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第59章:奇妙な関係

昨日――

―4月6日 午後4時30分 セントラル プロ・フェスターの部屋―

「あましろみそら?」

僕は首をかしげた。変わった名前だな。どっかの誰かと名前の形式が似てるような気もする。

「そうだ。国家機関、北方支部の総司令官だよ。」

プロさんは青ざめた顔でそう言った。

「ゴファアアアア!!」

吐血をして後ろに跳ね倒れた。一行は白い目でそれを見ている。

―ガチャ。

「ぎゃあああああああ。」

―バタン。

師匠が意味もなく戸を開けて悲鳴を上げて出て行った。

「なんだよ。」

ロゼオは戸を見たままそう言った。

「義務感でもいだいてるんでしょう。さ、プロさんしっかり。」

常備薬を飲ませてプロさんを起き上がらせた。

「キミは優しい子だな。いい妻を持つよ。ちなみに私はいい妻を持っている。写真を見るか?いい女だ。」
「黙れ死に損ない。」
「レッキ!?」


イマイチ理解できない。どうしてそんな娯楽帝国で国家機関の総司令官が拉致られなきゃならないのだ。

「トランプ戦団という軍団を知ってるか?」

プロさんはそう聞いてきた。

「ええ、知ってますよ。前に資料で目を通したことはあります。」
「…すいませーん…俺達は知らないんですが…」

ロゼオは汗だくで挙手した。

「なんだオメー等。トランプ戦団を知らないのか?」

バロンはやれやれといった顔を作る。

「自分は知ってましたよ?」

クリスはそう言った。

「そうか…知らんヤツ、手を挙げてみろ。」

挙手したのは、ロゼオとミサだけ。

「…マジでみんなギガ知ってんのか?」
「御主は無知な男じゃのお。トランプ戦団は十二凶最強の空軍部隊じゃ。」

センネンは呆れながらそう言った。


「お、おい…」

プロ指揮官は忘れ去られている。


「ワシもレッキのように文献好きでのお。度々図書館に立ち寄っていたのじゃよ。」

そうか。僕は図書館で黙々と読書をしていたセンネンを知っている。

「自分は司法を取り締まるために当然の知識を得ただけッス。マジで常識知らずって困るッスね。あ、ミサちゃんは違うッスよ。それはステータスッス。」
「そうなの?なんか照れるなあ。」
「照れるべきところじゃないですよミサ。」
「え!?」

さりげない僕の一言にミサは仰天した。

「それにしても本当に足を引っ張るッスねえええええええええ!ほーんと、無知な死神は死ね。」

ボソッと一言。

「なあんだあぁとぉぉぉ!?メガ聞こえたぞ銀玉頭ぁああああ!!」


「…お前等、私の話も聞かんか…どんだけ自分達のペースで突っ走るのだ…。」


おっと。プロさんのことをすっかり忘れていた。

―午後4時36分―

「ゴホン…トランプ戦団…先程センネンが言ったとおり、最強の空賊部隊だ。そいつ等が、天城美空を拉致し、天の柱に潜伏しているらしいのだ。さっき向こう(北方支部)から連絡があった。戦団の部下一人になす術もなく捕まったとか。」
「マ、マジスカ!」

クリスは叫んだ。

「マジス。さっきリクヤ達はその調査に向かったのだ。」
「そうだったのか。あの野郎、俺等をほっぽりやがって。」

ロゼオは不機嫌そうに言った。

「そう言ってやるな。ドン・グランパがお前達に危険な目に遭わせないようにそう判断したのだ。だが、今回の件が入ってきたことでそれどころじゃなくなった。」
「…というと?天城美空と何かご関係でもあるというのですか?」

僕の問いに、プロは目を閉じてこう言った。

「リクヤの戦略は国家戦力に大きく関与している。ところが、それも感情的に不安定となると大きく偏ってしまう。」

納得いかないけどそれだけじゃ理由にならない。

「ウンン、それがどうしたんですか?」

サイモンさんが代弁した。プロさんはため息をつくとこう答えた。


「天城美空はリクヤの―」


―4月7日 午前8時10分 天の柱―

「婚約者じゃない!!元カノだ!!」

リクヤはそう叫んだ。

「ウン?そうなの?」

サイモンは驚いてそう言った。

「3年前に別れたんだ!あんなヤツが拉致られたとこで俺がどう不安定になるってんだよ!!」
「言いすぎだぞ色男。」

バロンが楽しそうにそう言った。

「誰が色男じゃ!!俺は肌色だ!!」
「このこの~!」
「肘で突付くな!しょっぴくぞクリス!!」
「このこの~!」
「膝で蹴るなロゼオ!お前はベタじゃないから許すけどね。」
「話は済んだかい?」

レッキが歩いてきた。

「リクヤにウフフな子がいたとは知りませんでした。」
「何がウフフだよ。デヘへでもウシシでもねえよ。」
「言ってやるなリクヤ。レッキは意味をわかってないんだ。」

バロンはそう言った。その背後で、

「“ウフフ”ってなんなんだろうねロゼオ。食べれるのかな。」
「オメェは知らなくていいんだよ。レッキ。」

レッキはロゼオとそういう会話を交わしていた。

「…。」
「それはそうと、リクヤ、そのアマシロミソラとかいう女の特徴を覚えているか?」

バロンの問いに、リクヤは黙ってケータイの写真を差し出した。
数年前だろうか。幸せそうなリクヤの横に、青い髪色の女性が笑っていた。

「こんな感じだよ。青空みたいな青い髪が特徴だ。」
「うわぁ~!なかなかいい女じゃねえか!」

バロンは目をハートにした。

「あー、騒ぐな騒ぐな。」

リクヤは面倒くさそうにそう言った。

「何で別れたんだよ。え?お前の浮気か?それともその逆か?」
「だぁ!騒ぐなっつんでんだよ!」

そんな二人の背後で、

「この女の人がウフフなのか。」

レッキが写真を見ていた。

「う~ん、どこからどう見てもウフフ的要素は見当たらないな。っていうかウフフの要素ってなんなんだろうか。人間の理性?それとも外見にその要素が含まれているのか?それとも…う…ん…√3-log3+A-Σうんたらかんたら=23aX+C云々―」

勝手に悩んでいる。

「教えてあげたいけど恋愛に関してはメガ類人猿以下だからなあアイツ。」

ロゼオは呆れ顔でレッキを見つめている。

「ほっとけばいいじゃろ。いずれあやつも恋愛がどういうものか気付く。」
「そうッスよ。」
「そうだな。」

そう話し合う仲間の真横で、

「そもそも人間の体内構造は約90%が水分であり、そのうち30%の血液量を失うと―」

鈍感な男はまだ悩んでいた。

「おいおい、内容は伝えただろ?すぐに神殿まで移動すんぞ。」

バロンは一行にそう命令した。

「そうですね、詳しいことは向こうで話し合いましょう。」

レッキは歩き出したバロンの後について歩き出した。

「ウフフとはメンデルの法則からいうと―」

とつぶやきながら。

「…。」

リクヤは歩き出した一行を見つめながらうつむいていた。

「リクヤ、どうかしたのかい?」

レインが彼の横に立った。

「…ミソラ…」

信じられなかった。あの女が簡単に捕まるなんて。リクヤには理解できなかった。

「…リクヤ、話は全部聞いてたんだよ。キミは本当に彼女と別れてせいせいしてるのかい?」
「…うっせえ!」

レインを押しのけ、リクヤはズンズンと歩き出した。
リクヤは敵の思惑に乗っていた。既に精神が不安定になっていたのだ。


―同じ頃 ???にて―

暗闇に包まれた空間にて、スポットライトが点いた。

「それじゃあ会議を始めましょうか。諸君!」

ネシが現れた。白衣をまとい、白いマスクを取り付けている。

「チェシャ、よく戻って来れたね。」

ジャックは胸に包帯を巻くチェシャを見た。

「まあな、天才的な俺の生命力があれば簡単に逃げられ―」
「違う。敗北という生き恥さらしてよく帰ってこれたなと言ってるんだ。」

チェシャは仰天した。

「なっ…なんだとぉ!?」



「黙れ」


「…………ッ!!」

ネシが一喝したのだ。一同が押し黙った。いや、硬直したのだ。
同時に緊迫した空気が漂いはじめた。

「…。」

ネシは両手を組み、巨大なテーブルに肘をついていた。

「今更、生き恥だろうがなんだろうが私にはどうでもいいのです。チェシャ、あなたはこれからもっと素晴らしい功績を得てくれると信じておりますよ。」
「…は、はい…」

チェシャは青ざめた笑顔でそう言った。

「国家機関が厄介な存在です。研究材料に使えそうなリクヤはともかく、パンドラと…コスモスがとくに。打開策を練りましょう。」

ネシは笑顔でそれだけ言う。その言葉に一同はざわついた。

「どうかしました?」
「ネシ様…。」

声を上げたのはあの食虫植物のような人間。スペードだ。

「私はその考えはイマイチ理解できません。何故、新米チームであるコスモスまで恐れる範囲に入れるのですか?」
「ははは、キミはまだまだ未熟だよ。」

ネシは笑いながらワインを飲む。

「というと?」
「コスモスは蒼の騎士団を壊滅させたチームじゃないですか。注意して損はありませんよ。」
「それでも、蒼の騎士団の軍事力は我々と比べても劣っていますよ。」
「少しの差。でしょう?」

ネシはワインを飲み干し、

「ダイア、あなたなら私が望む結果を生み出せますよね。」

奥にいた男にそう言った。黒いスカーフで目隠しをした奇妙な男だ。

「スペード・ダイア・クラブ・そしてハートクイーン。あなた方隊長格ならばできますよね。“リクヤを含む、ペイントされた人間の拉致”を。」

いつのまにかスペードとダイアの横に、もう二人増えていた。おばはんと変態だった。

「なんじゃそりゃ!」

おばはんは背丈が3メートルも越える巨人だった。

「いいわよ、全部アタイに任せなさい。ていうかそう命令するのがアンタの義務よ。何故ならアタイがそう決めたから。」

勝手だな~。スペードはそう言った。

「オネに行かせとくらさい。」

変態はそう言った。変態変態というが、彼は本当に変態だった。彼の服装はガラパン一丁だったからだ。薄らハゲの親父は、ニィッと笑った。

「まぁた“その格好”ですかね。クラブさん。」

チェシャは引きつった顔でそう言った。

「いいじゃないかぃ。オネはこの姿が“おきに”なんら。」

クラブは嫌な喋り方でそう返した。

「ふざけるな、俺にやらせろ!」
「いや、アタイだ!」
「いや俺だ!」

またもや騒ぎ出した。

「まあまあ、諸君落ち着きたまえ、この計画の実行者を決めるのは私だ。」

ネシは笑い声で続ける。

「クラブ、あなたに動いてもらおう。」

変態の目が輝いた。

「ネ、ネシ様、俺にもう一度チャンスを…」

チェシャの前にジャックが立った。

「貴様は黙っていろ。」
「グッ…」
「貴様の不甲斐なさには反吐が出てならん。消えろ。」

顔を真っ赤にさせるチェシャと、その前に立つジャックを完全に無視し、ネシはこう続けた。

「ドルダム、ドルディ。そしてハンプティ・ダンプティはクラブに同行なさい。キミ達に課せられる任務は捕獲の補助だ。いいね?」
「オイッス」
「ウィッス」

低い声と高い声が聞こえ、太った男が二人躍り出てきた。

「おれ達に任せてほしいギィ。」
「すぐに御希望通りの結果をお見せいたしますキィ。」

二人が去った後、ハンプティ・ダンプティは巨大な木槌を背負って走り出した。

「では、失礼します。」

クラブは微笑むと、



シュバッ!


消え去った。

「これにて会議終了、一同解散!」

ネシは笑顔でそう言うと、椅子に座ったまま空中を浮いて行った。

「…ネシの野郎、どういうつもりだ。俺の方が手っ取り早く捕まえられるのに。」

チェシャはイライラしながらそう言った。

「さっき言ったことが理解できなかったか?お前は“無能”なんだ。」

ジャックがチェシャにそう言って歩き去って行った。

「ぐ、ぎ…。」

チェシャは近くにあった椅子を蹴り飛ばした。

「畜生がっ!!」



―午前9時00分 神殿内―

兄さんは神殿の前で向き直るとこう言った。

「いいかテメェ等、神殿では静かにしてろよ。神聖な場所では清く正しく、礼儀正しく!いいな?…とくにそこのアメと巨乳!」

ロゼオとクリスは仰天した。

「アメて!」
「巨乳て!」

とりあえず静かに移動だ。
しかし神殿というのは僕にピッタリの環境だな。

―カツン、カツン…

歩く音ですら大きく響き渡る。

「おかしいね♪」

ミサが小声でそう言ってきた。

「おかしかない。静かになさい。」

僕はミサにそう言うと、ミサの手を掴んだ。


「…ふふ。」

にやけたミサを見てセンネンは微笑んだ。

「鈍感も困り者じゃな。」


「ウン?」

サイモンさんは前方の奇妙な気配に気付いた。
そこには、巨大な懐中時計を背負う青年が立っていた。

「あなた方が国家機関の方々ですね?私はアリス様の護衛隊長、イナバ。イナバ・ラビクロックです。」

イナバと名乗る青年は丁寧なお辞儀をした。

「どうも、バロン・K・ジュードだ。」

軽く会釈をしながら兄さんはそう言った。

「“脱兎のごとく”!!逃げ出さないでください。アリス様は落ち込んでいらっしゃる。」
「どうしてです?」

僕の問いにイナバは目を細める。

「人を傷つけたからです…」
「…はい?」
「先程の歌を聞いたでしょう?」

イナバは不可解なことをいう。

「とにかく中にお入りください…」

―神殿 大聖堂―

「…。」

広い部屋の中、御立派な椅子に泣き伏せている女性がいた。こりゃまたすんげー美少女。男性陣が全員顔を真っ赤にするほどの美しさだ。
彼女がアリス。レッキは息をのんだ。

「アリス様、しっかり…」

アリシアが彼女に手を添えて慰めていた。

「…意味がわからん。」

ロゼオは不思議そうな顔をした。確かに、どういう状況かまったくわからんのだ。

「おう、お前等か。」

ロキはこの空気の中カツ丼をかきこんでいた。

「ロキさん、ロゼオ達にわかるよう説明してください。」
「オウオウ、お前は入ってねえのかよレッキ!!」

そ、そういうわけじゃないけど…レッキがそう言おうとした時、4人の男女が入ってきた。

「わわ、なんだってんだ?」

バロンは飛び上がった。彼の弟は突然の乱入者に顔だけを向ける。
ロキはカツ丼をたいらげると、驚く一行にこう言った。

「落ち着け、彼等はアリス様のスポンサーだ。」
「スポンサー?」

クリスは疑問そうな顔を向けた。

「彼女は各国でコンサートを開いている。その時に料金を出す代わりに宣伝をさせてもらっている連中だよ。」

そういうことか。しかし妙な風貌だ。一人は魚の頭をしている。
魚人じゃない。魚の被り物をしているのだ。だからといって、魚介類に詳しいわけでもなさそうだ。

「彼はトークス。水族館のオーナーだよ。」

その後ろにいたのは鋭い目をしたワシのような少年だった。

「驚いた。武賀原一族じゃ…。」

驚いたのはセンネンだ。

「キミは彼を知ってるのかい?」

サイモンの問いにセンネンは大きく頷く。

「武賀原一族は昔からああいう鋭い目をしているんじゃ。ワシにはわかる。ワシが若い頃から存在する一族じゃぞ―」
「お前の若い頃よりずっと昔からあるの!」

ロキは面倒くさそうにそう言った。

「アイツはアギト。武賀原アギトだ。一族を10歳という若さで受け継いだ天才児だ。」
「じゅじゅじゅ、10歳!?」

クリスは信じられないといった顔をした。

「彼は武芸を宣伝するためにスポンサーになったんだな…。」

あとの二人は女性だった。顔がでかいのと、普通の高貴そうな貴婦人。

「あの顔のでかい女性はクックドゥ・ドゥルードだ。天才料理人で、有名レストランのオーナー兼、スポンサーだ。んでもって、その後ろが…。」

ロキの説明が止まった。

「…どうした?」

バロンの言葉も聞こえないのだろうか、ロキは奇妙なものを見るような目だった。

「ロキさん?」

サイモンがそう話し掛けると、ロキは我に帰った。

「あ、いや…彼女は…レッド・チェス。玩具業界のオーナーだよ。」

レッドは笑顔で会釈をした。

「こりゃまた美人ちゃんだなぁ。」

バロンは再び目をハートにする。

「さて、みなさんにはアリス様の秘密について知っていただくことがある。ソレは、そこの男ではなく、この僕にさせてもらうよ。」

トークスは咳払いをしながら怒るロキを無視し、話を始めた。


大聖堂のステンドグラス。そこに、ドルダムとドルディがいた。

「見つけたッギィ!」
「国家の犬発見ッキィ!」


第60章へ続く

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