第37章:新チーム結成
―3001年 3月3日 午後3時20分 ジョイジョイアイランド 広場方面通路―
爆発まで後9分
「走れ!早く!間に合わんぞ!」
センネンの走らすバイクの後部座席に、僕が座っている。
「箱舟は湖にまっすぐ!このルートを走っていました!この道を走ってくるに決まってます!」
「うむ!」
センネンはアクセルを踏みしめた。
「1分もかからん。安心せい!」
「ええ!」
ミサは死んだノアを見て痙攣起こすし、まともな一日じゃない!
「見えた!」
センネンが声を上げた。
紫色の怪物がうなりながらのたうちまわっている。
「…?」
様子が変だ。
「近づいてみましょう…。」
「そうじゃな。」
爆発まで後8分
箱舟は鉄の串だらけになって苦しんでいた。
「スチルだけで充分だったぜ。」
ロキが肩をすくめた。スチルはタバコをふかしていた。
「よぉ、お前達、ムチャをしやがったな?後で説教だ―」
「箱舟を湖に沈めます!!早く!手伝って!」
「何だと?」
僕は10秒足らずで事の次第を全て話した。
「それは大変だな。」
パンドラ一同は至って驚かない。
「ちょっと、非常事態ですよ?」
信じられない。といった感じで僕は言った。
「ようはこれを運べばいいんだろ?スチルには無理だな。」
師匠が箱舟の腹から飛び降り、僕の頭を力強く撫でた。
「マシュマ、頼んだぞ。」
「任せな、俺だけに。」
マシュマが腕を振り回しながら箱舟を掴んだ。
「マスマロ流体術、其の参!砂糖力を両腕に集中せん!」
マシュマの両腕がメキメキ響いた。かと思えば、筋肉質に変化し、その丸い身体がマッチョになってしまった。
「砂糖力45%。も、要らないか。」
マシュマは箱舟をヒョイと持ち上げ、軽い足取りで走り出した。
半端なスピードではない。
「うそだ。」
センネンが青ざめている。
「とにかく急ぎましょう。時間がありませんよ。」
爆発まで後5分
「早く入れろ!」
ロゼオが叫んだ。
「慌てんな、俺だけに。」
マシュマは紙くずを捨てるがごとく、数十メートルもの巨体を湖に投げ入れた。
―ドズンッ!
鈍い音が響いた。
「よし!」
サイモンさんとロゼオが水門を開けた、というより破壊した。
水が凄い勢いで流れ出す。湖の水は一分もかからない内に箱舟を包み込んだ。
「グガ、ギギィィッ!」
箱舟が叫び声を上げた。
「フリマ、召喚せよ。」
プロ指揮官だ。指を鳴らしながら湖を指差した。
「はぁ~い。」
フリマはこれまたピンク色のステッキを振り回しながら湖の目の前まで躍り出た。
「氷の女王、召喚どす♪」
ステッキを勢いよく湖に向けた。
………ッ!!!
ガチッ!!
一瞬の内に湖が凍りついた。そして、
―ズボンッ…。
情けない爆音が響いた。
「お、し、まい☆」
フリマは嬉しそうにそう言った。
「…。」
パンドラ以外、僕とミサ達は目を丸くして一部始終を見つめていた。
「…凄い…。」
クリスがそう言った。
「オメガバケモンだ、どいつもこいつも。」
ロゼオが白髪をかきむしった。僕は驚くというより、感動を覚えた。
パンドラのみんなはみんな信頼し合っている。
「仲間って…いいですね。」
何気なくつぶやいたその言葉に、サイモンさん達は僕を見た。
「らしくないね。キミがそんな事を言うとは…。」
サイモンさんが驚いたという感じでそう言った。
そして、国家機関就任式の日
―3月5日 午前11時25分 セントラル 式場―
「レッキ、そしてミサ。君達2人は今日国家機関ブレイヴメントとして任命する。」
ヒゲもじゃの老人が高価そうな紙をよこした。
「ありがとうございます。」
「頑張りなさいよ、新人君。」
ワダイさんがウィンクをした。
拍手の雨の中、僕とミサは自分の席に戻った。師匠が感動している。
「レッキ、立派になったなぁッハァァァァ」
泣き出した。アホだコイツ。
「そろそろドン・グランパが抱負を語られる。静かにしていろ。俺が許す。」
スチルが目を閉じたままそう言った。とことん偉そうな男だ。
「んっ!!!」
スチルが目を見開いた。
「来やがった…!!」
ハゲ頭でサンタみたいなフワフワの白ヒゲ。2メートルはくだらない巨大な身体。そして、人殺しのような血走った目つき。
「彼が、ドン・グランパ…。」
「黙れバカ!!」
師匠が僕の口をふさいだ。
「ムゴガッ!」
―ギロッ…。
ドン・グランパと呼ばれる男はこちらを真っ直ぐに見据えている。
スチルは引きつった笑顔でごまかしてくれた。
「あのお方は地獄の鬼みたいなお方だ。ムダに自殺行為は控えろ!」
「そんな、オーバーで―」
―ギロッ!
「あるわけがない。もう静かにしています。」
僕は久々に戦闘時以外での冷や汗をかいた。
「よし、いい子だ。」
師匠が軽く頭を叩いた。ミサは既に泣き顔である。
「貴様等、よく俺の前に現れやがったな?俺は今凄く腹がたっている。喧嘩でも売っているのか?クズ共が。」
えぇ―――――――ッ!?
「まぁいい。今年は少ないが新しい仲間も増えた。国家機関はこれからも12凶との戦いのために更なる発展を遂げるだろう。」
ドン・グランパはマイクを引きちぎった。
「いいかぁ!!俺達は市民を守るための戦士だ!貴様等はそれを理解しているのだろう!?」
「ハイ!!ドン・グランパ殿!」
国家職員一同はそう叫んだ。
「次もこんなセリフを言うからな。見計らってろよ。」
師匠が耳元で囁いた。
「俺達はこれからも国家機関として、ヒーローとして生きて行こうではないか!」
「ハイ!!ドン・グランパ殿!」
キャプテン・ウェイバーの大声が聞こえた。ヒーローに反応するとは。
「それから国家機関に就職した危険知らずの馬鹿2人!」
いきなり呼ばれたのでビックリした。
ミサはもう気絶寸前だった。何を言われるのだろう。
「…ここは戦場(パラダイス)だ。楽しく過ごせ、以上だ!!!」
満面の笑みでマイクを床に叩きつけた。
「ハイ!ドン・グランパ殿!!」
一同は一番の大声で叫んだ。彼の言う通り、楽しめそうだ。
―午前11時45分 セントラル 広場―
「やれやれ、疲れた。」
僕は肩を鳴らしながら広場のベンチに腰掛けている。
「楽しかったね♪就職試験。」
ミサは笑顔でそう言った。
「楽しかった!?笑わせないでくれ。もうあんな思いはゴメンです。」
ふと前を見ると、サイモンさん、クリス、センネン、ロゼオの4人が楽しそうに僕を見つめていた。
「皆さん…。」
「ワシ等はこれでサヨナラじゃな。」
センネンが寂しそうな顔でそう言った。
「そう、ですね…。」
「メガ楽しかったぜ。」
ロゼオはアメをくわえたままそう言った。
「自分は裁判機関として来年就任するッス。お二人は先輩になっちゃいますね。」
苦笑いをしながらクリスは頭をかいた。
「僕はセントラルの近くの町かなんかに暮らす事にするよ。困った事があったらいつでもおいでよ。ウン。」
サイモンさんはツヤツヤの仮面を撫でながらそう言った。
「お前等帰んのか?寂しいじゃねーか。」
師匠が腕組みをしたまま歩いてきた。
「師匠、僕はもう国家職員なんですよね?」
「ん?そうだが?」
僕は立ち上がった。これは決めた事だ。
「僕は国家戦士になりました。しかし、まだ僕とミサだけではこれからどうすればいいのかわかりません…そこで、提案なんですが…。」
…4人は疑問気な感じだ。
「…あなた方を“スカウト”してよろしいでしょうか?」
「えぇ?」
「ウン!?」
「…!」
「あぁ!?」
4人はビックリした。
「えぇー!?」
ミサも仰天していた。
「おいおい、確かに国家戦士にはスカウトできる権限が与えられるけどよぉ…。」
師匠はそこまで言って少し黙ると、やれやれといわんばかりに首を振った。
「好きにしろ。お前も、お前等も。」
そして楽しそうに去って行った。
「サイモンさんは僕を必死で守ってくれました。クリスさんは人としての優しさ、ロゼオは明るさ、センネンは人としての器を教えてくれました。僕には持っていないものを、皆さんは持っていました。だから、もっと僕に教えてほしいんです。」
4人は黙ったまま僕の言葉を聞いている。
「僕のスカウトを受けてくれる人はここに立ったままでいてください…イヤなら帰ってください…。」
僕は目を閉じた。僕はこの人達となら、失った笑顔を取り戻せるかもしれない…。
だから、一人でもいいから残っててくれ…。
……………………。
もういいかな…?恐る恐る目を開けると、そこには―
4人は残っていた。
「…みんな…。」
僕は全身の緊張が解けた気がした。
「こんな自分でいいんスか?」
クリスは頬を赤く染めながらニヒヒと笑った。
「勘違いはよせよな。オメガ刺激がギガ足りない人生がゴメンだからだぜ。」
ロゼオは嬉しくてたまらないと言わんばかりの笑顔でそう言った。
「ワシは御主の成長する姿が見たくてならんかった。よい機会じゃ。ニャハハ♪」
センネンはそう言った。
「つりあわないかもしれないけど、キミが僕を必要としてくれているのは嬉しいな。これからもよろしくねレッキ君。」
サイモンさんは照れくさそうにそう言った。
「僕達はキミのスカウトを受ける事にする。」
―午後3時40分 チームパンドラの集会場兼、プロ指揮官の家―
「チームを作る。だと?」
プロ指揮官は驚いたような面持ちであった。
「ええ。」
「ちゃんと人数は足りているのか?チームに必要な人数は6人だぞ。」
「足りています。スカウトしました。」
「…そうか。ならいいが、チーム名を決めているのか?なくちゃチームもクソもあるまい。」
チーム名?
「私の受け持つチーム、“パンドラ”のようにしっかりとした名前がなければな。」
「チーム名ですか。」
チーム名。う~ん…。ふと窓の外に目をやると、
「あ…。」
キレイな花畑。ピンク色の花だ。
「あの花は、秋桜か…。」
「ん?おぉ、秋桜か。セントラルのシンボルでもあるぞ。」
秋桜。コスモス。
「あ。」
「チームコスモス。」そう書かれたバッジを胸に貼り付けている。
「“コスモス”ッスか。いい名前ッスね♪」
クリスはバッジを嬉しそうに触っている。
「ロゼオ、御主は死神なのに正義の世界に入ってよいのか?」
センネンが疑問そうにそう聞いた。
「かてぇ事ギガ言いっこなしだぜ。俺は刺激のある生活が楽しいんだ。」
ロゼオはアメを砕きながらそう言った。
「アメ食べる?」
「うむ、宇治金時風味はあるかの。」
「はいよ。」
「あったのか…。」
「それはそうと、サイモンさんは素顔、見せないつもりなんスか?」
「ウンン?前にも言ったけど、僕の素顔は怖いよ?見ない方がいい。」
サイモンさんはああは言っているが、ノアにやられたときのあの素顔、傷だらけなところを抜かせばまともな顔なのに。
結構恥ずかしがりやなんだな。
「レッキ、嬉しそうですの♪」
「え?」
ミサがいきなりそう聞いてきた。
「ウン?ミサちゃん、レッキ君はずっと無表情だったよ?」
「ううん、なんだか楽しそうなんですの。」
「そう、な…の?」
4人の目線は自然と僕の方に。
「…。」
「あ、顔がメガ真っ赤だ。」
「なんだか…カワイイッスね。」
「変な奴じゃのぉ。ニャハハ。」
みんなは笑い出した。
ミサは凄いな。今とても幸せでとても嬉しい事を読み取ったんだもの。
―???にて―
「デスライク様、ノアが死にました。」
「ほっほぉ。」
「自殺です。」
「ほっほぉ~。」
「計画も大失敗です。」
「ほっっっっほぉぉぉぉぉぉう。」
「どうします?」
「まだ、“あの計画”は残っているんだ。気にすることはない。」
「し、しかし…あの計画は危険すぎます。」
「だからレインにやらせるんだ。」
「へ?」
「レインはもうじき蒼の騎士団の究極兵器になる。これからの計画ではほとんどレインに抹殺を任せるのだ。」
「な、なるほど…。」
「ふふふ、なんて素晴らしい“道具”なんだ。息子って。」
―ジョイジョイアイランドにて―
「あたくしの娯楽施設が…。」
チリッチ・リッチー(仮名)本名、メッキ・D・ジュースはボロボロのスーツをまとい、ジョイジョイアイランドの広場にへたりこんでいた。
アトラクションはほぼ破損し、まるで怪獣でも通りすぎたような状態だった。まぁ実際に怪獣が通った後なのだが。
「ちくしょう、蒼の騎士団に騙されたざんす。」
「騙した?結構な言い方じゃないか。」
いきなり若者の声。
「ヒィッ!?」
メッキは驚いて振り返った。
茶髪の青年が剣を振り上げているところだった。
ザンッ
「コマンドウさんですか?どうも、ジャンです。メッキを殺しました。俺達のこと洗いざらい話されると厄介なので。」
血まみれになったメッキをいじりながらジャンと名乗る青年はそう言った。
『うむ、ごくろう。』
ゴツイ声だ。
「それでは帰りますね。」
『ああ待て、ちょっとおつかいを頼まれてくれないか?』
「おつかい?お駄賃をくださいね。」
面倒くさそうにジャンは答えた。
『…5グランでいいか?』
「帰りま~す。」
『わかったわかった!!1000グランやるから!!ちくしょう…足元見やがって。』
「で?」
『アルテマという力を持った人間が国家にいる。連れて帰って来い。』
「アルテマ?」
ジャンは眉をひそめた。
『属性能力や能力紋を中和させる白と黒にわけられた力だ。過去に“ゲドー”という男が実験材料として全て持っていってしまってな。』
なるへそ。ジャンはつぶやいた。
「じゃそれを体内に持ってしまった人間を拉致ればいいんですね?で、誰ですか?その人間って。」
ゴツイ声は一息つくと、こう答えた。
「ミサだ。」
第38章へ続く