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第55章:レインの冒険

あれから約一ヵ月後…

―3001年 4月1日 午前8時30分 ???―

そもそもボクは貴族育ちの存在。それがいきなり外の世界に飛び出たんだから。そりゃあ、戸惑うよ。

「このリンゴは一個2グランでさ!」
「はい、おつりちょうだい。」

ボクは金色の金貨を一枚店主に手渡した。

「まいど―…?」
「な、何?」
「む、無理です。こんなに高価な硬貨じゃオツリが出せません!!後悔してます。高価なだけに。」
「えぇ!?そしてうまくないし!」

金持ちすぎて逆に買えない。みんなしてなんだよ。1000000000000グラン硬貨のおつりくらい出せないのかい。

「畜生、おなかすいたな。」

ボクは今“天の柱”という都市を放浪していた。
ここはいいよ。いたるところに水路があり、みんなはそこをボートで移動する。上空から見れば街の3割が水路で構成されている。
いわば水の楽園ってやつさ。ボクの“お気に入り”の国だ。“征服”したい♪…だが、夏場には蚊柱とか発生しそうだね。

「いっそのこと働いてみようかな。」

いや、やめとこう。仕事なんて貴族のボクには似合わない。
それにボクは“悪魔の子”だ。人とまともに付き合っても、不幸を招くだけだ。それがオチなんだよ。

「ん?」

ふと横を見ると、オッサンが空を見上げている。と、いうより、その“柱”を見ている。

「もうじき天の柱から噴水があがるな。」

その声に、隣にいたオッサンは振り返った。

「マジか?じゃあ、傘の用意をしなきゃな。」

噴水?

「ねえ、この巨大な柱から水が出るの?」

ボクはそのオッサン達に声をかけた。

「ん?あぁ…観光客かアンタ。ああそうだよ、一週間に一度、この天の柱から“ろ過”された海水が噴き上がる仕組みになってるんだよ。」
「へぇ~それは知らなんだぁ。」
「もうじきだから、楽しみに待ってなよ兄ちゃん。」
「いいよ、上から見る。」
「へ?」

オッサン達は空中に浮くボクを見て仰天した。

「無理もない。キミ達は貴族じゃないから空は飛べないんだよね。」

貴族は普通空を飛べない。そのツッコミはじきにレッキにされる。

「うわぁ、しかしじかに見てみるとやっぱでかいなぁ。」

ボクの目の前には、グランマウンテンが10山収まるんじゃないかと思わせる程の超巨大な柱であった。天までグッと伸びている。

「ここから水が出るのか。へぇ~!へえぇ~すごいなぁ~!」

ボクは柱をパンパンと触ってみたり、一周回ってみたり。色々やってはしゃいでいた。背後の気配にも気付かずに。


「おい」
「えっ!?」

ボクは咄嗟に顔を下に傾けた。

―シュバッ!

何かがボクの頭上をかすめた。ボクの後ろ髪をちょっと持ってかれた。

「なんだ!?」

背後にいたのは、ボクより少し年上くらいの青年だった。
上着からズボンまで深緑色で、黒髪はワックスかなにかでカチカチに整えられている。そしてその目付きは、エジプトの壁画みたいな単ちょ…個性的な目付きだった。

「…。」

ソイツはこぶしをジッとボクに向けている。…ってことは、今のはコイツがやったのか。

「いきなり失礼じゃないか。ボクは貴族だぞ。貴族に気安く波動攻撃していいと思ってるのか?」

貴族に気安く波動攻撃をしてはいけないという制度はない。
そのツッコミもじきにレッキにされる。

「やかましい、属性魔法による空中浮遊をできる人間は限られている。“国家機関”か、“十二凶”かだろう…実に単純かつ明快な推理だ。だが、俺はどちらにしても完膚なきまでに叩きのめす。」

ああ、そうかい。

「じゃあもう一つ質問させてくれ。キミは誰だい?親は?家族は?…是非とも合わせてくれ。ボクの後ろ髪1.5cmの慰謝料を請求したい。」

レインはビシッ!と男に指を向けた。

「…俺は…ジャック。“ジャック・サルマン・ジョーカー”だ。ファミリーは、トランプ戦団。親には合わせられん…慰謝料も無理だ。」
「慰謝料が無理?理不尽だ!」

それは違うぞ。そのツッコミですらじきにレッキにされる。

「話を戻すぞ。貴様を完膚なきまでに叩きのめしてやる。」
「いぃやぁだぁ!」

イー!その男に向かって挑発してやった。

「…。」

微塵も動じていない。不気味だね。

「口に気をつければよかったと、後悔するハメになるぞ。俺はこう見えても気が短い男だ。」

シュッ。ジャックはそのまま見えなくなった。

「えっ!?消えた!?」
「消えた、か。幼稚な表現方法だな。」

背後から声。

「四方絶命砲!」

両手を後方に向けて波動を発射した。だが、そこには無傷のジャックが浮いていた。

「え…?」

―ヴヴヴヴヴヴヴ…

ジャックが激しくブレだした。

「これは…残像?」
「それこそ幼稚な表現だ。そいつは、5秒前の俺だよ。」

今度はどこから声がするかわからない。

「そしてこれが―」



「今の俺だ。」
 


バジュッ!


「ゴブァッ!?」

ボクの脇腹を何かが突き抜けていった。
中和よりも早く?ありえない。ボクの意識は、天の柱付近の地面に激突するまで戻らなかった。



「…。」

ペロ…ジャックは頬に付いた血を舐めた。
その後耳に取り付けられたイヤホンに手を当て、何かを言い出した。

「エース。空中浮遊をしていた不審人物を下に落とした。ハートと捜索してくれ。」
『わかった、特徴は?』

元気のいい男の声が返ってきた。

「青い髪に、青い軍服、そして青いマント。胸のマークらしき部分は黒く塗りつぶされてた。」
『変な格好~♪』

今度は生意気そうな女の声。

「じゃ、探しておけよ。俺は“あのお方”に報告してくる。」

ジャックは身体を大きく屈めると、

―シュバッ!

消え去った。



「お、おい!大丈夫かアンタ!」

目が覚めると、街の人々が集まっていた。

「う~ん…」
「いきなり空から落ちてきたから驚いたよ。」

一人の男性が助け起こそうとしてくれたが、

「!あぁ!脇腹が裂けてる!!」

そう叫んで掴んだ腕を離してしまった。

「キャ―――――ッ!」

悲鳴も上がって大騒ぎになってしまった。

「裂けてるって…」

ボクは右脇腹を見た。脇腹がパックリと裂けていて、切れた腸が露出していた。
今朝食べたプレーンオムレツがはみ出ている。

「あぁん…痛いなぁもう。」

ボクはそれを軽く撫でる。

「臓物・構築+傷・中和。」

ポゥ…傷は見事にふさがる。

「えぇ!?」

街の人々は仰天して硬直してしまった。

「心配ありがと、じゃね。」

ボクはすぐさま走り出して、路地裏に入り込んだ。



「ここらに落ちたんだよな。」

群集の中でキョロキョロと辺りを見回しているのは、坊主頭の男性だった。30代後半のようである。

「ひとたまりもないわね。可愛い子ならもったいなかったわ。」
「アホか。」

下手な冗談を言っているのは、黒く長い帽子をかぶった金髪の女性だった。
言ってる事がまったく違うこの連中。共通点は一つ。二人とも、ジャックと同じ目つきだということだ。

「ダンプティ・ハンプティ。キングとダイアに伝えてくれ。侵入者だ。ってな。」

イヤホンを押さえながら男性はそう言った。

『うひょひょ、わかったぃ』

気持ち悪い笑い声はすぐに途絶えた。

「青い髪ねぇ…そういや、こないだ壊滅した蒼の騎士団の総統、デスライク・シュバルツの息子だけ捕まってらしい。」
「マジで?」
「おうよ、ま、レインの場合は何も悪事はしてないし、ギリギリ軽罪で済めばいいんじゃね的な感じなんだけどな。」
「へぇ~」
「でも、それはちょっと軽い気がするな。十二凶の俺が言う程だぜ。ゆるいゆるい。」

坊主頭は眉をひそめてそう言った。金髪の女性は「フゥン。」とまったく興味がない様子。

「いねぇな…」

坊主頭が立ち止まった場所は、レインが“墜落”した現場だった。血のシミが落ち具合の酷さを物語っている。

「いねぇな…おいジジイ!ここにいたガキはどこにいった。」

坊主頭は近くにいた老人を揺さぶった。

「ヒィッ!し、知らんわい!今立ち上がって立ち去ってしまった!」
「立ち上がっただとぉ!?なんで地面に激突して立ち上がれるんだよ!かくまってんだろぉがぁ!!」

怯える老人の代わりに若い男性が叫んだ。

「ほ、本当だって!さっき傷をさすって路地裏に逃げちまったよ!」

坊主頭は老人の襟首を離し、路地裏を睨んだ。

「路地裏か…行くぞハート。」
「オッケィ、エース。」

二人は呆然と立ち尽くす民衆達を押しのけ、路地裏に入り込んでいった。



「いたた…」

“傷が存在した場所”をさすりながらレインは歩き続けた。

―がたん!

ゴミバケツを倒す。

「貴族のボクが…ハァ…なんでこんな目に…」

必死に目の前を進み続ける。あのジャックとかいう男は異常だ。
前に狂気に感染されたボクにソックリだった。

「もう…狂気にはかかわらないつもりだったのになぁ!」

レインは軽く悪態をつき、路地の奥の奥。荒廃した路地に入った。
ホームレスが一人毛布にくるまっていた。

「おぉぉ…お恵み…を…」

ガリガリだった。今にも死にそう。レインは一瞬戸惑ったが、自分の腹に手を当てた。

「オムレツ・構築」

腹からオムレツが構築された。レインの口に入る前のオムレツ。

「これでよければ…」
「あ、ありがとぉ…」

ホームレスは夢中で食べ始めた。

「あと、これもあげるよ。」

レインはこの国では役に立たない1000000000000グラン硬貨を手渡した。

「希望は捨てないで。じゃね。」

レインは鳴り出した腹をおさえて走り出した。

「天使のような子だ。」

ホームレスは涙目でそう言った。



一方、セントラルにて…

―花畑―

「うわぁ!」

ミサは目を輝かせてそれを見た。サイモンさんだろうか。種をまかれ、それがもう花を咲かせていた。

「キレイ…」

ミサはうっとりとした顔でそれをしばらく見つめていたが、やがて飛び込んだ。

「お、おい!」

僕は声を上げた。

「えへへー♪」

ミサが顔を出した。彼女の頭にはたくさんの花がついていた。まるで彼女の頭に花が咲いたみたい。

「…プッ…あはははははははっ」

僕はこらえきれずに笑い出した。

「…っふふ、あはははは♪」

ミサも笑った。

「バカだなぁ、もう…」

僕は彼女の元へ駆け寄り、花を払い落とす。

「あっ!」

ミサはしゃがみこんでその花を集めた。

「…何をするんだ?」
「見ててよ…」

ミサは花を器用に繋ぎ合わせていく。

「できたぁ!花の王冠~♪」

ミサはカワイイ王冠を僕の頭に乗せた。

「似合いますの♪」
「ありがとう。」

僕は笑顔でミサの頭を撫でた。

「レッキー!」

センネンが走って来た。おやおや、彼には珍しく慌てている。

「どうしました?」
「ハァ…ハァ…く、クリスをとめてくれ!ワシにはもうどうしようもない!」
「ハァ?」

僕はミサと顔をあわせた。

―午前8時47分 裁判機関宿舎―

「結婚してください!」

第一声コラァ。クリスは裁判機関の宿舎にて騒動を起こしていた。
サイモンさんとロゼオも顔をしかめている。サイモンさんは表情わかんないけどね。
センネンの説明によると、彼がジョギングをしていた時、たまたま立ち寄ったクリス宅にて、クリスが朝届いた手紙を見たまま硬直していたという。
その後、センネンを見たら、

「結婚してください!」

そう、こう言われたとか。今度は僕に向かってほざきやがった。

「何を言うんですかクリス。」
「結婚してくれなきゃ困るんです!うぅ!恥ずかしい!」

クリスは顔を真っ赤にしてしゃがみこんだ。恥ずかしいのはこっちだ。

「なんで恥ずかしいワードを連呼するんですか。仲間としてはっきり言いますが、病院に行きましょう。」
「お、おいレッキ君、視点が違うよ。」

サイモンさんにそう言われた。

「だって、自分は男なのに男に求婚しているじゃないスか!恥ずかしい以外に何が言える!」

ふっっっっつうのことじゃねえか。

「なんで“いきなり”、“男”と結婚したがるんです。手紙の内容を説明しやがってください。」
「は、はい…。」


愛する我が
息子、クリスへ

クリス、貴様はまだ
をもらっていないようだな。

一族を牛耳る
なら、をとって私の前に連れてこい。

期限は3日。

期限内にできんなら、国家職員など辞めろ。

我々の故郷で永遠に暮らしてもらう。

以上!

貴様が愛すべき父親、ナイチェルより


「と、いうわけです。結婚してください。」

納得いかない。

「嫁と書いてありますが、それは僕達のことですか?」
「もっちろん。」

もっちろんて言われた。

「嫁といっても肩書きで結構!きちんと
女性の格好をして父親のとこまで行ってくれればいいスから。」


ちょっとまて。


「まずレッキかセンネンだな。」

ロゼオは腕組みをしながらそう言った。

「女装するなら童顔の男が適当だ。」
「ロゼオ…」

サイモンさんが青ざめながらそう言った。

「断らせていただきます。」
「ワシも。」
「馬鹿野郎。お前等クリスがギガ連れてかれてもいいのかよ。」

こういう時だけクリスの味方ですか。

「なんだぁ?朝っぱらから騒がしいなテメェ等。」

あ、兄さんだ。最近よく遊びに来る。だが今日は少し様子が変だ。
彼の胸にはコスモスと描かれたバッジが付いていた。

「兄さん。ソレ…」
「お前の師匠とやらが無理やり押し付けてきやがった。“チームコスモス・保護者役”だ、そうだ。」

嫌悪そうに兄さんは口をとがらせた。

「面倒だぜ。ガキ共のお世話なんざ向いてねぇってのに。」
「ウン?僕も保護者役なんだけどな。」
「サイモンは“ますこっと役”じゃろ。」
「ウンンン!?」


「そういやどうしたんだ。何を騒いでやがる。」
「実は、これこれしかじか…」
「うぉお!なんか複雑じゃないの!面白いな!」

面白くない。

「お前が結婚しろよレッキィ!クリスはいいおん…男じゃねえかぁ!」

なぁにをぬかすかこのバカ兄貴は。

「嫌ですよ!僕は女性に関する事はもうこりごりなんです!(外伝4・参照)」
「いい機会じゃないか。世の中には“こういう社会”も存在するんだってギガわかるんだぜ。」

今日のロゼオはどうかしている。

「じゃあ、レッキに決定ぃぃぃぃぃぃぃ」

ええええええええええええええ!?


遠くからセンネンは安堵の息をついた。

「よかった、ワシじゃなくて。」


そして、僕達はクリスタルパレスに向かうことになった。



納得いかん!!


第56章へ続く

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