第49章:努力をすれば
―3001年 3月8日 午前0時15分 リクヤVSジャン―
読書だとぉ!?
「な、な…」
「フン、怒りで周りが見えないか。なんて扱いやすいタイプだ。」
そう言ってジャンは本を閉じた。俺は彼に対し、尊敬の眼差しを向けていた。
「んん?」
「なんてベタじゃない男なんだ…。か、神レベルに到達してやがる。残念だ、ああ残念だ!敵じゃなかったらサインをねだっていたぞ。喜べ、スチルじゃないが俺が許す。」
『なんなんだコイツ。』
ジャンはそう思っていた。
「君は少し頭がおかしいんじゃないかい?」
「おかしい?まあ、確かにおかしいかもしれん。」
俺は昔から変わり者だと言われてたからな。
「そんでもこんな俺様を認めてくれる連中もいるぜ。」
「マジッスか。バカな連中にも程があるよね。」
「何を言ってる。あいつらバカだもん、当たり前だろおが。」
『グッ…』
ジャンはかなり空回りをしていた。
リクヤは変わり者というより、挑発に強いんだ。何を言っても一切屈しない。
「しかし俺様は天才的だ。何故か教えてやろうか?“毎日全て違う事をしている”のだ。ベタな展開を見つけたら即刻成敗だ!俺様のおかげでセントラルの秩序は守られている。虫唾の走るベターな展開はたとえ神が許しても、この、“俺様”が許さねぇ。」
理解できたか!?
そう叫ぶ俺を前に、ジャンは白い目で黙ったまま硬直していた。
俺の気迫に耐えられなかったか。無理もない。俺様自身も自分の気迫で毎晩金縛りだ。
「こんな奴といるとバカになる…フリック流・鬼骨斬り!」
ジャンが突然斜め上から剣を振り下ろしてきた。
「うぉっと!」
俺はすぐさま巨剣で押しとめた。
「いきなり不意打ち攻撃か?ちょっとベタだ、許さんぞ!」
ジャンの刀を振り払い、俺は巨剣を振り回した。
「“正義的・流星群”!」
剣の先から斬撃を発射した。この斬撃は人工的なものだ。俺は一般人だから属性力は一切使えない。
「今日は大雨だぜ。」
ドドドドドドドドドドドド…
流星群がジャンをメチャメチャに叩きのめす。のか?これでやられりゃベタじゃないんだが。
「俺をこんな技で倒せると思ったのかい?」
ベタだぁぁ!!許さん!
俺は天井を睨みつける。ジャンが笑顔で天井にへばりついていた。
彼の髪が石造りの天井の隙間に入り込み、まるで縫い付けたようにくっついている。
「テメェ、ベタな隠れ方じゃなかったな。さっきでやられなかったのは勘弁してやろう。」
「やっぱ変人だな…。」
ジャンは困惑した表情を作った。
―一方、クリスは…
―午前0時17分―
「ううう…」
クリスは必死に身体を動かし、この空間から逃げようとしていた。
メイはかすかに震えているだけだった。そんな二人のすぐ近くで、デオは笑っていた。
「ニヤニヤカカカ、さすがは国家戦士だ。12MONTHなんざ相手にもならんか。」
クリスは肘をつき、身体を持ち上げ、デオを睨んだ。
「貴様等…最初から蒼の騎士団に加担する気はなかったのか!?」
「ああ、なかったみたいだ。昇進とか、手柄とか、もうどぉでもよくなってしまったからな。」
デオは赤くなったり青くなったり、迷彩柄になったり、クリスはもはや混乱しかけていた。
「アンタは誰なんスか?ノア?ギルド?コマンドウ?」
「フハッ!ニヤッ!カカッ!ワタシはノアでもギルドでもコマンドウでもない。3人の魂と一つの肉体が融合した生命体、さっきから言ってるだろ?デオだ。」
笑顔でデオは言った。そして質問をした。
「ワタシの名前はどうしようか?」
デオは悩んでいた。
「デオでいいじゃないんスか?」
目を離さずにクリスは立ち上がった。
「いや、待てよ…う~ん…」
まだ悩んでいる。
「ワタシは…そうだ…“DNA・NEO…『デオ・ネオ』”…世界で最初のデオ種。」
デオ・ネオは空ろな目をしていた。それでいこう、それでいこう、いい名前だ。何度もつぶやきながら。
蠢く身体はようやく原型を取り戻していた。
「…ッ!」
クリスの目の前にいたのは青と赤の肌を持つ奇怪な生き物だった。
「ふふふ…」
ゲル状の腕を何度も握りながら、デオ・ネオは笑い出した。
「フハハハハハハ!超人種はまだまだ増えるぞ!ワタシがこれからも増やしていくのだからなぁ!!」
そう言い残すと、
―シュッ…
デオ・ネオは消え去った。
「…ハァ…」
クリスは肩で息をしながら立ち上がった。メイを見た。すでに死んでいた。
「…超人種、デオ…国家に知らせなければ…」
―そして、リクヤは…
―午前0時18分―
「お遊びはここまでだよ。本気で行かせてもらう。」
ジャンが怒った顔でそう言い放つ。ちょっとベタなセリフだがまあいいとしよう。
「だろうな、こんなんで本気なんて言われたら俺も面白くない。」
本気で。
「フン…いきがるのもいい加減にしろよ、下等な人間族め!」
ジャンは刀を振り上げて飛び上がった。
「フリック流、“後光千紀”」
―カッ!
彼の刀が輝いた。
「うぉあっ!」
俺は思わず目をつぶった、ベタだな。これはめくらましか。
『こんなんで俺様を騙そうなんざ5億年と2ヶ月早いぜ。』
空気を切る音、足が地につく音、みんな俺様の耳に入ってきやがる。来る…来る…奴が俺の首を狙ってくる。
ヒュッ…
「見えた!」
―ガキン!
素早く巨剣を背後に向け、ジャンの剣を弾き返した。
「何っ!?」
ジャンは驚愕の表情で飛び退いた。
「どうやら俺をみくびってやがったようだな。」
俺は軽く笑みを浮かべ、ジャンを睨みつけた。
「…。」
ジャンは目を細め、睨み返している。そして、何を考えたか刀を鞘に収めた。
「失礼した。確かに俺はアンタをみくびっていたらしい。」
「だったらなんで刀を収める。俺はまだ戦いを止めないぞ。」
ナメてんのか?俺は最初はそう思った。が、違う。ジャンの目が怪しく光ったからだ。
あの目は本気でかかる目だ。長年の経験からできた本能が警告してる。『油断すんな』って。
「落ち着いてくださいよ、俺の能力紋、“ゴトウ・オウケン”を御覧下さい♪」
そして、剣の鞘に目を移した。
「ゴトウ・“水上都市”」
―シャキン!
鞘から抜き取られたのは真っ青な長刀であった。
「アンタみたいな一般人にもちゃんと属性力はあるんですよ?アンタの属性力は炎。従って、水に弱い♪」
「ポ○モンか!俺様はそんなガキの手みたいなのにひっかかるかっての!!」
「あ、そうですか。じゃ、始めようか。」
―シュバッ!
ジャンが俺の目の前にまで飛んできた。
「うぉ!」
「水斬り!」
―ザンッ!
俺は咄嗟に飛び退いたが、腹にはうっすらと斬り傷が残っている。こんなんで俺が驚くかというと、
「うぉああああ!?」
かなり驚いた。信じられない程の激痛が!
「ベタじゃねえが、かなりいてぇ…どうなってやがる!?」
「さっきから言ってるだろぉが、バカめ。アンタの属性の弱点である水属性を注いでやったんだよ。毒みたいなもんだぜ。」
ジャンは楽しそうな顔で苦しむ俺を見下ろす。そして、足を振り上げた。
「ヒャハッ!」
―ドスッ!
脇腹に蹴りこむ。
「ぐはっ!」
「ヒャハッ!ヒャハッ!」
―ドスッドスッ!
「この…俺流俺式・最上家紋!」
円形に巨剣を振り回した。
「うぉっと!」
ジャンは飛び上がった。が、ベターな展開が嫌いな俺様はそんなジャンを逃がさないのだ。
「最上家紋・立体!」
円形の家紋が立体的になる。高速で剣を動かすことによってこの剣技が可能になる。俺の努力の結晶だ。
中央に刀が掲げられ、その周りに花びらが散っている。
「なんだと?コイツ、本当に一般人か?」
ジャンは目を疑っている。
「うおらららららららら!」
球体のまま俺は突進した。
「クッ!」
ジャンはギリギリで回避した。そして、素早くバック転をし、天井に器用に張り付いた。
まただ!一回した事は二度とやるな!
「さぁて、次のバリエーションといこうか♪」
ジャンはまた剣を鞘に収めた。
「ゴトウ・雷桜花!」
今度は黄色い刀を抜き出した。
「畜生!」
俺は眉間にシワを寄せた。
「雷桜花・雷撃斬!」
雷と共に斬撃が発射された。
「畜生!」
斬撃ってのは便利でいいよな!
自分の属性力を剣に乗せてそのまま波動として発射する代物、それが斬撃だ。俺様も使ってみたい。劇的にベタじゃない斬撃を。
―ズガガガガガガガ…!
そうこうしているうちに斬撃は俺の顔まで迫って来た。とにかくこれを回避しなければ話にならない!
「努力!」
倒れたまま、地を足で蹴り部屋の隅にかっ飛んだ。
「なんと!じゃあ、これはどうだい?」
また刀換えか!?ベタじゃなすぎもよくねえぞ!!
「ゴトウ・オロチノキバ!」
今度は真っ黒に染まった刀だ。
「また面倒な技を出させてたまっか!!俺流俺式、回転砲丸!」
―ブン、ブン、ブンブンブンブンブンンンンン…!!
俺は高速で回転して巨剣を放り投げた。
「な、なんて奴だ。自分の武器を捨てるつもりか?」
ジャンは呆気にとられていたが、やがてゆっくりとその場から離れた。
「バァカめ!避ければなんの問題もない!」
巨剣は回転しつつジャンの足元に突き刺さった。
「バカはどっちかな?」
「あぁ?」
吠え面かけ、12MONTH!
ジュゴォ―――――――――ン!!
やったね、ドッキリ大成功だ。俺様の必殺技、回転砲丸は地面に刺さったと同時に広範囲で爆発を起こす。
説明が終わらない内にジャンは爆発に巻き込まれた。避けられればいいと思ったベタなお前が悪いんだ。
さて、タバコでも吸うかな。腰のポケットに入れたタバコに手を伸ばす。その時、俺にとって最悪の事態が起こった。
―シュバッ!
突然俺の脇腹を黒い刃がかすめてきた。みると、煙の中からジャンがよろよろと歩きでてきた。
「ふははは!この俺をそんなチンケなモンで倒そうとしたのかい?俺をナメきってるね!どうやらこの俺を本気で、怒らせたみたいだよ!!」
ジャンは散々わめいたあげく、俺の剣を叩き割った。
「これでそっちは丸腰だぜ?ふはははは!!」
ジャンは笑顔で俺を睨んだ。しかし、俺にとってそんなのどうでもよかった。
「ベタすぎるんだよテメェのセリフとかよォォォ!!」
ふざけやがって!そんな俺を見るジャンは、
「…。」
目を丸くしていた。どうやら唖然としているらしい。
「気に要らねえ!お前の言動!お前の能力!お前の口調、全てがベタなんだよな!俺を見ろ!じんましんだ!お前のせいでできたんだ!救いようのねえベタ野郎が!俺を見ろ!虫唾が音速で駆け抜けてるぜ!」
ハァ…ハァ…ついカッとなってしまった。だってアイツがベタすぎんだもん。
「…発狂。」
ジャンの目つきが変わった。怪物みたいなおっかない真っ黒な目だ。
「悪いがアンタが言う程俺の能力はベタじゃないし、俺がアンタの攻撃を喰らって倒れなかったのもアンタの力不足が原因だった。でもね、アンタと意見が一つだけ合った。…アンタを見てると、虫唾が音速で駆け巡る!!」
―バッ!
ジャンが俺の首を掴んだ。
「ゴトウ・怒涛剣!」
―ザクッ!
俺の腹に剣が突き刺さった。
「ぐああ!?熱いぜ!」
「ベタじゃない熱さだろぉ!?これは俺の怒りを熱に変換できる剣さ!ふはっ!そして最後のゴトウ・竜王剣!」
竜の形の剣をもう片手で取り出し、俺の腹に刺さった怒涛剣と同じくらいに深く突き刺した。
「死ね、ベタ嫌い君!」
笑顔でジャンは俺を蹴り飛ばした。俺が壁に激突する寸前にジャンは残りのゴトウを軽くぶん投げた。それらは全て自分の腹に命中した。
俺は、壁に釘で打ち付けられた板のようになってしまった。
「はーはっはっは!発狂すると命中率も上がるから愉快でしょうがないね!」
ジャンは笑顔ではしゃいでいる。
「はーはっはっはっはぁ!はーはっはっはっはっはぁ!」
高笑い。
「高笑い?」
ん?高笑い?……―
「ふざけるなぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
「はぁうぃっ!?」
ジャンは仰天した。
「たたたたたたたたたたたたtakawarai!?高笑いですか!?べべべべっ…ベタの中でも超ド級のベタな言動しやがって、覚悟できてますかね?え!?」
説明しよう。リクヤは高笑い等尋常じゃないベタを見ると尋常じゃないほど怒ってしてしまうのだ。
「き…君みたいな変人の相手はもういいや。気弾で粉々にしてやる。」
ジャンは両手を掲げた。
「どっちにしろその状態じゃ抜け出ても動けないっしょ?死んでしまえ!」
余裕綽々だな、ジャン・フリック。だが、逆鱗に触れた俺をナメたことまでは失敗だった。
「“努力”!」
―ブチブチブチ…カランカラン…
俺の身体に刺さるサトウ…ではなくゴトウが落ちる音が響いた。
「え?」
ジャンの顔色が変わった。身体から血が流れるが、そんなのはどうでもいい。
「俺はお前等を潰しにきた。お前等はそれに更に“ベタ”という挑発をしかけてきた。これは許せんな。俺が許さん。」
「どうなっている。お前、身体が痛くないのか?」
「痛くないのかだと?ああ痛くないね。ここで痛いというのはベタだからな。『努力をすれば痛みもなくせる』のだからな。」
「いやいやいやいやいや!」
ジャンは冷や汗を流した。
「努力、努力、努力!」
ジャンのふところに突進し、ジャンのアゴを殴った。
「がボッ!」
ジャンは血反吐を吐いた。
「俺流俺式…!!」
ジャンはフラつきながら俺を睨んだ。
「こしゃくな人間め―」
「漢腕掌!」
ブゴォォォォッ!
腹に思い切り“こぶし”がめり込んだ。
「がぁぁ!?お前に属性魔法が使えたのかぁ!?こ、こんな威力のパンチなんざ見たことがないぃ!!」
ジャンがうめいた。
「これは術法じゃない。ただ“ばかでかい力で殴った”だけだ。ただ“それだけ”だ。ベタじゃないだろ?」
これこそドンさん(ドン・グランパ)直伝のパンチだ。殴る角度、スピードをちょいと変えるだけでこの通りよ。
「が…一般人じゃない…」
ジャンは倒れてしまった。
「ガフッ…ゲフッ…ち、ちくっ…っしょ…ガハッ…」
震えながら息をしている。
「…。」
俺はジャンの髪を掴み、俺の顔の位置まで引っ張りあげた。さて、まずは質問だ。
「お前がミサをさらったのか?」
「あ、…あぁ…」
「オマエが国家に喧嘩を売った張本人か……落とし前をつけろや。」
再びこぶしに気合を込める。
「ま、待て!…お、俺じゃない。命令をしたのはデスライク様だよ。」
ジャンは弱々しい口調でそれだけつぶやいた。
「…信用できるか!」
「ほ、本当だって、コマンドウ騎士隊長から…デスライク様が命令したって聞いたんだよ。マジだよ!」
ジャンは必死で叫んだ。
「…デスライク、か。」
「そ、そうだって!」
やぁ――――っぱな、こういうのはベタ的に黒幕が命令してるもんなんだ。
「フン…」
掴んでいた右腕を弱めた。
「はっ……ガアッ!!」
ジャンは力づくで腕を振り払い、しりもちをつくとすぐさま俺から離れた。
「あ…あきらめるんだな!お前なんかが蒼の騎士団を潰せるはずがない!お前には属性力を感じない!“普通の人間”は超人には勝てないんだ!」
せきこみながらソイツは叫んだ。
「…じゃあ今12MONTHの№1の実力者を倒した普通の人間である俺はなんなんだ?」
「うっ…」
ジャンが青ざめた。
「ベタな反応しやがって、もう怒る気にもならねえ。」
俺は踵を返し、開いた扉に向かって歩き出した。
「ちくしょう…」
ジャンはワナワナと震えていた。
『この俺が普通の人間に負けただと!?この、究極の改造人間の俺が…』
ジャンにとって、それは許せない現実だった。たった一撃で、あの普通の人間のパンチで自分が瀕死状態になってしまったこと、それが許せなかった。
「お…お…」
目の前を歩く普通の人間、リクヤが足を止めた。ゆっくりと顔を向けた。
「俺は究極の人間なんだぁあああああああああああああああああああああああああああ!!」
刀を握り、俺はリクヤの喉笛めがけて飛びかかった。
リクヤはそんな俺を哀れみの目で見つめていた。そして、何かをつぶやいた。
「馬鹿め…ッ!」
ザンッ
―午前0時20分―
「 。」
ジャンは血まみれになってリクヤの横を通り過ぎ、倒れた。声にならない断末魔の叫びを上げながら。
―バシュバシュッ!
返り血がリクヤの頬にこびりついた。リクヤの腕には、短い、護身用のサバイバルナイフが握られていた。
ジャンは“普通の人間”に“普通のナイフ”で斬られたのだ。
「…。」
ジャンは両目から大粒の涙を流した。
「俺は……お…れは……究…極の…にん…げ…」
それきりだった。ジャンは事切れた。
「……ッ!」
リクヤは、唇をギュッと噛みしめていた。目を強く閉じ、しばらく黙っていた。
『人殺しに慣れたか?』
さっきレッキに問いかけた言葉。あれは自分自身にも向けた言葉でもあった。
「慣れないなぁ…。」
リクヤは独り言でそうつぶやき、タバコをくわえた。袖で頬の返り血を拭き取る。
「ジャン…究極の人間なんていないんだ。人間はどんなに天才的な能力を持っていたとしても、必ず欠陥はある。それを、忘れるな。」
ジャンは無反応だった。白く濁った目でどこかしらを見つめていた。
「お前の欠陥は、自信過剰なところだったよ。」
リクヤはまだ吸っていないタバコを一本、彼の手に握らせ、ライターも傍らに置いた。
「餞別だ。とっとけ。」
哀れみの目でリクヤはそう話しかけた。死体は無反応である。
「…なんて悲しい生き物なんだ。改造人間…。」
リクヤは再び唇を噛みしめ、歩きだした。もう、こんな悲しい生物を作らせないために。
―午前0時20分 リクヤVSジャン リクヤ勝利―
第50章へ続く