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第76章:野望を阻止せよ!

―3001年 4月8日 午後12時55分 戦艦フリーセル ネシの台座―

「グルルルルルァァァア!!」

ロキはネシの頭にかみついた。

「ネシ様!!」

ハートが悲鳴をあげた。

「ハート…間違っても助けようとするなよ。ネシ様の命令は絶対だ」

ジャックは目を細めたままでそう言った。

「で、でも…」
「心配いらん、あの程度ならネシ様だけで充分だ」

ジャックの言葉は間違っていた。ネシはロキにかみつかれたまま天井に投げつけられた。

「ね、ねえ…マジでやばくない?」

ハートはそうつぶやく。

「う、うむ…あんなに苦戦するネシ様は初めて見るのである」

キング・レッドは振り回されているネシを目で追っていた。

「見なさいよ、すごく辛そうよネシ様…」

ハートクイーンが指さした。

「くははははっ」

笑っている。

「ふふ…心配無用だ。出るぞ、ネシ様の真の力が」

ジャックは笑みを浮かべた。ロキは天井のシャンデリアに引っかかっている。

「グルルルルルァアアアアアアァァ!!!」

ロキはとどめをさそうと飛び上がった。

「くくく、やれやれ…ポーカーフェイス

―シュバッ!

ネシが消え去った。

「グルァ!?」

ロキは飛びながら周囲を見渡した。

「私はここですよ、フェンリル」

ネシはロキの首に両腕を巻きつけていた。

「グルァァァ!!」
「トランプ法術…ジェスターアウト!」

―ぎゅるるるるるるるる…ずがん!!

まるで竜巻のごとく回転しながら、ネシはロキを地面にたたきつけた。

―午後12時58分―

「や、やった…」

チェシャがひきつった笑みを浮かべた。

「グルル…」
「くはは…グウの音も出まい…」

ネシは地面にめり込んだロキの上で笑っていた。

「そうだな…こんな攻撃かゆくもない」

ロキが口を開いた。

「!?」

ネシは一瞬で瓦礫の方まで移動した。ロキが毛むくじゃらの身体を起こすのが見えた。

「ロキさん…あなた、しゃべれるんですね?」
「…まあな…理性は保てるぜ…グルルルル」

狼のようなだみ声でロキは喋る。実に滑稽だ。

「…ふふ」

実に興味深い。ネシは笑みを浮かべながらそうつぶやいた。

「グルァ…ほざいてろ」
「あなたのことをもっと詳しく調べてみたいですねえ…」

ネシはウズウズと震えている。

「しかし、もう終わりです。あなたの実力はもう見切りました…

その言葉に、ロキは顔をゆがめた。

「…そんな馬鹿な、そりゃあハッタリだ」
「くくく…どうでしょうねぇ…」

ネシの両腕があやしく光りはじめた。

『ポーカーフェイス…ミクロマスター!』
「何っ!?」



「四方絶命砲!!」


―ズァァッ!!

青い波動がロキを襲う。

「グルル…炎礼・インフェルノ!!」

ロキの口から巨大な炎が発射された。炎は波動に激突し、少しずつ相殺し始めた。ものすごい威力だ。

「…ぐ…くくく…考えましたね…だが、分解!

ネシがそう叫んだ瞬間、波動は粉みじんに弾け飛び、無数の刃となってロキの身体を切り刻んだ。

「グ、グルァ!」

波動が消え去った後には、血まみれのロキが身体を震わせていた。

「ハァッ…ハァッ…ど、どうなってやがる…」

ネシはいない。ロキは周囲を見渡しながら歯ぎしりをした。

「さっきから他人の技ばかり使いやがって…」

ロキはそこまでつぶやいてハッとした。ひとつの結論に結び付いた。

「ま、まさか野郎の能力紋は―」
「気付くのに遅すぎましたね」

ネシが背後に回っていた。

「あれだけの上級技を使ったんだ。身体がついていかないでしょう?」
「なっ…いつのまに…」

ロキが腕を向けようとする寸前にネシは技の詠唱をすませていた。

「くくくく…特別に、最上級の技で葬ってさしあげましょう」

ロキは奥歯を噛みしめた。

「クソ…面倒くせェ…」
『“ファイブ・オブ・ア・カインド”』



『絶望の奏鳴曲(ソナタ)!』


―ズバァァァァアァァァァァ…

ロキの巨大な身体を上回るエネルギー砲が、ネシの腕から発射された。

「!!!」

ズゴォッ!なすすべもなく、ロキは吹っ飛ばされた。

「ありがとうロキ・フレイマ、楽しかったですよ♪」

そう言うネシの腕からは煙が立ち上っている。
部下達は、ジャックを除いて呆然と立ち尽くしていた。

「す…すげぇ…惚れ惚れするぜ…」
「さ…さすがはネシ様だ…」

―午後1時5分 ロキVSネシ ネシ勝利―


「が…は…め、めん、ど…くせ…ェ…ゲホッ!ゲホッ…」

ロキは元の人間の姿に戻っていた。ボロボロになった身体を無理やり立ち上げようとしている。

「ハァ…ハァ…」

ネシは息切れをしていた。一筋だけ流れた汗を袖で拭いながら、彼は部下の方に顔を向けた。

「ロキ・フレイマの実力の調査は済みました。ハァ…後はあなたがたで始末なさい
「…」

部下達は硬直していた。ネシは細めた眼を大きく見開き、


「おい、早くしろ」

静かにつぶやいた。

「はっ!…は、はい!」

スペードとダイアが走りだした。

「…やれやれ…パンドラといってもあの程度の実力ですか…」

ネシはメガネについたほこりを拭きとって、部屋から出ようとした。

「ネシィ!」

ロキの声があがった。ネシは振り返った。意外なことにロキは満面の笑みを浮かべていた。
ネシは眉間にしわを寄せながら問いかけた。

「…何故笑える?…ロキ・フレイマ…いよいよ頭でもおかしくなったか?」
「おかしかなってねえよ…ハァ…ハァ…俺に勝ったからってな…パンドラを見くびってんじゃねえぞ。俺よりもとんでもねえ…“化け物”がまだまだいるんだ…ヒヒヒ…」
「貴様、無礼だぞ!!」

スペードがロキを殴り飛ばした。

「ゴファッ…ハァ…ヒヒッ…それに…コスモスのヤツ等にも気をつけた方がいいぜ…あいつ等、利口に見えてぶっ飛んだことをしやがる連中だからな…」
「それがどうした?私の計画は絶対だ。ダニ共がどうあがこうと我が戦艦を相手に成す術はあるまい…」
「そんな曖昧な考えがいけないんだぜ…俺達国家機関に…」



ドゴォォォォオン!!


「理屈は効かねえ…」

―午後1時7分―

「!?」

ネシは突然の爆音と揺れに驚いた。

「何だ…?」
「調べてきます」

ジャックが走りだした。
しかし、その前に紅白兵が部屋に飛び込んできた。

「ひゃあああ、ネ、ネシ様ァ!た、大変ですぅ!!」
「どうしたんですか…さっきの爆音はなんです?」


“メインエンジン”が爆発しました!!こ、このままでは墜落します!!」


―同じ頃 メインエンジン室―

「ただここを爆破させればよかったのよ」

ミソラはニンマリを笑みを浮かべながら真っ黒な顔になった一同を見た。

「め…めちゃくちゃしよるのぉこのおなご」
「しゅ、しゅごい爆弾ですの…」

警備室の扉は僕の超・神打とセンネンの獅子神だけで充分だった。その後、ミソラの誘導によってメインエンジン室まで来たわけだ。
まさか爆弾を放り投げるとは思わなかったが。しゅごい爆発である。

「んまあひどい顔。みんな真っ黒よ。」
「人のこと言えますかアンタは。なぁにやっちゃってんですかまったく」

僕は呆れながらミサの顔をハンカチで拭いてあげた。

「とりあえずこれで戦艦は終わりよ、天の柱も北方支部も、みんな守る!」

ミソラは僕の顔を見てそう言った。僕は答えた。

「当たり前です」




「何ィ!?メインエンジンだとぉ!?」

ジャックが仰天した。そして紅白兵の胸倉を掴んで怒鳴りだした。

「バカ野郎!!どういう失敗をすればそんなことができる!?」

しかし紅白兵は首を振りながら答えた。

「な、なんの前触れもなくいきなりです!トラブルも何も発見していません!!」

ネシは右手を顎に当てながら何やら考えていた。ふいに、ロキの方に振りかえると、

「早速やりやがったか!ひはははははははは!!」

ロキは大笑いしていた。

「…まさか…」

コスモスが?いや、そんなばかな。

「ヤツ等は警備室に幽閉したはずです…」

あの壁はコスモスの隊員の攻撃でも破れないほどの固さにしたはずだ…。

「ネシ様…ひょっとしたら、ミソラと同行していたのかもしれませんよ?」

エースが駆け寄ってきた。

「…どういうことです?」
「ミソラの能力紋は“インプロ”、身近にあるモノで様々なものを作り出せる能力です…警備室にあるもので爆弾を作れるのかもしれません…脱獄して、レッキ達と合流したのかも…」

ネシは、自分の想像の曖昧さがこの事態を招いたことにようやく気がついた。

「…そうですか…牢獄の見張りはあなただったでしょうエース…何をしていたんですか?」
「も、申し訳ありません、ただ、見張りをしていたのは№29の―」
「あなたに変わりはないでしょう」
「あっ…」

ネシの目が笑っていない。エースはガタガタと震えだした。殺される…。

「おのれ国家機関め…」

ネシはエースを押しのけるとズンズンとロキの方へ歩き出した。

「無理矢理でも連中の動きを吐かせてやろう」
「…へっ、その考えもあまいぜ、マシュマじゃねえが俺だけにな」

ロキは笑みを浮かべながらそう言った。

「…?」

ネシの足がとまる。

「俺はまったく作戦なんて知らねえ。あいつ等の行動も、あいつ等が何を考えてんのかも、俺には理解できん…そもそも、考えんのは面倒だ。ひははっ!」

ロキが笑っている内に、戦艦はますます揺れはじめた。

「そ、そ、そんな…」

ネシはワナワナと震えていた。

「ネ、ネシ様…墜落します!すぐに脱出の準備を!!」
「ふ、ふふ…脱出だと?こ、この戦艦は難攻不落なんだ。私の計画が失敗することなんてありえないんだ…」
「さすがの策略家も、ここまでだな…」

ロキはヘラヘラと笑っていた。

「ぐ、うううううう…国家機関めがあああああああああああああああ!!!!!」

ネシは頭を抱えた。唇をかみしめて震えている。

「ひはは、これまでだな、ネシ・サルマン・ジョーカー…」

ネシはうめいていた。

「うぐぁあああああ…ち、ちくしょおおおおおおおおおお―」





「―さて、」




ネシが顔をあげた。

「は…」

ロキの顔から笑顔が去った。

「ワイトさん、レッドさん、すぐに修理班を呼んでください」
「ぎょ…御意!」
「御意。」

彼は幹部達にテキパキと指示を出し始めた。

「メインエンジンが故障している間は両極のサブエンジンを起動させればいいだけじゃないですか、馬鹿ですかあなたは」
「ハッ、も、申し訳ありません!!」

紅白兵はビクついてすぐに頭を下げた。

「謝る暇がありますか、お仕置きです。」

―トーンッ!

ネシはその頭に軽く右手でチョップした。

「わわ、すぐに起動させます!」
「ああそれと!紅茶を一杯持ってきてくれませんか?はは、久々の戦闘でしたからのどが渇きました」

完全に笑顔になったネシ様。

「りょ、了解!」

幹部達も各階に無線で修理の指示を出している。

「な…」

ロキはネシを凝視していた。ネシは笑顔で振り返った。

「ロキさん安心してください。私はとても悔しいです。一本取られました。まさか簡単にメインエンジンを破壊されるとは思いもしませんでした。私の計画の手順が少しずれてしまったので、すごく悔しいんです。ただ…私の計画は絶対なだけですから。“これまで”だなんて、ふふ、ありえない…」

少し計画の針路がずれただけであそこまで憤慨したというのだ。

「いやはや…実にお恥ずかしい。私は純潔のA型ですので」

ネシがそれだけ言った瞬間、

『メインエンジン修復完了しました。飛行再開します』

悪夢のようなアナウンスが流れた。

「我々を止められるとでも思いましたか。とんだおバカさんですね、あなた方は♪…くくく…」
「…チッ!」

ロキは舌打ちをした。

―午後1時10分 メインエンジン室―

「…おやおや…」
「…んまあ…」
「…はうあ…」
「…フム…」

エンジン、修理されちった。

「ん ま あ ! ! ど う な つ て る の ?」

ミソラは口をあんぐりと開けていた。どうなつてるんでしょーねえ。

「…ま、こんなことでどうこうできるとは、思ってませんでしたよ…」
「うううう~ごめんねぇ~役立たずでえ」

およよと泣き崩れたミソラさん。

「メンバーが散り散りな上に、敵の警備はますます固くなった。やれやれ、最悪の状況じゃないですか…」
「どど、どうしますの?レッキ…」
「…い、いや、どうするって言われてもな…」

そんな僕達を見かねたのかセンネンがこう言いだした。

「敵の移動手段を叩くのはよい方法じゃ。しかし、相手は十二凶の中でも策略の天才であろう、手はすぐに打たれると考えておくのが利口じゃろうな」
「…!!」
「そ、そうですの…」
「別の手を考えるんじゃな」

センネンはニンマリとかわいい笑顔を浮かべた。

「ニャハハハ!やはり、戦いから逃げきれそうにないのお」
「な、なんですその嬉しそうな顔は」

このバトルおたく。

―午後1時12分 ネシの台座―

「ロキ・フレイマ…あなたを処刑します」

ネシは両手をポキポキと鳴らしながら歩き出した。

「まあ待ってくださいネシ様」

クラブが横から躍り出てきた。

「コイツの始末は俺に任せてください…俺ぁこいつに“借り”がある」
「…そうですか…では、お好きになさい」
「御意、ひひひ、覚悟はいいかァ!?」

クラブはニヤニヤと笑いながらロキの胸倉をつかもうとした―



ガシャ―ン!!!


ステンドグラスがくだけ、サイモンが飛び込んできた。彼のガイアーエイプの腕は翼の形に変貌していた。

「やってみるもんだよ!ガイアー・モードウィングって感じかな?ウン!」

彼はロキの左手を掴み、空を舞って行った。

「あ…あ……」

クラブは唖然としていた。

「何をしているんですか、早く追いなさい」
「はっ、はい―」
「ネシ様ぁぁ!!」

紅白兵が走ってきた。

「…今度は何ですか?」

ネシがそう聞くと同時に、サイモンとロキは向かい側のステンドグラスを突き破って逃げて行った。

「ハァ…ハァ…ば、化け物です!!」
「…?」

ネシは眉間にしわを寄せた。

「マシャシャシャシャァ!!」

妙な笑い声がスピーカーから響いた。

「やっほぉネシ様よぉ!俺はマシュマ・スゥイーティーってんだよ!お前らは今包囲されてやがる!おとなしくお縄につきやがれぃ!!俺だけに。」
「…!!!!!!!」

ネシの顔色が大きく変わった。

「…国家機関め…ふふふふふ…」
「ネ、ネシ様…?」

ハートが声をかけるとネシは勢いをつけて振り返った。目がすさまじく笑っていない。激怒している。

「ヒ…ヒィィィッ!!」
「諸君…何をしているんです?今すぐ国家機関共を抹殺してきなさい」
「え…?」
「国家機関共…パンドラの連中は我が戦艦をジャックするつもりです。ふふふ、私の戦艦を何だと思っているんでしょうねえぇ…ふふふふふ」

ネシはクスクスと笑っていた。そして、硬直している部下を見て、



「何をしている、殺されたいのか」


恐ろしい声でつぶやいた。

「は、はい!!」

部下達は5秒足らずで四方八方に散った。

「ふふふ、もういい、我が軍団の恐ろしさを思い知らせてやろう…ふふふふ♪」

―午後1時16分 メインエンジン室 通路―

「サイモン!」

センネンが声をあげた。サイモンさんがロキを背負って歩いてきた。

「ウンン、みんな、無事で何よりだよ」
「サイモンさん…怪我はないですの?」
「怪我をしてるのはこっちの方さ、すぐに治療をしないと…それよか、さっきの無線はなにさ?」
「マシュマさんのことですか?さあ…僕達には彼の考えはイマイチ理解できない…」
「理解できないだ?それでも後輩かテメェ等」

ロキが口を開いた。

「起きとるのかアンタ」

センネンが呆れ顔でそう言った。

「まあな、めんどくせえ」
「んまあ…命に別状はなさそうね…」
「おうよ、美人の姉ちゃん、アンタがミソラだな?とりあえず婚約おめでとう、面倒だけど」
「あ、ありがと」
「お前らの出る幕はねえ、といいたいところだが、今はそれどころじゃねえ、協力してくれ、俺達に」
「当たり前じゃないですか…………て…いうか、俺達って…?」

ロキは自分の耳を指でつついた。小さな機械が耳の穴にはめ込まれている。

「それは…」
「無線機。出動する前に緊急用としてもらったやつだよ」


上空にて―


『戦艦フリーセルを発見しました』

7つの戦闘機。誠の文字の刻まれた戦闘機が球体型の戦艦の上空を舞っていた。三角状の機体には二人乗り用の席が見える。

『御苦労、後は我々に任せて本部へ戻れ、俺が許す。』
『了解!』

スチルの偉そうな口調が聞こえた。

『やれやれ…こっちは任務中だというのに連れ戻しおって、元はとらせてもらいますぞ、指揮官!許すから。』
『うむ、わかってお―』
プロはんに偉そうな口を聞くんやないわボケコラァ!!

後部座席のフリマに蹴飛ばされた。

『ぐぎゃあぁ!』
『…』
それよりぃ~、シークはんと~あのクソ筋肉はどうしたんどす~?
『我々よりも先に移動しているな、どっちも馬鹿だからな、何も考えずに向かったんだろう』
あらまぁ~……これだから馬鹿は嫌いや
『…言っている場合か。かわいい新人達も巻き込まれておるのだぞ。すぐにバリアーを解く準備をするんだ。この作戦、私がいる限り必ず成功させる!!』
はぁ~い♪オラァ!キビキビ働けスチルコルァァ!!
『け、蹴るなぁ!!か、堪忍してくれぇ姉貴ィ!!俺が許す。』
『…失敗するかもしれんな…』


第77章へ続く

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