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第71章:わたくし、艦長でございます

―3001年 4月8日 午後10時14分 戦艦ソリティア―

「…操縦室?」

明かりを頼りに進んだのはいいが、そこは操縦室だった。赤い人間や白い人間がめまぐるしく駆け巡って戦艦を操縦している。ちょうど中央の位置では、赤い人間が操縦桿を握っていた。一同は慌てて入口の影に隠れた。

「操縦室とはラッキーじゃねえか。よっしゃ、俺達でこの戦艦を奪って、さっきの猫耳が言ってたネシの戦艦を襲ってやろうぜ!」

マシュマの提案はいまいち賛同できない。

「なんだよ。」
「僕は反対です。この戦艦は元々ひとつの戦艦の切れっぱしみたいな戦艦なんでしょう?そんな戦艦には正直言って戦闘装備があるとは思えません。とりあえず別の場所に移って作戦を練りましょう。」
「作戦を練る場所はあんのか?」

リクヤがニヤリと笑った。

「それは…」
「俺はベタじゃない可能性を信じるのが大好きだ。だから、マシュマさんの言うとおりにこの戦艦をジャックしてやろう!」
「自分も賛成ッス!まさに漢だからッス!」
「…やれやれ、わかりましたよ…」

人のことも言えないけど、気が短いんですよね、こいつら。

「…ん?」

あ、操縦士がこっちを向いた。

「いかん、ばれたぞ。」

リクヤは思わずマシンガンを構えた。

「貴様らが侵入者か!捕まえろ!」

赤と白の人間は僕達にとびかかった。

「くそったれ!」

リクヤは白い人間をマシンガンでぶん殴った。

「野郎共、俺は操縦桿を奪う!早くこいつ等をのしちまえ!」

こらこら、アンタは安全な橋を渡るのか。

「やれやれ、魔素摩呂拳・砂糖力10%!」

マシュマの肉体が大きく変化した。片手だけが筋肉モリモリになっている。

「オラァ!ここは俺だけに任せろ!」

そう言った瞬間、マシュマは赤い人間と白い人間に覆いかぶされた。

「ひええ」

僕はミサとクリスを両脇に抱えて滑り出た。

「マシャシャシャ!お盛んなマネキン共だな!」

すごく無事だなあの人。ついでのごとくこっちに襲ってくる白人間を散弾銃で撃ち砕きながら、操縦桿にたどりついた。

「リクヤさん、舵はとれますか?」
「あたぼうよ!俺は戦艦の免許を持ってるんだ。」

何故に。

「ぐおおおお!それにしては重すぎやしないか!?」

リクヤは顔を真っ赤にしながら操縦桿を回している。僕はため息をつくとリクヤの握る腕のすぐ横の部分を掴んだ。

「何をやってるんですか、まったくも……お?…お、おおおおおおおお!」

お、重いぃ…!!固定されてるんじゃないか?と思ってしまうくらいに、操縦桿は動かないのだ。

「自分も手伝うッス!ぐああっ!なんスか!?これ!」

クリスも必死で操縦桿を掴むが、一向に操縦桿は動かない。

「ぬーぬっぬっぬ!わたくしの、戦艦を動かせるとでも?え?とでも?…あ、そうれ!」
「ひゃあ!」

妙な笑い声と共に、ミサの悲鳴が聞こえる。操縦桿を握ったまま、3人は振り返った。

「ふあ!」

クリスが声をあげた。目線の先には、白ひげの中年オヤジがミサを捕まえていた。
白い軍服に白い帽子。胸元には金色の勲章。彼自身も操縦桿を握りしめている。ただしレプリカの。…また変なのが現れた。

「誰だアンタ。」

一応聞いてみたリクヤ。

「わたくし、艦長でございます!」

白ひげは仰天するほどの高い声でそう叫んだ。

「その名も、“ダウト・シロヒゲ”で、ございます!ダウト艦長と呼んでいただきたい!」

ダウト艦長はそう言うと目をカッと開いた。

「わたくし、今日はとても機嫌がいいので、ございます!だから、気安く操縦桿に触らなきゃ、無意味な戦闘はナッシングで、ございます!」

ようは邪魔をするなといいたいらしい。

「ぬーぬっぬっぬ!ネシ様は国家機関の“能力”を欲しいと言っておられます。がしかし!わたくしはそんなものに興味は持っておりませんので、ございます!」
「なんだそりゃ、意味がわかんねえ。」

リクヤいわく、僕も彼の言い分は理解しがたい。というより、濃いキャラはこれ以上登場してほしくないのです。
あ、いや濃いキャラとか僕は何を言ってるんでしょうね。

「がしかし!わたくしはわたくしの戦艦に危害を加えられるのがいやなので、ございます!だからこの戦艦に傷つけた者は…ハァー…たとえネシ様でも敵なので、ございます!」

つまり、この戦艦をこよなく愛しているということらしい。

「傷つけなければ手は出さないんスか?」
「そういうことで、ございます!こら!紅白兵!無礼は許さんぞ!」

ダウト艦長が一喝した瞬間、マシュマに群がっていた紅白兵は一瞬で粉々になり、空気中に拡散した。同時に彼はミサをあっけなく解放してしまった。

「びええ。」

ミサは猛ダッシュで僕に飛びついてきた。

「マシャ?俺だけに物足りないぜ!」

マシュマは楽しそうに立ち上がると、ダウト艦長に気付いた。

「うおっ!また変なのが出てきたな。俺だけに!」
「いや、アンタもなかなかッスよ…」

クリスは結構辛辣なセリフをはいた。

「何もしないのならば、わたくし、拉致されたお仲間の元まで案内さしあげますので、ございます!」
「なんだと?」

マシュマは声をあげた。それと同時に僕とミサは顔を見合わせる。

「いい条件だとは思わないですか?わたくし、あまりの心の広さに正直卒倒しそうな勢いで、ございます!」

ダウト艦長はそう言うと突然右腕を振り上げた。

「進路確認!北緯35度に進行中!で、ございます!」

見事に空気を読まない言葉をはきながら操縦桿のレプリカを下に傾けた。すると、自分たちのいる戦艦が下に向き始めた。

「遠隔操作か!?危なっかしい操作方法じゃねえか!」

リクヤは固まっている操縦桿につかまりながら叫んだ。

「どういうことですの!?」
「わかりませんか?アイツの持ってる“レプリカ”が“本物”です!今まで僕らが動かそうとしてた“本物”だと思ってたのは“レプリカ”!つまり本物のようでレプリカでレプリカのようで本物だということです、簡単に言えばレプリカが本物で本物がレプリカであり、えー、あれ?」
「お…おぉぅいぇ?…」

ミサはなんとか理解した。僕もよくわからない。

「さあ、ほぼ決定してるはずでしょうが、どうします?警備の包囲網を回避できる進路をわたくしはしっています!何故かというとわたくし、艦長ですから!!!」
「おいしい情報じゃねえか…」

マシュマはニッと歯をのぞかせた。

「リクヤ、お前はどうするんだ?」

マシュマは足元で剣をを振り上げたリクヤにそう聞いた。

「決まってるでしょ。」



ドスッ!


操縦室の床に大穴があいた。リクヤが巨剣をブッ刺したのだ。

「びゃああ!で、ございます!何をするのですかぁ!」

ダウト艦長は顔を真っ赤にした。

「『人質の元まで運んでやる』ってのは…つまり“テメェを信用しなけりゃならねえ”ってことだろ?戦地において敵を信用するってのは最も危険な行為だ。はなっから信用なんざしねえよ。大体、敵の元まで運ばれるってのはネシにとってプラスになるだろぉが。」

リクヤはタバコをプッと吐き捨てながら叫んだ。なるほど、一瞬でよくそこまで考えたな。

「むむむ…わたくしの好意をふいにしましたね!?ぶち殺してやるので、ございますぅぅ!!」

ダウト艦長は奇声を発するとすぐ横にあるガラス戸を片腕でぶち割った。中身は巨大なバズーカ砲だ。

「わわ!てめ、さっき『この戦艦に傷つけた者はネシでも敵』だとかぬかしてたじゃねえか!」
「自分が壊す分にはいいので、ございます!」

ダウト艦長は早速バズーカ砲を両手で持ち、なんの躊躇もなく引き金を引いた。

―ズドン!

黒い砲弾が突っ込んできた。

「十戒斬り!」

クリスが咄嗟に暗器を振り下ろした。黒い砲弾を真っ二つに切り裂いた。
ふたつに分かれた砲弾はそれぞれ左右に分かれてかっ飛んで行った。

「あ、“後始末”…忘れてた…」
「バカ――――ッ!」



チュドーン! ボカーン!


タイムボカンのごとくそれらは大爆発をした。

「ぎにゃあ!」

クリスは前方に回転しつつ体勢を立て直した。他のメンバーは爆風で壁やら機材やらに激突した。
僕はかろうじてミサに覆いかぶさって爆風は回避できたが、メガネが吹っ飛んでしまった…。

「このおバカ、後先考えずになぁにやっちゃってんですか。」

僕はメガネを探しながらクリスに向かって叫んだ。

「めんごめんご!」

殺す。てかそれどころじゃないし…びゃああメガネメガネ、メガネはどこぞ。

「レッキ!はいこれ!」

ミサが銀色の何かを差し出した。

「あ、ありがとう。」

慌ててかける。

「まだまだ砲撃は続くので、ございますぅぅぅ!!」

ダウト艦長はミサに向かってバズーカ砲を構えた。

「ヒッ!」
「弱者は消え失せろで、ございますぅ!」

させるか…

「激震+超・神…“激震波動”!!」

ヴヴンッ!と、激震打の波動を発射した。

「なにぃ…!?」

ダウト艦長は僕に目を向ける。お、遅い。のろのろと波動は移動を続ける。修行を怠ったツケが返ってきたか。

「ぬーぬっぬっぬ!あなたの弱さにも、わたくし!非常に仰天いたしましたぞ!卒倒を超えてバック転しそうで、ございますぅ!!」

―ズドン!

ダウト艦長はそういうと砲弾を放ってしまった。

「ミサ、こっちに来い!」

砲弾が突っ込む寸前で僕はミサに飛びつき、反動に任せ転がって行った。



ボカン!


操縦室は派手に爆発した。窓は全てはじけ飛び、強風が入り込んできた。爆風をまともに喰らったレッキとミサは、操縦室の隅で気絶していた。
ダウト艦長は強風で目も開けられないようだったが、笑い出した。

「ぬーぬっぬっ!馬鹿な国家機関共め。だが、わたくしの“嘘”に引っかからないとは…」
「やぁーっぱ嘘かよ。ダウト艦長。」

―カチャ!

ダウト艦長のこめかみに銃口が押し付けられた。

「ぬぅぁっ!?」

リクヤがタバコを吸いながらマシンガンを押しつけていた。

「とんだクソ野郎だ。俺が相手になってやるよ。仲間を巻き込むな。」

リクヤは完全に戦闘モードに入っていた。姑息な手を使い、弱者を狙ったダウト艦長が許せなかったからだ。

「ぬーぬっぬっ!残念ですが、あなたはわたくしに指一本触れられませんぞ!何故かというと、わたくし、艦長ですから!!」

ダウト艦長はニヤリといやな笑みを浮かべ、片手で持っていた操縦桿を振り上げた。

「おっと!漢腕掌!」

リクヤは操縦桿を握る腕を殴りつけた。

「ぬぐぁ!」

間抜けな声をあげ、ダウト艦長は操縦桿を落とした。素早くリクヤはそれを拾い上げた。

「よっしゃ!これで操縦権は俺のもんだ!」

しかし、ダウト艦長はにやりと笑い、リクヤを睨みつけた。

「…ダウト。」
「あ?」



ギィィィィィィ…


戦艦が大きく傾いた。

「うぉあ!?」

リクヤは慌てて近くの機材にしがみついた。

「おやおや、操縦桿はちゃんと握りませんと…」
「こ、このっ!今度は俺でも操縦できるぞ!」
「できませんぞ、それは“レプリカ”で、ございます。」
「ふざけんなっ!」

リクヤは操縦桿を器用に傾け、運転しようとした。しかし…戦艦はいたって傾いたまま。むしろ墜落しそうだ。

「むぎにゃー!ちきしょうめぃ!!」

リクヤは顔を真っ赤にした。

「ぬっぬっぬ…。」

ダウト艦長は笑いながら本物のようでレプリカであるはずの操縦桿まで歩いて行った。そして、硬くて動かなかった操縦桿を握りしめ、右に軽く回し始めた。

「な…!?」

リクヤが驚くのも無理もない。ダウト艦長は口笛を吹きながら片手で運転している…。戦艦の傾きも見ごとに修正されてしまった。

「いい歳して、オモチャで遊んでおられるのですかな?」

ダウト艦長は落ち着き払った態度でリクヤにそう言い放った。

「ど、どうなってやがる…」
「愚かな君に説明してさしあげましょう。わたくし、ダウト艦長の能力は、“レプリカ・ダウト”で、ございます。ついさっきまでわたくしが握っていたのは本物の操縦桿でした。しかし、今奪われたその本物はレプリカに変貌しています。ぬっぬっぬ、わたくし、『そのレプリカが本物だという“嘘”を、本当に変えられる』ので、ございます。つまり、わたしは本当を嘘に、嘘を本当にしてしまえるのですよ。理解できますか?」

リクヤは引きつってレプリカを床に落とした。

―カラン…

レプリカはしばらく転がっていたが、バラバラになってしまった。ダウト艦長は自分のついた嘘を本当に変えてしまう能力を持っているらしい。

「だからダウトか…ベタじゃねえ能力だな…」
「ぬーぬっぬ、あなたはわたくしの能力の手中に入ってしまわれたので、ございます…」

ダウト艦長はそう言うとリクヤのマシンガンを見た。

「ダウト」
「ッ!!」

リクヤは咄嗟にマシンガンを構えた。

「ぬっぬっ…」

ダウト艦長はニヤニヤと笑っている。

「ぬっぬっぬ…もしもあなたのマシンガンを“強力な爆弾”に変えてしまっていたら?どうします?」

何!?リクヤは手元のマシンガンを見つめた。

「わたくしならできるので、ございます…」
「…クッ」
「それ、爆発なさい!」

マシンガンから煙が出た。

「畜生!」

リクヤはマシンガンを捨てた。ダウト艦長がそれを素早く奪い取った。

「そぉれ!」

―ダダダダダダダッ!

リクヤの脇腹に穴があいた。リクヤは仰天して倒れ込んだ。背後の操縦桿は煙を出して壊れてしまった。

「うぎゃっ!」

短い声をあげるリクヤを見て、ダウト艦長は大声で笑った。

「ぬーぬっぬっぬぅぅ!!馬鹿め!わたくしは確かにマシンガンを変化させましたよ?だが、爆弾に変えたところまではあなたの勘違いだ!わたくしは、『マシンガンから煙が出る』という嘘を真実にしたので、ございます!!よって今わたくしが持っているマシンガンは、普通のマシンガンなのです!」
「ぐ、ぐふっ…う、“嘘に嘘を重ねた”ってか…クソったれ…」
「ぬっぬ…減らず口をたたきおって、おまけに“下水くさい”し…今、地獄に落としてやる…」

ダウト艦長は笑みを浮かべてリクヤの額にマシンガンを向けた。

「…くたばれ、国家機関め!」
「…。」

―ダンッ!

風のせいでよく見えないが、リクヤの額に穴が開いていた。

「ぬーぬっぬっぬぅ!脆い人種だ!人間め―」



ザンッ!


「―ぇえ!?」

ダウト艦長は自分が袈裟に斬られたことに気付かなかった。力が抜けて座り込んだ時にその“真実”を知り、仰天した。

「…ひぇ?」

背後ではリクヤがタバコをふかしながら巨剣を振り下ろしている。

「まだ下水くせえか…クンクン。」

赤いスカーフなはく、長い茶髪が風でなびいていた。

「ダウト艦長、テメェは今まで俺に騙されてたんだぜ…」

リクヤは笑みを浮かべた。

「ば、ばかな…わ、わたくしは確かにあなたを…」

ダウト艦長は横たわる死体を見た。

「こ、これは…」

丸太棒。赤いスカーフの巻かれた丸太棒だ。

「ベタってコラ!」

リクヤはどこかしらに向かって叫んだ。お前が用意したもんだろ。

「視覚ってのはよぉ…案外単純なもんなんだ。ちょっと見えにくくなった時に即席で俺の分身を作ればそれを本物だと思いやがる。マシンガンを捨てたり銃を突き付ける単純な操作ならできるんだよ。それ。」
「な、なんという…」
「ベタなセリフをはいたら殺すぞ。と、言いたいとこだが…俺達をマジで人質のとこまで連れてけ。」
「ぬぅ!?」
「お前がうそつきで俺達を拉致ろうとしたことはよぉくわかった。受けて立ってやろうじゃねえかよ。俺達国家機関はテメェらに宣戦布告する!わかったな!?」
「う…」
「わかったら黙って操縦桿よこせ!紙人間!!」

丸太のスカーフを自分の頭に縛りつけながらリクヤはそう叫んだ。


―午後10時49分 戦艦フリーセル―

「…!!」

アリスは引きつった顔でネシを見つめていた。ジャックはそんな彼女をけり飛ばしたいとうずいている。

「天の…柱を?」
「そうです。」

ネシが笑顔でそう言った瞬間、アリスは首を左右に何度も振り、立ちあがった。

「バカを言わないで!あの中にはろ過された海水が大量に入っているのよ!?それを破壊したら地上の人達は巻き込まれてしまうわ!!」
「何を言うのです、それが狙いですが…何か?」

ワインを全て飲み干しながら、ネシはキョトンとした顔を作った。

「…!!何か?って…」
「お忘れになりましたか、私達は国家が危険視する十二凶の組織ですよ?興味を持てない人民共には、一切慈悲は与えません。」

そして、いつのまにか現れた4人の男女にワイングラスを渡した。食虫植物のようなかぶりものをした男、スペードは笑顔でそれを受け取る。左右に立つクラブとハート、クイーンも笑みを浮かべた。ただ一人、ダイアは右側を睨んでいた。

「4THカルティメット、アリス様を例の装置の場所までお連れしなさい。」
「御意。」

4人はそう言うと、アリスを取り囲んだ。

「……!!」
「こちらです、アリス様…」

スペードはアリスの腕を強引に掴み、引きずるように食事室から連れて行った。

「…ダイア、どうしたのですか?」

最後に部屋から出ようとしたダイアは、足をとめた。

「聞こえませんか?愚かな蟻共がこっちに向かってくる音が…」
「国家機関か…おのれ、チェシャとダウトめ…」

ジャックが目を細めた。

「撃墜しますか?おそらく、ダウト艦長をねじ伏せたのでしょう。」

ダイアの提案にネシは首を横に振った。

「チェシャとダウトはどうでもいいですが、戦艦ソリティアを破壊されでもしたら私の作戦の成功率が85%まで陥落してしまいます。このまま我が戦艦に迎え入れましょう。」
「ネシ様…!!」

ダイアは驚いたような顔をした。

「“手厚く歓迎なさい”、ダイア。」

ネシの言葉に、ダイアは薄く笑みを浮かべ、軽く礼をして出て行った。

「ネシ様、レインはどこにいるのでしょうか…」

ジャックはネシの元へ歩み寄った。

「どうしたのですか?ジャック。あなたらしくもなく、他の人間に興味を持ったのですか?」

ネシは座ったままジャックを見た。

「…いえ…」

ジャックは数秒間無言でネシの顔を見つめた。

「レインにダメージをくらわされました…」
「…ホォ…」
決定打です。リクヤやマシュマなどの攻撃は回避できたのですが、レインの能力を回避することは不可能でした。」

そういうと、ジャックは身体をふるわせはじめた。

「…あってはならないのです…この俺にダメージを与えられるのはネシ様ただ一人…他にいてはならないのですよ。だから、必ず探し当て…この手で…八つ裂きにしてやる。」
「…がんばってくださいね。レインは戦艦ソリティアにはいませんよ。地上にいます。」

ネシがそう言った瞬間、ジャックは消え去った。

「ふふ、楽しくなってきましたね。」


―同じ頃 地上 一階層―

「ゼェ…ゼェ…」

ドレッドは十手を振り回しながら周囲を見回している。

キィキィ!
ギィギィ!

ドルダムとドルディは笑いながらドレッドの周りを駆け抜けている。

「これぞ双子拳法・双分身ギィ!」

双子はその丸い身体を震わせつつ、ドレッドに襲いかかった。

「引っかかったな?…」

ドレッドは笑みを浮かべ、身体を思い切りひねった。



「“侍魂・桃源横丁”」


ザンッ!!


―午後10時50分―

「…?」

ドルダムは目を覚ました。いつのまに気絶していたのだ?慌ててドルディを見た。生きてる。よかった、相棒は無事だ。
しかし妙な感覚だ。やけにのどが渇く。二人はふと、身体の動きが効かなくなっていることに気付いた。

「!!!!!?」

ドルダムとドルディは自分の身体が地面に突っ伏しているのを見た。二人とも首を跳ね飛ばされていたのだ。

「ぐがっ!ぎ、ぎぃ…」
「くそぉあ!」

二人はすぐに修復しようと身体を動かし始めた。

「これは何だ?」

インクまみれのドレッドが二人の身体から何かを取り出した。
丸い、ビー玉みたいな大きさのインク玉だ。

「びゃ!!」
「ぎゃ!!」

ドルダムとドルディは絶叫した。

「…。」

ドレッドは片方のインク玉を指で押しつぶした。

「びぇ。」

ドルディが動かなくなってしまった。

「ぎゃあぁがっあぐ、でっでめぇっあ」

ドルダムはドレッドをにらんだ。

「…そうか、これはトランプ人間の核だな?いい情報を手に入れたぜ。総司令官殿に教えてやるぜ、感謝しなきゃな、トランプ人間…」

この上ない嬉しそうな顔のドレッドにドルダムは恐怖を覚えた。

「がっ…た…助けっ…て…くだあっ―」

ドレッドはドルダムの核を押しつぶして走り去った。


第72章へ続く

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