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第38章:恐るべき刺客

―3001年 3月7日 午前7時29分 セントラル 国家職員宿舎―

「う…ん。」

おはようございます。みなさん、今日は晴れですよ。
僕は寝返りをうち、ミサの顔を見つめた。ミサは僕の隣ですやすやと寝息を立てていた。
僕はため息をつき、そして、ベッドごとミサを壁にたたきつけた。

「びぎゃぼっ!!」

数秒後、ミサがベッドの下から這い出てきた。

「痛いじゃないですかぁ♪」
「朝からビックリさせるな!」


朝食の準備をしなければ。
僕は緑色のエプロンを着こなし、台所に立った。宿舎にしては設備がいい。

「ミサも手伝いますの。」

ミサがトテトテと走って来た。

「ミサの分も作ってあげますから、“自分の部屋”で待ってなさい。」
「ぶぅ~!」

ミサは頬を膨らませながら部屋から出て行った。

「やれやれ。」


「はいどうぞ。」

ベーコンエッグにトースト。さっぱりした野菜スープ。そして牛乳。

「うわぁ、おいしそう☆」
「残さず食べなさい。」

僕はエプロンを脱ぎながらそう言った。
しかしまだ僕の部屋にいるつもりか。

「おいしー♪」
「ハァ…。」

仕方ないなぁ、もう…。


朝食後、僕とミサはセントラルの見ていない場所を見に散歩をする事にした。

―午前7時36分 セントラル レストスペース―

「おう。」

ロゼオが喫茶スペースにいた。

「おはよう、ロゼオ。」
「おはよう~☆」

ロゼオはニヤニヤ顔に変化した。

「クク、ギガアツアツだなお前等。ヘッヘッヘッへ♪」

カレの言葉にミサは真っ赤になった。何?何なんだ?

「やだぁロゼオったら♪」

何の事やらサッパリーノ。

「お前等も飲むかぁ?アメ汁。」

ア、ア、アメ汁!!!!?

「なんですかアメ汁って。」
「決まってるだろ?アメの汁だ。」
「遠慮しときます。」

当然である。

「えぇ~おいしいのに。」
「飲むかそんな意味のわからんモン。」

うぉぉ、ビックリした。センネンがすぐ隣で緑茶を飲んでいる。
どこでも気配を消すのは勘弁していただきたい。

「センネン、いたんですか?」
「失敬な。ワシじゃて喫茶店でミルクテーとか飲むわい。」

“緑茶”を飲みながらセンネンはそう言った。

「おい童顔爺さん!アメ汁をギガ見た事ないくせいにメガトン知った口振りじゃねーの!?」

いや、僕もお目にかかりたいものなのだが。

「名称からしてメガ不味そうなのじゃ。」
「メガマズイのはお前の髪型じゃあ!!お前はパンクバンドのテリー笠元か!!」

誰だよ。

「嬉しいのぉ!!ワシはテリー笠元の大フアンなのじゃ!!」

大フアンなのかこの人。
…じゃなくて、だから誰だよ。

「いや、あいつは女癖もギガ悪くて金欲もある悪い男だと断言できる!」
「うんにゃ、奴がどれだけ言われようとワシはイイ奴じゃと信じておる!」

お前等はテリー笠元の何を知っている。

―午前7時42分 セントラル 司法施設―

ところかわって司法施設。
法律書の形をした建物が並んでいる。遠くから見れば巨大な本棚だ。

「奇抜なデザインだな。誰が設計したんだ―」

『設計者・プロ・フェスター』

「あの人か…」


「ビィービィー!」

おっと!クリスがビービー泣きながら出てきた。

「どうしたんですか?」
「何で泣いてるの?クリスさん…。」
「みヒッ…ん…なっハァ…がァ寄せ書きを書いてっヘッくれてぇ…。」

色紙に数人の人物が書いたらしき寄せ書き。
そうかクリスもブレイヴメントになるから裁判機関を辞めちゃうのか。

「あなたの諸事情は知りませんがとりあえず顔を拭きなさい。涙と鼻水で、どえらい事になってますよ。」

ハンカチを差し出した。

「バッビィヒッ」

異語を吐きながらクリスは顔を拭いた。

「やれやれ。」

スカウトして悪かったかな。

「やぁ、おはよう、レッキ君。ミサちゃん。クリスく…ッ!!」

サイモンさんが歩いてきた。そしてグチャグチャのクリスを見てビックリした。

「ウウン…また泣かせたのかい?」
「と、とんでもない。」

これこれしかじか。

「なるへそね。ねぇ…クリス君、裁判機関の人達とはまたここで会えるじゃないか。違うかい?」
「あぁっ!」

クリスはビックリした顔でそう叫んだ。

「そうだったッス!いやぁ!泣いて損したッス♪」

えぇ―――ッ!?

「それじゃあ、剣の稽古をしてまいりまッス!さいなら!」

スタコラサッサと立ち去って行った。

「ウン~クリス君は面白い子だねぇ♪」
「疲れる…。」

頭痛がする。

「それはそうと、蒼の騎士団について何かわかったかい?」
「へ?」
「巨大図書館。」
「あっ!」

そうだ。何故僕が国家に就職しようとしたのか、やっと思い出した。

「すぐ行きます。」

ツカツカと歩き出した。

「待ってよレッキ!」

ミサも慌てて歩き出す。

「さて、セントラルの絵でも描くかな。」

サイモンさんは絵描きの準備を始めた。

―午前8時24分 巨大図書館―

「ここが巨大図書館か…。」
「文字通りでかいですの!」

まさに想像を遥かに越えるレベルなのだ。まぁ東京ドーム3個分の高さだと考えてくれればいい。

「早速入りましょう。」
「うん♪」

ミサは嬉しそうだ。

『デートデートォ☆』



しかし、



ビックリするくらいの静けさである。それも広い空間ずっと。

「広いなぁ…。」

読書をしている連中の目が一斉に僕を睨んだ。そして、

「シィ――ッ!!!」
「す、すいませ―」
「シィ―――ッ!!!」
「…。」

神経質すぎるだろ。まぁいいけど。
蒼の騎士団についての本を探すぞと身振り手振りでミサに伝えた。

―午前8時29分―

「もう声を出しても大丈夫かな?」
「シィ――――ッ!!」

ダメだった。ここは資料保管庫らしい。

「ミサ、あそこの本を取るから、ちょっと手を貸してくれ。」

僕は極力小さな声でミサにそう言った。

「うん。」

脚立がない。まったくもう。僕はミサを肩車した。

「取れそうか?」
「なんと…かぁ…!」

ミサは本を取れたらしい。手枝絡を使えばよかったと気付いたのはミサを降ろしてからだった。

「え…と…。」

手にとった本は十二凶についての本だった。結構新しい。


『十二凶』

十二凶組織

蒼の騎士団
軍事力、凶悪さ、共々に高い軍事組織。無差別殺戮を繰り返しているため、レベル9(史上最悪犯罪組織)に登録。シーク・レット・ジャスティスにより前アジトを破壊。ボスであるデスライク・シュバルツは現在行方不明。

鬼道武者軍
特殊亜人族、鬼族によって構成されている侍の一味。ボスであるオニショーグンは十二凶最強の実力者だと考えられる。

トランプ戦団
十二凶一の策略家、ネシ・ジョーカー率いる空族一派。戦艦での移動をしているらしいが未だに発見できていない。

西遊獣鬼軍事団
獣人達が反乱を起こしできた組織。ボスであるギューマは過去に2代目パンドラのセレイ・フェスターを殺害。
(確認されている組織のみ掲載)


その後は難しい単語の雨。これは家に帰ってじっくり読むべきだ。


「どうだったの?」

ミサが横から覗き込んだ。

「うん。やっぱり国家の書物はしっかりしているよ。情報がほとんど掲載されている。蒼の騎士団についてよく調べられそうだ。」
「よかったね♪」

ミサは笑った。

「シィ―――ッ!」
「し、失礼しま―」
「シィ―――ッ!」


国家機関上層部にて―

―午前8時46分 国政機関大会議室―

「ドン・グランパ殿、先日、我々がジョイジョイアイランドへ任務へ向かった時の伝達なのですが。」

プロ・フェスターは青ざめた顔でそう言った。

「持病のニキビゴファオェース」

血を吐いて倒れた。

「…。」

ドン・グランパは目を細めている。

「指揮官殿…!」

スチルが駆け寄って薬を飲ませる。

「ゴホッ…大丈夫だ。」

指揮官はフラフラと立ち上がる。

「エー…。今回調達に成功した改造人間、“箱舟”の肉片です。これについて気になる点があります。スチル。」
「はい。」

スチルは紫色の肉片を持ってきた。

「これがジョイジョイアイランドを騒がした箱舟か。」

ドン・グランパは眉間にシワをよせた。

「化学班に解析させた結果、低濃度ですが“アルテマ黒”を発見しました。」
「アルテマ黒…ッ!」

ドン・グランパは立ち上がった。

「狂気の塊ではないか。蒼の騎士団はソレまで持っているのか…!!」
「ええ、しかし、チームパンドラの連中やリクヤの様に狂気を感じない人間以外にも、狂気を感じない人間がいたのです。」
「む…!?」
「ミサという少女。彼女は高濃度の狂気トンネルの中にいたとロゼオという男から聞きました。」
「チームコスモスのか?」
「はい、ミサという少女を調べる必要があると思われます。」
「…わかった。この件の責任はプロ。貴様に任せる。」
「了解しました。」

プロ指揮官は敬礼をし、

「持病の深爪ゴファァァイ」

再度吐血をしながら部屋から出た。

―午後12時00分 食堂―

腹も減ったので適当に腹ごしらえをすることにした。
僕とミサは食堂に入る。

「お~う!レッキじゃねーか!」

師匠がシルクハットをモガモガ動かしながら手を振った。振るな。

「シークさんですの!お~い♪」

ミサも手を振った。振るな。

「レッキちゃん、一緒に食べようよ。」

アリシア姉やんも現れ、なんだかもう面倒な事になってきた。

「レッキは何を食べるんですの?」
「そうですね…」

メニューは若者も老人も食べれる食品ばかりだ。そこで、僕が選んだのは。

「この“ジャイアントカツカレー”を。」

周囲がザワザワ騒ぎ出す。

「アイツあのジャイアントカツカレーを食べるつもりか!?」
「あの数年間でアリシアとシークしか食べ切れなかったと言われるあの…ッ!!」

ハイ、もう食べない。

「お~い!ジャイアントカツカレーよろしくなぁ!」

師匠!貴様…ッ!

「ハッハッハ、これは通過儀礼みたいなもんだ。スチルやロキも挑戦したかんな!」
「それでゲロ吐いたのよねぇ~☆あははは」

笑い事ではないという。

「ヘイお待ち。」

テーブルにドスンと置かれたそれは、まるでエベレスト山のようなカレーだ。
天井に福神漬けがくっついている。

「制限時間は10分。さあ頑張れ。」

ふざけるな、こんな量いけるわけないだろ!

―7分後

「いけましたね。」

ゲップ、失礼。
皿の上にはご飯粒一つ残っていない。記録は7分。

「俺とタイ記録だな。スゲー!さすが弟子!」

師匠はおおはしゃぎだ。

「レッキは凄いですね♪いよっ!フードファイター!」

嬉しくないわ。

「おなかいっぱいです。ミサ、宿舎に帰りましょう。」
「うん♪」

ウプッ…気持ち悪い。ミサに支えられながら食堂から出ようとした。
その時―

「待て、ミサは私と一緒に来てもらおう。」

プロ指揮官が食堂に入ってきた。

「こってりした匂い…ゴファアアア」

そして吐血。されど吐血。

「みきゃああああああ」

師匠が悲鳴を上げた。

「常備薬が中にあるぃ…ーヒッ…」


「助かった。」

プロ指揮官がゆっくりと立ち上がった。

「ミサに何か用なのですか?」
「うむ。ちょっとした確認をしたくてな…。」

少し帽子を整えながら指揮官はそう言った。

「ちょっとした確認?何の確認です?」
「お前は知る必要はない。ミサ、ついてこい。」

プロ指揮官は若干強い口調でミサの手を引っ張った。

「やめてください。意味もわからずにハイそうですかとミサを渡せるわけがないでしょうが。」

僕はプロ指揮官の前に立ちはだかる。

「これはドン・グランパからの命令であり、お前達のためにもなる確認だ。もちろん、ミサのためにもなる。私はお前達を助けるつもりでやっているのだぞ。」
「それでは、僕も同行させていただきたい。」
「うむ、し、しかし…。」
「僕はミサを守るとミツルと約束しました。だからです。…それとも、何か困る事でもおありで?」

プロ指揮官は参ったといった御様子で、

「…わかった、ついてこい。」

そう言った。

―午後1時46分 セントラル 地下室―

長時間歩かされてやっと辿り付いた。

「ここは…。」
「セントラル化学班室だ。」

地下なのに、清潔感漂う明るい空間だ。
白衣の科学者が何かを解剖している。

「あれはジョイジョイアイランドで検出した箱舟の肉片だ。今さらに詳しく調べている。」

しばらく進むと、奇妙なガスの漂う空間を見つけた。

「軽く触れてみろ。軽くだ。」

指揮官の言うがままに指を差し出した。

―ギチッ!

「いてっ!」

僕は指を引っ込めた。

「大丈夫!?」

ミサがビックリして駆け寄った。僕の指は赤く腫れ上がっている。

「これは殺意の波長だ。数年前、チームパンドラが壊滅させた12凶組織、ダンデ+雷怨のボス、ヒマワリが死に際に放った波長だ。これは中和も難しくてな。この空間に保管しているのだ。」

そういうことは早く言ってくれ。めっちゃ痛いじゃないか。

「彼女に舐めてもらえばいいじゃないか。」

からかうように指揮官は笑いながら歩き出した。

「彼女?」
「レッキ、わたしの事だよ♪」

ミサが指を貸しなさいといわんばかりの笑顔で迫って来た。

「…?」

僕は赤くなった指をくわえた。

「あ―――ッ!」
「子供じゃないから、これくらい大丈夫ですよ?」
「…おのれ…。」

ミサは怒りと憎しみのこもった顔をした。

「ふぇあ!?」

何故だ!?

「何をしている。早く来い。」

指揮官が遠くから呼んだ。

「あ、失礼。」

―午後1時49分―

化学班の連中がミサになにやら器具を取り付け始めた。ミサは不安そうだ。

「プロさん、教えてください。ミサに何をさせるつもりですか?」

僕は少し怒りのこもった口調でそう言った。

「大丈夫、ミサには危害は加えない。」

不安そうなミサの顔が見える。

「…。」

イライライラ。

「だから連れて来たくなかったのだ。お前はミサを大切にしている。だからミサがこういう状態にさらされているなか、ほおっておくはずがないのだからな。」

指揮官はそれだけ言うと、ため息をついた。

「心配は要らんのだぞ。ミサは怪我一つしないし、今後の生活にもまったく変化はない。」

指揮官は僕を見た。

「私を信じたまえ、新人君。」

…。

「…わかりました。」


―ビビビビビビビ…!!

ミサの身体を電流が走る。

「…ッ!」
「波長濃度を上げろ。ミサの血圧はどうだ?」
「異常はありません!」
「早く次の波長を用意せよ!」
「了解!」

プロ指揮官は忙しそうに指示を与えている。
ミサはなんの変哲もない顔をしている。本当に大丈夫なのかな…。


「終わった…。」

指揮官はへたりこんだ。

「あぁー疲れた。」
「レッキー!」

ミサが飛びついてきた。

「もう帰っていいよ。」

指揮官は資料を見ながらそう言った。

「では、失礼します。」

ミサを連れて、僕は化学班室から出て行った。


「やれやれ、やはりあの子は人間兵器だったか…ひょっとしたら…今日ぐらいに―」


―午後5時21分 セントラル 広場―

「ミサ、本当に大丈夫ですか?」
「レッキは心配症ですね♪でも嬉しいの☆」

ミサはえへへと笑った。

「わたしの事をあんなに守ろうとしてくれたんですもの。」
「当たり前だ。僕はミツルとの約束を守る。君の事はこれからも守るからね。」

ミサはいよいよ溶けそうな顔をした。

「今日のミサは変ですねー。」
「えへえへえへえへ」

さてと、今日の晩御飯はどうしようかな。
そう考えていた。この時、後ろをちゃんと見ていれば、あんな事には…。



ズゴッ


「…レッ…キ?」

ミサは青ざめた顔で倒れたレッキを見つめている。

「ハッ…弱っ!」

ジャンが剣を握りしめていた。

「レッキ!レッキ!ねえ!しっかりしてぇ!!!」

ミサは泣きながらレッキを揺さぶった。

「ミサ様、デスライク様の元へ帰りましょう。」

ジャンが強引に引き離した。

「いやっ!いやああ!離してぇ!!!」
「これがアルテマの力か…えへへへ、かわいいな♪」

おぞましい笑顔でジャンはミサを抱きしめたまま飛び去った。


「レッキィ!!助けてぇぇぇぇぇ!!!!!」


第39章へ続く

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