top of page

第63章:残った戦士達

―3001年 4月7日 午前11時00分 アリスの宮殿 書斎―

「―つまりだ…炎属性というのは空気中に飛散している。だから、乾燥した時期などで民家に点いてしまった炎は周りやすいんだ。」
「なるほどねぇ、わたし、属性学のことはサッパリだったから助かりますわ。レインさん。」
「そう言ってもらえて嬉しいよアリスちゃん♪」

あははははは♪あははははは♪

なんて爽やかな空気なんでしょうね。
レッキとミサはそんなレインをずっと観察していた。レインがそれに気付くのは数分後。

―午前11時3分―

「キ、キミ達…いつからそこにいたんだい?」

レインが気付いた。

「ずぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅっと前から。」

ミサがそう言った。

「い…言ってくれよ恥ずかしい。」

レインは顔を真っ赤にしている。アリスも同じだ。

「楽しめたようだね。アリス様と会話するまでのサービスは予定してなかったけど。」
「やっぱりキミが言ってくれたのか。」
「貴族育ちのキミに牢獄は酷だろ?」

レッキはウィンクをした。

「ありがとう…」

レインは嬉しそうにうつむいた。

「?…?…?」

アリスには何がなんだかサッパリーノである。

「アリス様、お食事の時間ですよ。」

イナバが歩いてきた。

「おや貴様等、アリス様とお話になられていたのですか?」

き、き、き、貴様等!?前々から思ってたけどコイツおかしくね!?と、レッキは思った。

「こらイナバ、そんな口の聞き方はありませんよ!めっ!」

アリスはイナバを軽く叱る。こういう部分にも貴高さを感じる。

「レインさんは面白い人でしたよ。レッキさんとミサさんはそのレインさんと仲が良さそうですからきっと悪い人ではありません。イナバ、あまり失礼がないようにね。」

笑顔でアリスはそう言った。

「わかりました。テメェ等、申し訳ありませんでした。」

進歩していない。むしろ退化した。

「びええ。」
「ヒィィッ!!だ、だから失礼だって言ってるでしょ?」

瞬時で凍りついた表情でアリスはそう諌めた。

「アリス様は私が守る。気安く近寄らないでいただきたい!!」

イナバは3人に一喝するとアリスを向こう側の部屋まで連れて行った。

「びええ、怒られましたの。」

ミサは半べそを浮かべた。

「しょげることはありませんよミサ、あんなのは無視無視。」

肩をすくめてレッキは椅子に座った。レインだけは不満そうな顔をしていた。
ミサは不思議そうにレッキの隣に座る。

ミサは天井を見上げた。やっぱり、宮殿なだけあって素晴らしい装飾だと彼女は思った。
天使と女神が水辺で遊んでいる風景、森林で動物達が走り回る風景、そんな穏やかな絵画が天井に描かれ、美しいシャンデリアがそれらを輝かせる。更に周辺を見ても、ギリシアチックな美しさを感じる。赤い絨毯の上には高級そうなつぼが置かれて更に見たこともない花が飾られていて…もう。
彼女の結論によれば、ここはなんだかいづらい空間だった。むしょうに外に出たくなるミサ。

「ねえ、みんなが心配じゃないんですの?」

隣にいたレッキにそう言った。すると、

「外に出るなと言ったのはキミじゃないかミサ。第一、簡単に捕まる程ヤワじゃないよ。“彼等”は。」

レッキは目をつぶったまま返した。

「捕まる?……ねえ、外で何かあったのかい?」

レインが質問してきた。

「おっと、そうだね。ここにいる以上、キミにも知る資格はある。」

レッキはトランプ戦団が襲撃をしかけたことを説明した。

「そうか…厄介なことになったんだね。」

レインは右手をアゴに当てる。

「厄介なことになっちゃったのさ。とりあえず宮殿内なら警備も厳しいから連中も入り込みにくい。だから安全なんです。」

めがねを整えながらレッキはそう言った。

「パンドラが3人もいるんだ。きっと大丈夫…」

最後のところは不安が混じっていた。結局は彼も仲間が心配なのだ。


―午前11時5分 神殿前―

「ゼエゼエ…」

ロキが走って来た。

「タバコ止めたんだけどな…こうも体力が衰えるとは。」

辺りを見回す。渦巻く狂気。こりゃマズイ。

「なるほどな…ニ階層にはまともな人間はいないってわけだ。」

すぐにみんなに知らせないと!大慌てで宮殿に入ろうと―



シュバッ!!


何かが目の前を横切った。身構えるロキ。

「クッ!」

見ると、空中にバロンを抱える青年。このような奇妙な光景を見ているというのに、街の人々は誰しも興味を示していない。

「誰だ…ってトランプ人間だよな。バロンに何をした。」
「安心しろ。気絶しているだけだ。俺はジャック。わけがわからんだろうが、お前にも来てもらうぞ。“戦艦フリーセル”へ。」

冗談じゃねえ…と、言いたいところだが…。ロキは何かを提案した。

「わかった!降参だ降参。」

両手を高々と挙げる。

「…なんだと?」
「降参だって言ってんだよ。ギブアップ、参った、お前と戦っても勝てる気がしねえんだよ。」
「…。」

ジャックは警戒している。

「なんだよ。怖いのか?パンドラの俺様を怖がっているのか?とんだ小悪党だな。トランプ戦団ってのは!」

ロキの言葉を聞いた瞬間、ジャックの目付きがガラリと変わった。

―シュビッ!

一瞬でロキの目の前に立ち、アゴにこぶしを押し当てた。

「鬼光閃・烈破!」



ドゥバァァ…!!


ロキは上空へ飛んで行った。ジャックは落下してくるロキを片手でキャッチする。

「小悪党とは言ってくれるじゃないか。今度俺達を愚弄したら…獲物だろうが八つ裂きにしてやる。」

ロキは気を失っていた。

「フン…ハート、コイツを持て。」

ジャックはいつのまにか現れたハートにバロンを背負わせ、ロキを背負う。

「あらぁ、やっぱりいい男ねぇ♪」
「行くぞ。」

飛び去ろうとした時、

「み、見て!ロキさんとバロンさんッス!」

リクヤとクリスが走って来た。

「ま、待てぇぇ!!」

慌てて拳銃を取り出そうとしたとき、マシュマに止められた。

「まあ待て。」
「何でですか!?」
「連れ去られるッスよ!?」

まあ見てみろ。と、マシュマは丸い顔をロキに向けた。
笑みを浮かべたロキがウィンクをしていた。

「…!!」

リクヤとクリスは顔を見合わせた。

「悪いヤツめ、また何か企んでやがるな?」

マシュマはニヤリと笑みを浮かべた。空中のジャックとハートは、『何故来ないんだ?』と不思議そうな顔をしていたが、やがてどこかへ飛んで行ってしまった。

「あぁ…行っちゃった。」

クリスが肩を落とす。

「アイツはバカじゃない。何かいい考えでもあるんだろ。俺だけに。」

―午後9時10分 宮殿内―

その夜…

「じゃあ、僕達以外は全員捕らえられたんですね?」
「そうだな。」

現在、この宮殿の中にいる国家職員は、レッキ、ミサ、クリス、リクヤ、マシュマの5人である。

「むぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぁああああああっっっってくださいよ!」

ムッシュ・ドォドォと、オッサンが走って来た。あ、オッサンってのは名前のオッサンね。

「おっと、お前等は国家機関潜入調査班だな。」

リクヤが忘れていたかのように目を見開いた。

「そぉぉぅぅぅぅですとも!ちなみにこっちは警護役兼、レイン護送役のオッサン・チャンどぅえす(です)!」

誰もそんなこと聞いてない。

「すぐに応援を呼ぼう。今のままじゃ勝ち目は無いぜ。」

リクヤの言葉にクリスは首を横に振った。

「ダメッス。この国全体にバリアーが張られているッス。外からじゃ侵入不可能。応援はあきらめるべきッス。」
「バリアー……本当ですか?」

レッキは顔をクリスに向けた。彼女は黙って頷いた。

「なんてこった…」

頭をかきむしるリクヤ。

「パンドラで残ったのは俺だけか。俺だけに甘い観光ライフは望めなかったな。俺だけにな!!マシャシャシャ!」

マシュマはそう笑うと、腕組みをして辺りを見回した。

「ウェイターの兄ちゃん、一番甘いデザートもってきて!俺だけに!」

こんな時まで甘いものかよ。一同は彼を白い目で見つめていた。


「ん?」

ふと、レッキは窓の外の存在に気付いた。


「ポジティブに行こうぜ。アリシアとロキがいるんだ。トランプ戦団だろうがスランプ戦団だろうがぶっ飛ばしてくれてるさぁ!俺だけに!マシャシャシャア!!」

楽観的なマシュマは、すぐに運ばれたパフェに舌鼓を打っていた。変な笑い方。

「俺は一応この宮殿にある無線を使ってみる。バリアーを止める方法を教えてくれるかもしれないからな。」

リクヤはそう言うと、奥の部屋に歩いて行った。

「あ、待って、自分も手伝うッスよ。機械には詳しいッス。」

クリスも後を追って行った。

「さて…」

レッキは真っ直ぐに、宮殿の外へと出て行った。

「レッキ!?どうしたんですの!?」

―午後9時17分 宮殿前―

「…」

レッキは両手にBMを握っていた。そして、目の前に置かれた機械を睨んでいた。

「レッキ…これはなんですの?」

駆け寄ったミサは目を丸くした。

「プヨン教授、いるんでしょ?返事くらいしてくださいよ。」

レッキの言葉にミサは驚いた。同時に教授が機械から飛び出してきた。

「ニャッポイポイ。いやぁ~!ここまでうまく来れちゃったんでぷけどね。こんなとこでエンストを起こすとは思いまぴぇんでした。」
「ソレはなんですか?教授殿。」

レッキは呆れ顔でそう言った。

「さっき窓から合図が来たので。外で待とうと思ってたらこれだもの。」

レッキは簡単にミサに説明した。

「そうだったんですの。」
「そういうこと。」
「御託はいいからこれ運んでくだぴゃいよぉ!」

―午後9時19分 宮殿内―

「よぉ~教授。貴様まだいやがったのかよ。」

リクヤは不機嫌そうな顔をして無線をいじっていた。

「ニャポ、実は調査を終えた後ね。鑑識班を全員国家に返した後観光してたんでぷよ。そしたらいいパーツをたくさん見つけたもんでぷからコレを作ったわけ。」

教授が自慢げに機械を指差した。傍目から見ると巨大なスリッパみたいな乗り物である。死んでもこんな機械には乗りたくない。

「これは何ですか?さっきも質問したのに無視するんですもの。」

レッキは腕組みをして椅子に座り込んだ。

「ただの乗り物じゃないんでしょ、どうせ♪」

未知なデザインの機械はクリスの好奇心を思い切りくすぐる。

「んぁよくぞ聞いてくれましたぁ!」

ベベン!三味線の音と共に教授は近くの台に乗っかった。前にもこんなことなかったっけ。

「コイツはボクの大発明、第307648号でぷにゃ!」

無駄に多い発明である。

「その名も“浮遊船ギガウィロー”!これを使えば自由に空中のお散歩ができるわけ~♪」
「浮遊船!!スゲェー!」

クリスとミサの目が輝いた。

「フン、何かと思えば浮遊船だぁ?…ばかばかしい!」

リクヤは無線の調整に戻った。

「バカバカシイですが、浮遊船という所は気になりますね。国家のヘリはみんな破壊されてるんですよ?」
「ム…そういやそうだな。」

リクヤは調整をやめてその機械をしばらく見つめた。スリッパ型の乗り物は不気味に輝く。

「う…それでも俺ぁ、乗りたくねえ。」

再び無線の調整に戻るリクヤを見てから、レッキは静かにその機械に近づいた。

「教授殿、これを巨大化させてみんなを乗せられませんかね?」
「ニャップ?うぅ~ん、できないことはありまぴぇんが部品が足りないんでぷよね。」

そりゃそうか、レッキはそれだけ聞くと何やら考え込み始めた。

「おし!できたぜ!無線が繋がった!」

リクヤが歓声をあげた。

「マジすか!」
「お前の言うとおりに調整してみたぜ、クリス!…おかげでトランプの連中にも電波が通らないように作れたぜい!」

嬉しそうにリクヤは親指を立ててクリスに向けた。

「よぉし…」

その後すぐに、緊張した表情になって無線をとる。

「お前ら静かにしてろよ。」

リクヤは念を押すと、無線のスイッチを入れた。


―午後9時23分 セントラル 情報ネットワーク室―

「プロ指揮官、ルシナ・ラ・トエリアから無線です!」

職員が大慌てで走ってきた。

「うむ御苦労。」

プロ指揮官は青ざめた表情で無線をとった。

「持病の打撲ゴファアア!!」

指揮官が吐血をした。

『うぎゃああああ』

リクヤの悲鳴が聞こえた。

「どうしたリクヤ。」

常備薬を飲んだ指揮官はそう言った。

『アンタの声に驚いたんですよ。』

リクヤは呆れ声でそう言った。同時に、パンドラの人達は本当に変人ばかりなんだなと実感した。

「そうか…やはりトランプ戦団が関わっていたか。」

『応援を呼ぶにもバリアーが張られてて中には入れないんすよね。』

「そうか…よし、ワープ魔法を使って援軍を送ってやろう。」

プロは素早くキーボードを打ち始めた。

「現在そっちの地域に一番近いヤツは…」

一人いた。チームパンドラの隊員が。

「そいつと連絡を取れるか?」

指揮官は職員にそう聞いた。

「わかりませんが…一応やってみますね。」

『指揮官…誰を呼ぶんですか?』

不安が混じったリクヤの声が聞こえた。プロ指揮官は何食わぬ顔で無線を持ってこう言った。

「アイツだ、アイツ。パンドラ一のバカだ。」

―午後9時26分 天の柱付近 海上―

「ハーハッハッハァ!!」

みんなのヒーロー、キャプテン・ウェイバーは海原を駆け抜けていた。

「説明しよう!キャプテン・ウェイバー程のヒーローになると、海面を走ることができるのだ!」
「さっすがキャプテン!」

後ろの赤服の三人組は、ジェットボートでキャプテンを追っていた。その時、真ん中に座っていた赤服男のケータイが鳴り響いた。

「キャプテン!プロ指揮官殿から御連絡ですぜぃ!」
「な、なにぃ!?」

キャプテン・ウェイバーは立ち止まり、船に飛び乗った。

『おぉ、キャプテン・ウェイバーか?』

「ハーハッハッハァ!こんなにカッコイイ声のヒーローはキャプテン・ウェイバーしかいますまい!みんなの指揮官・プロ・フェスター殿!!」

『そ、そうか…実は頼みがあってな―』

「と、いうわけで!みんなの指揮官・プロ・フェスター殿に歌を捧げよう!!」
「さっすがキャプテン!」

『な、なぬ!?』


キャプテン・ウェイバーのテーマ

作詞・作曲/キャプテン・ウェイバー
歌/キャプテン・ウェイバー

ターラッ!ターラタラ!
ターラッ!ターラタラ!
ターラッ!ターラタラ!
タッタァー!
(セリフ)「ハーハッハッハァ!アーイム、キャプテン・ウェイバー!!!」

闇の蠢くこの世界
青き閃光打ち砕く
気高き地球を守るため
みんなのキャプテン立ち上がる
HEY!ガール!
YOUはどうして、泣いているんだい!?
平和を守るため
俺はいざ進むぜぇ!
キャプテン・ウェイバー!(ウェイバー!)
キャプテン・ウェイバー!(ウェイバー!)
そうさ、俺は、キャプテェーン!ウェ!イ!バァー!!


相変わらずの意味不明な歌である。


「おっしゃあ、二番行くぜ!!」

『そんなことやっとる場合か!おまえの仲間がピンチな―』

「なんだってぇ!?弱き者達が私を待っているというのか!」

『話を最後まで聞かんか!あいつらは弱くないだろ―』

「うぉぉぉ、うぉぉぉぉぉ!!!ヒーローなだけにこれは必ず助けなければなるまいぃ!プロ指揮官!仲間はどこぞにおられるのですかなぁ!?うぉぉぉぉぉ!!」

うるさい。

『う…うむ、仲間はアリシアとロキとマシュマ、そしてチームコスモスと潜入調査班、リクヤというメンツなのだがな―』

「わかりましたぞぉぉ!うぉぉぉぉぉぉ!!待っていろぉみんなああ!!正義の鉄槌を下してくれるわぁぁぁ!!」
「さっすがキャプテン!」

『ぬおお…だ、だから話を最後まで聞け―』

ブチッ…

―セントラル―

「アイツ切りおった…」

指揮官は青ざめた表情で無線を見つめている。

「あの状況じゃあバリアーが張られてるどころかその場所もわかってませんよ。」
「うむ、やはりあのバカに任せるのは危険だな…しかし…パンドラの戦士はほぼおらんぞ…シークはどこかへ行ってしまうし、スチルとフリマは別の任務へ向かってしまったし…セントラルには奴らに太刀打ちできる戦士はおらんぞ…」

職員達と話し合うプロ指揮官の後ろに、アイツがいた。

「指揮官、それは心外ですよ!」

振り返ると、出発の準備が万全なドレッド・ノートがいた。




―海上にて―

「おかしいな、アイツらどこにいるんだ?指揮官殿は説明してくれなかったからなぁ!!」

キャプテンは船の上で周囲を見回していた。

「まあいっか!ハーハッハッハァ!説明しよう!キャプテン・ウェイバーはのんびりトラベルが大好きなのだ!!」
「さっすがキャプテン!」


第64章へ続く

bottom of page