クッ…このやろう…!!」

ノブは体勢を整えるので精一杯な御様子だ。

「地震だけかと思ったら…大間違いだよ!」

僕は眼光が飛び出るごとく、目を開いた。ノブの足元がパックリ割れてしまった。

「なぁ!?」

ノブはろくに驚く暇もなく、穴に吸い込まれた。

「はぁ―――――ッ!!!」

僕は精神を集中させ、割れた穴を塞いでみせた。
そして、地響きは収まった。

「ハァッ…ハァッ…。」

さすがに長時間は堪えるねぇ…。
僕は膝に手をついて息切れていた。

「どうだい、これで奴も…。」

顔を上げた僕は、とんでもない光景を目にした。そこには、真っ黒な目をした男が立っていた。
それは、ボロボロになった白マントをなびかせ、ひびだらけのランタンを揺らし、ポッカリと開いた口からヒューヒューと空気の漏れる音を出しているのだ。

「冗談だろう?」

僕は奥歯を噛み締めた。ソイツは紛れもなくノブ・パンプフロストだった。

「発狂…。」

ノブはか細い声でそうつぶやいた。

「面倒だね…さすがは12MONTHだよ。」

僕はそう吐き捨てるように言った。

「ウキャキャキャ!」

ノブはさっきとはうってかわってまるで獣のように襲い掛かってきた。

「喰らえ!」

トリックランスでなぎ払うように彼の腕を斬った。

「キャハハハハハ。」

ノブは全く痛みを感じていないようだ。

「そんな…!!」

こいつ強くなっている。

「死ね!ウヒャヒャヒャ!!」

ノブはランタンを大きく振り回し、僕の胴に叩き付けた。

「ウグァ!」
「イーヒャヒャ!!」

トリックランスを落としてしまった。やばいぞ…。

「うはははははは。」

ノブは狂ったように僕の身体を刃物で切り裂いていく。

「うはは、死ね!死ね!うはははははは」

いかん、血を流しすぎた。このままじゃ…
僕の意識は薄れていった。


「サイモンさん…!!」

僕は叫んだ。

「どうなっておる…あやつ、急に豹変しおった。」

センネンも驚愕の表情を隠さずにはいられなかった。

「助けに行きましょう!!」

僕はBMを持ち、彼の元へ駆け寄ろうとした。

「待てレッキ!あやつ、様子が変じゃぞ…。」


薄れゆく意識の中、誰かが僕を呼ぶ。

『それでいいのか?人間。』

力強い声だ。

「誰だい?」

『我輩は“ガイアーエイプ”だ。我輩はお前であり、我輩である。』

ガイアーエイプ…。そうか、改造された時に、僕と融合した怪物か。

『しかし弱いぞ。お前はあんな小物ですらまともに相手ができんのか。』

ガイアーエイプは説教を始めた。

「僕には所詮、12MONTHは倒せなかったんだよ。ウン、参ったね…このままじゃ死んじゃうよ。レッキ君になんて謝ればいいかな…。」

『死んでしまったら、謝れんぞ。“あいつ”は死んでしまうお前を許せる程、生ぬるい小童か?』

ガイアーエイプの言葉に僕は目が覚めたみたいだ。

「ウン…それもそうだね。僕はまだ死ねない。こんなとこで死んでられるか…。」

『そうだろう、そうだろう。さ、我輩に身を任せろ。』

「…身を任せる?僕を取り込むつもりかい?」

『そんな真似するかバカ。我輩はお前に負けた身だ。お前に、“この力”を与えるまでの話だ。』

ガイアーエイプの声はそれっきり、途絶えてしまった。そして―



うおぁあああああああああ!!!


全身を激痛が走る。僕の肩から何かが生える!

「ウヒャ?」

ノブは身体の動きをピタリと止めた。僕の何かが変化しているのに気付いたか?

「うおぉおおお」

ベリベリベリ…!!!僕の肩を何かが突き破る音がし、僕の顔の前に、“オレンジ色の何か”がだらんとぶら下がった。

「これは…。」

僕はゆっくりと立ち上がり、横の建物のガラスを見た。

「ウンン!!?」

そこには、肩からオレンジ色の腕が二本生えた自分が映っていた。

「何だこりゃあ!!」

その腕は、自分の意志で動かせるようだ。

「うひゃ…うひゃはああ」

ノブがランタンを持って襲いかかってきた。僕は呆然としていたが、

「よいしょ。」

その巨大な腕を、軽く振ってみた。



ドゴォッ!


ノブの腹部にその腕はモロに命中した。

「うひゃぎゃああああ」

ノブはいくつもの建物を粉砕し、吹っ飛んでいってしまった。

「す、凄いや…。」

自分の力となったこの腕を見つめながら僕は声を漏らした。

「これなら、蒼の騎士団とも対等に戦える。」

その時ノブが怒り狂った表情でかっとんできた。

「覚悟したまえ、君はもうこれで終わりだ。」

僕は、そのオレンジ色の腕に自分の腕を乗せ、勢いに任せ、思いきりノブの顔にぶつけてやった。



バゴォン


「ひぎゃ」

ノブの頭がはじけとんだ。眼球やら、脳の破片やらがその辺に散らばった。

「フゥ…。」

どうやらケリがついたらしい。

「ガイア-エイプ、ねえ…。」

僕は肩から生えた腕を軽く撫でた。

「君の誇りと力、大事に使わせてもらうよ。」

オレンジ色の腕は、満足したように、ずずずずと音を立てて、ゆっくりと縮んでいった。

―午前11時47分―

肩から生えた腕は完全になくなった。しかし、肩の部分には黒い円形の模様が生えている。

「まあ、いいか。」

僕はランスを拾おうとした。その時、ノブの腕がピクリと動いた。

「なっ!」

僕は身構えた。

「オオオオ、12MONTHのこの僕が負けるとは…。」

ノブはグチャグチャになった口で喋っている。どうなっているんだコイツは。

「ふははは、ジャン、改造人、間も恐ろ、しいぞ、ほは、は、何が、羽虫だ。強、すぎ、るだ、ろ」

グチャグチャと血肉の混じる音。

「ひゃ、ぼきゅ、のリャ、ンタン、ぎゃ、あ、と、1個で、1000個だっ、ちゃのに…ぃ」

それっきりだった。ノブは死んだ。

「…。」

12MONTH。恐ろしい化け物だ。

「サイモンさん。」

レッキ君とセンネンが走って来た。

「はは、なんとか生きてたよ。」

僕は笑いながら手を振った。



一方、ミサ達は…



ゲームセンターにて、俺はクリスに5回連続で負けたところだった。

「だぁあ!ち、ちくしょうっ!てめえメガ強すぎっぞ!!」
「はっはっはー、ゲーマークリスの名前はだてじゃあないッス!」
「凄―いクリスさん、レッキと健闘しただけありますね!」

ミサは笑顔でそう言った。

「ミサちゃん、それは言わない約束でしょうが。」

クリスの険しい顔から、コイツは一番ゲームができることはないと見た。

「ロゼオさんも、上手ですの♪」

何かメガムカツクぞこの小娘。

「ミサ、俺達は真剣勝負の最中なんだ。メガ黙って見とけ!俺のギガテクを。」
「何スか、ギガテクて。」
「うるっせえ!」

もう一回勝負だ!俺がそう叫んだ時、外から殺気を感じた。

「!?」

振り返ると、黒い服を着た連中が数人で歩いていた。

「あぁ?」

ポテッ。アメを落としてしまった。

「ひゃあ、きたねえ!」

クリスが席から飛び退いた。

「何スかいきなり!」
「クリス、感じないか?このギガ異常な殺気をよ。」

俺は外の風景を睨んでいる。その隣で、ミサもそいつ等を見つめていた。
何だろうか…気付かなかったが、この女、不思議な目ェしてやがる。

「あの人達、蒼の騎士団です!」

ミサが声を上げた。

「何ですって!?」

クリスがメガ仰天した。

「蒼の騎士団?あの客船で俺がのした連中か?」
「アンタは“オイシイとこ取り”しただけじゃないスか!正確には自分達が一番がんばったッス!」

ていうか、そんなこと言ってる場合じゃねーだろ。

「レッキがあんなにメガ憎んでた奴等だぜ、一発ぶん殴ってやらぁ。」

両手をポキポキと鳴らす。

「待つッス!ここはシークさん達に連絡した方が得策ッスよ!」

クリスが俺の肩を掴む。

「待ってられっかよ!!」
「ダメッス!用心はするべきッス!」
「俺はすぐに行く!」
「行っちゃダメッス!」
「すぐに行く!」
「ダメッス!」
「行く!」
「ダメ!」
「行く!」
「ダメ!」
「行く!」
「ダメ!」
「あれ?ミサは?」
「ダメぁ…っえ?」

俺とクリスが言い合いをしている間に、ミサがギガ消えていた。

「ミサ?…どこだ、おい?」

キョロキョロと辺りをメガ見回し、俺は黒服マントの後をオメガ追うミサを発見した。

「ミ、ミサちゃん…。」

クリスがメガ唖然としている。

「見ろよ、俺達より肝がギガ据わってやがる。」

俺は可笑しくなった。ミサは変な奴だが、俺達よりずっと勇気がある。
あの客船でも、一番に騎士団からサイモンとトランクを奪いに行った。

「負けてらんねえな。」

俺はクリスにそう囁いた。

「……わかったッス…そのかわり、ちゃんと連絡はしときますからね!」

クリスも渋々とケータイを取り出した。そして、3人は真実を知る事になる。


第30章へ続く

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