第35章:中盤戦
―3001年 3月3日 午後2時50分 ジョイジョイアイランド 総本部施設―
「この野郎、俺の顔に傷をつけやがったな!?こ、殺す、ぶっ殺す!ど畜生が!」
ノアはいきりたっている。
「ハァ…ゲホッ」
僕は息継ぎをしながら何とか立ち上がった。
「ぶっ殺すのはこっちだ、奇天烈ヘッド。」
「き、奇天烈だと!?俺をバカにしやがって、マジで骨も残さねぇぞコラァ!!!」
ノアが僕の髪を掴み、強引に引っ張った。
「いたぶって殺す!」
「“重圧”、解きましたね?」
「あぁ?…ッあ」
―ドゥゴッ!
ノアの顔面にきつい一撃をお見舞いした。
「それはお返しです。優しいでしょ?今までの借り、一括払いですよ。」
ノアは目を吊り上げた。鼻血が出てる。お互い様か。
「カカカカカカカカカカカカカカカカカカァ!!!!!!」
水圧指弾のガトリングである。
「死ねッ死ねえエエエエエエエエエッ!!」
「クッ!」
身を伏せ、ノアのふところに駆け込んだ。
「神技神腕、激震打!」
―メリメリィ…!!
ノアの腹にモロに激震打は命中した。
「キィッ!クハァ…ッ!」
血反吐を吐き出し、ノアは白目を剥いた。
「カ、カカッ…」
―ドサッ!
血走った白目のまま横たわったノアに黙ってBMを向けた。
「チェックメイトです。」
ひきがねに指をかけて―
ズゴォ――――ン
一方シークは…
―4分前 午後2時50分 箱舟―
「思ったより狭いな。」
箱舟の上に一番に登ったシークだが、
「わっとっと。」
グラグラと揺れてまともに歩けない。
「おっとっと。」
―グラグラ…。
「うぉっとっと。」
「んだコラ、シーク。」
ロキに支えられ、ようやく体勢を整えられた。
「フゥ、悪いなロキ。」
「おぅ。」
「それにしても…。」
至る所から触手が生えている。
―うじゃうじゃ。
「グロいな。」
「まったくだ。」
ロキが触手に手を触れた。
「ウゼェ。」
―ボンッ!
一瞬で黒こげになってしまった。
「テメー等は下がってろ。全部燃やしてやるぜ。」
ロキは両腕を掲げた。青い炎が腕を包み込む。
「フレイマ=ジック!一掃!」
―ボォォォォォォォォォォォォォォッ!
「ホレ、行くぞ。」
ロキの目の前には気持ち悪い触手は完璧に消え去っていた。
「え?神?さすが俺だ。」
「調子に乗るな。愚か者め。」
スチルは適当に足元の箱舟の皮膚をさすっている。
「よし、この辺から始めるか…。」
両手を置き、なにやらブツブツ唱え出した。
「さて、箱舟には沈んでもらうか…コンバット=針山地獄。」
―じゅばばばばば。
箱舟の背中から銀色のトゲが5,6本生えた。
グギェエエエエエエエッ!!
箱舟が爆発音みたいな悲鳴を上げた。
「ひえええっ!」
アリシアが落ちそうになる。
「おっと!」
シークはすぐさま引っ張り上げた。
「ありがと♪シークゥ☆」
―ゴキッ!
シークの肋骨が砕けた音だ。
「ほんぎゃあああ」
彼女の辞書に手加減の文字はない。
「ただでさえ狭いのに、騒ぐな。馬鹿者共が。」
スチルは箱舟の体液がこびりつく腕を引き抜いた。
「箱舟が倒れる。“みもの”だ、フッフッフ。」
わ、笑っている。
「お前らも笑え、俺が許すから。」
「笑うかアホ。」
ロキはそう言った。
「姉貴とマシュマと青筋肉(キャプテン)は下で待っている。早く降りろ、俺が許す。」
スチルは楽しそうに一番に飛び降りた。
「俺達も行こうぜ。」
ロキとアリシアは降りる体勢を取った。しかし、
「シーク…どうした?」
シークは黙ったまま前方を、箱舟の見つめる先を見つめている。
「…“コイツ”の口をふさげ。」
シークはそうつぶやいた。
「え?」
「口をふさげぇ!!」
今度は叫んだ。
「…ッ!!まさかぁ!」
アリシアも、これから起こる事態に気付いたらしい。
ズゴォ――――ン
箱舟が光線を発した。
光線は、シークの弟子であるレッキのいるはずの総本部施設へ伸びて行った。
「ち、ちくしょう!!」
シークは悪態をつき、箱舟から飛び降りて走り出した。
「ま、待ちなさいシークッ!」
アリシアの声ももはや届かなかった。
―午後2時54分
「グェアッ!」
突然の爆発で僕は吹っ飛んだ。
総本部施設だ!総本部施設が吹っ飛んだんだ。
「どうなってるんだ?」
「カカ、箱舟が実力を発揮したらしいな。」
ノアが震えながら立ち上がった。
「カカカ、こんなものたいした力ではないぞ。箱舟はその気になれば“ここごと”破壊できるぞ。この娯楽施設ごとな。」
ノアは結構とんでもない事を言っている。
「止め方を教えろ。」
「やなこったじゃん?俺の目的は箱舟でセントラルを破壊する事じゃん!」
「じゃあ、力づくで喋らします。」
「させない…じゃん?」
ノアの口調が強くなった気がした。
「お前相手に無駄な傷はこれ以上つけん…八つ裂きにしてやる。」
―ヴヴヴヴヴヴヴヴヴ…
赤黒い音波がノアを包みだした。
「カカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカ」
けたたましい笑い声を上げ―
「フゥ」
ノアは息をついた。肌の色は真っ白だ。
そして目の色も真っ黒になり瞳が赤く光っている。
「発狂…完了。」
ノアが笑いながら近づいて来た。
「カカカカカ。」
赤黒いオーラをまとっている。
「お前ッ…何をした?」
「発狂は人間が持てる狂気の波長を更に越える波長を直接中に取り込んだ状態。じゃん?」
ノアはケタケタと笑っている。
どうやら無事に帰れそうにない。
「うおおおおおおおおっ!」
シークは豪速で突っ走っている。
「シークさんっ!」
クリスとセンネンがサイモンを背負い走っていた。
「どけぇっ!」
シークは野獣みたいな唸り声を上げた。
「ぎゃんっ!」
「にゃぐぉ!」
「ウン。」
3人をいとも簡単に吹っ飛ばしてシークは突き進む。
「レッキィィィィッ!死ぬなぁ――ッ!」
「おぉっ!あんときの妙なオッサンじゃねーか!」
「どけぇっ!」
「ぶごげ」
ロゼオも同じ調子で吹っ飛ばして更に速度を上げる。
「待ってろ!今助けに行くからなぁ!!」
「どけぇっ!」
「ぐょッ。」
レッキも同じ調子で吹っ飛ばして、ノアの目の前でシークは止まった。
―午後2時56分 総本部施設跡―
「レッキィ!無事かぁ!?」
ノアを揺さぶる師匠がいた。何故僕は鼻血を出して倒れている。
「俺はレッキじゃないじゃん。」
「え!?…ノ、ノアじゃねえかオメェ!」
「師匠…。」
僕の声に師匠は振り向いた。
「レッキ!どうしたんだ!?酷い怪我じゃねぇか!」
アンタのせいだよ。
「畜生、ノアァ!貴様がやったんだな!?」
「違うじゃん、お前じゃん。」
「しらばっくれるな!!なぁ、レッキ…俺に任せておけ、俺に何かしてほしい事はあるか?」
「死んでください…。」
総本部施設跡の近くで幸運にも爆発に巻き込まれなかった男がいた。
そう、俺様、最上陸也である。
「いてて…。」
ゆっくりと立ち上がって、あたりを見回した。
「どうなってやがる?俺は誰?ここはどこ?」
ボロボロのテントからプロ指揮官がよろよろと歩き出てきた。
「リクヤ、生きていたか…よかった。」
「プロ指揮官…どうなってんだよ!?これぇ!」
「恐らく、箱舟の攻撃だろうな…この施設はこれで終わりだ。一旦引くぞリクヤ。」
「ま、待った、あそこを見てみろ!」
ノアとレッキとシークが睨み合っている。
「蒼の騎士団の騎士隊長、ノアじゃねーか!受験生とジャスティスがいるぞ。」
「おやおや、マズイ状況だな。」
プロ指揮官は目を細めてそれだけつぶやいた。
「状況もクソもあるかよ!俺は行くぞ!いくらなんでも相手が悪すぎる!」
背中の巨剣を引き抜き、いざ戦場へ!…向かおうとした俺をプロ指揮官に強引に引きとめられた。
「うわぇっ!…何スか?」
「アホか。お前が横入りしたところでまともにやり合える相手ではないのだぞ。」
そして襟首を引っ張られ青ざめた顔を俺の顔にまで近づけた。
「お前は騎士団兵共を一掃すればいい。この辺りで狂気を感じているのだ。お前は処罰機関を収集してすぐさま戦闘態勢に入るのだ。」
「狂気。」
「お前は高濃度の狂気を唯一我慢できる一般人だ。期待しているぞ。」
期待。指揮官が俺を期待…!!
「了解しました。行ってまいります!」
「うむ。」
走って行ったリクヤを見つめる指揮官はつぶやいた。
「バカは扱いやすくていい。」
―ノアVSシーク&レッキ―
「水圧指弾、時間差散弾!」
ノアが水圧弾を発射した。
「レッキ避けろっ!」
すぐに右に回り込み、態勢を整えたが、
「神技神腕、烈硬化!!“ネタバレ手品ッ”!!」
師匠が僕の目の前に回りこみ神技を発動した。
鳩やらハンカチが飛び出て鋼鉄と化した。これが師匠のクリエーションらしい。
―バンッ!
時間差でノアの水圧弾が弾け飛んだ。
水圧弾は師匠の烈硬化に突き刺さった。
「グッ!」
そんな師匠の両足の間から腕を出し、僕は神技を発動した。
「超・神打っ!」
白い閃光はノアに突っ込む。
「カカカッ!自己重力減少、マイナスレベル!」
さっきより凄いスピードでノアは跳ね上がった。
「2度もその手には乗りませんよ。」
僕はもう片腕を出し、
「烈硬化、“カーブ”ッ!」
うまく造形できれば…ッ!
「おぉっ!」
師匠が声を上げた。
僕の片腕は縦向きの鉄製カーブ台となった。
―ギュインッ!
閃光はカーブに乗ってノアに直進した。
「カカッ!?…嘘じゃん!」
ズゴォ――――ン
「カカァ――――ッ!」
ノアは黒こげになって落ちていった。
「よっしゃあ!」
師匠がガッツポーズをした。
そして僕を片腕で持ち上げ、だっこしたではないか。
「はっはっは!さすが俺の弟子だ!」
「師匠、恥ずかしいです…。」
とりあえず歓喜に満ちて踊る師匠を見て、少し安心した。
「待てお前ら、ノアはまだ生きているぞ。」
プロ指揮官の声だ。
「プロのおっさん!生きてたのか?」
「縁起でもないな。私は無敵の指揮官、プロ・フェスタぁごふぇええ」
吐血をして倒れた。
「あ。」
「ぎゃあ!」
慌てて二人がかりで抱き起こした。
「く、薬がコートの中にあるはずだ。」
「お、おう!」
師匠が彼のコートのポケットを探った。が、
「おや、常備薬を切らしているぞ。」
そりゃ大変だ。
「私の事はいぃー…ヒィ…お前達はノアを追えぇー…ヒィ…」
「よし、ノアを追うぞレッキ!」
「はい。」
僕と師匠はダッシュでノアが墜落した方向へ走り出した。
「あ、あいつら、本当に置いてきやがった…ヒィ…」
―???にて―
「…。」
ボクは血に濡れた腕を見つめている。
「…。」
「レイン・シュバルツ。」
父が笑顔で歩いてきた。
「どんどん狂気について学べよ。」
「ハイ、父上。」
そして、死体の解剖を素手で再び始める。
「レベルが上がったら今度は生きた人間をよこそう。」
嬉しそうにつぶやきながら父は去って行った。
「…。」
背中を裂く腕が止まった。その腕を、数秒間見つめる。
「ヒ…ヒヒ…何だコレ…。」
ワナワナと震える。
「ボボ、ボクは何をしている。ウェッ…ヒ…ボクは何をしているぅ!!!」
後半は悲鳴に近かった。
「うぁあああああっ!ボクは何でこんなイカれた事してやがるんだ!!これは、ボクが否定している人間像じゃないかぁ!!」
腕を必死に水で洗う。
こんなに血がついている。ボクは吐きそうだ。
「逃げなきゃ、ヒィィ…逃げなきゃ、ボクはおかしくなりたくない、おかしくなりたくな―」
「レイン?どうした?」
父が覗き込んだ。ボクは何故か腕を洗っている。
「何でもありませんよ、父上。」
「そうか、人間をさばくのは楽しいか?我が子レインよ。」
「ヒヒッ…楽しいです♪」
第36章へ続く