第45章:あまくねぇ戦い
―3001年 3月8日 午前0時12分 ロゼオVSエイプル―
そもそも死神ってのはギガ無敵な人種なんだ。
親父は幼かった俺にそう教えてくれた。
「でも、死神って弱体化してきてんだろ?」
そう問い掛けた俺に親父はゲンコツで諌めた。
「馬鹿野郎。死神はいつまでもメガ無敵なんだよ!」
うそつけ。
俺は突然突進して来たエイプルに串刺しにされていた。
「ゴハッ…。」
「オデ、強いなぁ…。」
エイプルはニヤリと笑みを浮かべた。
「この野郎…。」
俺は鎌を振り上げた。
「死ねっ!」
エイプルの頭に鎌を突き刺した。
「うぐっ!」
エイプルはうめいた。今のうちだ…すぐに角を引き抜き、飛び退いた。
「オデの相手になりもしねぇ。」
エイプルは傷を撫でていた。瞬時に傷は治癒された。
「死神の治癒能力よりも便利だド。リカバリー。」
「ギガうぜぇ!」
俺は血走った目でエイプルを睨んだ。
「どうする?お互い再生能力を持っデいる同志だ。けりがつくとお思いかダ?」
「じゃあ白旗揚げろ。」
俺は身体を回転させた。
「ブッ殺斬撃!」
エイプルの脳天めがけて斬撃を発射する。
「オデを斬るきガ?」
エイプルは両腕を地に押し付け、まるで闘牛みたいだ。
「ロデオドライブ!」
―ずがががががががががががががが。
エイプルはロゼオめがけて突進してきた。
―バチッ…
斬撃も破壊されてしまった。
「メガッ!」
ロゼオは素早くエイプルの背中に両手をつき、前に回転した。
エイプルはそのまま壁を木っ端微塵にした。
「あばばばばば!ロデオとロゼオ、あばば、似デるなぁ!」
笑えない冗談だぜ。
―ずがががががががががががががが。
エイプルがまた突進してきた。
「あば!いつまデも終わらデぇ!エンドレヅ!無限ループ!あばばば!」
ソイツは発狂していた。
「ひき殺してバる、剣で刺されてたバるか。赤マントなんて振り回してビろ、食いちぎってバる!」
エイプルはよだれをまき散らしながら猛獣のように四本足で近づいて来た。
「どうなってやがる!」
野郎は俺の理解を超えてやがる。
「ロデオドライブ!」
また突進してきやがった!
俺は横に飛び、回避した。かにみえた。エイプルは直角に方向転換して俺の横腹に頭突きを決め込んだ。
「ぎゃぼっ!」
「あばばば!」
エイプルは笑った。
「おバえボぶち殺すド!あば、あば、あばぁ!」
メリメリ、肋骨が砕けた。内臓が破裂した。畜生、ムカツキまくる!
「デッドハンド!」
俺はデッドハンドを繰り出し、エイプルをぶっ放した。
「ぐぎゃっ!」
エイプルは壁に激突したが、すぐに突進の体勢に戻り襲ってきた。数秒もしない内に俺は血まみれになっていた。
「デッドハンド、地獄門!」
早く決着をつけるために、俺は最強の技を発動することにした。
俺の目の前に巨大な地獄門が現れた。どうなるかは、これからのおたのしみだ。
「地獄行きだ。オメガ覚悟しな!」
―バンッ!
扉が開かれた。中身は暗闇。
「ガ!?」
―キキィ――――ッ!
エイプルはブレーキをかけた。
「ギガあまいぜ!」
俺は扉を乗り越え、エイプルの背中に降り立ち扉の中に叩き込んだ。
「おぼぁ!」
「そして、大爆発♪ギガ、クールだぜ。」
ズガァ――――――――――ン!!
扉は大爆発した。
「俺様、かなりクールじゃね?」
俺はアメの棒を吐き捨てた。
「血属性。」
野太い声が突如響く。俺の血液がメガ逆流したのは言うまでもない。
「血属性は体内の血液を凝縮させて金属に変え、武器にする事ができる。オデの大嫌いな力だド。」
砂煙の中からエイプルが現れた。眉間にシワが寄っている。ギガ怒らせちまっただけか。
「八つ裂き決定。あばばばば!」
エイプルの前足が牛のようなヒヅメと化した。
「ロデオドライブ、デス・ハイウェイ!」
エイプルはそう叫―
ガスッ!
―んだ。天井が見える。俺の目の前に天井が見える。
俺は浮いていた。張り裂けそうなほどの激痛と共に。
―ドサッ!
俺は鈍い音と一緒に地面に降り立った。
やっと理解できた。俺はエイプルに跳ねられたんだ。
「立てよ、まだ終わってないド?」
エイプルが歩いてきた。
「ミサを助けに来たんだろ?あの時の勢いはどうしダ?」
頭を掴まれ、俺は再び宙に浮いた。
「あばばばば!」
エイプルはヒヅメの前足で俺を殴った。歯が面白いほど吹っ飛んだ。
「オデは12MONTH最強の腕力を持つ男だド!相手が凄く悪かったのだ!あば、悪かったのだ!」
エイプルは俺を壁に投げつけた。
「畜生…どうなってやがる。アイツは自分のヒヅメをバネに突進してやがるのか…。」
しかしとんでもない衝撃だ。スピードも半端ない。開戦してから数分もしない内に致命傷を5つも負っちまったし。
「おバえはここで死ぬんだ。あばばばば!」
エイプルは何度も俺の脇腹を蹴りまくる。
「いってぇんだよ!!」
俺の怒りはいよいよ頂点に達した。
「死導流・ブッ殺斬撃、2連!!」
―ザンッ!ザンッ!
赤黒い斬撃を放った。一発目は当たった。
エイプルは苦痛に顔を歪ませた。二発目は回避された。
「ギガ、ブラッドアート!」
両腕を巨大な女神像に変え、俺はエイプルに突進する。
「あばばば!俺と対決したいのか!?」
ああそうだ!お前と決着をつける!俺の全力の一撃だ、喰らえ!
―ずあぁぁぁぁ!!
息をつく暇もない。俺とエイプルは、目と鼻の先だった。
「“地獄的・最後の審判”!」
「“デッド・ドライヴ”!」
ドガッ!
「…ッ!」
俺でもわかる。負けた。俺は腹に大穴を開けて、エイプルの後ろ脚を見送っていた。
「あばばばばば!」
エイプルの野獣の咆哮も、もはや聞こえない。
「ガハッ…。」
やっぱダメだ。俺は勝てなかった。まぶたが重い。ダメだ。閉じたら間違い無く死ぬ…。
でも、やっぱ、やっぱダメだ。死神はメガ弱い一族だったんだ。意識も遠のいてきた。さすがの死神もこんなでかい傷はギガ治癒できないってか?
「俺の方が無敵だったらしいダ?あばばばばば!」
エイプルの笑い声が最後に響き、そして、まぶたは閉じた。
へぇ…死神にも走馬灯ってのはあんのか、俺の思い出がギガトン駆け巡ってやがる。
10年前
死神の集落は北方の渓谷の狭間に存在する。もともと俺は死神の中でも成長は遅い落ちこぼれだった。
血属性魔法も修得するのに通常の倍練習したし、なにより、人を殺すのが怖かった。
「お前は死神の皮をかぶったチキン野郎だ!」
「救いようがないな、お前の親もうんざりしているだろうな。」
周囲からはいつも罵声の雨だ。もう慣れたがな。
満月の夜。家に帰ると、親父がゲンコツを振り上げている。
―ゴンッ!
「あでっ!」
「お前はまたギガ暗い顔しやがって、それでも俺様の息子様か!?」
「ああ、息子様だよ。」
適当に返して、俺は屋根に登った。
「あ~あ、なんで俺はこんなに出来が悪いんだろうな。」
月を見ながらメガチビ俺はつぶやいた。涙が流れる。
「知るか!」
親父が横に座り込んだ。
「いいか?お前のそんなメガ情けない姿、天国の母ちゃんが見たらメガ泣くぞ?」
「死神族は全員地獄に行くんじゃなかったのか?」
「母ちゃんは例外なんだよ。」
アホくさい。親父はいつもこんなテンションだった。
「俺、自立したら死神やめるよ。地獄行きも嫌だし、人殺しも嫌だ…こんな事、本当はやりたくもないんだ。」
俺はそれだけ言うと黙り込んでうつむいた。かわいいお子様とは程遠い。
「ロゼオ…。」
親父は目を細めた。
「うるさい!死神やれ!」
えぇ――ッ!?親父は肩に手をポンと乗せる。
「なんで強制的なんだよ!」
「死神族のしきたりだからだ!」
親父はアメを差し出した。
「アメ!」
幼い俺はすぐに飛びついた。今でも飛びつくかもしれんが。
「お前は少し勘違いをしているんだ。わかるか?」
「なんだよ。」
「死神は人殺しをする生き物じゃない。人を守る生き物だ。」
「ハァ?矛盾してるぞ!」
「矛盾じゃねえ。俺達が殺しているのは悪事を働く人間ばかりだ。悪い事をする人間を葬り、人々を守るんだ。違うか?ロゼオ。」
幼い俺は黙っていた。
言ってる意味は今すぐにはわからなかったが、親父の活き活きとした笑顔に圧倒され、無理やり納得した。
『ザザ…』
…ん?ノイズが激しくなってきた。場面が変わる…!!
ザザッ!
親父が蒼白な表情で一点を見つめていた。
「ゲドォ…。」
そこにいたのは真っ黒な怪物だった。
「親父!親父!」
俺は必死で親父の身体を揺さぶっていた。
「ロゼオ…相手が悪すぎた。コイツは十二凶の一人だ。化け物だ。」
親父はニヤニヤと笑いながら血反吐を吐いた。
「治癒が追いつかねぇ…こりゃあ…死ぬな。」
ゲドウがこっちに来た。
「か~わいいねぇ~♪お子様がいたのかい?デスロウド・デッドロード。」
「俺の息子に手を出すな…。」
親父は鎌を向けた。
「…わかった♪」
ザンッ!
親父の両腕が吹っ飛んだ。
「うぎゃああああああ!!」
親父は絶叫した。
「ぎゃあああははははははは!!!」
ゲドウは笑いながら、消え去った。
『ザザッ…』
「親父…しっかりしてくれよぉ…。」
「ロゼオ、前にも言ったよな、お前は死神になれ。正義の死神になれ、優しい死神になれ……俺の自慢の息子に…な…れ……」
親父は動かなくなった。
「親父…うぁあああああああああ!!」
幼い俺は泣き叫んだ。
「正義の死神」
「俺は正義の死神になる!!」
メガトン勢いよく立ち上がった俺様、
「俺は…負けねぇ…絶対に、ギガ負けねぇ…!!」
まだまだライブは終わらねぇ!
「あば!?」
エイプルが飛び上がったのが見えた。視力も回復したか。
―ポタッ…
血がギガ滴り落ちる。どうでもいいがな。
「お前を倒す方法を、メガ天才的な俺様は思いついたぞ。」
血まみれの顔を拭きながら、エイプルに向かって指を向ける。
「ば!?あばばばばぁ!無理だぁ!オデは無敵だ!リカバリー能力を最も鍛えている男であるし、力勝負もオデの方が上だド。」
「確かにそうだな。“できちまった傷は、すぐに、簡単に、癒えてしまう”んだよな。」
そう、“傷ができたらすぐに治癒できる”能力だ。
「なんの自信だ、てベェェェェェ!!!」
―ずががががががががががが!!
エイプルが突進してきた。
「来い…来い……」
俺はしっかりとエイプルを睨んだ。今じゃない…もっと、ひきつけて…
「今だ!」
俺は両腕を左右に広げ、カギ爪のように変形させた。
「“デッドハンズ・ジャッカル”!」
―ガシッ!
エイプルの鋭い角は目の前で黒く光っていた。なんとかせき止められたらしい。
「あばぁ!?よくとめやバったな!」
エイプルは唸りだした。
「あば、ば、あばばばば!」
凄い力だぜ!俺は素早く鎌を取り出し、エイプルの背中に突き刺した。
「あばぁ――――っ!」
エイプルは悲鳴をあげながら一層暴れまくる。
「これだけじゃねえ!鈎針鎌!」
両腰に取り付けられた小型の鉄の棒を二本取り出した。
―シャキン!
カギのついた鋭い鎌になった。
「でやぁ!」
―グサッ!グサッ!
二本とも背中に突き刺す。
「うごぉ!」
エイプルは鎌を抜こうとした。しかし、カギがひっかかって抜けない。そういう武器なんだよ。
「傷が出来たな。」
「ち、ちグしょう!こんな、こんなもの…。」
エイプルは暴れている。背中を壁にこすりつけたり、大声で叫びながら壁に突っ込んだり、どれにしろ、俺の鎌は抜けない。
「俺は死なない、死神だからな。」
俺はそうつぶやいた。
「俺は悪魔じゃない。弱い者を守る、正義の死神だ。親父のような死神に俺はなる。だから俺はまだ死ねない。わかるか?牛野郎。」
エイプルは聞く耳持たない。ま、いいがな。
「スゥ……………。」
精神を集中させる。血属性を両腕に溜める。デッドハンドじゃない。デッドアートでもない。
「……………。」
呼吸を止めた。
『ブラッド×クロス、発動!』
両腕がメガ輝いた。そう、俺様のギガトン最高な演出により、エイプルは壮絶な最期をオメガ、遂げるのだ。
「あばぁ!?」
さすがのエイプルも気付いた。だがな、すべてが手遅れだ。お前はここで正義とは程遠い鉄槌を受ける事になる。
「あばぁ!何をするつボりだてめ―」
ツ―――――
「ん?」
ツ――――――
「血が!?」
ツ―――――――
「あばばばばぁ!?」
エイプルの背中、カギのついた鎌が突き刺された位置から、いくつもの血が流れ出てくる、血は、真っ直ぐに俺の腕に吸い込まれていく。
「ブラッド×クロスは、相手の傷口から血液をギガ吸い取る。血がメガなくなるまで、永久に吸い込み続ける。理解できたな?牛野郎。」
「あばばばばばばばばばばばばばばばぁぁぁぁぁ!?」
ツ――――――
血は、
ツ―――――――
どんどん、
ツ――――――――
流れ出る。
ツ―――――――――――――――――――――――――――――
「あばっ!あばっ!」
エイプルは慌てて傷をふさごうとする。しかし、背中に腕が届かない。
「あばぁぁぁ!!やめろぉ!俺はまだ人を満足できるほど殺してねぇんだぁぁぁ!!やめろぉ!人間を殺したいんだぁぁぁ!」
エイプルは痩せ細りながら叫んだ。
「救いようのない牛野郎め。」
俺は哀れみの眼差しをした。
「生まれ変わって出直せ。」
俺がそう言い終える内に、エイプルはミイラとなって事切れた。
「正義の死神か。」
俺はエイプルを見た。カラカラになったエイプルは風化していた。
「程遠いな。くそったれ。」
俺は開かれた扉から、ミサの元へと向かった。
ミサ、おとなしく待ってろや。俺達が助けてやる。特に俺様がギガ正義的に、劇的に助けてやる。なんせ俺は正義の死神だからな。
―午前0時30分 ロゼオVSエイプル ロゼオ勝利―
長い通路だった。奥に光が見える。
「…。」
この先にはミサがいるのか?それとも・・・僕はゆっくりと歩き続ける。
???
通路を抜けると、そこには化学機材が置かれた部屋があった。ミサはいない。
「ミサはどこなんだ…。」
「この更に奥の化学実験室だ。」
突然声がした。上を見ると、レインが笑っていた。
「レイン…!!」
「はっはっは、父もお優しい♪君をわざと逃がしてくれたんだね?ボクと戦わせるために!」
腕組みをしたまま、レインは静かな笑みを浮かべていた。
「違う、師匠が助けてくれたんだ。」
僕はそう訂正させた。
「なぁんだ…。」
レインは目を細める。無表情になった。
「ボクと…決戦だ。君は、家族のかたきを討つために、ボクは父の野望を叶えるために、お互い背負うものがあるわけだ。」
「そうだね、でも勝つのは僕だ。」
「いや、ボクだ。」
両者は5秒間にらみ合った。
「…狂気が渦巻く。」
レインが口を開いた。
「今のボクは、最強なんだろうなぁ…。」
何を言っているんだコイツ。
「“自信過剰”って言葉を知ってるか?レイン・シュバルツ。」
レインは嬉しそうな顔をした。
「ああ、知ってるとも!…でもね、ボクは理論的に本当に強いんだ。レッキ・K・ジュ―ド。」
虫唾が走った。
「その名で呼ぶな、兄さんの名前から知ったんだろ。」
「ふっふっふっふっふっふ…そうだね♪」
会話の一言一言に威圧がこもっている。
「やっぱりその目つき、気に食わないな。その、正義に満ちた目つきが。」
レインは表情を変えた。狂気に満ちたおぞましい笑顔だった。
「分解してやる。」
レッキVSレイン
第46章へ続く