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第33章:惨劇

―3001年 3月3日 午後1時53分 ジョイジョイアイランド 総本部施設前―

「ハーハッハッハァ!素晴らしい実力だ!国家戦士としてはかなり優れているなぁこの少年は!」

キャプテンは笑っている。バンバンと僕の肩を叩く。

「スマンな。コイツは全国家が認める史上最強のバカでな。」

それは知っている。

「キャプテン・ウェイバーだ。よろしくなぁ!」

いや、さっき歌で教えてくれたじゃないか。

「亜人種って、たくさんいるんだねぇ。」

サイモンさんが感心している。

「ワシも亜人じゃぞ。」

すっかり元気を取り戻したセンネンはそう言った。

「亜人種は御主等が知っているより多く存在しているのじゃ。鳥人、獣人、魚人、特殊亜人、といった具合にな。」

センネンが言うには、この亜人種の増加は千年前から始まっていたらしいのだ。

「まぁ、それはともかく結局中には入れてもらえんようじゃな。」
「うむ、仕方ないだろうな。この中は高濃度の狂気でいっぱいだ。俺でさえむせそうだった。」

スチルは首を左右に振った。

「そう言えば…ミサ達はどうしたんですか?」

さっき、入口から覗いていたのは間違いなくミサ達だったからな。

「ん?そこの即席テントで治療をしている。不思議な事に精神的には無傷だったな。」

スチルは白い生地のテントを指差した。

「ミサ…!」

僕はテントの中にすぐさま駆け込んだ。


「ミサとかいう“おなご”も羨ましいのぉ。あんな美青年に惚れられているとは。」
「いや、あれで好意的感情を持ってないみたいなんだよ。ウン。」
「なぬ?」


―午後1時58分 テント―

「ミサ、大丈夫ですか?」

慌てて駆け込んだテントの中では、キョトンとしたミサがいた。

「レッキー♪」

抱きついて来た。

「身体に別状はありませんか?」

医師らしき人物にそう聞いた。

「それが…“無事すぎてビックリしている”くらいです。」

首をひねりながら、医師はそう言った。

「でも、他の2人は若干狂気を浴びているみたいなので…少し安静にしている必要がありますね。」
「そうですか…今、会えますか?」
「はい、こちらへどうぞ。」

―午後2時ジャスト―

頭に妙な機械を取り付けたロゼオとクリスは、神妙な面持ちで医師を見つめていた。

「だから、俺はギガ平気だってば!」

ロゼオがギャ―ギャ―騒いでいるが、とりあえず気になることから聞いていくか。

「ロゼオ、クリス、大丈夫ですか?」
「あ、レッキさん。」
「おぉ、お前も無事か?」
「なんとか、それで…中で何があったんですか?」
「…。」

ロゼオは僕の問いに黙ってしまった。

「え…えぇ…」

クリスはそんなロゼオを見て自分達の見た次第を全て僕に教えてくれた。



―午後2時16分 広場にて―


ギギギィ…ギッギッギ…ギィィィィ

「どうした?」

客の一人が地面から聞こえる音に気付いた。

「何かのアトラクションかしら。」

ザワザワ…。
ざわつきは収まらない。



ギッギッギッギ…ギィィィィィィイィィイ


そして、それは現れた。


「ギャ―――――――ッ!」



―午後2時17分 テント―

「…!!」

突然の絶叫に僕は驚いた。

「どうしたんだ?」

ロゼオはとうとう布団をひっぺがして立ち上がった。

「き、君ぃ!ムチャはよしなさい!ついさっきまで狂気に感染していたんだよ!?」
「ギガうぜぇ!」

ロゼオは自分の身体にくっつく医師を引き離した。

「ムチャしよる。」

いつのまにか隣にいたセンネンがつぶやいた。

「外を見てみろ。愉快な光景じゃ。」
「愉快な光景?」
「うむ、蒼の騎士団め、あんな化け物で何をするつもりじゃ…。」

センネンは眉をひそめ、外を睨みつけた。外に飛び出すと、そこには、


大きな笑顔があった。


全身が紫色で、いたるところで眼球が蠢き、手足も数百本ワラワラと上下左右にと振っている。
形は巨大な戦艦みたいだが、その皮膚は哺乳類みたいに生々しい肌だ。顔の部分には巨大でおぞましい笑顔が木の板が軋むような鳴き声を上げていた。

「うぉおお…。」

思わず後ずさりをした。サイモンさんが僕を支える。

「しっかりしろ受験生。あれが箱舟だ。」

スチルが眉をひそめ、テントから出てきた。

「なんというおぞましい姿だ。お前等、怖がってもいいからな。俺が許す。」

こんな時にまで偉そうな態度は勘弁してほしい。

「ウェイバー、施設の中にいるはずのシーク達を呼んできてくれ。」
「YES!説明しよう!キャプテン・ウェイバーは仲間の頼みは断りきれない性分なのさ!」
「いいから早く消えろ。」

酷い扱いだ。キャプテン・ウェイバー。負けるな。

「呼ぶまでもないぜ。」

ロキが焦った表情で走って来た。

「OH!我が友ロキじゃないかぁ!」
「ウェイバー!スチル!すぐに救援を頼む!」

ウェイバーは笑顔のまま硬直していたが、真面目な顔になってロキの後に続いた。
スチルも真っ青な顔で入口に飛び込んだ。

「どうしたんでしょうか…。」

僕は声を漏らした。

「…師匠?」
「あぁ?」

ロゼオは突如出た僕の言葉に驚いた。気が付くと、必死で入口に飛び込んだ僕がいた。

―午後2時18分 通路―

師匠はグッタリしていた。アリシアさんが半泣きで呼びかけをしている。

「シーク!シーク!ちょっと!どうしたのよ!?」

近くでは腕に傷を負ったプロさんがいた。

「ノアの攻撃をシークがかばったんだ。ちくしょう…ノアは上に逃げたみたいだ。」

ノアの方が一枚上手だったらしい。プロさんはそれだけ言い残して気を失った。

「ゴッファッヒィッフ」

吐血というキャラを忘れずに。

「…師匠。」

僕は師匠を揺さぶった。

「アンタ何やってんですか…弟子の前で恥さらしてんじゃない。」

師匠がヤバい時の起こし方だ。

「う…ん?」

師匠がうなった。

「バカ。お前は弟子じゃない。愛弟子―」

ドゴッ!蹴飛ばしてやった。気持ち悪いなあ。

「キャー!シーク!」

アリシアさんが抱きついた。ベキベキ。ヤバい音です。

「ほんぎゃあああああああああああああああ」
「おはようございます、師匠。」
「おひゃよう。」

フラフラになった師匠を支えて、何とか外にまで引っ張った。
さすがの師匠もこの状況には瞬時に気付いた。

「あれが箱船か…!!」

おぞましい紫の怪物、箱船…!!
あちらこちらで絶叫が飛び交っている。

「これでジョイジョイアイランドは赤字になんな。行くぞ、マシュマ!」
「おっしゃ。俺だけに!」

師匠はマシュマと共に駆け出した。


―通路にて―

「婆ちゃん、しっかりしてくれよ。」

不安そうな顔でスチルはフリマを揺さぶっていた。

「…じゃかあしいわボケェ!姉貴と呼べっつってんだろぉがぁ!」

ズガァン

「ぐべ」

スチルはフリマに突き飛ばされた。

「うちが簡単にやられるわけないやろ。」
「ば…姉貴!」
「やれやれ、情けない顔しよって。そんなやからシスコンって呼ばれるんや。」

そこへロキが走ってきた。

「あらぁ、ロキはんやないのぉ~うちは元気どすぇ~♪」

豹変早っ!

「そ、そうか。よかったぜ。それより外にとんでもない化け物がいんだがよぉ。」
「知ってますえ。すぐにうちらも行きましょ。」
「おぅ!」


そして、プロ指揮官を残しチームパンドラは行ってしまった。

「あっというまのできごとだったね。ウン。」

サイモンさんが疲れきった声でそう言った。

「ギガヤバいんじゃねぇのか?きっとアレ、あの通路の奥にいた野郎だぜ。」

ロゼオはアメをくわえながらそう言った。糖分には気をつけて。

「いいだろ。ミカン味だぜ。」

知るか。

「みなさん!あ、あれ!」

クリスが仰天している。施設の上部分を見ながら。

「ムッ!あやつは…!!」

センネンは声を上げた。


ノアだ。


「ごきげんよう、人類諸君。ノア・バッドシップだ。ここにいるってことは、避難してきたって事だろ?…残念だったな、“まだ俺がいる”ぜ!カカカカ!」

ソイツは笑いながら飛び降りてきた。
そして、

―ストッ!

静かに地面に降り立った。

「て、てめぇはタピオカーナ号の野郎だな!?」

ロゼオがそう叫んだ。

「ご無沙汰じゃん?」
「ウンン…性懲りもなくよく現れたなノア!」

サイモンさんが槍を構えた。

「№5491か。お前ももう用済みだ。一緒に死んでしまえ。」

ノアは2本指をこちらに向けた。

「…?」
「水圧指弾。」


バシュッ!

水が豪速でかッ飛んできた。

「レッキ!危ない!」

サイモンさんが僕を押し飛ばした。

―グシャッ!

その瞬間にサイモンさんの仮面が粉々に砕け散った。
オレンジ色の破片が彼の足元に散らばった。一同は顔をひきつらせた。

「サイモンさん!」

悲鳴に近いミサの声。サイモンさんはその場に倒れてしまった。その顔は縫い傷だらけだった。

「醜い顔さらして死ね。カカカカァ!」

ノアはケラケラと楽しそうに笑っている。

「にゃはは、お主は倒しやすくていいのぉ。いい感じに性根が腐っておるわい。」

センネンがノアに顔だけ向けて言った。

「カカカ♪最高の褒め言葉じゃん?」


「サイモンさん、しっかり…。」

僕はそっと彼の肩に触れた。彼はぐったりしているが、息はしている。
僕は安堵の息をついた。

「頭をメガかすっただけか。ギガトンビビらせやがって!」

ロゼオは笑みを浮かべた。

「こやつはワシに任せよ。すぐに八つ裂きにしてくれる。」

センネンは顔は笑っているが言葉が怖い。
きっとかなり怒っているんだ。

「センネン、コイツの相手は、僕にやらせていただけませんか?」

僕はBMを握りしめた。

「なぬ?」

センネンは目を細めた。

「レッキ…?」

ミサが不安そうに顔を上げる。

「僕は、コイツを許せそうにない。」
「カカッ!面白い、ギルドを殺した男よ、この俺も殺すカ?上等じゃん?カカカァ!」
「…。」

ロゼオは黙って後ろに下がった。

「さ、ミサちゃんこっちこっち。」

クリスもミサを抱きかかえてゆっくりと離れ始めた。

「フゥ…やれやれ…」

センネンはため息をつくと、後ろに下がり始めた。

「ありがとう、ロゼオ、センネン、クリス。」
「やるからには勝つッスよ!」
「おぬしは生気に満ちあふれておる。死んではいけない存在なのじゃ。」
「ウゼェ野郎だかんな。ギガマジでたたきのめせよな。」

3人はサイモンを引っ張って走り出した。

「レッキ…。」

ミサは泣きそうな顔をしている。
そして、息を吸うとこう叫んだ。

「頑張って!」

僕はBMのシリンダーを入れ替えながら、

「はい。」

そう言った。


―午後2時26分 ジェットコースター乗り場―

―ギギィ…。

箱舟は軋むような鳴き声を上げて前進している。

「ロキ、あいつの脚を燃やしきれるか?」

スチルがそう話しかけた。

「無理だな。俺の“インフェルノ”を発動させりゃあ出来ない事もねぇが…。」

地上には観客が逃げまどっている。

「一掃は無理だ。」
「そうか…。」

スチルは腕を組み、うなり始めた。

「説明しよう!私のオーシャンブルーは上空まで器用に動かす事ができるのだ。」
「アンタの説明なんて意味ないわよ。」

アリシアはキャプテン・ウェイバーの脇腹を蹴り飛ばした。

「ギャプテンッ!」

奇妙な悲鳴を上げ、ウェイバーはしゃがみこんだ。

「待て、器用に動かせるんなら、“箱舟”の“どたま”にダンクシュートできんじゃねーのか?俺だけに。」

提案したのはマシュマだ。

「ダメだな。ウェイバーの能力を発動させるには少なくとも数万リットルの水が必要だ。さっき誰かさんが受験生との戦闘によって、ジョイジョイアイランドの大半の水分も使いきってしまったようだしな。」

スチルはイヤミったらしい口振りでそう言った。

「ハ―ハッハッハァ!説明しよう!私は今役立たずらしいな!」
「せ、説明じゃねーだろ。」

ロキが呆れた顔でそう言った。

「あらぁ?シークはん、何しとるんどす?」

フリマが笑顔でそう言った。一同はシークを見た。
箱舟の醜い脚にしがみつくシークがいる。

「何やってんだ?オメー。」
「箱舟の頭に登る。邪魔すんな!」

シークはそう言い放つとグングン登り始めた。

「アイツに道化師の服は似合わねぇな。野生児の格好がお似合いだ。」

ロキがニヤニヤしながら言った。

「俺達も行こうぜ、アイツにオイシイとこどりされてたまるか!」
「おう!」

シークに続き、ロキたちも後に続いた。


―???―

「レイン…。」

デスライクは呆れ返った顔をしている。

「12MONTHに向かわせたが、やれやれ、お前は我が一族の恥さらしだ。失敗作だ。ちくしょう。」

レインは無表情のまま、父を見上げている。

「父上、あきらめましょう。“チームパンドラ”が動き出しました。ボク達に止められる相手ではありません。降参しましょう。」
「降参?」

デスライクは目を見開いた。

「ふざけおって、もういい。“失敗作”は、“成功作”にせねばな。」

デスライクはおぞましい笑顔で手を振り上げた。

「父上…?」

レインは呆然としていた。しかし、

「…!!…何だ!?」

彼の左右上下にスピーカーの様なモノがあるのに気付いた。

「さらばだ我が子、そして、おはよう我が子。」

デスライクの合図と共に、

―ヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴ。

レインの身体に何か音波が当てられた。

「ぐぎゃあああああああああああああああああああああああああああ」

レインの身体に赤黒い電流が流れた。そして、




「気分はどうだ?レイン・シュバルツ。それが“狂気”だ。」
「…くく、くくくく…………最高です、父上。」


第34章へ続く

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