第43章:処罰機関のプライド
―3001年 3月7日 午後11時39分 バリケード跡前―
「食わせない!」
ドレッドはセプトの顔を両腕でせきとめた。凄い怪力だ。押し潰されそうだ。
「ぐぎぎぎぎ…」
「ぐぁああああああ!!!」
腕をへし折られそうだ。
『やれやれ!』
ゴショガワラの声が響いたかと思うと、ドレッドの腕が巨大化し、セプトを吹っ飛ばした。
「ぐあぁ!?何だとぉ!?」
セプトはうめいた。
「危ねぇ…助かったぜゴショガワラ。」
『いえいえ。』
ドレッドは十手を片手に、もう片手には拳銃を握った。
「そうだ、俺には頼れる部下が付いてる。俺も戦うぜ、絶対に勝つ!」
そして、胸が青く輝いた。
「能力紋、“ピーチメント”ロト!デルタウィング!」
眩しい程の輝きと共に、ドレッドの背中から青い翼が生えた。
「俺は天使!」
『調子に乗るな。』
ロトの声と共に翼は羽ばたいた。
「能力者か!おのれ…!!」
セプトはマントを脱いだ。白い鎧だ。
「ならば私の能力も見せてあげるわ!“スキルイーター”!」
セプトの口が大きく開き、もの凄い勢いで吸い始めた。
「うおああああ!!」
ドレッドは吸い込まれそうになった。
「ロクロ!ガンマグリード!」
ドレッドの口が赤くなり、犬のような牙が生えた。
「ぐが!?」
「ドッグ裂斬!」
牙をまるで刀のように振る。セプトは地面を蹴ってかわした。
「やるな…。」
「やれて当然だ!」
ドレッドはそう言った。
『よく言いやがる。俺達の力が無きゃ何もできねえくせに。』
ロクロが愚痴った。
『本当ですなぁ。金髪メガネ殿と戦った時(6章・参照)も能力を使えば勝てたものの。』
ゴショガワラもなにやらチクチク言い出した。
「うるせえな!黙ってろ!」
『短気、ドレッド。』
ロトが吹きだした。
「この野郎!!」
ドレッドは3つの能力紋を思いっきり殴った。
「あんぎゃ!いっでぇ!」
当然だ。
「クスッ…部下に慕われていないようね。」
セプトがニヤリと笑う。
「やかましい、お前もすぐにその口が聞けないようにしてやらぁ!」
ドレッドは器用に腕を組んだ。
「一獣共鳴、俺フェザント!“羽刀”!」
青い光がドレッドを包み込み、それがやんだと思うと、青い小刀が輝いていた。
「何?ソレ。そんなちんけなもんで私とやり合おうっての?」
セプトはクスクスと笑っている。
「おぅ。」
ドレッドは自信に溢れた顔つきでそう言った。
―ジュバッ!
瞬間にセプトの胴を薙いだ。
「げあぅっ!?」
早い。ドレッドはセプトの背後で小刀の血を拭き取ったところだった。
「一獣共鳴、俺モンキー!“爪刀”!」
今度は黄色い小刀だった。
「羽刀は素早さを向上させ、爪刀は…。」
セプトは素早く腕を振り上げ、押さえようとしたが、
「破壊力を向上させる。」
―ボキッ!
斬れはしなかったが、へし折ってしまった。
「うぎゃあっ!」
セプトは後方へ下がった。
「一獣共鳴、俺ドッグ!“牙刀”!」
ドレッドは休む間も無く、赤い小刀を持ってセプトの頭上まで飛び上がった。
「今度は何!?」
セプトは上空を睨んだ。
「牙刀は…常識全てを断ち切る。」
―ズバァッ!
セプトを真っ二つにしてしまった。
「俺の部下最強♪」
ドレッドは小刀を全て腰に納めた。3本の小刀は能力紋に吸い取られた。
『褒めすぎですなぁ』
『へへ、まあ、ほぼ合ってるけどな。』
『同感』
部下達はそれぞれそう言った。
「ドレッド、どうした?…わぁ!」
戦士が走ってきて、セプトを見て仰天した。
「安心しろよ。今、倒した。」
ドレッドは拳銃の弾を痩身した。
「それはよかったぜ。コイツは12MONTHのセプトだ。何でも能力を食っちまうおっかねえ女だ。」
戦士は知識のある人間だった。
「マジか。じゃあ、危うく俺の部下が食われちまうとこだったってか。」
『冗談じゃねえよ。二度と巻き込むなよなあドレッド隊長!』
ロクロが身震いをした。正確にはドレッドの右腕が震えた。
「ヲイヲイ。ビビッてんじゃねえよ。それでも俺の部下か?」
『俺はお前みたいな忠誠心なんざ持ってねえんだってのお前は犬か!?犬は俺だけどね。』
「あんだとぉ?」
戦士の目線から見れば、ドレッドが大声で独り言を言っている様にしか見えない。
「ドレッド、せめて召喚して喧嘩してくれよ。」
「えぇー?…だって、面倒くせぇだろぉ?」
「ロキさんみたいな事言うなよ…。」
ジュバッ
ドレッドの足から血が吹き出た。
「あぁ?」
ドレッドは青ざめて足を睨んだ。
セプトが身体を再生させ、指を槍のように伸ばしていたのだ。
「化け物め…。」
「お互い様でしょ?」
ドレッドは足を押さえながらしゃがみこんだ。その時、拳銃の弾丸がポケットから流れ落ちた。
「わ、わ、ま、待ってろ!」
戦士は応援を呼ぼうと走って行った。
「クスクス、応援が来るまでに殺してあげるわ。」
「ちくしょう…。」
「まずは…両足を斬ってあげる。動けないでしょ?」
―ズバッ!ズバッ!
両足の大腿を斬られた。
「うぎゃあ!」
『ドレッド隊長!』
『坊や!』
『ドレッド!!』
ロクロ、ゴショガワラ、ロトは叫んだ。
「奇妙で珍しいわね。デスライク様にお土産として持ち帰りましょう。」
「や、やめろ…。」
ドレッドは必死でセプトの足を掴んだ。
「アンタは部下達がいるから私と戦えるのでしょ?だったら、部下無しで勝ってみなさいよ。」
セプトはドレッドの頭を踏み付けた。
「雑魚が。ひゃははははははは」
―ガッ!ガッ!
セプトは何度もドレッドを踏み付けた。
「どうせ、アンタの上司も、雑魚なんでしょ?雑魚な部下を持って雑魚も大変よねぇ!」
―ガッガッ!
「何とか言ってみろよ“雑魚野雑魚助”ちゃんよぉ!」
ドレッドは黙ったまま動かなくなった。
「…まぁいいわ。遊びは終わり。」
セプトは口を開けた。
「スキルイーター。」
もの凄い大きさの牙が生えた。
「まずはお前からだ。」
青い紋章に牙が伸びた。
『ド、ドレッド!ヤバイぜ!』
ロクロが叫んだ。
『ドレッド、起きる、私、殺される。』
ロトが弱々しい声でそうつぶやく。
「まぁ…落ち着け。」
ドレッドは笑っている。
「余裕ってか?ざけやがってよぉ…。」
セプトはニヤニヤと笑いながらそう言った。
『ドレッド坊や!部下が殺されますぞ!?よいのですか!?』
「うるせえなあ。」
「ひぇははははは!コイツはとんだチキン野郎だわぁ!!」
『ドレッド!いい加減にしやがれよ!俺達はお前を必死に守ってやってんのに、恩を仇で返すつもりか!?』
ロクロが怒って叫んだ。ドレッドは何故か、「もう少し。」と何度もつぶやいていた。
セプトは楽しそうに笑った。
「ムダだってのよ!コイツは国家に魂を売った悲しき人間、最上陸也の部下よ、ヤバイ時には死んだふり、でもそれが得策よねえ!!」
嬉しそうにそう言い放った時、
「誰がそんな事言った。」
ドレッドが目を光らせた。
「あぁん?何を言っ―」
「鬼は外。」
ドレッドはセプトの言葉を遮り、そう言った。同時に、
ボッ
と、もの凄い音と共にセプトは炎に包まれた。
「あんぎゃあああああああ!?」
セプトは絶叫した。
「俺様特製、鬼も怖がる“即席火炎球”だ!」
ドレッドはニヤリと笑顔を作った。
「そしてスピードヒール!」
ドレッドは懐からスピードヒールを取り出し、飲み込んだ。
「スーパー健全!」
ドレッドは足を振り上げ、反動で立ち上がった。
「世の中パワーが戦略ばかりじゃねえよ。“ココ”も使わなきゃなぁ。」
口の血を拭き取りながら、彼は自分の頭を突付いた。
『ドレッド坊や、火炎球とは考えましたなあ。しかし、どうやって彼女の近くに設置できたのですかな?』
ゴショガワラが安心したようにそう問い掛けた。
「さっきしゃがみこんだ時に、“拳銃の弾丸”を落っことしただろ?あれが火炎球だ。俺が『鬼は外』と言えば起爆するようセットされてたんだ。それまでずっと、彼女の足元まで転がさせた。それだけよ。」
『だったら、前もって俺達にやるぞと教えてくれればよかったんだ!ビビらせやがって!』
ロクロは怒りながら叫んだ。
『泣きそうになったぞ。バカ。』
ロトはほぼ泣き声でそう言った。
「お前等の演技の下手さは筋金入りだ。アドリブで臨んでみせたのだ。」
ドレッドは胸を張っている。
『ふざけんな!』
3人がそう叫んだ時、セプトは立ち上がった。焼け焦げている。人間の焼死体だ。
「いかがかな?お嬢さんが言う通り、一人で戦ってみせたぞ。」
ドレッドは紳士のようにペコリとお辞儀を見せた。
「ざけやガって…殺してやル…。」
セプトは両腕を掲げた。
「イオン・ショートカノン!」
―ブァアアア!!
レーザーが両腕から発射された。
『あれはオクトの能力ですなぁ!』
『きっと食っちまったんだ!』
『回避!』
「うるせえ!一度に喋るな!俺は聖徳太子か!」
ドレッドは咄嗟に胸の紋章に手を当てた。
「俺フェザント!」
ドレッドは素早くその場を回避した。瞬時に地面は完全に焼け焦げてしまう。
「ひゃは!まだまだ行くぜ!カス共!!」
―ブァアアア!!ブァアアア!!
レーザーは容赦なく連射される。
「畜生!防御魔法さえありゃあなあ!」
『ドレッド、贅沢。』
「わーってら!」
ドレッドは地面スレスレを飛びながら拳銃を取り出した。
「火炎弾だぜ!」
数発セプトのどてっ腹にぶっ放した。炎が激しくなった。
「ぎぇ!」
セプトは腕を振り、炎を払い落とした。
「こしゃくな!」
またもレーザーを放ってきた。
「二獣共鳴!俺ドッグ+フェザント!」
ドレッドはレーザーを切り裂き、凄いスピードでセプトに迫って行った。
「ナニィ!?」
「俺が一人としか共鳴できないと思ったか?」
『もちろん、その常識も俺が斬り裁く!』
ロクロはセプトを袈裟に切り裂いた。傷口はすぐにふさがれる。
「らちがあかねえ!」
「ひぇはああ!雑魚に私を倒せまい!リクヤですら無理なのだぁあああ!!」
セプトは笑いながらそう叫んだ。
「…また言いやがった。」
ドレッドは眉間にシワを寄せた。
「俺の司令官を侮辱するな。」
「おほ、逆鱗に触れちゃったかしら?」
セプトは笑った。
「私も怒っているのよ?蒼の騎士団のアジトに襲来し、ディスとオクトとオーガを殺した。許せるもんですか…。」
「仲間意識をまともに持ってない人形戦士団のくせにか?」
ドレッドは目線をずらさずに腰に手を当てた。
「バレたか。」
「当たり前だ。そもそも上の階級の同僚が死ねば昇進できる。嬉しいんだろ?」
「そうね。クスクス…。」
腰のポケットに手を入れた。
(バレるな…油断してろ…。)
ドレッドはそう思いながら何かを掴んだ。
「何をするか知らないけど、邪魔ね。」
セプトは気付いていた。ドレッドの腕に小さな穴が開いた。
「うぎゃ!」
『ドレッド!』
部下3人が叫んだ。
「ひゃははは!弱者をいたぶるのって気持ちいい♪」
セプトは指を差していた。
「イオン・ミクロカノンよ。これでゆっくりといたぶって殺してやる。」
―バン!バン!
ドレッドの腹、肩、足首をレーザーが突き抜ける。
「ちくしょう…。」
ドレッドは仰向けに倒れ込んでしまった。
「とどめぇ…。」
セプトはニヤニヤと笑いながら歩いてきた。
『お前等…。』
ドレッドは心の中で3人の部下に話し掛けた。
『ドレッド、逃げよう!ロトの力なら逃げ切れる!』
ロクロは慌てている。ロトは何度も頷いていた。
『やな、こった…コイツは俺の…いや、リクヤ総司令官殿のプライドを傷つけた…。』
『じゃあ、どうするのですか!?』
ゴショガワラは叫んだ。
『俺の言う事聞きやがれ…。』
「死ねぇ!」
セプトは指を向け、エネルギーを集中させた。
「3獣共鳴!俺三刀、風車!」
ぶああああああああああッ!!
もの凄い輝きがセプトを吹っ飛ばした。
「ふんぎゃあ!」
セプトが顔を上げると、そこには右手に赤い小刀、左手に黄色い小刀、そして、顔の前に空中に浮いたドレッドの腕が、青い小刀を掴んでいた。
「何ィ!?」
セプトは仰天した。
「これが俺ドッグ+フェザント+モンキーだ。この状況になったら、まずお前は死んだぜ。これは処罰よ。」
ドレッドは今まで見たことのない剣幕でそう言い放った。
「ガキめ!」
セプトはレーザーを放った。
「ふん!」
ドレッドは右手の小刀でレーザーを切ってしまった。
「説明が足りなかったか?俺の牙刀は全ての常識を断ち切る。」
セプトは空中から飛び掛って来た。
ドレッドは素早く空中に飛び上がり、黄色い小刀、爪刀で、セプトを地面に叩き落した。
「ぎゅあああ!」
「そして、とどめだ。俺流、俺剣術!」
右腕、左腕、空中の腕が回転し始めた。火花が散って、それはセプトめがけて落っこちてきた。
「ムダよ!避ければ何の問題もなッ…!?」
セプトは自分の身体を見て仰天した。
鎖だ!鎖がセプトの身体にまとわりついている。
「俺特製其の二、“チェーン十手”だ!並の怪力じゃあ抜け出せないぜ…。」
ドレッドはそう叫んだ。さ
っきポケットから取り出したのはコレだったのだ。
「ち、ちくしょうが!」
セプトは最後に悪態をついた。
「侍魂=俺裁きィ!!」
斬ッ!!
「やぁれやれ…。」
ゴショガワラは人間の姿でタバコを吸っていた。
ロトはガムを噛みながら本を読んでいた。
その隣で、ドレッドに包帯を巻くロクロ。
「オメェは最低で最高の上司だ。ますます気に入ったぜ。へへ♪」
「気持ち悪いんだよ!とっとと包帯巻け!」
ドレッドはロクロのスキンヘッドを引っぱたいた。
「やっぱり世界を守る力だよな…。」
近くで戦士はそう言った。
「いや…。」
戦士は別の方向を見ている。大きな傷を負って倒れるセプトがいた。
「やっぱり化け物の力だよ。」
冗談交じりに肩をすくめ、戦士は歩いて行った。
―午後11時49分 サイモンVSマウル―
「とことんバカだよな…一度は逃げれたのに、ノコノコと殺されに来やがって…。」
マウルはやれやれと肩をすくめた。
「ウン…悪かったね。」
サイモンは槍を片手で背負うように握っていた。
「俺はさ。このゲームが終わったらパズルを完成させなきゃならないんだ。10000ピース。後20ピース。」
マウルはスカーフを整え、面倒そうにそう言った。
「じゃあ、早く終わらせようよ。」
サイモンは優しくそう言った。
「じゃあ、早く殺そう。」
マウルはそう言うと、指を鳴らした。
「“ジゴス・パーク”!!」
ゴガガガガガガガガガガ!!!
サイモンの周囲に真っ黒な雷が降り注いだ。
「ウンン、あの時と全く変わっていない!」
サイモンは素早く雷をかわし、天井の隅に飛び移った。
「そこが死角だと感じ取ったか。御名答だ、№5491!」
マウルは若干楽しそうにそう叫んだ。
「その名で呼ぶな!」
サイモンは槍をマウルに向かって投げつけた。
マウルは軽く片足を上げ、回避した。
「バカすぎる。武器を捨てやがって。」
ニヤリと笑うマウルはサイモンを見上げた。
目がおかしいのだろうか。サイモンの肩に巨大な拳が見え―
ズゴォ―ン!
マウルはガイアーエイプの腕に押し潰された。
「よし!」
サイモンはガッツポーズをして、マウルの近くに降り立った。そして槍を引き抜いた。
「バカバカうるさいよ、マウル君。」
オレンジ色の腕はしっかりとマウルを押さえつけていた。わずかに見えるマウルの指はピクピクと動いている。
『どうする…すぐに拳をどけて槍で串刺しにするか?それとも、拳をどけてその場から離れてもう一撃食らわすか…?』
どちらにしろ、マウルを仕留めるのは無理難題である。
『コイツの能力紋、“ジゴス・パーク”は上空からしか狙えないが正確にターゲットを仕留められる能力だ。早い内にケリをつけるのが得策だろうな…。』
サイモンは決めた。
『前者の意見で行こうか。ウン、行こう。』
サイモンは槍を構えた。そして、拳をどけて槍を振り下ろした。
案の定マウルは無傷で、身体を横に転がせ、槍をかわした。
「ウン!」
「ジゴス…」
マウルは腕を掲げた。
「大旋風!」
地面に刺さったままの槍を回転させた。
マウルに決定打は当たらなかったものの、詠唱が終わる前に吹っ飛ばせた。
「ウン、勝てる、勝てるぞ…絶対勝てる!」
サイモンはそう言い聞かせながら走り出した。
第44章へ続く