第46章:キッチリカッチリ
―3001年 午前0時5分 センネンVSフェブ―
「キッチリカッチリ勝負をつけよう。」
フェブはつぶやいた。
「俺は何事もキッチリしないと気がすまないんだよ。うん、そういう性分なのさ。きっとそうだ。」
「御託はよい、始めるぞ。」
「…君はせっかちだねぇ。」
フェブはニンマリと笑みを浮かべた。
「言われなくても…さ、始めようか♪」
右手の甲を向けてクイクイッ…挑発している。だが、自称、1017歳のセンネンにガキの挑発は効かないのだ。
―ドゴッ!
案の定、センネンはフェブの腹に下からパンチを決め込んだ。
「ごぼ!?」
「若僧は油断をすぐにしよる。」
センネンは目を細めて笑顔でそう言った。
「このぉ!!」
フェブは素早く回し蹴りをしかけた。センネンは軽く脚を曲げて回避し、フェブの軸足のすねを強く蹴った。
「ぎゃっぴぃっ!?」
―じ~ん…
これは痛い。
「にゃははは♪」
センネンは子供みたいな顔で楽しそうに笑っている。
「こ、この、俺が手加減してやってるからいいものを!」
「よく言うものじゃ、鳩が豆鉄砲を喰らってるような顔をしておるくせに。」
センネンの言葉にフェブは笑みを浮かべた。
「へ、へへ…驚いた、か。確かに君の弱っちい姿には驚かされた。」
「どういう意味じゃ?」
「君は弱いって意味だよ。単純な事じゃないか―」
―シュバッ!
フェブの顔直前に脚が飛んできた。寸前で止まったが、フェブの鼻の皮がすりむけた。
「くだらん冗談に付き合っとる暇があると思うたか?」
センネンは笑顔でそう言った。威圧は充分だ。
「ふふふ。」
フェブは鼻をこする。高そうな服の袖に薄く血がこびりついた。
「ふふ、ふひ、ひひ…」
―ぐぐぐぐぐぐ…
フェブの手の甲から突起が。
「にゃ?」
シャッキン!!
別に借金がたまってるわけではない。フェブの両腕が異様な形に変形したのだ。
「刺し殺す、キッチリカッチリ、刺し殺す。どうだ?五・七・五調だぞ。」
細かく言えば五・八・五である。
「それは知らんが、やれやれ、驚いた。」
フェブの腕は、まるで針山地獄のようにおびただしいトゲに覆われていた。
色は肌色。あれは奴の皮膚が変化しているようだ。
「ふひはは、どうだ。これは俺の能力紋、フルニイドルだ。きっちりかっちり殺すのに最適な能力なんだよ、ねえ、ふひは!」
―シャキシャキシャキ…
フェブの身体からトゲがどんどん生えてくる。ほっとくと大変な事になりそうだ。
「獅子神…」
王牙か?炎尾か?いや、咆哮!
「咆哮!」
―ゴォォォ!!
フェブの身体は炎に包まれた。
「うふへはひほ!!」
フェブは奇怪な声を上げた。高貴な服とニット帽が燃え尽きてしまった。中身は黒いゴムスーツだ。
「これは俺のトゲに耐えられる特殊な素材でできている。俺達12MONTHは特別な存在だからな♪」
フェブは楽しそうに叫んだ。
「特別か、確かに人間じゃないのぉ、虫唾が走る。レッキじゃないがの。」
「今さ、無線が入ったんだ。マーチとエイプルが死んだ。ってね♪クズは12MONTHに必要ない。必要なのは、究極の“力”を持つ人間のぉみ!」
両手を広げ、おどけた表情をしている。
「仲間に恵まれないのぉ、12MONTHというのは。」
「うるさい!うふほひは。」
フェブが走って来た。腕が槍のようにとがる。
「ムッ!」
センネンはすぐに身体を右にそらし、回避した。
―チッ!
頬を槍がかすめた。センネンはそのままフェブの頭をわしづかみにし、飛び上がった。
「獅子神、炎脚斬!」
―バッ!
フェブは素早くその場に伏せ、斬撃を回避する。
「フルニイドル、“剣山”」
―ザザザザザザザッ!
フェブの伸ばした脚が剣山のように平たくなった。もちろん、針はびっしり。
「ニャグッ…!!獅子神!」
―ボッ!
センネンは右手を向け、獅子神を発動した。少し身体を移動させ、剣山に落ちる寸前で回避して着地した。
「ふへははははははははは!!」
フェブは笑っている。そして、指を剣にして脚を狙った。
「獅子神、狩猟!」
―シュバッ!
素早く飛び上がり、かかと落としの体勢にはいった。
「フルニイドル、豪華王冠!」
ジャキッ!フェブの髪がツンツンにとがった。
「いかん!」
かかとを戻してバック転をして着地した。
「ヒヤヒヤさせるのぉ…むやみに触れん。」
センネンは何かを考えている。
「だったら触らずに戦うだけじゃ!!獅子神、獄炎海流!」
いきなり叫び、センネンは技を発動した。
―ゴォォォォォォォォォッ!
「ふへはひふふふ!」
フェブの脚がトゲと化し、まるで竹馬のようにコツコツ音を立て獄炎海流をやりすごした。
「ひっかかったのぉ!」
センネンは天井の隅で身構えていた。
「え?」
「獅子神!」
―ボォッ!!
フェブの顔面めがけて獅子神は発動された。フェブは両手をクロスさせ、
―シャキン!
針の盾に変えた。
―ボンッ!
獅子神は盾にせきとめられた。
―シュゥゥゥ…
湯気がうっすらと立っていた。
―スッ!
フェブは指を元に戻した。
「チッ!」
センネンは表情を変えずに舌打ちをした。
「ふひふは。どうする?亜人め。」
「…どうするもこうするも。」
―バッ!
フェブの喉元に飛びかかった。
「獅子神、炎弾!」
センネンの身体が炎に包まれる。
「が!?」
フェブは目を丸くした。奴の胸元にはたしかにトゲだらけの文字で“フルニイドル”と描かれていた。
―ギュンッ!
フェブの目が飛び出た。冗談ではなく、本当にトゲとなって飛び出たのだ。
「解除!」
センネンは寸前の所で身体を後方に曲げ、回避する。身体の炎も同時に消えた。
「油断をするなよ?俺の能力はキッチリカッチリ、隙を見せないんだ。」
フェブの言う通りだった。
―ニュッ!
膝から鋭いトゲが伸びてきた。
「ニーニードル!」
―ブワァッ!
そのまんまの名前だが、威力は充分だ。
トゲはセンネンの脇腹を貫く。
「ぎゃうっ!」
センネンはうめいた。
「ほらみたことか!キッチリ隙はなしだ!」
フェブは叫んだ。力を込めてトゲを引き抜き、センネンは飛び退いた。
「ならばワシも、真似するかの。」
センネンは目の色を変えた。
「ふんっ!」
センネンの両爪が燃え上がる。
「具現化系統の技か、だが…俺に触れるかな?」
フェブは全身をトゲだらけにした。遠くから見ると針だらけのボールだ。
「ふはっ!どぉ――――――だ!“ニードル・フル”だ!攻撃の隙は与えないぞ―」
「獅子神、“王牙・八武燐”!」
―ザンッ!
炎が円形の斬撃となって放たれた。
「えっ?」
―ザンッザンッ!
「あべっ!?」
―ザンッ!
「ぎゃびっ!」
―ザンッ!
フェブの身体に切り傷がついていく。
「ぎゃぼっぐぎゃ!」
―ザンッ!ザンッ!
「ぐ…こ、ご、この…ッ!」
フェブのトゲが緩んだ。
「おやおや、隙を発見。」
センネンがフェブの目の前まで躍り出た。
「あっ…しまっ―」
「でやぁ!」
―ザァンッ!!
最後の斬撃を放った。フェブの腹に斬撃はクリーンヒットした。
「ふむ。」
センネンはすぐに天井から垂れ下がるチューブにしがみ付いた。
「ふひっ!」
―ニュッ!
トゲがセンネンの顔をかすめとった。
「やはり、長さに限度があったか。」
トゲはセンネンの鼻スレスレでプルプルと震えていた。
「野郎…もう俺のデメリットを読み取りやがったか…!!」
フェブは目を細めた。
「どうした若僧、キッチリカッチリ殺してみぃ。」
「クソ!クソクソ!クソッタレが!」
「…下品な言葉じゃ、訂正せい、悪い子め。」
「うるさい、うるさいうるさい!俺は頭にきたぞ!こんなにキッチリカッチリ倒せない相手がいたとは思わなかったからだ!」
フェブは痙攣しだした。
「キッ、チ、リカ、ッ、チリ、きち、んと発、狂ゥゥゥゥ!」
ぶわぁ!目の色が黒くなった。
「KShJefcぶfぐぁywせgkgkィッハハァ!!」
フェブの笑い声は奇妙な叫び声になった。
「キィッチリィ!くひは!カァッチリィ!くひはははは!」
両手がトゲだらけになって無気味な形に変形した。
釘バットよりも殺傷力が高そうだ。
「獅子神、炎脚斬!」
バットのような腕を振り下ろされ、センネンは技を発動した。
トゲだらけの腕を炎が包み込む。
「うひゃひゃひゃひゃ!」
フェブはまったくものともせず、地面に腕を振り落とした。
―ズガッ!
センネンは右に飛び退いた。
「獅子神!」
フェブは身構える。
「と見せかけっ!」
センネンは回し蹴りを食らわした。
「…。」
センネンの顔が曇った。センネンの脚はフェブに掴まれている。
「フェイントかよ…あまかったな。」
フェブはニヤリと微笑み、センネンを抱きしめた。あの、トゲだらけの腕で。
―ベシャベシャッ!
血が吹き出る。
「ぐぬぅあぁぁぁ!!」
センネンは叫んだ。
「ふへはひほへふふはは!」
フェブは大笑いしている。
「ぐっ!こ、このぉ!」
センネンはフェブの腹を蹴った。
―ザクッ!
脚にトゲが刺さる。
「ぐぉぉ!」
「も、もがけばもがくほど、苦しむことになるぞ…どっちにしろ…キ、キッチリカッチリ殺すけどなぁ!!うおぉぉぉぉぉ!!」
メリメリメリメリメリメリメリメリメリメリメリメリメリメリメリメリメリメリメリメリメリメリメリメリメリメリメリメリメリメリメリメリメリメリメリメリメリメリメリメリメリメリ
もはや地獄だ。センネンの内臓を、筋肉組織を、骨を、すべて針やトゲが貫く。
出血量も半端じゃない。
「うぎゃあああああああああああ!!」
センネンもさすがに絶叫した。
「苦しめて…殺してやる!!ぬぐぅああああああ!!」
―ブチブチッ!
センネンの身体から何かがちぎれる音がした。
「ぐぎゃあああああああああああああああぁ!!!」
センネンは狂い叫んだ。
「ふ、ふ、ふひぇはひゃひゃ!」
フェブは渾身の力を込め、
「だぁっ!」
バシュッ!
王手をかけた。
センネンの身体の至るところからトゲが生えていた。
「うぐぐ…ぎ…」
血まみれになったセンネンを、フェブは哀れみの眼差しで見つめた。
完全には潰れていないが、瀕死の状態であることはわかる。
「終わり、か…ハァ…ハァ…」
さすがに疲れたぜ。フェブはそう思いながらセンネンを離した。
―ドサッ…
丸太棒のようにセンネンは転がった。
「ハァ…ハァ…ハァ…あがきやがって…ハァ…ハァ…ハハ、ハ、ハハハハ、ふひはははははははぁ!」
フェブは笑っている。疲れきった笑顔で。
「ハァ…ハァ……一応、消しておくか。気弾は苦手なんだがな…」
ゆっくりと手を掲げた。
―ポォ…
エネルギーが手に集中されている。
「キッチリカッチリ、すべて消してやる。」
『情けないな。』
力強い声だ。
「だ、誰じゃ…?」
センネンは顔を上げた。
―ズキッ…
「うっ…」
『情けないな、千年生きた戦士、我が息子よ。』
センネンの前に現れたのは、青いたてがみを持つ白いライオンだった。
「…!!」
センネンは目を丸くした。
「父うっ…」
『我が名は“百獣王・リオウ”。貴様に、我の力をたくそう!』
ライオンは力強い声でセンネンの中に、溶け込んだ。
『もっと冷静になれ、我が息子よ』
「ヒィハァ!」
フェブは気弾を放った。凄い勢いでセンネンに迫る。
バッ!
センネンの目が開いた。そして、彼の紺色の髪が明るい青色になり、逆立った。
バァッ!!
「…え?」
フェブは目を疑った。
気弾で死んだかに見えたセンネンは、青いたてがみを持つライオンのような姿に変貌していたからだ。
右目は真っ黒に染まり、金色の瞳がしっかりとフェブを見据えている。
「まだ…立てるのか?亜人……ッ!!」
フェブは身震いした。傷が完治している!!
「ど、どうなっている?なんなんだ?あの変わり様…!!」
センネンは静かにフェブを睨んでいる。
「いや…それよりも、いくら俺が気弾が下手でもまったく喰らっていないってのが気に入らない!キッチリも喰らっていない!」
右腕をトゲ化させ、フェブは飛びかかった。
「くたばれ!」
腕を振り上げセンネンの頭を殴ろうとした、空振りした。
センネンは一瞬でフェブの背後に回りこんだ。
「…ッ!!!!??」
フェブの全身に脂汗が流れた。
「フゥヘァ!?」
振り返った。センネンが笑っている。
「遅いのぉ…。」
「こ、この野郎…!!」
フェブは血が流れている腕を向けた。肘から下はなくなっている。
「…え?えぇえええええええええええええええ!?」
悲鳴に近い大声だ。センネンをよく睨む。
彼はフェブの右腕を掴んでいた。
「おい、探し物はコイツか?」
「か、返せ!」
「返してほしいか?じゃ…」
右腕を放り投げ、
「全て返すぞ。」
センネンは軽く咆哮した。
グボォォォァアアアアアアアアアア!!
並みの威力じゃない。
フェブは炎に包まれた。トゲガードの暇もなかった。
「ちくしょぉ!」
フェブはすぐに向き直り、センネンに襲い掛かった。
「うぉあああああ!!」
―シュバババババババババ!!
凄まじいパンチのラッシュだが、センネンは簡単にかわしてみせた。
「く、くそぉ!」
「もぉー終わりかぁ?」
センネンは軽く腕を掲げた。
「獅子神、50連!」
―どばばばばばばばばばばばばばば!!
50匹の獅子神がフェブに噛み付いてきた。
「ぬおおおおおぁ!」
「ガルルルルルル!!」
センネンは唸っている。様子はおかしい。センネンは苦しそうな表情をしている。
『コントロールができん…!!』
彼の父親の力はセンネンでも扱えなかったようだ。
「ハァ…ハァ…!」
「ちくしょうがぁ!」
フェブはトゲをセンネンの胸に突き刺した。
「ガルゥ!ウガルルルルルル!!」
いつものセンネンならこの程度は止められる。しかし、野獣となったセンネンに思考回路は残っていなかった。
「片腕のかたきをうってやる!ふへはああ!ミリオンニードル!!」
刺さったまま、センネンは腕を振り回していた。
「ウガルルルルル!!」
『愚か者め。』
再びあの声がした。
『自らの精神をもっと保て、そうすれば我が力のバランスをとれる。お前ならできる、息子よ…』
「がっ…あっ!」
センネンの瞳が穏やかになった。
「シネェ――――――ッ!」
フェブの針がセンネンに襲ってきた。
「獅子神…」
ワシはコイツを倒して…
もっと強くなる!!
カッ!
炎が発射された。
センネンのいるフロア全般の屋根が一式吹っ飛んだ。
「はひ?」
フェブは引きつった笑みを浮かべた。
目の前に赤い炎が渦巻き、自分を燃やしているからだ。
「ぎぇええええええええええええええええええ!!」
武烈・炎牙砲!
フェブは断末魔の叫びを放ち、黒こげになった。
「はぁっ…はぁっ…」
センネンの髪は元通りになった。
息切れが止まらない。そのまま座り込み、センネンは笑みを浮かべた。
「世話になるのぉ、父上。」
―午前0時29分 センネンVSフェブ センネン勝利―
―バリケード前にて―
午前0時39分。グランマウンテン上空にて、3つの巨大な力を確認した。
「あらあら、まるで魔界ね。見た事ないけど。」
一人はアリシアだった。いつもの緑色の服ではなく、黒いゴム製のタイツを着ていた。
髪は後ろに束ね、白と黒の紋章が刻まれたプレートを額に縛り付けている。彼女の戦闘服らしい。
「やれやれ、こんなに狂気に満ちたところは久しぶりだ。俺は許すがな。」
アリシアの隣に立ったのは、ご存知、スチルサウザンドだ。黒髪をオールバックにし、鋭い目で辺りを見回している。
二人は空中に浮いていた。
「シークのアホはアジト内で暴れているらしい。」
「さすがアタシのシークね♪肝が据わってるわ☆」
「据わってない。」
平凡な会話をする二人の後ろ、暗黒に満ちた断崖絶壁。
その上に、もう一人の存在はいた。
「見てろ、蒼の騎士団。」
金髪をなびかせ、その存在は降り立った。
第47章へ続く