第73章:またもや謎
―セントラルにて…
―ドン・グランパの部屋―
一言で言えば、そこは重厚な部屋だ。物音一つせず、入る者にものすごい緊張感を抱かせるのだ。中央にはドン・グランパの座る御立派な革張りの椅子には獅子や龍の絵が刻まれていた。薄暗いカーテンが金色の紐で結ばれていた。先代国家機関総取締役の像が睨んでいる。
「…。」
ドン・グランパは両腕を組み、目を閉じている。その表情からは殺気があふれ出ていた。
「ラッドさん、どうかされたのですか?」
部屋の扉を開け、入ってきたのは初老の女性であった。子柄だが背筋の伸びた女性だ。
紺色のスーツにロングスカートを穿き、白いケープを羽織っている。オールバックにした白髪の下には聖人のような穏やか表情を浮かばせていた。その姿から連想されるのは…仏陀である。
「ハラン…ハラン・トラヴァースか…。久しぶりだな。何年ぶりだ。」
「あら、よくわかりましたね。」
「…“ラッド”と呼ぶのはお前ぐらいだからな。」
ドン・グランパは珍しく笑みを浮かべた。相変わらず不気味だが。ハランと呼ばれた女性はその不気味なオーラにものともせずにツカツカと机の前まで歩み寄った。
「10年ぶりですよ。あなたは引退してから滅多に顔を出さないのですから、この間の国連で顔を出したので最後でしたよ。」
呆れたように彼女は、ドン・グランパの仏滅みたいな顔を見つめた。
「そうだったか…。まあよい、何の用だ?“国家機関総督”がこんな小物の元に来るとは…」
国家機関総督、これは驚いた。彼女は国家機関の全てを取り締まるどん・グランパよりも格上の存在だった。
「わたくしは今年の新入生について聞きたいことがありましてね。」
やはりか…ドン・グランパは顔をあげた。
「“レッキさん”です…彼は初代チームパンドラのリーダー、“レクサスさん”にとても似ておりますのよ。金髪に青く鋭い目。狙撃の腕までも酷似しております。」
「うむ、俺も顔を見たときからそう思っていた。レクサス殿は戦死してしまったからうやむやだが、覚えているぞ。彼の細かい仕草や動きが全てレッキと似ていることをな。」
二人はしばらく悩んでいたが、数分後ある結論に結び付くことになる。
「まさか…!!」
―3001年 4月8日 午前11時30分 戦艦フリーセル ソリティア―
「かー、逃げやがったか…」
ロゼオは目をショボショボさせながら辺りを見回していた。
「おい銀玉ヘッド、立てよ。」
ロゼオはクリスの腕を掴み、無理やり持ち上げる。
「ハッ!怪我だけはギガねえみてえだな。俺みたいにギガメガ傷だらけになってねえなんてとんだチキン野郎だぜ。」
「なっ、何だと!?」
クリスはムッとした。ロゼオはクリスに見えない方を向いて安堵の息をついた。
「ま、いいや。レッキは大丈夫なのか?」
「息してませんの~!死んじゃったぁ!!」
ミサは泣き顔でレッキを揺さぶってる。
「息はギガしてるっつの!一応手当をするぞ…ったく、メガ天下の死神が怪我人の手当をするなんてな…」
「よく言うッスね。てか、天下じゃねえし。」
「あぁ!?」
やれやれ…センネンはそんな二人を呆れ顔で見ながら、甘い匂いがする方を見た。
「しかし…マシュマ殿、ひどい有様ですなあ。」
センネンがドロドロのマシュマの元に歩み寄った。
「うぎゅう…さ、砂糖をくれ…俺だけに…」
「砂糖…フムゥ…」
そう言われても、身の回りに砂糖はない。
「ミサ、心配すんじゃねえよ、ほれ、アメをギガ食え。」
あった。
「う…ん?」
レッキは目を開いた。ロゼオが自分の傷口に両手をあてていた。
―ススススススス…
温かい。てか、ロゼオ、いつのまにここに、う…
レッキの思考を傷の痛みが邪魔した。
―ススススス…
傷口がみるみるうちにふさがっていく。
『これが…血属性。』
レッキは感心しながら再び眠りについた。
「おっしゃ、傷はメガふさいだぞ!」
ロゼオは笑顔でアメを取り出した。ミサは嬉しそうにレッキの上にのしかかった。
「ぐげ。」
レッキは短い悲鳴をあげる。
「レッキ、アメを食え!ギガ景気づけのメロン味といこうぜィ!!」
「ロゼオ、ありったけのアメをよこさんかい。」
センネンが少しあわてながらロゼオの横にしゃがみこんだ。
「ハァ!?何でだよ!」
「マシュマ殿を回復させねばならんのじゃ。」
「どぉこの世界にアメ食ってオメガ回復するやつがいるんだ!アイツはマシュマロ人間なのか!?」
「俺だけにそのまさかなのさ!!」
マシュマがドロドロを飛ばしながら怒鳴った。
「何味でもいいからよこさんかい。」
「仕方ねえな…ほれ。」
ロゼオは自分のズボンのポケットを裏返した。
ドシャ!
―バラバラバラ…
センネンはアメに押しつぶされた。
「お…お主のポケットは四次元ポケットか!!」
アメは操縦室全体にいっぱいに広がった。
「死神たるもの、いつどこでアメをギガ切らしてしまうかメガわからねえからな。いざというときのためにアメをこれだけギガしまってるんだぜ。」
「こんなにしまわなくてもいいじゃろぉが―ふぎゃ、げほ!」
しゃべっても口の中にアメが入ってしまうのである。
「ほんっと!トラブルしか招かない疫病神ッスね!」
クリスはアメの山から頭を出して叫んだ。続いてロゼオも顔を出した。
「おーおー!神になっただけランクUPだなぁ!ギガ、ありがとな、“アルミホイル”!」
「だだ、誰がクッキング用品じゃあ!!」
―午前11時35分―
「う、うん?」
なんだ。このカラフルな光景は。いつのまにかロゼオやセンネンがいるし、かと思えば、お次はアメの雪崩か。
僕はちょうど入口付近まで“流されていた”。ふ、ふふ…つくづく面白い展開を作ってくれる。
「びええ」
ミサの手がアメの山から伸びていた。
「ん。」
軽く引っ張ると半べそのミサが色々なアメを巻き込んで飛び出てきた。
「びええ」
フラフラしている様は実に愉快だ。
「俺だけに甘すぎたぜ!」
マシュマの声がしたと同時に、丸くてカラフルなマシュマがアメを吸いこみ始めた。
「メガァ――――ッ!俺のアメを全部食うなぁ!!」
ロゼオはかろうじて壊れた操縦桿にしがみついていたが、アメは数秒もしないうちに絶滅した。
「マシャマシャマシャァ!俺だけ復活っていう!」
カラフルなマシュマロはズシンズシンとこっちに向かって歩き出した。来るな。
「マシャマシャ、さて、もうフリーセルとは合体したんだろ?早く敵野郎共を全滅させてお菓子でも食うぞ!俺だけにな!」
「ちょっと待て、まだギガ食うつもりか!?俺の命の結晶(アメ)を食い尽くしたにも関わらず大した野郎だなーちきしょう!」
ロゼオがズカズカと近づいてきた。
「やはりあなた方はここに捕らえられてたんですね。」
僕がそう言うとロゼオはミサの髪の毛に引っかかったアメを取りながらこう言った。
「まあな。だが、俺のギガCOOLで劇的な能力を使って牢屋を脱出できたんだぜ。」
イマイチ理解はできなかったが、無事でなによりだ。
「下水臭かったからてっきり下水道かとギガ思ってたんだが、まさか上空だとはなあ…」
ロゼオは窓から外を見た。雲一つない青空だ。
「蒼の騎士団の時みてえに絵っていう設定じゃねえだろうな?」
「それはないですよ。僕らはこの戦艦でここまで来たんです。」
「そうですの。それに風だって感じるよ。」
「…そうだな。いや、外の空気に触れてなかったから少し混乱しちまってな。」
ロゼオは頭をかきながらそう言った。
「無理もなかろう…他の二人もまだここが上空に浮かぶ戦艦だとは気付いておらんじゃろう。」
…他の二人?
「サイモンさんや兄さんのことでしょうか?」
「メガちげぇよ。アリシアと“ミソラなんとか”っつー女が一緒の牢屋だったんだ。」
アリシア…美空!?
「天城美空を見つけたんですか。」
ロゼオに詰め寄りながら僕はそう聞いた。ロゼオは少し参ったような顔をしていた。
「そうそれ、今は警備室で俺達の武器を探してくれてるんだ。すぐに行かねえとまた捕まっちまうかもしれねえな。」
「どうしてほっとくんスか!せっかく見つけたってのに…」
「まあいいじゃねえか、こうして無事で会えたんだからよ。大体ミソラにはアリシアが付いてるんだろ?だったら心配いらねえよ。アイツの強さは俺だけが一番知ってるから。」
マシュマは腹を伸ばして両手で絞っていた。
―ジュウウウウ…
カラフルな汁が絞り出てきた。
「これで俺の白さを保てるんだぜ!俺だけに!」
…話の路線が崩れ落ちそうだ。
「とりあえずここは危険です。トランプの連中にも感づかれたみたいだし…どこか身を潜められる場所を探しましょう。」
「そうじゃな、ミソラがここのことをよく知っておるようじゃ。まずは彼女のところへ向かおう。」
こうして僕達はセンネン達と共にミソラの元へと向かった。
―同じ頃 上空―
「だあっ!」
―ドゴッ!
「ぎゅべ!」
エースはリクヤの顔をぶん殴った。上空なので威力は鈍い。
「ぶぉっ!ぶぉれりゅっうぶぉるぇすぃき・ぎゅあんあんしゅおう!!(俺流俺式・漢腕掌)!!」
―ぶあんっ!
普段はものすごい威力を誇る漢腕掌も空中では意味がない。あっさりと回避されてしまうのである。
―ぎゅおおおおおおお…
風も強いのでリクヤもしゃべりにくそうだ。別に技名を連呼する必要もないのだが。
「ふはは、死ね!ファイアエース!」
エースの腕から炎が噴き出た。
「うああああ!!」
リクヤの頭が燃えだした。
「そのまま燃え死ね!」
エースは大笑いをしながら飛び去って行った。
「う、お、おおおおおおお!!」
リクヤは背負っていた巨剣で自分の髪を切り始めた。炎のついた髪は風で吹き飛んで行った。
『畜生!俺様のチャームポイントが!!』
リクヤはかろうじて戦艦フリーセルの砲台にしがみついていた。フリーセルのつやつやな鉄製ボディには、御自慢の前髪がなくなり、薄く焦げ付いて変色してしまった髪のリクヤが映っていた。
ドン・グランパからもらったスカーフも耳に引っかかった切れ端だけになっていた。
「畜生…トランプ人間め、許さん…!!」
―午前11時40分 戦艦フリーセル ネシの宮殿―
戦艦フリーセル…漆黒で鉄製の球体型の戦艦である。その上部の部分にはトランプ戦団の衛兵、ネシの生活するスペースがある。
ネシは中央部に作られた宮殿で生活をしていた。アリスも現在はネシの宮殿に収容されている。
宮殿には赤い絨毯と高価そうな壺が置かれた洋室がある。4本の柱に囲まれた巨大な扉からネシが出てくるのである。そこに、トランプ戦団の幹部連が集まっていた。
ダイア、クラブ、ハートクイーン、スペードの4thカルティメットは4本の柱に一人ずつ腰をおろし、死んだように動かない。
ジャックはいらついているのか、部屋の隅で何かをブツブツとつぶやいている。
―ヴンッ!
突如、部屋の中央に巨大なテーブルが出現した。幹部連は素早くテーブルの周囲に置かれた椅子に座りこんだ。
「諸君、よく集まってくれましたね。」
ネシが明るい笑顔を浮かべて扉から現れた。
「今回集まってもらったのは他でもありません。国家機関とアリスについてです。」
ネシ自身も腰を下ろし、腕を組みながら話し始めた。
「私はアリスが幼い頃から“イナバ”として潜伏し、天の柱の情報をかき集めていました。そして、とうとう見つけたのです。天の柱の真実を。」
ネシを除く一同は困惑した。
「ネシ様…その真実とアリス・国家機関はどういう関係が?」
スペードの質問にネシは笑顔を変えず向けた。
「国家機関の中にレッキという男がいたでしょう?」
「ええ…」
ネシは周囲を見回して誰もいないか確認し、幹部一同にこっちに来るように言った。
「そんな小声で言わなくとも…外には誰もいやしませんよ。」
クラブが呆れ顔でそう言うが、
「…。」
「う。」
ネシの不気味な笑顔に怯え、近くまで近寄った。ネシは機嫌を取り戻したのか笑顔を浮かべてこう言った。
「彼は…“ジュード一族”の末裔です。天使の血を持つ者ですよ。」
―午前11時45分 地上 一階層―
「ぎゃあああ!!」
「わあああああ!!」
地上は大パニック状態だった。何故かというと下水道から大量の紅白人間が飛び出てきたからだ。
逃げ惑う市民達の中には紅白兵と戦おうと銃器や剣を持つ者もいた。しかし、荷物をまとめてまっすぐに港へ走って行く者もいた。
「待て!港はダメだ!!」
ドレッドが慌てて市民達を押しとめている。隙をついて港へ向かった市民は紅白人間に襲われた。ドレッドは青ざめた市民達を無理やり街中まで押し戻した。
「いいか市民諸君、国家機関直属・処罰機関、4番隊隊長のドレッド・ノートだ、よろしく!俺はこの国で何が起こっているかを全て知ってる!あの赤いのと白いのは最近ニュースで話題になった闇人っつーモンスターみたいなもんだ!一般人がむやみに立ち向かってかなう相手じゃない!とりあえず安全な場所まで避難しろ!」
ドレッドの説得は逆効果だった。
「だったらアンタがどうにかできるのか!国家機関なんだろ!?」
「この国には避難場所は下水道くらいしかないわ!見なかったの?あの化け物達は下水道から出てきたのよ?!」
「港もダメだった!もはや戦うしかない!!」
「神聖なる天の柱の住民の定めは敵からこの国を守ることだ!我らは奴等と戦って死ぬ!!」
市民達は騒ぎだした。
「…クソッ…」
ドレッドは目を細めた。
「こら、雑魚。」
隣の建物からいきなり罵声!ドレッドは右側の理髪店を見た。
「あ~!サッパリしたぁ♪」
ひび割れたガラス戸を開け、出てきたのは…あの肩まで伸びた水色の髪を耳元まで切りそろえた短髪レインだった。
上半身に着込んでいた軍服は脱ぎ、腰のベルトに挟んでいるだけ。黒いトレーニングシャツには拳銃や斧の取り付けられたベルトを無造作に結び付けている。
「レレレレレ…」
ドレッドはレインを指さしている。その指もワナワナと震えている。
「レレレのレイン!」
「レレレ!?…ホウキは持ってないよ!!」
嫌そうな顔をしたレインの背後から赤い人間が口を大きく開いて襲いかかってきた。
「ん?―中和!」
―ガブリ!
赤い人間はレインの頭にかぶりついた。歯が砕けた。顎が砕けた。皮膚が裂けた。絶命した。
「おいしかったかい?世の中には無敵の力を持つ人間がいるんだ。」
レインはまだピクピクと神経が働いている赤人間を引き抜き、長かったころの名残を残す前髪を震わした。そして、ドレッドに向き直る。
「おい雑魚。レッキ達はどこへ行った?」
レインに対する驚きのため、ドレッドは武器を探しに行った市民達をとめることができなかった。
―同じ頃 戦艦フリーセル―
「んまあ、大勢になったわねぇ!…でも、みんな子供じゃない。」
ミソラらしき美女は拳銃片手に警備室の外で見張っていた。
「あなたが天城美空ですね。新人のレッキです。子供だからってあまくみないでください」
僕は軽く会釈をして警備室に入り込んだ。
「あら、どこの天使かと思えばかわいいかわいいレッキちゃんじゃないの!」
アリシアが警備室のモニターを一つずつ見ていた。どこの天使て。
「ロゼオさんと千円さん。」
ミソラは変態じゃなくてロゼオとセンネンを呼びとめた。
「センネンじゃ」
そこ、重要である。
「あなた達の武器みたいなものはそこにあるけど…」
ミソラは近くの机に置かれた箱を指さした。黒い鎌と銃器が覗いている。
「おうそうか!俺のオメガトン鎌~♪」
ロゼオは喜び勇んで部屋の中に飛び込む。
「馬鹿、気付かれたらどうするんです!」
僕の声を見事に無視し、ロゼオは近くの箱から鎌を取り出した。
「これがなきゃギガ話にならねえ!」
ぶんぶんと振り回して肩にかける。うん、確かにロゼオにはその姿が様になっている。
続いてクリスとミサも部屋の中に入った。
「俺だけはちょっとその辺を歩いてくる。マシャ!」
マシュマは笑いながら部屋から中をうかがった。
「え。」
「ようアリシア無事か、ミソラもいるな?よし、この辺を散策するから、お前らは慎重に行動するんだぞ。」
「一緒にいてくれないんスか?」
「心配すんな、アリシアがいるだろ?アリシア、何かあったら俺に連絡しろ。俺の“TEL番”知ってるだろ?」
「はいはい、無理しないでね。」
「マシャ、そりゃあ甘い考えだぜ、俺だけに。」
それだけ言うとマシュマは白い身体を震わせながら通路を突き進んでいった。
「大丈夫かよ…」
いつのまにか黒いマントを羽織ったロゼオは通路の向こう側を見つめていた。
「マシュマはドン・グランパも認める国家戦士よ、二枚目には悪いけど、侮ってんじゃないよ。」
アリシアは笑みを浮かべた。
「んまあ、ブレイヴメントって頼り甲斐があるわね。」
ミソラの楽しそうな顔といったらもう。んまあって何?
そもそも、マシュマを見て驚かないところから彼女は師匠と同じ属性だと想定される。
「ロゼオ、そのマントはどこから調達したのじゃ?」
「警備服だよ。俺の服にメガピッタリだった。」
ロゼオはセンネンに警備服を手渡した。
「こんな時に服なんて関係ないだろ…」
クリスは呆れ顔を浮かべた。
「バカかテメェ、レディにメガ失礼だろ。」
ロゼオは嘲笑した。
「それはそれは…」
「んまあ、お気遣いありがとう。」
アリシアとミソラはクスクスと笑った。
「なんで失礼なの?」
ミサはキョトンとしていた。僕的には非常にどーでもいいのです。
「これからどうしましょうか。」
そう、それが問題である。
「とりあえずお互いの情報を挙げて今の状況を編み出してみよう。」
センネンが警備服を着ながらそう言った。
―午前11時50分―
その後僕は、センネンから今どういう状況になっているのかを聞いた。
「なるほど…まずわかっていることは、この戦艦に他の仲間やアリス様が全員捕らえられていること。鉄製でできているのと石造りの部分があること。そして、ミソラさんがネシに脅されているということですね…」
「そういうことじゃな…とにかく…連中の計画がわからなければ話にならん…」
「だあああ!面倒なことはメガ嫌いだ。みんなギガ壊せばいいじゃねえかァ!!!」
ロゼオがイライラしながらそう叫んだ。
「お主は野性児か!」
「窒息死しろ!」
それはあんまりでしょう。
「んまあ、あまり動けないですわね。こんな時リクヤならどうしたかしら…」
ミソラは親指の爪を噛み始めた。悪い癖だ。
「そう言えば、リクヤさんは無事だろうか。」
「…え?」
僕の一言にミソラはハッとした顔を作った。
「リ…リクヤ?……今リクヤって言った!?リクヤはここにいるの!?ねえ!?」
いきなり僕の肩を掴んで揺さぶり始めた。
「ちょ!ちょっ!オエッ!」
「リクヤさんは今、外で囮になってくれてましたよ。」
クリスが僕の代わりにそう言った。
「囮!?本当!?大丈夫なの!?リクヤは無事なの!?」
「それは“アンタ”がギガよく知ってることだろ?」
ロゼオは腕組みをしながらそう言った。
「…ちょっと落ち着きなさいよ、ミソラちゃん」
「…ご、ごめんなさい…」
ミソラはうつむきながら近くの椅子に座りこんだ。無理もない。彼女は数年間一度もリクヤと顔を合わせていない。
「全然連絡がないね。リクヤさん大丈夫かなあ。」
ミサは不安そうな顔をした。その言葉は一同をも不安にさせる。
「…まあ、リクヤなら心配ないわよ。運だけは国家一なんだから…。」
アリシアは笑顔でそう言った。
―一方、リクヤは…
―午前11時57分 戦艦フリーセル 上部―
「ぷはぁっ!」
リクヤは戦艦フリーセルの上部の窓をこじ開けていた。マシンガンを構えて慎重に進んでいく。変色した前髪が少し揺れる。
「しかしよぉ…ここはどこなんだ?ベタじゃねえな。」
リクヤは周囲を見回した。鉄製のチューブが天井を埋め尽くし、錆びついた鉄板で出来た壁や床には、スペードやダイヤのマークが描かれている。
「どうやら…平和で不思議な世界ではなさそうだな。」
ふと、明かりが見えた。鉄製の扉から細い光が伸びている。
「ベタだな。」
リクヤは眉間にしわを寄せてその扉の隙間から顔をのぞかせた。なるほど、ここは書斎か。巨大な本棚はもちろん、高価そうな絵画、銅像などが飾られている。その中央の椅子にアリスが座っていた。
「!!」
リクヤは声を殺した。その隣では、全身真っ赤な髭の男がいた。
『アイツは…マシュマさんが闘った相手か…!』
リクヤは目を見開いた。厄介だな。この状況下じゃ中には入れねえ。アイツはマシュマさんを圧倒した野郎だ…
「アリス様、そろそろ専用の衣装に着替えていただきたいのですが。」
彼は、アリスの肩を触った。
『???〒㈱???!!!?…変態野郎がぁぁぁ…』
リクヤ・ショック!!
「…いやだって言ってるでしょ!?私はあなたの言いなりになってなりませんわ!!」
アリスは立ち上がると、部屋の隅まで離れた。そして、近くにあった壺を割り、破片を自分の喉元に突き立てた。
『…!!』
リクヤは思わず部屋に飛び込もうとした。
「…来ないで、それ以上近づいたら死にますから!」
喉から血が一筋流れ落ちた。赤い男は冷めきったまなざしでソレを見る。とんでもない女だな。美しいだけじゃあないってか?
リクヤは拳銃の安全装置を切った。アリスが自殺しそうになった瞬間破片を撃ち砕く!
「…馬鹿な真似はやめるのである。貴女がやろうとしていることは無駄な行為なのであーる」
「何を言うの!?私は本気よ!?」
赤い男は笑みを浮かべ、
「おい」
後ろにいた紅白兵に何か合図をした。
「御意!」
連れてこられたのは…
「あ…あぁ…」
ドアノヴだった。十字架に張り付けられ、血まみれの顔でアリスを見つめていた。アリスは一瞬で青ざめた。
「ああ、アリス…こいつらの言いなりになってはいけないぞ…」
ドアノヴは弱々しい声でそう言った。
「うるせえ!」
紅白兵がドアノヴの脇腹を蹴った。
「ゴフッ!」
「お、お父様!!」
アリスの悲鳴があがった。
「ふぁっはっは…言うとおりにしてくだされば、彼は解放するのであーる」
―カチャン!
破片が床に落ち、粉々に砕け散った。アリスは震えながらその場に座りこんでいた。
「ネシ様は完璧だ。貴女がこうやって抵抗をしようとすることもお見通しだったのだ…アリス様、父親の見事な鼻を切り落とされたくなければ、言うことを聞いてくださいね。ふぁーはっはっはぁ!!」
『あの野郎…』
リクヤは歯ぎしりをしながら部屋に飛び込んだ。
第74章へ続く