第64章:謎が謎を呼びまくる
―3001年 4月7日 午後9時30分 宮殿 客室―
「そう言えば…アリス様のコンサートのことすっかり忘れてましたね。」
何気無くレッキがつぶやいた。
「テメェ、今更コンサートなんぞに構ってる暇なんてねえよ。」
確かに。レッキは申し訳なさそうに苦笑すると、いつのまにか煎れたコーヒーをすすった。
「うぇぇ、甘い。」
うぇぇと言いながらコーヒーを置く。
「ミサ、砂糖は入れるなって言ったでしょうが。僕はブラックが好きなんです!」
「びええ。」
そんな二人の横で、クリスがコーヒーを一口飲む。
「うぇぇ、めっちゃ苦いじゃないスか。」
「クリスには少し無理がありますよ、甘党だもん。」
「なっ何をぉ!?」
「あははは♪」
ミサが笑う。少し和んだ空気を作ってくれてる。
「フゥ…考えてるのか、考えてないのか…わからん連中だ。」
リクヤは笑みを浮かべると、おもむろに拳銃を取り出した。
「何をするんですの?」
「拳銃の整備だよ。あぁ、少し油を注しとくかね。」
似合わないメガネまでかけている。
「レッキこらボケ、お前のも特別に整備してやるぞ。」
BMをよこしやがれといわんばかりに腕が伸びてきた。ボケってキミ。
「ご心配なく、自分の銃は自分で整備してありますので。」
僕はBMを握って飛びのいた。
「本当かよぉ。」
リクヤがつまらなそうに言うと、レッキは両腰のBMをそれぞれ片手で分解してみせた。細部まできっちり整備されている。
「うっ…す、すげ…………」
リクヤは一瞬顔をゆがめたが、すぐに普通っぽい顔を作り、自分の拳銃の整備を再開した。
「……そ……そんなもんできて当然なんだよ。」
―午後9時32分 宮殿 応接間―
応接間はとにかく大きかった。マシュマ程の巨体でも大丈夫なほどだ。中央にトークスとあの“でか顔”のドゥルードが座っている。
マシュマはそんな二人の向かい側の椅子に腰を下ろしていた。椅子が狭くて座れないのが至らない点である。
彼の足元では、見たこともない生き物の毛皮が、生気のない目でマシュマを見上げていた。
「とにかく…今からでもアリス様は“一階層”に移すべきですな、俺だけに。」
マシュマはトークスにそう言った。彼が言うには、この危険な地域からアリスを逃がすべきだというのだ。
そんな考えに対し、トークスの返事は意外なものであった。
「そうは問屋が卸さないですよ。アリス様のスケジュールはいっぱいに埋まってるのです。少なくとも明日までにはコンサートを二回講演しなければならないのですよね。ちなみにラグナマリン水族館は毎日開館してます!」
ちゃっかり宣伝をしやがった。
「明日?…バカかアンタは、二階層は何故かは知らないが狂気の波長を帯びた人間共であふれてるんだ。そんな連中が集まってるかもしれない会場で呑気にコンサートをやるつもりか?ばかばかしくて欠伸が出るぜ。あまいんだよその考え、俺だけに。」
「あまかないですねえマシュマさん。アリス様が講演を一回中止しただけで我々がどれだけ損をするとお思いでしょうか?損額はばかにならない…」
「損額?ホォ~!金がそこまで大事か?アンタはアリス様をなんだと思ってやがる。スポンサーだかなんだか知らないが、ガキを大事にしねえ野郎は許さんぞ、俺だけに。」
腕組みをしたまま、マシュマは眉間にしわを寄せた。充分な威圧を放つ。
「マシュマさん、あなたは経済学というものを学んでおられないようですな。あの子は我々の誇る“商品”だ。我々の生活の糧となる人材。知っていますか?彼女が一回歌うごとに二千万グランもの収入を得られるのです!それを二回も中止なんてしてみなさい。4千万グランの損害だ!もったいない!そんな多額の金を捨てられませんよ、ねえ、ドゥルードさん?」
トークスは後ろで料理本を読んでいた巨大な顔の女性に言った。
「そうですよぉう、アタシらはあの子のおかげで生活できてるようなものだからねぇい。」
ねちっこいしゃべり方でドゥルードは顔を向けた。
「アンタらは充分飯を食ってける仕事してんじゃねえか。」
マシュマは目を細めた。
「でもなあ…ねえ?」
「そうねぇん…」
二人のスポンサーはニヤニヤしながらこう言い放った。
「“大金がないと生活できなくなっちゃった”のよねぇん。」
「そうなんですよねえ、だから、四千万グランの損額は非常にでかいのです。あなたも大金を毎日手にすれば気持ちがわかりますよ。ねえ?…はははははは…」
マシュマはキャンディ製の奥歯を噛みしめた。
「と、いうわけでアリス様のコンサートはスケジュール通りに開催します。なんせアリスは我々の持つ最高の財源だ!アリスさえいれば金も自然に入ってくるし、もう、水族館とか経営しなくてもいいくらいですよぉ!」
トークスは楽しそうにそういうと、身を乗り出してマシュマの丸い顔を見つめた。
「いいですか?あなたの意見は却下された、そのつもりで。マシュマ・スゥイーティーさん♪」
トークスのあまりにも無責任な言葉にマシュマは呆れた顔を作ると、
「…。」
黙って立ち上がり、近くにあった大きな棚を掴んだ。本や花瓶の入った高級そうな黒い棚。
「どうしたんですかぁん…?」
「あ、あの、その中のものはアリス様には至りませんが高級品なんですよ?」
二人は引きつった笑顔でそう聞いた。
「お前らはアリスが一番大事なんだろ?じゃあ、これをぶっ壊してもお前らは金でなんとかできるんだよな?」
「えっ!?あ、いや―」
メリメリ!バキバキ!
棚はまるで紙みたいにグシャグシャになってしまった。
粉々になった高級品の破片をマシュマは冷徹な顔で見下ろした。心なしかあの毛皮も驚いているように見える。
マシュマは思った。実に愉快だ、と。
「ヒィィィィィィィィィィィィィィィィ!!!!!」
突如上がった悲鳴はドゥルードの喉から発せられたものだ。
「うぎゃああああああ!!わぁあああああ!!」
トークスも見た目に合わない大声で悲鳴を上げた。すぐさま駆け寄ると足元の破片を必死で集めだした。
「そそそ、損害だぁぁ!数百万の損害だぞ!弁償しろぉ!大福野郎ぉぉ!!」
二人は怒り狂ってマシュマを睨んだ。
「う・る・さ・い」
マシュマは回れ右をすると部屋から歩み出て行った。
「コルァァァァァァァァ!!戻れぇダニ貧民!これを集めるのにどれだけの金を費やしたと思ってやがるぅぅぅぅ!!貴様が一生かけても払えない金額だぞこらぁあああああ!!!」
トークスの声は、マシュマには届かない。
―午後9時36分 客室―
「よぉレッキ、ここはダメだ。」
第一声はコレ。びっくりした。なんなんだいきなり…
マシュマがいきなり僕のいる客室に入ってきて、いきなりこのセリフを吐いたのだ。コーヒーをすすっていた僕は思わずせき込んだ。
「よっしゃ!アリスを拉致るぞ。」
第二声はコレ。びっくりした。なんなんだいきなり…
マシュマがいきなり自分の荷物を担いでいきなりこのセリフを吐いたのだ。
「僕にもわかるように説明していただきたいです。」
「おぅそうだな。ついさっきトークス達と会話をしたが、あいつらにアリスを任せることはできない。あんな金の亡者に金を渡すアリスがかわいそうだしな。だから、アリスを一階層まで護送するんだ。もちろんコンサートは禁止だ。」
なるほど…ん?いや、だからって!!
「なんだよその顔は、それにしても、この部屋にいるのはお前だけか?」
「ええ…リクヤさんはタバコを買いに、クリスとミサはお風呂に…」
「風呂だぁ!?…あぁ、まあそんな時間だよな。クリスは男湯に入るのか?え?」
クッ…な、なんて不埒な。
「何…顔を赤くしてんだよ。」
マシュマは顔をしかめた。
「ハァァ、どっちも呑気だねえ。ま、見た目の呑気さなら俺の圧勝なんだぜ、俺だけに。」
それは聞いてないんだぜ。
「とにかくまずはアリスがどこにいるかを調べる。」
「え?しかしマシュマさ―」
「いいから!レッキ、俺についてこい。」
ノリは師匠にそっくりだ。僕の言い分を全く聞かない…。
「おいお前たち!」
いきなり誰かの声。
「おっと、アギト坊ちゃん。」
マシュマが小さな子供を見下ろした。武賀原アギトが眉間にしわを寄せた顔で僕とマシュマを見上げていた。
その歳で眉間にしわを寄せてると将来大変なことになるぞ。
「なんか御用で?俺達は何も会話なんてしてないですよ?ゴホン、うン、レッキ、な?」
「え?…ああ、そうですね。」
マシュマは今話していたことを内緒にしているらしい。なんだその下手な目くばせ。
「フン、お前らの話なんぞ、どーでもいいのだ。おい!俺とお遊びしろ!」
アギトは小型のゲーム機を出した。まだまだ子供なんだな。僕には珍しくかわいいなという感情が生まれ―
「『殺ったね!ジェノサイドさん!』という、無差別殺戮ゲームだ。目の前に現れる一般人共を根絶やしにするゲームだぞ。」
前言撤回である。
「そんなゲーム…教育上よくありませんよマシュマさん。」
僕はマシュマの腹を肘で突いた。う、柔らかい。
「そうだなぁ、大体…俺達遊んでる暇ないし―」
マシュマの言葉を聞くと、アギトの表情が一変した。
「…遊んでくれないのか?」
なんですかその涙目は。
「ふえっ…ひっ…うっ…」
必死で泣くのを堪えてやがるようだが。これは数秒後に泣くぞ…。
「あ…いや…」
マシュマは目を点にした。
「うっ…うぅっ…うぅぇ―」
「うぎゃああー、手が滑ったので、ございます。」
バシッ!マシュマが大声で泣く寸前のアギトの首筋に、思い切り手刀を喰らわした。
「がぼす」
アギトは白目を剥いて倒れてしまった。
「ま、マシュマさん!!」
思わず小声でマシュマにそう叫んだ。
「手が滑ったショックにより、手刀を打ってしまった!これはミステイク!ハプニング!アンビリーバブル!事故だからしょうがないよな!俺だけに!!」
棒読みである。
「子供を気絶させる国家戦士がどこにいるんですか。」
「いやいや、事故だよな♪」
「いやいやいや、バレたら世界的問題に発展しますよ。アンタ達は後先考えないで突き進むから困るんだ…」
それだけ言いきろうとした僕の両肩を、マシュマはむんずと掴みやがる。
「事・故・だ・よ・な♪」
「…事故です。」
…うん、事故ですとも。
「よろしい、俺だけに。マシャシャ!」
マシュマは柔らかい身体を震わせながら笑った。帰りたい。
「じゃあ、アギトはここで眠っててもらうぞ。」
ここでって…ベッドの下かよ。
「何だよその目は。仕方ねーだろ、他に隠すとこないんだからよ…ぅいぃ~!重たい服着やがって!…黄金の肩当てだぁ!?これだからボンボンはぁよぉ!途絶えろ、一族の血よ!」
おいおい、仮にも元先輩の孫だぞ。
「じゃあまずは風呂場サバイバーだぜ!」
「ぅええええ!?」
い、行くつもりかこのマシュマロ!!僕が顔を真っ赤にさせると同時に、彼はどったどったと走り出した。
ぎゃああ、慌ててパンツのゴム紐をつかんだ。
「うぉっと。なんじゃいボケ!」
「デリカシーはないのですか!?か、か、彼女達は入浴中なのですよ!?不埒MAXです、マシュマさん!」
「あぁん?なんだよーお前、“のぞき”したことないのかよぉ。」
マシュマは楽しそうににやけた。
「の、のぞき!?僕はまともな人間だ!のぞきもしないし万引きもしない!」
「あーはいはい、わかったわかった。」
マシュマは飽きたのか、近くのソファーに座った。
「いいけどよ、あまり長居はできねえぞ?どっかのアホがスポンサー二人を激怒させちまったからよぉ。俺だけどな。」
疲れる…それにしても、ベッドの下のアギトがかわいそうである。
―午後9時39分 風呂場―
―カポーン…
「みんな心配ですの…」
ミサは湯船に顔を半分まで沈めた。
「そうッスね…とにかく、明日までにはリクヤさんがどうにかしてくれるみたいだから、期待しようよ…」
クリスはちょうど身体を洗い終えたところだった。
「やっぱりレッキさんてカッコいいスね。なんやかんや言って自分達のことを誰よりも考えてくれてて…」
湯船に腰を下ろしながらクリスは言った。
「…そうかな…」
ミサは頬を膨らます。レッキはまだ、彼女の気持ちに気付いてない。
「?」
クリスは不思議そうな顔をした。
「ねえ、告白しちゃいなよミサちゃん。」
「ぶっひゃあ!」
ミサは顔を真っ赤にした。
「なななななななななななななななななななななな何をぉおおお!?」
ものすごいきょどってる。かわいいなぁ。クリスは面白そうに笑みを浮かべた。
「えーだって、レッキさんこのままじゃずっとミサちゃんの気持ちに気付いてくれないと思うッスよ?」
「…。」
ミサは悲しそうな目をした。
「…どうしたの?」
「…怖いんですの、もしもレッキがわたしのことを好きじゃなかったらって思って。」
ミサは悲しそうにうつむく。
「…ミサちゃん…」
クリスが声を洩らすと、ミサは顔をあげた。作り笑いみたいだ。
「わたしは今のままでいいの、レッキ優しいし、告白してギクシャクするの、嫌だから。」
ミサはそれだけ言うと、
「じゃ、お先に…」
早々と上がっていった。クリスは呆れながらため息をつくと、タオルで顔を拭いた。
「さっさと付き合っちゃえばいいのに。ま、自分も人のこと言えないんスけどね…」
―午後9時42分 風呂場前―
「行くぞ行くぞ行くぞ!」
「嫌だ嫌だ嫌だ!」
僕は必死でマシュマのゴムパンツを引っ張る。
「バカ野郎、“苺とマロン”…じゃなかった、“男のロマン”というものをちゃんとわかってないんだよな貴様は。」
そう、このマシュマロはまたのぞきに行くと言い出したのである。冗談じゃないも甚だしい。
「あれー?レッキ、マシュマさん。」
頬を赤く染めたミサが出てきた。
「ゲッ!出やがったのか!」
マシュマは残念そうに舌打ちをした。
「『ゲッ!』じゃありません!!」
「え?何?何なの?」
ミサは何か面白いことでもあったのかと嬉しそうに聞き出した。
「な、な、何でもないですよ!」
のぞきに来たなんて死んでも言えん。
「どうしたんスか?」
続いてクリスも顔を出す。
「ちくしょ希望がなくなった…アリスを一階層まで連れて行くぞ。いつトランプ人間に襲われるかわかったもんじゃないからな、俺だけに。」
「え?どういう…」
「二回層は“真っ黒”なんだよ。」
「え?え!?」
クリスとミサは目を丸くしていた。状況を理解していないみたいだな。僕は静かに助言した。
「あきらめて付いていきましょう。この人(?)、厄介事を勝手に作っちゃったみたいで…」
―午後9時44分 時計台前―
「アリシアさんの服の切れ端…」
リクヤはタバコを買いに行った帰りに時計台の前に立ち寄った。白い袖は、確かにアリシアのものであった。
「ホッホォ、ここで拉致りやがったか。」
タバコを吸いながらリクヤは袖を懐にしまった。
「他に何か落ちてるもんはないかね…と?」
何かを見つけた。近づくと、それは…
「…右腕?」
発泡スチロールみたいに脆い物質で構成された右腕が落ちていた。
「…なるへそ。」
ポキッ!小指を拝借。
「さて帰るかな、俺も捕まっちまったら面倒だし…」
「だからな、ネシ様はもうじき“アレ”を発動するつもりなんだぜ、ニッヒヒヒ!」
「バカ言え、ネシ様はここを拠点にしていくと言っていたのだぞ。」
誰だ!!
リクヤは近くの建物の影に隠れた。
リクヤの背後には大きな居酒屋が建てられていたが、その屋上に、チェシャとジャックがいた。
「うひょ~危ねえ、トランプ戦団の一味じゃねえか!」
リクヤは息を殺して影の奥に隠れた。
「この国の住民共はアホだよなあ、二階層はほとんどの人間が偽物になってるってのに、てんで気付きやしない!」
やはり二階層の人間は偽物だったのか。
「確かにな、お前もアホだがな。」
「あぁ!?」
「怒るな、お前の怒り顔は不細工で見るに堪えない。」
「て、テメェ!!殺されたいのか!?」
仲はいいわけじゃなさそうだ。じゃあ何で二人きりでいるんだ?
「今日俺は、ロキ・フレイマ、バロン・K・ジュード、の二人を捕獲した。お前はどうだ?」
「…俺だって捕まえたぞ、センネンという獣人をっ…」
「知らんな、捕まえるならば武勇伝を持つ人間を捕まえろよ、ネシ様が呆れてしまうぞ。」
「クッ…!!」
チェシャはジャックの胸倉を掴んだ。
「殴られてえのか!?」
「お前が俺を殴る?冗談は不細工な顔だけにしてくれ。」
おぉ、なんだか穏やかじゃない空気じゃないの。リクヤは自分の立場を忘れて、タバコに火をつけた。
「ん!?」
ジャックがこっちを向く。
「うわっ!ヤバッ!」
気付かれた!!
「…どうした?」
チェシャは眉間にしわをよせて同じ方向に顔を向けた。同時に鼻を動かす。
「…ニヒッ!タバコの臭いだ!!」
そう言い切るのと同時に、ジャックが飛び立った。
「来る!」
リクヤはタバコとライターを捨てて、路地裏に逃げ込んだ。瞬時にジャックがタバコとライターを拾った。
「まだ温かい、あっちか。」
ジャックはリクヤが逃げ込んだ路地裏に目を向けた。
「逃がすか。」
「ぬおおおおおおっ!」
後ろから誰かが追ってくるのが耳でわかる。
「えーと宮殿は…どっちだ!?畜生!」
迷っちまった、最悪だ!
「こんばんは。」
その声がしたと同時に、首根っこを掴まれた。リクヤは拳銃を取り出して後ろに向けて撃った。
―ダンダンダン!!
「うぐっ!」
ジャックが飛びのいた。
「なかなかやるじゃないか、そうか、お前がリクヤか。」
ジャックは右腕を向けた。
「閃光・ピストル!」
―ダンッ!
リクヤの左肩に撃ち抜かれた感覚が走る。
「うぐぉっ!」
回転して壁に激突した。
「あきらめろ、一般人に俺達の相手は無理だ。」
ジャックがリクヤの前髪を掴む、
「…俺流俺式」
「ん?」
「漢腕掌!」
―ブゴォォォッ!
ジャックの顎に思い切り拳をぶつけた。
「げぁあっ。」
ジャックは後方の壁にめり込んだ。
「うぁっ!」
リクヤは巨剣をジャックの腹に突き刺した。
「ぐはっ、やるな。」
「人間をなめるな!!」
すると、上からチェシャが降り立ってきた。
「ニッヒヒヒ!無様だなジャック!俺がもらうぞこの獲物!」
鋭いカギ爪、あんなんで切り裂かれたらたまったもんじゃない。
「魔素摩呂拳、虎兵パンチ(コッペパンチ)!!」
チェシャのどてっ腹に波動のようなものが当たる。
「ぎにゃああああああああ!!」
ジャックを巻き込んでチェシャは吹っ飛んでしまった。
「…ハァ…ハァ…なんだ?」
後ろを振り向くと、マシュマが拳を突き出す構えをとっていた。
「世話の焼ける司令官だな。俺だけに。」
「…はは、助かりましたよ。」
リクヤは汗を拭いて苦笑した。
第65章へ続く