第78章:俺最強!!
―3001年 4月8日 午後1時28分 戦艦フリーセル 上部通路―
「じっ…か…」
クリスは血まみれになっていた。
「よくここまで耐え切れたな、褒めてやるぞ…ひゃっははははは…」
エースは45人以上…もはやクリス一人では勝ち目がない。殺される。
「さぁて…動きでも封じてやるか…アーケードマスター…無敵エース!!」
エースの身体が白く輝いた。
「慈悲というヤツだ。苦しまずに殺してやる…」
エースが飛び掛った。
「グッ!」
咄嗟に右腕を突き出そうとすると、
―ゴキッ!
奇妙な方向に曲がってしまった。
「…おいおい、せっかく即死させてやろうと思ったのによぉ…」
エースはニヤニヤとクリスを見下ろした。
「うぎゃあああああああ!!」
時間差で、クリスが絶叫した。
「いい“音楽”だなぁ…なあ、№1177の俺」
「おうとも、№2031の俺」
エースはエース同士で楽しそうに話し合っている。
「う、うぎぎ…」
右腕を押さえながらクリスはうずくまる。
―午後1時29分 クリスVSエース エース勝利―
「まあよくがんばったよ本当に、だが、しょせんは踏まれて終わりだ♪」
エース達は全員無敵になり、クリスの身体を押さえつけた。
「死ね!ひゃははははは!!」
「曲がり死ね」
―ボキボキベキバキブキ!
エースが半数以上曲がってしまった。
「こ、この技は…」
クリスが震えながら振り向くと、レッキの兄、バロンが肩を押さえ、壁によりかかりながら歩いてきていた。
「バロンさん…!!」
クリスが顔を上げた。
「クソォ…あの変身野郎め…痛手を食っちまった」
バロンは苦しそうに声を上げた。肩からはおびただしい血が流れ出ている。
「よぉ…クリス、弟の仲間だから助けてやる。だからって惚れるなよ☆」
…この馬鹿兄だけは…。
「……え、えぐっ、ありがとッス」
クリスは半べそをかいた。
「なにをぉ…」
ピカソ作品のように複雑な身体となったエース達は、再び“増え始めた”。
「な、なんだコイツの能力は…」
「気をつけて、倒してもすぐに復活しちまうッス」
「そういうことだ!ひゃっはぁ!!」
エースはすでに100人以上まで増えていた。
『チッ…美女を前に調子に乗っちまったが、変身野郎に怪我負わされちまってまともに戦えるかどうか…』
バロンは顔をゆがめた。勝率は極めて低い。
―タイムリミットまで後2時間51分…―
―同じころ 戦艦フリーセル 下部―
「ウンン…みんなどこへ行ったんだい…」
サイモンは薄暗い通路を走っていた。
「急がないとアリス様が…!!」
「うひょひょ…」
!!!…暗闇から声がした。
「ウン、誰だい?」
サイモンはすぐにふところの絵の具の蓋を開け、床に撒き散らした。絵の具は瞬時に明るくなり、ハンプティ・ダンプティの丸い顔を照らしつけた。
「うひょ?…珍しい道具を持ってるな、うひょぉっ♪」
「キミは…幹部かい?」
「うひょひょ…そうだよん、俺はハンプティ・ダンプティ!卵型トランプ人間なのだぁ!うひょおおお!!!」
彼はピョンピョンと跳ね始めた。
「ウウン…緊張感のない体型だ。まったく腹が立つ。昔の僕ならマッハで殴り飛ばしているよ」
「うひょひょひょ…できまい、貴様にはできまい…」
「本当にそう思うかい?とりあえず、痛い目に遭いたくなきゃ、カードキーのパーツの在り処を吐け……」
―サイモンVSハンプティ・ダンプティ―
「うひょ!」
ダンプティはふところから卵のようなものを取り出した。
「…?それは…」
「うひょひょ!びっくりどっきりエッグボール!」
勢いよく投げつけてきた。
「ウン…避けるまでもないね…」
サイモンは槍で卵を叩き割ろうとして、
「!!」
すぐに後方へ飛びのき、防御の体勢をとった。卵は間抜けな音を立て、すさまじい衝撃波を放った。
「ぐっ!!」
「当たりだぁ♪うひょひょひょ…」
ダンプティは楽しそうに跳ね回っている。
「油断大敵とよく言ったものだ…」
サイモンは体勢を整えた。今度はこっちのターンだと言わんばかりに。
「地流・荒神災!!」
槍で床を思い切りぶっ叩いた。当然のごとく、ダンプティの足元がゆれ始めた。
「うひょ!」
「ガイアー!!」
サイモンの肩から腕が伸びた。
「猿腕・波動乱劇!」
ガイアーの腕の波動がダンプティを吹き飛ばす。
「うひょおおおおおお!!…と、なんちゃって♪」
彼は再び卵を投げつけてきた。波動に触れ、それらは大爆発した。
―じゅばばばばばばば…
「は、波動が…」
「うひょひょひょ!!俺の卵は波動のこめられた特殊な卵。どんな技をも吹き飛ばすのだぁ!」
ダンプティは卵を両手に持った。
「い、いかん!!」
卵がものすごい勢いで飛んできた。
「卵焼きは無理だ!目玉焼きも無理だ!何がオッケイかて!?貴様の丸焼きだよ。国家の犬めがァ!!」
―ドカァーン!!
衝撃にサイモンは吹っ飛ばされる。ダンプティは壁に張り付いてトカゲのように這い、動きだした。
「ぐくっ…!!」
「トランプ法術・双手札辻斬り!!」
サイモンに飛びつき、両足を絡みつけると、ダンプティは両腕でサイモンの胸板を切り裂いた。
「うぎゃっ!こ、この…」
身体を動かしてもダンプティは万力のごとく離れようとしない。
「うひょひょ!!」
「クソ…毛細…糸針!!」
切羽詰ったサイモンは、自分の身体の縫い糸を抜き出しダンプティの触覚に突き刺した。
「うびょああああああ!!」
ダンプティは絶叫して、一瞬足を緩めた。
「今だ…ガイアーウィング!!」
ぶわっ!サイモンの背中の腕が翼となり、空中に浮き上がる。その瞬間サイモンはダンプティの巨体を抱きしめた。
「うおおおおおおぉ!!」
―ギュイイイイイイン!!!
猛スピードで真上に直進するサイモン。
「ぐ、ぐわっ!な、なにをぉぉぉぉ!?」
ダンプティが汗だくで叫んだ瞬間、サイモンは身体を回転させて急降下して―
「猿腕(えんわん)・土葬(どそう)!!」
力強くダンプティを撃ち放った。
「うびゃあああああああああ!!」
―チュドォォォン!!
ダンプティはさび付いた床に激突した。
「フゥ…」
サイモンは羽ばたきながら息をついた。
―午後1時35分―
ダンプティのいるはずの穴に降り立ったサイモン。
「ウン、時間がないんだ、悪いけど探らせてもらうよ」
穴をそっとのぞきこむと、ダンプティは目をぱちくりさせていた。
「お、お、俺が、こ、ここまで、てこずる…とは…」
「ウンウン、あまく見たねトランプ人間」
サイモンはダンプティの触覚を掴み、引っ張りあげた。
「うひょひょひょひょ…残念だったなぁ、俺はパーツは持ってないぞぉ」
と言ったダンプティの言葉をまともに信じず、サイモンは素早くダンプティの身体を探った。
「ない…」
「うひょひょひょ、時間がねえんじゃねえかぁ?」
「だったら…パーツを持っているヤツを教えろ」
「うひょ、断る」
「殺すぞ」
「弱点もわからずにか?」
「知ってるよ、残念だったね」
―スポッ!
「…あれ?アイツはどこへ行った」
ダンプティが消え去ってしまった。見ると、自分が持っているのは触角だけだった。ピクピクと動いている。
「うぎゃあ!」
慌てて壁にたたきつけた。
「トカゲかいアイツは…」
「うひょひょひょひょ…こうなったら我が軍が密かに隠し持っていた改造人間を使うしかないなぁ!」
ダンプティはいつのまにか上部の部屋の小窓から顔を出していた。頭の触覚はなく、まるでダルマだ。
「改造人間だと?」
サイモンは顔をゆがめた。
「うひょひょひょ、蒼の騎士団から高額で買い取った強力な戦士だ!お前に倒せるかな!?うひょひょ!!」
ダンプティはそれだけ言うと、何やら操作を始めた。
―ウィィィィィン…
近くの扉が音を立てて開きだした。
「ウン?」
長い黒髪の女性が歩いてきた。
「女の子!?」
白と銀のコートと黒いズボンを着こなしたその女性は、死んだような目でこちらをにらみつけた。
「…キミが改造人間なんだね…」
サイモンはこぶしを震わせた。
「№5495!ソイツを殺してしまえ!!」
ダンプティは笑いながら叫んだ。
「…了解、しました…」
―シャキン!
右腕がククリ刀のような刃物に変わった。
「死ね!」
首筋めがけて刃物を振ってきた。
「ガイアー!!」
瞬時に腕が交差し、巨大な盾となる。刃物は盾によって粉々になってしまった。
「…!!」
「僕も同じ改造人間さ。キミと同じように、蒼の騎士団で悪夢を見た!」
「えっ?」
№5495は目を丸くした。
「これ以上戦って苦しむことはないだろう!戦うのを止めろ!!」
そう叫ぶと、上のほうでダンプティが驚きを隠せずに身を乗り出した。
「うひょっ、そうか!人にしては強すぎると思っていたが、改造人間なんだな、アイツ…」
そして楽しそうに笑い出した。ただ、№5495だけはじっとサイモンを見つめていた。
「…そうなのね…あなたも苦しんだ…でも…」
彼女の両腕が今度は銃器に変貌した。
「愛していた人を奪われた苦しみに比べればたいしたことないわ!」
彼女は銃弾をサイモンに向かって撃ちだした。
「え…?」
この時、サイモンはあることに気付いた。
「あのしゃべり方、どこかで…」
そうつぶやく前に、銃弾は彼の身体を貫いた。
―一方、アリシアは…
「見失っちゃったわ、アチャー!」
アリシアは頭をかいていた。
「ここはどこかしら…もう、この戦艦入り組んでてよくわからないわ!」
ふと、彼女の耳に声が聞こえてきた。
「…シア…リシア…」
「あら?」
「アリシア…アリシア…」
「こ、この声は…」
シーク。シークの声だ。
「嘘でしょ?シーク?どこにいるの?」
「上だ…この階の上にいるぞ…」
「雷帝・ソルトスピン!!」
アリシアは身体を回転させ、天井を突き破った。ここはレッキ達とネシが出会った敷地。アリシアはその真下にいたのだ。
「シーク?シーク!!どこにいるの?」
アリシアは周囲を見回した。見ると、砲台にシークが座り込んでいた。
「アリシア…助けに来てやったぜ」
アリシアは顔を真っ赤にした。今のシークはいつもより色っぽい。
「ちょ…どうやってここまできたのよ」
「ここはバリアーの管轄外だからな。楽に潜入できたわけよ」
シークは敷地に降り立つと、アリシアの元まで歩いてきた。
「さあ、一緒にみんなを助けようぜ!」
「う…うん!」
アリシアは笑顔でシークに抱きついた。
―メリメリメリ…
怪力がシークを襲う。
「ははっ、相変わらず力あるなー」
「雷帝・アドヴェント!!」
バリリリリリリリリリ!!
シークの身体を電流が襲う。
「ん!?」
「はなっからおかしいとは思ってたのよ。アンタ誰?アタシのシークに化けるなんて絶対許せない。ぶっ殺す…」
アリシアは鬼の形相でシークを見上げた。
「チッ…ミュータント」
シークは舌打ちをすると一瞬で中年の男の姿になってしまった。
「俺はクラブ・ミュータント。トランプ戦団・4THカルティメットの一人だ。そちらは何て名前ですかねマドモワゼル」
「あら、ご丁寧にどうもムッシュ。変身能力が得意なようね。アタシはアリシア・ゴットハンド。チームパンドラ№7兼、潜入機関リーダーよ」
お互い自己紹介を終えると、
―シュバッ!
間合いをとり、両者は身構えた。
―アリシアVSクラブ―
「そちらからどうぞ」
「あら、紳士なのね♪」
アリシアはニヤリと笑った。
「では遠慮なく…雷帝・クロス!」
―ズバァッ!
クロス型の雷撃が発射された。
「ミュータント・エア」
クラブは雷撃を回避すると、空気に変身した。一瞬で見えなくなる。
「クッ!」
アリシアは周囲を見回す。
「こっちだ!」
アリシアの首をクラブが両腕で掴んだ。
「うぐぅっ!」
「トランプ法術・ジェスターアウト!」
クラブはアリシアを抱きしめたまま、砲台に向かって回転していった。
「死ねぇっ!」
―バッ!
アリシアを砲丸のようにぶん投げた。
「雷帝・ツイスト!」
アリシアの身体が電撃の竜巻となり砲台を破壊した。
「うげっ!!」
クラブは仰天した。アリシアは砲台を破壊した瞬間に衝撃を相殺したようだ。
「雷帝…クラウド!!」
アリシアの身体から雷雲が生成された。
―ずががががががががががが!!
雷雲は周囲の鉄壁や敷地に巨大な亀裂を刻んでいった。
「鉄壁や砲台が…くそぉ、あの女やりたい放題か!!」
「つまらないわよ親父ギャグ」
アリシアがクラブの背中に両手を押し付けた。
「こっ!この女いつのまに―」
「雷帝・鵺ぇぇ!!」
ドガァァァァァァァン!!
クラブの背中を、ばかでかい雷撃が吹っ飛ばした。
「いっ…いぎぃ…」
クラブは鉄壁に激突し、悲鳴をあげた。
「あら?痛みは感じないんじゃなかったっけ?」
アリシアは白い葉を見せて楽しそうに笑った。
「く、くそが」
「さ、潔く死になさい。アンタアタシ好みじゃないから生かしてやんないんだから」
アリシアは両手を地面に付け、スタートの構えをとった。
「雷帝…」
「…ミュータント」
クラブの身体が蠢き始めた。
「無駄よ!アタシに変身は効かない!!ランス!!」
アリシアは猛スピードでクラブの腹めがけてかっとんで行った。
「お前の過去に化けてやろう」
「え?」
アリシアは急ブレーキをかけた。目の前にいたのは、屈強な身体を持った白ひげの老人だった。
「…おじい様?」
アリシアは震え始めていた。目の前にいる老人は、アリシアの祖父であり、シークの師匠であったゲンカク師範であった。
「アリシア…さあ、こっちへおいで…」
ゲンカクはアリシアに向かって手招きをした。
「…お、おじい様…」
アリシアの目は正気を失っていた。
「…アリシア…アリ―」
ノイズがアリシアを襲う。
―ブチブチブチ…
「うぐぉぉぉぉぉぉ!!」
「おじい様ぁ!!」
アリシアは悲鳴をあげた。ゲンカクの両腕が吹き飛んだからだ。
「い、いやあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」
アリシアは絶叫した。彼女の目に映るゲンカクは、15年前のゲンカクであった。
「……」
アリシアは目がうつろなまま座り込んでいた。
「ミュータント・ビジョン…相手にもっとも辛い思い出のビジョンを見せる力だ…」
両腕を失ったゲンカクに変身したクラブはニヤニヤと笑いながらアリシアの元まで近づいていった。
「クラブ、楽しそうだね」
上から声がして、ダイアが回転しながら降り立ってきた。
「ダイア…」
「この女、もうダメだね」
「ああ、もう精神をズタズタにしてやったからな」
二人は座り込んだアリシアを見下ろしていた。
「人間ってのは弱い生き物だね。こうやっていやな思い出を見せるだけでこの通り」
「ハハッ違いねえ」
クラブはアリシアの首を掴み、自分の目線まで持ち上げた。
「さてアリシア、どうやって死にたい?腹に風穴でも開けるか?それとも、首の骨をへし折ってみるか?」
そう聞いた瞬間、アリシアの目が開いた。
「とりあえず死ぬなら大好きな人と死にたいわ!!」
「なっ!」
クラブは仰天した。
「お、お前!精神を破壊したはずなのに!!」
アリシアはクラブの腕を掴んだ。
「パンドラの隊員の精神力ナメんじゃない!!これで終わりよ!雷て…え?」
―ヴン…
アリシアの小手から電流が消えた。
「くくく…俺が一緒にいる時は、能力は使わせないよ」
ダイアの指から糸が伸びていた。
「身体が…動かない…」
「ふふふ、やったなダイア」
クラブは目を細めた。
「ミュータント」
クラブは、再びシークに変身した。
「最後はお前が大好きなこの男の姿で殺してやる」
アリシアは引きつりながらも笑みを浮かべた。
「アンタみたいな不細工、シークでもなんでもないわ…」
「ほぉ…」
―ドゴッ!
クラブはアリシアの腹に膝蹴りを食らわした。
「ぐぁっ!!」
「生意気な口を聞くな人間のくせに」
「もういいよ、さっさと殺しちゃいなよクラブ」
「わかってる、よし、首の骨を折るに決定だ」
クラブはアリシアの首根っこを掴んだ。
「ぐ…」
アリシアは歯を食いしばった時、前方で彼の姿を確認した。
「…あ…」
「なんだ女、命乞いでもするか?」
「いや…ふふふ…あんた達、死んだわ」
「何だとぉ!?」
クラブは怒りながらアリシアの顔を掴んだ。
「たいがいにしろクソ女ぁ!!!」
―ポン。
「おい」
誰かがクラブの肩に手を置いた。
「あぁ?なん―」
ドゴォッ!!
クラブはすごい力で殴り飛ばされた。
「びぎゃああああああああああああああああああああ!!」
「く、クラブ!」
ダイアが叫んだ時、ソイツはダイアの目の前に立ちはだかった。
「うっ!!」
ダイアは驚愕して、上を見上げた。黒い服を着ていて、シルクハットを深くかぶる男。
「し、シーク…レット」
「お前ら、俺の仲間になにしてんだ」
第79章へ続く