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第4話 炎の国

 

 

鋼の国と炎の国は、自然の国と元無の国との間ぐらいの距離で、突っ走れば10分程度で着いてしまう。

もっと早ければ、5分だ。

しかしこの2人、よくもまぁそんなに長く走っていられるものだ。

フレアはいいとして、リズロは素人。

長くはもたないだろうとは思うが、リズロはいつもレイと冒険ごっこをしていたので、何故か体力が付いてしまったようなのだ。

走るためだけに。

戦いにおいての体力はないのに、走るためだけの体力があるだなんて、全くおかしな体をしているものだ。

 

さて、そうこうしている間に、炎の国に到着。

国の城門を越えると、いたって普通の雰囲気だ。

一体何が起こっているのだというのだ?

 

「し、静かだね。平和なんじゃないの?」

「馬鹿ね。それが異常なのよ!」

 

話に寄れば、水属性の魔物が来た時に、いつもは活発に活動している火山が、止まってしまったのだ。

その火山は炎の国に害を及ぼすことはないが、その火山が動いていないと、生活が出来ないのだという。

火山が動いていないと、商売できない店だってある。

まぁ、その店は温泉に限るが。

ちなみにいっておくと、炎の国は温泉があることで有名である。

温泉街といっても過言ではない。

つまり、いつもは客で賑わっているこの国が、静かになっているのは異常を示しているのと同じというわけだ。

 

「魔物が暴れている形跡もないんだけど?」

「ま、魔物が来た時は大騒ぎだったわよ!」

 

魔物たちは、住民には見向きをしなかったのだという。フレアが見た時点では。

つまり、目当ては火山というわけだ。

 

「そういえば、火山が止まると、他にどんな不便があるの?」

「大噴火ね。」

「えぇ!?それじゃぁ、早く行かないと!!」

「そうだけど、今はその心配はないわ。」

 

大噴火といっても、24時間以止まっていなければ起こらないのだ。

 

「でも、安心はしていられないよ・・・。」

「えぇ・・・。」

≪・・・・・・。≫

「クラード、どうしたの?」

≪・・・いや、何でもない・・・。(嫌な予感だ・・・。この国が、これほどまで静かになっているなんて。一体、ここの住民は何を・・・・・・。)≫

 

2人が火山に向かって走っていく。

だが、やはり静か過ぎる。

鋼の国の時みたいに、どこかに隠れているのか?

 

≪リズロ・・・この国やっぱりおかしいぞ・・・。≫

「え?」

≪フレアが言った親衛隊の姿も見えないんだ。≫

「そういえば、城門にもいなかったわ・・・。」

≪私の予感が当たらなければいいんだがな・・・。≫

「予感・・・って?」

≪・・・魔物も馬鹿じゃない。やつらにだって思考は出来る。中には、人を操ることだってできるんだ。≫

「まさか・・・!」

≪そのまさかだ・・・。炎の国の住民どもは、全員操られている可能性が高い・・・。≫

「ど、どうしよう・・・。」

「住民を盾にして出てきたら、私たち、太刀打ちできない・・・。」

 

火山に付く前に、諦めを見せる2人。

それもそうだ、人々を傷つける、ましてや殺せるものではないのだ。

2人は走る速度を緩め、ついには止まってしまう。

 

「私・・・戦えない・・・もしそうだとしたら・・・私・・・。」

「・・・・・・。」

≪ここで諦めてはいけない。お前たちは選ばれた戦士なんだ。≫

「で、でも・・・どうしたらいいのさ・・・。」

 

リズロの質問に、クラードは少し間をおく。

そして・・・、

 

≪私が、住民の洗脳を解こう。そうすれば、傷付けずに保護できるはずだ。≫

「そしたら、クラードの体力が!!」

≪私は妖精だが、これでも戦士の端くれだ。それぐらいの体力は持ち合わせている。だが、もし体力が限界に来て、飛ぶ力がなくなり地面に落ちそうになったら、ちゃんと受け止めてくれ。そして、私をクリスタルに近付けて欲しい。自然と私はクリスタルの中に入っていく。クリスタルの中にいれば、体力は回復するからな。解ったな?≫

 

長台詞ご苦労様でした。・・・じゃない。

リズロはそれを聞いて、しっかりと頷いた。

そして、フレアも。

 

≪解ったのならば、先を急げ、リズロ、フレア。≫

 

クラードの言葉で、2人はまた走り出した。

 

しばらく走っていると、ようやく火山のふもとに辿り着いた。

だが、そこに住民たちはまだいなかった。

 

≪頂上付近にいるのかもな・・・。≫

「じゃ、ロープウェイを使って、頂上へ行きましょ。」

 

フレアの言うロープウェイとは、ふもとから頂上へとつながっているもので、その硬い鋼のロープ(鋼の国産)に人を乗せるための箱舟のようなものがつるされていて、そこに乗って中で操作すれば、上へ行けるのだ。

もちろん、自分で登っていけるのだが、時間がかかりすぎるから、誰もそんなことはしない。

 

ロープウェイに乗り、いざ頂上へ!と思ったのもつかの間、何故か動かない。

どんな操作をしても動かない。

一体どうしたというのだ?

 

「・・・お、おかしいわね・・・。こんな時に動かないなんて・・・。」

「フレア、見て!」

 

リズロに促され、言われた場所を見る。

なんと、セキュリティシステムが、壊されていたのだ。

これなら動くものも、動くはずがない。

 

「仕方ない・・・登るしかないわ・・・。」

「えぇ!?」

≪普通に登るとどのくらい時間がかかるんだ?≫

「半日は軽く行くわ・・・。早くても、その半分ね。」

「つまり、12時間・・・。早くても6時間・・・。き、気が遠くなりそうだ・・・。こんな状況で、人なんて助けられるのかなぁ・・・。」

≪お前は全部の国を助けるんだろ?そして、お前の友達も助けるんだろ?さっきも言ったが、ここで諦めてはいけないぞ。≫

「わ、わかってるよ!」

 

とにかく、頂上に向かって歩き出した2人。

この火山は、登りやすいように、人が通れる通路が施されている。

が、休憩所は中間地点と頂上にしかないため、かなり辛いと思われる。

だが、もう10m地点を歩いているというのに、リズロは余裕の表情だ。

フレアは炎の国の住人にもかかわらず、すでにお疲れモード。

 

「ちょっと、何でそんなに早いのよ!」

「え?よくレイと山に登ってたし・・・。」

 

そうであった。

自然の国は、唯一長閑(のどか)で緑豊か。

山がないはずがない。

 

「レイ?まさか、リズロが助けたいって子?」

「うん。魔王に連れ去られたんだ・・・。」

 

やはり、レイの事になると、悲しい表情をするリズロ。

やはり、あの時助けられなかったのが、相当悔しかったのだろう。

 

もっと強くなりたい。今よりも、もっと、もっと強く。

そして、レイを助ける。

 

リズロはそう決意していた。

 

≪そういえば私の勘なんだが、魔王は今、単独で行動していないみたいだ。≫

「つまり、どういうことなの?」

≪魔王が単独で行動していないということは、まだ魂のみで動いているみたいなんだ。≫

「そっか。じゃ、レイが魔王に体を乗っ取られる前に、助け出さなきゃ。そして、魔王を倒す。」

 

リズロは力強くそう言う。

 

≪意志が弱くなければ、完全に乗っ取られる事はないが、大丈夫なのか?≫

「レイは、いつでも強い心を持っているんだ。だから、大丈夫だと思う。」

「じゃ、私もそれに協力してあげるわ。」

「ホントに?ありがとう!・・・とにかくまずは、この山を登らなきゃね。」

 

リズロは、再び頂上に向かって進んでいく。

相変わらずフレアは、お疲れモードだ。

それを見るなり、クラードはフレアの体力を回復させておいた。

クラードは、「無駄な体力を使わせるな。」と怒っていた。

「何よ、自分からやっておいて。」と口には出さなかったが、心の中ではそう思っていた。

 

3時間後。ようやく中間地点に入る。

つまり、休憩所に辿り着いたということだ。

リズロが早く登っているおかげで、このペースで行くとすぐに頂上にいけそうだ。

 

「はぁ~・・・疲れた~・・・。ようやく休憩所ね・・・。」

「・・・フレア・・・休んでいる暇はないと思うんだ・・・。」

「どうしてよ?」

 

フレアは、リズロが向いているほうを向く。

そこには、炎の国の親衛隊が、道を阻むかのように立ち塞がっていた。

 

「!!」

「クラードの予感があたっちゃったね・・・。」

≪・・・・・・やはりか・・・。≫

「ど、どうするの?どうやって戦うのよ!?」

「傷付けずに戦う。それしかない。」

「って事は、格闘戦!?私、格闘戦なんてやったことないわよ?」

 

フレアがそれを言うなり、リズロは親衛隊に向かって走っていく。

親衛隊は、向かってくるリズロに対して剣を振るう。だが、リズロは間一髪でそれを避け、渾身の一撃を親衛隊の1人に加える。

次も、そのまた次も、みねうちをかけていくように攻撃を加えていく。

ボーっとフレアは突っ立っていた。

 

な、何?あんた、戦いにおいては素人なんじゃないの!?

 

フレアの頭には、そんな言葉しか浮かばなかった。

 

しばらくすると、そこにいた親衛隊たちは、皆気絶していた。

 

「ふぅ・・・格闘戦の本読んでおいてよかった・・・。」

 

え!?本を読んだだけ!?読んだだけで、そんなに簡単に出来るものなの!?

 

もう、フレアは何がなんだかさっぱりであった。

クラードも、その戦いぶりに驚いている。

 

「ちょっと、何で手伝ってくれないのさ。結局僕1人で仕留めちゃったじゃないか。」

「「ちょっと」はこっちのセリフよ!何よその戦いぶりは!」

≪お前、もともと戦いにおいては素人だろ!?≫

「さっきも言ったじゃない。「本読んでおいてよかった」って。」

≪本読んだだけで、それだけプロ並に動けるはずがない!≫

「そうよ!!」

 

まぁ、正直言うとそうなのだが、リズロは本(活字)であれば何でも読むので、格闘の本も読んでいるのも当然。

しかも、すぐに頭に入って記憶に残るのだ。

つまりをいうと、その格闘の本を読んだ記憶を思い出して、すぐに実践に移したというわけだ。

だから、行動がプロ並に見えてしまうと・・・・そういうことだ。

 

「ぜ、絶対にありえない・・・。」

「そうかなぁ・・・。」

 

それが日常茶飯事にしか感じないリズロには、ありえないなんて思わないだろう。

 

しかし、まだ安心はしていられない。

親衛隊がこの状態ならば、住民達もきっとさっきみたいに襲ってくるはずだ。

 

≪リズロ・・・。≫

「何?」

≪お前がそれだけ格闘戦を行えるんだったら、洗脳解く必要はないよな?≫

「あ。」

 

親衛隊は気絶してるが、目覚めたらまた襲ってくる可能性もある。だが、魔物の洗脳なんてたかが知れている。

たぶん、気絶させて、目覚めれば洗脳が解けているだろう。

 

クラードは、そう説明する。

 

「じゃ、こういうのはリズロに任せればいいわね。」

「そんなぁ~・・・僕が疲れちゃうよ・・・。」

「さっきも戦った後、全然疲れを見せてないじゃない。」

「これでも疲れてるんだけど。」

≪まぁ、それだけ元気があれば、任せるしかないか。≫

「クラードまで・・・酷いよ・・・。」

 

リズロは、「はぁ~・・・。」と肩を落とした。

 

≪で、フレア、親衛隊はこれだけなのか?≫

「うぅん、まだいるわ。」

「ど、どれだけいるんだよ・・・。」

「大丈夫、あと10人しかいないから。」

「じゅ、10人も!?・・・なんかやだなぁ・・・。」

≪大丈夫だ、さっき言ったことは冗談だ。手伝ってやる。≫

「あ、結局僕がやるんだ。」

 

そんな会話をしつつ、再び道のりに沿って、山を登り始める。

だが、それと同時にある気配が漂ってきた。

・・・人の気配だ。それに、魔物の気配もしてきた。

クラードにはその気配が痛いほど伝わっていた。

 

数分後・・・

 

≪リズロ・・・人だ・・・。≫

 

いつもならば「魔物だ」というセリフが来るのだが、「人だ」といったのは、正直リズロは驚いた。

だが分かっていたはず。魔物は人々を操っているのだ。

この国の人々が襲ってこないのも、無理はない。

 

「・・・クラード・・・どこから来るの・・・?」

≪もちろん、前からだ・・・構えろ・・・。≫

「うん・・・・。」

 

リズロは、自分の剣をフレアに渡し、格闘体勢を構える。

だが、リズロは剣の事を忘れていた。リズロが持っている剣は、リズロ以外誰にも持てない事。

もちろん、その反応はすぐに出る。

 

―バシィ!!

 

といったような音が聞こえ、剣はフレアから弾き飛ぶ。

その反動で、フレアは倒れてしまった。

 

「いったぁ~!何なのよこの剣!」

「あ、そうだった・・・。ごめん、フレア・・・。」

 

起き上がるフレアに、手をさし伸ばしてたたせてあげるリズロ。

そして、剣を拾い上げて、フレアに説明する。

 

「この剣は、僕にしか持てないんだ。何故なのかは僕にも分からない。」

 

そう言ってから、剣を肩から提げているホルダーにしまう。

その間に、人々は前から来ていた。

その数は、約30人ほど。

 

≪頂上付近にも人々の気配がする・・・。≫

「その中に、親衛隊はいるんだね?」

≪あぁ・・・。≫

「・・・そっか。やっぱクラードが言ったように、魔物は馬鹿じゃないみたいだね。」

 

そういってから、リズロは走り出す。

クラードとフレアも後に続く。

リズロは、人々に確実に見値打ちをかけていった。

その戦いぶりは、どこからどう見てもプロ並で、むしろクラードの手伝いなどいらないような素振りであった。

リズロはひと段落終わらせたところで、一瞬だけ休憩する。

そして、再び人々にみねうちをかけていく。

しかし、山を登りながら人々にみねうちをかけていくなんて、なんという体力をしているんだ。

 

待て。冒頭文で、リズロの体力は走るためだけだといった。なのに何故?

まさか、山を登っている間に、また体力が付いたというのだろうか?

リズロの力は未知数だ・・・。

 

≪・・・リズロ!魔物の気配だ!!≫

 

クラードが突然そう言い出した。

人々ばかりが出てくるのも、それはそれで洗脳だと考えればいいのだが、今まで魔物が出なかったのをおかしいと考えなければならなかった。

すぐにクラードに反応の場所を聞き、剣を構える。周りには人々しか見えない。

 

「リズロ!上よ!」

 

フレアが気付き、リズロはすぐに上を向く、10体以上の魔物が上から落ちてきたのだ。

地面に着地をし、リズロとフレアに飛び掛る。

突然の攻撃に対抗できなかったリズロは、防御体勢をとるしか他ならなかった。

フレアは、何とか避けたものの、やはりフレアのほうも防御するしかなくなっているようだ。

だが、防御だけをしていれば、隙を突いて後ろから攻撃する可能性がある。

リズロは、魔物の攻撃を払い、距離をとり、魔物を1体倒す。次いで、フレアのほうの魔物も倒す。

しかし、魔物と人々が混じっていると、戦いにくいのは一目瞭然。だが、リズロはすぐに判断をとる。

 

「クラード!人々に害がないように洗脳を解いてあげて!」

≪了解!!≫

「フレアは僕と、この魔物たちを倒すんだ、いいね?」

「え、えぇ!」

 

クラードとフレアは、リズロの指示通りに動く。

クラードは空高く飛び、届く範囲までバリアをかける。そして、手をかざし力をこめていく。

それにより、人々は次々と倒れていく。

フレアはリズロとともに、魔物を次々と倒していく。

 

約10分後、ようやく収まった。

いつの間にか、中間地点から頂上までの6分の1の地点にいた。

 

「・・・とりあえず、収まったみたいね・・・。」

「うん・・・でも、頂上はまだ先だ。早く行くよ・・・。」

≪待て、お前はそうやって急ぎすぎるから、戦いの場で倒れるんだぞ?少しは休んだっていいじゃないか。≫

「でも・・・他の国だって助けなきゃいけないし・・・。」

≪どの国もが対策を取っていないわけじゃないんだ。この状況が分かってない国なんて、どこにもないんだ!≫

「・・・・・・。」

≪鋼の国と炎の国は、たまたま対策が取れなかっただけだ。だから、早まるんじゃない。≫

「・・・・・・わかったよ・・・。」

 

そういうわけで、いったん休憩をとることにした。

リズロの場合、休憩といってもきっと5分~10分程度であろう。

適当に座って腰ポーチから、グミを取り出す。ちなみに今度はイチゴ味。

 

「それは?」

「グミっていう小さな果物だよ。僕の国ではたくさんグミの木があるんだ。」

「へぇ・・・。」

「フレアにもあげるよ、はい。」

「あ、ありがとう。」

 

フレアはイチゴ味のグミを食べる。

おやつ感覚で、リズロにとっては当たり前の食べ物だが、フレアにとっては初めての感覚だった。

グミのおいしさに感激している。

その間に、固形食糧を口にするリズロ。

 

「リズロって・・・準備いいのね・・・。」

「え?何が?」

「だって、普通あんたみたいな素人が旅に出るとしても、正直何も持たずに行くのに、グミとか固形食糧を持ち合わせているんだもん・・・。」

≪ちなみにリズロは、応急処置が出来るように、包帯とガーゼも持っているんだ。≫

「・・・準備よすぎよ・・・。あんたホントに素人なの?」

「素人って言うか、ただ本を読むのが好きって言うか・・・。」

 

そこで、フレアとクラードは思った。

――そうか、本を読んでいるからこんなに準備がいいんだ――と・・・。

 

「さて、そろそろ行くよ。」

「え?まだ5分しか・・・!」

「・・・もう少し休みたいならそこにいて。僕は先に行くから・・・。」

 

そう言って、リズロは先に頂上へと歩いていく。

 

「ねぇ、あの子アアいう子なの?」

≪そうみたいだな。≫

「「そうみたいだな。」って、リズロの事何でも知ってるんじゃないの?」

≪そんな訳無いだろ。まだ知らないことばかりだ。≫

 

クラードはそう言ってから、リズロの後についていく。

しばらく呆然としていたフレアだが、我に返り「ちょっと待ってよ!」と言いながらクラードの後をついていった。

 

まだまだ先は長そうだ・・・。

 

 

第5話へ続く・・・。

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