第52章:もっと力を!!
―3001年 3月8日 午前0時31分 レッキ・リクヤ・サイモンVSレイン―
「ウン!」
サイモンさんが槍を投げた。
「中和!」
レインは指を軽く向けた。槍はピタリと動きを止める。
「そして分解。」
パリン!粉々になくなってしまった。
「ウン!?」
「キミには理解が足りないね。」
一方、ミサは…
「あうう、みんな死なないで。」
ミサは橋から下での地獄絵図を見つめていた。
「ミサ。」
突然呼ばれた。見ると、センネンが身体を屈めて歩いてきた。
「センネンさん…」
やっと助けに来てくれた。でもレッキがよかった。葛藤である。
「ワシじゃ役不足かな?早くここから逃げるぞ。」
センネンはミサをそっと抱きかかえた。
「まてぇぇぇぇぇ」
「うぇへへへへへへへへへえへ」
向かい側から軍兵がワラワラと歩いてきた。
「やれやれ…」
センネンは目を細めた。
「ん。」
レインが顔を上げた。見ると、センネンがミサを抱えたまま軍兵と戦っている。
「ホォ、やってくれるね。」
レインは笑みを浮かべる。
「ぎゃあああああああああああああ」
―ドスッ!
軍兵が落ちて来た。いい具合に軍兵は辺りに飛び散った。
他にも落下してくる。同じ格好のうえ、笑顔で地面に激突していく軍兵達は、遠くから見れば笑えない冗談に見えた。
「中和。」
レインがそう唱えた瞬間、彼の頭上で軍兵が砕け散った。
「キミの仲間は余計なことしてくれるね。」
「スマーン、怪我はなかったか?」
上からセンネンの声がした。
「へっへーん!センネンが救出する作戦は俺様が考えたのだ!なんでもお前の思い通りにいくと思ったら大間違いだぜ、レイン!」
リクヤがあひゃひゃ言っている。
「ミサを返してもらうぞ。」
レインを睨みながら僕はそう言った。
「いやだ。“アレ”はボクのものだ。」
笑みを浮かべながらレインは手を上に上げた。
「…?」
「さぁて、キミならどうするのかな?」
…!!マズイ!!
「四方絶命砲・特大級!」
ズガァ―――――――――ン!!
名前通り特大な波動だ。
「う、うわぁ…」
「なんだぁ?ありゃあ…」
リクヤとサイモンさんは呆然としていた。ミサが危ない!!
「センネェン!逃げろぉぉ!」
僕は出せる限りの大声で叫んだ。
「獅子神…狩猟!」
その場でセンネンは空を切った。しかし、波動がでかすぎる。これじゃあ避けきれない。
「ヒィッ!」
ミサが顔を引きつらせた。波動はすぐ真下だ!!
「おのれっ…」
―バリリリリリリリリリ…
波動は天井を消し去った。
「くうっ!」
センネンがミサを抱えながら落ちて来た。回避できたのか…。
「とりゃっ!」
リクヤが何かを投げた。それは空中で爆発し、巨大なクモの巣みたいになった。センネンとミサはそれにひっかかった。
「国家特製・ガットネットだ。衝撃が和らぐ。」
リクヤは手短に説明をして降り立った。
「まったく、どいつもこいつも邪魔ばかり!!」
レインが叫んだ。
「狂気の波長!」
―ズァッ!
赤黒い波長が放出された。
「やべえ!!お前等、俺の後ろに隠れろ!」
リクヤは僕を後ろに追いやった。
―ズァァァァァ…
波長はリクヤが受け止めてしまった。
「狂気の抗体を持っていたか…この野郎めが…」
―ゾワッ…
レインの髪が逆立ったような感じがした。
「センネンは大怪我を負ってるな、だが、ミサは無事だ。」
リクヤは目線だけクモの巣に移した。
「あの二人は俺が運ぶ、サイモン、レッキのサポートをしてやれ。」
「了解、腕が鳴るね。」
リクヤはサイモンさんと交代した。
「相手が誰であろうと、無意味だ。」
レインは目を細めた。
「ミサはボクのものだ。貴様等には渡さん…“分解”」
―スッ。
「消えた!?」
背後から殺気が!
「ぐああ!」
リクヤの声だ。
「ガイアー!」
「中和。」
サイモンさんが咄嗟に腕を出してレインを殴っていた。しかし無傷だ。レインの腕にはミサが抱えられていた。
リクヤはどうしたのかというと、その辺の瓦礫に埋もれていた。
「ミサを返せ!」
「やだ♪」
レインは飛び上がった。
「ちくしょう…」
サイモンさんが悔しそうに唸る。
「サイモンさん、サポートよろしく。」
僕は目を細め、そう言った。
「僕を思い切り打ち上げてください。」
「ウン?何か打開策を練ったのかい?」
「…ええ。」
「わかった、気を付けてね。」
ガイアー!サイモンさんが叫んだ。僕の身体が腕によって空中に浮いた。
「瞬動!」
―シュバッ!
更に上昇!
「…。」
レインが僕をジッと睨みつけている。
「瞬動・音速。」
―ギュインッ!
一瞬でレインの背後に飛んだ。そして無詠唱神技!
『激震打!』
「中和」
―ガキン!
ダメだ…読み取られた。
「今のキミは空中では静止できるボクが有利だよ。…分解してやる。」
ごもっともだ。ならば…
「めちゃくちゃに飛び回ってやります!さすがのキミも攻撃しにくいでしょう!」
瞬動でヒュンヒュンと飛び回る。さぁ罠にかかれ!
「フン…ボクに追跡気弾が撃てないとでも思ったのかい?」
レインはミサを抱えていない方の腕で気弾を作った。
「誘導絶命弾!」
―ドンッ!
蒼い気弾が放たれた。凄いスピードだ。でも罠にひっかかってくれましたね。レイン。
―ギュン!ギュン!ギュン!
瞬動で僕は飛び回った。そして、レインの目前で軽く止まった。
「!!」
そしてミサを守るように頭を下げた。追跡気弾がレインの顔の前まで飛んできて…
「あ、中和―」
ドゴォォォォォォォォ…!!
見事に命中した。
「やったぁ!」
サイモンさんが声を上げた。
「やりやがったな!」
リクヤも笑みを浮かべている。脇に抱えられたミサは目を覚ました。
「レ…レッキ!」
「おはよう。」
僕はそのままリクヤのクモの巣に降り立った。
「ミサ、ゲットバック成功です。」
僕はそう言うと、レインを見た。煙の中から無傷のレインが現れた。
「あ、あいつ…」
リクヤが唸った。
「やれやれ…ピンピンしてますよ。」
ミサが震えるので片腕で抱きしめた。
「フン…自分の技くらい中和できるさ。」
そして笑顔でこう言った。
「それにしてもよくもボクにこれだけ攻撃を…どうやら徹底的に苦しみたいようだね。“構築”!」
レインは剣を構築した。ソレを見てリクヤは仰天した。
「剣だ!まさか…アレを俺にプレゼ―」
「アホか。」
適確な突っ込みだ。サイモンさん。
レインは剣を両手で持ち、大きく振りかぶった。
「気を付けろ…アイツ何かするぞ…」
リクヤが声を殺してそうつぶやいた。
「絶命…」
彼は剣を大きく振り下ろした。
「斬り!!」
―ザァンッ!!
斬撃だ。しかし、そのでかさは半端じゃない。
「ち、散れぇ!!」
リクヤの声と同時に、僕はミサを抱えて斬撃から飛び退いた。
ザァァン…!!
斬撃はグランマウンテンを切り裂いてしまった。化け物め…。
「ククククク。」
レインは剣を舐めながら笑っていた。ミサは無事か?ミサは僕の下でうずくまっていた。
―グググ…
鉄筋が重いですね。僕が止めなきゃ危うく下敷きだ。僕は背中に乗った巨大な鉄筋を持ち上げた。
「ミサ、怪我はないですか?」
「は、はい…」
ミサは青ざめた。僕の頭から血が出ていたんだ。
「大丈夫、かすり傷ですよ。痙攣しないで…」
ミサは必死で呼吸を整えていた。
「ごめんねレッキ、わたし足を引っ張ってばかりで…」
「とにかくおとなしくしてなさい。」
僕はそう言った。とはいえ、実は結構ヤバイ状況だ。身体が痛い。
「レッキ!!」
「大丈夫か!?」
サイモンさんとリクヤの声がする。
「無事ですよ。」
しかし…。僕の目線の先には、地球が割れたんじゃないかといわんばかりの巨大な傷が刻まれていた。
「いい切れ味ですね…」
僕は冷や汗を浮かべた。
「まったくだ、クソッタレ。」
サイモンさんもさすがに引きつっている。
「また避けられたか。…もう、ゲームは終わりだな。もう皆殺しだ。」
レインが何かつぶやいている。
「もう…この辺でフィナーレと行こうじゃないか。」
―ビッ!
レインがサイモンさんを指差した。
「体内分解」
―ブチブチ…
サイモンさんから何かが切れる音が響いた。サイモンさんは硬直していた。硬直していたのも一瞬だった。
ブシャアアアアアァ!!
おびただしい血が噴き出た。
「サ、サイモン!!」
リクヤが声を上げた。
「サイモンさん!!」
ミサが泣き声を上げた。
「き、貴様…サイモンさんに何をした!!」
「体内の臓器を分解してあげただけだよ。ついでに彼の傷の回復効果も中和させてもらったけどね。」
レインは笑いながらそう言い放つ。
『マ、マーチとの戦いの傷が…』
黒こげになったサイモンさんは倒れてしまった。
「これで後二人か…」
レインは笑顔で僕とリクヤを交互に見つめた。
「ミサは渡さんぞ…」
リクヤはリボルバーを構えた。
「そんなチンケなものでどうにかできるとお思いで?」
レインは指で四角形を作り出した。
「まずは貴様からだ総司令官!四方絶命砲!」
リクヤに向かって波動が発射された。
「うぉぉい!ベタ的にピンチすぎる!」
リクヤが叫んだ。畜生、こうなったら…。
レインの攻撃を真正面から受けてやろう!
「神技神腕…」
なんとか波動の前まで躍り出れた。
「レ、レッキ!ムチャはやめろ!」
やかましい、僕は最強の戦士シーク・レットの弟子だ!負けはしない!!!
「超・神打ぁ――ッ!」
―ドンッ!
渾身の力を込めた閃光が発射された!!
「ぎゃはは!!こりゃあいい!まとめて死ねぇぇ!」
―ズガァン!!
波動と閃光が競り合っている。
ガガガガガガガガガガ…
「うおおおおおおおおおお!!」
―グッ!
閃光が少しずつ押していく。
「!!…ば、ばかな!どうして分解できない!?」
―ぐぐぐぐぐぐ…
レインの目の前まで閃光は押されていった。
「神の力思い知ったか!!」
僕はそう叫んだ。
「ッ!!」
「―――――――――――ッ!?」
レインの叫びが聞こえてくるようだ。レインは閃光に巻き込まれて向かい側の壁に激突した。
「おぉ―――っ!」
リクヤが声を上げた。
―シュウウウウウウウ…
煙が立っていてよく見えない。
「や、やったか?」
リクヤが倒れそうになったミサを支えながら目を凝らしていた。
「…。」
なんてこった…ダメだった。
レインは笑いながら歩いてきた。
「…!!」
リクヤは青ざめた顔で後ざすりをする。
「そ、そんな…」
ミサが震え出した。やれやれ…こいつはもうどうしようもないな…。
「…貴様は神の力とか言ったか?そんなもん…クソ食らえだ!!」
レインは僕を殴り飛ばした。
「くはは!!」
「まずい…あいつ力を使い果たしたのか…」
リクヤは仰天した。
「…あ、あれ?ミサは?」
ミサはどこにもいない。
「くそっ!」
なんとか殴ろうとしても回避される。それどころからカウンターのアッパーを喰らってしまう。
「ガハッ!」
「ミクロマスター“結合”」
―ピッ!
腕が地面にくっついた。
「これで身動きがとれまい。」
レインは膝で僕の腹を蹴った。
「ボクのっ!邪魔をっ!するなっ!こしゃくなっ!国家の犬めっ!」
―ドガッドガッドガッ!
畜生、何もできない…。師匠に助けてもらうべきだった…そう思い始めた時だった。
ミサが両手を広げ、僕の前に立った。
「ミ…サ…。」
彼女はガタガタと震えている。無理しやがって…。そんなミサをレインは苛立った表情で睨んでいた。
「ぶっちゃけ、キミから“アルテマ白”は全て抜き取ったんだ。“入れ物”でも優しく扱ってやろうってのに、それを踏みにじる気かい?」
ミサは微動だにしない。
「に、逃げろ!逃げろミサ!!…ソイツはお前だって殺すかもしれないんだぞ!?」
腕の結合が解けたのを見て、僕は起き上がって叫んだ。
「はっはっは、失敬だなぁ…」
レインは笑いながらそう言って―
「その通りだぁぁぁぁぁぁ!!」
腕を突き出してきた。ミサを分解するつもりだ。
「ぎゃあああはははははははは」
その顔は血走っていた。血管は浮き出てもはや人間の顔つきをしていなかった。
僕はミサを抱きしめ、自分の背中を盾にする。でもこれじゃあミサも巻き込む。
『ミサが僕を守ろうとしたのに…僕は何も守れない。』
それは自分にとって最初で最後の挫折だった。
『サイモンさんも、センネンもロゼオも…誰も守れなかった。これだけの犠牲をはらったのに僕はコイツを倒せない!!どうすればコイツに勝てるんだ?どうすれば…』
「ぎゃはぁぁぁぁ!!」
レインの腕はもう目前だった。
「ヒッ…」
ミサは目を閉じた。
『もっと…もっと力がほしい。神様、本当にアンタがいるのなら…』
「僕にもっと力を!!」
僕は暗闇に包まれた空に手を伸ばした。
―午前0時36分 バリケード前―
さっきからどうなってやがる。山が真っ二つに切れたり、森を削り取るほどの波動が飛んできたり。
俺様、ドレッド・ノートはあまりのことにしりもちをついていた。
「臆病風に吹かれたか?国家戦士!」
目の前で軍兵をへし折った男は笑いながらそう言った。
「あんた、さっきの爆発をまともに受けて死ななかったのか?」
俺はゴショガワラに助けられたが、あの男は腕一本で爆発を抑えちまったんだ。
「当たり前だ。俺はあれから鍛えたんだからな。」
その男は軍兵の剣を受け止め、首を折った。化け物だ。俺が言うのもなんだが。
にしてもむかつくぜ。なんかコイツ、どっかで見たことのある感じがする。レッキみたいな。金髪だからか?
「よし、ここいらは全滅したな。」
すげぇ、一人で100人以上の軍兵を皆殺しにしやがった…。
「よぉし…」
長い金髪の男は、蒼の騎士団アジトを睨んだ。なにやら天から光がそそがれていた。
「行くかな。」
彼はさっそうと歩き出した。
「お、おい待てよ、アンタ…なんて名前だ?」
男は笑顔で振り返るとこう言った。
「俺はバロン・K・ジュード、生き別れの弟を探しているしがない旅人さ。」
―午前0時37分―
時が止まったかのようだ。暗雲がゆっくりと動き出していた。
僕のちょうど真上で、白い光が僕を照らしていた。
「し…」
それは、神技の最強の力であった。これで、みんなを守れと?
「神・解」
―カッ!!
僕の身体が輝いた瞬間、レインの腕が僕の頭を掴んだ。
「分解!!」
しかし、なんの反応もない。効かないからだ。
「?」
レインは眉をひそめた。これが神の力か…。
レッキの顔つきは鋭くなっていた。目は鋭くなり、金色に輝いていた。そして、額には白く輝く印が刻まれていた。
「下がっていろ、ミサ。」
レッキはゆっくりと立ち上がり、レインを睨んだ。
「は、はい…」
ミサがキョトンとした顔をしてそう言った。しかしレッキは比較的軽い足取りで歩き出したところだった。
―ザッ!
レインの前でレッキは立ち止まった。
『目付きが変わったか?いや、アイツ…全てが変わった?』
レインは眉を片側だけ上げた。
「瞬動…ライフル」
レッキは身体を屈めた。
「先制攻撃かい?バカだね。ボクの前では全て無効化できるんだよ?」
「そ、そうだ!やめろレッキ!」
リクヤの声がした。しかし、レッキは腕を構えてレインに飛びかかった。
「クス…バカめ…中和♪」
ドゴ
レインの腹にこぶしがめり込んだ。
「!!!!!!!!!!!!!!!!?」
レインは血反吐を吐いた。
「え…?」
リクヤは呆然と立ち尽くした。
「!!!…」
ミサも驚愕の表情を浮かべていた。しかし一番驚かされたのは紛れもなくレインだろう。
「うおおおおおお!?」
レインは腹を押さえながらうずくまっていた。
「おい。」
レッキが彼の目の前にいた。
「!!」
慌てて顔を上げた。
「中…わっ!」
―ドゥゴッ!
レッキの蹴りがレインに命中した。完全にダメージを与えている。
「どうだレイン。これが“痛み”だ!!」
レッキの口調は強く、また重くなっていた。
「お、おのれ…四方絶命砲!!」
レインはレッキに向かって波動を放った。波動はレッキを包み込む。
「あぁっ!」
ミサが声を上げた。
「ふ、ふはは!これだけくらえば木っ端微塵に……み、微塵に…」
そこにレッキはいた。服が少し破れているだけだった。
「木っ端微塵?ちょっと熱かっただけですよ。」
そう言うと彼はなんと笑みを浮かべた。それはまるでレッキに何かが憑依しているようでもあった。
「…………。」
レインは生まれて初めて自分の戦い相手に対する恐怖を覚えた。
「体内分解!!」
レインはレッキに指を向けた。
―バチバチッ!
レッキは一瞬震えたが、無傷で首の骨を鳴らす。
「フゥ…さっきまでの威勢はどうしたレイン。神なんてクソ食らえなんだろう?」
レインは震えていた。
「だ、誰だ?お前…」
「…誰だ、か…これは神が僕に託してくれた力。神解だ。師匠は何度か僕に見せてくれだけど、あれはこういう感じだったんだな。」
レッキはそう言うと、腕を構えた。
「千手神技・激震回旋曲(激震ロンド)!!」
―ズダダダダダ!!
何本もの腕がレインを殴り付けた。
「中和ぁぁ!!」
レインは叫んだがまったく効果はなさそうだ。
「千手だと?あれは千手観音か?」
リクヤが目を丸くした。
千手観音:名前通り1000の手を持つ観音であり、1本の手で25の悪を倒し、25の善を行うという力を持つ。
レッキは千手の力を手に入れたらしい。
第53章へ続く