top of page

第47章:報復者再来

―3001年 3月7日 午前0時32分 グランマウンテン バリケード前―

二人の存在にいち早く気付いたのはドレッドだった。向こう側から歩いてくる強大な力に即座に反応した。

「御苦労様です!スチル殿!アリシア殿!」

素早く立ち上がり、ビシッと敬礼を決め込んだ。さすがの二人もこれには少し驚いた。

「うむ、御苦労だったな。ドレッド。」

スチルは軽い素振りで敬礼をした。

「闇人はどれだけ倒したわけ?」

アリシアが上空を眺めながら問い掛けた。

「はい、59体です。あっ…!今ので63体になりましたね。」

4体の闇人が墜落するのを確認しながらドレッドは答えた。

「12MONTH№12、ディス・クローズの死体を確認した。お前が倒したのか?」
「いえ、俺が倒したのはセプトっつー女です。ほら、あそこの。一応殺してません。」

ドレッドは木の根元で縛り付けられているセプトを指差す。白目を剥いていた。

「さすがはリクヤの部下だ。」

スチルがセプトを見ながらつぶやいた。

「いやぁっ…ははははは―」
「…ってことはディスはレッキ達が倒したのか?」

ドレッドはその言葉を聞いた瞬間、髪が逆立った。

「なっなっ…なんだぁとぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!?」
「…どうした?」
「あの金髪一行なんかを活躍させちゃいけませんよ!スチル殿!今すぐ抹殺してきてください!」
「御免こうむる。」

ドレッドはどこまでレッキを恨んでいるのであろうか。スチルは気になって夜も眠れない。

「ところで、援軍はお二人だけですか?」

ドレッドは不安そうに聞いてきた。

「そうよ、ドン・グランパは、アタシとスチルとシークだけで充分だって言ってたわ。」
「相手は国家を揺るがす蒼の騎士団だと言うのに、呑気なお方だ。」

スチルは呆れ顔で付け足した。その後、

「それとも俺達だけじゃ役不足か?」

わざとらしい怒り顔をした。

「え?…いや、はは…」

ドレッドは青ざめ、後ずさりをした。

「ガオー!」

スチルが叫んだ。

「うぉあっ!」

ドレッドは逃げ出して行った。

「はっはっは。ガキめ。笑える反応をしやがる。」
「スチル、あんなカワイイ子いじめちゃダメよ。」

アリシアは仏頂面だ。

「まったく、アンタって昔からずっと変わらないんだから、子供みたい。」

スチルは肩をすくめた。

「フン、ばかばかしい。」

アンタも昔から変わらず野蛮女ではないか。と、言おうとしたが、後の展開を予想し止めた。

―午前0時38分 崖の上―

崖の上には別の人間達がいた。双子の12MONTH、ジュンとジュラである。

「ディス君死んじゃったね。」
「ね。」
「オクト君も死んじゃったね。」
「ね。」

ジュンが喋るとジュラは小さく後からつぶやく。

「あら、セプトちゃんまでも。12MONTHも名折れよね、ジュラ。」
「よね。」

静かな会話は続く。

「見て、オーガよ。」
「よ?」
「あそこあそこ、あの樹木の陰に隠れてるわ。」
「わ。」



「HEY!ジュンとジュラじゃないか!相変わらずちっこいねぇ!」

キラリ!彼の歯が輝く。
オーガは生きていた。頭だけで。首元には、タコのような脚が生えていて、それで動いていた。

「これぞ能力紋、“リザードテイル”!後数十分で再生するから待ってておくれよ!」

キラリ!彼の歯が輝く。

「わかった。」
「た。」

ジュンとジュラが座り込んだとき、処罰機関の戦士が3人を見つけた。

「あっ!敵だ!」

戦士は慌てて銃を構えた。

「能力紋、“プラマイズマ”」
「“マ”」

二人が唱えると、戦士の両脇を電流が走った。

「ぐぎゃあっ!」

戦士は回転して木に激突した。

「HAHAHA!雑魚人間め!優性の人間の力を思い知れ!」

キラリ!彼の歯が輝く。オーガは上半身まで再生していた。
両腕で戦士の元まで走り、銃器を拾った。

「死んでしまえ!」

キラリ!彼の歯が輝く。

「く、くそぉ…!!」

戦士が目を閉じた時、何かが飛んできた。

―ザクッ!

「あでっ!」

オーガは叫んだ。腕に飛んできたのは“クナイ”であった。深々と刺さっている。

「WHO?」

オーガは周囲を見回す。

「そこ。」
「こ。」

ジュンとジュラが指差した。そこには、アリシアが冷たい目で3人を睨んでいた。

「弱い者いじめ?勘弁してよね。」

その片手には鋭いクナイが4本握られていた。

「早く逃げなさい。」
「す、すいません!」

戦士はよろめきながら逃げて行った。

「“忍”か…っ!」

オーガは血走った目つきでアリシアを睨み返した。

「忍、ね。いい線いってるけど違うんだなぁ。アタシはチームパンドラの一員、アリシア・ゴットハンドよ。」
「チームパンドラだと?ホッホォ!!これはいい“GIRL”だ!気に入った!ワタシがコレクションにしてやる!この美しい肉体と美しい笑顔を持つオーガがなぁ!」

下半身も再生したオーガはアリシアの首元めがけて襲い掛かった。アリシアは両腕の小手でそれを受け止める。

「WHY!?ワタシの攻撃を受け止めるなんて!」
「うふふ、狼みたいな男、嫌いじゃないよ。」

そして、下の方に目を向ける。目を細め、笑い出した。

「ふふふふ、いやだわぁ、それでも男なの?」

オーガは激怒した。

「なっなっ…ワ、ワタシを愚弄したな!?」
「シークの方がず―――――――――――――――――――――――――――っと色男よ。あんたの50億倍はかっこいいわ。わかるかしら、彼の素顔を見た事あるわけ?」

アリシアは呆れた顔でオーガを挑発する。

「やかましい!!ぶっ殺す!」

オーガはうなり始めた。

「発狂+リザードモード!」

―ヴンッ!

オーガは巨大なトカゲ男に変身した。全身鱗だらけで、目は金色に輝いている。

「HAHAHAHA!食い殺してやる!」
「ステキ♪さっきより男前になったわ!」

アリシアはトカゲの顔を見上げながら笑った。

「こ、このぉ…!!」

凄まじい勢いで拳が降り注がれる。

「リザードフルレイン!」

―だだだだだだだだだだだだだだだだ…!!

素早く、強烈な打撃がアリシアを襲う。が、アリシアは一つ一つを回避しつつ、オーガの胸元に進んでいく。

「雷帝、クロス!」

両腕をクロスの字に組み、大きく振り下ろした。

―バチッ!!

クロス型の電撃がオーガの腹に十字型の模様を作った。

「ぐげぇっ!」
「アンタには特別にアタシの技のフルコースを振る舞ってあげる。」

アリシアは側転をし、オーガの両腰を掴んだ。

「まっまさか…!!」

オーガは引きつった。アリシアはオーガを持ち上げたのだ。何百キロもある巨体を。

「そぉれっ!」

空中にぶん投げてしまった。

「うぎゃああああああああ!!」

オーガはじたばたしている。しかし空中では自由がきかない。

「雷帝…ショック!!」

アリシアは白い電撃と共に飛び上がった。そして、前に回転しだす。

―ダンッ!!

オーガの頭に電撃のこもったかかと落としが決まる。

「ぐげぇっ!ち、ちくしょおおお!」

オーガはすぐに向き直ろうとした。しかし、

「あら、まだまだこれからよ?」

―ダンッ!!

2発目だ。

「まだまだまだまだ!!」

―ダンッ!ダンッ!ダンッ!ダンッ!ダンッダンッダンッダッダッダッダッダダダダダダダダ!!!!

スピードがどんどん跳ね上がる!!

「うげっうげっ!ひげっあげっ!やっやめ―」
「雷帝・ソルトスピン!!」



ギュイイイイイイイイイイイイイイインンンン!!


オーガの頭がまるで電動ノコギリみたいなアリシアの脚に削り取られた。

「頭さえ破壊すればいいんでしょ?雑魚はどっちかしら。」

もう絶命しているオーガにアリシアは笑顔で話し掛ける。
そして、アリシアは最後の一撃でオーガを地面に叩き落した。


「マズイわね。」
「ね。」

ジュンとジュラはこそこそとその場から離れようとしている。

「私達は逃げましょ。」
「しょ。」
「いや、逃がさん。ああ、逃がさんとも。」

スチルが双子の行く手を阻んだ。

「あ!」
「あ。」

二人は目を丸くした。

「全く…こんなガキ共まで敵の仲間だとは…胸が痛むぞ。何故か教えてやろうか?俺はガキを指導する役割だからだ。」
「うるさい、どけオッサン!」
「オッサン!」

ジュンとジュラは鋭くとがった爪を向けた。その光景に27歳のオッサンは呆れ顔を作った。

「悪い言葉だ。そして悪い子だ。礼儀というものを教える必要があるみたいだな。」

スチルは両腕を器用に交差させた。

「コンバット=レイザー」

―シュバッ!

スチルの両腕に巨大な銃器が装備された。

「さぁ~て、俺様が指導してやる。景気よく許しまくるぞ。」
「ほざけ!」
「け!」

ジュンが爪でスチルの首を切り裂いた。

「あらあら。」

アリシアは笑った。

「どう?わたしの爪の味はいかが?」
「が?」

ジュンはスチルを見つめた。

「…味?フン、不味いな。」

何食わぬ顔でスチルは自分を見つめ返している。

「え?」
「え?」

双子は凍りついた。手ごたえはあった。確かに首筋を切り裂いたはずだった。血液の一筋くらい流れてもいいくらいだ。

「驚いているようだな…俺の身体からの出血はお上が許しても俺が許さん。」

スチルの首筋は銀色に輝いていた。まるでスチールのように。
ジュンは自分の指の痛みに気付き、目を移した。爪が全て折れてしまっている。

「クッ…能力者か…ッ!」
「ッ!」
「やっと気付いたか愚か者め。俺の能力、“コンバット”は身体を軍用兵器に変換させる力だ。」

スチルの丁寧な説明に双子は目を細めた。

「コンバット…『鉄身のスチル』か、貴様!」
「貴様!」
「やれやれ、ようやく理解できたか、ガキ共。」

スチルはやれやれと肩をすくめる。

「では始めるぞ。」

―シュッ!

スチルの姿が消えた。

「えぇ!?」
「ぇ!?」

―バチッ!

ジュンが吹っ飛ばされた。スチルが鋼鉄製の腕を振るっていた。ジュンは樹木に叩きつけられる。

「ぐげっ!!」
「げっ!…ジュン!!」

ジュラが仰天した。ジュンは失神してしまった。

「ガキは弱いな。まあいいか、まず一人だ。次。」

スチルはまだ姿をくらました。

「…!!」

ジュラは素早くマントを脱ぎ捨てた。赤い鎧だった。

「プラマイズマ・バリア!」

―バッ!!

ジュラの身体全体が電気のオーラに包まれる。

「ム。」

スチルはすぐさま飛び退いた。あやうく黒こげである。

「面倒だな。コンバット=タンク。」

スチルの身体が戦車に変形した。

「一掃。」

―ダダダンッ!

数弾の砲弾が発射された。

「プラマイズマ・ランス」

―シュバッ!シュバッシュバッ!

砲弾を全て破壊された。

「プラマイズマ・ファイナル!」

―ズァ―――――――ッ!

ものすごい電流がスチルを襲う。

「これはいかんな。アリシア、離れていろ。」
「はいはい。」

スチルは地面に拳をおしつけた。


「コンバット=“武装要塞シリウス・ノート”」


―がががががががががががががががががががが!!

スチルの身体を鋼鉄が包んでいく。

―ばりりりりりりりりっ!

電流はスチルを通り過ぎていった。

「礼儀知らずなガキ共に、制裁を。」

スチルは砲台だらけの奇妙な身体になった。
見た目は武装した騎士みたいだが、両目は青く光り、脚も戦車の車輪のようなものになっていた。

「プラマイ…ッ!」
「一斉放射。」

―チュドーン!バババババババ!!ズゴゴゴ!どかーん!バキバキ!!

ジュラは砲弾の雨をまともに喰らい、どこかに飛んでいってしまった。

「お粗末さまでした。」

スチルは元通りになっていた。

「スチル、今ジュラが数百メートルで先発見されたそうよ。」
「おやおや、少々大人気なかったかな?どうだった?」
「なんとか生きてた。」
「いいニュースだ。年下を殺すのは割に合わんからな。」


一方、別の場所では


軍兵達は銃器を持ち、その男を見つけていた。

「ヒィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィイ!!!!」

悲鳴をあげた。見覚えがあるらしい。

「ご無沙汰だな。てめぇら。」

ソイツは静かに喋った。

「曲がり死ね。」

―ベキゴキブキバキ…

軍兵達が曲がり始めた。

「逃げろぉぉぉぉぉぉぉ!!俺達じゃ手に負えねぇぇぇ!!」

慌ててみんな逃げ出した。

「もちろん、逃がさないぞ。これは報復だ。」

―バキッ!

軍兵の首を折りながらソイツは言った。その背後に軍兵が襲いかかってきた。

「し、死ねぇ!」

男は腕を素早く掲げた。しかし、その軍兵が曲がる前に、赤毛の男が切り裂いてしまった。

「テメェも軍兵か!?」

赤毛は十手を差し向けた。

「違う違う。見ろ、俺は正常だ。軍兵はみんな正常な瞳孔じゃねえだろ?」

男は自分の瞳孔を赤毛の男に見せた。

「じゃあ、誰だ?お前…」
「俺は、」

男が口を開いたその時、

「うひぇひぇひぇひぇえええええええ!!」

軍兵が爆薬を身体に付け、突進してきた。

「がっ!」
「クソが…」



ドガァァァァァァァァァァァァン!!


一方、クリスは…


数十分前


―0時10分 クリスVSメイ―

クリスは倒れていた。血まみれの姿で。その前には、同じく血まみれのメイが立っていた。
引きつった笑みを浮かべたまま、クリスを見下ろしている。

「ハァ…ハァ…」

クリスは苦しそうに呼吸をしている。

「自分は…自分は…まだ死にたくないッス。」


更に数時間と数十分前


―午後11時42分―

メイの姿は滑稽だった。桃色の髪は後ろで結び、一つ一つに細かいリングを結び付けている。服装はオレンジ色の服で、胸元は大きく開けてある。そして腰には彼女の身長より長い刀がくくりつけられていた。

「アタシの恐怖を思い知らせてやるわ。」
「さぁてできるかな?」

クリスは暗器を向けた。

「できるから言ってるのよ。」

メイは軽く刀を抜き取った。

「アタシに能力紋はないわ。あるのは卓越した剣術。これだけでアタシは№5までのし上がったの。」

嬉しそうに彼女は叫んだ。

「発狂はするけどね!!」

彼女の目つきが鋭くなった。

「はなから飛ばしていくわよ!!」

クリスの首元めがけて飛んで来た。

「風・解!白虎邁進!」

刀をかわし、クリスはしゃがんだ体勢でメイの腹に手を押し付けた。すぐさま竜巻が発生し、メイは空中に浮く。

「あっ!」
「サクラフブキ!」

―ばばばばばばばば!!

花びらのような斬撃をクリスは発動する。
竜巻を解除されたメイは目を丸くした。

「ふん!」

メイは高速で斬撃をかわしていく。

「月食謳歌!」

真っ黒な斬撃だ。クリスは後ろに飛び、

「シェルア・エアリフレ・ドーム!」

風の障壁を作り上げた。しかし、そんなチンケなものでなんとかできる斬撃ではなかった。

―ズゴォッ!

障壁は破壊され、クリスは吹っ飛んだ。

「ゴファッ!」

クリスは血反吐を吐いた。彼女の腹には斬撃の後が残っていた。
あと少しガードが遅かったら死んでいただろう。

「あはははは♪さすがは国家の“捨て駒”ね☆やるじゃないの。」
「ははっ!」

クリスは笑顔を作った。

「十戒斬り!」

海をも切り裂くこの剣術ならば!クリスはそう考え、斬撃を放つ。

「聖書の軌跡を現す技ね!?でもアタシに軌跡が通じるかしら?効かないんだから☆」

メイは笑いながらもう片方の刀も抜き、クロスさせる。十戒斬りはメイの刀にモロに命中した。

「ぐっ…ぐぎぎぎぎぎぎぎぎ!!」

メイは唸った。十戒斬りは勢いをなくさない。

「よし…」

クリスはメイの後方まで走り出した。

「うぐっ!?しまった!!」

メイは後方で剣を構えるクリスに気付く。しかしとき既に遅しだ。

「タルビート流、暗器剣術!“桜浪気横町(さくらなみきよこちょう)”!!」

―ズザァン!!

もの凄い轟音が響き、膨大な容量のサクラフブキ斬撃が発射された。

「おのれぇ!!」

メイは唸った。クリスは勝利を確信した。しかし、

「んっ!?」

すぐに別の殺気に気付いた。メイの他に…何かが、いる!?
クリスは顔を後ろに向けた。そこには、ゴッツく巨大な男がいた。体型だけだと外でみたオクトといい勝負だ。迷彩柄の服に鉄製のヘルメットをかぶっている。表情はこれまたゴツイ。眉毛はなく、真っ赤な鋭い目がしっかりとクリスを捉えていた。

「…ッ!!」

新手か…ッ!



ズガァン!!


メイが斬撃を喰らった音だ。

「…誰スか?」

クリスは警戒しながら質問する。

「俺の名はコマンドウ・ジェクトだ。蒼の騎士団の騎士隊長だ。最後のな。」

ゴツイ声だ。クリスの理想系である。

「騎士隊長…ノアと同じ階級ッスか。」
「…そうだな。」

メイが呻き声を上げている。まだ生きている。

「メイ、生きてるのか。」
「クッ…!!」

攻撃態勢をとらなければ…しかし、

「俺も参加していいのか?このゲームに。」
「…勘弁ッス。」

この場でメイの方に目を向ければ間違い無くこの男は自分を狙う。しかし、

「フゥゥゥゥゥゥゥ!!」

メイは闘志を剥き出しにしている。まともに見ずともわかった。クリスの細い首を狙っている。
すぐに体勢を立て直さなければ…でも…じゃあ、コマンドウの方はどうする?どうする!?どうする!!?
クリスは焦りを感じていた。滝のような冷や汗が流れだす。


第48章へ続く

bottom of page