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第54章:笑ってさよなら

―3001年 3月8日 午前0時45分 レッキVSレイン―

「あと…16分か。」

懐中時計を見ながら僕はつぶやいた。何気にヤバイな。

「まだ神技は1、2回は使えます。ミサ、離れてなさい。」
「はい。」

巨大な身体は既に腹まで飛び出てきている。

あと10分

「物騒なモンを…虫唾が走る。」

早く超・神打で破壊しなければ。


「やめとけ。」


いきなり声がした。

「だっ…誰だ!?」

殺気じゃなかった。それでも僕は腕を後方に向け、臨戦態勢を作る。

「はっ!そういきりたつなっての。」

僕の真後ろには…長い金髪を持つ男が笑みを浮かべていた。
黒い上着を上に着て、その下は白いズボンに黒いブーツといった服装だった。両腰には長いサーベルが二本くくりつけられていた。

「ソイツは生半可な神技では倒せん。むしろ刺激を与えると逆に発動が促進させられちまう。…俺が協力してやるよ。」

青い目を輝かせてその男は歩み寄ってきた。

「それにしても…」

彼は懐かしそうに目を細めている。

「だ…誰ですか、アンタ―…ムゥッ!?」

僕の問いにまともに応じず、彼は僕に抱き付いた。

「こんなに…こんなに大きくなって…さっきお前を見た時は仰天したぞ。」

優しく頭を撫でられる。

「…?」

懐かしい…こんな感じ、前にもあったような。

「俺よか劣るがいい男じゃねえか。」
「あ、あの…」

ミサには何がなんだかわからない。

あと7分

「さあ、デストロイヤーを止めるぞ。時間がない。」

その男はデストロイヤーの前に立った。

「さあ、超・神打を放て!俺が受け止めてやる。」
「は!?」

彼に向かって撃てと?

「バカを言わないでください!死んじゃいますよ!」
「そ、そうですよ!」

僕とミサの声に、その男はニヤリと笑った。

「なぁに、弟なんぞの技で死んでたまるか。」
「…え?」
「さあ、来い!」

彼は自分の頬を叩き、気合いを入れる。膝に手を置いてキッと僕を睨んだ。

「ま…まさか…」

アンタは…。

「レッキ…?」

ミサはキョトンとした顔で僕を見上げた。



「兄さん!」


思い出した。本当に、幼い時、彼は僕を抱き上げてくれた。
その時の優しい目のまま。彼は笑顔で僕を見つめた。

「…こんな…。こんな再会ですいません…兄さん!!」

超・神打!!
僕は兄さんに向かって神技を発動した。どうするのかはわからないけど、兄さんならなんとかしてくれる。

「へへっ、すいませんか。お互い様だろうが!愛する弟よ!」

兄さんは恥ずかしいセリフをはき、両腕をクロスさせた。同時に赤いオーラが腕を包む。

「オーラ・ルベント・亜空間ゲート!」

兄さんは両手を円形に回転させ、なんと次元を“曲げた”。

「あれが兄さんの能力…」

奇妙な色のゲートが閃光を包み、そして、兄さんの腕にソレは宿った。

「次元の狭間で作られた、次元曲波動だ。お前の技はこれによって更に強化される!これにてお前の力は俺のものだ!!」

そして俺のモノになる!兄さんは両腕を上げた。

「無次元曲・超・神打!」

白い閃光はねじれた波動となって、デストロイヤーに命中した。



ドガァ―――――――――ン!!


「ぐがぁああああああ」

デストロイヤーが悲鳴を上げた。頭が削れていた。

「決定打だな。もう出てきてもすぐ死んじまうかもしれんが。お前をこの世界には出させん。」

あと5分

「ぐがががががががが、じじゃじゃじゃじゃじゃじゃじゃじゃじゃああああああ!!」

デストロイヤーは大声で吼え、そして地面から出ようと暴れ出した。

「恨みは弟が晴らしてくれたんだ!それをムダにはさせん!!」

兄さんはそれを上から押さえつける。

「曲がり死ねぇぇ!!」

まさか、あんな巨大な生き物を、“曲げる”気か!?

「ぐじゃがががああああ」
「お前等がしようとしてた全ての計画は、このバロン・K・ジュード様が曲げ倒してみせるぜぇ!!」

―ミシッ!

デストロイヤーの首から奇妙な音が響く。

「ま、まさか…」

―ミシミシミシ…

亀裂だ。デストロイヤーの首に深い亀裂が入っていた。



「運命ごと曲がれ!スラッシュ・ルベント!」


ベキベキベキ!


「ぎゃああおおおおお」

デストロイヤーは絶叫して、折れた首を奈落の底に落としていった。

「へそ曲がりが、てこずらせやがって。」

兄さんいわく、性根まで曲がったデストロイヤーは赤黒い狂気を放出しつつ、首と共に底に沈んでいった。


―3月8日 午前0時58分 国家機関VS蒼の騎士団決着 国家機関勝利―



―午前7時00分 グランマウンテン―

グランマウンテンには明るい日差しが差し込んできていた。まるで、ここに平和が訪れたように。

「いい天気。」

アリシアは朝日の眩しさに目を細めながら微笑んだ。

「ミサ!」

声がしたので後ろを見ると、シークがミサに抱きついていた。

「うおおおおおおお!!無事すぎやがって、心配したぞバカヤロー!」
「ありがとう、シーク。」

ミサは泣き叫ぶシークにギュッと抱き付きかえした。

「レッキ、お前もよくやったぞ。さすがは俺のスーパー弟子だ。」

シークは嬉しそうにレッキにシルクハットを向けた。
レッキは上半身は裸で、傷だらけだった。しかしその表情は比較的晴々としている。
彼はシークの言葉にあきれ、肩をすくめた。

「なんですかスーパーって。でも、ありがとうございました。師匠、アナタのおかげで僕は騎士団に勝てた。」

頭を軽く下げる。

「バーロー、俺は神技の基本を教えただけだ。これはお前個人の力だよ。」

わしゃわしゃ。シークは下げられたレッキの頭を力強く撫でまくった。

「レッキくん、ミサちゃん!」

サイモン達が走って来た。

「よく頑張ったね!ウン、本当にかっこいいよレッキ君。」
「よ…よしてください、照れるじゃないですかサイモンさん。」

嬉しそうなサイモンさんを押しのけ、ロゼオが笑いながらレッキの背中を叩いた。

「ふはははっ!ギガ、劇的なのはお前だったなレッキ!主役の座を劇的に譲ってやっただけあるぜ。」
「何それ、マジうざいから死んでくれないスか?」

クリスがカワイイ顔を限界までゆがめてそう言った。

「ハァアアアアアア!?」
「やれやれ、また喧嘩しよる。これこれ、100円あげるからやめんか御主等。」

センネンは鬼神と化した二人をなだめていた。レッキはオロオロしてそれを見ている。

「ちょ、ちょっと、せっかく勝利して嬉しかったのに…やめてくださいよ。」

ロゼオとクリスはギロッとレッキを睨んだ。

「メガ黙りやがれ、これは俺とこのアルミヘッドとの問題だ!」
「アルミヘッド?“へのへのもへじ”がよく言うッス!」
「へのっ!?“への字眉毛”がへのへのもへじに進化しやがったか!ハハッ!殺す!」
「ウルトラ上等!」

ダメだ。まったく聞いていない。

「はうえー怖いですぅ!」
「はっはっは!喧嘩するほど仲がいいというヤツだな。」
「師匠、二人をとめてくださいよ。」

ギャーギャー!

「平和だなぁ。」

スチルは後ろで騒ぐガキ6人とバカ1人を無視し、タバコを吸っていた。

「無事でよかった。ほんとに。」

アリシアは笑顔でソレを見つめていた。

「さて、貴様はどうすんだ?これから。」

スチルはタバコを足で踏んで、隣の岩山に座っているバロンに目を移した。
彼はクシャクシャになったタバコをふかしていた。

「ウッ!い、いつのまに!」

アリシアは目を丸くした。

「どうしようかな、俺は正義の味方になるために旅を続けてきたし、蒼の騎士団も倒してしまったし。」

レッキがバロンの存在に再び気付いた。

「おっと、俺達はおじゃまらしい。下がれ下がれ。」
「わっ!ちょっと!!」

スチルはサイモン達を無理やり遠くまで押して行った。


「兄さん…」

レッキは頬を赤らめて歩み寄ってきた。この人が兄さん。

「バロン…」

サイモンは涙声で震えていた。でも涙は出ない。出そうなだけ。


「わぁ、かっこいいッスねあの人。男の自分も憧れるッス。」

遠くからクリスがはしゃいでいる。

「死ね。」
「あぁ!?なんか言ったか?アメ白髪!」

またギャーギャー。


「なんだぁ?あいつら…よいしょっと!」

バロンは岩山から降りると、レッキの前まで歩き出した。

「さてレッキ、俺との再会の感想はいかがかな?」

目を細めてバロンはそう聞いてきた。
しかし、レッキはいつも通りの冷静な顔じゃなかった。目が潤んでいる。

「兄さん!」

レッキはバロンに抱き付いた。

「んんんっ!?」

ふざけるように質問したつもりだったのに。予期せぬ反応にバロンはかなり驚いた。

「兄さん、兄さん!兄さぁん…」

泣いてる。


「も、ものすごく泣いてる。レッキのやつ。」

ロゼオは驚愕の表情を浮かべていた。他のみんなも同様である。

「感動の再会ってやつか。泣かすぜ。」

スチルは無表情でそう言った。


「はあうううう、憎たらしい金髪が感動の再会してやがる、ひいうううう」

彼等の後ろの方で、ドレッドは感極まって泣きじゃくっていた。

「ベタだな。ああベタだ。みんな死ねばいいのに。いっその事俺がみんな八つ裂きにしてやろうか、そうすりゃベタじゃなかろう、ドレッド。」
「総司令官殿!?」


「バ、バカ!泣くヤツがあるか!!お前17歳だろ!?お、お、男なら…メソメソするな。」

顔を赤らめてバロンは無理やりレッキを引き離そうとしている。しかし凄い力だ。

「へっ、それは無理な相談だな、レッキの兄ちゃんとやら。コイツは10年間すっと独りぼっちだったんだ。我慢の糸が切れたんだよ。」

シークは察してやれよと肩をすくめた。コイツだけ二人の近くで一部始終を見ていたらしい。お前も察しろっての。

「…。」

バロンは泣きじゃくる弟の頭を軽く撫でる。

「ゴメンなレッキ、早く見つけてやれなくて。」

その後、レッキが落ち着くまで約一時間はかかった。



―午前8時15分 アジト跡―

国家機関の鑑識班も集まり、アジト跡の捜索が始まった。
生存している人間や捕虜達がいたら即刻保護、とのことだ。

「国家機関だ!」
「助かったぁ…。」
「ママのとこに返してぇ。」

大人、子供、男女関係無くそれらは地下に集められていた。

「これで…全員か?」

リクヤとスチルはそれぞれ小さな赤ん坊を抱えて外に出てきた。

「オンギャーオンギャー!」

これは赤ん坊の泣き声である。

「おーよしよし、ねーんねんーおくぅおるぅおぉるぅいゆぅおぉぉぉ」
「こぶしを利かせて歌うな馬鹿者。」
「オンギャアアアアアァーオンギュアアアアアァー!」

これは赤ん坊の泣き声である。

「しっかし、泣きやまねえなぁ…。俺ならマッハで寝るのに。」
「ベタ嫌いの貴様に赤子が付いていけるか!どれ、見せてみろ。…おぉ、お前の持ってる赤子、たった今お漏らししたぞ。」
「おんぎゃあああああああああああああああああ」

これはリクヤの泣き声である。


「レインはいるかな…」

レッキはミサとロゼオを連れてレインと激闘を繰り広げたあの部屋まで歩いて行った。

「マジであの化け物を生かしたのかよ、お前、メガイカれてるぜ?」
「違いますの!」
「…ここだ。」

レッキは足をとめた。もはや部屋じゃなかった。
瓦礫だらけで、天井は抜け落ち、鉄骨だけが申し訳なさげに立ちすくんでいた。レインは、いない。

「…」
「ほらみたことかぁ!逃げちまったじゃねーかアイツ!」

ロゼオはカンカンに怒っている。

「まあまあ、とにかく探しましょう、あの怪我ではそう広く動けないです。」

そしてレインの捜索は始まった。レッキ達は瓦礫を一つ一つひっくり返していく。

「レインいないなー。」

ロゼオは嬉しそうにそう言った。いない方が安心だからだ。

「俺は向こうで飯でも食ってくるぜ。国家機関から飯の配給があったんだ。」
「そうですか、じゃあ僕とミサはもう少し探してますよ。」
「おう、程々にな。」

ロゼオはビュンと飛び去って行った。

「…。」

態度が少し気に入らない。

「仕方ないよレッキ、みんなはあの怖いレインしか知らないんだよ。」
「わかってますよ…ん?」

レッキはかすかに向こう側の瓦礫が動いた気がした。

―ズボッ!

腕が突き出た。

「えっ!?」
「あっ!」

そこからでてきたのは、紛れもなくレイン・シュバルツだった。
レッキは一応腰にくくりつけたBMに手を当てていた。

「…。」

レインはゆっくりと顔を向けた。レッキとミサに目を移していった。

「…。」
「…。」
「…。」

3人は沈黙を続けた。そして、


レインが笑った。


おぞましい笑顔じゃない。優しい、希望に満ちた笑顔だった。

「レイン…」

レッキはホッと胸をなでおろした。

「ありがとう。レッキ、ミサ。」

今までのレインではない。穏やかな口調になっていた。

「レイン…」

ミサは笑顔を返して、レッキを見上げた。

「…!!」

ミサは目を丸くした。レッキも笑顔を浮かべていた。
レッキもレインも重い物を背負って生きてきた。それが今なくなったんだ。
二人は自由になったんだ。だから、二人は笑った。

「さよなら。」
「うん、さよなら。」

レッキとレインはそれぞれそう言った。そしてレインは胸に手を当てて、

「分解」

粒子となって消え去った。

「うおぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!」

ロゼオが引きつった顔で飛んできた。

「レレレレレインがメガいまくったじゃねえか!どこだ!?レインはどこにいやがる!?」
「もう…消えましたよ。」

レッキは笑顔でそう言った。

「!?…レッキ、お前、笑っ…!?」
「さぁ!みんなのところに帰りましょう。ね、ミサ。」
「…うん!」

レッキとミサは驚いているロゼオを押して、みんなのところへ戻って行った。




―同じ頃 ???―

「蒼の騎士団?何ソレ。」

薄暗い部屋で3人の男が会話をしていた。一人は紫色の髪で、猫のように耳がとんがった男だった。

「デスなんたらがボスのしょうもない組織だよ。」

そう言ったのは、食虫植物のような頭をした奇妙な生き物だった。

「へぇ~ソレは知らなかったぜ。だが、今完璧に知ったぜ。」

紫色の男はニヤッと笑った。

「すぐ忘れるくせに。おひょひょひょひょ♪」

もう一人の、まんまるで太い触角の生えた男は笑いながらそう言った。

「あんだとぉ!?」
「まあまあ、喧嘩はよしたまへ。」

食虫植物は二人を引き離した。

「スペード、アンタもアンタだ!隊長格なのに下級隊長の教育を怠りやがって!」

猫耳は怒りながら叫んだ。

「おや?チェシャ、スペードさんはあの人の右刀格になったはずでは?」

丸い男はそう問い掛けた。

「…え?…あれぇ?」

その問いに、チェシャと呼ばれた男は腕を組んだ。

「あれぇ?あれあれぇ?…ニヤァ…忘れてたぁ!」
「早速かい!」


コイツ等が蒼の騎士団に引き続く、国家を揺るがす犯罪組織“トランプ戦団”だ。

第55章へ続く

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