第31章:CAPTAIN・WAVER
―3001年 3月3日 午後12時52分 ジョイジョイアイランド 総本部施設―
一方、レッキ達は…
「とにかくホテルまで戻りましょう!」
ダッシュでホテルまで戻っていました。
「今ので客の人達も事態が知られたよ。きっと大パニックになるね!ウン!」
サイモンさんは大慌てで先頭を走っていた。
「急げ急げ!」
「ム?おぬし等、待て!」
センネンが急に声を上げた。
「どうしたんですか?」
こんな時に!
「ここは…ジョイジョイアイランドの総本部施設じゃな…。」
「え?…ええ…そうですね。」
僕とサイモンさんはそのビルを見上げる。
「ここからこの辺一帯を見渡せるんじゃないか?」
センネンは見上げたままそう言う。
「なるほどぉ、ウン。」
「そうしましょう。今起こった事を伝えれば入れてくれますよ。きっと。」
僕達はその中に入る事にした。
―午後12時53分 入口―
「待てよ。」
いきなり後ろから声をかけられた。
「リクヤさん…。」
リクヤがタバコをふかしながら歩いてきた。
「ここはダメだ。」
いきなり煙をはきながらそう言い放った。
「何でだい?」
サイモンさんがそう聞いた。
「お前等程度じゃあ、“狂気”に取り込まれちまう。」
リクヤはタバコをはき捨て、脚で潰した。
「狂気って何ですか?」
「人間の精神を破壊する音波みたいなもんじゃ。」
センネンが僕の疑問に即答してくれた。
「ご、ごほん、その通りだ。お前等は下がってろ。ここは危険だ。」
「危険、というと…。」
「蒼の騎士団だ!連中はここに潜入してやがるんだ!」
僕は驚愕した。やっぱり、さっきのレインといい、蒼の騎士団とかなり面識を持ったことになる。
「とにかくだ、ここはあの人達に任せればいいんだよ。」
リクヤはニヤニヤ笑いながら、後方を見た。
「おいーっす!レッキィ!」
師匠の声だ。
僕は向こう側を見つめた。そこには、
チームパンドラが7人歩いてくるではないか。
「おわぁ…。」
サイモンさんが声を漏らした。
「凄まじい気迫じゃの。」
センネンは面白そうな顔をしてその光景を見つめている。
7人の中には、いつのまに集合したのか、アリシアさんとフリマさんがいた。
「おっと、レッキ君じゃない!!元気だった?」
アリシアさんが相も変わらず気立てのいい声を張り上げる。
「あらぁ、レッキちゃん?」
アリシアさんに続き、フリマさんが気付いたようだ。笑いながらこっちに駆け寄ってきた。
「かわえ~♪」
―ムギュ!
またかい。
「姉貴、たいがいにしろ!」
スウちゃんは真っ赤な顔で怒鳴った。
「でしょでしょ?かわいい子でしょ?」
アリシアさんがスチルをおしのけそう言った。
「…。」
「…。」
サイモンさんとセンネンは呆然としている。心なしか羨ましそうに。
「は、は、離して…くだっ」
「あらぁ?ごめんね~。」
二度目の解放感。
「何だこのガキんちょはぁ。」
灰色の髪型の男が面倒くさそうにそう言った。
「この人はロキ。パンドラの隊員だ。」
リクヤが囁いた。ああ、名簿で見たぞ。
ロキは、片側が耳のようにとんがっている。
「受験生のくせに遊園地で遊び放題ってか?よくもまあ、面倒くさくならねえな。」
なりませんよ。
「まあまあ我慢して、甘い心を保てロキ!俺だけにな!」
白い体型の生き物が近づいて来た。
「わえええ。」
意味の無い言葉を出したのは数年ぶりだ。何だこの生き物は。
「マシュマさん。同じく隊員だ。」
リクヤがそう説明する。
「きょどってるのかしら。」
アリシアさんが頭を撫でている。
「かわええなぁ♪」
フリマさんはまた抱きつきそうな勢いだ。
「お前等、落ち着け。受験生が完全に混乱してるだろう。」
パンドラ一行の後方から弱々しい声が上がった。プロ・フェスター指揮官である。
「がごべべべべべ」
青ざめた顔で痙攣している。
「いかん!薬の効果が切れたぞ!」
スチルが声を上げた。
「持病の歯周病オゴベラェボビバアアアア」
同時に吐血フィーバーである。歯周病で吐血するのかどうかは…ツッコムのはよしとこう。
「おお、元気だなぁプロおじさん。」
笑顔でマシュマがそう言った。
「あれは元気ではない!早く薬と水をだせ!」
スチルがプロさんを抱きかかえる。
「がびびびび…死ぬ。死ぬぞ。とうとうこの日が来たか。死ぬぞ、死んじゃうぞ。行く末は、果てしない死の旅だぞ。」
プロさんは目がうつろだ。
「指揮官!薬だ!今投与するぞ!」
スチルが赤いカプセルを口に押し込む。
「はぁい、お水どす、プロおじさまぁ♪」
フリマさんは奇妙な液体の詰まった茶色い瓶を手渡す。
「う、うむ!」
スチルは液体を指揮官に飲ませる。
「あら、フリマちゃん、それは下剤よ。」
アリシアさんは中腰でそう言った。
「ななななな何ィ――――ッ!?ぜぜ、全部飲ませたのだぞぉ!!??」
スチルは空き瓶を落とした。度肝を抜かれた御様子。
「あらぁ!ごめんなさいねぇ~!うち、間違えちゃったぁ~☆」
「ははは、ドジっ子だなぁフリマは、俺だけに!」
マシュマはスナック菓子を食べながら見物していた。
「貴様等はプロ指揮官を殺す気かぁ!水を持ってこいと言っとるだろうがぁ――っ!」
スチルが怒り狂っている。怒り狂っても偉そうなとこは変わらない。
「面倒くせえんだよなぁ。」
ロキはどこから出したのか葉っぱをくわえている。
「大体、何だかんだ言って死なないし、このおじさん。」
アリシアさんは指で軽く指揮官を突付いている。
何て部下に恵まれない指揮官なのだ。
「ス…スチル、プロのおやっさんの脈が止まったぞ。」
師匠が若干引きつった面持ちでそう話しかけた。
「…はい?」
フリマさんは右頬に手を当てて青ざめた。
一同も共に青ざめる。
「…………。」
一瞬の沈黙。
―午後12時58分―
パンドラメンバーはギャ―ギャ―騒ぎ出した。
「…。」
そんな様子を、引きつった表情で僕等4人は見つめている。
『何でこいつらが最高の実力者なんだ…。』
リクヤはそんな面持ちに気付いたのか、慌てて弁護しようと口を開いた。
「あ、ああ…で、でもよ、実力は本物だぜ!過去に大戦争にて4つの強大で凶悪な組織をぶっこわした連中だぜ!」
マジだぜ…そう付け足して、後方の惨事の方に再び目を向ける。
「……フン、どうだか…。」
僕は目を細める。
「はは、た、確かに少し頼りないかな…?ウ、ウウン…。」
サイモンさんは肩を軽くかきながらそう言った。
「…。」
ただ一人、センネンだけはそんな彼等を真面目な顔で睨んでいる。
「センネン?どうしたんだい?」
「ム?い、いや…何でもない。」
センネンは額を抑えながらそれだけつぶやいた。
「とにかく!とにかくだ!蒼の騎士団の件は俺達に任せろ!」
リクヤは今のは無かった事にしたいらしく。話を変えた。
「彼等なら、必ず“蒼の騎士団、騎士隊長ノア”を捕らえる事ができるだろう!」
「蒼の騎士団!!!!」
プロ指揮官の声が上がり、バァンと立ち上がった。
「うぉあっ!」
師匠が驚きの声を上げる。
「不死身か、この男…。」
ロキがそう言う中
「そうだったな。我々チームパンドラは蒼の騎士団騎士隊長を抹消しに招集されたのだった。お前達、準備はいいか?…すぐに突入だ。」
冷静な口振り、さっきまで死の直面に達していたとは思えないですね。
「ううん…“花畑”が見えた…。」
そう言いながらプロ指揮官は中へ入って行った。
「あぁー…心臓止まるかと思ったぜ。」
ロキが汗を拭きながら続いて入る。マシュマもスナック菓子をたいらげながら後に続く。
続いて青ざめた安堵の笑みを浮かべたアリシアさんとフリマさん、そしてスチルさんがフラフラと歩いて行く。
「大丈夫かなぁ…ウウン…。」
サイモンさんは不安そうだ。
「ハッハッハァ!心配いらんぞボールマン!」
師匠が笑いながらそう言った。ボールマンとはサイモンさんの事らしい。
「仕事に入れば、一気に頼れる存在になるぜ。俺も、あいつらも。」
ネクタイを整えつつ、師匠は僕の頭を軽く叩き、中に入った。
「よし、お前等は俺が見張るぜ。」
リクヤが僕達に向き直る。
「何でだい?」
サイモンさんが聞いた。
「勝手に入るかもしれないからだろ!俺の任務は、勝手な侵入を抑え、被害を減らす事なの!ドン・グランパからの指令だから断れなかったんだ!」
リクヤはタバコに火をつけつつ、そう言い放った。
「クスッ…おいおい、酷い言い様じゃのぉ。ワシ等は別に中に入るとは言うてないぞよ?」
センネンが吹きだしてそう言い返した。
「嘘付け!勝手に入ろうとしてたくせに!こん中にはアリンコ一匹いれねえつもりだかんな!そのつもりでよろしく!」
「そんな事言われたらますます入りたくなるじゃないですか。」
僕はそう言った。
「ウン、本当だよね。」
「うっさい!早く帰れ!ガキはジュースでも飲んでなさい!」
リクヤはシッシッと手を振った。
「僕は21歳だよ。」
サイモンさんは両手を腰に当てて言い返す。
「残念だったな、俺様は22歳だ!俺より年下はみんなガキなの!」
「ワシは1017歳じゃぞ。」
センネンは目を細め、そう話しかけた。
「1017歳!?俺をバカにしてるのかぁ!」
リクヤがいよいよ怒りそうになった。僕は仕方ないな、と思いBMを握り締め、
ズゴッ
「ウンン…レッキ君、凄い事するねえ。」
サイモンさんは驚いた面持ちで、巨大なたんこぶをこしらえたリクヤを見下ろしている。
泡を吹いている様は、かなりマヌケです。
「若者は面白いのぉ、ニャハハハ!」
センネンは楽しそうに笑っている。にしても、1017歳って、ふざけすぎでしょうが。
「さぁ、僕達も中に入りましょう。」
白ネクタイを師匠のように整え、僕は中に入り込もうとした。その時、
「ハーハッハッハッハァ!」
エコーのかかった笑い声。
「誰じゃ。」
センネンが後ろを振り返る。だが、誰もいない。
「え?え?」
サイモンさんもキョロキョロと見回している。
「ハーハッハッハッハァ!」
またもや笑い声。高笑いのつもりなのだろうか。誰だ一体…。
「うぎゃああ」
サイモンさんが悲鳴を上げた。見ると、向かい側の建物の上側を見つめている。
「どうしたんじゃ、悲鳴なんぞ上げおっ…ぬぉおおおお」
センネンもそこを見た瞬間、呻き声を上げた。僕もそこを見ると、
「あ。」
そこにいたのは、
「しかし、“アイツ”に見張りを任せていいのかよ。」
マシュマが歩きながらそう言った。
「極限を超えるバカだぞ。」
「 “アイツ”はシークと同じくらいの実力者だ、見張りには適している。妥当だろう。」
フェスター指揮官は血圧を計りながらマシュマの疑問に答えた。
「シークと同じねえ…。」
アリシアは肩を落とした。
「何で“アイツ”は南でキャプテンと呼ばれてるのかしらね…。」
全身真っ青で頭にヒレの生えた筋肉質な怪物だった。何故か袴を穿いている。
「ハーハッハッハッハァ!アーイム!キャプテーン!…ウェイッヴァアアアアアアアアア!!!!!トォッ!」
その怪物はそう叫ぶと屋上から飛び降りた。
「あ。」
「あ。」
「あ。」
僕等は声を上げた。ヒュ―――ン…ドボッ…地面にめり込んだ。袴みたいなズボンがピクピクと震えている。
「キャプテン!」
「キャプテン!」
「キャプテン!」
物陰から赤い服装の3人組が飛び出て来た。
それを見て僕等3人が悲鳴を上げたのは言うまでも無い。
「しっかりしてください!キャプテン・ウェイバー!」
キャプテン…ウェイバー?
「チームパンドラの8人目の戦士…?」
「何!?彼が!?」
「何!?あやつが!?」
サイモンさんとセンネンが同時に叫んだ時、キャプテン・ウェイバーは跳ね起きた。
「ハーハッハッハッハァ!…説明しよう!!キャプテン・ウェイバーはたとえ千メートルの上空から落ちても死にはしないのである!」
「さっすがキャプテン!」
意味不明だ。
「と、言う訳で!歌を歌おう!」
キャプテン・ウェイバーは突如その様な言葉を吐いた。
「なぬ!?」
僕等の付け込む隙もなく、勝手なノリで彼等は歌いだした。
キャプテン・ウェイバーのテーマ
作詞・作曲/キャプテン・ウェイバー
歌/キャプテン・ウェイバー
ターラッ!ターラタラ!(イントロ)
ターラッ!ターラタラ!(イントロ)
ターラッ!ターラタラ!(イントロ)
タッタァー!(イントロ)
(セリフ)「ハーハッハッハァ!アーイム、キャプテン・ウェイバー!!!」
闇の蠢くこの世界
青き閃光打ち砕く
気高き地球を守るため
みんなのキャプテン立ち上がる
HEY!ガール!
YOUはどうして、泣いているんだい!?
平和を守るため
俺はいざ進むぜぇ!
キャプテン・ウェイバー!(ウェイバー!)
キャプテン・ウェイバー!(ウェイバー!)
そうさ、俺は、キャプテェーン!ウェ!イ!バァー!!
「…。」
何なんだコイツは…。
「結局、どうして少女は泣いてたんですかね…。」
「知らん…。」
心にしまっておこう。
「2番!」
キャプテンはそう叫び、踊りだした。
「ウウウン!?まだ歌うのかい!?」
「キャプテン!そろそろ話に戻りましょう!」
赤い男がそう囁いた。
「OH!そうだったな!」
WOW。英語を使ってきやがった。
「説明しよう!キャプテン・ウェイバーはMr・プロから見張りの任務を授けられているのさ!」
「見張りの任務じゃと?」
「リクヤBOYだけじゃあ、君達を止められない!って、スチルから聞かされていたのさ!そのため、この私が君達の足止めをしにきたのさ!」
何故かポーズを決めながらキャプテンはそう叫んだ。リクヤBOYってなんですか。
「そんなぁ、僕等は別に蒼の騎士団を追いに来たんじゃないんだよ。ウン、ここからなら外を見渡せると思っ―」
「ノンノン、“ノンベター”な言い訳は勘弁してほしいな!とにかく私はここから先は通せない事になっているのさ。悪いな!」
いつのまにか入口に回りこんでいる。
「子供はお外で遊びなさい。」
ハッハッハァ!
よく笑う奴だ。
「入れて下さい。」
僕は無理やり入ろうとした。すると、
「おっと!」
右腕を掴まれ、あっという間に一回転。
―ドスン!
「うぐっ!」
軽くあしらわれた。
「レッキ君!」
サイモンさんが抱き起こしてくれた。
「痛い目に遭いたくなきゃ、ホテルまで戻りな~♪これは大人の問題なのであった。」
「いてて…。」
「レッキ君、この人(?)只者じゃないよ。言う通り帰った方が良さそうだよ。ウンウン。」
「ムゥ…。」
センネンは少し喧嘩腰だ。小バカにされた態度が気に入らないのだろうか。
「そうは問屋が降ろしません。僕は何としても中で何が起こってるか知りたいんだ。」
僕はキャプテンを睨みつけた。キャプテンは黙っていたが、やがて、真面目な顔つきになり、
「なら、私を超えてゆけ。」
そうつぶやいた。
一方、ロゼオ一行は…
―午後12時59分 通路―
息苦しい…あのおぞましい笑顔を見てからだ。俺とクリスがおかしくなったのは。
「ハァ…ハァ…。」
身体が寒い。ガタガタと震える。ギガとかメガとか言う元気も失った。
「ヒャ…。」
クリスはたえだえの呼吸の合間に、そんな妙な声を上げる。
「しっかりしろ…。早くミサを見つけよう…。」
しかし、息苦しさはエスカレートしていく。ついには意識ももうろうとしてきた。
「やべえ…。」
幻覚だろうか。笑顔の生首が数十個頭上を飛び交っている。
「ヒャハ、なんだかおかしくなってきたッス。」
クリスは笑っていた。
「落ち着けクリス。みんな幻覚だ。」
「ヒャハハハハ、おもしれぇ、ひゃは、ひゃはは。」
「落ち着け、クリス。落ち着…ぐぅ…。」
やばい、俺もおかしくなってきた。笑えてくる。何だか。生きてるのがバカバカしくなってきた。
考えるのがバカバカしくなってきた。理性を保つのがバカバカしくなってきた。アメを食うのがバカバカしくなってきた。
バカバカしい、バカバカしい、ミサを探すのも、蒼の騎士団をぶっ飛ばす事も、レッキ達の事も、俺も、クリスも、ミサも、アメも、何もかも、バカバカしい。
「くはははははぁ!」
完全におかしくなった。
床に座り込んで笑い出した。
「ひぇは、はは、はははは。」
クリスは目を血走らせていた。
「くははは、ははははは」
俺もあんな顔してるんだろうな。わずかな理性もなくなるかと思った。その時だった。
「ロゼオさん!クリスさん!」
ミサの声だ。目の前を見るとミサが心配そうな顔をして立っていた。
「どうかしましたの?」
ミサは顔を傾ける。
「ヒェ…あ…ミサ…ちゃん?」
クリスが理性を取り戻した。
「何…!?」
俺は驚愕した。
ミサを見た瞬間、身体の中の何かが出て行ったような。そんな気がしたのだ。
第32章へ続く