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第48章:これは賭け

―3001年 3月7日 午後11時47分 クリスVSメイ・コマンドウ―

クリスが出した結論はこうだ。両方に斬撃を放つ。コマンドウはあまりスピードに自信がなさそうだ。
とにかく油断をさせることが得策。クリスはそう考え出した。

「タルビート流・挟御桜!」

―ザザンッ!

両方に斬撃を発射する。

「グッ!」

コマンドウは斬撃を腕で防御した。メイは素早く飛び上がった。ここまでは計画通りだ。

「風解・白虎邁進!」

地面に手を押し付けながらクリスは叫んだ。

―ぶわぁああああああっ!

巨大な竜巻で飛び上がるクリスは、メイの首を右腕で掴んだ。

「がっ!」

メイは短い声を上げる。

「それが遺言スか?」

クリスは短くそうつぶやき、メイを思い切り地面に叩きつけた。

「がぼぁあ!?」

メイは血を噴き出しながら叫んだ。

「まだまだぁ!!タルビート流、白虎王紋!」

―ダンッ!!

メイの胸元に手を押し付ける。彼女の身体から凄まじい威力の突風が吹く。

「ぐげぇぁ」

メイは短い悲鳴を上げ、動かなくなった。遺言は今のでいいらしい。

「次ィ!」

クリスが後方を振り返ると、

「はっはっは。」

コマンドウは拍手をしていた。

「素晴らしい。小遣いをあげたいくらいだ。1000グランな。」
「要らねぇよ。」
「おお。」

コマンドウは残念そうな顔をした。

「可愛くないな。」
「結構。お前も斬るッス。」
「ははっ…それはやめとけ。」

コマンドウはジャンとの電話のような力強い口調ではなかった。

「クヒッ。イヒッ!」

ぐぐぐ…コマンドウの身体が縮んでいく!

「あっ…あぁ!」

クリスは仰天した。そこにいたのは―









「ぎゃあはははははははははぁ!!」

突然レインが絶叫した。いや、笑い出したのだ。

「!!?」
「分解してやろう、ぎゃはっ、分解してやろう!!」

レインが飛びかかって来た!!

「このっ…神技神腕!」

レッキは咄嗟に腕を突き出した。

「超・神打!」

―バッ!

白い閃光が発射される。

「早速くたばりなさい!」
「ひゃは…いやだ、中和。」

レインはそうつぶやいた。


パッ


超・神打が消えた。キレイサッパリに。

「…え?」

レッキは青ざめた顔でその状況を見た。そして、再び腕に力を込める。

「神技神腕、激震打!」

レインは立ったまま動かない、このままだと命中するはずだ。

「中和。」

パッ…また消えた。威力も、激震も、なにもかもレッキの腕から消えてしまったのだ。

「ど、ど」

レッキはいよいよ気が動転し始めた。

「ふふ!」

レインが指を向ける。

「バンッ!」

レインが銃を撃つ真似をした。

―ダンッ!!

レッキの頬を何かがかすめた。

「ふふ、当たっちゃったね。」

レインはまた笑い出した。まるで、無邪気な子供みたいに。









そこにいたのは、ノアだった。

「ノ…ア…?」

クリスは目をいっぱいに見開いてそのありえない人物を見つめていた。

「え…と、俺は…『カカ』『じゃん?』あー…うん、『ウン』あ、いや、これは違うか。」

ソイツは何かをつぶやいている。

「小娘、俺はコマンドウじゃないぞ。ノア・デッドシップのようだ。あ、いや、ノアだ。じゃん。」

見た目がノアなのに、なにかおかしい。いや、頭を破壊して自殺したノアがここにいる時点で既におかしいんだ。

「何故生きてる!?」

そう、それが率直な質問だ。ノアは「カカ」と笑った。
ノアという自分に定着しているようにもみえる。

「俺は蒼の騎士団の三大騎士隊長の一人じゃん?“コマンドウ”は前にぶっ殺したし、厄介な“ギルド”も、あのシルクハットがぶち殺してくれたしよ。俺は騎士隊長の3人分の権限を掌握したことになる。」
「質問の応答になってねえぞ!」
「カカッ!話を最後まで聞け。俺はMAXグラビドンの他に、新たな能力を編み出した。その名も、“DNA‐LIFE”死んだ人間同士、記憶を元にネットを張る能力じゃん?」

ノアの身体が変わりだした。

「つまりだ、おぉ―ボくは3人であり、一人である。基盤であるノア自身が自殺をしたことにより、ギルド、コマンドウ、そしてノアの身体は一つになったのだよ。よし、今の僕を“デオ”としよう。僕はデオ、蒼の騎士団の狂気から生まれた新たなる人種だ。」

そう言ったのは、ノアでもコマンドウでもなく、あのニヤニヤ顔が不気味なギルドであった。

「つまり、アンタはデータの集合体ッスか?なんてこった、人間じゃねえ…。」
「ニヤニヤ、確かに僕は人間じゃないかもね、これこそが、人間の進化した姿、新たなる人種、“超人族・デオ”なのかもしれない。」

『“デオ”はこれからも増えていくだろう。僕がいるかぎり。』

デオギルドは更にそう付け足した。

「ふざけるな!」

クリスは引きつった顔で叫んだ。

「ふざけてなどいない、ニヤニヤ。僕等は人間自体を全て進化させてあげたいだけなんだよ。だから人間を殺し、データを集めた。今まで殺した人間をデオとして蘇らせてあげたっていいさ。」
「データだけの、見せ掛けの人間なんて必要ない!」
「ニヤ、君は誠実だな。教科書通りの人物像だ。」

デオギルドは驚いた顔でそう言った。

「しかし、その誠実さが身を滅ぼそうなど、自分は知らない。カカカカカカカカ!」

デオギルドがデオノアに変わっていく中、メイが起き上がった。

「ノア?いや、ギルド?どうなってるの?」

デオノアがクリスを押しのけ、メイの口の中に入り込んだ。

「がっ!?」

液状となって、足の先まできれいに入ってしまった。

「が…がぼぁ…」

奇妙な声をメイは上げた。

「…!!」

クリスは青ざめた。メイの顔がデオノアの顔に変貌していくからだ。

「カカ、デオメイか。カカッ!」

デオノアは剣を拾うと、クリスに襲いかかった。

「死ねっ!!」

クリスは素早く身体を倒し、右に転がった。即座に剣はクリスのいた場所を滅多刺しにする。

「タルビート流、サクラフブキ!」

斬撃を発射する。デオメイはソレを全て撃ち落とした。刀一本で。

「強くなってる…!!」

クリスは身震いをした。そして、混乱してきた。死んだはずのノアが、新たなる人種、デオとして復活し、それがメイに憑依した。これは後に蒼の騎士団どころではない事態を巻き起こしかねないのだ。

「ギルドの力を教えよう。マグマ・ランス!」

デオメイの腕が真っ赤な槍に変貌した。

「ニヤニヤカカカ!刺し殺す!君は記念すべき最初の犠牲者だよ、クリス・タルビート!!」

デオメイは猛スピードでクリスに迫って来た。

「タルビートりゅっ…」

クリスの詠唱より早く、デオメイはクリスを串刺しにしてしまった。

「がっ…はぁ…!!」

クリスは口から二筋の血を流した。

「フィニッシュ、じゃん?」

槍を勢いよく引き抜く。クリスの腹から鮮血が噴き出た。

「ごふぁっ…」

クリスは体勢を立て直そうとしたが、出血量の多さにふらついている。

「あら、隙あり。」

デオメイは通常のメイへと戻る。そして、

「黒炎斬!」

クリスを袈裟にぶった切った。

―バシュウウウウウ…

おびただしい血液は、容赦なくクリスから噴き出ている。

「…あ…」

震えながらへたりこんだ。もう動けない。

「だから言ったでしょ?相手が男じゃないとまともな戦いもできないってさ☆」

デオメイは笑った。クリスはもう意識が吹っ飛ぶ直前であった。しかし、倒れかけた自分の身体を、両腕が押しとめる。

「…え?」
「自分は…男だっつってんだろぉが…!!」

彼女の口調は今までになく力強いものだった。

「なんだ…?」

そう言ったのはノアだった。顔が奇妙なまでに蠢いていた。

「聞いたことがある。タルビート一族には産まれてくる子供を全て男として育てる教育法があるらしい。」

声と顔が変わり、ギルドの声になった。

「なるほどな…。」

コマンドウが最後につぶやき、顔つきはメイに再び戻る。

「どうなってるのよ…内臓は貫いた。そればかりか、肋骨もろとも切り裂いてるはずなのに…何で立てるの?」

メイの顔は引きつっていた。

「自分でもわからない…。」

クリスは口を開いた。

「でも…これには我が一族の誇りがかかっている。」

クリスの言葉には重みがあった。たとえ、未知の生物が相手であっても…自分は負けられない。

「自分の一族のプライドを賭け、貴様を斬る!」

それは自分にとって最初の命がけの賭けであった。

「じょ…じょ…上等だあああああ!!もう殺す!ブチ殺す!」

メイは叫んだ。いや、メイだけじゃなかった。ノア、ギルド、コマンドウの、4人の生命体の叫びだった。

「月光地獄斬り!」

デオメイは暗黒に包まれた剣を振り下ろした。

「ふははは!くたばれ、死に損ないめ!」

―スカッ!

デオメイの斬撃は空振りに終わった。

「え?」

デオメイの視界が暗闇に包まれる。

『タルビート流…』

花びらが目の前で舞い始めた。

「なに?これ…」
『暗器剣術…』
「さ…桜?…あっ…ま、まさか…」

デオメイの予感は的中した。そして、その予感も手遅れだった。



『千年桜』


デオメイの身体をサクラフブキが突き抜けていった。


ババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババ


「!!?」

デオメイが仰天した時には、デオメイの身体には大穴が開いていた。

「バ…バ…カ…な…」

デオメイは腹や口から血を噴き出した。引きつった笑顔で目の前に倒れたクリスに目を向けた。

「完敗だわ…ゴフッ…なんなのよ、このおん…な…」

サクラフブキが美しく空中を舞っている。


―午前0時10分 クリスVSメイ―

クリスは倒れていた。血まみれの姿で。その前には、同じく血まみれのメイが立っていた。
引きつった笑みを浮かべたまま、クリスを見下ろしている。

「ハァ…ハァ…」

クリスは苦しそうに呼吸をしている。

「自分は…自分は…まだ死にたくないッス。」

それを見たメイは、最後にニッと笑顔を浮かべた。

「アンタ…男だったよ。」

そして、バタリと倒れた。

―クリスVSメイ クリス勝利



一方、センネンは…



―午前0時12分 通路―

センネンは静かに息をしていた。壁によりかかって通路を進んでいる。

「センネン!」

突然の声にセンネンは爪を向けた。

「ウンン、デジャヴだね。僕だよ。」

サイモンが両手を軽く挙げている。

「サイモンか…どうやら落ち合えたようだな。無事か?」

センネンはサイモンの姿を見た。ボロボロになっている。

「無事じゃなさそうじゃな。」
「ウン、死ぬかと思った。君も大変だったようだね。」

センネンは自分の身体の刺し傷の酷さにここで気付いた。

「ウム…」
「スピードヒールを飲みなよ。軍兵から盗んだんだ。」

サイモンは薬を取り出した。彼は蒼の騎士団に拉致されたときにスリの技術まで組み込まれたらしい。

「ワシはそんな薬になんぞ頼りとうないわい。」
「んなこというなよ。ホラ。」

サイモンは無理やりセンネンの口に薬を押し込めた。

「ムガモゲ。」

センネンの身体から傷が消える。

「オォ。これは便利じゃな。時代の流れとは凄まじい技術の進化というもんが…なんたらかんたら―」

サイモンはセンネンの言葉を聞いてると本当にお爺さんみたいだと思うようになった。

「さて、先に進むか。レッキ達の事も心配じゃし―」

センネンが歩き出そうとしたその時、



ザンッ!!!


通路が真っ二つになってしまった。

「わああっ!」

落っこちそうになったセンネンをサイモンは素早く抱き上げた。

「どうなってるんだ?」

サイモンは斬撃が飛んできた方向を睨んだ。そこでは、リクヤがまだ戦闘を繰り広げていた。

―午前0時13分 リクヤVSジャン―

「うらぁ!」

俺の巨剣はジャンの刀にいとも簡単にせきとめられた。

「まあ落ち着きなよ、今本を読み終えるからさ。」

ジャンは生意気にも読書をしている。なめやがって、ベタじゃないから許すけどな。

「俺流俺式、誠斬り!」

ようは袈裟斬りだ。俺式にアレンジしたノンベターな剣術である!

「やれやれ!」

ジャンは本を閉じ、両手で巨剣を掴む。

「せっかちな人間は大嫌いだ!」

ジャンは俺を散々振り回した挙句、壁に叩きつけた。
俺は最近空をよく飛ぶ。ベタじゃないからいいけどな。

「ガハッ!」
「さぁ、読書を再会させるか。オクトに借りた本だからすぐに返さなきゃ…ん?待てよ…あ、いやそいつは死んだのか?」

ジャンはツカツカと俺の元へ歩いていく。

「君が殺したのか?ありがとう、これでのびのびと読書ができる。暇つぶしができる♪」


第49章へ続く

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