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第72章:合体変形

―3001年 4月8日 午前10時52分 戦艦フリーセル―

「ほぉー!これは面白い!」

マシュマはセロテープの貼られたレプリカ操縦桿(本物)を動かし、運転していた。

「一方の操縦桿はマシンガンの流れ弾で壊れてしまいましたからね、そのコードレス型の操縦桿で運転しなきゃならないんスよ。」
「マシャマシャ、おもしれー!」
「しっかし、よく一人で倒せましたね。コイツを。」

僕はしゃがみこんでダウト艦長を見つめていた。

「むーっ!むーっ!」

縄でぐるぐる巻きにされて、口には猿ぐつわをつけられていた。

「なんで猿ぐつわまで付けるんスか?」

クリスの問いにリクヤは笑みを浮かべながらこう答えた。

「ソイツの能力は『ダウト』と言わなきゃ成立しねえらしいからな。『そのレプリカの操縦桿が本物だ』という“嘘”を“本当”にさせてから、猿ぐつわを付けたんだ。そうすりゃ、能力を解除できねえだろ?下手すりゃ心中決め込みそうだからな、こいつは。」

うーん、ややこしい能力だ。証拠に、ミサの頭から白い煙が噴き出ていた。

「ミサ、クールダウンです、クールダウン。オーバーヒートしちゃって、お前は旧型のパソコンですか。」
「うう~、ややこしーですの。」
「…ま、これで敵の本拠地まで乗り込もうっていう考えが理解できませんがね。」
「う、うっせえな!“漢”なら黙って突撃だろーが!」

それは当たって砕けろという意味でしょうか。

「おぉー!お、漢ッスか!」

クリスは目を輝かせた。違うぞクリス、リクヤが言ってるのは愚考だ。

「むふーっ!むーっふ!」

ダウト艦長は笑っていた。“馬鹿だ”と言いたいらしい。僕は違うよ。

「やかましい!」
「むふぶぅ!」

リクヤはダウト艦長の頭をブッ叩いた。

「マッシャシャ!いいじゃねえか!どうせ馬鹿ならぶっ飛んだ馬鹿の方がいいんだ!俺だけにな!」

口笛を吹きつつ、マシュマは笑顔で操縦桿を回す。

「ん?…んんん!?」

いきなり目を見張る。

「どうしたんです?」

僕は彼の隣りに立った。

「…どうやら、たどりついたらしいな。これだけでかいんじゃ、見えない方が無理だぜ…俺だけにな。」



ズゴゴゴゴゴゴゴゴ…


でかい…天の柱を圧倒するほどの巨大戦艦だ。
いや、これは果たして戦艦なのか?漆黒の鉄球に、5つのリングが球体を包むように取り付けられている。下部と上部に、四角形の突起物が飛び出ていて、そこから砲台が5個ずつ、顔をのぞかせていた。

「ラピ○タの中身みたいッスね。」

クリスは感心しながら、球体を見つめた。

「それより厄介でしょ…まったく、あの中にサイモン達がいるのか…。」

とても、無事であるとは思えません。

「見て!あそこ!不自然な穴が開いてますの!」

ミサが戦艦の下部を指さした。確かに、この戦艦がすっぽりはまりそうな穴が開いている。

「おー!合体するんスね!?」
「合体、それは漢のロマンだ!」

リクヤは何故か笑顔で涙を流して拳を震わせている。

「漢のロマン!?すげー!」
「すげくない…大体、どうやって合体するつもりなんです?」

その質問に、マシュマとクリスが顔を向けた。

「そりゃあ…俺だけに高速で結合部にずどむと突っ込んで―」
「却下。死んだらどうする。」
「ならなら!ドリフト走行で派手に合体し―」
「却下。死んだらどうする。」
「じゃあ、漢のロマンパワーで電撃合体―」
「却下。死んだらどうする。真面目に考えてください。」
「なんだよー、お前、頭固いなー!俺だけに。」

僕がいてよかったですよ。

「リクヤ、あなたの意見も聞かせてくださいよ。」
「待てよ、今考えてたんだ…」

リクヤはおもむろに操縦室の戸棚を散策していた。

「多分この辺に…あった!」

リクヤは大型のバズーカ砲を取り出した。

「それは何ですの?」

ミサは不思議そうに目をパチクリさせる。

「これは発煙バズーカ砲だ。俺がこの戦艦から飛び降りて警備を混乱させるから、お前らはその間に慎重に戦艦を合体させろ。」
「と、飛び降りるって…」
「なぁに、“いいもん”ドレッドからもらったからな。心配御無用。」

リクヤは自分のブーツを軽く見つめた。

―同じ頃 戦艦フリーセル 発着点―

「国家機関のクズ共め…」

4thカルティメットの一角、クラブがソリティアを待ち構えていた。
ソリティアはまだ豆粒程度の大きさでしか見えないが、確実にこっちに向かってきている。

「うひひ、俺がまとめてぶち殺してやるぜ…」

そんな、笑みを浮かべたクラブの背後から、

「曲がり死ね。」

―ゴキッ!


―午前10時57分 戦艦ソリティア 昇降機―

「うおおおおー!!」

リクヤのアホは上空にも関わらず、昇降機から外に出ていた。僕とミサとクリスは昇降機の上部から彼を心配そう(嘘)に見つめていた。

「うぎょおおおおおお!!」

強風がリクヤを吹き飛ばそうとしている。吹き飛べ吹き飛べ。

「何をしてるんですか。吹っ飛んじゃいますよ。」

吹き飛べ。

「へんっ、何も知らねえで偉そうなこと言うなタコス野郎。俺は無駄な行動をとるほど馬鹿じゃねえ。見ろ!このブーツを」

リクヤは風に吹き飛ばされそうになりながらも、自分の靴を指さした。黒の皮ブーツに鉄の金具が取り付けられた、ただのブーツ。てか、タコス野郎ってなんだ。

「何の変哲もないブーツですの。」
「そこじゃねえ。問題はこの金具だ。これは“ドラゴンフライ”。恐ろしいことにプヨン教授の発明したもんだ。」
「それは恐ろしいですね。」
「これは高い気圧などに反応して、自動的に風属性魔法を発射する代物だ。これさえあれば、風属性上級習得者でなくとも空を自由に飛べるってわけだ。」
「へぇ!じゃあ、クリスさんは空を飛べるんですの?」
「う…自分はまだ未熟ッスから、そこまでは無理ッス。う~!リクヤさんずるいッス!そんな簡単に空飛べるなんてぇ!」
「まぁ、まだ試作品だからな。空を飛べるか否かはまだわかんねえよ―」

―ビュオッ!

いきなりものすごい突風が!

「ぬがぁ――――」

リクヤは派手に落っこちてしまった。

「わぁ、大丈夫でしょうか。」

―ひゅるるるるる…

落下する人間というのは小さく見えるものだ。

「ベタじゃねえ死に方もいいもんだぜベイベー!」

そんな声が聞こえた。

「余裕ッスね、あの人。」
「ほんと、そのまま死ねばいいのに。」
「レッキさん!?」

クリスが僕の顔を見たとき、ミサが声を上げた。

「あ!飛んだ!飛びましたの!」

なにっ!?僕は目を疑った。まるで鳥のようにリクヤが舞い上がっている。…不気味だ。

「うはははははは!蝶のように舞い、蜂のように刺す!」

どこにだ。

「どうだ若造共!これが俺の努力の結晶だぜ!」

リクヤは昇降機まで舞い戻り、何故か自慢げに己を指さした。

「何を言っちゃってんですか。“プヨン教授”の努力の結晶でしょうが。」
「うるさい、じゃ、後は頼んだぞ。俺はもう行くから。」

リクヤはニッと笑うとそのまま後ろに倒れ込むように空へ飛び去って行った。

「大丈夫かよ、“陸(リクヤ)”は空の自由を持つことはできないぞ…。」
「ひゃあ!」
「おや。」

いつのまにかマシュマが操縦桿を握ったまま背後に立っていた。

「何うまいこと言っちゃってる的な空気出してるんスか。」
「マシャ、いいじゃねえか。とりあえず囮はアイツに任せようぜ。俺だけに。」

―午前11時5分 戦艦フリーセル 砲撃台―

「あらぁ?あれは何かしらん。」

金髪の少女、ハートがその存在に気付いた。ハートは、戦艦フリーセルの上部の砲撃台で読書をしていた。
砲撃台は円形のドームに、3つの砲台が取り付けられている形状だ。三つの砲台は3対に均等に取り付けられている。中央には小型の窓があり、ハートはそこから顔をのぞかせた。
黒い物体が蝿のように飛び回っている。

「遠すぎてわかんないわねん…エース、ちょっと遊撃船で様子みてきてよ。」

ハートは無線で隣の砲撃台に連絡した。

『なんで俺が!』

すぐさま驚いた男の声がした。

「だって…アンタ死んでも“代わり”がいるじゃない。アタシのために死になさいってば。」
『クッ…いいように使いやがって!』

エースは憤りながらも、渋々砲撃台を離れた。数分後、小型の船が砲撃台から飛び去って行った。

「いってらっしゃ~い、骨は拾ってあげるわん☆」
『できんのかって話だ!』

その時、ブホッという情けない音と共に黒い物体から赤い煙が噴き出てきた。

『なんだぁ!?』

お次は青い煙。

「あらん、綺麗ね。」
『言ってる場合か!』

黄色い煙。紫、緑、オレンジ、白、黒、金、銀、水色、群青、ピンク…

「目がおかしくなりそうね。」
『おう…あれは戦艦ソリティアの発煙バズーカ砲だ。……まさか、戦艦ソリティアに何かがあったのか?』

エースはハッとしたようだ。

『クレイ爺、すぐにレーダーで周辺を捜索してくれ。』
『捜索しています。えぇ~!捜索していますとも!そして、発見しました!えぇ~!発見しましたとも!』

クレイ爺ちゃんの声だ。

『ぶつぶつ…』
『…!!』

ハートはただ事ではないと察知した。

「エース、どうしたのよん。」
『“ソリティアを国家のクズ共がハイジャックした”らしい。ジャックが今向かっているところらしいが。』
「何ですって?!ハイジャックなだけに!?」

そんなこと考えている場合じゃなかった。

『俺はあのふざけた野郎をブッ殺しに行ってくる。ハートはクレイ爺と下部の結合部分に移動してくれ。』
「あいさー!」

ハートは真横のスイッチを押した。同時に椅子が消えてハートはシュッと下へ落ちた。降り立った場所は自分の部屋のベッドの上。

「ハート嬢。さあ、行きましょう。えぇ~!行きましょう!」

クレイ爺ちゃんが笑顔で待ち構えていた。古ぼけたシルクハットが少しひんまがっている。

「勝手にレディの部屋に入らないでよ。」
「おっと、失礼!えぇ~!失礼ですとも!」

―午前11時10分 戦艦フリーセル 牢獄―

「貴様ら、飯だ。」

“もう一人のエース”が質素な粥を持って歩いてきた。

「なぁー!下水くせえんだけど!ギガどうにかなんねえのか!?」

ロゼオが開いているはずの鉄格子から両手を出してそう言った。

「ギガどうにもならんわ。仕方あるまい。ここは下水道近くの廃材を利用して作られた牢獄なのだからな。ふふ。」
「んだよ、メガ趣味悪いな!」
「…黙れ、奴隷のくせに。」

エースはロゼオの首根っこを掴んだ。

「いい気になるなよ。貴様なんぞ、いつでも殺せるのだ。」
「…へへ。」

ロゼオはニヤリと笑う。

「なんだ、何かおかしっ―」

―トンッ!

センネンがエースの首筋を手刀で叩いたのだ。エースは顔をこわばらせたまま崩れ落ちた。

「たわけが、こっちだって貴様らなんぞいつでも殺せるのじゃ。」

センネンは腕を組んだままロゼオが両手をかけていた鉄格子を簡単に外した。

「おぬしも出ろ!」
「メガ、出る!」

ロゼオはトォッと言いながら飛び出た。

「シャバの空気は、ギガ下水の香り!」
「当たり前じゃ、ここは全然シャバってないわい。」

そうこう話している内に、アリシアはミソラの元へ駆け寄った。

「あら、予想以上に美人ね、アタシには負けるけど。リクヤも幸せ者ね。」
「んまあ、いつのまにそっちも扉を?」

センネンとアリシアが収容されていた牢屋は、粉々にされていた。

「千円ちゃんをただの童顔だと思わないでよね。」
「ワシはセンネンじゃ。」


「さ、ミソラちゃんはアタシ達についてきなさい。」
「えっ?で、でも―」
「大丈夫だ。俺様にいい方法がある。」

ロゼオはアメを砕きながら腕にかみついた。

「オメェら、服脱げ。」
「え!?」

―数分後

「う、うん?」

エースは目を覚ました。見ると、ロゼオ達はおもむろに粥を食べていた。

「…夢でも見てたのか?俺は。」

エースは頭をさすりながら無線を見た。

「下の牢獄から無線が途絶えてる…サイモンとロキか…!!」

彼はそう言い残すと牢獄から出て行った。


「見たかよあのギガ間抜けな顔。」

ロゼオは上半身裸で笑っていた。

「あんなもんで騙せるとは、紙人間は案外…馬鹿なのかもなあ。」

呆れ顔でセンネンは肩をすくめた。彼自身も痩せた上半身を露出させている。アリシアとミソラは上着を脱いだだけで勘弁してもらったらしい。

「ブラッド・アート・“オプション”だぜ。オメガ単純な動作のできる分身をギガ作り出すんだぜ!」
「んまあ、素晴らしいわ。血属性魔法の中でも上級の魔法よ。」
「あ、そうなんだ…」

アリシアはあまり興味がなさそうだ。彼女は男達の上半身に興味を示しているようである。変態だ。

「それはそうと、武器はどこにあるのかしら。」
「多分警備室よ。んまあ、記憶力が正しければこっちの通路にあるはずだわ。」

ミソラはエースが歩いて行った方向の通路を指さした。

「おっしゃ、メガ連れてけ!」


―午前11時14分 戦艦ソリティア―

「ダウト艦長、うまく合体するのはどうすればいいんですかね?」

僕はダウト艦長の目線に合うくらいまでしゃがみこんだ。

「むーっ!ふーっ!ぐふっ!うーっ!」

なに!?“誰がお前に教えるか”って?

「まあまあ、そんなこと言わずに。」
「むーふっ!うふーっ!うっ!ふっふぅ!」

なに!?“へっ!しょうもない女顔めが!”だって?

「誰が女顔ですか。顔に穴開けるぞ。」
「どうして会話できるんですの…?」

さあ、僕もわからない。

「かと言って猿ぐつわ解いても『ダウト』って言われるッスからね。あまり原理はわかりませんが…」

クリスがあごに手を当てながらそう言った時、ダウト艦長はニヤリと笑い、こう言った。

「むふっ!」

なに!?“コイツ、男っぽいしゃべり方だが、女じゃねえーか!ぬーぬっぬ!笑わせないでいただきたい!わたくし、国家機関にギャグの使える人間がいるとは思っていませんでしたぞで、ございますぅ!”だって?

「クリスを馬鹿にするな!」

―ゲシッ!

「むぐっ!」
「うぇぇ!?自分をなんと言ったッスかコイツ!」
「クリスを馬鹿にしました。」

まああくまで憶測だが。

「マシャッ!もういいぜ、適当に突っ込めばいいんだろ?俺だけに!」

マシュマが楽しそうにそう言った。

「びえっ!?ちょ、ちょっと待ってくださいよ!下手したらみんな死んじゃうかもしれませんの!」
「下手したらじゃなくて絶対死にますよ。」
「びええ!」
「マシャッ!俺はいつでも死と隣り合わせですから!俺だけに!」

ならば僕らを巻き込まないでいただきたい。

「クリス、ミサ、なるべく狭いところに逃げ込みなさい。僕はマシュマさんの近くにいるから…」
「う、うっす。」

クリスはすぐさまミサを抱きかかえると、発煙バズーカの入っていた戸棚に入り込んだ。

「おっしゃあ!いっちょやったるかあ!」

マシュマがそう言った時、彼の持つ操縦桿が消え去った。

「ふぅえ!?」
「なっ!?」

僕はすぐに背後の殺気に気付いた。

「ご機嫌いかがかな?国家のクズ共。」

ジャックが操縦桿を両手で持っていた。

「閃光…」

―ブチっ!

彼はダウト艦長の縄を一瞬で解いて見せた。

「ぬぅ…」
「ネシ様がお怒りだぞ。早く操縦しろ。俺の手を煩わせおって…俺はレインに用があるのだ。」

ジャックは彼の手に操縦桿を持たせた。ダウト艦長はまたあの奇妙な笑い声をあげだした。

「ぬーぬっぬ!愚かな連中で、ございますなあ!まさかジャックがいたとは思わなかっただろう!?」

そう言うと、彼は手慣れた手つきで船を操縦しだした。

「お前らの思い通りに、戦艦フリーセルにこのソリティアをドッキングさせる。ただし、無事でいられると思うなよ。お前らは全員実験に使ってやる。」

―ニヤリ…

不気味な笑顔を浮かべたジャックはそのままこちらに近付いてきた。

「神技しっ…」
「閃光」

ジャックが一瞬で僕の目の前に現れ、突き出した僕の腕を掴んだ。

「貴様の技は見切った。」
「なっ…なんだと…」

馬鹿な、僕とジャックの間の距離は10メートルはあったはずだ。

「くくく…」

―メリメリメリ…

掴む腕の力が強くなる。

「うっ…うぎ…」
「まずはその細い腕へし折ってやろう…」
「ちょっと待て。」

マシュマがジャックの背後に立ち、彼の両肩を掴んだ。

「なんだ“白怪獣”…貴様も八つ裂きにしてやろうか。」

ジャックは不気味な笑みのままマシュマを見上げる。マシュマはものすごい形相でジャックをにらみ返した。

「その手を放せ…黒刀・堕弾(こくとう・だだん)!!」

―ズッ!ズゴォッ!!

僕とマシュマの間に巨大な亀裂が生じた。う…甘い匂い。

「ホォ、威力はあるが、スピードがなってないな。」

ジャックはいつのまにかダウト艦長の背後に立っていた。

「ぬーぬっぬ!ジャックの能力に驚かれましたかな?」

非常に驚いているのは僕だけらしい。マシュマはムッとした表情をまったく変えずに、ジャックとダウト艦長をにらんだ。

「“ライトニング”…光速を超える素早さ。厄介な力だな。」

マシュマは低い声色でそう言った。

「閃光の力…そうか、それで消えたり現れたりして…あれは高速で動いていただけか…」

僕の言葉にマシュマはうなずいた。

「おうよ、でもなレッキ、あの力は俺だけじゃ防ぎきれんかもしれない。お前、シークから“神眼”を習ってねえか?それでヤツのスピードを見切るんだ。」
「神眼、ですか…」

グランマウンテンで師匠が僕に使った力。それならジャックを見切れるかもしれない。

「まあいい、眠っていてもらうぞ。」

―シュバッ!

ジャックが消え去った。

「神技神眼、“無心鏡”」

僕は目を大きく開く。

―ヴヴヴヴヴヴヴ…

周囲のものがスローで動いている。ジャックは…すぐ真横だ。鋭いナイフを僕の首筋に当てようとしていた。

『烈硬っ―』

止めようとした。しかし、それは既に残像だった。

「俺を見切れるとでも思ったのか?」

ジャックの声がし―



ドゴッ!


腹部に衝撃を覚えた。
早すぎる…神眼で見きれないなんて…。


「レッキ!!」

ミサが戸棚から飛び出てきた。

「レッキさん!」

続いて慌ててクリスも飛び出てきた。

「ゴッ!ゴファッ…ガ…」

レッキは口から血を吐いて倒れていた。彼の脇腹には拳の後がくっきりと浮かび、血がにじんでいる。

「閃光・“キャノン”受けた者は…下手すれば死ぬ。くくく…」

ジャックは血まみれの腕をペロリと舐めた。

「なんという素早さだ…」

マシュマは呆然としていた。

「ふん、雑魚共の寄せ集めというところか…お前らもこれで終わりだ…」

ジャックがマシュマ達に手を向けた時、

「ここにいやがったか!マシュマロ野郎!斬り殺してやる!!」

ボロボロの格好でチェシャが刀を振りかざしてマシュマに襲いかかった。

「チッ…」

ジャックは舌打ちをすると素早く後退した。同時にチェシャは刀を振り下ろした。

「黒刀・堕弾!」

マシュマが叫んだ瞬間、

―グシャッ!

「ぐげぇ!」

チェシャは甘い匂いに押しつぶされた。

「どこまで邪魔をすれば気が済むのだ。無能め。」

ジャックは無表情に戻り、辛辣なセリフをはいた。

「ぬーぬっぬっぬーっ!合体します!合体しますぞぉ!で、ございますぅ!」

ダウト艦長が突然声を上げた。

「うお、いつのまに…!」

マシュマは窓の外を見て驚いた。既に、戦艦フリーセルの目の前だ。

「あ、それ!合体変形!」



ズゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ…


ダウト艦長が叫んだ瞬間、船が大きく揺れ出した。

「マシャ!わ!わ!わ、わ!」

マシュマは咄嗟に足元のミサとクリスとレッキをつまみあげた。

「俺の中にかくれろ!」

―ブニュ。

「びええ!」
「みぎゃあ!」
「…グフッ!」

マシュマは3人を己の贅肉に挟み込んだ。

「気持ち悪いな…」

ジャックはいやそうな顔でマシュマをにらんだ。

「大したことは起こらんから安心しろ。ただ、強力な爆風が起こり、この部屋を焼き尽くすだけだ―」



ぶああああああああああああああっ!!


マシュマの身体をすさまじい爆風と炎が襲う。

「ぐっ…ぐぅぅ…」
「悪いな、変形をする時にちょうどこの操縦室をバーナーが通るように作られているのだ。どっかの無能艦長が窓を破壊しなければよかったものを…」
「ぬーぬっぬっぬ!」

何故かダウト艦長とジャックは爆風を受けても微動だにしなかった。爆風はマシュマに手加減なく牙をむける。

「マシュマロは焼くともっとおいしいんだろ?これは…おいしそうに焼けそうだ。くくくく…」

―午前11時23分 戦艦ソリティア、戦艦フリーセルに合体完了―

「ハァ…ハァ…」

マシュマは息切れをしながら座りこんだ。ドロドロの腹から3人が滑り出てきた。

「甘い、甘いですの、マシュマさんだけに。」
「ミサちゃん、それは洒落ッスか?」

クリスは真面目な顔でジャックとダウト艦長、そしてマシュマを見た。

「マシュマさん!しっかり!」
「う、うう…俺だけに面目ねえ…」

―ドロッ…

原型をとどめない腕を動かしながらマシュマはそう言った。

「ち、ちくしょう…」
「残るは貴様らだけだな。女のガキ二人。」

ジャックが歩いてきた。

「ははっ!はーはっはあ!殺しちまえジャック!」

ボロボロのチェシャが笑いながら叫んだ。アイツも爆風を受けたのにぴんぴんしていた。

「無能は黙っていろ。」
「な、なに!?」

怒り狂うチェシャを完全に無視するジャックは、手始めにクリスの腕を掴んだ。

「お前は…実験甲斐がありそうだ…」
「や、止めろ!」

クリスは腕を振り払おうとした。しかし、ダウト艦長も一緒になってクリスを捕まえた。

「あきらめろ、貴様は永遠に我が軍のモルモットになってもらうのだ…」

ダウト艦長はニヤリと笑った。

「やぁっ離して!」
「にやぁ、お前は人造人間だな?にやぁ、にやにや!」

ミサもチェシャに捕らえられている。

『も…もうダメだ。』

クリスはそう思った。

「…む?」

ジャックの視線が右に向けられた。同時に、赤黒い腕と獅子神の炎が飛んできた。

「ぎゃあ!」

チェシャの首が吹っ飛ぶ。

「なにやら…騒がしいと思うたら、お主らか。」
「ギガ、ピンチじゃねえか。劇的に登場した俺達、“特に俺様”に感謝しろよ。」

操縦室の入り口にて、センネンとロゼオが身構えていた。何故か上半身裸である。

「センネンさん…ロゼオ!」

クリスは嬉しそうに笑った。

「間抜けな顔してんじゃねえよパチンコ野郎。おいセンネン、ミサとクリスと他連れて安全なとこまで運べ、ここは俺にギガ任せやがれ。」
「ふふふ、そうはいかんぞ、ワシにも見せ場を作らせんか。」

センネンは拳を鳴らしながらロゼオの横に立った。

「…チッ、人間無勢がッ…」

ジャックは舌打ちをした。

「ぬぬぅ…い…今はこちらが不利ですな…」

ダウト艦長は操縦桿を握りしめた。

「チッ…閃光・“デュオ”」

ジャックがそう唱えた瞬間―



カッ!


ものすごい閃光とともに、ジャック、チェシャ、ダウト艦長の3人は消え去った。


第73章へ続く

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