第2話 旅路
リズロが自然の国を出発して、数分が経った。
炎の国へ続く道をまっすぐ歩いていると、ペンダントが光り、あの声が聞こえる。
“リズロ!敵だ!”
「え、えぇ!?」
リズロが後ろを振り向くと、そこには魔物が襲って来ていた。
あまりにも突然だったので、リズロは反応できず、頭を抱えて座り込んだ。
やられる!
そう思ったが、あれ?
目を開けると、自分にバリアが纏っていた。
これは一体どうしたことだろう?
“まったく・・・世話の焼けるやつだ。”
そう、このバリアは、この声の主が放ったものなのだ。
「ご、ごめん・・・。」
“そんなんじゃ、魔王だって倒せないぞ?”
魔物は攻撃を繰り返すが、バリアはびくともしない。
“その剣は何の為にあるんだ!ちゃんと使って戦え、リズロ!”
「う、うん。」
リズロは立ち上がり、背中に背負っている大きな剣を抜き取る。そして構える。
体勢を低くして、そのまま突進する。間合いを詰めたところで、大きくジャンプをし、剣をあげ、それをおもいっきり振り落とすようにして斬る。
魔物は真っ二つに割れ、砂と化する。
「や、やったぁ!」
“喜ぶのはまだ早い。次がくるぞ。”
「わ、判ってるって!」
リズロは、襲い掛かってくるもう一匹の魔物に、強い一撃をお見舞いしてやった。
この魔物も、砂と化した。
「はぁ・・・。」
“この辺はどうやら魔物が潜んでいるようだな。気を付けろ、リズロ。”
その声を聞いて、「はいはい」と頷くリズロ。
しかし、ここではっとなる。
「そういえば、君は僕をサポートするように話しかけてくれるけど、一体何者なの?」
“あ、そうだったな。私はこのクリスタルの妖精だ、とでも言っておこうか。”
「クリスタルの妖精?」と首を傾げるリズロだが、考えてみれば、今までこの声が聞こえる度に、クリスタルが光っていたのだ。
この声の主が、クリスタルの妖精というのも納得がいく。
「じゃ、聞くけど、妖精なら何でクリスタルから出てこないの?」
“その時になったら、出てきてやる。”
「その時って・・・出て来てくれなきゃ、僕が一人で喋っているように思われるでしょ!?」
・・・・・・・・・。
沈黙、クリスタルの光が消えていく。
「あ!ちょ、逃げないでよ!」
結局、クリスタルの光は消えてしまった。
「まったくもぅ・・・。世話が焼けるのはどっちだよ・・・。」
リズロがぶつぶつと呟きながら、旅路を進む。
ぐ~・・・。
「・・・・・・。」
“お~い!腹の虫がこっちに響いたぞ~。”
「変なところで声かけないでよ!つーか出て来い!!」
・・・・・・・・・。
「あー!!また逃げたぁ!!」
幸い、この旅路には人が通っていないため(魔物が現れたので、人何ざ通るわけはないのだが)、この会話を聞かれずにすんだ。
しかし、ここで人が歩いていたとすれば、これは滑稽な姿だ。通行人は釘付けだろう。
「もういいや・・・。携帯食料入れたし、それでも食べようっと・・・。」
リズロは、ちょうどあった岩に腰掛け、腰ポーチから携帯食料を取り出す。
その携帯食料とは、固形のお菓子のようなもの。だが、それには大体の栄養が含まれているのだ。
リズロは、その固形食糧を1つ食べる。
しかし、どんなに栄養が含まれていようと、腹の足しにはならない。
仕方なく、違うポケットから、「グミ」と呼ばれる小さな果物を取り出して、それを食べた。ちなみに、りんご味。
グミは固形食糧と違って、特に栄養とか含まれてるとかそういうものではないが、おやつ感覚で食べられる果物だ。
何気に、腹の足しにもなるため、旅に出るにはうってつけの食べ物なのだ。
「はぁ・・・何とか腹の足しにはなったけど・・・まだまだ遠いなぁ・・・・・・あ。」
リズロは、忘れていたことを思い出した。
それは、このクリスタルの妖精の名前だ。
名前が分からずにいれば、いつまでたっても何て呼んでいいか分からないままだ。
「ねぇ、ねぇ、ちょっと・・・。」
呼び方が分からないので、適当に呼んでみる。
すると、ペンダントが光る。
“何だ?”
「君の名前、聞くの忘れてた。何て名前なの?」
“名前か・・・・・・私の名前は・・・・・・ない。”
「え!?」
名前がない!?そ、そんな馬鹿なことがあってたまるか。
“大昔には名前はあったんだが、その名前が分からない。
クリスタルの所持者が変わったせいだな。”
「えと、つまり、僕が名前を付けなきゃいけないということなの?」
“それしか考えられないだろ?”
リズロはため息ひとつついてから、妖精の名前を考え始めた。
そして、思いつく。
「じゃ、今から君の名前は、らr・・・。」
“ストップ。それはやめろ。”
妖精は、リズロの言葉を遮った。
「何でさ!?」
“その名前は、他の小説に使われているだろうが。”
「ここにきて、リアル的な話題!?」
“とにかく、他のにしてくれ。”
「はいはい、分かったよ・・・。」
再び、リズロは考え出す。
一度考えが浮かんだものをやめ、違うものを考えるのは、リズロにとってちょっと難しいことだった。
それ故、考える時間も長い。
約5分ほど、ようやく他の名前が浮かんだ。
「じゃ、『クラード』ってのはどう?」
“それはどういう意味だ?”
「特に意味はないよ。それでいいでしょ?もう、限界だよ・・・。」
“悪くない名前だ。「名前登録『クラード』」っと・・・。”
こうして、この妖精の名前は、「クラード」となった。
すると、ペンダントが光り、そこからクラードらしき妖精が現れた。
「・・・・・・。」
≪・・・・・・。≫
「ねぇ、『その時になったら、出てきてやる。』って言ったよね?」
≪・・・・・・き、きっと名前をつけてもらったからだ!!≫
「無理な理屈をはくな!!」
傍から見れば、リズロとクラードは漫才コンビに見えるだろう。
クラードの姿は、ペンダントと同じ、エメラルドグリーンがベースとなっていて、髪型は後ろで縛っているような感じだが、決してポニーテールではない。
リズロと少し似たような服装をしていて、後頭部のほうにアクセサリーのようなものを付けている。
そして・・・・・
「・・・ねぇ。」
≪な、何だ?≫
「何で羽がないのに飛んでるのさ?」
そう、クラードには妖精の羽がなかったのだ。
しかし、空を飛んでいるのは、事実である。
≪リズロ・・・すべての妖精が、羽を持っていると思ったら大間違いだぞ?≫
「え?じゃ、これからうちわもって飛ぶとか?」
≪どこの妖精だ、どこの!?≫
と、そんな会話はこの辺にして、ようやく休憩時間終了といったところだ。
再び、火の国に向かって歩き出した。
「あ、そういえば、もうすぐ鋼の国が見えてくるころだよ。」
と、リズロが突然言い出した。
≪行った事があるのか?≫
「うぅん、行った事はないけど、昔、そこの王子様と遊んだことがあるんだ。」
そして、リズロは語りだす。
確か、僕とレイがまだ幼い時だったかな・・・。
いつものように、冒険ごっこしてて遊んでた。
そこに、ある男の子が来てね、名前はスチルっていってた。
服装は、どことなく王子様って感じで、聞いてみたらほんとに王子様だったんだ。
スチルは、鋼の国の王子様で、次期王となる立場だったんだ。
で、その為にはいろいろ習わないといけないからって、いつも家にこもりっきりで、外には出してもらえなかったらしいんだ。
それで、思い切って家出してきて、自然の国に来たんだ。
スチルも、僕らと同じぐらいの年で、外に出て遊びたかったんだって。
それで、その日はスチルとずっと一緒に遊んだんだ。
でもさ、やっぱり見つかっちゃって、スチルは鋼の国に帰ったんだ。
それっきり、スチルにはあってないんだよね・・・。
そういいながら、リズロはしみじみと感じていた。
≪だがリズロ、私たちは炎の国に用があるんだ。鋼の国で油を売っている暇などないぞ?≫
「何言ってるのさ!魔物は全国を襲っているはずなんだよ!?鋼の国も、襲われているはずだ!」
≪だから、助けに行く・・・というわけか・・・。≫
リズロは力強く頷いた。
それを見たクラードは、やれやれと首を振り、言いたいことをリズロに話し出す。
それは、魔物にそれぞれの属性がついていることだ。
15の国(今は14だが)があるように、魔物にも15種類の属性があるのだ。
つまり、炎は草に強く、草は水に強く、水は炎に強くといったような感じだ。
ちなみに、鋼は炎に弱い。
「・・・えと、つまりだよ。僕が鋼の国を助けようとしても、炎属性の魔物に返り討ちにあうって事?」
≪そういうことだ。≫
「でも、僕はあきらめないからね!」
そう言って、そろそろ見えてくるだろう、鋼の国に向かって走り出した。
しばらく走っていると、今にも魔物に攻撃されそうな人物が、リズロの視界に入った。
「あれは、もしかして・・・!」
ちなみに言っておくが、読書好きなこのリズロ、意外にも視力がいいのだ。
リズロは走るスピードをあげて、その人物の元へ向かう。
そして、走る勢いでジャンプして魔物を一刀両断。
魔物は砂と化する。
「スチル、大丈夫?怪我はない?」
「う、うん・・・。」
その人物とは、リズロがさっき話していたスチルであった。
スチルはうつむいていた顔を上げ、目の前にいるリズロを見て驚いた。
「り、リズロ!」
「ふふ、久しぶりだね、スチル。まさかこんな形で再開するなんて思わなかったよ。」
リズロはそう言って、剣を背中のホルダーにしまう。
「わーかっこよくなったね・・・。」
「そ、そうかな~。」
リズロはそういて、頭をかいた。
と、スチルは「レイは?」とリズロに問う。
リズロは、その質問で表情を曇らせた。そして、悲しそうにこう答えた。
「レイは・・・・・・レイは魔王にさらわれちゃったんだ・・・。」
≪リズロの話しによると、2人で無の国跡地に行ったそうなんだ。≫
やっとリズロに追いついたクラードが、突然とその詳細を話し出した。
内心驚きながらも、クラードの説明を聞くスチル。
やっと説明が終わって、しばらくボーとしていたが、「はっ!」と我に返る。
「え、えと、リズロ・・・この小さい子は何なの?」
≪小さ・・・!≫
「彼は、クリスタルの妖精だよ。名前はクラード。」
「・・・妖精ってさ・・・。」
≪言いたいことはわかるが、それ以上口にするな。
で、何で、こんなところにいるんだ?≫
スチルの言葉をさえぎり、クラードが本題へと移す。
「あ、そうだったね。何でこんな危険なところに?また家出とか?」
「ち、違うんだ・・・。ボクはただ、誰か助けを探しに・・・。」
「助け?もしかして、鋼の国が危険な状態なの!?」
リズロのその問いに、スチルはこう説明する。
多数の魔物が突然国に侵入し、炎を吹き出して国を襲ったそうだ。
鋼の国は、ほとんどの住宅が鉄製でできている。もちろん、スチルが住むお城もだ。
つまりをいうと、魔物が火を噴出し国を襲っているということは、住宅やお城が溶けているという状態なのだ。
「魔物はまだいるの!?」
「わ、分からない・・・でもまだいるかも知れない・・・。」
「解った・・・僕がみんなを助けてあげる。」
「え!?」
「大丈夫、僕に任せて!行くよ、クラード!」
≪りょーかいっと!≫
リズロは、鋼の国に向かって走り出した。
スチルは、その場に呆然と突っ立っていたが、再び我に返り、リズロの後を追った。
第3話へ続く・・・。