第34章:これが戦争だ
―3001年 3月3日 午後2時30分 ジョイジョイアイランド 総本部施設―
「カカカァ」
ノアは楽しそうに両腕を振り上げた。
「水柱!」
―ズゴッ!
僕の足元から水が噴出した。
フットワークを駆使し、なんとかかわしたが、
「うぐっ」
右肘から血が吹き出ている。
「かすったか。ま、充分なダメージじゃん?カカカ。」
水に当たっただけなのに…足元に散らばるサイモンさんの仮面の破片。…これは!
「水圧…?」
「カカッ!御名答じゃん?若僧が!」
水圧、もの凄い勢いで水が発射される時の圧力だ。その水圧は圧力によっては鉄をも切る程の威力を持つ。
「俺の能力紋は“MAX+グラビドン”だ。ありとあらゆるもの、特に“水分”に膨大な圧力をかけられる力だ。ワイン、汗、血、涙、水蒸気、海水、雨、とにかく、水分のあるものなら何でも操れる。じゃん!?」
ノアは胸元を開いて見せた。
潰れた文字でMAXグラビドンと綴られている。
「カカカァ、何故俺の力を教えてやったかわかるか?お前じゃ話になんねえからだよぉ!カァーカカカ!」
ノアは右腕を横に回転させ、うなり始めた。
「水圧100%、“断末魔の叫び”!」
バジュアアアアアア!!!!
爆発したかと思ったが、思い違いだった。
僕はすぐさま左側に回りこんでかわした。直後にダンプカーみたいな大きさの水流が通り過ぎていった。
「あれ、水か…?」
「カカッ!」
ノアは薄気味悪い笑みを浮かべている。
「…何がおかしい。」
「カカカ、アレ、見ろよ。」
ノアは化け物みたいな水圧弾を発射した方向を指差した。
「…!!!」
人々が悲鳴を上げながらのたうちまわっている。脚の無い者、腕の無い者、ジャンルもたくさんだ。
中には水圧弾をモロに喰らったのか、血肉の塊になってしまった者もいる。
「お前が避けちまったせいだ、アリャリャ~☆…病院も大忙しじゃん?カカカァ!」
「き…き…貴様…ッ!」
許せない…!!!
「戦争をあまくみるなよ若僧。…それにコレはこれから巻き起こる“大惨事の余興”にしか過ぎんのだ。わかるか?無知な若僧め。」
「余興だと?…余興で人をどれだけ殺すつもりだ?」
「殺すとはユニークな発言だな。俺達は人を殺しているわけじゃないんだ。華麗なる芸術品、それにさせてやってんだよ。」
脚の無い者は特にいい“画”になるのさ。ノアはそれだけ言うと笑い出した。
「芸術品…ね…わかりましたよ。」
僕は顔を伏せた。
「キヒヒヒ」
ノアは歯を剥き出しにしてい笑っている。
「貴様等みたいな連中がいるからこの世界はおかしくなるんだ…。」
ノアに向かってBMを構えた。
「死んで下さい。」
「ムチャな願いじゃん♪…死ぬのはテメェだよ若僧ォォ!!カァーカカカカカカカァー!!!」
―同じ頃 広場―
「探したぜぇ。」
銀色の鎧、ガンマが広場の真ん中に座り込んでいる。
「ロゼオ、あいつ…!」
クリスは目を丸くしながらロゼオに話しかけた。
「ああ、サンマだろ。」
「“ガンマ”だ!」
ロゼオの間違いに手際よくガンマが突っ込んだ。
「誰が秋の旬の食材だ!」
リアクションが芸人レベルである。
「ノア様からの御命令だ。お前達には死んでもらうよ~ん。」
「ハンッ、死神が死ぬかよ。」
ロゼオの鎌が輝いた。
「センネン、クリス、サイモンとミサ、お願いな。」
ロゼオはミカン味のアメを噛み砕いた。
「ギガ斬る!」
「クックック。」
ガンマの薄気味悪い笑い声が響いた。
―午後2時37分 広場―
「ウガァ――ッ!」
ガンマは自分の腕を大きく振り回し、その反動を利用しロゼオに向かって振り下ろしてきた。
「ギガッ!」
ロゼオは左に側転してかわした。
直後にレンガ製の地面が砕けちった。
「雑魚の分際で避けるな!」
ガンマは両目を光らせ、光線を発射した。ロゼオは空中に浮くと、一本、二本とやりすごした。
「もう一回…俺の斬撃をギガ喰らいやがれ!」
鎌を振り上げ、ロゼオは斬撃を発動させた。
「死導流、ブッ殺斬撃!!」
赤い斬撃は、ガンマの喉元めがけて飛んでいく。
「ケラケラァ!」
ガンマは笑いながら血を吐き出した。
「何っ!?」
「ギュへェアア!!」
血は斬撃を包み込み、消え去った。
「何だと…!?」
ロゼオはミカン味のアメの棒をポトリと落とした。
「ケーラケラケラ、鳩が豆鉄砲を喰らった顔してんな。」
ロゼオは黙っていた。そして、口を開いた。
「何でお前が血属性の技を使える?」
―午後2時38分 広場―
ガンマの発動した力は間違いなく、ロゼオと同じ死神族の使える血属性の力であった。
「ケラケラ、さすがは“同志”。早速気付いたか。」
「何で使えんだって聞いてんだろぉが!」
ロゼオはこれまでみたことのない剣幕でそう食って掛かった。
「ハハハ、仕方ないなぁ…見せてやろう、俺の真実を。」
ガンマは銀製の鎧を脱ぎ始めた。
―午後2時40分 広場―
「…!!!!!」
ロゼオの目の前にいたのは、赤い瞳に縫い傷だらけの褐色の肌、そして、白髪の長髪を持つ男。そう、死神だ。
「こ、これって…まさか―」
「そう、そのまさかだ。俺は“死神の身体”を基盤に作られた改造人間だ。」
ガンマは懐からアメを取り出した。
「な、何てこった…俺の仲間まで蒼の騎士団にメガ捕まってたのか…!!」
ガンマはおいしそうにアメをしゃぶりながらこう言った。
「甘いな、このアメも、お前自身も。…蒼の騎士団は人間の殺戮に対して深い興味と欲心を持っている。死神だろうが、獣人だろうが、スライムだろうが、何だろうが…俺達はその生物自身の“サンプル”が欲しいんだ。」
唖然とするロゼオを前に、ガンマは楽しそうに続ける。
「俺はこの身体をアジトで見た時、胸が躍る思いだったね。死神の身体は毒性にも強いし、刃物の攻撃は一瞬で治癒される。この力が、俺が欲しかった力なんだ…ケラケラ。」
「…お前、力とか、特性がギガ欲しいがために俺の仲間の身体をメガ奪い取ったのか!?」
「うん、そうだけど?俺はただ、生物の身体に対する“興味”それだけしか持ってなかった。」
ガンマは息つぎをしながら更に続ける。
「何?お前が怒ってるのは死神としてのプライド、名誉が傷つけられたからか?それとも、同志が殺された事に対する憎しみか?なんなら俺が償ってやってもいいぜ。金か?女か?それとも、人間の魂か?…死神なだけに?なんつってぇ~♪ヒヒィッ!ヒーヒヒ、ケーラケラケラ―」
「喋んなァ!!!!」
ガンマは笑うのを止めた。ロゼオは血走った目でガンマを睨みつけている。
ガンマは驚いた仕草を見せた。
「おーこわ…死神も人間みたいに怒るんだね。憎むんだね。悲しむんだね。」
「喋るなっつっただろぉが…。」
ロゼオは凄い剣幕だ。
「テメェは、俺達死神一族の身体を、道具程度にしか思ってなかった。それが一番悔しいし、怒りも込み上げてきやがる。」
「ソイツは申し訳ない。俺は確かに死神を道具程度にしか思ってなかったな。」
ガンマはニヤニヤしながらアメを噛み砕いた。
ロゼオはガンマが再び何か言わない内に先に口を開いた。
「俺は…お前の全てがギガ気に入らねぇ…お前の声も、仕草も、何もかもだ。その見せ掛けの死神の姿もな!」
ロゼオはガンマの喉笛めがけて襲いかかった。
「ほざけ…。」
ガンマは銀色の剣を構え、防御の体勢を取った。
『鎌をせきとめたら、頭を勝ち割ってやろう』そんな事を思いながら、ガンマはニヤニヤしていた。が、
ズブッ
ガンマの傷だらけの額に、刃は刺さった。
「ガッ!?」
そんなバカな、俺が相手の武器を止められないはずがない…っ!!
ガンマは自分の剣を見た。ロゼオの鎌はしっかり止められていた。
「ナッ…そ、それじゃ…あ…これは?」
ガンマは引きつった顔で再び顔の前に目を移した。赤黒い、鎌だった。
「て、てめ…どこからもう一本出しやがった…!?」
「出してねぇよ…。」
ロゼオはそうつぶやいた。彼の左腕は赤黒く変色し、奇妙に変形していた。
その奇妙な部分は細長く伸び、ガンマの額にまで続いていた。
「何だと!?何だとぉ!?」
「“デッドハンド”、自分の身体の血を変形させて武器にする力…。」
ロゼオはニィッと笑う。
「ヒァウ…クソォ、だ、だがな…俺は刃物じゃ死なねぇ身体なんだぜ?お前だってそうだ…!!!」
「ああ…そうだな…。」
ロゼオは目を閉じた。
「…?」
「なるほどな。」
ロゼオがそう言った時、ガンマは身体がガクンと痙攣した。
「ぐぎゃああああ!!!」
地面をのた打ち回る。
「貴様、何をしたっ!?」
「お前にとって“毒性の血”をギガ混ぜたんだよ。人間を含む生物には輸血をしても拒絶反応を起こす血液もあるってことだ。だから、お前にとっての毒性の血液を混ぜてやっただけだよ、額からな。」
「て、て、てめ…どうやって俺の血液を知った…っ?」
「俺は“血属性魔法修得者”だ。血液にさえ触れればお前の血液型ですら簡単にわかるんだ。」
ロゼオは踵を返して歩き出した。
「身体がギガトン拒絶反応起こしてんな。早く何とかした方がいいぜ♪ギガ死ぬぞ。」
「た、助けてくれ…。」
「オイオイ…死神なら何とかできるだろ?その、“死神の抜け殻”の力でよ。」
「くひゃっ…ひぁ…あ…。」
ガンマの短い小隊長人生はこうして終わった。
一方、レッキは…―
―午後2時43分 総本部施設―
「水圧指弾、散弾銃!」
―バシュッ!
ノアの腕から水圧弾が発射された。
ソレは僕の目の前で爆発し、無数の小さい水圧弾となって突っ込んで来た。
「神技神腕、烈硬化“王宮門”」
僕の両腕は巨大な門となって水圧弾を遮断した。
「カカッ!“クリエーション能力”じゃん。神技の力を更に編み出したな若僧…。」
「神技神脚…。」
僕はそう唱え、目の前の王宮門を両足で開けた。
「神連脚!」
―ズダダダダダダダダダダダッ!
「おほ。」
扉が開いていきなりの蹴りの雨にノアも少し驚いているようだ。
「自己重力減少・零レベル」
ノアがそう言った瞬間、彼の身体がフワリと浮かんだ。
「カカカッ♪」
「クソッ!神技神腕…超・神打!」
上空のノアに向かって閃光を発射した。
「重力増加、90%」
ノアがつぶやき、腕を超・神打に向ける。その瞬間、
―ジュババブッ…!
「あっ…。」
閃光はなんと潰れてしまった。
レンガ製の地面に閃光の後がくっきり残っている。
「俺の圧力を前にひれ伏せ若僧。カカカッ!!“ゼノ、グラビドン”!!」
―ズズズッ!!
僕の身体が急に重くなった。
「余興は終わりじゃん?…潰れろ。」
―ズズズズズズズズズズズズ…。
「うぁあああああっ!!」
身体が潰れる…。身体の至る所から血が吹き出た。
「おっと♪“水分(血)”じゃん?どれ、俺の武器にしてやろうか。」
ノアが降り立った。
ヤバイ、逃げないと…でも身体が動かない。
「無駄なあがきじゃ~ん♪お前の身体には30倍の重力がかけられてるじゃん?逃げられるものか。」
―ピシッ!
メガネにひびが入る。
―ビリビリ…
白コートの生地が破れ出した。
身体が地面にめり込み始めているのも感じた。
「やっぱ…止めるか、俺の武器にこんな汚い血は必要無ぇ。このまま人間煎餅になっちまえ。」
―ズズズズズズズズズズズズズ…。
「ぎゃああああっ!!」
「カカカ、どんどん重力を上げるぞ、カカカカカカ。」
意識が吹っ飛びそうだ。
でも、まだ死ねない…!!!こんなとこで、死ねない…!!!
「悪いな若僧、“これが戦争だ”。カカカッ!!」
「神技…神…わ…ん…」
「あんん?」
「激震打。」
神技は発動された。
両腕が地面に密着している状態で。そういう状況だと結果的に―
ジュゴッ!!!!
総本部施設付近でマグニチュード6の地震。
吹き飛ぶレンガの地面。ノアの額をレンガの破片が切り裂いた。
「カァ!!!こ、このクソガキめ!!」
僕はまだ、負けられない。
第35章へ続く