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第53章:キミを救おう

―3001年 3月8日 午前0時39分 レッキVSレイン―

「は、ははは…」

レインは引きつった笑みを浮かべていた。

「い、痛い…ははは」
「今の内に降参しておけレイン。この力の主は、貴様を容赦できないらしい。」

レッキは金色の瞳でレインを見据えていた。

「お、おいおい、アイツは本当にあのレッキか!?」

リクヤは目を丸くして見つめていた。

「リクヤ、ミサを連れて逃げろ。他のみんなもだ。」
「ハァ!?」
「僕はまだ力を制御できない。みんなを巻き添えにしてしまうかもしれない。」

レッキの言葉に、リクヤはしばらく固まっていた。

「…。」

そして我に帰ると、ミサを抱きかかえた。

「や!離して!」

ミサは暴れる。

「やい若僧!死んだら容赦しねえぞ!」

リクヤは大声で叫んだ。

「わかってます。」

レッキは顔だけ後ろに向けてそう言った。

―午前0時42分―

「このボクを倒す気かい?」

レインは青ざめた顔でそう言った。冷静な顔つきに戻っていた。

「ああ。できるかわからないけどね。」
「キミのその姿はミクロマスターの法則を完全に無視してるね。じゃあ、今の形態じゃ勝てないね。ああ勝てないね。」
「何がいいたい。」
「ボクはね、父親から狂気を浴びされた存在だよ。本当は戦いたくない。人も殺したくない。世界の末路だって本当は見たくもない。でもね、止まらないんだよ。狂気がボクをどんどん蝕んでいく。ボクは狂気の怪物になるのさ。」

ぎゃはははははははは。笑い出した。

「ぎゃはっ!神様?千手?絶望?終焉?死去?平和?英雄?秩序?それがどうした?何も感じないね!ぎゃはっ!頭がおかしくなってきた!!神の力だろうがこのボクが…このオレがケシズミに変えてくれるわぁ!!」



「発狂!!」


―ズォォォォォォォォォ…

レインの髪が逆立っていく。目の色も大きく変わった。腕は巨大化して鋭い爪がのぞいた。

「クヒヒヒヒ…」

レインは笑いながら腕を向けた。

「分解してやるぅぅ。」
「フン、上等だ。」


―神レッキVS発狂レイン―


「分解!!」

レインの手から巨大な波動が発射された。

「瞬動!」

レッキは右に飛んだ。レインはそれにすぐさま反応して片方の腕を向けた。

「分解!」

波動がレッキに当たる寸前、レッキは分解された天井まで飛び上がった。

「ちょこまかと…」

レインは歯ぎしりをした。

「神化…」

レッキは壁を蹴ってレインに突進した。

「中和…はムダか…」

レインは両腕をクロスさせて防御の体勢に入った。

「乱打!!」

白く輝く手足でレインを殴り付けた。

「極斬刀!!」

レインはそれだけは回避できたようだ。空中で何かを構築した。

「処刑斧!!強化版!」

レインが振り下ろしてきたのは巨大な斧であった。レッキは咄嗟に手枝絡を唱えた。

「手枝絡・世界樹!!」

まるで巨大な樹木のように腕は斧に絡みついた。

「んんんんいいいいい!!」

レッキは処刑斧を横に倒した。シュルリ。背後からレインがねじれながら飛び出て来た。
レッキは両手をクロスさせて背後に手が出るようにする。ここまで約15秒経過。

「超・神打!」

レインは自分の腹に手を押し付けた。

「分解!」

―ジョバッ!

粒子が飛び散り、レインの腹に穴が開いた。

「なっ!?」

閃光は腹の穴を突き抜けていく。不気味にも程がある。ここでレインは後方に飛び退いた。

「ようやく貴様の弱点を読み取れたぞ。」

レインはおぞましい笑みを浮かべた。

「原理はオレの中和にソックリだな。オレの能力を完全無視して打撃を与えられる。だが、逆に波動は相殺できても打撃までは相殺できないらしいな。こんな具合に…な!!」

レインは波動を放った。波動の中には鉄の玉が混ざっていた。

「考えたな畜生が!!」

レッキは身体を器用に反らして鉄の玉を回避した。

「構築・バルカン砲」

レインの肩に巨大なバルカン砲が装備された。

「のわっ!!」

レッキはフットワークを駆使してそれらを回避していく。すると、周囲からトゲが生え始めた。

「錬金術か!面倒だな!!」

レッキは瞬動でその場から離れる。レインはすぐ目の前だ。

「激震打!」

レッキはレインの腹に激震打を決めた。

「グッ!」

レインは目を細める。

「下降掌!」

レッキは両手をクロスさせレインに更に重圧をぶつけた。

「何!?」

レインは叫んだ。

「覇王脚!」

最後の一発だ。神技の能力、連係ッ!

「激震重圧波!」



ズンッ!


「ごぶっ!!」

レインが重圧に飲み込まれ地面にめり込んだ。

「ノアの能力を学習しました。感謝してますよ、貴様の部下には。」
「ノアか…あのバカめ、余計なことを。」

レインが起き上がった。

「発狂は自分の力を向上させたんじゃないのか?」
「ナメるなよ。」

レインは口から流れる血を舐めた。洒落のつもりか?

『ガガガガガガガ』

突然奇妙な放送が流れる。

「…デストロイヤーか。」

レインはつぶやいた。

「デストロイヤー?なんですソレ。」

レッキは念話でシークから詳しい話を聞いていなかった。レインは笑い出すとこう言った。

「クヒッ…今見せてやる。蒼の騎士団最強の改造人間だ。」

そして、狂気に侵されし者は両腕を上に向けた。

「構築・デストロイヤー発動キー」



ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ…


何かが地面から盛り上がってきた。それは巨大な頭だった。金色の目が怪しく輝いている。

「うぉわっ!」

レッキは咄嗟に頭にしがみついた。怪物が盛り上がった跡には真っ暗な穴がポッカリ開いてるからだ。

「フハハハハハ!!どうだレッキ!これが破壊神デストロイヤーだ!」




軍兵を殴り飛ばしながらシークはソレを見た。

「カウントダウンが始まったか。信じてるぞ、レッキ。」




「どうだ!?ここは決着にふさわしい最高のリングじゃねえか!!」

レインが笑いながらレッキを睨んだ。

「…センスが悪すぎる。」
「ぎゃはっ!ほざけぇ。」

レインは腕を突き出した。

「瞬動!」

レッキはレインの懐に飛び込んだ。

「ムゴガッ!?」

レインの口にBMを押し込んだ。

―ダダダダダダンッ!

ちょっとグロいがレインの口の中に弾丸を発射した。

「…銃弾で死ぬと思ったか?」

レインは流血した顔をあげた。

「ですよね。」
「四方絶命砲!」

レインは波動を放つが、すでにレッキは消え去っていた。

「こっちだレイン。」

レインの後ろで、レッキは右腕を後方に大きく振り下げていた。

「激震回旋曲!」

―ドダダダダダダダ…

レインに再び激震が走る。

「最強の中和…無限世界!」

レインの5本の指から何かが放出された。それらは、激震打を受け止めてしまった。

「何っ!?」
「くははははは!!」

レインが突進してきた。

「絶命逆鱗!」
「手枝らっ…」

―ゴベッ!

レッキの腹にレインの頭突きが決まった。

「ちくしょっ…」
「構築・無限千輪」

レインは巨大な千輪を構築した。

―ギュイ―――ン!

凄まじい音が響く。

「死ねぇっ!」

レインは千輪を投げた。レッキはそれを危うく回避した。

「らぁ!」

レインが空中を舞ってレッキに腕を向けた。

「構築・合金手袋」

腕が金属の色になる。あんなのまともに食らえばレッキでもひとたまりもない。

「烈硬化・神盾!」

レッキの腕が巨大な盾に変化し、



ガキィィィィィン!!


金属がぶち当たる音が部屋いっぱいに響いた。

―午前0時49分 バリケード跡前―

「フゥ…ここまで来れば安全だろう。」

リクヤはセンネン・サイモン・ロゼオ・クリスの4人を一人で背負って来たのだ。計り知れない体力である。

「司令官殿!」

ドレッドが走って来た。

「よ…よくぞご無事で!」
「無事?冗談じゃない。なんで俺様だけ無事でなんなきゃならねえ。」

リクヤは眉をひそめてそう言った。
そしてドレッドが何かを言おうとする前に辛そうに4人を救護テントまで運んで行った。


「シークさんは何をやってるんだ。弟子がピンチなんだぞ。」

リクヤは爆音の響く戦場を睨みつけた。

「リクヤ…。」

スチルが顔だけをリクヤに向けた。目の前で軍兵を八つ裂きにしながら。

「レッキ君はどこよ?」

アリシアは息を切らしながら駆け寄ってきた。

「…中でレインと戦ってる…俺の付け入る隙はなかったよ。」

タバコを吸う表情も曇っていた。何もできなかった自分が許せなかったらしい。

「…相手が悪すぎたんだよ。殴ったり斬ったりでしか戦えないお前にはどうしようもない能力だ。ミクロマスターってのは。」

スチルは彼の横に立った。

「…知ってたのか?」
「今知った。ミクロマスターは外からでも凄まじい殺気を放つからな。」

そんな殺気なんて感じなかった。リクヤはますますうなだれてしまった。

「スチル、俺はなんで一般人なんだよ。属性魔法や能力紋を持てない俺がなんで総司令官になれたんだよ。」

悲痛な面持ちでリクヤはスチルを睨んだ。

「リクヤ…」
「俺は普通の人間だ。なのに、化け物レベルの12MONTH相手にも本気をまともに出さずに勝っちまう。でもいざとなると役に立たない。」
「それは違うわ。」

アリシアが肩に手を置いた。

「アンタは国家機関で一番努力をしている男よ。その努力はドン・グランパだって認めてる。何があっても決して屈しない精神を持つ。そんな強い男が総司令官にならなくてなんになるってわけ?」
「アリシアの言う通りだ。お前は、自分にできることだけをやればいい。あのメンバーの中では、レインとは恐らくレッキしかまともに戦えなかったはずだ。仕方がなかったんだよ。これは。」

―救護テント―

「俺はメガ生きてるのか…ハァ…」

ロゼオはうつろな目で横を見た。弱々しい笑みを浮かべたクリスが見つめていた。

「お互い強運スね。」
「確かにな。へへ…」
「屈辱的じゃ。このワシがこんなところに押し込められるハメになるとは。」

センネンは辛そうに身体を揺らしている。

「ねえ…」

サイモンは沈黙を解いて口を開いた。

「ミサちゃんは?どこ?」

「…。」

沈黙は数秒ももたなかった。



「ああああのバカ娘ェ!!」




薄暗い廊下を、ミサは必死で走っていた。

「レッキは一人じゃダメなんです!わたしだけでもいなきゃっ!!」

―デストロイヤーの上―

「フゥ…フゥ…」
「ゼェ…ゼェ…」

顔じゅうが血だらけになったレッキとレイン。もはや二人の実力は五部であった。

「絶命拳!!」

レインが腕を振り上げてきた。右フック!レッキは身体を反らして回避する、そして右フックの腕を両腕で掴み、彼の脚をもひっかけた。一本背負いが華麗に決まる。

「ぎっ!」

レインはうめいた。

「激震打!」

―ダンッ!

即座にレッキは神技を唱えた。レインは寸前でレッキの背後に飛んだ。

「ハッ!ぬるいな!!構築・アンカー!」

巨大なアンカーを作り、レッキの腹を切り裂いた。彼の胸元はパックリと裂けてしまった。

「…。」
「さぁ…もうすぐ決着がつくぞ。」

レインは楽しそうにそう言った。

「貴様が負けるのか?」
「オレは死なん。死ぬのは貴様だ。」

レインは血走った目をぎらつかせていた。

「デストロイヤーは後20分で動き出すぞ。」
「何ッ!?」

こんな怪物が動き出すのか?
レッキは青ざめた。

「この怪物はグランマウンテン一帯を焼き尽くし、そして周囲の大地をも焼き尽くす。焼き尽くし、焼き尽くし、ぎゃはっ!みんなみんな焼き尽き尽くす。言葉もおかしくなっちまたぜ、ぎゃははは!!」
「貴様の好きにはさせない…力づくで止め方を聞き出す!」
「イヒヒヒヒヒ。やってみろよ。」

レインの両腕が輝き始めた。

「この技でみんな消し去ってやる。最高の狂気世界を作るのはこのオレだぁ!ぎゃはははははは!!」
「…。」

レッキは唇を噛み締めた。

「そうはさせないよ。貴様は…キミは本当は優しい人間なんだ。狂気に感染されたから、おかしくなってるだけなんだ。」
「うるさい。オレは今のオレを気に入ってるんだ。」
「キミをこれ以上不幸にさせない。キミを救おう。神は僕にそう告げられた。」
「神なんていてたまるかぁ―――――ッ!」

レインは腕をクロスさせて、大声で叫んだ。

「夢幻世界・オーバードライブ!!」



ブアアアアアアアアッ!!


蒼い波動がレッキに牙を剥いた。

「…千手神技・激震回旋曲………一閃!!」



「神之御加護・後光閃光撃」


白い拳がレッキの身体から発動された。拳はレインの蒼い光りに激突した。


「うがっ!ぎぎぎぎぎぎ…」

レッキの方が押されている。

「中和・分解・抹殺・絶命!ぎゃはあああははははははは!!!」

レインは笑顔で両腕を更に押し出した。

「ぬぐぅあああああああああ!」

レッキはデストロイヤーから落ちそうなところまで押されていた。

「ぶち殺してやるぅああああああ」

レインの叫びは更に蒼い光りを強くする。

「救わなければ、僕は、こんなところで死ぬわけには…」

レッキは必死に堪えていた。その時、

「レッキ!」

ミサの声だ。

「ふっ!!」

ミサがレッキの身体を後ろから支えている。

「レインを助けてあげて、お願い!」

ミサは涙目で叫んだ。

「ミサ…」

レッキは笑みを浮かべた。

「もちろんだ。」

そして、腕を後ろに大きく振り下げ、

「グッ!」

力強く押し出した。

「ハッ…ハァ!?」

レインは声を上げた。神の拳は光をどんどん打ち消していく。

「な、何故だ!?何故競り負ける!?」
「今助けるよ。レイン。」



――――――ッ!


「ヒッ…あっ!」



拳は全てを打ち消して、レインに命中した。



「ぐぁ―――――――――――――――――」

狂気に侵されし青年は、拳に飛ばされて後方の鉄筋に激突した。

「ぐぇ!」

レインは最後にそう叫んで、気絶してしまった。同時に赤黒いオーラがレインから流れ出た。

「あれが、狂気…」

レッキは元の姿に戻っていた。

「レインは生きてるの?」
「ええ。」

きっとヒーローが大好きなレインに戻っている。
ミサはそれを聞くと晴れやかな笑顔を浮かべ、レッキに抱き付いた。

「さあ…残るはデストロイヤーだけだ。」


デストロイヤー発動まで、後16分


第54章へ続く

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