第44章:ちょっと休もう
―3001年 3月7日 午後11時52分 サイモンVSマウル―
マウルは体制をすぐに整え、サイモンに対し臨戦態勢をとった。
「ジゴス・パーク、スネークジゴズ!」
―バチバチッ!
蛇の形状の電撃が走った。
サイモンは槍を軸にし、回転して回避した。
「ガイアー!マウルの頭上に腕伸ばして!」
ガイアーはサイモンの命令通りに腕を伸ばす。
「はずれだぞバカ者!」
マウルは笑った。笑ったのは一瞬だった。
すぐに表情がこわばり、後方に飛び退いた。
―ガラガラガラガラ!
天井が崩れ落ちた。
「危うくペシャンコだぜ。」
しりもちをついたまま、マウルはそうつぶやいた。
「バカではなさそうだな。№5491、いや…サイモン・ディベント。」
マウルは瓦礫の山から顔を出した。
「ウン?…本名を知っているとはね。」
サイモンは少し驚いた。
「名簿だよ、名簿。」
マウルは静かに笑う。そのまま右ひじを握って左手でパンチを繰り出した。
「俺はお前を少々侮っていたらしい。すまなかったよ、謝る。」
マウルは謝りながらサイモンの仮面を殴った。
「ウンン…なら、通してよ。」
サイモンは殴られた腕を握り、引き離した。
「いや、それは無理な相談だな。」
マウルはバック転をし、笑いながらサイモンを睨んだ。
「ここで通したら、ミサを助けに行くだろ?ミサは蒼の騎士団の“宝”となる存在だ。絶対に渡せないね。」
「気安くミサと呼ぶな。」
「へっ…今にその“減らず口”も聞けなくなる。」
マウルは両腕を曲げ、何かをつぶやき始めた。
「ジゴス、ジゴス、ジゴス…。」
両腕が電流に覆われた。
「メテオジゴス!」
暗黒の電流が球体になった。
「そして発狂!」
マウルの目の色が黒く変色した。
「ここからは俺の能力の真価を見せてあげよう!なんて優しいんだ俺は!!信じられない!!!」
マウルは電流の球体をぶん投げた。
「ガイアー!」
サイモンはガイアーの腕を自分の前の地面に突き刺した。
そのまま反動で身体が浮いた。球体はサイモンの真下をかっ飛んでいった。
サイモンは空中で槍を回転させたまま、マウルめがけて突っ込んでいった。
「地流、荒神災!」
土属性でもっとも威力のある技だ。マウルは瞬時で読み取ると素早く立ち上がり槍先を睨んだ。
「この技は、地面に属性力が当たらなければ意味がない。」
マウルは槍が地面に刺さる前に、槍を掴んで止めてしまった。
「ウン!!」
サイモンは仰天した。
「残念だったな…非常に惜しかった。」
「クソッ…。」
サイモンは歯ぎしりをした。
ズガァァァァァァァァ!!!!
まともに電撃を喰らってしまった。サイモンは向かい側の壁に激突した。
生身の人間だったら死んでいた。改造人間でよかった数少ない瞬間である。
「ウンンン…!!」
サイモンはゆっくりと立ち上がった。身体がすすけている。
「どうしたサイモン、俺を殴ってみろよ。」
マウルは笑顔で腕を突き出した。
「ジゴス・パーク、ヒドラジゴス!」
―バリリリリリリ!
電撃が枝分かれしてサイモンに襲ってきた。
「ウン!」
サイモンは咄嗟に身体の伝電流を槍に移し、天井に突き刺した。
電流は全てそっちに飛んでいった。
「誘電か。考えたな…。」
マウルはニヤニヤと薄ら笑いを浮かべた。
「ならば強大な電流をお見舞いしてやろう!これを防げるかな?サイモン・ディベント!!!」
マウルは両腕をクロスさせて唸りだした。
「デヴィアスパークル!!」
ズガラララララララララララララララ
サイモンは咄嗟に仮面を捨てた。
電流は誘電し、仮面を粉砕した。
「おぉ!」
マウルは驚嘆の声を上げた。サイモンは縫い傷だらけの顔でマウルを睨んだ。
「さすがは蒼の騎士団の最終兵器だ。化け物め…。」
サイモンがそうつぶやくと、マウルの表情が歪んだ。
「な、ん、だ、と?」
―バチッ!
サイモンの腕に電流が当たった。
「いでっ!」
マウルが指を差している。電流はそこから流れていた。
「俺は、高貴な、究極、人間だ!」
―バチッ!バチッ!
サイモンの胸、腹、頭に電流が当たっていく。避けきれない。
「死ねっ!下級のクソ人形!」
サイモンはマウルの電流を腕で遮った。
「なぁえ!?」
「ガイアァァァ!!」
サイモンはマウルに向かって突っ込みながらそう叫んだ。
オレンジ色の腕が突き出てマウルの顔にモロに命中した。
「あんぎゃああ!」
「喰らえ!」
サイモンはマウルの首根っこを掴み、膝蹴りを繰り出した。
「ぐふぁっ!」
こうかはばつぐんだ!
マウルは血反吐を吐いた。
「ジ、ジ、ジゴス、パーク、鯰電気!」
マウルの身体が一瞬輝いたかと思うと、大爆発した。
「ぐぅ!」
サイモンはガイアーの腕で身を守りながら飛び退いた。
「ふ、ふへへへ…。」
マウルは笑いながら両腕を掲げた。
「ジゴス・パークは…暗黒の電撃を自由に操れる力だ。お前には防げないぞ。もうその“すべ”も失ったのだからなぁ。」
マウルは器用に電撃をまるで蛇のように操り始めた。
「あれじゃあ近づけないぞ…奴を倒すには、遠距離からの攻撃しかない…!!」
サイモンはおもむろに自分の縫い傷に手を触れた。
―ブチブチ…。
糸を抜き始めた。
「いでででで。」
サイモンは呻き声を上げる。そのさまにマウルは眉をひそめた。
「気でも狂ったか?」
「ウンン、違うんだな。」
サイモンは抜き取った糸を軽くこすった。
―シャキン。
糸が針のように鋭くなった。
「毛細糸針!」
―しゅるるるるるる!
糸がくねりながらマウルの腕に刺さった。
「いいい!?」
マウルは身体を動かして必死で糸を抜こうとする。
「ムダだよ!」
サイモンは更にもう一本投げつけた。
「ジゴス・パーク!」
マウルは大声で叫んだ。
―バチバチ!!
糸が全て燃え尽きてしまった。
「糸は消えたぞ!」
マウルは笑った。
「ハァッ…ハァッ…。」
サイモンは疲れていた。毛細糸針は体力の疲労が大きい。
「エリザにも会えなくて残念だったな。」
マウルは更にそう続けて言った。
「なっ…!」
サイモンな驚愕した。
「エリザはまだここにいたのか?」
「いたどころか、お前みたいに自分の理性を保ったまま改造人間にされちまったよ。ま、その辺の組織に高く売ったし、戦争で死んだと思うがよ。」
マウルは淡々とつぶやく。
エリザが生きていた…。サイモンは震えていた。
「死んでるぜ、絶対。」
「いや、生きてる!」
サイモンは叫んだ。
「よかったよ、レッキ君を守るという事以外にやるべき事が出来た。エリザを探す事だよ。ウン!」
「へっ…。」
マウルは嘲笑した。
「させねえよ。」
マウルは両腕をクロスさせた。
「ジゴス・パーク、ジゴス地獄!」
―バチバチッ!
サイモンの背後から電気の音がした。
「…ッ!しまっ―」
バリリリリリリリリリリリ
四方八方から電流がサイモンを襲った。避け切れなかった。
サイモンは全身を真っ黒に焦がし、その場に倒れた。
「が…は…。」
ピクピクと身体が動いているだけだった。
「フ…。」
マウルは薄く笑みを浮かべた。
『エ…エリ…ザ…』
意識が遠のいていく。サイモンは血を一筋流して動かなくなった。
「ケケ、ジゴス地獄を喰らえば生きてはいられないだろう。お前もこれで終わりだな改造人間…。」
そして、踵を返して歩き出した。
「地獄でエリザとよろしくやってろ。」
「待て。」
「…。」
マウルは背後の異様な殺気に気付いた。
振り返ると、サイモンが凄い形相でマウルを睨んでいる。
「はあああああああああああ!?」
マウルは引きつった顔で叫んだ。
「フゥゥゥゥゥ」
獣のような唸り声でサイモンは顔を上げた。血走った目でマウルを見据えている。
『まだ死ねないんだ…エリザに会うためにも、そして、レッキを守るためにも…!!』
サイモンはマウルに殴りかかった。
「絶対に負けてたまるかぁ!」
「ジゴス・パ…!!」
雷を放つのが遅かった。ガイアーの腕がマウルの顔に命中した。
「ぐべぇ!」
「まだまだぁ!」
サイモンはもの凄いスピードでマウルを殴りつけた。
「ゴファァッ!こ、ゴホッ!こ、この…クソがぁ…!うがぁあああ!」
マウルは巨大な雷を放った。サイモンは素早く飛び退いた。
「なななな、何でまだ動けるんだ?あんな下級の改造人間なんかに…!!」
マウルはいよいよプライドをズタズタにされたみたいだ。
彼は飛び上がり、天井の角にへばりついた。
「俺をバカにしやがって…ゆ、ゆ、許さんぞおぉぉぉぉぉ!」
両腕を横に広げた。
「左に暗黒、右に暗黒!」
両腕から黒い雷が出てきた。マウルはそれを前に突き出し、一つに合わせた。
―バチバチッ…!
バチバチバチバチッ…!!
もの凄い電流の塊になった。サイモンはそれを見て引きつった。
「ハァッ…これは俺の最強の技だ。避けたらアジトモロとも吹っ飛ぶぜ、へへへへへ!」
イカレてるね。サイモンは奥歯を噛み締めた。
「死ねェェェェェェェ!!デッドスパークレイン!!」
ズアアアアアアン
白と黒のイナズマがサイモンめがけて飛んできた。
「やつもとうとう奥の手か…。」
サイモンは息切れをしたまま両腕を前に出した。ガイアーの腕も一緒に前に突き出た。
「では僕も…これで終わりにしよう。」
―ギチッ!
ガイアーの腕を折り曲げ、凄いスピードで突き出した。
―バッ!
電流の一つが打ち消された。
「…!!」
マウルの顔が引きつった。
「うおおおお!!」
サイモンはまだまだラッシュを止めない。
電流はどんどん消されていく。
―ギチッ!バッ!ギチッ!バッ!
「うあああっ…うあああああ!」
マウルは声を上げた。
「どんどん…相殺されっ…!!」
「でやぁ―――――ッ!」
エリザ、力を貸してくれ!!
ガイアーのラッシュは波動となり、マウルの雷撃を全て相殺してしまった。
―ズァ――――――ッ!
拳は残像を残し、もの凄い勢いでマウルに襲い掛かった。
「おい…。」
ズァ――ッ!
「うそだろ…?」
ズァ―――ッ!
「この俺が…。」
ズァ――――――ッ!
「こんな野郎にっ―」
「猿腕波動乱劇!」
ズドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド!!
「がべべぁ――――――――ッ!!?」
マウルはラッシュの波動に吹っ飛ばされた。
「が…か…」
マウルはボロボロになって落っこちてしまった。
「ハァ…ハァ…。」
サイモンはラッシュを止めてマウルを見た。
「がぁ…かか…か…。」
ピクピクと痙攣している。
「フゥ…。」
サイモンはしゃがみこんだ。
「ちょっとやりすぎたかな?…でも、仕方ないよね。ウン、仕方ない。」
そのまま仰向けに倒れた。
「ちょっと休もう。」
―午前0時9分 サイモンVSマウル サイモン勝利―
―シーク・レッキVSデスライク―
「レッキ、お前は先に行け。」
師匠は神技の構えを取りながらそう言った。
「えっ…?」
「お前はミサを助けに行け。この馬鹿野郎は俺がなんとかする。」
「でも…。」
「前に約束したよな。お前の敵は俺が必ず俺が倒すとな。」
僕は黙って下を見た。
「会話をする暇があるか、愚か者め!」
デスライクが立ち上がった。
チューブが腕や脚に生き物のように巻きついた。
「覚悟しろ!寿命と引き換えに取得したこの力で芸術品にしてくれる!」
デスライクは飛び掛って来た。
「レッキ!行けぇ―――――ッ!」
師匠が叫んだ。
僕は思わず走り出した。
「師匠、死なないでください!」
「俺が死ぬか!バカ!」
師匠はそう言いながら蹴りを右腕で受け止めた。
シークVSデスライク
「お前を殺すぞ。国家の犬!」
デスライクはニヤリと笑った。
「へっへっへ、無理だな。」
シークは笑いながらそうつぶやいた。
「何故だ?」
「…聞いて驚くな、“俺最強、お前最弱!これ自然の法則!”な、だけだ。」
「…驚いた。」
デスライクは怒りの顔を浮かべた。
「どうしようもないクソッタレだ。シーク・レット・ジャスティス。」
「お互い様だろうが、デスライク・シュバルツ。」
一触即発だ。
「どう加工されたい!?」
デスライクは左腕を出した。爪が針の様にとがっている。
「へへ、じゃあ刺青でも彫ってもらおうか!」
シークは左腕でデスライクの顔を殴った。
「ひゃっは!」
デスライクは回転しつつ体勢を立て直し、シークを見据えていた。
「くははははは!」
デスライクは指をシークに向けた。
「ブラッドアート!」
―ジュバッ!
赤い光線が飛び出て来た。
「烈硬化!騎士の盾!」
シークは左腕を縦に向けてそう詠唱した。即座に左腕は巨大な盾になった。
「最強の盾だ!」
光線は盾に当たり、妙な方向に曲がってしまった。
「くはっ!これは素晴らしい!」
デスライクは笑っている。おぞましい笑顔で笑っている。
「笑うな気色悪い…。」
シークは静かにつぶやいた。
「くはっくはっ!芸術品になれ!くはっ!なれぇ!くはっ!」
デスライクの点滴が勢いよく躍動を始めた。
「なんちゅう野郎だ…。」
シークは驚きを越えて呆れ返った。
デスライクは薬の力で筋力を増大させていた。
「シネェェェ!!」
巨大な腕でシークに殴りかかった。
シークは身体を後ろに傾け回避した。
「死なん!」
「イヤ、シネ!」
すぐに蹴りが飛んできた。
「ふっ!」
シークは殴りかかってきた腕にしがみつき、宙返りをした。
「ナニッ!?」
「神技神腕…覇王脚!」
シークは覇王脚をデスライクのどたまに押し付けた。その結果、
バリリリリリリッ!
まぁ、そうなるわけだ。
デスライクは激震と共に回転して壁に激突した。
「ひゃっはっはっは!」
デスライクは笑っていた。まだ笑っていた。
「やかましい、ムカツク野郎だぜ!」
シークは怒鳴った。デスライクはピタリと笑うのをやめた。
「…?」
シークは身構えた。コイツ、何かしようとしている。
「…。」
「…きょ」
「…!?」
「狂気の波長!」
デスライクの身体から波長らしきものが発射された。
「ぐわぁ―――――ッ!」
シークは突然の攻撃に吹っ飛ばされた。
「くはっ…くははははははははは!」
デスライクは笑いながら倒れたシークの喉元めがけて襲い掛かった。
第45章へ続く