第50章:あやまれ
一方、シークは…
―10分前
―3001年 3月8日 午前0時10分 グランマウンテン―
―シークVSデスライク―
デスライクはとがった爪でシークの喉を切り裂こうとしていた。しかし、シルクハットが邪魔で無理だった。
「くそ…その帽子、奪い取ってくれる。」
「やなこった。」
シークは両足でデスライクの腹を蹴り飛ばした。デスライクは回転しながら体勢を立て直し、腕を向けた。
「狂気の波長!」
―ズンッ!
シークの身体を何かが押しつぶそうとする。
「せ…正義の波長!」
シークも腕から何かを放出した。
「ほっほぉ!私の波長を相殺する気か?」
デスライクは笑みを浮かべた。
「うががががががががが…」
シークの方が押されている。
「ぐ…ぬぉおおおおお」
シークはもう片腕を向けた。
「ム?」
「下降掌!」
神技を唱えた。しかし、何も起こらない。
「フン…不発とは、全盛期から衰えたのではなかろうな、シーク。」
デスライクは笑顔でそう言った。
「さらばだ!」
―ズァッ!
シークを波長で押しつぶした。
「ぐぁああああっ!」
シークの声がした。
「まだ生きているか。」
デスライクは降り立つとゆっくりと歩き出した。その時、彼の足取りが一層遅くなった。
「…?」
―ズズズズズズズズズズ…
「!?」
ズンッ!
デスライクが地面にめりこんでしまった。
「“時間差詠唱”…神技の応用だよ、デスライク総統殿。」
シークが身体を起こした。デスライクもポッカリと開いた穴から顔を出した。
「なるほど、神技も進化を遂げてきているようだな。今後貴様をみくびらんようにするか…。」
そうしてくれ。シークはそう言いたそうに肩をすくめた。
「狂気の波長、バリアタイプ。」
―ヴウン…
デスライクの身体を円形のバリアが包んだ。
赤黒い、不気味なオーラだった。
「これこそ狂気の波長だ。人間を狂気に導く素晴らしい力なのだ。」
「素晴らしくないぜ、人間を不幸に導く力だ。」
「言ってろ。貴様には一生かけてもわからん力だよ。」
「わかりたくもない。」
どうも嫌な会話だ。両者共々一触即発の状況である。
「そうだ、貴様に素晴らしい能力のついでに素晴らしい計画を教えてあげようじゃないか。」
デスライクが笑顔でそう言いだした。
「…素晴らしい計画だと?」
シークは少し不安そうな声でそう言った。
「私は数々の人間を芸術品に変えてきた。しかしだ、私は全ての人間を芸術品にしてみたいと思うようになった。貴様にわかるかね?」
「…ッ!」
シークは身震いをした。こいつは何を言っているんだ?
「我が軍は箱舟・ミサ・ニトロ・オメガ・ガンマ…そして、12MONTHという改造人間を製作してきた。とくに、ミサは最高傑作だ。」
「命をもてあそびやがって…お前は本当にどうしようもない犯罪者だな。」
「ありがとう、最高の褒め言葉だよ。貴様もいずれ芸術品にしてやろう。だが、その前にやり遂げなければならないことがあるんだ。」
デスライクはそれだけ言うと、しばらく黙っていた。
「…。」
「…。」
沈黙が続く。デスライクは目を閉じた。
「この時を待っていたんだ。“たくさんの人間が死ぬ時”を…。」
「…!?…どういうことだ!?」
「“デストロイヤー”だよ。」
「ですとろいやぁだと?」
間抜けな語呂だ。ですとろいやぁ。
「デストロイヤー。破壊神だ。我が軍がアルテマブラックを使って作り上げた最高の芸術作品だ。奴が動き出す時、この世界は焼け野原となる。人間は全て死ぬ。くまなく人間を芸術品に変え(ぶち殺す)、最後に、セントラルを消滅させるのさ。」
「………!!!」
デスライクは目を不気味に輝かせていた。
「私はこの世界の王となる。汚らしい殺風景な人間の世界ではない♪芸術品(焼死体)だらけの世界の王座に立つのだ!」
「…自分も無事では済まないだろうが…。」
シークはシルクハットの中まで見えるほど青ざめていた。
コイツはイカれている。すぐに止めないと取り返しのつかないことになる。
バカなシークもさすがにこの事態に気付いているようだ。
「無事で済むともさ、私は芸術品にならなくとも…充分、芸術的価値のある高貴な一族なのだ。だから、シェルターの中でゆっくりと世界の末路を観察していくのさ。」
「ざけやがって…!!」
「もちろん、生き残るのは私だけだ。他の人間、改造人間は全て使い物にならん欠陥品だからな。慈悲として芸術品にしてやろう。」
「待て、お前だけだと!?息子のレインはどうするんだ!?」
憤りを感じさせるシークはそう叫んだ。その問いに、デスライクはニヤニヤと笑いながらこう返した。
その言葉はシークを仰天させる言葉だった。
「息子のレイン?誰だソイツは。私は使い捨ての生物兵器、№666・レインしか知らんぞ。」
………は?
「何を意味不明な事言ってやがる!?お前の息子のレインはどうするんだって言ってるんだ!!」
「息子は、18年前に拉致してきた貴族の娘と作った可愛い男の子だった。死んでしまったがな。母と共に。私が殺した。」
デスライクは思い出すように笑い出した。
「シーク、人間というものはいとも簡単に死ぬものなのだな。レインの母親は狂気の波長を流しこんだ瞬間、発狂して崖から飛び降りてしまった。息子は、軽く壁に叩きつけたら、動かなくなった。」
「…!!!」
「寂しい、という愚かな感情はなかった。ただ、私は“生命の再生”というものに興味を持ったんだよ。そこでだ…」
デスライクは指をパチンと鳴らした。同時に、二人の立つ部屋の床が消え去った。
「うわわっ!」
シークはまっさかさまに落下した。
「下降掌!」
シークは自分に向けて下降掌を“逆”に発射した。
―スン!
奇妙な音と共にシークは底に静かに降り立った。
「畜生、やりやがって…。」
辺りを見回すと、そこには何か、たくさんのものが並べられているようであった。
「…?」
シークは目を細めたが、ソレが何かまではわからなかった。
「私はとうとうソレを行ったんだ。人造人間と同じくらいの…化学の禁忌に触れたんだよ。」
デスライクの声だ。
「何があるというんだ!」
シークの声に反応するように笑い声が響いた。
「息子に見立てた人間を作り出してみたんだ。ふひは!クローン人間だよ。」
そして再び指を鳴らす音がして、
「なっ!!!!!?」
明かりが点いた。そこにあったのは円形の容器であった。
―ゴポ…
培養液が泡立つ。厚そうなガラスの壁の内部で動いていたのは、レインだった。
「……っ!!」
これにはシークも後ずさりをした。容器の中でたくさんのレインがジッとこちらを睨んでいるのだから。
「はっはっはっは!コイツ等はレインの失敗作だよ。能力、健康状態、共々に対して使えなかった。」
デスライクが奥から歩いてきた。
「いい加減にしろよ…」
シークの中の何かが音を立てて切れた。
「息子を作ったのか!?実験動物みたいに作ったのか!?ふざけるな!テメェは人様の命をなんだと思っているんだ!?お前のくだらない計画のせいでレインはもちろん、レッキはミサやサイモンが苦しんでいるんだぞ!?」
「だからどうした。人間が苦しむ姿も美しい芸術じゃないか。何故お前等は怒るのだ?…私は人間の真の美というものを教えてやっているだけだぞ?感謝の言葉もないのは失礼に値するな。」
「か、感謝だと…?」
「さて、この場で戦闘を楽しもうじゃないか。私は全力で行くぞ。ここでな。」
デスライクは笑みを浮かべたままシークの腕を掴んだ。
「狂気の波長!」
―バッ!
シークの顔に波長をぶつけた。これだけ近ければダメージもでかい。
「ぐぁっ!」
シークのシルクハットが少し破れてしまった。
「ハッハァ!もう少しで顔を拝見できるなぁ!!」
シークは腕を震わせた。
「激震打…」
腕が白く輝いた。
「ん?」
「電動爆破!」
―ズドドドドドドドドドドド!!
シークの腕が尋常じゃないほど震え出した。デスライクが吹っ飛ばされたのを確認し、シークはすぐに先に回りこんだ。
「極斬刀・指刀牙狼!」
シークの手袋がビリビリにやぶれ、指から先が真っ黒な刃物に変化していた。
「てやぁっ!」
地面に激突したデスライクの胸に指を刺そうとした。しかしデスライクはいとも簡単に回避した。
「狂気の波長・イオンマイナス。」
デスライクの口から赤黒い霧が発射された。あれは狂気だ!
「手枝絡!」
素早く両手を地に押し付け、シークは飛び上がった。霧はシークの真下をかっ飛んでいった。
「上か…。」
デスライクは顔を上げる。
「超・神打、迅打砲!」
右腕を突き出し、シークは青い波動の巻きついた超・神打を発射した。
「フン…!!」
デスライクは右に回避しようとしたが、横にはレインが不思議そうな顔をして父を見つめていた。
「クッ…!」
ズガンッ!
デスライクの腹にソレは命中した。
「グフッ!」
デスライクの目が見開いた。
「が…がハッ…ぐああああ!!」
なにやら慌てている。
「くぁ…」
すぐにチューブから奇妙な液体が送られた。
「そういや、過去に騎士団本部で反乱が起こったらしいな。その時、余命をかなり減らされたとか…。」
シークは宙に浮きながらそう言った。
「余命2年だよ。あの愚かな男のせいでな。」
デスライクは再び冷静な顔になりそう返した。
「俺がとどめをさしてやるよ。お前にゃ寿命で死なせない。俺がぶっ倒す。」
「できるものならやってみろ。」
デスライクは笑顔を浮かべた。そして辺りを見回した。
「“邪魔だな”。さっきもコイツ等のせいで攻撃を避けられなかった。」
デスライクは両手を左右に向けた。
「…?」
シークはシルクハットの隙間からソレをジッと見つめていた。
「シュバルツ一族の力を見せてやる。“四方絶命砲(キューブ・デッドカノン”)」
―シュバアアアアァァ!!!
デスライクの腕から四角形の波動が発射された。波動はまわりの容器を破壊していった。もちろん、レインも。
「ぐぁっ!」
「ぎゃっ!」
波動はレインの頭に当たる。すると、レインの頭が消え去ってしまう。
「なっ…よ、よせ!」
シークが叫んだ。しかし、デスライクは笑みを浮かべた。
「優しいんだな貴様は、だがな、コイツ等は欠陥品だ。実験体として使ってきてやったが、もう要らない。このまま生きても人間としてまともに生活もできない者だっているし、殺してやった方が楽だろうが。」
デスライクは一掃をやめない。
「…!!」
シークはデスライクの腕を掴んだ。しかし時は遅かった。デスライクは周辺のレイン達を全て消し去っていた。
「てめえ…!!」
「ふははははははは!」
デスライクは膝蹴りを決め込んだ。
「ごはっ!」
「私に気安く触れるな!ふははは!」
デスライクは素早く回し蹴りを決めた。シークは壁に鈍い音を残して激突した。
「うぐぐ…」
シークは腕を押さえながらふと足元を見た。上半身だけのレインがこっちを見つめている。
「た…助けて…」
彼はそう言った。
「ぐ…ッ!」
シークは奥歯を噛み締めた。
「ふははは!まだ生きているのか!こしゃくな欠陥人間め!」
デスライクが飛びかかって来た。
「やめろぉ――ッ!」
シークは叫んだ。
「お…父さ―」
グチャッ…彼はシークが止める間もなくレインの頭を踏み潰した。
「!!!!!!!」
シークは目をいっぱいにまで開いた。
眼球が片方飛び散った。脳の破片がデスライクの顔にこびりつく。
「…汚いな…」
デスライクは顔を拭きながらそう吐き捨てる。
「…。」
シークは黙ったままたたずんでいた。
「さて、邪魔者もいなくなったし、戦いを再開するぞ。」
デスライクは笑みを浮かべたままシークのすぐ前に立った。
「…。」
シークは震え出した。
「なんだ?恐れでも抱きおったか?」
「…し」
「うん?」
「神解!」
―ブアッ!
シークの身体をオーラが包み込んだ。
「おぉ!」
デスライクは興奮している。
「素晴らしい!それが貴様の本領発揮というものか!!」
彼は興奮していた。ものすごくはしゃいでいる。
「許さんぞ…貴様だけは絶対に許さん、無事では返さん!」
シークは怒っていた。レインと歳の近いレッキを弟子にとっているのだから怒るのも無理はない。
「ふはは!愚かな!怒りの感情は一番愚かな感情だ!」
デスライクはシークの右肩を掴んだ。
「狂気の波長!」
―ヴンッ!
シークの右肩が爆発した。
「…。」
「ははっ!どうだね?神技マスター!」
デスライクは今度は頭を掴もうとした。しかし、シークはその腕を掴み返した。
「ム!?」
「痛くない…レッキやレインの痛みに比べればかゆくもないわ!!」
シークは奴の腹にこぶしを決め込んだ。
「激震打!」
―グボォッ!
もの凄い音だ。
「ゴバァ!?」
シルクハットの隙間からデスライクは彼の目を見た。怒りで充血している。
「ぐ、狂気の波ち―」
―ドゴォッ!
回し蹴りがデスライクの首に当たる。
へし折れそうな勢いであった。
「知らないのか?俺には狂気の耐性がある!」
シークはデスライクを殴りつけながら叫んだ。
「……!?…そ…そうだったのか!今までのは全て効かなかったのか!?」
デスライクは驚愕の表情でシークを睨みつけていた。
「こ…こ…この、ペテン師がぁ!」
「よく言うぜ…」
シークは腕を後ろに大きく引く。
「神化乱打!」
―ズドドドドドドドドドド…!!
ひきつけた腕がまるでゴムのようにデスライクの腹に当たっていく。
「ごぉあああああ!!」
ドダダダダダダダダダダダダダダ
「レインや…ミサや…サイモンや…レッキに…お前から幸せを奪われた奴等に…あやまれぇぇッ!!!」
―ブゴォォオォォォオォオ!!
「ギゴゲガッ!!」
最後の一撃は腹を突き破った。デスライクの身体の中に腕は入り込む。
「ごああああああああああああ!!!!」
デスライクが悲鳴をあげた。血が至る所から流れ出す。
「こ…このぉ…このおおおおおおおおおおおぉぉぉぉ…」
デスライクは視点の合わない目でシークを睨みつける。
「…に…ん…げ…ん…グファッ…に、人間無勢がぁぁぁッ!」
そう言われた途端、シークは、
「極斬刀!」
―ザンッ!
腹の中に入った腕で極斬刀を発動した。デスライクの身体を突き破り、鋭利な刃が輝いている。
「ガヒッ…ガッ…。」
デスライクは痙攣していた。
―ジュバッ!
液体が噴き出る音と共に、極斬刀は引き抜かれた。デスライクは空ろな目のまま倒れた。
「…ふは…私は死ぬのか。」
「…ああ…」
「ふははは…おのれ、シーク・レット・ジャスティス…貴様はことごとく私の計画の邪魔をしおって…」
「テメェのふざけた理想世界なんぞに付き合える程俺は心が広かないんだよ。」
シークはとどめの一撃をしようとクレイジークラウンを取り出した。散弾銃の銃口をゆっくりと向ける。
「テメェは神の力では殺さん。テメェの大好きな銃器でぶち殺してやる。」
シークは引きがねに指をかける。
「ふ、ふ、ふは、ふははははははははははは!!」
ソイツは笑い出した。
「…何だ?」
「ふは、は、馬鹿め、私を倒しても最終兵器№666・レインが計画を実行してくれるわ!あの完璧な力を持つレインならデストロイヤーを簡単に起動させれるに違いないのだ!」
ふはははははははははははは…彼は笑い続ける。
「息子を道具に使うつもりか、テメェ…」
「息子は忠実な道具だぞ?私の命令を必ず聞いてくれる。特にここ最近のレインはまるで命令に忠実なロボットみたいだった!ふははははは!」
デスライクは出血をしながらも、楽しそうに喋り続ける。
「レインはな、私よりも狂気濃度が高いのだ。私が高濃度の狂気波長を直接浴びせたのだ。さすがの私もあそこまで狂気に侵されると怖いからな。」
「息子を実験体にしたってわけか。」
「そうだ…。息子じゃなくて最終兵器だがな。」
デスライクは気味の悪い笑みのままシークを見た。
「貴様等がやろうとしているのは全てムダな行為だ。レイン一人いればお前等なんぞゴミクズにすぎんのだからなぁ!ふははははははは、最高の道具だ!息子って!ふははははははははは―」
ダンッ
「…くたばれっ!」
シークは煙の出ているクレイジークラウンをマントの中にしまいこんだ。
―そして今 午前0時20分 シークVSデスライク シーク勝利
「…さて…」
シークは両手を左右に軽く広げ、目を閉じた。
「“神技神眼・伝心眼”」
『レッキ…レッキ…聞こえるか?』
―レッキVSレイン―
「師匠…?」
突然心の中から師匠の声がした。師匠が久々に神技の一つ、神眼を使っている。
僕はおもむろに胸に手を当てて、目を閉じた。
『師匠…ですか?』
声はすぐに返ってきた。
『元気か?』
比較的明るい声で師匠はそう聞いてきた。
『元気だったら凄いです。』
とりあえず質問に応答した。
『…だよな、はは…』
『そっちは?大丈夫ですか?』
『ああ、デスライクは俺がぶち殺した。』
『…!!師匠…』
あの狂人を倒せたのか…!!僕は改めて師匠の強さに感激した。
『言っただろ?お前の敵は俺がぶっ飛ばしてやるって。約束は果たしたぜ。恐らく残るはレインだけだ…ソイツも俺がなんとかしようか?』
心配そうに師匠がそう聞いてきた。
『いえ、僕がどうにかします。』
『何だと?』
驚いた声だ。
『僕にもできることがあります。師匠は、外の処罰機関の人達を助けてあげてください。』
多分、外では凄まじい戦闘が繰り広げられている。ここより危険だ。
『…レッキ。』
『僕は死にません、強運の持ち主の弟子なのですから。』
この言葉は師弟の信頼を表した言葉でもあったのかもしれない。
『わかった…』
笑い声の混じった師匠の声がした。
『強運を持つ俺様の弟子なら、絶対に死ぬな。』
いいな?師匠が強い口調で言ってきた。
『ええ。』
『お前に何かがあったらすぐさま飛んでくかんな。いいな?』
まるで親ばかだ、いや、この場合“師匠ばか”か?
『ええ!』
それきりだった。伝心はパタリと途絶えた。さあ…戦いを再開させよう!僕は目を開ける。
「うっ…!」
レインが目の前にいた。腕組みをしたまま僕を見据えていた。
「いねむりかい?余裕じゃないか。」
「君こそ、目を閉じていた人間を襲わなかったなんてね。」
「クス…ボクはこうみえても優しいんだよ。ハンディキャップというヤツさ。」
「そうですか…次は遠慮なしで結構ですよ。」
「…OK、じゃあ、始めようか!」
レインはゆっくりと近づいて来た。僕も歩き出した。
そして、両者は鼻が付くのではないかと思うくらいまでに近づいた。
「君からおいで。」
レインが笑いながらそう言った。
「じゃあ、遠慮なく。」
僕はBMのグリップでレインを殴った。
「中和」
―グニャリ!
グリップが曲がった。
「…!!」
レインの顔にはアザですらなかった。青ざめる僕の顔にレインの手が覆った。
「分解!」
―バチバチバチ!!
凄い激痛と共に顔がはじけそうになった。
慌ててレインの腹を蹴る。
「中和」
蹴りの衝撃は相殺されたがなんとか脱出できた。
慌てて後退して顔を触ってみた。めがねは粉々に吹き飛んでおり、右頬の皮膚が若干ただれていたが、それ以外には問題がなかった。
「右頬の皮膚組織しか破壊できなかったか。君の女顔をメチャメチャにしようとしたのに残念だよ。」
「それはよかった。でもメガネの弁償をしてくれ。」
僕はもう片方のBMをレインに向けた。
第51章へ続く