第68章:潜入の時
―3001年 4月8日 午前7時30分 ドアノヴの家―
『狂気を感じるよ。まさかアイツ、トランプ戦団じゃないだろうねえ…。』
“レインは確かに狂気をレッド・チェスの『位置』から感知していた”
それは、レッド・チェスからではなく、部屋の中にいたイナバからだったのだ。
『ミュータント』
みるみるうちにイナバの姿が変わっていく。身体は大きくなり、顔つきも30代程の男性の顔になる。
「ごきげんよう、国家機関のみなさん。」
イナバは、イナバから完全に別の人間、ネシ・サルマン・ジョーカーになってしまった。
「まさか貴様が敵のボスだったとはなあ…」
レインが震えながらネシを見上げた。そういえば、イナバも何度か姿を消していた怪しい存在だったはずだ!
「ふふ、驚きましたかね?レイン・シュバルツ、“悪魔の息子”…」
ネシは見下すような目でレインを見下ろした。
「ずっと…ずっとアリスちゃんを騙していたのか!?」
「だからどうだというのです?」
ネシはそれだけ言うと、アリスの髪を掴んだ。
「あぁっ!いやっ…」
「やめろぉ!!」
レッド・チェスが叫んだ。レインの分解が効いていたのか、地面に倒れたまま動けないようである。
「おやおや、これはレッド・チェス嬢。トランプ戦団の仲間に擬態する作戦はよかったですが、失敗しては意味がありませんよ?」
ネシは笑みを浮かべたまま、レッド・チェスの横を通り過ぎた。いけない!止めなきゃ!!
「待て。」
僕はBMを向けた。
「…チッポケな人間がまだおりましたか。」
ネシは笑顔で僕を見た。目を細めて、白い歯を見せている。
「その顔、ぶち抜いてやる。」
「やめておきなさい。寿命を縮める羽目に遭います。」
―ダンッ!!
僕はなんの躊躇もなくネシの顔を撃ち抜いた。ネシは顔を後ろに曲げたが、すぐに定置に戻した。
「愚かな…」
彼の右目は露出していた。眼球は鼻の位置まで垂れ下がっていたが、ズルズルと穴へ戻って行った。
銃弾は確かに眼と眼の間を撃ち砕いたのに…。僕は青ざめた。
「眠りなさい。『MAX+グラビドン』」
ネシが器用に指を振った。
―ズズズズズズ…!!
僕の身体が地面にめり込んだ。
「ぐあああ!馬鹿なっ!その力はノアの力だ…!!」
「ふふ…そうでしょうね…」
ネシは嫌がるアリスを無理やり連れて行った。
「ち、畜生!アリスゥ!!」
レインは身体を無理やりたたき起こした。
「…まだ、立つか…。」
ネシは冷めきった顔でレインを睨む。
「ボクが相手だ!戦え、ネシ!!」
「いやです。興味をなくしました。」
ネシは片手を軽く上げた。
「…ジャック、ハート。」
ネシは片手を振り下ろした。瞬時に、ジャックとハートが現れた。
「ハート、撃て。」
「あいさー♪」
ハートは大型のボウガンを取り出した。
「なんだお前らは、邪魔をするなあ!!」
レインは二人にとびかかる。
「やめろレイン!これは罠だ!」
僕の声もレインには届かず、ハートに胸を射ぬかれてしまった。
「ハートアロー・“普”」
ハートはニヤリと笑みを浮かべた。
「…。」
レインは色を失って震えていた。
「能力が使えない…!!」
無情にも、そんな状態のレインにジャックの拳が襲いかかった。
「死んでしまえ、蒼の王。」
―午前7時34分―
「うぉぉぉ…」
かろうじて砲撃を避けきれたのはリクヤだけだった。運の強さは相変わらずだ。
瓦礫と瓦礫との間に挟まれていたのでのがれたようだ。
「危ねえなぁおい!」
立ち上がると、拳銃を取り出して部屋の外へ出た。
「うわっ!」
目を疑った。
「ぶごげごびゃびょっ!…やっ…やめっ…ぐびゃあ!」
無敵能力を持つはずのレインが、ジャックにタコ殴りにされているのだ。ハートはソレを楽しそうに観覧していた。
近くでは二人に殴りかかろうとするレッキを必死でミサが押さえていた。
「畜生、やめろ!!」
レッキは冷や汗を流しながら叫んだ。
「レッキ、危ないよぉ!」
ミサはレッキをなんとか安全な場所まで運ぼうとしていた。
「どうなってんだ…?…クソッ!」
まずはレインの救出からだ!リクヤはジャックに銃弾を放つ。
「閃光。」
ジャックはレインを放して一瞬でリクヤの後ろに回り込む。
「ハート、撃て。」
「あいさー!ハートアロー・普!」
ハートはリクヤに矢を放った。
「おうっ!?何だ…?」
「さあ、無力な小虫になった気持ちはどうだ?」
ジャックはリクヤの腕を掴んだ。
「…俺流俺式…」
「バカめ、ハートの矢を受けたら、能力は使えんのだ―」
「最上家紋!!」
―ばりりりりっ!
ジャックの服の裾を切り裂いた。
「なに…?」
「ジャック!」
ハートが叫んだ。
「俺は能力者じゃねえよ、知ってるだろ?“最強の一般人”だ。」
「フン…」
ジャックは、引きつったハートを抱きかかえて消え去った。
「帰れ、馬鹿!!」
ひゃはははと笑いながら、リクヤはレッキとレインを見た。
レッキは大丈夫そうだが、レインは…。
「うっ…」
リクヤは青ざめた。レインは血まみれになっていた。
顔はパンパンに膨れ上がり、きれいな水色の髪はボサボサに振り乱している。
「レイン、何をされたんだ…」
レインは震えながらも立ち上がった。
「よせ!無理をするな!!」
レッキが叫んだ。
「あ、あ、アリス…今、たす、け…に…」
その瞬間、気を失ったのか、身体をふらつかせた。慌ててリクヤが支える。
「治療が必要だ、スピードヒールを持ってるか?」
「持ってますよ!」
レッキはスピードヒールを取り出した。
「くそ!イナバだったんだ!裏切っていた、ずっと、アイツアリス様を…!!」
震えながらレッキはスピードヒールを一粒レインに飲ませる。
「何も言うなレッキ。」
リクヤは唇を噛みしめながらレッキの肩に手を置いた。
「プハァ!」
マシュマが、クリスとドレッドを担ぎながら飛び出てきた。
「む、レイン…遅かったか…俺だけに。」
―午前9時25分 ドアノヴの家 医務室―
数時間後、ベッドのレインは起きた。
「レイン!気がついたのですか?」
「よかったですの!」
全身包帯だらけのレインは、駆け寄った僕とミサを見た。
「レッキ、ミサ…ボクは…」
「…大変でしたね。」
レッキはアリスがさらわれたことと、レインがどうして能力が使えなかったかを説明した。
「…というわけですよ。」
「…そうか…」
レインはうつむいた。
「ボクは…アリスを守れなかったのか。」
「仕方がなかったんですよ、準備が少なすぎたんだ。」
レインは震えている。
「ごめん…」
泣いている。
「…レイン…」
ミサが半べそをかきながらレインを見つめる。
「ボクはこれだけの力を手にしても…女の子一人守れやしない!!ボクは、あの“罪”を償うことはできないんだ!!」
レインはそう叫んだ。
「…ボクは人間失格だ。」
…!!僕は師匠から言われたことを覚えていた。レインはクローン人間だということを。
レインの言葉はその事実とかぶり、僕に恐怖を覚えさせた。
「そんなこと言うな!!」
突然僕が叫んだから、レインとミサは仰天していた。
「人間失格なのはアリスを騙していたネシです…何故助けようとしたヤツが失格になるのですか?そんな理論、僕の前で二度というなよ、レイン。」
レインは泣くのも忘れて僕の顔を見つめていた。
「さっき罪を償うといいましたよね。キミがどうしても罪を償いたいというならば、一生今まで負った罪を背負わなければならない。その覚悟は、キミにあるのですか?」
レインはハッとした顔をした。
「レッキ…」
ミサは不安そうな顔で僕を見上げた。
「説教は以上です。僕達は、アリス様と天城美空、そして、仲間達を助けに向かいます。」
僕が言えるのはここまでだ。
「さ、行こうミサ。」
「う、うん…」
僕はミサを連れて、リクヤ達の待つ港まで向かって行った。
「…。」
ベッドから降りたレインは鏡の前に立った。鏡に映るのは、水色に輝く長い髪を持つ自分。
「…くそ…何が罪だっ!」
自分の軍服を脱ぎ捨てる。
「ボクは今までの自分にあまえていた!!」
蒼の文字をはぎ取る。最後に、自分の髪にナイフを当てる。そして―
―午前9時28分 港―
「よぉ…」
リクヤがショットガンとマシンガンを背負っていた。
「もう辛抱ならん。下水道を全員で散策だ。」
「わかりました。僕にも武器をください。リクヤ総司令官殿専用武器でいいので。」
「あん?みんな普通の銃器だけ…ど、レッドォォォォ!!またテメェかああああああ!!!」
「うぃぎゃあああ!」
ど、レッドは殴り飛ばされた。自業自得だ。ざまあない。
「レッキさん、これを持って行ってください。」
クリスが巨大な銃器を持ってきた。銃管の下部にはボンベがぶら下がっている。
「火炎放射器ですか。」
「おうよ、トランプ戦団は炎が弱点だ。ソレを護身用として持っとけ。」
ドレッドをボコボコにしながらリクヤはそう言った。
「どうも。待ってください。今使い方を学習するので。」
僕はレバーや引き金を触ってみた。
「よし。」
「はやっ!」
「…それにしても、イナバが敵のボスだったとはなあ…」
マシュマが険しい顔をしている。
「今この中で一番強いのは俺だけだ。俺がしっかりしねえとならねえわけだな。俺だけに。」
そして、リクヤを見た。
「リクヤ、俺の身に何かがあったら、お前がチームを引っ張ってけ。ミソラのことで心配しているだろうが、今は仕事に集中しろ。」
「…了解…」
リクヤも険しい顔でタバコの吸い殻を踏み潰した。
「ところでクリス、これからどうやって動いていくのですか?我々は会議に参加しなかったから、わけがわからないのです。」
「おっと、そうでしたね。連中は下水道を使って移動していることはわかったッス。そこで!“リモート爆弾を使って下水道を閉鎖しちゃおう作戦”を始動しちゃうッス!」
なんじゃそりゃ。
「ダメダメ!下水道なんて閉鎖したら人々が困っちゃいますよ。迷惑行為をする国家機関がどこぞにいますか!」
「マシャシャ、ここにいるぞぉー!」
マシュマが楽しそうにリモート爆弾を振り回している。
「…クッ!」
「ミサにも触らしてくださいの!」
ミサが駆け出した。
「おばか、玩具じゃないですってば!」
慌ててミサの腕を掴む。
「大丈夫、破壊するといっても、前に自分とロジャーさんが調べた下水道の部分のみッスよ!二階層には人はいないんでしょ?」
「そりゃあ、そうですが…」
「はい、決行決定ッス!」
「わわわ、ちょっと待ってくださいってば!“リモート爆弾を使って下水道を閉鎖しちゃおう作戦”は取りやめるべきです!」
「レッキ、そのネームを連呼する必要はありますの?」
う…。
「まあ待て、どうやら下水道を調べる必要はなさそうだぜ。」
リクヤは巨剣を抜いた。
「なんだと?」
マシュマは両手をポキポキと鳴らし始めた。
「向こうからおいでなすったぜ。」
クリスが剣を引き抜いた。
「ギィギィ!」
「キィキィ!」
ドルダムとドルディだ。後には赤い人間と白い人間が付いてくる。
「はうっ!」
ミサが僕の後ろに隠れた。
「しっかり隠れてなさい。ミサ。」
僕は火炎放射器を構える。
「残るはお前達だけギィ!」
「全員、実験動物としてこき使ってやるキィ!」
ドルダムとドルディは笑みを浮かべ飛びかかってきた。
「処罰・遂行!」
ドレッドが十手を振り回してぶん投げた。投げられた十手のロープは、ドルディにきつく巻きついてしまう。
「キィィィ!」
「侍魂…俺裁き!」
ドレッドは飛び上がってドルディを切り裂いた。いつのまにか3本の小刀がドレッドの目の前で回転していた。
「なんだぁ?あれ…」
マシュマは目を丸くしている。僕も驚きだ。
「これこそ俺様のスーパー能力、ピーチメントだ!」
「あれがドレッドの力か、やるじゃねえか、ヘタレのくせに。」
リクヤは笑みを浮かべる。
「オウオウオウ!テメェら、よぉく聞きやがれ!!紙人間の分際で、天下のリクヤ総司令官殿を狙おうなんざ、100億万年早ぇんだよ!!このお方はいずれ国家機関の頂点に立つべき“漢の中の漢”だ!どうしても戦おうってんならなぁ…テメェの命張って来やがれってんだ!!ただし、この俺様との勝負に勝ったらの話だがなぁ!!生半可な覚悟で臨みやがったら叩っ斬るぞ、わかったか!馬鹿野郎共!!」
すげー、見事なタンカだ。
「ベタなセリフ並べやがって、テメェも叩っ斬るぞ。」
リクヤは不機嫌な顔をしていた。心なしか嬉しそうだが。
「ここはスーパー強い俺様にお任せください!総司令官殿、マシュマ殿、他は早く下水道まで!」
「えぇ?でも…」
クリスはたじろいだ。
「心配御無用、返り撃ちにしてやるぜぃ!」
『“おちょーしもの”のドレッド坊や復活ですな。』
『へへ、まったくだ。』
『でも、そんなドレッド、やっぱカッコいい♪』
三匹の精霊の声はドレッドには聞こえなかった。
「ったく…おバカなクソガキだな!わーったよ!お前ら、行くぞ!俺だけに!」
マシュマはクリスとリクヤを持ち上げて走り出した。
「うわっ…ドレッド!殉職は面倒だからやめろよな!」
リクヤは揺られながら叫んだ。
「…了解!」
ドレッドは笑顔で親指を立てた。僕とミサは呆然としていたが、慌ててマシュマの後を追って行った。
「ギィギィ!馬鹿な奴ギィ!」
「おいら達にかなうとでも思ったのかキィ?」
ドルダムが斧をさし向けながらそう言った。切り裂いたはずのドルディまでニヤニヤと笑っている。
「久々に暴れてやるぜ、覚悟しろ、紙野郎共…」
―ドレッドVSドルダム&ドルディ―
―午前9時32分 ???―
「ハッ!」
センネンは飛び起きた。
「ここはどこじゃ?」
石造りの牢屋か。くさい、下水臭い。
「ムゥゥ、獣人の鼻には効くわい。」
鼻が曲がりそうなのを我慢して、センネンは牢屋の隅へ移動した…くしゃ!何かを触った。
「まあ、童顔の半獣人ちゃんに触られちゃった!驚き顔もキャワユイわね♪」
びゃあ、びっくりした。アリシアが笑顔で体育座りしていた。アリシアの黒髪を触ったのだ。
「す、すまぬ。」
「いいえ~♪…さてと。」
アリシアはすぐ横の壁を叩いた。
「ロゼオ~元気してる?」
「ギガ元気!…なわけねえだろ。」
ムゥ、生意気な声じゃな。
「あなたの友達の…“千円”ちゃんだっけ?起きたわよ!」
「ワシはそんな安っぽい名前じゃない!“センネン”じゃ。…ロゼオか?お主は無事なようじゃな。」
「おう!お前も目がギガ覚めたみてーだな。」
「いや…どっちかというとメガ覚めたわい。」
「基準がわからないけど可愛いからオッケイ。うふふ♪」
「それはそうと…ふふ、お主も捕まっておったんじゃな。」
坐禅を組みながらセンネンは壁越しに話しかけた。
「おうよ。まあ、牢屋の扉はメガ開いてるんだけどよ。」
…。
「…なぬ!?」
センネンは仰天した。アリシアはクスクスと笑みを浮かべながらこう言った。
「頑固な子を説得してるんだよねー♪」
すると、壁越しから
『んまあ!』という声が響き、
「頑固ではありません!」
そう否定する声がした。
「ム?聞いたこともない声じゃな。」
センネンは耳をすませた。
「もしや、天城美空か?なんで脱出しないんじゃ?」
向こう側が答える前に、アリシアが口を挟んだ。
「正解!で、『なんで脱出しないんじゃ?』という質問に対して返答するようだけど。さっきアタシも理由聞いたんだけどね、自分の支部の人達を人質にとられたんですって!」
「…なんと!」
「そうなんです!わたしの支部の人達は狙われているなんて知らないはずなんです!」
ミソラの声は、センネンにことのいきさつを全て説明した。
―午前9時24分―
「せめて、支部へ警告を送れればいいのですが…」
「そんなの関係ねえよ!敵野郎をとにかくギガトンぶっ飛ばしゃいいんだよ!な、センネン!」
「お主は本当に無鉄砲じゃな!ミソラの気持ちを理解せんか!まったく、死ねばいいのに。」
「!?」
「でも…“ネシ”っていう男は抜け目ないわ。あ、ネシってのは敵のボスね。」
「うぬ。」
「たとえ作戦が失敗したとしてもすぐに打開策をうってくるわ。たとえアタシ達が脱獄したとしてもすぐに捕まっちゃうかも…」
「そうか…」
「それもそうだな。」
センネンとロゼオは押し黙ってしまった。
「ところで、ワシらの他に誰か捕まっておらんかのぉ?」
センネンは顔をアリシアに向けてそう問いかけた。
「さあね、とりあえずロキはありえないわね、アイツ、敵に捕まることですら面倒くさがるヤツだから。」
―同じ頃 ???―
「ふぅあ~あ、面倒くせえなぁおい。生きるの面倒くせぇ~。」
ロキは大欠伸をして牢屋の冷たい床の上にて寝転がっていた。その横で、サイモンが鉄格子をガタガタと動かしていた。
「ウンン、呑気な人だなあ。」
サイモンは呆れた声でロキを見つめていた。
「うるせえな、俺は戦いのために体力を温存してやがるんだ。お前も黙って時を待て。あ、でも面倒だな、お前、俺の分も待ってくれねーか?」
「ウンンン!?何を言うんだい!?」
コイツぶん殴ってやろうか。若いころの気性の荒い自分を抑えてきたサイモンは、少しキレそうになった。
「ところで、お前は何をやってんだよ。ガタガタ揺らしたって鉄格子は外れないぞ。」
「…数年前、蒼の騎士団に捕まってた時、バロンに牢屋の扉の開け方を習ってたんだ。ウンウン。」
「…マジか!!」
ロキは驚いて飛び起きた。
「ウン、このタイプの扉は、下部のボルトが緩いんだ。こうやって回すように揺らせ…ばっ!」
―ガタゴッ!
鉄格子の扉が外れた。
「おぉ…お前、脱獄の天才だぜ。」
「ウン、見直したかい?片耳のロキさん。」
ひんやりした空気が仮面を冷やす。時折、肌に触れて冷たいのが困りもののサイモンさん。ロキと共に通路を進行中である。
「少なくともアリシアとバロンとロジャーは捕まってるな。俺が確認をした。」
「ウン、これは僕の予想だけど、センネンとロゼオも捕まっちゃってるよ。」
「結構拉致られたよな。ブレイヴメントも名折れというヤツだぜ。」
ロキは呆れ顔で肩をすくめた。
「そういうアンタも捕まってるじゃないか。」
「俺はわざと捕まったんだよ。ちょいと調べものがあってな。」
「本当かなぁ…」
「…先輩を信用しろ。十二凶のコンタクト情報を奪いに来たんだよ。」
「三面鏡のコンパクト小銃?」
「うそ~ん、とんでもねえ聞き違いだな、サイモン・ディベント。十二凶は年に一回、世界のどこかで内通をしているという情報を十二凶組織から吐かせたんだ。」
「なるほど、確か…あんた達が倒した組織は、えーと…」
「“ダンデ+雷怨”だ。十二凶一、ネーミングセンスのない組織で有名なヤツ。」
それは知らんが。
「リーダーの“タンポポ”を軽く三日三晩ほど拷問したらすぐさまゲロしたよ。」
「み、三日三晩も拷問って…」
正義のイメージが崩れ落ちそうだ。
「ネシって野郎は十二凶の中でも高い軍事力を持っている。なんとかしてソイツを潰す方法を考えなきゃな。面倒だけど。」
第69章へ続く