第67章:まだまだ処罰機関
―3001年 4月8日 午前7時00分 ???―
「大丈夫?あなたたち…」
むにゃ…誰だ?俺をギガ起こそうとしてやがる野郎は…。
身体を起こすと、全身に激痛が!
「…っ…メガいてぇ!」
「んまあ、無理しちゃだめよ。」
目の前にいたのは空みたいに青い髪を持つものすごい美女。おまけに、首元には白いモコモコ。黒い革ジャンに黒い半ズボン。どっかのリクヤとソックリな服装である。
「え…?」
えーと…誰だっけなコイツ。どっかでメガ見たような。
「わたしはミソラ…天城美空よ。」
「ミソラァ!?」
起き上がるを超えて空中に浮かびあがる。
「んまあ、元気ね!」
思い出した!コイツ、リクヤの婚約者だ!
「うおおお!?ギガ無事かテメェ!とりあえず婚約おめでとう!」
「えええ、何故それを!?あ、ありがとう!」
「あら、あなたも国家戦士だったのね?」
「違うんだな。」
「え?国家戦士でしょ?」
「ふっふっふ、俺はギガCOOLでメガ劇的な死神国家戦士だぜぃ!」
「つまり、国家戦士ね。」
「おう。」
「助けに来てくれたのかしら、でも、捕まるなんて…んまあ、ドジね。クスクス♪」
あん!?オメガむかつく野郎だな!…まあいいか。
さて…ここぁ牢屋か?…周囲は石造りか。鉄格子はかなり固い金属で作られているようだが…。ハッ!
「サイモン達はメガ大丈夫なのか?…」
「他にも捕まっている人達がいるの?」
「わかんねえ、俺は一番にギガやられちまったからよ。」
「情けないわねー」
呆れ顔もメガきれいだぜ…銀玉ヘッドとはわけが違う。
「うっせえな。それに、これは俺にとってもいいギガトンチャンスにもなる。」
「ギガトン…チャンス?」
キョトンとした顔のミソラに、牢屋の隅にいろと命令する俺様。鉄格子の前で腕にかみつく。鎌はさすがに没収されたみてえだからな。
俺の腕から血が滴り落ちる。
「おっしゃあ!デッドハンド・“ヴァンパイア”!」
―ヴヴンッ!
両腕が赤黒い腕に変化する。鋭いかぎづめは一本一本が鎌のように鋭くなる。
「デッドハンドのメガ強化版だぜ!未完成だがな!」
「んまあ!すごいわ!」
ミソラはメガ驚きながらそう言った。
「ふはは、すごいのはギガこれからだぜミソラ!」
神経を集中させ…
「死導流…“居合・地獄門”」
ザンッ!
鉄格子がバラバラになった。さすが俺様!
「んまあ!あなたって!“能力者”だったのね!」
ミソラが駆け寄る。
「いや、“能力者”ってのは“能力紋を持つ連中”のことだろ?俺はどっちかっつーと“魔法使い”だ。」
俺はアメをくわえる。やっぱ、これがねえとな。平静を保つための紅茶風味。
「さて逃げるか、ミソラ、ついてこい!」
「え?」
「お前を助けに来たんだ。一緒に来なきゃギガ意味ねえだろが!」
「え……………。」
お、おいおい、何困った顔してやがる。
「わたしは残れないよ。…帰って。」
はぁ!?ビックリ仰天とはこのことなんだぜ!
「何でだよ!?お前、せっかくここまで来たってのに…ハッ!」
…前にミサを助けにグランマウンテンに行ったが…そん時にも同じこと言われた…コイツにも弱みがあるのか?
「お前、トランプ戦団にメガなんかされたのか?言えよ、ギガCOOLな俺様によぉ。」
ミソラは黙ったまま何も言わない。
「じゃあ、なんだってんだよ!」
「…わたし、“約束”したんだ…」
「あぁ!?」
ミソラは悲しそうな笑顔を浮かべた。
―数日前 ツンデーラ山脈 北方支部 司令室 午前4時38分―
―ゴオオオオオ…
吹雪が激しくなってきた。雪山の真っただ中に建てられた国家機関の支部だ、こういった事態に巻き込まれるのは、日常茶飯事。仕方がないのである。
「司令官殿!警備報告をします!経度40度方面からは何も感知しませんでした!」
国家職員が走ってきた。
「御苦労様。」
わたしは軽く敬礼をした。
「んまあ、吹雪が激しいわね、外の警備兵を中に避難させてあげて。代わりに警備カメラを設置させるから。」
「了解!」
午後4時45分 自分の部屋にて―
わたしはベッドに寝転がり、ある写真を見つめていた。
「リクヤ…」
数年前からずっと連絡もないなぁ…
『ミソラ、俺が立派になるまで、結婚は待ってくれねえか?』
3年前に言った、あの言葉…今でも信じてるんだよ?
「はぁ…」
枕に抱きつくわたし。これでリクヤが別の人と付き合ってでもいたら、わたし馬鹿みたい。
「司令官殿!緊急事態です!」
突如、無線が鳴り響いた。
「んまあ、どうしたの!?」
「て、て、敵襲です!トランプ戦団です!」
―午後4時48分 司令室―
「どうも、ご機嫌いかが?」
白い仮面をつけた男と、黒髪で死んだ目つきの青年が歩いてきた。
「たった二人?…んまあ、なめきってるわね。十二凶が国家機関の支部に来るなんて自殺行為よ!馬鹿め!」
軽く笑みを浮かべ、わたしは叫んだ。
「…馬鹿ですか?」
仮面の男が青年に顔を向けた。
「そうですね…どうやらアイツはそうおっしゃったようです。ネシ様。」
目の前の二人は顔を合わせて笑い出した。ただし黒髪の青年は無表情だ。
「んまあ余裕ね!一同、銃撃準備!」
国家職員達に指示を出した。彼らは散弾銃や拳銃を構えて立ちはだかる。
「くくく…とんだ小細工を…ジャック、やりなさい。」
「御意。」
黒髪の青年がヘッドホンを付けて歩き出した。
「第一陣…放て!」
―だだだだだだだだだっ!
銃弾が発射された、そしてなくなった。
「え?………えぇぇっ!?」
見ると、背後で青年がかき集めた銃弾を床に落としていた。
「い、いつのまに…!!」
「ふん…もっと驚け。」
ぽん。わたしの肩を青年が掴んだ。今度はいつのまにか目の前に…!!
「ジャック、遊びは程々になさい。」
仮面の男が楽しそうにそう言った。
「…御意。」
―シュビッ!
青年は一瞬で男の横に降り立った。
「ネシ様…例のアレをやるおつもりですか?」
「くくく、当然ですよ♪」
不敵な笑みだ。ネシという男…何かを隠し持っているの?
「4thカルティメットを圧倒するこの力、披露して差し上げましょう。」
ネシは両腕を掲げた。
『戦艦フリーセル・遊撃砲』
―ひゅるるるるるるるるるるる…
何かが空を切る音が…。
「何…?」
「チェック」
ネシは両腕を振り下ろす。
ドゴォ―――――ン!!
爆音と共に右側の壁が崩壊した。
「ぎゃあああ!」
部下達が2,3人巻き込まれてしまう。
「あっ!…そんなっ!」
青白い炎が壁のまわりについていた。直径数十メートルの穴はわたしに絶望を与えた。こっちには強力な武器はない…!!
「…もう一発。」
ネシは楽しそうにそう言った。
「ま、待って!」
「くくく、待つとでも?」
「お願い、ここの人達はわたしの大切な部下だわ!降参するから砲撃をやめて!!」
武器を捨てて、わたしは二人の前に駆け込んだ。
「…この女、天城美空です…セントラルの処罰機関総合司令官、最上陸也の婚約者だ。」
青年はつぶやいた。何故そこまで知っている!?
「くっくっく…それは素晴らしい人質になりますね。よろしい、あなたを拉致するだけで勘弁して差し上げましょう。」
「ほ…本当?」
そう聞いた時、突如、ネシがわたしの首に抱きついた
「ヒッ…」
短い悲鳴をあげてしまった。
「司令官殿!!」
「き、貴様ら!!」
部下達が大声をあげた。ネシと青年はまったく気にもとめていない。
ネシはゆっくりとわたしの耳元で小声で囁いた。
「約束は守ります。ただし、逃げようとしたら、“あなたのいるこの支部は、地図から消えさるでしょう”」
「…!!」
「用心した方がいいですよ?遊撃砲はどんなに遠くに離れても標的を狙い落とします……さて、帰りましょう、ジャック。」
「御意。」
わたしを抱きかかえたまま、ネシとジャックは吹雪の中に消え去った。
そして今…
「…ようは、メガ脅されてんだな?」
厄介なことになっちまってるようだな。
「そうよ、わたしはあの男から、自分の支部を守るためにここにいるの。」
ミソラは身体を縮み込ませるようにしてうずくまっている。
「部下はそのこと知ってるのか?」
腰をおろしながら俺はそう聞いた。
「んまあ、さっきの話聞いてた?ネシは部下に聞こえないように小声でそう言ったのよ?気付いてる部下なんていない。きっと北方支部でわたしの帰りを待ってるわ。標的にされてるなんて知らずに…」
ミソラは震えだした。クスクスと笑ってるようにも見える。でも違った。
「わたしどうしたらいいの?ヒック、このまま悪党の言いなりになるの?何が総司令官よ?何もできない、ただのちっぽけな人間じゃない!グシュ…」
「お、おいおい、泣くなよ…」
「ふ、ふえええええん…」
「アメやるから泣くなって…ちくしょう、ギガ参ったなぁ。」
―同じ頃 ルシナ・ラ・トエリア 一階層 ドアノヴの家―
「現在俺達は一階層のここ、ドアノブさんの家にいるわけだが…連中はどこからでも表れたわけだ。」
「地下の下水道から侵入してきてるんスね。自分はロジャーさんとそれを発見しました!」
「そうか、じゃあ、下水道を中心に調べてった方がいいな。」
「待て、お前らじゃ危険かもしれんぞ。パンドラの仲間も捕まったんだからな、俺だけに!」
リクヤとクリスとマシュマは、地図を使って相談をしていた。その後ろでドレッドが武器の整理をしている。
「武器か…BMだけじゃ心細いしな…」
「わたしも護身用の武器が欲しいですの…」
僕とミサはドレッドの元へ歩み寄る。
「ドレッド、武器はどれだけ持ってきたんです?」
「できればわたし達も武器がほしいですの。」
僕達の問いに、
「あぁ!?」
ドレッドはこれでもかというぐらいに不満そうな顔で返した。ウザい。
「武器だとぉ?…残念だったな、リクヤ総司令官殿専用のマシンガン4丁に、リクヤ総司令官殿専用のショットガン5丁に、リクヤ総司令官殿専用のガトリング砲2丁に、リクヤ総司令官殿専用のアサルトライフル一丁に、リクヤ総司令官殿専用のリモート爆弾5個に、リクヤ総司令官殿専用のバズーカ砲しか持ってないんだよ。ははは、悪いなパツキンメガネ。」
ブチっ。
「そうですかじゃあしょうがないですね行きましょうミサこんなチンピラを相手にしていると馬鹿になりますからひゃあ怖い顔逃げましょうミサあはは。」
息継ぎをしないでよくそんだけしゃべれるものである。さすが僕様。
「コルァ、誰がチンピラじゃボケェ!」
「キミですよキミあはははは、あ、間違えた。クソ坊主でした。」
「はあああああ!?」
「ん?何か文句でも?」
「びええ。」
「賑やかな方々ですね、うふふ。」
アリスはウキウキとした顔で騒ぐ馬鹿達を見つめていた。
「アリス様、ああいうのは野蛮人というのです。」
イナバがお茶を煎れてきた。
「アリス様の大好きなハーブティーでございます。」
「ありがと♪」
アリスはティーカップを受け取った。
「おいしぃ♪」
「ではわたくしも…」
イナバもお茶を飲もうとした。その時、横からニュッと手が伸びた。
「ボクの大好きな“ハーブテー”じゃないか。ご親切にどうも、イナバくん。」
レインが満足気にお茶をすする。
「…小癪な野蛮人めが…」
「なにさ。」
爽やかににらみ合う二人。アリスはキョトンとしていた。
「まあまあ、座ってください二人共。ほら…お茶菓子もありますし…」
アリスはマフィンケーキを差し出した。
「これはボクの大好物だ!ありがとう、アリス様。」
「んもう、アリスでいいですよ!」
アリスが照れながらそういう中、イナバが乱入してきた。
「ははははは、アリス様ですよね、レイン・シュバルツ殿。」
無駄に強調するところがまた憎らしい。レインは歯ぎしりをした。
「…チミはいちいち癇に障る野郎だねぇ。分解してやろうか?え?皮を剥いでやろうか?イナバなだけに。」
「上等だ。護衛隊長をなめるなよ?」
「ひいい。」
アリスは怯えて二人を交互に見つめていた。
―午前7時26分―
「これこれ、騒がしいな君達。」
おお、奥の扉から出てきたのは、子柄だが立派な髭を生やした男だった。
鼻は円柱のように長く伸び、まるで、
「ドアノヴ様。お待ちしておりましたよ。」
イナバがそう言った。ああそうそう、ドアノブみたいな鼻してる。このおっさん。
「すごい髭だね、レッキ。」
ミサは僕にそう言った。いやいや。
「髭よりも鼻に観点を置くべきだミサ。名前通りも限度を超えているというヤツだ。」
「びええ。」
かなり驚かされたのが、これだけインパクトのある人間が現れたにも関わらず、リクヤ達が作戦会議を練っていることである。
「す、すると、あなた様はアリス様のお父様?」
レインは顔を真っ赤にしている。何故だ。
「気安くお父様と呼ぶな!!」
イナバはナイフを投げつける。
「おっと。」
レインは首を横に傾け、ナイフを回避した。
―ザクッ!
リクヤの額にナイフは命中しました。
「ぴぎゃあああ!」
かなり驚かされたのが、これだけインパクトのある展開が起こったにも関わらず、クリス達が作戦会議を練っていることである。
「この屋敷の中ならば、トランプの連中に嗅ぎつけられる心配はございませんぞ。国家機関の皆様はアリスを助けてくだすったのだ。しばらくここを拠点にしてくれるといい。」
ドアノヴの粋な計らいにマシュマは顔をあげた。
「マシャ!それはありがたい!どっかのスポンサー共とはわけが違う!俺だけに!」
マシャマシャ!マシュマは笑いながら腕を組んだ。
「貴様!スポンサーの方々に失礼だろおが!」
イナバはナイフを投げつける。
「ちくしょう、おい!何しやが―」
―ザクッ!
起き上ったリクヤの額にソレは命中しました。
「しぎゃああああ!」
「ねえレインさん、見せたいものがあるのです。」
アリスは笑顔でレインの手を掴んだ。
「え?な、あは、なんです?」
レインはドキドキしながらアリスにある部屋まで連れてかれた。
「ほら、これをご覧ください。」
「…これは…誰?」
部屋の壁いっぱいに、巨大な絵が飾られていた。まだまだ真新しい絵画。笑みを浮かべた美しい女性が描かれている。
「この人は先代の歌姫、“シャルナ・ルワンダァ・トエリア”ですわ。」
「へぇ~、先代の…!ってことは、アリスちゃんのお母様!?」
「気安くお母様と呼ぶな!!」
イナバがいつのまにか後ろに立っていた。
「無礼バスター!」
「うわっ!」
投げられたナイフをレインは頭を下げて回避した。
―キンッ!
ナイフは近くの大理石の柱にぶつかり、
―カキンッ!
跳ね返って扉まで飛んでいく。
「おぉい、お茶煎れてくれよ。」
リクヤが扉を開けた。
―ザクッ!
リクヤの額にソレは命中しました。
「ぴぎゃあああ、うそーん!!」
「お母様は念波唱歌で恐ろしい悪党達を退治してくださいましたの。残念ながら病気で9年前に死んでしまいましたが…私はお母様の遺志を受け継ぎ、悪を正す歌姫になるんです。これ…私の夢なんですよ。」
アリスは照れ臭そうな笑みを浮かべた。
「素晴らしい夢だと思いますよ、アリス様…」
「もう、アリスでいいですよ。もしくは“アリスたん”でも“アリぴょん”でも“アリピー”でも結構ですわ♪」
「あはっ!じゃあアリスたん☆」
「貴様、アリス様を侮辱したなああああああ!?」
イナバはナイフをレインに投げつける。
「うひゃ!」
レインは素早く伏せて回避した。
―カキンッ!
ナイフは床に当たり、天井に跳ね返った。
―ガキッ!
天井の豪華なシャンデリアにナイフは当たり、
―ばらららららららららら…
鋭い装飾品が全て振り落ちたのでした。
「いてて…なんだってんだよ…」
扉付近で額に刺さったナイフを引き抜いたリクヤに、
「危ないリクヤ!」
「ふぇ?」
―ザクザクザクザクザクザク…
それらの装飾品が全て命中しました。
「ぐぎゃあああああ!!何故ぇぇぇぇ!!!?」
―午前7時28分―
数分経ち、戻ってきたレインとアリスはますます楽しそうに会話をしていた。
「いろいろ協力していただいて、感謝しています。ドアノヴ様。」
僕はなるべく丁寧にお辞儀をした。
「…さて、僕も会議に参加するか。」
「ミサもミサも!」
「ダメ。」
「びええ!」
そうこうしている内に、イナバが時計を見て仰天した。
「アリス様、そろそろ歌のお稽古の時間ですよ!」
「えぇ~!?」
アリスはいやそうな顔をした。この非常事態に歌のお稽古ですか…。
「さあ行きましょう!」
「わたしもっとレインさんとお話していたいですわ!」
「えぇ!?ボ、ボクと!?」
すっごく嬉しそうなレイン・シュバルツ。まったく意味がわからない。
「とにかく行きますぞ!っと…稽古の準備をしないと…」
イナバはアリスを連れて部屋から出て行った。
「すみませんな、イナバは悪いヤツではありませんが、少々神経質でね。」
うん、よくわかってますとも。
「こらこらお前ら、俺達はこれからの作戦を考えてるんだ。出て行け。」
「えっ?あっ!ちょ―」
リクヤは僕達をあっというまに追い出してしまった。
「よっしゃ、おとなしくしてろよ!」
―バタン!
リクヤは戸を閉める。
「あわわわわ…」
僕の膝の上にはミサが目を回していた。
「な、なんですか!いつでもガキ扱いして!」
さすがの僕も少し腹が立った。
「えへえへ」
んぁ?なんだ?隣を見ると、レインがニヤニヤしていた。
「なんですか、気持ち悪いな。」
「え?あはは、ねえ、アリスちゃんってボクに気があるのかなぁ?えへえへ。」
「…し、知るか。」
なんだってんだ?ていうか、追い出されたのは僕とレインとミサだけ?ドレッドとクリスはいいのかよ!あ、ダメだ、なんかむかついてきた。
ふと、後ろを見ると、レッド・チェスがニヤニヤしながら歩いていた。ちょうどイナバとアリスのいる部屋の前で止まった。
「なんだ…?」
様子がおかしい。両肩をワナワナと震わし、ガラスを引っ掻くような奇妙な笑い声をあげている。
「…あぁ!」
レインも気付いたのか、彼女を見つめる。
「狂気を感じるよ。まさかアイツ、トランプ戦団じゃないだろうねえ…。」
レインの言葉に僕はハッとした。
「ありえる…!レッド・チェスは不審な行動ばかりを起こしていた。」
何度も消息を絶ったり、妙なところから登場したり…
「そう言えば、あのマスコットが闘っていた相手の名前は“キング・レッド”だよ。名前が近い。」
レインは思い出したようにそう言った。何もかもが合点の合う話だ。
「よし…」
ミサをどけて、僕とレインは立ち上がった。
「手伝うよレッキ。アリスちゃんを守るためだ。」
「頼むよ…」
その時だった。
―ひゅるるるるるるるる…
何かが空を切る音が響く。
「…え?」
レインは青ざめた。僕はこの音を知っている。僕の故郷を焼き払った砲撃の音にソックリだ!!
「いかん、ミサァ!」
「ひぇ?どど、どうしたの?レッ―」
チュドォォォォォォォォン!!
立派な屋根に穴があいた!瓦礫がたくさん落っこちてきた。
「あ、あうう!」
僕はミサに抱きついていた。
「あ…ごめん。」
思わず離れる。
「う、うん…」
お互い顔が熱い。
「こらバカップル。今はそんなことしてる場合かい?」
レインが膝のほこりを両手で払った。バカップルって!!…何?
「アリスちゃんが危ない!!」
レッド・チェスは部屋の中に入ってしまった!!
「くっくっく…ようやく隙を見せたと思ったのですがね。」
レッド・チェスは白い仮面を腰にぶら下げていた。
「畜生、砲撃で驚いている隙を狙おうとしたのか…」
イナバはアリスの前に両腕を広げて立っていた。
「れ、レッド・チェスさん?」
「いえ、違いますよアリス様。コイツはレッド・チェスではない!」
イナバは小刀を構えた。
「アリス様には指一本触れさせない!!」
「くくく…」
レッド・チェスは右腕を横に振った。
「ジゴス・パーク!」
―バチバチバチ!!
イナバを黒い電撃が襲う。
「イナバァ!」
アリスは悲鳴をあげる。
「アリスちゃん!!」
レインが飛び込んできた。
「分解してやる!!」
レインは右腕をレッド・チェスに向けた。
―ブチブチ…
「…なに?」
レッド・チェスの身体が動かなくなった。
「ウッ…コイツやはり人間じゃなかったのか…!!」
レインは驚愕の表情を浮かべた。レッド・チェスは必死に逃れようとする。
「させるか…!!」
「クッ!アリス様、アリス様ァ!」
レッド・チェスは苦しそうに叫んだ。アリスは怯えながらもイナバを抱き起こした。
「レッド・チェス…どうして、こんな…」
「違う!私は違う!離れろ!離れろぉ!!」
「ああ離れろ!こんな恐ろしいヤツに近付いちゃだめだ、アリスちゃん!!」
レインは叫んだ。
「違う!!“ソイツから離れろぉ”!!」
レッド・チェスがそう言った。その瞬間だった。
ズッ!
レインの胸元に穴が開いた。
「…え?」
「…レ…レインさぁん!!」
アリスが悲鳴を再びあげた。
「ふふふ…」
笑い声をあげたのは、レッド・チェスではなかった。
「イナバ…」
レインは血反吐を吐いて倒れた。イナバがヘラヘラと笑いながら立ち上がった。右腕はレインの胸元を指さしていた。
「やれやれ、レッド・チェス、あなたの小細工で私を止められるとでも思ったのですか?」
口調が変わった。すごく丁寧な口調だ。
「く、くそお…もう少しだったのに…」
レッド・チェスは悪態をついた。
「…どういうことだ…?」
僕は何がなんだかわからなかった。唯一わかることは、イナバが敵だということだ。
「私は…イナバ改め、“ネシ・サルマン・ジョーカー、”と申します。以後、お見知り置きを。」
えっ!?
第68章へ続く